カイリューといっしょ!   作:カイリューはいいぞ

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白ひげと私とドラゴン 

 「いつ見てもこれは凄いお金だ……!」

 

 「ふるるぅ」

 

 「りゅー?」

 

 酒場の隣の建物、別館の中にある私に貸し与えられている部屋、木でできたベッドの上にて私は正座をしながら、眼前に置いてある札束を見て恐れおののいていた。数えて2340万ベリーである。私のベッドの周りでとぐろを巻いていたミロカロスと、美味しそうに木の実を頬張っていたカイリューが不思議そうに声をあげている。

 

 とりあえず解釈としては1ベリーが1円という感じで良さそうなのだけれども、そう考えるととんでもない金持ちになってしまったものだと思う。とりあえずバッグは盗まれないようにしなきゃ。いそいそとお金をバッグの中に仕舞った私の手が空いたのを見計らったミロカロスは頭を私の膝の上に置いて撫でろ、という感じのアピールをしている。

 

 不思議な感触の鱗に包まれた彼女の顔を撫でつつも、私は海軍の人のことを思い出していた。結局あの後、海賊たちが脱走することもなく海軍の船に収まって、Tボーン大佐直々に懸賞金が私に払われた。ずっしりと重い札束を前にした私はてんぱって酷い醜態をさらした記憶があるけど、Tボーン大佐は気にすることなく困ったことがあれば遠慮なく海軍を頼ってほしいと言い残して颯爽と船を出港させた。

 

 中身は何歳か分からないけど9歳のお子様が一気に2000万ベリーを超えるお金を手に入れたことで周りの目が変わるかと思ったけど、そんなことはなかった。というのもまず物理的に私をどうこうするには同行してるポケモンをどうにかしなきゃいけないわけで、そんなんできるなら私が戦う前に海賊をどうにかできてるし、盗もうとすると周りの目がある。あと白ひげさんはそういう卑怯なことが嫌いらしいの。強さによる平和維持だったんだね。

 

 なので私は今もこの街で、酒場の小さな看板娘をやっています。ああ、そうそう。この世界のことなんだけど、まず東西南北の海があってそれを縦断する形で「赤い土の大陸」と呼ばれる大陸が一周してる。それで、それと垂直に交差するように「偉大なる航路」と呼ばれる船の通り道になる航路があるんだって。で、この島はその偉大なる航路の後半のはじめあたりに位置してて、春島と呼ばれる場所みたい。季節は年中春で、暖かくて過ごしやすいのだとか。ポケモンの世界以上に不思議な世界なのかもしれない。

 

 「ユウリちゃ~ん!お昼の営業始まるからおいで―!」

 

 「はーいっ!よしいこっ!みんな!」

 

 私は腰のボールを確認し、バッグをもって部屋を飛び出していく。その後ろからカイリューがのしのしと、ミロカロスは滑るようについてきて、私は酒場の扉をカイリューに開けてもらってマスターさんに元気良く挨拶をするのだった。

 

 

 

 

 「おーいっ!白ひげの旦那が来たぞーーーーっ!!」

 

 「はっ!?なんだって!?」

 

 「はい?」

 

 「ふる?」

 

 「りゅ?」

 

 どっかん、とすさまじい音を立てて酒場のドアが開く。既にもう夕方に差し掛かっていたお客さんはこれから夜にくるというので、実は今の時間が一番暇なのだ。だから私はミロカロスのとぐろの中でころんころんと寝転がってカイリューに構ってもらっている。ひんやりしてて心地がいい。それがすさまじい音を立てて開いたドアのおかげで私は飛びおきて、2匹と一緒に間抜けな声をあげてドアの方を見る。

 

 するとそこには顔を喜色に染めた常連の男の人が立っていて、そのまま他の所にも知らせてくる!と言って急いでドアの向こうに消えていった。中にいてちびちびと吞んでいたお客さんもマスターにツケてくれと言って残りのお酒を一気飲みして慌てて出て行った。私が目を白黒させているとマスターさんは頭を掻いて

 

 「ユウリちゃん、今日はこれで閉めるから上がってくれていいよ。白ひげの親父さんが来たならしょうがない。気になるなら君も港を見ていくといい」

 

 「???分かりました」

 

 マスターさんは私にそう言い残してお給料は明日ね、という感じで店の奥に引っ込んでいってしまった。とりあえず片付けだけ終わらせてしまおうと私は腕をまくってお皿洗いにお店の掃除、割れたコップの片付けなんかをポケモンと一緒に始めることにした。どうにも身長が足りないのでそこはシャンデラのサイコキネシスで持ち上げてもらったりして何とかする。デンリュウとカイリューはミロカロスと一緒にお店の床のモップ掛けをはじめ、メタグロスとザシアンは出来ることがないのでお留守番。よし頑張るぞ!

