TS超絶美少女呪術師が五条悟を倒そうとする話 作:ちぇんそー娘
前書きとかで騙す意図は特になかったのでさすがにごめんなさい。
「呪霊でも受肉体でもねぇ! あれは千春なんだよ、お前もあったことあんだろ!」
「恋鈴ちゃんいつも言ってることめちゃくちゃやけどいつにも増してめちゃくちゃやん。何がどうやれば、非術師の使用人があんなおっぞましい呪い纏うねん。片っぽ目ん玉取れてるみたいやけど、もう片方も節穴になっとるん?」
よりによって、なんで直哉なんだよちくしょう。
そもそも千春はどうなったんだ? もしも真凜の『無為転変』をまともに浴びたなら、『真凜』そのものになっているはずだ。
だが俺には、千春はまだ千春であるように見える。
聞こえてくる心の声も困惑の色が強く、自分自身の状況を把握していない。
「呪霊の攻撃を受けたんだよ! まだ助かるかもしれな……」
「なんでもええけど、そこ突っ立ってられると邪魔や」
直哉はそう言って、俺の腹を容赦なく蹴飛ばしてくる。
投射呪法を混じえたコイツの攻撃は、来るとわかっていてもそれだけで対処できるようなものでは無い。
既に体力の限界。俺は為すすべもなくまた吹き飛ばされ、そして顔を上げると俺が立っていた場所に千春が立ち、腕を地面に叩きつけていた。
「で。まだ助かるとか言っとったけど、今の俺がいなかったら死んでたんやないの? 別に現場で説教とかするつもりやないんやで。……コイツがなんなのか、俺が倒すべき呪霊がどいつか。報告しろって言っとんねん。自分含めて、周りのヤツら殺したいんか?」
直哉は極めて冷静だ。
冷静に状況を分析し、倒すべき敵が誰なのかを確かめようとしている。この場で冷静じゃないのは、俺自身だ。
だが冷静になれって言われた方が無理がある。
あんなに頑張って、ようやく勝ったんだ。だってのになんで今こんなことになっている。どうして、千春を殺さなきゃいけないなんて選択肢が出てくるんだ。
考えろ、まだ何かあるはずだ。
今日まで色んなことがあったけれど、大抵の事は考えて、努力して、そうやって乗り越えてきたんだから。
今回だって、まだ解決策があるはず、あるに決まっている。
本当なら、直哉は今すぐにでも千春に攻撃したっていいはずなのに、俺の返答を待つかのように両方に意識を向けながら、いつでも動けるようにしている。
直哉は性格は悪いけれど、戦闘においては感情よりも合理性を優先する。俺に直哉が攻撃を止めるだけの理由が語れれば、きっと止まってくれるはずだ。
理由、理由、理由。
特級相当の呪霊、予想外の覚醒、現状不明、危険度最悪。
殺す理由は幾らでも思いつくのに、殺さない理由は思い付かない。
あるのは、死なせたくない理由。
ここで千春が死ぬことを許してしまえば、俺は俺ではいられなくなる。ここまで積み上げてきたものが、全て無意味になってしまう。
そして、同じようなことになった時、俺はもう二度と立ち向かえなくなる。一生呪いに屈して生きていくことしか選べなくなってしまう。
「直哉」
「なんねん。はよ言うこと言わんかい」
「見逃してくれない?」
「もっとマシな言い訳、思いつかなかったん?」
そんな余裕、もうこっちにはねぇんだよ。
とにかく今はこの場から逃げることを考える。たとえ俺がどうなろうとも、千春が呪いとして殺されるなんて絶対に嫌だ。
正しいとか正しくないとか、そんな次元でモノを語っていられるほどの余裕は今の俺にはない。
「おいおい……冗談やろ?」
だから、とにかく逃げる隙を作る。
「──────領域展か」
直哉が俺の動きを潰すために走り出す。
増幅する呪力に反応して、千春もこちらへと寄ってくる。
成功するかは分からない。だが、真凜の思考を読んで感覚だけは理解した。生得領域の展開、術式の付与、対外条件の設定。
それが終了する直前、空から星が落ちてきたかのような衝撃が地面を揺らした。
「次から次へと……って、悟くん!?」
隕石のようなクレーターを作りながら現れたのは、五条悟だった。
五条は辺りを一瞥して状況を確認すると、いつもの余裕綽々な態度からは想像もできないような必死の形相で叫ぶ。
「恋鈴ッ! 後ろ!」
俺も直哉も、五条悟というイレギュラーの存在に一瞬意識がそちらに向けられた。
だが、千春は五条に目もくれずに俺の方へと駆け寄ってきて、その手で俺の体に触れる。
「無為転変」
心臓に電流を流されたかのような衝撃を受けて、俺の意識は闇に沈んだ。
「よっ、恋鈴。久しぶり」
「……五条?」
意識を取り戻すとそこは、壁中に札が張り付けられたなんとも仰々しい部屋。術師用の牢であることはすぐにわかった。
入れられている理由も見当は付く。立場上、1級術師の直哉の邪魔をしたのだ。それ以外にも、呪霊を庇うなんてことすればぶち込まれて当然だろう。
というか、なんで意識失ってたんだっけ?
