カイリューといっしょ! 作:カイリューはいいぞ
あの赤髪さんとの邂逅からはや数日、白ひげ海賊団での生活ももう慣れ始めたと思った頃。私は唐突に船長室に呼び出された。今日は珍しく誰にも空輸されることなくたどり着いた私が四苦八苦してドアをガチャガチャやって何とか開こうと頑張っていると、内側からエリーさんがドアを開けてくれて白ひげさんの所まで開けてくれた。
「来たか、ユウリ」
「はい、呼ばれたので」
「赤髪が来た件は覚えてるな?」
船長室に入った途端にじろりとこちらを見た白ひげさんに単刀直入にそう聞かれる。忘れようと思っても忘れられない、あんなキッツい体験したうえでビブルカードまで貰ったとあれば印象はばっちりだ。彼が海軍を蹴散らしてまで白ひげさんに接触して何を交渉してたのかは分からないのだけれど、それが何なんだろうか。
「忘れてねえようで何よりだ。その件について俺らはやることができた。それにはてめぇを連れていけねえ。あくまでお前は客人だ」
「分かってます。お世話になりっぱなしで申し訳ないくらいで……」
「グラララララ……分かってるならいい。巣立て、この鯨の上から」
とうとう来たか、という感じだ。なんだか最近白ひげ海賊団の面々が若干ピリピリしてるように思えて、私は聞いても結局そのわけを知ることは出来なかった。なぜなら私が部外者だから、この世界で生きるための力と知恵を与えてもらうだけの立場だったからだ。旅をしていれば出会いもあれば、別れもある。白ひげ海賊団の皆と出会って、別れる時が来たんだろう。
「ちょうどよく、モビー・ディック号は昼頃に赤い土の大陸に近づく予定だ。いったんお前は新世界から出ろ。お前の探すものが新世界にあるかは分からんが偉大なる航路の前半にないとも限らねえ。一度行ってみるといい。お前のダチに乗ってな」
「偉大なる航路の前半……分かりました。一回行ってみます。お世話になりました、白ひげさん」
「フン、気にするな。負担でも何でもねえ……まァ、いい暇潰しになったな。それと、こいつをもってけ。赤髪が渡したのにおれが渡さねえのはシャクだ」
「え、その……いいんですか?」
渡されたのはビブルカード、それと砂時計のような形をした記録指針だった。確か名前が永久指針。一つの島を指し続ける特別な記録指針。入っている名前は……ウォーターセブン?あ、マルコさんの授業で聞いたことがある!船大工が沢山いる街で、造船技術がとっても高いのだとか。
「ユウリ、てめえは白ひげ海賊団にとっては部外者だ、だがな……俺にとってはお前も大事な娘よ。巣立てと言ったが、帰ってくるなとは言ってねえ。また旅先で交われば、乗せてやるよ、鯨の背に」
「うっ……ありがとう、ございます……!」
白ひげさんの言葉に、私は思わず涙声になってお礼を言った。なんて大きい人なんだろう、なんて優しい人なんだろう。別の世界から来たとのたまう訳の分からない子供を相手にしてこんなに親身になってくれる人なんて世界中を探してもそうはいない。態度は厳しいけれども、時折見せる今みたいな優しさが、きっとこの海賊団がみんな白ひげさんをオヤジと慕う理由なのだろう。
今になって泣きやがって、と豪快に笑う白ひげさんは、私を摘まむように抱き上げて、そのまま包み込むように抱きしめてくれた。私はその胸の中で、いよいよもって制御できなくなった涙を決壊させてしまうのだった。
「えーと、荷物よし、モンスターボールよし、ライドギアよし。カイリューの体調は……」
「りゅっ!!」
「よし!それでは皆さん!お世話になりましたっ!」
まるで断崖絶壁かのようなそびえたつ高い大陸の傍にやってきたモビー・ディック号の甲板にてお世話になった皆さんとの挨拶を済ませた私は元気いっぱいアピールをするカイリューに飛行用のライドギアを付けて彼女の背に乗る。そして自分のお腹のベルトに命綱を繋ぎ、改めて白ひげ海賊団の皆に振り返って深く頭を下げた。
「ユウリー!元気でやれよー!」
「変なもん食うなよ~!いっぱい食ってでかくなったらまた会おうぜ~~!」
「変な男に引っかからないようにね~!」
「グラララララ……行ってこい」
白ひげ海賊団勢ぞろいで見送ってくれることにありがたさと温かさを感じつつ、私はカイリューに合図を出して空を飛ぶ。あっという間に上空へ飛び出すカイリューに追随する影があった。蒼い炎に包まれた翼……マルコさんだ!地球を一周するのに16時間もかからないというカイリューの飛行能力に当たり前のように追随してくる。改めて尊敬の念に堪えない人だ。
「ユウリ、最後まで見送ってやるよい。ここまであがりゃ下の貴族共には見えねえ。行くならシャボンディ諸島にだけは気をつけろ。お前もお前の友達も、珍しいことには変わりねえ。警戒を怠らないようするよい」
「シャボンディ諸島……分かりました!色々教えてくれてありがとうございました、行ってきます!」
「ああ、行ってこい。腹出して寝て風邪ひくんじゃないよい」
雲の上の高度で、言葉を交わした私たちは反対の方向に進む。既に航海を再開したであろうモビー・ディック号に戻るマルコさんと、赤い土の大陸を渡る私。振り返らないマルコさんに対し、私はマルコさんに向かって見えなくなるまで手を振り続けるのだった。とりあえずは、永久指針に従ってウォーターセブンを目指すことにしよう!