 

 「おわった~~!」

 

 マスターさんはどうやらお店のお酒を粗方持ち出して港の方に行ってしまったらしく姿が見えない。なのでお酒関係には触らずにお片付けを済ませた。外はすっかり暗くなっていて、そういえば時間の概念がないなあと思いなおした。暗くなれば夜で、明るければ朝。近代的な価値観ではないけど、これはこれでいい気がする。

 

 全員をボールに戻して今日はこのまま寝ちゃおう、と思った私は酒場のドアを何とか開けて外に出る。外に出ると、港にはものすごく大きな船が止まっていた。何隻も停泊できるはずの大きな港がその船一つだけに占拠されている。船首はまるでホエルオーのような感じ……あれ?クジラっていった方がいいのかな?

 

 「おっき~~!」

 

 暗くてよく見えないけど、マストの先にある海賊旗はこの街に掲げられているものと同じもので、なるほどあれが白ひげさんの船なんだ!凄い海賊らしいけど、船だけでそれが分かるなんてすごいや!港の方にはいくつものかがり火があって、その中では大人たちがお酒を酌み交わしているのが朧げに見える。子供の姿はない、けど興味を惹かれてしまった。

 

 「ちょっとだけ、近くで見て見ようかな?」

 

 白ひげさんのお話はマスターさんや常連のお客さんから耳に胼胝ができる程教えられている。とてもやさしくて心の広い海賊だと。いや海賊が優しいというのはなんか違うんだと思うんだけれども、それなら子供がちょっと盗み見ても流石に殺されたりはしない……しないよね?マスターさんも気になるなら見に来ればいいって言ってたし。

 

 そんな感じで私はちょっと小走りで港を目指す。港の近くに行くにつれどんちゃん騒ぎと調子っぱずれの歌、ワイワイと楽しそうな声が聞こえてきてなんだか私もテンションが上がってきたぞ。そーっと物陰から喧騒を見ると、物凄くおっきいおじいちゃんが樽そのままのビールを開けていたのがまず目に入った。海賊旗と同じ三日月形の白いひげをしているところを見ると、あの人が白ひげさんなのだろうか?

 

 そして、その周りには見たこともない人たちが沢山いた。まず、大きい。みんながみんな身長が高い、その周りで町民の人たちが白ひげ海賊団の船員の人たちに料理やお酒をふるまっていた。それでもやっぱり白ひげさんの大きさは目立つ。座ってるから曖昧になってるけど、立ったらアレ6mはあるんじゃないかな?カイリュー3匹分くらい、体を伸ばしたミロカロスくらいはある。大きすぎ、それでいてあの人巨人族とかじゃないって話聞いたから、同じ人間なんだろうな、すごいとしか言えない。

 

 しばらくぽけーっとそれを民家の影から見てた私だけど、白ひげさんがグイッと杯を空けた瞬間にじろり、と私を見たのに気づいた、いや気付かされてもらった。邪魔をするな、ということだろうか。間違いない、目が合っている。私は大慌てで白ひげさんに向かって頭を下げて踵を返し、走って酒場の別館にある間借りした部屋に帰ることにした。いやはや、やっぱり子供が会える人じゃないし海賊だから子供嫌いなのかも。見逃してもらえただけ優しいね、だって初めてあった海賊はであいがしらしてきて、ふいうちしてきたんだもの。へびにらみだけでも御の字だ。

 

 「待つよい」

 

 「ぴょえっ!?」

 

 ばさぁ、と音がして目の前に燃え盛る鳥が降ってきた。すわ新種のポケモンか!?と思って腰のボールに手をやりかけて放す、違う、人間だ。足が鳥の足になって、両手が肩の先から蒼く燃え盛る翼になっている。見上げるほどに背が高くて、髪型は金髪で逆さにしたクヌギダマみたい。はだけられた胸元には刺青が見える。もしかしなくとも白ひげ海賊団の人!?

 

 「あー、いやわるい。驚かせたよい。お前さんがユウリであってるかよい?」

 

 「どうして私の名前を?」

 

 「ここの町長がな、3週間前に海賊に町が襲われた話を何度もするんだよい。本当ならウチのシマ荒らしたバカはヤキ入れてやるんだが、豚箱行って処刑されんなら俺たちも手が出せねえ、だがお前さんは別だよい」

 

 「……まさか私殺される!?」

 

 「んなわけあるかっ!」

 

 あれ、違うの?てっきりウチのシマで勝手に海賊と戦いやがって如何落とし前つける気だこのガキって話だと思ったんだけど……危ない、殺すって肯定されてたらめっちゃ揺れてるカイリューのボールを見る限り勝手に出てきて挑みかかっていた可能性がとっても高い。とりあえず殺されないとわかった私が胸をなでおろすとボールの揺れも収まった。

