TS超絶美少女呪術師が五条悟を倒そうとする話 作:ちぇんそー娘
(コイツ、女のくせにやっぱ天才やな。刹那の中にどんだけ思考詰めとんねん。術式自体は加速に関係あらへんやろ)
禪院直哉は撃ち合いの中で思考する。
二人がこの殺し合いにおいて設けた縛りはたった二つ。
攻撃側は防御側を殺すつもりで、一発打撃を放つ。
防がれたりしたら攻守交替。
これをどちらかが戦闘不能になるまで続ける。
負けた方がどうなるかは状況によるが、決まってることは勝った方の自己が負けた方を屈服させるということだけ。
(それでもやっぱ、この方式なら俺が負けることはない。結局コイツは速いんやなくて、
恋鈴の拳を速度が乗切る前に受け止め、流し、今度は自らの攻撃の番だと直哉は構え直す。
恋鈴の術式は相手の心を読む。
故に相手の防御も攻撃も恋鈴は一瞬前に理解するが、一瞬前に理解したところで思考をすぐさま肉体に反映はさせられない。
彼女が最も強さを発揮できる機会は、カウンターだ。
相手が攻撃の意志を見せた瞬間に彼女はそこを穿つ一撃を肉体に強制させる。『落花の覚』と名付けられたあの技、究極の後の先こそが彼女の術式の真髄だ。
認めざるを得ない。
安楽恋鈴という女は、間違いなく強い。どれだけ貶め、罵倒し、見下そうとも直哉にとって強さだけは絶対に認めなければならない指標。どれだけ認められなくても、彼はその点に関しては真摯だった。だからこそ、認めたくないものを認めてしまう矛盾は、大きな苛立ちとなる。
(なんでや。なんでやなんでやなんでや! コイツ、やっぱり俺より弱い! やのに、なんで俺の前に立つ、なんで立てる!?)
その理由だってわかっている。
この女は自分と同じように、『強者』を知っている。五条悟の強さを理解している。その上で、そこに並び立つのではなく超えると口にしてるのだ。
「俺が出来へんことを、お前が出来るわけないやろがァ!」
「誰ができるかとか知ったこっちゃねぇんだよ! 俺は、可愛い!」
「ツラの良さと強さになんの関係があん、ねん!」
自分では見えない何かを見ている。
自分では見れなかった先の世界を見ている。
こんなマゾで自分大好きで、イカれた女が、それでも確かに自分よりも前に進んでいる事実を認めるしかない。
安楽恋鈴という女の成長速度を、反転術式の習得を考えれば認めるしかない。
安楽恋鈴は禪院直哉を上回る天才で。
彼女こそが、直哉が目指す『向こう側』の──────。
「認めへん……認められるわけないやろがッ!」
直哉と恋鈴の組手は、二人の術式特性も相まって非常に特殊な環境となっていた。
一般的な人間が認識しているフレームレートは約30fpsだと言う。しかし30fps───つまりは1秒間に30枚の画像が流れてきたとして、通常の人間はあくまでそれを映像として認識するだけ。
投射呪法により1秒間を24個に区切っての動きを身に染み込ませていた直哉は、その動きの1コマ1コマを正確に見抜いていた。
0.04秒毎の恋鈴の肉体の動き、呪力の動き。黒閃の発動条件である打撃と呪力の衝突誤差0.000001秒には遠く及ばない時間ではあるが、それでも常人よりも遥かに正確に恋鈴の動きを認識し、分析し、対処する。
そして恋鈴は術式により直哉の分析結果をダイレクトに脳に受ける。
通常の人間の何倍も正確な動きの分析を、言語化できない情報まで脳に叩き込まれ、動きに反映していく。そうして反映された動きを直哉は目で盗み、自己に反映する。
──────目より先に手が肥えることは無い。
良し悪しを見抜く目を鍛えなければ、作品を生み出す手の上達は望めない。
誰よりも強者を理解しようとし、刹那の時の中でも目を開くことをやめなかった少年。
誰よりも己の美しさに自信を持ち、それを認めさせる為に強さに執着する少女。
加えて二人の術式は、『目』を鍛えるのには打って付け。
最高効率の分析訓練。下手すれば相手を殺しかねない、自分も死ぬかもしれない本気の組手。
組手の回数は1000を越えようとしたいた。
攻撃と防御を交互に行う形故に、恋鈴の攻撃は直哉の速度で捌かれ、直哉の攻撃は恋鈴の後の先で捌かれる。
反転術式で傷を治せる恋鈴が有利に見えて、そもそも速度で上回っている直哉の方が正確に攻撃を最小限の負傷で捌いている。
そして
無限に湧いてくる呪力……という程では無いし、素の呪力量は恋鈴が上回るが、反転術式を回さなければいけない影響で五分五分。
肉体も精神も疲弊し、術式の過剰使用で脳が焼き切れるような苦痛が伴う。それでも二人は充血しきった瞳でただ敵の動きを捉え、自らの動きに取り入れ、拳を交わす。