確か直哉が現れて、どうにか説得しようとして、その後……俺はどうなったんだ? いや、それよりもだ。
「千春は?」
「呪術規定に則り処刑対象になった、とだけ」
そこにあるのは、当然の事実だけだった。
誰がどう考えたってそうなるという、ルールに基づいた結果。100万回話し合って100万回同じ答えが出るような、そういうものだ。
「……千春とさ、色々話したんだよ。呪霊も凄く強くてさ、でも頑張ったんだよ。何かが大きく変わる気がしたんだ」
でもそうやってあれこれ決める奴らは、俺達がどんな気持ちで戦ってどうやってそこに辿り着いたかなんて考えもしてないんだろう。
会って数日の仲である俺達のために命を懸けてくれた夏油や、一番弱いはずなのに一番最初に呪いに立ち向かう覚悟を決めた千春とか。
千春を助けたかったし、25歳で死にたくもないし、呪いを放っておくことも出来なかった。純粋な善だけの動機だなんて胸を張れることじゃないけれど、悪だと咎められるようなことでもないと思う。
その果ての結果がこれだなんて、そんなの認められるわけがなかった。
「五条、お前ならさ。お前なら千春を助けられたのかな? 俺が本当にお前に勝てるほど強かったら、こんなことにならなかったのかな?」
「そんなこと考えたってなんも意味はねぇよ。あと、千春死んでねぇからな?」
………………今、なんて言った?
「え、だって今処刑対象って!」
「処刑対象だって言ってんだろ。処刑したって誰が言ったんだ」
「いや、でも、だって!」
千春の状況は俺自身よくわかってないが、『無為転変』らしき術式と大量の呪力、本来の千春に備わってない力を暴力的に振るっていたのは確かだ。
人間の体を持っていようと、分類としては呪物の受肉体が近いはず。ならば千春は呪いとして処理されるのが当然なのだ。
「千春の状況は一言で言えばなーんにもわかんねぇ。俺から見たらアレは前までの千春とは似ても似つかねぇ呪力してっけど、
「でも……」
「そこは素直に喜んどけよ」
素直に喜ぶにしては、幾らなんでも俺に都合が良すぎる。
もしも俺が事情を知らなかったら、千春を殺すべきだって言うくらいには言い逃れができない状態のはずだったのに。
「呪霊と人間の後天的なハーフ、非術師が後天的に呪力と術式に、しかも外部からの干渉で目覚めるレアケース。加えて魂をどうのこうのとか言う激レア術式に、千春生来の目。わかんねぇからって殺すのは
「つまり、
「まぁそうだな。御三家の中で加茂は処刑推進、禪院は様子見、そして俺が反対ってところ。千春が対外的には安楽家の使用人でしかないから、身内贔屓ってならずに済んだのも大きいけど」
今にも沸騰しそうだった黒い感情、一先ず落ち着きを取り戻していくのを感じる。
千春はまだ死んでいない。
それがわかっただけでも本当に良かった。
「……ありがとう。五条」
「別にお前の為じゃねぇんだけど。千春はおもしれぇし、何より本人が暴れてないってのがでかい。さすがに人殺してたら話のしようがなかったけどさ」
「そんなこと……いや、でも……」
「んだよお前、千春が生きてて嬉しいのかそうじゃないのかハッキリしろよ」
そりゃ嬉しいに決まっているけど……。
でも俺は何度か千春に攻撃された気がするし、今思い出したけど意識が途切れる直前にも『無為転変』を食らった気がしてて。
「くくくっ……」
「何がおかしいんだよ」
