TS超絶美少女呪術師が五条悟を倒そうとする話 作:ちぇんそー娘
五条悟との二戦目から約二週間。
完璧美少女である俺の体は治癒力も並外れているのか、反転術式もなしに一週間で骨折が完治し、既にリハビリも終えて万全の状態に戻っていた。
流石にここまで来ると自分でも少し自分の体が怖いが、まぁ美少女だからということにしておこう。
それで、再起した完璧美少女である俺が今いる場所はだ。
「なんだか皆さん、私の事すごい見ていませんか?」
「すまんな。あまり稽古場に女が出入りするのに慣れていないんだ」
「いえ、私は完璧美少女なので見られることには慣れているんですが……誰にも告白されないなんて慣れないもので」
「そ、そうか。……いや、どういうことだ?」
周囲にいる男達の目線は、私を可愛いものを見る目ではなく弱く、愚かで醜く、自分よりも矮小な存在を見る目。そういう侮蔑の感情が強く籠っていた。
俺が今いる場所というのは、呪術界の御三家の一つである禪院家の修練場であった。
実質五条悟のワンマンな五条家と違い、禪院家は次期当主になり得る人材も決まっていて、更には特別一級術師を何人も抱えている。訓練するならば一人よりも師匠やライバルのいる環境の方がやりやすい。
それに、禪院家と言えば圧倒的差別主義者の家だ。
禪院にあらずんば呪術師にあらず、呪術師にあらずんば人にあらず。今どきこんな差別的な言葉がまかり通り、女と言うだけで差別するような家。
この環境ならば、どこに居ても俺への侮蔑の目線が飛んでくるので幾ら俺でも増長してバカにならない!
我ながらなんとも天才的な発想だと思う。発想まで美しいとか、もはや俺の術式は美しいことと言ってもいいんじゃないか?
しかし逆に言えば、俺のように自分の容姿に絶対的な自信がなかったら、数日で心が折れそうなくらいに周囲からの『女』を見る目は厳しい。一応分家とは言え五条家からの来客である俺にすらこれなのだ。
真希ちゃんと真衣ちゃん、ホント大変だったんだろうな……。
まだ産まれてないから会えないんだけど、どうにかして彼女達が産まれる前にこのクソみたいなお家の環境を変えてあげたいものだ。
『女が何故この修練場に』
『禪院の神聖な場を女が汚すなんて』
『安楽と言えば五条家にすり寄る売女の家系だ。汚らわしい』
ふと、俺の脳裏に声が響く。
正確には声と言うにはそれは音が無く、いきなり脳に情報が叩き込まれたという方が正解だろう。
「ん、どうした?」
「いえ……やっぱりちょっと怖いかもなぁって」
「奴らは日々呪霊と最前線で戦闘をし、術式を把握する為に身を捧げることすらある。そういうものだと受け入れてくれ」
俺を案内してくれている甚壱さんは、来客である俺をあまり気遣ったりせずにそれだけ言って、多少周りの術師達を睨みつける程度でさっさと進んでいってしまう。
とはいえ、彼の心の声が聞こえてこないことには少し安堵した。禪院家なんて、女であるだけで全員に俺の術式が作用すると思っていたからだ。
これが俺の術式、安楽家相伝『覚ノ改』。
自身に敵意を向けてきた相手の思考を読み取るという術式で、効果範囲はだいたい20mくらい。意識したりすればもっと広がるが、かなり負担がでかい。
発動条件は相手が俺に対して『敵意』を向けてくること。つまり心が読めない甚壱さんは少なくとも俺を客として迎え入れる態度はあるということが分かる。
心が読める術式なのに、一番安心できるのは心が読めない相手と一緒にいることというのはなんとも皮肉な術式だ。
先代の発動条件は『相手に触れること』だったらしく、俺の発動条件が先代と変わっていることを知るのは俺の家族と千春、そして五条家本家の人間くらい。
