TS超絶美少女呪術師が五条悟を倒そうとする話   作:ちぇんそー娘

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真凜戦、完結です。
一日で纏めておきたかった。






22.一陽来復 ③

 

 

 

 

 

 初めて出会った時とは別物だった。

 

 恋鈴も夏油も、つい先日とは別人だと思えるほどに急激に成長していた。

 

 他人を愛することは、そんなにも強い力になるのだろうか。

 誰かのために戦うことが、そんなに可愛いことになるのだろうか。

 

 呪霊である真凜には理解はできない。だが、分析はできる。

 

 

『つまり千春は俺より可愛いけれど俺は千春より可愛いんだよ!』

 

 

 あれはつまり、そういうことだ。

 負けられない理由を自分にだけに置いていれば、弱い生き物は必ずどこかで言い訳をする。

 

 

 でもさ、やっぱりアタシ達はみんな結局一人なんだ。

 

 

 だからそういう弱さを捨てて、呪いとして花開く。

 そちらがそういう弱さを『可愛い』と言って強さに変えるならば、こちらはこれまで見たもの全てを併せて、重ねて、たった一つの最強(カワイイ)を作り出す。

 

 

 

「四劫閉壊」

 

 

 

 そうして、真凜は呪術の極地に辿り着いた。

 

 

 

 

 

 

 真凜が領域展開をした時間は、約0.5秒。

 これは狙って行った訳では無い。元々真凜の呪力は限界に近く、ダメージも大きい。それ以上の長時間の領域展開は不可能であったが故に、結界の構築から術式の付与までの工程を無理やり一息に収め、掌印を敢えて複雑にすることで極限まで呪力消費を抑えた領域展開だった。

 

 

 夏油と千春に領域展開の対策はない。

 真凜の思考から事前に領域展開を狙っていることを察知した恋鈴は、二人を自分の近くに引き寄せて簡易領域の展開を試みる。

 やり方については、恋鈴は秘伝や直伝、門外不出と名に付くものは意識しなくても勝手に手法を読み取ってしまうが故に問題はなかった。

 

 一番の問題は、千春だった。

 安全の為に敢えて距離を置いていたのが仇となった。

 

 思考の先読みによって間違いなく簡易領域は間に合う。

 だが千春が有効射程に収まるよりも、領域展開の方が一手速い。

 

 

 迷いはなかった。

 あったのは、これ以上千春に悲しい顔をしないで欲しいのに、こんな選択しかできない自分への失望。

 

 でも、これが出来ない自分なんて可愛くないし、千春が可愛いと認めてくれる自分は、こう言う自分だろう。

 

 

「簡易領域───」

「……恋鈴?」

「夏油、任せるぞ」

 

 

 簡易領域は弱者の領域。

 領域から自らを守る為に編み出された、自分を守る技。

 

 恋鈴はそこに即興の縛りを加える。

 

 

 自分を対象に加えない代わりに、範囲と強度、そして展開速度を増強する縛り。

 

 

 領域が解け、二人の無事が確認できた時。

 恋鈴は思わず笑ってしまった。即興でこういうことが出来るあたり、やっぱり自分は可愛いし天才ではあるんだなと。

 

「二人とも、後は頼む」

 

 左側頭部と右腕が一気に膨張し、弾け飛ぶ。

 鮮血の中、恋鈴の体は受身を取ることもなく地面に倒れ、そのまま動くことは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「恋鈴ッ!」

「大丈夫、生きてます! 夏油様は呪霊を!」

 

 この場で真凜に有効打を加えられる唯一の人間かつ、精神的支柱であった恋鈴の脱落。

 

 しかし残された二人は極めて冷静に物事を対処する。

 

 千春が生きているというのならば、まだ助かる可能性があるということ。無為転変による傷は魂の変形。魂に干渉しなければ治すことは出来ない。

 

 二人の中で結論はすぐに出た。

 一刻も早く真凜を呪霊操術の支配下に置き、それによって恋鈴を治療する! 

 

「領域展開……これが、ねぇ」

 

 領域展開直後、術式が焼き切れ使用不可能になるタイムラグ。

 0.5秒という僅かな展開時間であろうと、十数秒の間真凜は魂の変形を行えない。

 

(叩く! 今ここで行動不能に出来れば、調伏出来る!)

