TS超絶美少女呪術師が五条悟を倒そうとする話 作:ちぇんそー娘
1クールみたいな区切りを意識してるので、次回くらいで大きな区切りを作る為にちょっぴり長めです。
「もう無理。一歩も動けない。顔痛い……俺の顔どうなってんのこれ? やだ……鏡見たくない……」
「恋鈴、私の上に乗っかるのはやめてくれ。私もさっき殴られた腹がやばいんだ」
夏油の上に倒れ込んで、これまでの戦闘の異常さを思い出してしまうともうダメだった。一歩も動ける気がしない。
明らかに俺も夏油も千春も、そして真凜も限界を数段超えた事をやっていた。
特になんだよ真凜の野郎。いくら何でも成長がバカすぎるだろ。なんだあの目ん玉まみれキモキモ形態と、0.5秒の領域展開って。俺が読心の術式無かったら一発アウトの超高速での展開を、ぶっつけ本番で成功させてるんじゃねぇよ。
まぁそれ言い出したら、俺も拡張術式とか即席の縛りを加えた簡易領域とか、あとは自身への術式反転とか全部ぶっつけ本番だし、夏油もそうなんだけど。
とにかく勝った、俺たちは勝ったんだ。
しかも真凜を捕獲するという最高の形で、だ。
「お嬢様……その、傷の方は……」
「痛むけどそれだけだから。それより、その呼び方と話し方やめない?」
「……ですが……その」
千春は顔を赤くして、そっぽを向きながら小さな声で漏らす。
「私にそんな資格は……」
「俺をここまで育ててくれたのはお父様と千春だって言ってんじゃん。今日だって、千春がいなきゃ死んでた。千春に資格がなかったら、俺の事呼び捨てにしていいやつなんてこの世にいないって」
「……恋鈴、で、いいんですか?」
まだぎこちないけれど、そう呼んでくれる千春はなんだかすごく嬉しそうで、それを見て思わず笑ってしまった俺は、多分今までで一番可愛い笑顔をしていたと思う。
「その……良い雰囲気を出すのは構わないんだが、本当に私の上でやるのはやめてくれ。重い」
「重くないんだが?」
「重いんだよ。千春さん、恋鈴を退けてください」
千春の肩を借りて何とかもう一度立ち上がり、適当な瓦礫に腰を下ろす。そして、次に夏油を立ち上がらせる。
「さて、早速だが恋鈴、君の治療を行おう」
「おう、ぱぱっと頼むわ」
俺が現在無為転変の影響で受けている傷。
左側頭部の皮膚の断裂及び眼球の破損、左頬の切り傷、そして右足の神経異変。
右腕に関しては千春による魂の観測を交えた、術式反転『覚露』による無為転変で治療できたが、これは黒閃で完全にキマってたのが大きい。
そもそも術式反転で無為転変を使うと、ワンチャン反動が心臓とか脳に来て一発アウトになるから使いたくないんだよ。アレやってなかったら負けてたから仕方なくやったけど。
そして何より、この方法は魂の形を元に戻すことしか出来ない。
俺の脳を術式の負荷に耐えられる形にデザインし直す。これが出来るのは、オリジナルの無為転変の保持者である真凜と、現在はその真凜を支配下に置いた夏油だけだ。
「とは言ったものの、まずは普通に怪我の治療だ。脳に関する部分は万が一もあるし、もう少し使い方を確認してからにしたい」
「いいよいいよ。まずは顔を頼む。傷だらけでも可愛いとはいえ、さすがにカッコつかない」
正直夏油と千春の前だから正気を保っていられるけど、顔が傷ついている事を思い出すと今でも動悸がやばいので早く治して貰いたい。
もちろん、ここまで頑張ってくれた夏油だって限界が近いはずだから、急かすような真似は出来ないが。
「ちょっと待ってくれ。知性が確かな呪霊を支配下に置いたのは初めてだから、どんなものか私自身わかって──────」
「ん、どうした夏油?」
「いや、お腹が痛くて……そういえばさっき血も吐いたし、内臓が傷ついてるかもしれない」
「マジか。さっきは乗ったりしてごめん」
「ほんとにね?」
とりあえずまずは夏油の治療が先だろう。
そっちに関しては普通の傷なので、俺の反転術式でどうにかなる。
「黒閃って言うんだっけ? アレ凄い威力だよね。喰らってびっくりしたよ」
……よく考えたら、黒閃喰らってなんでコイツ普通にピンピンしてるんだ?
直前で呪力を集中させたとか、鎧があったとか、そういうのを全部ぶち抜くからこそ黒閃はやばいと思うんだけど。
まぁ、夏油って未来の特級術師だもんな。
俺も十分天才だけど、夏油はバグとかイレギュラーの領域。考えるだけ無駄なのかもしれない。
しかし反転術式のアウトプットができるのは現状同世代では俺だけだ。これをアイデンティティにするのなんかやだけど、やっぱこれできるようにしといて良かったな。
そう考えながら、夏油に触れて治療を施そうとした時だった。
「──────ばぁ!」
「な、に……ッ!?」
夏油の腹が突き破られ、まるでサナギから蝶が脱皮するように。
取り込まれたはずの真凜の姿が現れる。
「───夏油ッ!」
「はは、キャハハハ! 大丈夫大丈夫! 即死はしてないから! それより気にならない!? なんでアタシが、この子の支配下に置かれてないか!?」
なんで、なんで?