二人は互いに互いのことが嫌いだ。
だから技術を盗むことに躊躇いがない。黒閃を狙うことに躊躇いがない。全身全霊を賭けて相手を超えることに、一切躊躇いがない。
そして、先に呪力の核心に辿り着くのは──────。
「悟様! 止めて! 止めてください!」
「どうした千春……」
「直感ですが、アレマズイです!」
突然叫び出した千春に、悟は少し困惑した。
彼女は非術師であり、呪具のメガネなしには呪いも認識できない。それなのに、彼女は何かを察知した。
六眼を持つ自分にすら察知できなかった、何か。
非術師であるはずの彼女がそれを言語化して見せた。
「お嬢様の方が、一歩前にいます! このままじゃ直哉様が死にます。お嬢様が、直哉様を殺します!」
「絶対に俺は、五条悟をぶっ倒す!」
「──────いや」
アホくさ。
禪院直哉の脳に走ったのは、そんな思考だった。
何女相手に熱くなっとるねん、自分。こんなイカれた女相手にマジになるなんてほんまにダサい。
甚爾くんやったら、こんな時どうするんやろう。
きっとこんなボケの女、眼中にもないって簡単にぶっ倒すか無視でもすんやろな。
──────俺アカンやん。
こんな女相手に一々乱されて、呪力も乱されてたら、そりゃあ向こう側なんて辿り着けるわけが無い。
この女は倒すべき敵なんかではなくて、倒せて当然の相手。俺が見るべきは最初からこの女やない。
この女が最初から見ていたモノ。
追うべきは向こう側そのものやってわかってたのに。自分があっち側に行きたいと願ってたはずなのに。
憧れが、いつの間にか無意識に自分とあっち側を自分で区切ってた。
──────ほんまアホらし。
そんなことを、女に気付かされるなんて。
腹立つしムカつくけど、まぁええわ。
「礼、言ったるわ恋鈴」
「なんだよ、クズ」
「踏み台になってくれてありがとう。これからも頼むで」
「その言葉、そのまま返してやるよ」
雑念が消えた。
二人は目の前の敵を見ながら、目の前の敵の目に映る、向こう側の人間の背を見る。
純度100%の執念。極限まで研ぎ澄まされたその
「……止める必要ねぇや。下がれ千春」
「え、いやでも……」
「いいから。巻き込まれるぞ」
直哉と恋鈴の体勢が、同時に崩れる。
二人とも肉体と思考両方にガタが来て、肉体が無理やりその動きを止めたのだ。
「……次、どっちが殴る番だっけ」
「知るかボケ。こうなったら、早いもん勝ちや」
「そう、だな」
そして、二人が同時に殴り掛かる。
息を併せて示し合わせたかのように、互いの拳は吸い込まれるように互いの拳を捉えていた。
もはや数を数えるものすらいなくなった組手の果て。その中で延々とお互いの動きを、思考を盗み続けた二人にとって、相手の動きはもはや自分の動きよりも理解出来ていた。
だから、わかっていた。
向こうの一撃、爆ぜる。
ならば、こちらも負けられない。
こいつにだけは負けたくない。
純化された呪いの一撃に、黒い火花は微笑んだ。
「お嬢様ァァァァァ直哉様ァァァァァァ!!! 腕、腕! これ繋がってます!? 治りますよね!?」
「へぇ、やるじゃん恋鈴に、直哉も」
黒閃のぶつかり合い。
お互いの一撃を相殺する形で放たれた故か、二人とも命に別状は無いが互いに腕は砕け、限界を迎えたのか意識も飛んでいる。
だが二人とも確かに黒閃を手にした。
目覚めた時、二人は自分達が辿り着いた世界と今までの世界の差に気が付くだろう。
未だ二人と五条悟の間にある距離は無限。
だが確かに、その距離は1歩近づいた。例え無限引く1だけだったとしても、そもそも道があるとすら誰も思っていない場所に二人は踏み込んだのだ。
だから五条悟は待ち続ける。
訪れるはずのない歓喜、現れるはずのない挑戦者。
「二人とも、早く辿り着いてくれよ? 楽しみに待っててやるからさ」
「ざけんなや! この腕じゃ飯も食えんやないか! 男児の腕に何してやがんねんこのドブカス女がァ!」
「俺も腕壊れてんだよ! 千春! あの論外野郎に俺達のイチャイチャを見せつけるぞ! ほらあーん!」
呪力の核心を掴んだ本人達は目覚めるなりお互いに罵倒を飛ばしあっていた。
千春はこいつら、今際の際でも互いを罵りあってそうだなぁと思いながら、とりあえず二人の頬に熱々のお粥を押し付けることにした。
禪院直哉
男尊女卑のスペシャリストにして論外の男。向上心に補正が入った代わりに恋鈴のことを恋鈴よりも知るという絶妙に気持ち悪い称号を手に入れる。