TS超絶美少女呪術師が五条悟を倒そうとする話 作:ちぇんそー娘
「んー、やっぱり術式が進化したのか?」
部屋の中で意識を集中させ、俺はノートに思考を書き散らして考えを纏める。
禪院家での特訓の後、俺は以前までなら効果範囲外の、俺に敵意を向けてない相手の心の声を読み解いてしまうようになっていた。
しかしそれは狙って行うことも出来ず、こちらでシャットアウトもできない。
すやすや寝ていたら突然トイレで紙がないことに気付いたおじさんの思考が飛んできたり、飯を食ってる時に何の関係もない嘔吐している人の気持ち悪いという思考が飛んできて釣られて吐きそうになったり、はっきり言ってめちゃくちゃに不便だ。
術式『覚ノ改』については、実の所俺も全てを理解はできていない。反転術式を習得した以上、術式反転を使ったらどうなるかとかも気になるが、最悪相手の思考を読み取る、つまりサトリの逆で俺の思考の垂れ流しのサトラレとかになるので気軽に試せない。
ならばやっぱり、俺が無意識に術式に縛りを作って術式効果を増大させたか、或いは解釈を変えたか。
直哉が土壇場で24fps以上のフレームレートで動いたように、俺もその動きに対応する為により深く相手の思考を察知しようとした。
でも、俺は何を読もうとしたんだろうか?
あの時はとにかく直哉に勝つことばっか考えてて、それ以外は二の次だったからなぁ。
「失礼します、恋鈴お嬢様」
「ん、どうした千春」
「お嬢様のお友達からお手紙が届きましたので、要約して音読させていただきます」
「なんで?」
千春は相変わらず俺に対して明らかに扱いが軽い。
そもそも、俺って友達いたっけ? 俺のあまりの美しさに気後れしてるのか、同級生は誰も話しかけてこないんだけどなぁ。
「約2000文字を要約すると、『もういっぺん勝負しろドブカス』です」
「そいつ友達じゃないんだけど」
「二週間苦楽を共にしたご友人で、大層仲が良さそうで向こうは四六時中お嬢様のことを考えている、と禪院の当主様は仰っていましたよ」
血管を浮き上がらせて俺の写真が貼り付けられたサンドバッグをボコボコにしてる直哉のイメージが頭に浮かんで、思わず身震いしてしまう。確かにアイツの性格からしたら、肉体は女の子の俺に負けるなんて屈辱でしかないだろう。
……しかし、禪院の当主って言ったら今は直哉の父、つまり直毘人さんか。
仮にも御三家の当主がその分家である俺の家に直接色々言ってくるなんて、俺の家ってどういう立場なんだろう。
現当主であるお父様は、実はあんまり家のことを話してくれないんだよね。
代わりにめちゃくちゃ俺の事を可愛いって言ってくれるし、大抵の無茶なお願いは通してくれるから大好きなんだけど。家に関することや、死んだお母様に関することは何一つ教えてくれない。
『恋鈴……最近何か悩んでるみたいだけど当主様に伝えた方がいいかな……』
「っぅ……」
「お嬢様? どうかなされました?」
「いや……なんでもない」
強力な術式だとは思うけれど、やはりろくでもない術式だ。
相手の心を無理やり覗いたって、得することよりも損することの方が多い。
自分の使用人が、心の中で自分を呼び捨てにしているとか知ることになるし、もしもこれ以上深く心を覗いてしまって、一見容赦は無いがなんだかんだと優しい千春や、お父様が俺の事を道具のようにしか思ってなかったり、嫌っていたとしたら──────。
「大丈夫。俺は可愛いから」
「何がですか?」
「大丈夫なんだよ。俺は、可愛いから」
俺は今日、沸き立つ不安を抑えるために初めてこの言葉を虚飾として使った。
反転術式の会得と呪力操作の感覚向上。
これによってかなりできることが増えたが、やはり超えなければならないラインはまだまだ存在する。
その内の一つが、『黒閃』だ。
呪力と打撃の衝突の誤差が0.000001秒だかくらいで発生する空間の歪み。これを経験したかそうでないかで、呪力の扱いの『本質』に差が出てくる。
つまり強くなるには黒閃をキメなければならないと言ってもいい。
とは言えあの五条悟ですら狙って出せるような代物ではなく、ほぼ反応をオートにすることでギリギリ反応できた直哉の動きが1/24秒毎だからだいたい0.04秒。
やはり狙って出すのはどう考えても不可能だ。
しかしこれができなければ五条悟に勝つなんて夢のまた夢。
「という訳で直哉、協力しろ」
「頭おかしいんちゃうか?」
『頭おかしいんちゃうか?』
うちの客間でなんかアニメを見ていた直哉はそう吐き捨てた。心の声まで一言一句同じな、相変わらずの悪い意味での素直さである。
そもそもなんでコイツがうちの客間でアニメ見てるんだよ、と言いたいところだが、直哉がここにいる理由は俺が原因なのでなんとも言えない。