間違いなく夏油は真凜を調伏し、取り込んでいたはずだ。だが真凜は今夏油を殺す行動を自律して行っている。夏油はまだ息をしているが、腹を裂かれて本当に内臓が幾つか吹き飛んでいる。このままじゃ長く持たない。
「あの球体にされる直前、この子の術式の対象について考えたの。それでひとつぴーんと来たのが、他の対象に調伏されている対象───つまり、主従関係を構築している呪霊は取り込めないんじゃないかって!」
夏油と俺の間に立つ真凜は、聞いてもいないことを楽しそうにペラペラと話している。
「それで、やってみたんだよ! 主従関係の構築ってどこでやるんだろうって考えて、魂に鎖を付けるようなものなんじゃないかって考えた! これがもう大正解! アタシは自分自身の魂に対して、
真凜は回復している訳では無い。
夏油の腹を破る時に多少なりとも彼の呪力を持っていったようだが、それでも依然として瀕死なのには変わりはない。
だと言うのに、俺は震えが止まらなかった。
目の前の呪霊は、本当に真凜なのか?
成功率の低い作戦が成功したことによるハイ……を含めても、何かが違いすぎる。
「しかし……敗北ね。自分の全てが否定され、自己すら剥奪され道具として使い潰されるかもしれない絶望、恐怖。けれど、その淵でアタシは見つけた、魂の本質! 真なる可愛さとその不変性!」
背後にいる千春の手を触れ、拡張術式『幽』を発動する。
やはり魂は弱りきっている。あの目ん玉まみれのうにょうにょ形態にもなれないくらいにだ。
なのに、こうして繋がったからこそ、俺には理解できない何かに千春が激しく怯えていることが伝わってくる。
『恋鈴、まずは夏油様の治療を。一発は私が引き付けます』
「危険すぎる。却下」
『私の目の良さを舐めないでください。一発だけなら避けられます。銃撃も、今の弱りきったやつになら十分致命傷になり得ます』
残念だが、さすがにこの状況になってしまっては再捕獲なんて考えている余裕はない。
どうやって確実に真凜を殺すか。
それを検討する俺たちを他所に真凜は楽しそうに空を見上げ、一羽の蝶が彼女の指先に止まった。
「───無為転変」
そして、真凜がその蝶に対して術式を発動する。
「魂という本質は、全ての生物が共通している。そして、全ての魂には最良の形というものが存在するんだと思う。アタシの『可愛い』ってのは、それなんじゃないか、ってのがアタシが見つけた魂の本質」
「「恋鈴ちゃんは、どう思う?」」
一瞬、真凜の声が二重に聞こえた。
千春と意識を共有している影響かと考えた。だが、原因は目の前にいる真凜がいつの間にか
「…………は?」
二人に、なっている?
二重に見えているとかでは断じてない。千春の視界を経由してみても、間違いなく真凜が二人になっている。
無為転変による分裂なんかでは無い。
真凜という魂を持った個体が、二体に増えている。
「どう? これがアタシが辿り着いた極地」
「でもこれでもアタシはアタシ以上にはなれない。アタシは世界で一番可愛いけれど、まだこの道を極められるはず」
なんだ? 何が起きている?
真凜は手に止まった蝶に対して無為転変を使用した。結果、蝶が真凜になった。
過程はわかる。だが、結果が理解できない。
蝶は虫だ。
魂の形質も、呪力量も千春の視界が蝶と真凜の圧倒的な差を教えてくれていた。幾ら形を弄ったところで、蝶の魂と真凜の魂は本質的には別のもの。どう弄ったって同じものになるはずが無い。
そもそも蝶は生物だ。
呪霊と違い、物質的な肉体があったはず。それはどこに行った?
くるくると二人でその場を回って蝶だった真凜と、本物であるはずの真凜が立場を入れ替えてしまえば、もう千春の視界からでもどっちがどっちだったかの判断ができない。
思考を読み取っても、どっちも別々のことを考えながらも、それは真凜の思考の範疇での別々であり、両方とも『真凜』であるという事実は揺らがない。
「とりあえず世界を半分くらいアタシで覆ってみてさ。それからこれからの事は考えようと思うんだよね」
「さすがアタシ! いい事考える!」
「恋鈴ちゃんは良ければなんだけどさ、そこでアタシの可能性を見てて欲しいんだよね。君はアタシだらけの世界で、アタシがアタシを超えた可能性を見出す為の、鍵になってくれると思うんだ」
──────危険すぎる。
この呪いは、もはや特級云々などの話ではない。存在してはいけない災害そのものだ。
際限なく増殖し、魂の質量保存の法則とでも言うべき何かを完全に逸脱した存在へと成り果てた。一刻も早くこの世からこの呪いの存在を消滅させなければ、あらゆる生物が死に絶えてこの星の全ては『真凜』という個体の可能性を探る巨大な実験施設となる。
「それで、返事の方は?」
「断るに決まってんだろ。死ね」
「そっか。なら、強硬策だァ!」
真凜のうち片方が動き出そうとした瞬間、俺は呪力を背後に噴出して跳ねた。そのままの勢いで真凜の顔面に膝を埋め込み、念には念を込めて反転術式も流し込む。
まずは一体。
そのままの流れでもう一体も確実にぶち殺す。
「危なっ、いやぁしかし……頭に血が上りすぎたんじゃない?」
「あ?」
「迂闊にアタシに近づくなんて、さ」
「危なすぎるよね?」
頭を潰され、消滅していく真凜の体の下から、真凜の声が聞こえてくる。
間違いなく一体は殺したはずなのに、と考えて可能性に気が付く。
自身の体内にもう一匹隠していた。
魂の反応を重ねて千春の目すら欺き、俺が真凜を殲滅する為に飛び込んでくるのを待っていた。
しかもやはり、こいつら全員『無為転変』による変形攻撃だけは俺の術式でも読み取れない!