 

 変形は行えない。

 その前提で、夏油は距離を詰めてしまった。

 

「多分順序は逆なんだろうね。でも、───掴んだ! 呪力の核心!」

 

 領域展開中、内部において術式は必中必殺となる。

 もちろんそれは、領域内にいる自分自身にも適用される。

 

 

「無為転変───『縛鎖異偏体』」

 

 

 領域展開という極地から逆算された、呪力の核心と自身の魂の本質。

 真凜は既に自身を術式の対象にしての『変態』を終えていた。

 

 全身の至る所に青白い瞳を輝かせ、澄んだ渓流のように透明な呪力の流れ。

 そして何より、常に流動する魂の形。本来なら固定することによって自己を確立させるはずの魂を絶えず流動させることによって、真凜の肉体もまた常時微細な変形を行っている。

 

「夏油様! 今の奴は固体よりも液体に近い! しかも超圧の! まともに触れれば端から削られ、攻撃は流されます!」

「やっぱ見えてる子がいるとアタシの説明の手間が省けて助かるね。じゃ、更に可愛くなったアタシの姿、見せたげる」

 

 空を泳ぐように、真凜は夏油の方へと飛ぶ。

 重力、圧力、あらゆる軛から解放されたようなその動きに夏油は一瞬対処が遅れながらも、なんとか迎撃の為に拳をぶつける。

 

「ッ、硬い……いや、柔らかすぎるのか!」

 

 高速流動する体に触れただけで鎧の表層が剥がれ、ぶつけた呪力も流動に流され、衝撃は分散される。

 恐らく打撃に対してのみではなく、あらゆる攻撃に対して魂の形を変形させて受け流す防御と、流動する肉体の攻撃。

 

 もはや真凜は先程迄とは別次元の存在。

 特級という区分の中でも、『向こう側』の存在に変化している。

 

「アタシは他人を変形させるのはそこまで得意じゃないからさ。やっぱり、可愛くなるには自分磨きが必要だと思うの。恋鈴ちゃんじゃないけど、自信って大切だよね」

 

 だから、と。

 真凜の拳が夏油の腹部を捉える。無為転変による変形は呪霊操術の呪霊への魂の固定で通用しない。生半可な攻撃は鎧に阻まれる。

 

 その対処法は、安楽恋鈴が既に見せていた。

 必要なのは──────揺らぐことの無い自己肯定。

 

 

 

 

  ︎︎

 

 

 

 

 

「──────づぅ!」

「マジ? 今の死んどくべきでしょ、男の子なら女の子に花持たせないと」

 

 インパクトの瞬間、夏油は自身の全呪力と呪霊の防御を全て腹に回した。

 それでも衝撃で鎧は砕け、夏油の体はゴムまりのように景気良く、廃工場の壁を突き抜けながら吹き飛んでいく。

 

(死んでいないにしろ、暫くは動けないはず。トドメを刺しに行くか?)

 

 そう思って踏み込もうとした足の形が、突然崩れて真凜はその場に膝を着く。

 

 前回の戦闘での負傷、恋鈴と千春という天敵の出現、領域展開による呪力の大量消費。

 既に体は限界を迎えようとしている。もう少しこの新しい自分の体の使い勝手を試したいところだが、まずは確実に夏油を殺して──────。

 

 

 

「呪いのアタシが言うのもなんだけどさ、アレで生きているのって人間に失礼じゃないの?」

「悪かったな。生憎、美少女なもんで」

 

 

 

 左側頭部から大量の血を流し、肘から先のない右腕をぶら下げて。

 それでも確かな意志を持って、安楽恋鈴はそこに立っていた。

 

「恋鈴ちゃん、どうかなアタシの姿。何にも囚われない、誰にも真似出来ないアタシだけのカタチ。これがアタシの……」

「いいからこっち来いよ。それともなんだ? そんな自信満々な素振り見せといて、結局私に近づくのが怖いのか?」

「……可愛くない。今の恋鈴ちゃん、可愛くないよ。顔も」

「そうか? 今の俺、ワンチャン今までで一番可愛い気がするけど」

 

 恋鈴と真凜はお互いの可愛さに自信を持つという点で、互いに理解し合えていた部分もあった。

 

 だが、既に二者の至った場所は交わることの無い場所になっている。

 自己を高めるため、障壁である恋鈴や他の者を殺そうとする真凜。他者を守るために真凜を確実に殺す手法を選んだ恋鈴。

 

 お互い違う場所に辿り着いたなら、残るのは呪いの押し付け合い。

 

 

(千春───魂の観測者を先に叩くか? いや、恋鈴ちゃんにはこの思考も読み取られているはず。今のアタシの体は変形にワンテンポの遅れと思考は必要ない。懐に入れば首を刎ねられる)

 