仮にも禪院の次期当主候補筆頭である直哉に、五条家の分家の小娘が一回でも勝ってしまった。総戦績で言えば直哉の圧勝だが、それでも負けたという事実は消えない。
俺が修得した技術も、俺の術式ありきであって他の人が使えるようなモノでもない。
禪院としては、関係改善の為に快く受け入れたにしたって面白くない展開だ。そして禪院との関係性を悪化させてしまった我が家は本家から白い目で見られ、向こうからの申し出を断れる立場ではない。
つまり、今度は直哉が俺の技術を盗みに来たというわけだ。
盗まれるようなものでもないが、向こうが何を考えているか分からない。最悪後ろから刺されないか心配だが、今のところ直哉にそんな思考は存在しないのが救いか。
「俺は客やで? 安楽の家は客に雑務押し付けるようなろくでなしの集まりなんか?」
「俺の特訓風景が見たくて来たんだろ? 貴重な経験なんだからありがたーく受け入れろよ」
「俺とお前の戦績、7-1なの忘れてへんか? まぐれ勝ちしたくらいでそこまで調子に乗れるってのも羨ましいもんやけど」
「今美形過ぎて羨ましいって言った?」
「変な電波拾ったラジオでももうちょいマトモなレスポンスするで? 女の自意識過剰なんてキショいだけやろ」
「男の自意識過剰もキショいだけだろ。そして俺は過剰なんじゃなくて正当な評価だ」
まぁやりたくないって言ってるんなら仕方ない。
一人で壁パンし続けるしかないだろう。コンマ何秒だか忘れたけれど、とにかく試行回数を増やせばいつかたどり着けるはずだ。
と、言う訳で早速壁パンを毎日始めることにした。
一日何万回、感謝の正拳突きでは無いが、結局のところ綿密な呪力操作を行えてるのならば、狙っては出せない以上出せるか出せないかは運が絡んでくる。
「黒閃! 黒閃! 黒閃! 黒閃! 黒閃! 黒閃! 黒閃!」
だからひたすら岩壁を殴る。
殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴る。
集中力は気合で維持して、筋繊維は反転術式で治癒して、とにかく殴り続ける。
「……違うな。この方法じゃ遅れる。多分反射的に纏わせるんじゃ絶対に遅れるから、やっぱりタイミングを合わせるんじゃなくてとにかく威力をあげるイメージの方がいいのか?」
原作では確か流すのではなく纏う、という言葉が使用されていた。
また、虎杖は極限まで集中することで狙ったかのようなタイミングで黒閃を引きずり出している。
しかしこれは前提条件。
呪力を合わせようとする意識を捨てること、極限まで集中することは当たり前のことなのだ。
だから、それをした上でひたすらに回数を重ねる。
殴って、殴って、殴って、殴る。岩壁が崩れたら別の場所で。拳が砕けたら反転術式で治して、ひたすら殴るを繰り返す。
「出来ねぇー!!!」
それを続けて二週間。
全く出来る気配がしなかった。
感覚自体は掴んでいる気がするのだが、どうしても呪力と打撃のタイミングが僅かにズレる。ぶっちゃけ五条悟ですら死にかけて修得した反転術式を、二週間で修得した時点で自分を天才だと思っていたがその考えを改めさせられる。
まだ二週間とも言えるが、何の成果もなく二週間だ。
狙って出せないということは、正解は誰も知らない。つまり俺が掴んでいると考える感覚も、見当違いの可能性が十分にある。
どうする?
こうしてる間にも五条悟だって成長している。黒閃以外にも修行したいことは山ほどあるし、黒閃一本に集中するのではなく別の修行と並行するのもアリだ。
だが、黒閃を経て掴む呪力の『核心』。そこの差には天と地ほどの差があると言う。
黒閃を修得せずに他の修行をしたとしても、その『核心』によってどれだけの差が生じるか……。
「うわ、まだやってたん? 風呂も入ってないんやろ? きったなくて近寄れんわ」
「どうした直哉。ママが恋しくて眠れないか?」
「深夜までバンバン打撃音がうるさいねん。発情期の犬の腰みたいに腕振り回して、あんまりにダサくてこっちが恥ずかしくなるわ」
ただ煽りに来ただけっぽいな。
よし、無視無視。コイツ煽りが本心過ぎて、心を読み取れる俺にとってはあんまり煽りが効かないから結構無視しやすいんだよね。
「やめろって言ってるやろカス。そんな非効率的な方法見てたらサブイボ立つねん」
「鍛錬より効率的な方法なんてないだろ」
「女ってアホやから嫌いねん」
いつも通り、俺に向けての煽りなのに標的を人類の50%以上に拡大している当たり判定激デカ煽りマンは、やれやれと大袈裟に肩を竦めながら岩壁の前に立ち。
「黒閃のやり方やろ? ちょうどええわ、可哀想な恋鈴ちゃんに、ええもん見せたるわ」
「───マジ?」
まるで自分は出来るとでも言わんばかりに、禪院直哉はニヤついた笑みを浮かべた。