「いや、多分恋鈴が思っていることそのものが、ここまでことを上手く進められた理由そのものなんだよ」
そう言いながら、五条は俺の私物である手鏡を俺に見せてくる。
今の俺の顔は真凜の攻撃で酷いことになっているから、正直直視したくないのだが、なんでそんなことをするのかが気になって俺は鏡に目を向けた。
「…………え、傷が」
「そういうこと。千春がお前に触れようとしたのは、攻撃の意思じゃない」
頬の傷は消えてなかった。
けれど、側頭部から左目にかけての傷は綺麗さっぱりなくなっている。しかもよく考えたら左目も見えている。
無為転変でしか治せないはずの魂の傷が、治っていたのだ。
それはどんな言葉や事実よりも、千春がまだ千春であるという事実を物語っている。
「現状、『千春』は外部への干渉をしない代わりに存在を保証する縛りを自ら受け入れ、休眠状態で封印されている。研究一派は千春を使っての術師の治療や術式についての解明を行おうとしていて、処刑一派はもうそのまんま処刑。まぁ人間扱いはされてないわけ」
「でも、まだ殺されたりはしていないんだな?」
「そゆこと」
状況はまだ最悪ではない。
研究という人間扱いされていない単語は腹立つが、しかし千春がもしも自我を完全に取り戻し、無為転変を使える状態になれば俺の目的を達成しつつ千春も助けることが出来る。
「とはいえいつまでこの均衡が続くかも分からない。禪院がいつ処刑側につくかも分からねぇし。さすがにそうなったら、もう口先だけじゃ止められねぇぞ?」
「わかった。……それじゃあ、俺は何をすればいいんだ?」
その言葉を待っていたと言わんばかりに、五条の顔に笑みが浮かぶ。
「一つ、千春の呪霊としての攻撃性能は非常に高い。研究しようにも、ある程度自由にした時に逃亡や暴走されればそれで終わりだ。拘束用にも研究用にも設備、呪具は幾らあっても足りないくらい」
「つまり金と呪具を集めろってことだな?」
これに関しては俺の得意分野だ。
ちょっとアレだけど、俺の術式ほど金稼ぎや失せ物探しに向いた術式もそうそうない。
「二つ、パワーバランスの制御。さっきも言ったが千春の処刑はあくまでまだ行われていないだけ。禪院が処刑側についたり、こっちが問題起こしてパワーバランス崩れたらすぐにでも千春の処刑は行われる」
こっちに関してもやることはわかりやすい。
要は五条家のパワーを保つ為にコイツのバックアップをすればいい。五条家は良くも悪くも本家と五条悟のワンマンなおかげで、幾分わかりやすくなってくれてる。
「こんなところか。それじゃ、質問ある?」
「一応聞くけど、なんで俺にここまでやってくれるんだよ」
ここまでの話は俺にとって有難い話だ。
だが、五条へのメリットはそこまで多くはない。無為転変という術式を制御できる形で置くのも、千春の目もアイツからしてみれば面白いかもしれないけれど、それでも五条がわざわざ動いて、他の御三家と対立までしてくれる理由が俺には浮かんでこなかった。
「もしもだけどさ。俺が二人いたら、今回みたいなことって起きなかったかもしれねぇじゃん?」
「…………」
「俺は恋鈴と違って強い。でも俺が幾ら強くても俺と関係ないところで勝手に死なれたら、俺だってどうしようもねぇ。だが、俺が二人いたらどうだ?」
子供のように無邪気な、けれどその言葉に籠った感情を子供の戯言と片付けてしまうには、あまりにも悲しいものがあった。
