カイリューといっしょ! 作:カイリューはいいぞ
やられた、と私は刹那の思考の中で他人事のように事実を客観的に見ながら舌を巻いた。まず一つ、あれだけ機械にダメージを与えてやったのに、くま本人はぴんぴんしていて当たり前のような顔で私の前に現れたこと。そして一つ、私はくまの能力を受けてシャボンディ諸島からはじき出されたこと。意識が集中してスローモーションになった視界の中ですら、あのシャボン玉を出す巨大な木の諸島がすさまじい速度で離れていく。
「りゅうううっ!!!」
「っ!か、カイリュー!」
くまの能力はその肉球であらゆるものを弾き飛ばすこと。電気、空気ですらも弾き飛ばすことができる。その能力で弾き飛ばされた私は、いずこかへ飛ばされるのだろう。彼のその能力の範囲は分からないけど、海の上かもしれないし、もう二度とシャボンディ諸島にいけないほど遠くかもしれない。3日後にたどり着けるかどうかも。
シャボンディ諸島が見えなくなったあたりで、私の耳を打つ鳴き声が響いた。カイリューだ、私が飛ばされた瞬間に、くまのどてっぱらに一撃入れたのを見たけどそれでくまから距離を離して一気に私を追いかけてきたんだ。音を置き去りにして必死にはばたくカイリューの瞳には涙が浮かんでいた。それを見た私は何とか体勢を入れ替えて腰からボールを手に取り彼女に向かってもう片手を伸ばす。
「ごめんね、カイリュー……!一緒だから」
「……りゅっ!」
私に追いついたカイリューの片手と私の手が繋がる。その瞬間、私はボールの光線を彼女に当てて中に戻した。これで、とりあえずは大丈夫。それが終わってから私は空中でゾっとした。これが、カイリューじゃなかったら……私は大切な手持ちのポケモンをシャボンディ諸島に置き去りにしてしまったかもしれないのだ。たとえそれが、私のせいじゃなくても……手持ちの面倒を見るのはトレーナー以前の義務だ。改めて、カイリューが追い付いてきてくれて、良かった。
「どこへ飛ばされるんだろう……?」
方向も、何もかもが分からない。唯一頼りになりそうなものは、初めて訪れた街でおばあさんにもらった記録指針と、白ひげさんにもらったウォーターセブンの永久指針くらいだけれど、どちらもバッグの中だし、この状態でバッグの中を漁って何かを探す勇気は私にはない。どっちもとても大切なものなのだ、落としたりしたら舌を噛んでしまいたくなる。
張りつめていた心がぷつん、と切れる音が聞こえた。根性でカイリューのボールを腰に戻したので私は限界を迎えて、そのまま意識を宵闇に落としてしまうのだった。
「へうっ!?」
ぼむんっ!!と音を立てて私は地面に叩き付けられる……わけではなく、一回優しくバウンドしてから肉球のマークに凹んだ地面に優しくお尻から着地した。ガサゴソと図鑑を取り出して時間を確認してみると空を飛び続けて大体2日くらい。完全に寝てしまっていたので今ここがどこなのかすらわかんないのだけれども。暢気?違うんです……!疲れてたんです……。
空を飛んでる時は何故かお腹は空かないしトイレにも行きたくならなかったんだけど、ただただ暇だった。落下するときは分かると思ってたんだけど全然分からなかったや、となぜかアフターサービスはばっちりなバーソロミュー・くまのことを思い出した私は一瞬でふくれっ面になって地面にある肉球マークを地団駄で踏みしめる。わるあがきだよ、もう!
