TS超絶美少女呪術師が五条悟を倒そうとする話 作:ちぇんそー娘
相伝の術式のメリットは、術式の取扱説明書が存在すること。
千春が術式の真実を隠していた為知りえなかったが、覚ノ改にもそれは存在し、千春の心の声を聞いてしまった時にその内容を知ることが出来た。
この術式は、正確には相手の心を読んでいる訳では無い。
周囲の呪力の発生源の精査───その出力の一つとして呪力の元となる感情、特に負の感情を起点に相手の思考を読み取るというものだ。
ここまでは俺も当時から知っていたことだが、知らなかったことがひとつ。
呪力を読み解くという性質上、相手に触れて直接呪力を確認することでより正確に、心の奥底まで読み取ることが出来る。
感情とは、生きていることそのものだ。
目で見たもの、耳で聞いたもの、全身全霊で感じたその全てで人は感情を構築する。
──────拡張術式『幽』。
効果は、触れることによって呪力をリンクさせた相手との感覚の共有。
俺は今、千春が見ている光景全てを自分が見ているかのように感じることが出来ている。
(やっべこれキッツ! 何分持つんだ? というか、千春ってこんな意味わからない視界で生きてたの!?)
千春は特別な目を持っているらしいことは、何となく知っていた。しかし恋鈴の脳に叩きつけられた、呪力以外の
確かに、彼女の視界では真凜という呪霊の魂らしきものが知覚できる。
だが視覚というのは、それを処理できる脳とセットなのだ。
幾ら恋鈴の脳は術式による膨大な精神情報を処理できるようになっているとはいえ、それとは全く別の膨大な視覚情報に脳は悲鳴をあげている。
この情報量に耐えきれなくなる時は恐らく、呪力制御すら覚束無いほど脳がダメージを受ける、事実上のタイムリミット。
そんな多大なリスクを背負っている上に、わざわざ必殺になり得る一撃を、ジャブで晒したのは真凜の行動を縛る為だった。
言うまでもなく真凜のアドバンテージは特定の攻撃しか効かないこと。
そうなればヒットアンドアウェイに徹して、恋鈴の体力が尽きかけてきたところに『無為転変』を叩き込むという勝ちのパターンが生まれる。
だが、恋鈴の攻撃がもしも全て致命傷になりうるとなるならば。
ちまちまとした削り合いをしていれば先に力が尽きるのは、前回の戦闘で自身を構成する呪力の大半を削り取られた真凜の方だ。
敵の勝ちのパターン一つ減らし、思考の幅を狭める。
そうすれば恋鈴の術式『覚ノ改』は、そうして狭まった思考を余すことなく読み取れる。
一歩、恋鈴が距離を詰める。
一歩、真凜が後に下がる。
「ご自慢の無敵が無くなったら、接近戦する自信がなくなったか? 可愛さってのは自信から来るもんだぜ。減点方式なら、お前は可愛い失格なわけ」
「そう、だね。アタシは自分を勘違いしていたよ。人間の可愛さと、アタシ達呪霊の可愛さは別の場所にある。だから、もっと自由に可愛くなっていいんだ」
真凜の思考は、未だ何一つ諦めていない。
どん詰まり、対抗策無し。そんな状況でも、真凜は瞳を輝かせて恋鈴の命を奪う方法を思案し続けている。
そして、この呪いの最も恐ろしい点は。
「……そっか、もっと自由でいいんだ。拡張術式だっけ? 解釈次第で、アタシの世界は無限に広がる」
貪欲な吸収力。
真凜という呪霊は、たった4000年で霊長の頂点に君臨した生物への畏れを具現化した存在。
「恋鈴ちゃん、随分と辛そうだけど……どこまで耐えられるかな?」
「お前よりは体力に自信は……っ、夏油!
「すまない無理だ! なんだこの数!?」
真凜の思考を読み取った恋鈴は叫ぶが、それでも間に合わない。
恋鈴たちが侵入してきた壁の穴から、大量の蠅頭がなだれ込んできたのだ。
「元々霊地であり、呪霊が湧きやすい土地なんだ。アタシがナワバリにしてたから近寄ってこなかっただけなんだよ」
「コバエがホイホイの呪霊かよてめぇは!」
4級呪霊にも満たない、せいぜい非術師に肩凝りを与える程度の呪いしか持たない蠅頭は、術師にとってはなんの害もないそれこそ蝿と変わらない存在。
だが、その数が100を超えてくれば話は変わる。
大量の蠅頭に視界を遮られ、その思考をつぶさに拾い上げてとしていたら、恋鈴の処理能力の限界到達が早まってくる。
加えて、魂の形を自在に変形させる真凜にとって大量の蠅頭とは、武器庫そのものである。
「無為転変───『
大量の蠅頭のうちの何匹かに真凜が触れた瞬間、その肉体の形は剣となって恋鈴の方へと放たれる。
通常ならば投擲物は恋鈴にとって脅威にならない。
投げるにしろ射出にしろ、狙ったコースを恋鈴が事前に読みとって、射線から少しズレるだけで躱せてしまうからだ。
(何だこの剣、軌道のイメージが本体にも真凜にもねぇ!)