 

 「それなら、こんな子供に何か御用ですか?」

 

 「可愛げのねーガキだよい。逆だ逆、親父がお前のこと呼んでんだ。一緒に来て欲しいよい」

 

 「私がですか?あの人と……?」

 

 「まどろっこしいよい」

 

 そもそも白ひげさんと話す理由がない私としては、見れただけで満足、気持ちよくお酒を吞んでいるところを邪魔してしまったごめんなさいって感じなので出て行ってもお騒がせしてすみませんって謝るしかできないような……?私が首を傾げていると面倒くさくなってしまったらしい鳥の人が私をひっつかんで抱き上げ、 地面を蹴る。すると一瞬で家を飛び越え、一回のジャンプでがぶがぶと杯を空ける白ひげさんの真横に着地した。

 

 「マルコか、連れてきたみてぇだな」

 

 「待たせたよい。ちっと強引だったが、悪かったなユウリ」

 

 「え……?あ……?はい……?」

 

 「ホントにこいつが海賊追っ払ったのかぁ?」

 

 あまりのことに目を白黒させて情報を読み込むのに時間がかかっている私は、横からかけられた疑問の声でようやく正気を取り戻した。私に疑問の声をあげた人は、瞬く間に他の船員からロープでぐるぐる巻きにされてバケツの水をぶっかけられた。よ、酔い過ぎてるのかな……?

 

 「おい」

 

 「は、はいぃっ!!」

 

 「そう緊張するな。おれァエドワード・ニューゲート、この白ひげ海賊団の船長だ。お前がユウリか?」

 

 「……確かに、私がユウリです。初めまして、さっきはのぞき見してごめんなさい」

 

 「気にすんな、元々息子の話を聞いて一度話してェと思ってた。手間が省けたぜ」

 

 グララララ、と特徴的な低い声で笑う白ひげさん、エドワード・ニューゲートって名前なんだ。かっこいい。何とか見上げようとぐいーーっと背を逸らして顔を見ようとしてみると、あまりに高すぎてバランスを失い後ろに倒れてしまいそうになる。おっと、とマルコと呼ばれた鳥の人が支えてくれて事なきを得た。マルコさんにありがとうございますと言って私は白ひげさんに向き直った。

 

 「えっと、その……私、何かしましたでしょうか?」

 

 「礼を言いてぇのよ。この島はおれの縄張り、こいつらは友人のようなもんだ。友人を助けられたとあっちゃあ礼をしなければ仁義を欠く。感謝するぜ、ハナッタレ」

 

 「頑張ったのは、私じゃなくて私のお友達ですから。それに、私は出来ることをしただけです。お礼を言うなら、この子たちに」

 

 そういって私は6つのボールを空中に放る。その中から出てきたポケモンたちに周りの海賊の人はみんな驚く。唯一驚いていないのは白ひげさんとすでに慣れ切っている町の人たちくらい。敵意がないのが分かり切っているからか、皆は注目を集めているのにも関わらずいつも通り。いつも通りにマイペースなミロカロスが私の周りにとぐろを巻いて私を上に乗せる、物静かなメタグロスは我関せず。カイリューは私が安全なら何でもいいのでにっこにこ、ザシアンは無言でお座り、デンリュウはあいさつ代わりなのかぴかーーっ!と光っているし、シャンデラに至っては燃え盛る篝火に完全に吸い寄せられてその炎を特性のもらい火で吸い込み始めた。

 

 「グララララ!これは随分なお友達だ!1000万程度の木っ端がかなうわけねぇ!お前ら!恩人たちに粗相はするなよ!」

 

 「そもそもこの新世界の海で親父のシマを荒らそうと考えるのは実力者かバカのどっちかだが……バカの方だったかよい。どこの田舎者だ?」

 

 「そもそも1000万程度でこっちに来てるだなんてよっぽど悪運が強かったんだろうな」

 

 カイリューと目を合わせたマルコさんが顎を撫でながらそんなことを言って、他のなんだか特徴的だけど他の船員の人たちから一目置かれてる感じの人もポケモンをしげしげと観察している。なんだかポケモンを褒められていると自分を褒められているようで何となくうれしい。3週間一緒に生活する中で私の中にポケモンたちがかけがえのないものとして認識され始めたんだと思う。それはなんだか、いいことなんじゃないかと思った。




 実は新世界側にいたんだぜという話。ちなみに襲ってきた海賊は新世界から逃げかえるついでに補給を兼ねて襲いに来ました。多分白ひげさんは仁義を通さないことは嫌いなので普通に子供相手でも礼くらいは言うと思う。頭は下げないだろうけど。

 次回、旅に出ます。感想評価をよろしくお願いします
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