と言うか、触れないと分からないくらいの嘘を吐いていかないと誰も俺に近づいてくれなくなるからね。
この術式の一番厄介でもあり強いところは、敵意を感じ取ればそれでオートで術式が発動してしまう。俺はまだこの術式を制御しきれていないのだ。
だから、どれだけ俺が相手を信じたくても相手が俺に対して敵意を持てば、この術式はその心の内に留めていた呪いを、容赦なく俺に伝えてくる。
結局一番傷つくのは悪意や敵意そのものでは無いのだ。
自分の信頼が裏切られてしまうこと。それが何よりも恐ろしい。
「へぇ、お前が五条家のコバンザメのなっさけない家の女かぁ。俺やったらそんな情けない家名名乗って人前でれへんけど、そこんところどうなん?」
『へぇ、アンタが五条家のコバンザメのなっさけない家の女かぁ。俺やったらそんな情けない家名名乗って人前でれへんけど、そこんところどうなん?』
「すげぇ……超安心する……」
「は? 何言うてんねん自分マゾなん? 親子揃ってきっしょい家やな」
『は? 何言うてんねん自分マゾなん? 親子揃ってきっしょい家やな』
俺の目の前にいる、一歳年下らしい男の子……禪院直哉はもう清々しいくらいに思考と言動が一致していた。
相手を徹底的に下に見た一言一句全てに罵倒が籠った言葉を、考えつくままに口に出している。
「直哉、客人だぞ」
「客って、向こうからこっち覗きたい言うたんやろが。なんで俺らが卑しい覗き魔に合わせる必要があるん?」
『客って、向こうからこっち覗きたい言うたんやろが。なんで俺らが卑しい覗き魔に合わせる必要があるん?』
すげぇな……こんな建前すら口にしない人間ってこの世に存在するんだ。極めて純粋な悪だよ。しかもこれで私より年下だから多分7歳でしょ? 生まれて7年でこれは性悪説が補強されちゃうだろ。
「歳も近いし、訓練相手ならお前が適任だ。くれぐれも丁重に扱えよ」
「訓練? 女が男の俺と? 冗談やろ? 黙って水でも汲んでくれた方がお互い得するし、何より訓練なんてしたらせっかくいい顔が台無しや」
「気にしなくて結構。殴られても俺の顔が美少女なのは検証済みです」
「ダメやこの子。どんなに顔が良くても頭イカれてる女はダメや。男を立てられへん」
「…………」
おい甚壱さんちゃんとしかれよ。
イカれてる発言は失礼だろ。何で目をそらすんだよ、俺みたいな美少女と視線合わせられるのはご褒美だろ。
「ま、ええわええわ。せっかくやしね。綺麗なもん壊すのって楽しいやん? 遊んだるわ」
「一つ言っておきますが、年上には敬語を使った方がいいですよ。直哉くん」
「なんで女に敬語使わなきゃあかんねん」
『なんで女に敬語使わなきゃあかんねん』
煽りに対する返しという訳でもなく、本心からそう思ってる。
うん、いいね。最高だ。直哉なら何があっても心の中で俺を罵倒し続けてくれるだろう。
それに、7歳にして禪院家の次期当主の座が事実上決定しているその実力は確かだ。
存分に味わわせて貰い、五条悟をぶっ倒す為の糧にさせてもらうとしよう。
奇妙な少女。
それが甚壱が初めて安楽恋鈴という少女を目にした時の感想だった。
特別一級術師である甚壱にとって、幼子がそんな感情の対象になったのはただ1人、五条家に生まれた六眼と無下限呪術を併せ持つ少年───五条悟を目にした時くらいのものだった。
五条家の分家である安楽家は、界隈ではある意味有名な家系だ。
本家に媚びを売り、その体質を活かして甘い汁を啜る卑しい一族。そんな評価に甚壱はさほど興味こそなかったが、その一人娘が禪院家の訓練に参加したいと言ってきたと聞いた時は、血は争えぬものかと少し落胆もした。
禪院家がどういう家なのか、禪院家で女がどのような扱われ方をするか。
