カイリューといっしょ!   作:カイリューはいいぞ

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この世界と私とドラゴン

 「ユウリちゃーん!エール追加!」

 

 「はーい!」

 

 「ユウリちゃんこっちも!」

 

 「わっかりましたー!」

 

 真昼間の酒場の中で威勢のいい注文の声が聞こえてくる。酒場のウェイトレスの服、だいぶ大きいからぶかぶかで何とか着ているレベルだけど……それに身を包んだ私は注文をメモ用紙にとって酒場のマスターに渡し、大きな樽のジョッキに注がれたエールを受け取る。その大本のエールの樽にはミロカロスが巻き付いていて、いい感じに氷技を使いながらエールを冷やしていた。厨房ではシャンデラが火を操って料理の手伝いをしている。

 

 え?今私が何をしているのかって?アルバイト、というか住み込みで働いている感じです。大ジョッキを何とかふらふらしながら運んでテーブルの上に置くと、気のいいおじちゃんたちは私の頭を撫でてからお駄賃だと言ってウェイトレスの服のポケットに小銭やお札を捻じ込んでくる。なんで私が今酒場で看板娘と化しているかについては1週間ほど前にさかのぼる。

 

 あの日、海賊の襲撃をポケモンたちの力を借りて鎮圧した私は、歓声の中出迎えられた。正直なところ、怖がられて排斥させるかと思ったのだけれども、そんなことはなかった。町の人たちはしきりに私にお礼を言ってくれて、私どころかカイリューを始めとしたポケモンたちにも好意的だった。怖くないのか、と聞いたらこの世界の常識にちょっと頭がくらくらする答えが返ってきたけど。

 

 まずこの世界は大海賊時代といわれる海賊マンセーの時代で、海賊王と呼ばれたゴールド・ロジャーという人が処刑される間際に放ったひと繋ぎの大秘宝、ワンピースと呼ばれるそれを求めて海賊たちが海を跋扈しているのだそうだ。治安維持組織は海軍と呼ばれる組織なんだけど、この街では滅茶苦茶嫌われてた。物凄く悪口を聞かされたので第一印象はすごく良くない。汚職のオンパレードじゃないかってかんじ。

 

 なんで、皆があれだけ大立ち回りを繰り広げたポケモンを怖がらなかったのかというと、この世界にはポケモンに匹敵する不思議なものが山ほどあるらしい。食べれば泳げなくなる代わりに特殊な力を得る悪魔の実、何十メートルもある身長を持つ巨人族、海賊の中にもいた魚人に人魚、空島、古代兵器……聞けば聞くほど目が回った。

 

 しかもこの島を縄張りにしてる白ひげさんに至っては地震を起こして島一つ沈めたりできるらしい。ポケモンみたいな人だな、どんな人なんだろう。とにかく器が大きくて、物理的にも大きい人っていうことばっかり聞かされる。あと白ひげの名の通りお髭が特徴的なのだそうだ。

 

 結局きんのたまを売る計画は町が復興しきるまでとん挫することになった。質屋のお金が街の復興で使われることになったから私の買取が出来なくなっちゃったんだって。だから、質屋のおばあさんの紹介でこの酒場にお世話になっているの。

 

 バッグの中確認したけどいくつか空のモンスターボールが出てきたことくらいしか特筆すべきことはないかな。使った形跡があるから、多分中にはポケモンがいたんだと思うんだけど。

 

 「ユウリちゃん、カレー頼んでいいかい!」

 

 「こっちも!」

 

 「俺たちも!」

 

 「はーいっ!マスター、カレー作ってきますね!」

 

 「怪我をしないようにね」

 

 手を拭いて私は厨房の中に入る。ふよふよとシャンデラがこっちにやってきてくれたのでかまどの火力調整をお願いして、厨房の片隅にあるバッグからいくつか木の実を取り出して刻み、鍋に入れてカレーを作っていく。賄いごはんを作っていいと言われてポケモンたちと一緒に食べられるよう体の記憶に従って作ったカレーがその匂いにつられたお客さんに受けてしまって、あっという間に私のお任せカレーが期間限定でメニューに食い込んでしまったのだ。おかげで注文のたびにカレーを作らないといけないから大変!

 

 「シャンデラ、これあぶって~」

 

 「シャンシャン」

 

 ぶわっとシャンデラが吐き出した炎が串に刺された太いブルストをあぶって綺麗な焦げ目と絶妙な火入りを見せる。私はポケットからシャンデラが好きな渋い味のポフィンを出して彼の口に入れてあげる。完成したカレーをよそったら厨房の中で荷運びをしていたデンリュウと一緒にそれをそれぞれのお客さんの所に持っていく。

 

 「はい、からくち炙りブルストカレーです!」

 

 「メェ~~~!」

 

 「おしっ!俺の勝ちだ!」

 

 「か~~~!あまくちだと思ったのによ~~!」

 

 「ちょっと!私のカレーで賭け事しないでください!」

 