故に真凜は蠅頭の肉体の形状のみを変更。更にこの場で最も強い呪力出力を誇る恋鈴を追尾する命令を仕込む。
無為転変『我打鐘』は呪霊を無理やり呪具へと変形させる拡張術式。
物品であるそれらには思考は存在せず、命令を遂行するただの道具。故に、恋鈴でもその軌道を読むことは出来ない。
『恋鈴! 空気の流れとそれに伴う空白部分、つまり呪力の流れを見れば動きは読めるわ!』
(簡単に言ってくれるなぁほんと!)
自動攻撃の剣を避けながら真凜に近づこうとするも、やはり幾らなんでも手が足りない。
これ以上蠅頭が増えないように夏油が取り込んでくれているが、既に呪霊ではなく呪具になったモノは彼の術式対象外。
(恋鈴が追い詰められている。だが、下手に私が突っ込んでも今は足手纏いになるだけ)
蠅頭を抑えながら、千春を呪霊で抱えて安全かつ真凜の姿を捉えられる場所に移動させる。それが現在の夏油の役目。
これに徹しているだけでは状況は好転しない。だが、今の夏油にこれ以上にできることはない。
夏油とて、近接戦闘にはそれなりに自信がある。しかし真凜には魂を捉えた攻撃以外は動きを妨げる効力しかなく、反対に一手でも触れられば最悪即死。
下手に動きのノロマな呪霊で援護しようものなら、無為転変で制御を奪われるリスクすらある。
(恋鈴の様子から見るに、明らかに何らかの無理をしている。何か、なにかしなければ。だが私に何が出来る?)
──────呪術師の成長曲線は必ずしも緩やかではない。
夏油傑。
未来の特級術師にして、今日まで独学で呪霊を狩り続けていた少年。
呪術師の呪力の扱い方。
特級呪霊の術式。
反転術式、術式反転、拡張術式などの視認。
十分な程に手本は揃っている。
センスと土壌に関しては何も心配するものは無い。
最後の一押しは、純然な憤り。
姉は妹の、妹は姉の。幸せを願い、全てを賭して戦う彼女達は、幸せになるべきだ。
他者を慈しみ尊べる人間の善性が、人間の悪意に、呪いに否定されるなんて間違っている。
あまりに青臭い正義感。
だが今はそれで十分。少年は呪いを飲み込み、次の世界へと踏み込んだ。
できることから探すのではなく、やりたいことを成すためにできることを増やす。
「千春さん。その呪霊の制御を預けます。貴方なら、恐らく感覚で理解出来るでしょう」
「待ってください。あの呪霊に近づくのは危険──────」
「人様の妹をその危険な場所に立たせているのに、私だけ安全圏にいるなんて、我慢できませんからね」
忘れてはならない。
特級とは枠組みに嵌らない者。まともな人間に見えるが、夏油傑もまた我の強いイレギュラーなのだ。
「恋鈴、一旦剣の破壊に集中するんだ!」
「いやそんなことしたらお前と千春が……」
「その間、私があの呪霊を止める!」
「えぇ……君は恋鈴ちゃんと比べたらそこまで可愛くないから嫌なんだけど、どうしてもって言うなら。愉快で可愛いカタチにしてあげる」
真凜という呪霊の殺意が改めて自分へと向けられ、夏油は足が止まりそうになった。
今まで戦ってきた呪霊が赤子に感じられるほどの悪意の濃縮体。一手誤れば即死するであろう極限の戦闘状態。
本当に、心の底から尊敬する。
こんな恐ろしい戦場に、他者の為になんの疑問もなく立つことが出来た千春や恋鈴は優しい人間だ。
私が守りたいのは───そういう人々だ。
生き方は決めた。
ならばあとは形にするだけ。
「呪霊操術───
夏油傑の姿が変化する。
生物を叩き潰して繋げたかのような悍ましい外見の甲冑。そう表現すべき黒鎧に身を包んだ彼は、恋鈴に近づけさせないと言わんばかりに真凜の前に立ち塞がる。
(あの鎧、なんだ? 一応呪霊を変形させて纏っているみたいだけど……まぁいい)