まさか仮にも御三家の分家が知らないはずもない。それでもわざわざ擦り寄ってくるということは、こちらにも媚びを売りに来たと考えるのが妥当。
五条家とは江戸時代、御前試合での当時の当主同士の一件から関係は悪く、五条悟という存在もあり関係を改善したいところだったが故にこちらも断る理由がなく、当主も「面白そう」と酒に酔いながら認めたが、甚壱の個人的な感情としては、そんな女を禪院の敷地に招きたくはなかった。
だが、蓋を開けてみればこの恋鈴という少女、驚くべきほどに誰に対しても媚を売らない。
齢は先日8歳になったばかり。
幾ら呪術師として鍛えているとはいえ、そんな幼い少女が殺気を隠そうともしない男所帯に放り込まれて平然とするどころか、「誰にも告白されないことに慣れない」なんて冗談を口にするほどとは。
何となく、その天衣無縫っぷりにとある男の影が重なった。
何にも縛られず、呪力にすら縛られない天与の肉体を持つ弟───。
何を恐れてかは自分でも分からない。だが甚壱は、直哉と恋鈴の模擬戦でもしものことがないように、二人の動向を見守ることにした。
『なんやこいつなんやこいつなんやこいつ!』
禪院直哉は生まれて初めて、女という生き物に恐怖した。
女は男を立てるために三歩後ろを黙って歩く。そんなことが当たり前の環境で育った直哉にとって、女はただそれだけで侮蔑の対象だった。
年上だろうがなんだろうが関係ない。
あの五条悟と遠縁であろうとも、この女は五条悟では無い。容姿が似ていようが、この女の目は普通の目だ。
この女はどうせ弱者。
悟君のような『眼』を持っていない。だからきっと、あの人を見下し理解できなかった奴らと所詮同じ──────。
「どうした? 速度が落ちてるぞ。投射呪法の持ち味と言ったら、その速度じゃないのか?」
そう思っていた。
だが、目の前の女はなんだ?
ぶっちゃけ弱い。
なんか強そうなこと言っているが、さっきからこちらの速度に全くついていけずに殴られまくって、無駄に端正な顔を腫れ上がらせて血を流している。それでも美しいと言わざるを得ない顔立ちなのが、何となく癪に障る。
一方的に殴られている。
ずっと殴られ続けている。
なのに、なんで笑っている?
何が楽しくて笑っている? 何が可笑しくて笑っている?
一体俺は、こいつが笑っている
禪院直哉は、この日生まれて初めて女に恐怖した。
自分が理解できない何か、それを知っているかのように振る舞う少女に『向こう側』の何かを感じてしまったのだ。
クソ痛い。
あの野郎、本当に女の子の顔を容赦なく殴りやがって……。しかし大層な口を利くだけあってその強さは本物だった。
投射呪法。
速度がウリだとは聞いていたが、実際に相対すると行動が読めていようがなんだろうが対処できない速度で殴られるし、触れられたら実質一秒
フリーズさせられるしで本当に打つ手なしって感じ。
一応甚壱さんが手当してくれたけど、それでもまた顔が痛々しく腫れてやがる。
しかし、想定内だ。
まずは一敗したが、これで俺の術式の弱点と高速機動の対処法は熟知した。
俺の体は完璧な美少女。
一度その身で体験したことは、だいたい一発で覚えることが出来る。既にあの速度には体も脳も慣れた。あとは、呪力の扱いのセンスと発想だ。
「待ってやがれよ禪院直哉……。お前の口からもぜってぇに可愛いって言わせてやるからな……」
あとそれはそれとして。
わかっててもこんなに可愛い俺にあんな口きく年下のガキはムカつくので一発シメる。それが世の為人の為でもあるだろう。
甚壱さん
直哉の叔父。禪院家では比較的客観的に物事を考えられる貴重な人材。しかし彼も禪院なのは忘れてはならない。
優しいと言うよりは五条家との関係を悪化させたくない。