TS超絶美少女呪術師が五条悟を倒そうとする話 作:ちぇんそー娘
腕が治り切る前に、直哉はうちから姿を消していた。
礼を言うことも無く、いつの間にか去っている姿はアイツらしいと言えばらしいが、できるならもう会いたくない。
だって、ただでさえアイツも天才側の人間なのに黒閃を経験したとか考えたくもない。本気で殺しにこられたら俺だって全然殺される可能性あるのに。めんどくせぇ。
しかしアイツとの分析訓練を経て、俺は遂に黒閃を経験した。
経験したからわかる。
黒閃を経験した術師とそうでない術師には天と地ほどの差があると言うが、それはホラでもなんでもない。
自分の呪力の流れが鮮明になっている。
体の中に新しい器官が生まれて、血液の代わりに呪力が流れている、そんな感覚。呪力を含めて自分の体とすら思えるほどに、自由自在なイメージが頭を迸る。
「千春、そういえばその頬の傷どうしたんだ?」
「お嬢様と直哉様の組手の際に、こくせん? の衝撃で飛んできた瓦礫が頬を掠めました。女の子の顔が傷物になりましたね」
「めちゃくちゃ嫌味言うじゃん。まぁちょうどいいや。ちょっと顔貸して」
「どうしたんですか、私の潤いタマゴ肌に触れて……え?」
頬の違和感に気づいたのか、千春は急いで鏡を確認する。
そこには
反転術式の他者へのアウトプット。
相手のカタチに合わせて、呪力を練り直しそこに反転術式をかける。黒閃を経て呪力の自由度が上がった今でこそこんな簡単に出来るが、前だったら発想すらできなかった。
しかし、俺ってばまだ10歳にもなってないのに既に反転術式の修得にそのアウトプット、更には黒閃まで修得とか……才能に満ち溢れすぎじゃないか?
確か家入さんみたいに反転術式のアウトプットを出来るだけでも超貴重な人材になるんだよね?
そこに加えて投射呪法使いと殴り合える身体能力と基本的な呪力操作。相手の心を読む術式も併せて伸びしろ十分。
けれど呪力の核心に触れたからこそわかるが……それでも五条悟に勝つには手札が足りない。
無下限呪術によるバリア。
あれを突破するために、最低でも領域展開が使えるようにならなければ勝負の舞台にすら立つことができない。
改めてあの最強ズルすぎるな。術式を使えない状態に持ち込まないと勝負にすらならないとか、さすが最強。ズルすぎるだろナーフしろボケが。
あまりの理不尽な壁の高さに、内心とはいえ言葉が鋭くなってしまっていた。
こういう時は綺麗なものを見て心を落ち着かせなければ。咄嗟に手鏡を手に取り、俺はそこに映る自分の姿を目に収める。
天使か?
いや天使に失礼だな。こんな可愛い天使とかいるわけが無い。比較対象にするには次元が違いすぎて勝負にならなくて可哀想だ。
まずまつ毛が長すぎるし肌の保湿から違う。唇もプルプルだし髪の毛もサラサラ。欠点が無さすぎることが欠点とでも言うべき容姿。
……あぁ、本当に俺って美少女なんだなぁ。
これを素直に美しいって言えない五条悟の精神構造が可哀想に思えてきた。美しいものを美しいと言えないのは、一体どれだけ辛いことだろうか。
そうだ、俺はアイツをぶっ倒すのではなく救ってやるんだ。そう思えばなんだか俄然やる気が湧いてきた気がする。よし頑張れ俺、あの可哀想な男を救ってやるとしよう。
「恋鈴〜!!! お前、また大怪我したんだって!? 父を心配させるなよ〜!?」
自室で鏡に向き合う俺の最高の癒しの時間が、突如として開かれた戸と共に爆散する。
俺の部屋になんの遠慮もなく侵入するのは、
「お父様、それは可愛い残像です」
「ッ!?」
まるまる太った体に口元に蓄えられた髭。
美意識の欠けらも無いように見えて、相対的には何故か不快感が一切ないという不思議な印象を受けるこの男性は、俺の父親。
つまり現安楽家当主、安楽
「久方ぶりの親子のスキンシップなんだから、残像じゃなくて本体を抱かせてくれんかのう?」
「だってお父様、髭じょりじょりしてくるじゃん……俺の潤いタマゴ肌に細かな傷がついて将来のシミの原因になったら嫌だし……」
「そう……娘に髭じょりじょりするの夢だったんだけどなぁ……」
しょんぼりとしているお父様を見るとちょっと申し訳なくなるが、俺の美しさ以上に大切なものは少なくとも俺には無いのだ。
別に親子仲が悪い訳では無い。
基本家を留守にしているお父様とも、会えばちゃんと話すしお父様はちゃんと俺の話も聞いてくれる。
御三家の分家筋の家である俺が、五条や禪院という本家筋と関わりを持てているのは、この人のお陰なのだ。
それでも、なんと言うか。
俺はこの人と顔を合わせるのが少しだけ怖い。
「しかし急に帰ってきてどうしたんですか。まさか何か良くないことが?」
「世界一可愛い娘の顔を見たいと思ったのが理由では、ダメか?」
「確かに、それ以上の急務はありませんね」
「娘ッ!」
「父ッ!」
俺達親子は熱い抱擁を交わす。
やはり俺のお父様、俺の美しさを理解していくれている。
「ご当主様。茶番はそのくらいにして本題に入ってください」
「親子の愛の確認を茶番ってお前……」
俺たちのこのやり取りを毎回見させられている千春は、溜息を吐きながら当主であるはずのお父様を小突いている。
千春って呪力も無いし、立場は使用人のはずなのに何故かお父様にもこの態度だし、五条悟とも仲良さげだし、一体何者なんだろうか。
「しかし実際、今回は本当に可愛い娘の顔を見に来ただけなのだが」
「ウンウン。大事ですよね。私程の美少女の顔を確認するのは麻薬レベルの依存性がありますから」
「お嬢様、お口チャック。話が進まない」
「……本当に他に何か話すことあったっかのう? 婚姻のこととか?」
ん?
今なんか、聞き捨てならない単語が飛び出した気がするぞ。
「しかしそんなの今更語る必要ないだろうし……」
「待ってお父様。婚姻ってなになになに!?」
「何って……千春、お前ちゃんと言っておいただろうな?」
「…………」
千春は澄ました顔で目を逸らす。
それを見てお父様は目を見開き、どうしたものかと言わんばかりに顎に手を当てて、それから俺の顔を見て。
「まぁ薄々勘づいているとは思うが……恋鈴。お前には婚約者……許嫁がおる」
「いや今初めて聞きましたけど!?」
「その相手とは……」
「待って、なんか嫌な予感してきた。言わないでいいです。いわないで!」
俺の叫びも虚しく、お父様は俺が一番聞きたくなかった名前を口にしてしまう。
「お前の婚約者とは───五条家次期当主である、五条悟様だ」