カイリューといっしょ! 作:カイリューはいいぞ
「冷えますねぇ」
「そりゃあ、海域的には冬島だからよい。寒いのは苦手か?」
「私は人並みですけど、カイリューは苦手ですね。もうお外出たくないって言ってます」
「俺は寒いのは平気だけどな、何しろ俺は炎だからだ!」
そういう副作用もあるんだなあとしんしんと雪が降る中でも上半身裸のエースさんをちょっとだけ羨ましく思う。思いがけずゾロさんと再会できて、ザシアンを世界最強の剣士ことミホークさんに預けることになった私は元シッケアール王国クライガナ島と出発して2日ほど船の旅を楽しんで……いなかった。寒い!寒いの!もう震えるほど寒いの!
次の目的地であるマッドサイエンティスト、ドクターペガバンクの故郷バルジモアに向けて絶賛邁進中なんだけど。冬島の海域に入った途端滅茶苦茶寒いの。海が凍り付くレベルみたいでたまに氷山を見かける。もう寒くて寒くてしょうがなくて、氷弱点のカイリューはもうお外にすら出たくないレベル。さらにはお外大好きイーブイなんかもグレイシアになっちゃいそうとか言ってボールに引きこもっている。
「メェ~~~!」
「デンリュウは元気だねえ。寒いところ大好きだもんね」
「メェッ」
「ユウリ、お前も風邪ひかないように気をつけとくよい」
「さみぃならまた一緒に寝てやるよ」
「……お願いします」
代わりに滅茶苦茶元気なのがデンリュウ。元メリープ、モココの時から、妙に寒い所だと喜ぶんだけど、冬島の海域でもそれは変わらなかった。頭に雪が積もっても変わらずにニコニコしている。電気漁でお魚が手に入るのは嬉しいんだけどね。冬用装備に切り替えた全身モコモコ状態の私がデンリュウに呼びかけると彼は嬉しそうにニッコリ笑顔で振り返る。
この船の船室はキッチンダイニングの一つしかないので必然的に寝るのもその部屋になるんだけど暖房なんてものはないし、つけても木製だから燃えちゃうかもしれないのでそんな便利なものはない。マルコさんとエースさんは交代で寝ずの番をやってくれてる。私もやろうとしたら二人して「お前は寝てでかくなるのが仕事」とか言ってさせてくれないの。ぐぬぬ……私が小さくて非力だからって……!
昨日なんてあまりの寒さに震えてたらエースさんの所に引き込まれて抱っこ状態で眠っちゃった。エースさん、体が炎だからか物凄くぽかぽかしてて冬島とは思えないくらいあったかかったなあ。凄く眠れちゃった。これじゃまるで子供だぁ!うう!自分のことくらいは自分でやれるということを二人に教えねば!でもあのあったかさには抗えない、と私はそっぽを向いて頬を赤くしてエースさんにそう返す。
可愛いやつだななんて言って私の頭をグシャグシャするエースさんのぷっくりとふくれっ面になってじゃれついていると、氷山とは違うでっかい島が見えた。クライガナ島よりかなーリ大きくてそれでいて何というか、極寒の牢獄って感じの島があった。何となく焦げ臭くて、黒い煙がまだまだ立ち上ってる。ひょえー。
「適当な場所に船を止めて凍らせておくぞ。場所を隠せるしとられる心配もねえ。街から離れた場所がいいな」
「エースさんがいれば溶かせますもんね」
「俺は暖房じゃねえんだぞ」
「あっためてくれないんですか?」
「それとこれとは別だろ」
きゅるん?とナミさんに教わったあざといポーズで上目遣いにエースさんに問いかけるとそれが完璧演技だということはバレてるのであーはいはいみたいな感じで流される。むむ、やはり私にはナミさんのように容姿端麗ナイスバディ、ムチムチダイナマイトボディを持ってないのでそんな反応になるか。モーモーミルク飲まなきゃ。
明るい港を避けて船をつけた私たち、何とマルコさんは不死鳥に変身すると船の舳先を掴んで引き上げてしまった!すっごい!こんなことできるのってバンギラスとかそういう類の怪力お化けポケモンくらいだよ!?ぽっかーんと口を開けた私のあごをぶにっとして口を閉じさせてきたエースさんに腕を振り回していかくをしていると、変装を済ませたマルコさんがこれでいいよいと戻ってくる。
「オールバックに眼鏡をかけてるとマルコさん別人ですね」
「お前は何でそんなにでかい眼鏡かけてんだよい」
「おしゃれです、可愛いでしょ?これで誰かも分かりませんよ」
「なあマルコこれ脱いじゃだめか?」
「ダメに決まってんだろ海軍のおひざ元だぞここ」
「そもそも裸の上にそれ羽織ってるんですから普通に考えたら寒い筈なんですが、マルコさんですらコート着てますよ」
そう、バルジモアは私にとっては悪名高き、海軍にとっては救いのスーパー科学者であるベガパンクの出身地かつ彼が残した研究所があるということで海軍がいるのだ。一応補給のために街による必要があるのでがっつり手配書で顔が割れてる3人衆ある私たちは変装を敢行しているのです!