「無為て───」
「クソがっ!」
触れられる前に何とか体を捻り、無理な動きに全身が悲鳴を上げるのを感じながら下から現れた真凜の頭も叩き潰す。
だがこれが限界。今の一撃が、俺の対処能力の限界だった。
迫り来るもう一体の手を捌くだけの余力は俺に残されていない。
「私の妹に──────触るな!」
だから、それは当然の行動だった。
彼女がそう行動することはわかっていた。思考を共有しているからでは無い。むしろ、その行動は思考すらしていない反射とも呼べる行動だったから、術式では分からなかった。
でも、俺はきっと、千春ならそうするとわかってしまっていた。
わかってしまっていても、叫ばずにはいられない。
やめろ、と叫ぶ声よりも現実が訪れる方が早い。
俺と真凜の間に割り込むように飛び込んできた千春の体に、真凜の掌が触れた。
「へぇ……やっぱ可愛いね、恋鈴ちゃんは……君に、アタシの全部を……」
「はぁ……はぁ……ぁ……ぁ?」
何をしたのか、自分でも覚えていなかった。
真凜の掌が千春に触れた瞬間、思考も何もかも吹き飛んで俺は叫んでいた。気がつけば目の前には呪霊が消え果てる時の特有の反応が残されているだけ。
……やったのか?
千春との感覚共有はいつの間にか切れていて、詳細が分からない。
重い足取りでとりあえず夏油に駆け寄り、応急処置に反転術式を施してから、何故か立ち尽くして空を見上げている千春の方へと歩み寄る。
「……千春?」
呼びかけた声に反応して、彼女がこちらを振り向く。
なんてことの無い、いつもの千春の顔だ。
ただちょっと、頬骨のラインに沿ってもう一組の瞳が現れていて、髪の色に目に悪いくらいに眩しい金が混じり、非術師であるはずなのに膨大な呪力を纏っているだけで、彼女は間違いなく千春だった。
「良かった……なんともないんだな?」
「……こ、ここここ、恋鈴、? あ、わたし、わたし……?」
「ああ。夏油の方も大丈夫そうだよ。真凜も、さすがに消滅したはずだ」
普段の千春なら一切漏らさない心の声が聞こえてくる。
そこら辺の呪霊の呻き声のような、汚くて脳に突き刺さる不快な殺意と生存本能。それが千春から感じられるなんて何かおかしい気がするけど、そういうこともあるはずだ。
「俺さ、もう疲れて動けそうにないんだ。だから出来るなら、前みたいにおんぶとかしてくれたら……」
「か、わ、か。わいいねぇ。こ、すずちゃん、可愛いねぇ」
ゆっくりと、千春もこちらに歩み寄ってくる。
そうだ、いつも通り、彼女は俺が伸ばした手を取るように手を伸ばして──────。
「──────逃げて、恋鈴」
「……なんで、千春から逃げなきゃいけないんだよ」
異質な呪力、『無為転変』を纏った掌が俺に向けて、ゆっくりと、近づけられていくのに俺はその場から動けなかった。
動いてしまったら、何か、大切なモノが砕けてしまうような気がして、動くことを選択できなかった。
結局俺は、その場から動くことは出来なかった。
だが千春の掌が俺に触れることもなかった。
その場に現れた第三者が、千春の体を蹴り飛ばしついでに
「なんやなんや。呼び出されてきてみれば、何恋鈴ちゃんのその顔? 唯一の取り柄がそないなったら、もう君の良いとこなんもあらへんやん。舐めとんの?」
「直、哉……?」
「直哉特別1級術師様って呼べや、ヘボの3級。それよりあの
突然現れた直哉は、千春を指さして受肉体なんてよく分からないことを言い出している。
何がどうなっているか、俺には何も─────。
分かりたくなんて、なかったのに。
そう言われたら、目を向けるしかないじゃないか。
真凜という呪霊は完全に消滅しました。
次に真凜と同じく『人間』への畏れから呪いが生まれたとしてもそれは真凜では無いし、真凜がそれに与える影響があるのかも不明です。