むっすー、と不機嫌そのままの私はとりあえず落ちてきた場所が何なのかを確認することにした。えーと、木!ヤシの木!アローラナッシー!はいないんだけどとりあえずアローラナッシーを彷彿とさせる長~~~いヤシの木が鬱蒼と生い茂っている森のようだ。人の気配は、ないかなあ。ふぅむ、とりあえずは歩いてみよう、まっすぐ。
困ったなあ、こんなことになるならシャボンディ諸島の永久指針を何とかして買って……!おお!あるじゃん行く手段!むっふー!もらってて良かったビブルカード!さてそれではカイリューを呼び出して出発……しようと思った私にブレーキがかかる。初速だけとはいえカイリューが全速力で飛んでやっと追いついた速度を徐々に落としつつ二日間以上移動したわけなんだけど、途中で島……あったっけ?んん?なかった……ような……
「無理じゃん!」
カイリューは16時間で地球を一周する、と言われてるんだけどぶっ続けで16時間飛べるわけないのだ。そのくらいの速度は出ますよーという比喩なだけだし。何だったら地方と地方を移動するのでギリギリだ。しかもお荷物である私を気にしながら飛び続けるのはきつい、なので途中休憩が欲しいんだけど、島を見てないのだ、飛んでる時間ずっと。寝てる時間は分からないけど……それだけを信じて空の旅に行くのは少し難しいものがある。やっぱりここは人里を探して海図での位置を確認してからするべきだろう。
とりあえず、方角だけは分かるのでビブルカードがずりずりと移動する方角に従って森の中を歩いていく。皆は大丈夫かなあ……みんな、逃げられてるといいなあ。私が最後に見たみんなは散り散りに逃げるところだったので、その後どうなったかが分からないんだよね……くまが来たってことは……もしかしたらみんなも同じように飛ばされてたりして……うげ、いやな想像しちゃった。とりあえずシャボンディ諸島に帰ることを先決にしないと。
「ん?……潮の匂い!」
すんすん、と鼻で空気を取り込んでみるとモビー・ディック号やサニー号の甲板の上で慣れ親しんだ海の匂いが鼻をくすぐった。少し速足になって森を抜けるとそこにはやはり砂浜が広がっていて、そこかしこにヤシの実が落ちていた。人里の気配は……ないなあ。とりあえず島か大陸か分からないけど砂浜に沿って移動しよう。とりあえず外周に沿って行けば人里があった場合港にたどり着くことができるはず。
とりあえずの方針が決まったのでさくさくと浜辺を歩いていく。結構広い島なのかな、1時間歩いても進んでいるような感覚がない。周りに何もないし、景色が同じだから進んでるようには見えないんだよねえ。せめてここがどこだかわかればなあ。シャボンディ諸島に近い……わけないか、二日も移動してるし。
「……!人の声!」
そこからまたしばらく歩いていくと、森の中の方から陽気な人の声がいくつも重なって聞こえてきた。人がいる証拠だ。私は砂浜をその声がする方向に慎重に沿って歩いていく。するととても見覚えのある船が停泊していた。見張りの人とかがいないあたり、もしかしてここって無人島だったりするのかな、いや……しかし……。
「レッド・フォース号……ここ、新世界なのかぁ~~~」
そう、停泊していた船はあの四皇赤髪の船、ドラゴンの船首が特徴的なレッド・フォース号だったのだ。この船がこの場所にあるっていうことは、私が飛ばされたのは新世界のどこかの島だったのだろう。折角白ひげさんが気を利かしてくれて赤い土の大陸から前半に私を送り出してくれたっていうのにくまったらその気遣いを無駄にしてくれちゃってもう。は~~~~……。
正直、手詰まりだけど赤髪さんに助けを求めるのはなんか違う気がする。私、なんだかんだ言って麦わらの一味に入って海賊始めたわけなんだけど、赤髪さんがビブルカードをくれたのって多分私が無所属で白ひげさんの船からそのうち降りるっていう前提があったからなんだよね多分。どこかに所属してしまったら完全に敵同士になっちゃうから、ここどこですか~~!?と聞きに行くのも憚られる。あの覇王色をもう一回食らうのはイヤだし、スルーして探索することにしよう。
「おい、チビ。お前何でこんなところにいる?」
「ひょえっ!?」
誰かの見聞色に引っかかる前に通り過ぎよう、と思っていたら一瞬でバレて声をかけられてしまった。変な声を出してしまった私が口を抑えて恐る恐る振り向くと、サーベルを腰に差した赤い髪のツンツン頭の海賊が怪訝そうな顔で私のことを見下ろしていた。うーん、ばれるの速すぎ……。
「さっき、能力者の攻撃で空を飛んでここに来たんです。別に危害を加える気はないので、見逃してもらえませんか?」
「かまわんが……ここ、無人島だぞ」
「おのれバーソロミュー・くま……!」
「七武海にやられたのか?悲惨だな」