まあ、私は頂上戦争時スタジアム衣装かつ髪型も変えて帽子もかぶってなかったから、何時もの帽子におっきな丸眼鏡にさらにモコモココーデでイメージを一新している。素肌にジャケット一枚に半ズボンといういで立ちが特徴のマルコさんも長袖長ズボンにさらにコートを着て髪をオールバックにしてスクエアの眼鏡をかけている。ぶっちゃけヤクザかマフィアにしか見えない。こわい。
そして脱ぎたがっているエースさんなんか長ズボンにジャケットだけ。帽子は外しているし私が頑張ってそばかすを隠すメイクをしたからまあよく似てるけど違うというのが分かる。でも能力使わないでくださいね。メイク燃えちゃうし。サムイの大好きデンリュウは羊毛の塊をすっぽり被せて完全に二足歩行の羊状態だ。おでこにある宝玉には目を瞑って頂きたい。
そんな感じで街を目指して歩いていくんだけど、私はあまりの寒さにデンリュウに背負ってもらって羊の毛の中に逃げ込むことにした。うん、寒いのは得意じゃないのはそうなんだけど、私はドラゴンタイプだったらしい。あまりにも寒すぎる。エースさんはともかく何でマルコさんもそんなに余裕しゃくしゃくなんだろうか。
「とまれ!この街はいま事件で厳戒態勢だ!何者だ!?」
「あー、俺たちゃフリーの記者でな。とある筋からここでえらいことが起こってるって聞いてなー。取材をしに来た」
「ベガパンクの研究所がある場所は立ち入り禁止だ」
「そっちじゃねえ。俺たちは珍しい動物の記事を書いてるんだ。世界経済新聞にあった燃える霊獣の取材に来たんだよ」
「……怪しいそぶりを見せればすぐ収監するぞ」
大きな城壁に囲まれた街の門には海軍のマークがついたコートを着込んだ海兵が立っていて、寒さに鼻水を凍らせながらも口調は厳しくマルコさんに問いかける。マルコさんはデンリュウをぽふぽふと叩きながらこの島に訪れた目的をすらすらと説明する。嘘と真実が入り混じった見事な説明に私は感心してしまうほどだ。私が羊の毛の中から顔を出して海兵さんに手を振ると海兵さんはちょっと相好を崩して手を振り返してくれる。うっ、騙した罪悪感が……。
「んで、どうする?」
「ん~、聞き込みが一番の近道かもしれないですけど、どうしたらいいもんか」
「とりあえず聞いてみるのが一番だよい。ちょっといいか!?」
「ひぇっ!?お助け~~~~!」
「……次からは私がやりますね」
「……頼むよい。エース、笑い過ぎだ」
とりあえず近くにいた老人にマルコさんが話しかけると、この世界じゃ長身なんて言えるかどうかわからないにしろ私の常識の中じゃ長身のマルコさんに見降ろされたせいかご老人は杖を放り出して走って行ってしまった。哀愁漂うマルコさんの背中がいたたまれなくて私は次から私がやりますと話、転げまわって笑っているエースさんの頭にゲンコツが降った。痛そう。
「あの~~、少しいいですか?」
「見ない顔だね。珍しい……羊?かい?まあともかく、なんだいお嬢ちゃん」
「燃える霊獣というやつを私のお兄ちゃんが記事にしたいって言って探しているんです。良ければ知っていることを教えて欲しいのですが」
「ああ、構わないよ。お兄ちゃんってのはあっこでビビリのロウリィに逃げられたあんちゃんかい?話しかける相手が悪かったねえ」
私が話しかけたのは屋台で串を焼いていたおばあちゃん。さっきのマルコさんのアレソレを見ていたらしいおばあさんは気の強そうな顔を緩めてデンリュウが着てる羊の毛の中から顔を出す私に返事をしてくれる。デンリュウにおぶさった状態の私はとりあえず話をしてもらえそうで安心したけど、ただじゃ悪いからと思って3種類ほどある串焼きを10本ずつ注文してお話を聞くことにした。
「あんたらが捜してるのはあれだね?ベガパンクさんの研究所が爆発した時に現れた燃える虎だろう?」
「燃える、虎ですか?」
