カイリューといっしょ! 作:カイリューはいいぞ
「はーいワンツーワンツー!」
「りゅっ!りゅっ!」
「ゼー!ハー!ぶへっ!」
ドサッ!と音を立ててミニカビゴン……それじゃゴンべになっちゃうんだけどゴンべほどほっそりしていないのでやっぱりカビゴンことビッグウソップさんが倒れ伏す。おっかしーなー、別れる前のウソップさんだったら20分エアロビクスしたくらいじゃ倒れないと思うのだけどなー。と私はタンクトップとスパッツの状態でウソッキーのヨガポーズをしながら首を傾げる。
「ひどい弱体化ですね」
「お前と一緒にすんな……」
「私まだ9歳ですよ?ねえカイリュー、バサギリ」
「ウソだ、絶対おれより年上だろ……」
「シャアア」
まあまあ元気出せよ、といわんばかりのバサギリが大きな岩斧の側面を極めて繊細に動かしてウソップさんの背中をポンポンと叩く。しかし、確かに自分でもこの体になってからえらく根性やら度胸やらが据わるようになったとは思うんだけど流石に感性は年相応のはずだ。未知のものにはワクワクするし、感情の制御が追い付かないことだってある。感情だって表に出ちゃうし、今もふくれっ面だもの。
ウソップさんのお前年増宣言に軽く傷ついた私はウソップさんのぶにぶにのお腹に対してぽこぽことパンチを繰り出しながらダイエットのメニューの食事にマトマの実を丸のまま出すことを決めるのだった。サンジさんはこんなことしないだろうけど台所を担う人間を怒らせたらどうなるか思い知らせてやるもんね。汗をたっぷりかいてくださいな。
さて、そもそもなんで激太りウソップさんになってしまったかといえば、結局は食べ過ぎなのだけど……まあ正直納得しちゃうね。ヘラクレスンさんに案内してもらったストマックバロンの餌場、ようは食物が実る場所なんだけど、なんか料理がそのまま生えてたりしてまるで別の世界に迷い込んでしまったかのようだ。
しかも、一口食べれば絶品で、確かにこれはやめられない止まらないと思う。実際餌場にいた他の生き物たちはウソップさんと同じようにブクブクに肥え太ってしまっていたし。ほぼ筋肉の塊であるカイリューとはえらい違いだ。うちのカイリューは太いは太いが固太りなので脂肪ではないのです。ムチムチかもしれないけどね。女の子なので太ってるとは言えませんが。
これ補給品にして大丈夫かな、と思ったけど木の実とかは割と平気っぽい。料理の成る植物に手を付けるとヤバいっぽいね。あと、試しにオレンの実を埋めてみたら一瞬で成長して実がなった。余りに土壌の栄養分が高すぎるんだね。減った木の実をこれで滅茶苦茶補充できそう。そう考えているとヘラクレスンさんが何か緑色の種を収穫しているのが見えた、何かと尋ねてみると……。
「ポップグリーン、ですか?」
「そうだん。この島、つまりグリンストンにのみ生息している固有の植物のことだん。今目の前で起こっているように、種子から急速に成長し、獲物を捕らえて種を作り枯れる性質があるだん。つまり、武器に利用できる植物だん」
「へー!つまり目の前のソレですか?」
「うわーーーっ!?なんだこれ助けてくれ~~~!」
「バサギリ、がんせきアックス!」
「ちなみにこれはデビルと名付けただん」
バサギリが目にもとまらぬ速度で岩斧を振るい食虫植物のようなツルの塊にとらえられて宙づりにされていたウソップさんを助け出す。斬ると同時砕けた岩斧がデビルと名付けられたらしい食虫植物に無数に食い込んでダメージを与えると共に動きを止める。がんせきアックス、バサギリにしか使えない固有技だ。はー、助かったというウソップさん、ちょっと迂闊だね。
「ほー、そりゃ俺も見たことねえよい。新世界のストマックバロンにもあるのかよい?」
「植生が違うから言い切れないだん。だが、この島ではない固有種が発生している可能性は非常に高いだん」
「はーいウソップさん走り込みしますよー」