眼下に見える煌びやかな街が広がる赤い土の大陸をまたいで偉大なる航路の前半にやってきた私とカイリューは、酸素が薄い上空だと貧弱な私がきついので高度を落として海の上を行く。シケったりしたらその部分だけ上空でやり過ごすことにしよう。音より速いであろうカイリューの速度は一瞬で赤い土の大陸が見えなくなるほど進む。結構掴まってるだけで辛い、ちょっとスピード落としてもらおう……あれ?
「こんなに霧、濃かったっけ?」
「りゅ?」
「うーん、視界が悪いね。カイリュー、きりばらいできる?」
「りゅりゅっ!」
いつの間にか視界が霧で全く見えなくなってしまった。昼過ぎだからまだ太陽がさんさんと輝いていてもおかしくないのだけれど……とりあえず指示したきりばらい、カイリューがその場でホバリングしたまま翼を大きく動かして強風を発生させる……のだけどだめだ。ちょっと晴れてもすぐに霧が戻ってきてしまう。視界が悪いし何かにぶつかってもいけない、ゆっくりとまっすぐ進んでいくことにしよう。
あ、思いだした。これ魔の三角地帯というやつじゃない?海賊船とか商船問わず多数の船が行方不明になってる不思議な海域。私は船で移動してるわけじゃないけどなんだ気味が悪いかもしれない。こんなんでも女の子なので、シャンデラがいればゴースト系はへっちゃらなんだけど。カイリューにも霧は見通せないみたいなので本当にゆっくりゆっくり進んでいると、面白いものを見つけた。
ボロボロの船体、今にも折れそうなマスト、ズタズタの帆……穴だらけになったおそらく海賊船……いわゆるゴーストシップというやつだ。こういうのにはお宝がお約束というものなので、一旦降りて中を探索してみようかな。ほら、ホウエンにあった捨てられ船みたいな感じで。旅なら冒険をしないでどうする、当てはないんだし、寄り道もいいんじゃないかな。ああ、目的地が遠のいていく……けどそれがいい!それが旅!それが冒険!
「カイリュー、ゆっくり降りて……ゆっくりね」
「りゅ~~……りゅっ!?」
カイリューに指示を出してゴーストシップに降りてもらう、着地した瞬間カイリューの足が甲板を踏み抜き体勢が崩れる、やっぱり!木が腐食していてカイリューの体重に耐えられないんだ!咄嗟に転んでしまう前にカイリューをボールに戻して、私は着地する。ありがとうイゾウさん、受け身の取り方教えてくれて!カイリュー、ゆっくり休んでいてね。
ギシ、と抜けそうな甲板の上に立った私はあたりを見渡す。相変わらず霧が深くて1m先の視界も確保できない。しょうがないかぁ……とりあえず危険はなさそうだしこのまま私だけで探索しちゃおう。見聞色にも、特に敵意のある存在は引っかからないし。何もないんだろうね。ああ、そのまえに。
私は両足で跪いて、胸の前で手を組む。とりあえず、死者の魂が眠る場所に足を踏み入れることになるのだから祈りの一つでも済ませておかないといけないだろう。ここに眠る魂たちがどうか安らかに天国へ旅立つことができますように……。ポケモンタワー、おくりびやまにロストタワーでも同じことをした気がする。きっと「ユウリ」も同じように祈ったのかな?
