TS超絶美少女呪術師が五条悟を倒そうとする話   作:ちぇんそー娘

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9.乱麻

 

 

 

 

 

 安楽家の血筋は、『触媒』とも呼ばれている。

 

 この家に生まれた女は、呪術的に特別な意味を持ち合わせる。

 安楽の家の女が嫁いだ先で産んだ子は、父となる男の呪力特性や能力を色濃く受け継いだ子が産まれると言う。

 

 安楽家はそのようにして、自らの家に生まれた女児を御三家の『血』を濃く残すための道具としてその地位を築き続けてきた。

 

 

 

 

 

「え、知らなかったの? 俺が18になったらとりあえずお前と子供作れって家の連中からもう聞いてるもんだと思ったけど」

「聞いてるわけねぇだろ。聞いてたら今すぐお前に勝負挑んでるわ」

 

 俺の宿敵であり、許嫁でもあったらしい五条悟は、まるで何事もないかのように平然としている。

 

 ……直哉の言っていた『コバンザメ』とか『卑しい家』ってのは、そう言う意味だったのか。

 確かに禪院至上主義のあの家の人間からすれば、禪院の血を色濃く残す為に安楽家は欲しい道具であり、直哉からすれば『女』の極地。

 

「悟は嫌じゃないの? 俺だぞ? 俺と将来抱き合うんだぞ?」

「別にどうでも良くね? 俺以外の人間とかみんな呪力の質が似たようなもんだし」

 

 ダメだこいつ、住んでる世界が違いすぎて人間のことを虫みたいに見ていて、個体差をあまり理解していない。

 

 ちなみに俺としては、もちろんNoだ。

 別に家の方針がそうと言うならば、ここまで育ててもらった恩もあるし、男と抱き合うのは……嫌、だけど、俺の可愛さを考えればこの美貌の遺伝子を後世に残さないことが罪なので受け入れるつもりでいた。

 

 でも五条はやだ。

 だってこいつ、俺の事可愛いって言ってないんだもん。

 

 俺は俺の事が好きで好きでやまないやつと結婚したい。

 俺の可愛さを理解して、ちゃんと毎日俺の事可愛いって言ってくれる人間じゃないとやだ。俺の可愛さを考えれば人類のほぼ全員はそう言ってくれるはずなんだけど、そうじゃないレアケース中のレアケースが五条悟なのだ。

 

「お前本当にいいのか!? 確かに顔の良さで言えば最高の物件だけど、言葉遣いこんなだしお前のこと大嫌いな生き物だぞ俺!?」

「だから言ってんだろ。そんなの()()()()()()()()

 

 宝石のようなその瞳には、きっと『人間』は映っていなかった。

 彼にとってこの世界は『自分』と『その他』。誰が自分の妻になろうが、極論どうでもいい。そもそも嫌になったら婚姻の話だってその場の気分で無しにすることだろう。

 

 コイツは価値基準が絶対者なのだ。

 そして、コイツにとって俺は美少女でも何でもなくてその他大勢のただ一人。

 

「一緒じゃねぇだろよく見ろ! こんな美少女、六眼と無下限の抱き合わせよりも生まれる可能性の低い遺伝子の奇跡だぞ!?」

「お前俺と結婚したいの? したくないの!?」

「したくないけど、俺がお前を振るって形で場を収めたい」

「荒らす気しかねぇじゃねぇか」

「だって俺より俺の可愛さ理解してるやつがいないから、俺はできるなら俺と結婚したいし」

「お前ほんと理解できないこと言うよな。俺が理解できないって相当だぞ」

 

 ほんとどうしよう。

 お父様だってここまで自由にやらせてくれたけど、さすがに五条本家との婚姻なんて言う家の今後に関わる話は断らせてくれないだろうし。

 

 そもそもこれ、この話になった時点で詰みなんだよ。

 