(千春にしろ夏油にしろ、狙うとなると俺に隙を晒すことになる。アイツの性格上狙ってくるのは俺だろう。そこにカウンターを叩き込みたいが……あの変幻自在の魂を捉えるには黒閃並の威力を叩き付けて流すことも出来ずにぶち壊すしかない。だが、流動する肉体はどうしてもインパクトがズラされて黒閃は狙いづらい。狙うなら右の利き腕でだが……)

 

 出血、呪力消費。

 この後の展開、残存戦力。

 欠けた右腕、失われた優位性。

 

 全てを織り込み、二人はお互いに距離を縮めていく。

 

「お前には悪いけど、俺は別にお前を宿敵だとは思ってない。お前はあくまで呪いの一つ」

「いいよ。どう思おうが、アタシにとって恋鈴ちゃんはとっても可愛い呪術師で、乗り越えるべき壁。恋鈴ちゃんを乗り越えた時、アタシは真に呪いとして完成する」

「まぁ評価されるのは悪くねぇな。実際俺は凄いやつだと思うし。そう思ってくれている人がいる間は、何がなんでも俺は世界で一番可愛く在り続ける」

 

 改めて向かい合った相手は、既に死に体。立って動いているのもおかしい疲弊具合に思わず笑みが溢れる。

 

「それじゃ、終わりにしようか」

「あぁ。これで最後だ」

 

 

 変幻自在の魂の瞬発力。

 先に動いたのは真凜、無為転変による攻撃ではなく、変形させた腕による切断。首を切り落とすことによって確実に恋鈴を殺すことを選択した。

 

(さぁどう動く! 左腕で黒閃が出せる? それとも蹴り? どちらにしろ今のアタシなら対処出来る! 先にアタシが首を切り落とすのが早い!)

 

 真凜の動きを察知したであろう恋鈴が、一瞬遅れて動く。

 この一撃は躱されてもいい。回避後、或いはカウンターをいなした隙で殺すのが真凜の狙いだった。

 

 

(──────は?)

 

 

 恋鈴の行動は、右腕で殴る構えだった。

 彼女の右腕は先程の領域展開の際にちぎれ飛んだ。無為転変による負傷は無為転変でしか治せないはず。

 

 なら、なぜその腕で殴ろうとする? 

 拳のない腕で殴ったとしてもダメージは大したものでは無いはずなのに。なんで。

 

 思考の空白。

 その一瞬の隙に、恋鈴は無い拳を叩き込もうとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「恋鈴! しっかりして恋鈴!」

「……俺、生きてんのか?」

 

 

 夏油が真凜を引き受けている間に、恋鈴は奇跡的に意識を取り戻していた。

 千春によって魂を観測出来ていた彼女は、反射的に魂を呪力で守るという意識が出来たのだ。

 

 そのおかげで。側頭部の傷は片目と表面だけであり脳には達していなかった。

 

 脳には、達していなかった……が。

 

「千春、俺の顔、どうなって……」

「……ごめんね。ごめんね恋鈴」

 

 顔の負傷、治癒不可能、美貌の喪失。

 押し寄せるアイデンティティの喪失と不安。大粒の涙を抑えることも出来ずに泣き出してしまいながらも、喚くことなく意識を戦いに集中させる。

 

「いや、千春がいてくれなきゃ、そもそもここまで辿り着く前に死んでいた。だから、謝んないでくれよ。そろそろ、その、イメチェンしようと思ってたころだし、さ」

 

 千春を不安にしまいと強気な言葉を繰り出そうとするも、どうしても声が震える。顔に消えない傷がついたことは恋鈴にとってあまりにも影響が大きい。

 

 しかし千春が魂を観測してくれていなければ、咄嗟に呪力の防御もできず死んでいた。その事実でどうにか心を奮い立たせようと──────。

 

 

「魂の、観測?」

「恋鈴、何かわかったの?」

「……賭けだけどな。もうこれに賭けるしかねぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────術式反転『覚露』」

 

 領域展開の際に、真凜は無為転変で自身を対象にする変形の工程を、千春に見せた。見せてしまった。

 

 それを通して、恋鈴もそれを知覚していた。

 

 魂の形、自身への無為転変……いや、『自身を対象にした術式使用』。

 

 術式反転『覚露』は、相手に術式を受けた時の恋鈴の記憶を伝播させて、錯覚によって相手の呪力で術式を再現する。

 

 繰り返すが、恋鈴は無為転変を何度も喰らっている。

 そして現在、恋鈴は千春と感覚を共有もしている。

 