確かに呪霊を鎧のように纏えば防御力は上がるだろうが、それは真凜の前では無意味なこと。
無為転変で鎧である呪霊の魂の形を変えてしまえば、内側にいる夏油を串刺しにすることも出来る。魂を反射的に呪力で守れる呪術師と違い、呪霊は肉体がない分即死はしないが魂の守りは緩い。
「思ったより可愛い見た目じゃん。棺桶にしてはだけど」
いずれにしろワンタッチ。
向こうには魂に響く攻撃が無い以上、無理矢理にでも触りに行けば───。
「棺桶とは、遺族が死者を弔い少しでも死後の魂が救われることを願う祈りの形だ。どうせ消える
「その通りだね。死ねば魂が消えるのに意味の無いことをするもんだよ」
「そうか。やはりお前は、呪いでしかない」
真凜の視界から夏油が
そう勘違いするほどの速度で、夏油は一瞬にして真凜の懐へと踏み込んでいた。
(速っ、ただ鎧として纏っているだけじゃないのか!? だが───)
咄嗟に真凜は鎧に掌を押し当て、その変形により夏油を押し潰そうとした。
「惜しかったね。一発芸にしては上出来……」
だが、その変形は弾かれる。
呪霊操術の拡張術式。
真凜の無為転変を何度も目の当たりにし、それでも夏油は魂の形の知覚には至っていない。
しかし夏油は呪霊の肉体の自由度という点に着目した。
魂の変形により人間と違って生命活動が妨げられず自由に変形する呪霊の魂。
その形を、鎧として固定する。
呪霊を呪具に変化させるのは、先程真凜がやっているのを
拡張術式『纏』は支配下の呪霊の魂の形を、限りなく呪具に近い形で固定する。その魂の形は術者によって強く制御される。
故に、無為転変によってですらその形は変形させることはできない。
「女性を殴るのは気が引けるが、どうせ効かないんだろう? なら、全力だ」
黒 閃
夏油の一撃が黒い火花を散らし、ダメージこそないものの真凜は大きく吹き飛ばされる。
「拡張術式で鎧や武具に変形させた呪霊は、二度と呪霊として自立活動は出来なくなる。代わりに私への身体能力の向上及び硬度に関しては見ての通りだ。加えて呪霊が持つ術式はある程度自由に使えるし───」
剣を全てへし折って夏油の下へと駆け寄ってきた恋鈴にも、夏油は同じように呪霊の鎧を纏わせる。
「他者への付与も可能だ。手札が減るから乱用は禁物だけどね」
「夏油、顔が隠れるデザインやだ。あと鎧はカッコイイけど可愛くないからもうちょっと可愛い感じにして」
「……ブレないねホント。そういうところが良いところだとは思うけど、うん」
術式の開示も済ませ、黒閃により夏油の潜在能力も120%引き出されている。
状況は恋鈴達にとって圧倒的優勢。
それでも一瞬ですら油断出来ない相手。恋鈴達に慢心は何一つなく、だからこそ吹き飛ばされた真凜の思考を恋鈴が察知した時、彼女はさすがに声を上げた。
「──────千春、こっちに来い!」
非戦闘員である千春をこちらに近づける。
あまりに危険ばかりでメリットのないはずの行為。それでも千春は、恋鈴が声を上げるよりも速く呪霊に命令を出して恋鈴に近づく。
恋鈴の声を聞いて、夏油もまた考えるよりも早く千春の下にいた呪霊を自らの呪力で強化し、できるだけ素早くこちらに引き寄せようとする。
「反転、拡張。色々あるんだね。すごいなぁ、可愛いなぁ。アタシ一人じゃ絶対辿り着けないや。
呪術師の成長曲線は必ずしも緩やかではない。
それは呪霊にも言えること。確かな土壌と一握りのセンス。そして何より、身を焦がす程の昂り。
「でもさ。結局死ぬ時は、呪いに呑まれる時は一人でしょ」
人間を学び、人間を嗤い、人間の中に在るモノ。
掌印は変形により自由自在。
外殻はちょうど住み慣れた廃工場がある。
「──────領域展開」
急成長する少年少女と同じように、特級の呪いもまた、花開く。