 「ユウリちゃん、今日これで上がっていいよ。お手伝いありがとう、今日のお給金ね」

 

 「あ、ありがとうございますっ!」

 

 私の今日のカレーがどんなカレーなのかなぜか勤務3日目くらいで賭けが始まっていて、私はそれにぷんすこと怒るのだけど、如何せん見た目がこんなチンチクリンなせいで迫力がないらしく、笑われるのみ。もう、とマスターに言われた通りもうすぐ夕方で、大人の時間だからか勤務終了を言い渡された。素直に返事をして、酒場の裏手で制服から普段着に着替え帽子を被る。そろそろ帰ってくる頃だし、皆を迎えに行かないと。

 

 「ふるるぅ」

 

 「メェ~~~」

 

 「シャ~~ン」

 

 「3人ともお疲れ様!迎えに行ったらご飯食べようね!」

 

 酒場から出てきたミロカロスは私に巻き付いて甘えてきて、デンリュウは強烈なハグをしてくる。シャンデラは私の目の前で炎を揺らして喜んでいる。私は3匹ともを順番に撫でた後、モンスターボールの光線を当ててボールの中に戻した。そろそろ帰ってくるかな~と思っていたところ、ばさっと音がして上空からカイリューが帰ってきた。彼女は2,3回翼をはばたかせて勢いを落とすと、ふわりと私の前に音を立てずに着地した。

 

 「おかえりなさい、カイリュー」

 

 「りゅ~~」

 

 カイリューは遠洋漁業に出ているこの街の漁師の人たちに食料を届けに行くお仕事をお願いしていたところだ。両手を広げてハグの態勢を取る彼女に向けて私は思いっきり抱き着いて親愛を示す。ひとしきりハグしたところで離れ、私は街の中にカイリューと一緒に繰り出していった

 

 結局、私自身のことはよくわからないままだった。荷物の中を漁って取り出したトレーナーIDカードによると、名前はユウリで、年は9歳。少なくともゲームで確認されている地方のバッジを揃え、殿堂入りを果たしていること。明らかに矛盾を感じるのだが、ピカピカに輝くバッジの現物も入っていたので事実なのだろう。

 

 私の考察としては、まず「ユウリ」と「わたし」が存在してポケモン世界にいたユウリとポケモンがゲームだった世界でポケモンを遊んでいたわたしが何らかの原因でこの世界に飛ばされた、までは良かったのだがなぜか私とユウリは合体してこの世界に飛ばされたということ。比率的にはユウリが9、わたしが1というところだと思う。1割私が入ってしまったことで「ユウリ」の記憶は飛び、「わたし」が1割なので私の個人的プロフィールは思い出せないということなのだろう。

 

 実際この考察は間違っているかもしれない。なにせ、ポケモンたちに洗いざらい話しても、私は元からこうだったという返答が返ってきて逆に私が困惑しているからだ。だけど、とりあえずは生きて行かねばならないしとにもかくにもお金が必要だ。

 

 街を救ってくれた褒章を、という町長さんにありがたくそれを頂いた私は、とりあえず働くことにした。この街で情報収集をして世界のことをある程度知ったら旅立って世界を見回るつもりだ。ポケモン世界に帰る手掛かりが見つかればいいし、見つからなくてもこの子たちと一緒にこの世界を生きて行こうと思う。とりあえずは身長を伸ばそう!何せ140㎝はあるかと思ってた身長、133㎝しかないことが判明したからね!毎日1本モーモーミルク!

 

 「あ、ザシアンいたいた!お疲れ様!」

 

 「ルォン」

 

 「メタグロスも!頑張ったね!」

 

 「メッタ!」

 

 こんな街には牢屋なんてないのでポケモンたちが気絶に留めた海賊たちは簡易的な応急処置だけ受けて、街の大工さんが突貫工事で建てた牢屋の中に入れている。街の中の男性たちが持ち回りで警備しているけど戦いが得意な人はこの街にはいないらしく、逃げられたら困る、ということでメタグロスとザシアンが日中見張りの番についていてくれて、夜間は屈強な漁師さんたちが見張る、ということになっている。

 

 あとね、この人たち賞金首なんだって。デッドオアアライブの手配書を酒場のマスターに見せてもらった。総額何と2000万ベリー近く。船長だけで1000万ベリーだった。それで、渋々といった感じで町長さんが今海軍に連絡して引きとりに来てもらってるみたい。もうすぐ来るんだって!海賊の縄張りなのに海軍来るんだ、と思ったら一応この街が所属している国は海軍の傘下なのだそう。ややこしい。お上が守らないところを白ひげさんが守っているっていうことってまた悪口と一緒に教えられた。

 

 海賊の人たちはポケモンたちが相当トラウマになったようで、ザシアンがヴォフッ!とくしゃみするだけで震えあがる始末だ。特に船長の人はザシアンに船を文字通り海の藻屑にされたせいか、彼女がちらっと瞳をやるだけで敷き布の中に隠れて震える始末。港の中にまき散らされた船の残骸はミロカロスのうずしおで一纏めにし、メタグロスとシャンデラのサイコキネシスで持ち上げ、カイリューのぼうふうで邪魔にならないような場所に置いておいた。なので襲撃後1日で港は復旧している。