「そうさ。ベガパンクさんとあたしは世代的に近くてね。彼が研究所で何をしようとしていたのかよーくしっているよ。といってもあの時はまだまだあの人も若くて資金も足りなかった。この極寒の島を何とかしようと島ごと暖める島暖房なんてもんを思いついたけど、資金が足りなくてとん挫しちまったりね。きっと多分、燃える虎もそう言った実験の副産物が研究所が爆発した時に逃げたんじゃないかと思ってるがねあたしゃ」
「そう言った動物がこの島には他にも?」
「いるのさぁ。サイボーグアニマルっていうベガパンクさんが改造した動物たちが外にゃうろうろしてるよ。こっちから近づかなきゃ何もされないけどね」
うっへー、くまの件をみてやるんじゃないかなって思ってたんだけど幼少のころからそんな感じなのかベガパンクって。人工ポケモンとか改造ポケモンとかを思い出したりしてあまりいい気分はしない話だなそれ。手際よく容器に大振りの何かの串焼きを入れてくれるおばあさんはお年寄りの例に漏れずお話し好きみたいで、脱線を挟みながらいろんなことを教えてくれる。
しかし、燃える虎か……一番近いのはカエンジシの♀個体……?もしくはウィンディだろうか?どっちにしろ「ユウリ」の手持ちにはいないはずのポケモンだ。持っていたとしてもボックスの中のはず、腰につけて持ち歩いている手持ちのポケモンではない。ますます困った。野生個体がいるってことはこの世界にどれだけのポケモンが出てきちゃったんだー?恨むよパルキア?パルキアのせいかどうかは分からないけど。
「はい、串30本ね。占めて3000ベリーでいいよ。ああそうだった、燃える虎が見つかった場所ね、地図もってるかい?」
「地図は、もってないですね」
「あれま、じゃあ方向だけ教えるよ?ここから北北東に向かうと大きな切り立った崖があるんだ。その付近を叫びながら走り回ってたって話さ。行くなら気を付けるんだよ?いいね?」
「はいっ!ありがとうございましたっ!」
「メェッ!」
おお、場所まで!これは大きな収穫だっ!デンリュウがおばちゃんから串焼きを受け取って私がお金を払う。北北東にある切り立った崖!そんなものがあるのかぁ……しかし、燃える虎ねえ……燃えるポケモンはイヤって程心当たりはあるんだけど、虎に見えるポケモンで燃えるのってなかなかいないような……?とりあえず行って探してみよう!
笑い過ぎて転げまわっていたエースさんはいつの間にか大きなたんこぶをこしらえていて、憮然とした表情のマルコさんが右手を真っ黒にしていた。私はそれから必死に目を逸らして手に入れた情報を共有するとお手柄だと言われて早速その場所に行く運びとなった。通ってきた門をとんぼがえりのようにまた通って海兵さんに敬礼すると答礼してくれて賞金首でごめんなさいと思いながら北北東の崖を目指す。すると
「なるほどこれがサイボーグアニマル」
「名前つけるならどうするよい?」
「ウルトラガチガチメカゴリラ!」
「長いですね」
「ゴアアアアッ!!」
北北東に行く道中で私たちの前に現れたのは本来こんな北国にいるはずがない動物、推定身長5mのところどころ機械やチューブなんかが入り混じった体をしているゴリラだった。これがおばあさんが言ってたサイボーグアニマルね。どうやら、この先に近づけたくない何かがあるみたいなんだけど……うーん、向かってくるか、向かってきちゃうね?仕方ないなあ……。デンリュウ、ちょっといっぱつお願い。
「ウホッ……ウホッ……」
「メェェェ?」
「ウホオオオオッ!?ほきゃっ!?」
「秒殺だな」
「私のデンリュウがこんな半端な動物ごときに負けるはずありません」
3秒後、ウルトラガチガチメカゴリラ……もう長いのでゴリラくんでいいか。襲い掛かってきたゴリラくんはデンリュウが私をおんぶしたまま放った手加減ばくれつパンチにより、きりもみ回転して吹っ飛んだあと右のほっぺをパンパンに腫らして目の前で土下座をしている。デンリュウがちょっとすごむと悲鳴を上げる始末。うーん、撃たれ弱いな。
とりあえずゴリラくんに話を聞いてみようかな。ねえねえゴリラくん?ちょっとお話よろしい?何もしないよ~?ナナシの実あげるからさ。
今回のお供はデンリュウくんです。かわいい