ロックスターだ、と名乗った男の人は意外そうに片方の眉をあげると私の恨み言を聞き流してどうするつもりだ、と聞いてくる。シャボンディ諸島から飛ばされて、ここ多分新世界なんだよねえ。とりあえず前半の方に戻りたいんですけど逆走する方法ってないんですかね、と言ってみると永久指針は?と聞かれてあるのはウォーターセブンなんですよぉ……と実りの無い会話が繰り広げられる。
「というわけで手詰まりなんです」
「なるほどなぁ……チビ、お前も大変なんだな」
「全くです。何が悲しくて大将の黄猿相手に斬った張ったしないといけないんですか。4回くらい死ぬかと思いましたよ」
「ふつうその年だと即死してんぞ」
「そりゃそうですが」
実は俺もこの前似たようなことがあってだなーとなぜか愚痴の言い合いになったロックスターさんと私、この世界に来てまだ少しだけど、それだけで一地方分くらいは冒険した気がしないでもない、密度的に。いつの間にか近くにあった木箱に腰掛けながらあーでもないこーでもないとロックスターさんと雑談&相談を繰り広げてしまっていた。ロックスターさんってあれだね、話しやすい人だね、うん。
「おいロックスター、何やって……ん?」
「あ、すいませんヤソップさん。話しこんじまって……」
「いや、それはいいんだが……そのちっこいのはなんだ?」
「話を聞くにシャボンディ諸島から七武海のくまの能力で弾き飛ばされたらしくて……帰りてぇって話をしてたんす」
「あ、すいませんお邪魔しちゃって。ヤソップ……ん?もしかしてウソップさんのお父さんですか?」
「ウソップを知ってるのか!?」
ロックスターさんの後ろから現れたのはドレッドへアーと大きな銃が特徴的な人だった。ヤソップという名前に聞き覚えがあったんだけど、ウソップさんが話してくれた尊敬する勇敢な海の戦士のお父さんの名前と同じだし、特徴も一致するのでウソップさんの名前をだしてみると滅茶苦茶食いついてきた。そっかー、赤髪海賊団に所属してるってルフィさんに聞いてはいたけどやっぱりこの人がそうだったんだね。
「えっと、ちょっと前に麦わらの一味に入らせてもらって、そこでウソップさんとは仲良くさせてもらってるんです」
「麦わらの一味……ってことはルフィのところか!へぇ!ウソップとルフィが世話になってんなら話が変わらぁな。ついてこい、話通してやるよ」
「ヤソップさん、知り合いなんすか?」
「息子がいる海賊団のメンバーだ、船長は大頭と知り合いってわけでな。ま、悪いようにはしねえよ……って海賊に言われても信用できねえよな!」
よ、予想外の展開だ……。付いてくるように言われてしまったけれども、まさかまたあの赤髪さんに出会うことになろうとは思わなかった。まさかとは思うけど赤髪さんがこの島にいるのを知っていてくまはここに私を飛ばしたのだろうか?いや、考えすぎだ。無人島に飛ばしたのはいいが、くまにとっては運悪く赤髪さんたちがいたと考えるべきだろう。
ヤソップさんの先導で森の中に分け入っていく。しきりにウソップさんのことを聞いてくるので答えられる範囲のことは答えることにした。どうも、ヤソップさんとウソップさんは長い間会ってないみたいだから近況を聞けるのは嬉しいのだろう。そうして少し歩いていくと、開けた場所で赤髪海賊団のメンバーらしい人たちが大所帯で食事をとっているのが見えた。そしてそれ以上に私にとって衝撃的な絵面も目に飛び込んでくる。
「おーよしよし、肉より果物がいいなんて変わった犬だなあお前は」
「シャンクス、その締まりのねぇ顔やめろ。新入りに示しがつかん」
「ベック、かてぇこというな。見ろ、可愛いじゃねえか」
「ぶいっ!ぶい~~!」
ぶっ!と私は吹き出しかけた口を必死で抑える。あれだけ恐ろしい覇王色をまき散らしていた赤髪さんが、おもいっきり見覚えのある生き物に相好を崩していたからだ。そしてその見覚えのある生き物と言えば、切ったパイナップルを嬉しそうに赤髪さんの手から貰うポケモンのことだ。
茶色の毛並み、狐のような尻尾、首周りの白い毛はもふもふとしていて、ウサギのような大きな耳がふりふりと動いている。うん、見覚えありまくり、しんかポケモンのイーブイだ。カントーの時にもらったイーブイ、進化はしないし特別な技は使えるし、ずっと私の肩か頭の上にいる子。覚えてる。
「イーブイ」
「ぶいっ!?ぶい~~~~!!!」
呼びかけるとイーブイは驚いたように耳を動かして私を見ると、凄まじいスピードで私の胸の中に飛び込んできた。ハート形の形をした尻尾の模様が崩れるほど尻尾を振って私に顔を擦り付けるイーブイを撫でながら、私は赤髪さんにお久しぶりです?と頭を下げるのだった。
飛ばされた先は無人島、くまさんの想定外だったのはそこに何故か四皇がいたことですね。そして新手持ち合流、相棒個体イーブイ♀です。かわいい。波乗り勢が増えたぜ。
さて次回以降は赤髪海賊団といっしょ!をお送りしたいと思います。ではまた。