こつん、ギシ……と音がして今までなかった気配が顔を出す。私は急いでその方向に顔を向けて、心臓が止まるほど驚いた。だって……骸骨が動いている。それも、ボロボロのスーツを着て、アフロを生やして。余りにびっくりしすぎて一周回って冷静になった私はポケモンを出すことも忘れて
「が、骸骨?しゃれこうべ?ゴーストタイプかな?」
「ぎゃ、ぎゃあああああっ!?ひとおおおおおお!?」
最近の骸骨は喋って叫ぶのか、と私はこの世界の常識をまた一つ学んで、人です。と骸骨に向かってそういうのだった。
「ヨホホホホ!いやーお恥ずかしい所をお見せしました。まさかこんなところでお嬢さんにお目にかかるとは思っていなかったもので!ああ、申し遅れました!私、死んで骨だけブルックです!」
「ユウリです。ブルックさんって言うんですね。一応聞きますけど人間ですか?」
「ええ!人間ですとも!おかしいですね、まともに人に会うのなんて何十年ぶりですが、骸骨に会っても驚かないほど外の世界は進歩してるんですか?」
「いや、何というか……驚きすぎて逆に冷静になりました。悪魔の実ってことでいいんですよね?」
そこまで知っているのですか、とブルックさんはふっさふさのアフロを揺らして首肯する。いや、白ひげ海賊団でさんざん偉大なる航路では常識にとらわれるなっていう話をされたし、骸骨が動くくらいはあるでしょう。不死鳥な人間とか体がダイヤモンドになる人間とかもいるのだから、死んでも生き返る人間がいても不思議じゃない。凄いな悪魔の実。
「何か飲まれます?折角会えたので少しだけお話ししませんか?どうやら宝が乗ったゴーストシップというわけではなさそうですし」
「おや、その年でトレジャーハンターか何かを?ええ、このブルック!人に会うのを文字通り首が長くなるまでお待ちしていたのです!首、骨だけなんですが!」
スカルジョーク!というブルックさん……なんだか物凄く嬉しそう。もしかしてホントに人に会うの久しぶりだったのかな?ヨホホホホ!と特徴的な笑い声をあげるブルックさんにとりあえず何か飲み物を……骸骨だしカルシウム補給的な意味で牛乳がよろしいのかな?モーモーミルクあるし……あ、これでよろしいです?はい、どうぞ。とモーモーミルクを手渡しする。いやー見れば見るほど骸骨。ゴーストタイプで慣れてなかったら悲鳴を上げたかも。
「しかしユウリさん、どうやってこの船に?見たところ船があるわけではなさそうだ。ここは魔の三角地帯、早く抜けることをお勧めしますよ」
「企業秘密、です。折角旅をしているので、面白いところがあったら寄りたくなっちゃって……面白い人とも出会えましたし、結果的に良かったと思います」
「それはそれは……そう思っていただけるなんて骸骨冥利に尽きますねえ!では、出会いを祝して一曲!貴方にとっては古い選曲かもしれませんが、どうかご清聴のほどを!」
ぐびぐびぐび、とモーモーミルクを一気飲みしたブルックさんが、どこからか年季の入ったバイオリンを取り出した。手入れは欠かさなかったらしく、古びているけど一級品の輝きを放っている。見事なほどの演奏が始まった。あ……この曲聞いたことがある、確かこれ……「ビンクスの酒」!白ひげ海賊団の調子っぱずれな歌のレパートリーの中に入ってた!
ヨホホホ~と高らかに歌い上げるブルックさんは、表情は分かりにくいものの本当に楽しそうで……人に会えたのが本当にうれしかったのだろう。こんな子供相手でも、話せるだけでうれしいと思えるほどの年月一人でいたのだろうか……そもそも、なんで死んでしまったんだ?いや、死んでるんだよね?死んで骨だけって自己紹介してるから、一回死んで生き返ったみたいな扱いでいいんだよね?物食べれるし、生きてるんだよね?
へー、ビンクスの酒ってちゃんと歌うとこんな曲なんだ~。というかブルックさんすっごい演奏が上手!まさかゴーストシップでバイオリンの演奏を聴くだなんて思わなかったな~。そんなことを考えてると、船の下から物凄く大きな声が聞こえた。
「ゴーストシップ~~~~!!!!」
複数人の声が折り重なったソレ、ブルックさんはバイオリンを仕舞うと、船の縁にもたれかかって下を覗き込む。私は背が足りないので、何があったか聞くことにしよう。もしかして、ブルックさん以外の骸骨に会えるのかもしれないし。
原作合流!しばらくはスリラーバークでわちゃります。やっぱカイリューいると移動で便利やねんな……ではまた次回に
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