「もしも俺が二人いれば、さすがに加茂も五条悟様×2にはビビって反論出来ねぇだろうし、俺が二人いれば俺が迷った時にもう一人の俺が何か言ってくれるかもしれねぇ」
「まぁ五条が二人いたら世界は変わるだろうな、色々な意味で」
「どういう意味だそれ。……俺が言いたいのは、
千春を助けたいのなら、俺を倒してみろ。
俺では理解のできない何かを、俺でもわかりやすいように丁寧に道を敷いて、五条悟は歩かせてくれているんだ。
「それくらい単純な世界なのかね、
「単純にすんだよ。ジジイ共のビビった顔を想像するだけでワクワクするだろ?」
恵まれたかどうかの判断ができるのは自分だけ。
その点で言えば、俺は恵まれているんだろう。
どんな形であれ家族がいて、少し変わっているが信頼出来る友人……と呼べるのか分からないけれど、信頼出来る人間がいて。
まだこうして、諦めずに済む理由も貰えた。
「んで、どうする恋鈴」
「決まってるだろ。絶対に五条を倒して、千春も助けるし、俺も長生きする」
「そうそう。お前はいつもそういう顔してなくちゃ、つまんねぇよ」
たとえどれだけ、呪いが俺達の進む道を遮ろうとも。
俺は生きていたい。生きてていいと認められて、生きていくことまで呪いに感じたくは無い。
可愛いとか、死にたくないとか、負けたくないとか。
そういう理由をもって、生きていたいんだ。
「本当にありがとう、悟」
「だから、俺はお前の為じゃなくて……」
「それでもだよ。ありがとう、最強」
嫌な予感があった。
恋鈴が出張してる先で起きたという変死事件。たまたま資料に目を通して、その死体の異様な様相を見た時に、なんとなくそんな予感が湧いてきた。
でも俺も忙しかったし、アイツだって雑魚だがそこらの雑魚とは違う。
特級相当の呪力出力が帷なしで暴れているという話は、それからしばらくして俺の耳に届いた。
特級相当となれば、特級術師である俺に話が飛んでくる。たまたま近くで任務に当たっていた特別1級術師が派遣されたから必要ないと周りの奴らは言ったが、俺はすぐに任務を片付けて飛んでいくことにした。
結果がこれだ。
何がいけなかった?
恋鈴が弱かったこと? 表向きは3級のアイツにこんな任務を振った上の連中? それとも間に合わなかった俺?
千春とは仲が良かったわけじゃない。俺が術式を見せた時に目で追っていたのが見えて、面白そうだと思っていただけ。
恋鈴とも仲が良かったわけじゃない。他の奴らと違って俺に負けても諦めずに追ってくる姿が面白かっただけ。
それでも、瀕死の姿でうわ言のように千春の名を呼ぶ恋鈴の姿を見て思ったことは、不安だった。
恋鈴に居なくなられることそのものじゃない。いつか、こうやってどんどんと。俺が認めていて、俺が守っておけばいいと思っているものが、俺の知らないところで消えていってしまうんじゃないかって。
……まぁ杞憂だったんだけどな。
千春が生きてるって聞いただけで、結構直ぐにいつもの調子に戻ったし、その後説明終えたらもういつもの調子だった。
俺は俺の事しか考えてない。
きっと俺は一生そういう生物だから、お礼なんて意味が無いのに。
ああいう奴がいるなら、俺が一人になるようなこともないだろう。
「さてと、俺も仕事するかねぇ」
あくまで自分の為。
そう言い聞かせて、一人にならないように足掻き続ける。
一人でいることに寂しいって名前がついたのは、一体いつからだったのか。
それを思い出せないことが、今が楽しい理由なのかもしれない。
「夏油傑、ね。どんなやつなのか」