 魂の形の認識───問題無し。

 自身の本来の魂の形───千春の記憶を参考。

 術式反転を用いた自身への無為転変の使用───一か八か、欠けた部分を補うように使用。

 術式反転のデメリット───これも一か八か。

 

 

 血が流れた。

 恋鈴の頬に、一筋の傷が刻まれる。

 

 術式反転『覚露』のデメリット。使用した術式効果の本来の出力の3割を、自分も受けてしまう。無為転変による魂の傷は、消えない傷として顔に残り続ける。

 

「腕──────なんで」

「そりゃあ、可愛い俺の腕だからな」

 

 

 千春の視界共有による、一か八か、自身への術式反転の使用による魂の変形、そしてそこへの反転術式による治癒。

 

 恋鈴の術式反転はあくまで再現であり、自分でその術式を操ることは出来ない。

 だが、無為転変の『魂の操作』という術式の特性。変形させられた形を元に戻すだけという使用用途の縛りと、千春という参照先の存在。

 

 加えて、黒閃による覚醒状態。

 

 

 極めて限定的であるが、安楽恋鈴は無為転変により受けた魂の変形の治療を完了させたのだ。

 

 

 五指の揃った綺麗な指を握り込み、恋鈴は全身全霊の拳を真凜へと叩き込む。

 

 

 

 まるで狙って出したかのような、それとも彼女は女神に愛されていたのか。

 

 

 

 その場に倒れ込む恋鈴が見たのは、祝砲の如き黒い閃光だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 負けた、負けた負けた負けた負けた負けた。

 

 意識が途切れ、吹き飛ばされた真凜は、指先を動かすことすら億劫な自身の状況で、負けたということを認識した。

 

 術式を使用することすら難しく、『縛鎖異偏体』も解除され、もはや戦うことは不可能。

 

 しかしトドメを刺しに来ないことから、向こうも同じ状況のはず。

 ひとまず逃げる。恋鈴だって立っているのがやっとの怪我のはずなのだ。今なら逃げ切れる。

 

 次は負けない。

 きっと、次なら勝てる。

 

 

「いいや、次はない。お前はここで終わりだ」

 

 

 

 逃げようとする真凜の逃げ道を封じるように、彼は姿を現す。

 

「夏油……くんだっけ?」

「どうやら、恋鈴は上手くやったようだね」

 

 あのタイミングで恋鈴が立ち上がったのは、夏油傑へのトドメを止める為ではなかった。

 自身に集中させ、夏油傑という札が真凜の頭の中から消えるのを待っていたのだ。

 

「今の君なら──────何も問題は無いだろうね」

 

 夏油が手を翳すと、真凜の体はそこに吸い込まれるようにして球形を象っていく。

 瀕死の真凜に、黒閃を経た覚醒状態の夏油の術式を防ぐすべなどなかった。

 

 手に感じる呪いの重み、口に広がる吐瀉物の味。

 不快感しかないはずのその中で、それでも夏油の胸に湧いたのは安堵だった。

 

 

「……やっぱ、お前に頼んで正解だったよ、夏油」

「後は頼む、なんて言われてしまったらね。私はこう見えて、完璧主義者なんだ」

 

 

 千春の肩を借りながら、なんとかその場に駆けつけた恋鈴と夏油はハイタッチをして、そのままその場に寝転んでしまう。もう立っていることもキツい。けれど、胸の中には確かな達成感。

 

 

 特級呪霊、真凜の捕獲はここに完了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 









・『縛鎖異偏体』
真凜版の遍殺即霊体。真人と違い硬度や変形の限定ではなく、魂の自在性に重きを置いている。
夏油の呪霊操術の自由度や恋鈴の戦法、千春の目などを参考にしており、擬似再現した千春の瞳を全身に生やすことにより魂を常に観測して、不安定な流動体の魂を安定させている。
変形にラグが生じなくなり、魂を捉えた攻撃も物理的な変形で受け流してしまう上に、高速で流動する体は触れた相手の方を傷つける。

恋鈴は千春の観測と読心により、魂の流動に併せて打撃をぶち込んで攻略したが、失敗してたら逆に腕が持ってかれてました。


・無為転変による治療
千春が本来の恋鈴の魂の形を覚えていて、黒閃によるゾーン状態で、千春と視覚共有して魂を観測しているからこそ出来た技。普通は出来ないし、元に戻す以上のことも出来ないし、出来たとしてもやっぱり無為転変の反動のリスクが大きいので普通はやらない。やらないと負けるのでやった。できなきゃ負けてました。



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