 この話は俺の方に決定権はない。

 だが、話を白紙にできるのは五条悟だけ。つまりコイツが俺の事を振れば良い訳なんだけど。

 

 

 忘れてはならない。

 俺の全てのモチベはコイツに俺の事を『可愛い』と認めさせることだ。婚約破棄をこっちから願うなんて、そんなのもう可愛くないって認めてるようなもんじゃねぇか。

 

 

 頭の中の直哉も「詰みや死ぬで君」って言ってきてる。お前黙ってろ。

 

 

「……まぁ、方法がない訳でもないんだけどな」

「なんの方法だよ」

「お前が望む方向で、婚約をなかったことにする方法」

「は!?」

 

 マジかよ、さすが五条悟。

 このデッドロックを解消する手段を思いつくなんて、やはりその明晰な頭脳と常人に並ぶことの無い発想力は感嘆する他ない。

 

「信じていいんだよな? すげぇ不安だけど信じていいんだよな?」

「もちもち。俺を信じろって。俺、最強だから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次期五条家当主にして、現代最強の術師、五条悟のその一言は、呪術界を震撼させた。

 

 

「えー。よくよく考えたら俺よりザコな奴と生涯を共にするとか気持ちわりぃし、俺に勝てた奴に次期五条家当主の座を渡したいと思います。男ならそいつに譲るし、女なら俺がそいつと結婚するとか? まぁそういうこと。あ、期限は許嫁いるんで俺の18の誕生日までね」

 

 

 

 

「五条ォォォォォォォォォォォォォォ!!!」

 

 

 何が解決するだよ、アイツ完全に俺で遊んでやがるだろ。

 

 何せアイツが出したこの条件、俺の目的であるという『五条悟に勝ってアイツに可愛いと認めさせる』を達成すると、何と自動的に俺と五条悟が結ばれることになる。

 そして達成出来なければ、やっぱり普通に俺と五条悟が結ばれる。

 

 解決どころかデッドロック状態が解決策ゼロに進化してるんだよ。

 

「よォ恋鈴! すげぇよな、あの発表の後もう6人も来たぜ? 男が4人、女が2人。まぁ全員ザコだったけど」

「どの面! ヴー! ヴー!」

「ハハッ、ウケる」

 

 やっぱこいつ俺で遊んでるだけじゃねぇか! 

 少しでも期待した俺が馬鹿だった。この性能100点人格0点ユニットのことなんて信頼するべきじゃなかったんだ。

 

「まぁまぁ落ち着けって。俺はちゃんと解決策を出してやったぜ」

「何がだよ。ここで俺に腹を切れとかか? 誇りを抱いて死ねと?」

「バーカ。例として結婚とか挙げたけど、俺がこの宣言で作った『縛り』の本質は、当主権限の譲渡だ」

 

 五条悟に勝ったものは、次期五条家の当主となる権利が渡される。

 

 御三家である五条家の当主になれば、様々な権利と呪具や大金が手に入る。呪術界に生きるものにとって、喉から手が出るほどに欲しい権利だ。

 しかし権利には義務も付きまとう。御三家当主には、御三家の血と術式を絶やさないためにも必ず子を残さなければならない。それは様々な権利の代わりに与えられる『縛り』だ。

 

 男だった場合は五条の血を絶やさない為にも、分家筋の女……例えば俺とかもっと近い筋の女が妻として充てられるだろうし、女なら五条悟を夫にでもすることになるだろう。

 

「だが、お前は遠縁でも五条に連なる家系だ。当主になる権利はお前単体にも存在する。そして、当主になれば五条とその分家で一番偉いのはお前だ」

「それって……」

「五条の人間の俺に命令すんのも、婚姻関係をぶち壊すのも、お前の自由。お前のやることは変わらねぇし、スッキリさせてやっただけだ。()()()()()()()

 

 