 

 「おーい!海軍がきたぞ~~!」

 

 「やっとか!おっせえんだよ!」

 

 ぎりぎり、と牢の中から歯ぎしりが聞こえる。港の方に目を向けると、帆に教えてもらった海軍のマークが書かれた巨大な軍船が入港しているところだった。メタグロスは明らかに生物離れしているので見られたらめんどくさそうだ、まだ狼とマジでいるらしいドラゴンに見えるカイリューなら誤魔化せるだろうと考えてボールの中にメタグロスを戻した。万が一逃げられた場合、確実に鎮圧できる2匹には出たままにして、引き渡しを見守ろう。

 

 「ありゃ……Tボーンじゃねえか!」

 

 「知ってる人ですか?」

 

 「あ、ああユウリちゃんか。あの男の名は船斬りTボーン、海軍本部の大佐だ。船を魚みたいに斬り裂いちまう剣客だよ。海軍の中じゃかなりの善人として通ってる。あいつ相手じゃ悪口言う気にもならんな」

 

 「御詳しいんですね」

 

 「何度かきたことがあるんだよ。この街じゃ海軍は総すかんだが、あいつ相手なら住人も軟化するだろう、海軍も考えたもんだ」

 

 海軍の船が気になった私はザシアンとカイリューを引き連れて港まで顔を出した。近くにいた漁師さんに知っている人なのか尋ねると解説してくれる。既に停泊していた船からは正義、と書かれたマントをたなびかせた顔が怖い人が町長さんに向かって敬礼をしていた。後ろにいる白い服にズボンと海軍の制服を着た人たちも一斉に。なんだか聞いてた海軍のイメージと違うなあ。

 

 町長さんが、私に気づいてちょいちょいと手招きをしてくれる。呼ばれたのに無視するわけにはいかないものだから、ちょっと、いやかなり緊張しながら町長さんの傍による。町長さんはどうやら私とポケモンたちがこの街を救ってくれたことをなぜか誇らしげに話してしまう。えちょっと待ってそういうの聞いてないの!

 

 「彼女とそのお友達がいてくれたおかげで奇跡的に死者が出なかったんですよ。ですので、賞金首の賞金は彼女にお願いします」

 

 「なるほど……彼女が……というより後ろの動物たちですか。確かに、強い。申し遅れました、私はTボーン。この度は海軍へのご協力を感謝します」

 

 「えっと、その……私相手に頭なんて下げなくても……」

 

 「何をおっしゃいますか!貴方がいたからこそこの街は無事で済んだ!それならば無辜の市民を守る立場にあるものとして敬意を表すのは当然です!例えどれだけ若くともです」

 

 す、すごい人だな……!大佐、と聞くと軍の中ではかなりの地位のはずだ。その人が、当たり前のように9歳の子供に対して頭を下げる。これがどれだけすごい事か。では、海賊どもを引き受けましょうとTボーン大佐が言うと一糸乱れぬ動きで町長さんの案内に従って海賊たちを収容している牢の方に向かっていった。Tボーン大佐はそれを厳しい目で見つめてから、ふっと目をザシアンに向ける。ザシアンはそれを受け止めてもなお、凪いだ目で穏やかにしていた。

 

 「なるほど、かなりの剣客と見ました。一手仕合いたいものです」

 

 「わかる、んですか?ザシアンが剣を使うって」

 

 「雰囲気ですな、歴戦の強者……そういっても差し支えない雰囲気をしています。そして隣にいる竜もとても強い。心強いお友達がいらっしゃる。これならば確かに並みの海賊では太刀打ちできないでしょう」

 

 「はいっ!」

 

 なんか、強い人同士が分かるアレソレみたいなことになってる!?船を物理的に斬っちゃう人らしいし、ザシアンやカイリューの強さにも分かる部分があるんだろうか?私は縄でムカデのように繋がれた海賊たちが海軍の兵士の人たちに連れられて喚きながら軍船に乗せられるのを見ながら、海軍のイメージを一新するのだった。

 




 時系列的には今ウォーターセブン編開幕前です。なので今回登場したTボーンさんはこの後海軍本部に戻ってからゾロさんに勇爪されます。海軍のキャラでTボーンさんはお気に入りなんですが、なんで原作では……。

 手持ち解説
 メタグロス
 エメラルドより仲間になった。真面目な性格。主に壁役と物理方面で活躍予定。アニポケのメタグロスカッコいいよなあ。という安直な考えの元パーティ入り。色んな意味でカッチカチなポケモン。

 バトルに関してですがアニポケ的戦闘というよりもポケスペ寄りです。当然のようにトレーナーは巻き込まれるしダイレクトアタックを食らうこともあります。

 ではまた次回の更新で。観想と評価を下さるとうれしいです。
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