 それはあくまで、俺にとって誇りの問題だった。

 五条悟がどう思っていようが関係ない。俺はただ、彼が俺に対してブスと言ったことを訂正させ、俺の可愛さを認めさせたいだけだった。

 

 だが、五条悟はそこにさらに強い理由をつけて来た。

 もはや俺の人生を俺が生きる為には、絶対にこいつに勝たなければならない。

 

「だから、逃げるなよ恋鈴。俺はずっと待っててやるから、絶対に俺に追いついてみせろ。それがお前がお前として生きる為の唯一の道なんだからよ」

 

 

 心を読むのは俺の専売特許だと言うのに、コイツの瞳は鏡のように俺の全てを映してしまっている。

 

 退くも無限、進むも無限。

 俺は既にこの男に囚われている。だが悪い気はしない。この男もまた、既に俺から逃げられない。玉座の王はそこに座すだけではなく、今は誰の挑戦も受ける防衛者なのだから。

 

「要はお前に教えてやればいいんだろ? この世界で誰が一番可愛いのかを」

「あぁ。教えてくれよ。俺に、お前っていう生き物の全てをさ」

 

 無限を持つこの男の心の声は、今の俺には読み取ることが出来ない。そもそもこの男は、自分以外の生き物に敵意を向けることなんてあるのだろうか。

 

 それでも、目の前の少年の考えていることくらいわかる。

 

 新品のゲーム機を買って貰ったように。

 ショーケースの向こうのトランペットを眺めるように。

 

 

「お前は俺だけを見続けろ。そうすりゃ万に一つくらい、俺を倒せるかもしれないぜ?」

 

 

 蒼の瞳を輝かせて、少年はまた一つ堕ちてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ……これは金になりそうな話だねぇ」

 

 五条悟のその声明は、瞬く間に呪術師全体に轟いた。

 

「禪院では評価されなかった、この私の実力が評価される時が───」

 

 呪術の歴史と共に在った御三家の歴史。それが今、根底から破壊されようとしている。

 

「ええやんこれ。理由付けが楽でええわ」

 

 どのような意図があろうとも、五条悟は一人の少女に()()を教えられた。

 

「五条家の財産ねぇ……。どう考えてもしがらみとかの損のがデカい。競馬の方がまだ実入りがある話だ」

「お前が競馬で実入りを手にしたことがあったか?」

 

 追われるモノの楽しみ。

 自らの背に迫る足音を楽しむ強者の余裕。

 

 一体その中の何人が、本気でその背を追い続けられるか。

 果たしてきっかけとなった少女は最後までそこに残り続けるのか。

 

 

 なんにせよこの日、全ての均衡が崩れさる。

 呪術界に轟く均衡の破壊。それに伴い一部の術師達は仕事を放り、彼を倒さんと画策する。

 

 

 破られた均衡、暴走する呪い。

 その渦に、一人の少年もまた巻き込まれる。

 

 

「夏油くん、そっちは危ないから入っちゃダメって先生が……」

「おいやめろって、アイツなんか不気味だし、いっつも何も無いところ眺めてたり、夜出歩いてるとか……」

「しかもあいつの周りって良くないことばっか起きるらしいぜ。ほら、行方不明になっててつい最近見つかったけど今は入院してる4組のやつ、見つけたのもアイツだとか……」

 

 クラスメイト達がそんな噂話をしながら自分から距離を取っていくのを聞いて、少年は安心しながらも少し寂しそうに裏路地へと足を進めていく。

 

「なんだか最近、妙にコイツらの数が多いが……一体どう言うことなんだろうか」

 

 壁に張り付いているトカゲのような呪霊に向けて、少年は手を翳す。

 階級にして、二階級以上の実力差。まだ10歳にもならないその少年は、巨大な呪霊を調伏し、拳大の球に変えて、それを丸呑みする。

 

 

 たった一人で呪いに抗い続ける少年が、たった一人の親友に出会うのも、まだ先の話。

 

 

 

 

 

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