「ちょ、まってまだ休憩を……」
「ちなみに失速するとエースさんが後ろから油を焼いてくれるそうです」
「鬼ーーーっ!!!」
「失礼な、それなりにキュートな顔をしていると自負しているのですけど」
「やってることがやってることなんだよユウリ」
食虫植物につるされてはいたけどインターバルの休憩は終わっているので次は走り込みしますよーと声をかける。意外や意外、なんとヘラクレスンさんは植物学者だった。その昔、この島に調査のために上陸したはいいものの、入るはいいが戻れないでお馴染ストマックバロンの上の森のおかげで仲間は全滅、それで自分も戻れないとなり今までここで生活を続けていたのだそうだ。
つまり、ある意味でブルックさんと近い境遇だったのかな。ブルックさんのように50年近く一人というわけではなかったのだろうけどそれでもなおこの明るさを保つことは凄いことだと思う。道理でバサギリが心を許したはずだ。うんうん。しかしさっきから失礼だなウソップさんは。何ですか鬼だの年上だの。いいですか、私だって好きでやってるわけじゃないんですよ。ですけどここまでぽっちゃりしちゃったからには多少は厳しくしないと痩せらせません。
「別にそのままで前と同じ動きができるなら痩せなくてもいいと思いますよ?多分チョッパーさんは顔をしかめるでしょうが」
「そもそもでかいやつはほとんど筋肉で出来てるよい。ただの肉ならカモだな」
「焼いて油を落としてやろうか」
「ウソップン……頑張るだん」
「ちくしょおお!やってやるよおおお!」
「はい、その意気ですウソップさん!」
私からマルコさん、エースさんにヘラクレスンさんの口撃を受けたウソップさんは自分でもこのままじゃまずいことが分かっているので雄たけびを上げて足を動かし始めた。それに合わせて私も走る。言ったからには勿論私もやるよ、当然。一緒に頑張ろうねウソップさん、目指せナイスバディ!
「シャアア……」
「りゅううう……」
「カイリューのやつは分かるが、バサギリの方も武装色のとっかかりを掴むとはな」
「見えない鎧を着こむ、というか武器にエネルギーを纏わせるイメージですかね。バサギリには楽勝なイメージでしょう。あいたっ!」
「おいユウリ大丈夫か!?おめーがやれっつったからやってるけどよぉ……」
「大丈夫ですー!」
ウソップさんの心配の言葉に私は大きく返事をする。50mほど先でカブトというらしいパチンコから柔らかい草の玉を私に向かって打ち出すウソップさんと、目隠しをしてそれを見聞色のみで回避する私。狙撃力だけは私の知っている限り一人を除いて他の追随を許さないウソップさんのそれは気が乗らないと顔をしかめている状態で尚且つ太っていても健在だった。パチンコで50m先を正確に当てるって何なのさ。
見聞色の扱いもちょっとなれてきたかな、当たっちゃったけど。それで今は手持ち全員を出して覇気の特訓をしている。武装色の覇気はともかくとして見聞色の覇気は資質による部分がかなり大きいとのことで覚醒しない限りは何ともならんらしい。つまり見聞色使えればもっとすごいであろうウソップさんに教えることはできないそうなのだ。残念。
「しかしその状態で攻撃を当てられるとは流石はヤソップさんの息子さんですね。ヤソップさんはもっとすごかったですけど」
「あ!?こいつヤソップの子供なのか!?赤髪の所の!?」
「そうですよ、言ってませんでしたっけ」
「初耳だよい」
「親父にあったのか!?」
思わずぽろっと口に出た言葉にマルコさんとウソップさんがすごい喰いついた。そりゃそうか、言い忘れてた。ヤソップさんからは俺のことはウソップには言わなくていいって言われてたけどどうしても発破が必要そうならこの伝言を言えっていう言葉を伝えられているし。多分、これを伝えればウソップさんもやる気をもっと出してくれるんじゃないかな。
マルコさんもマルコさんで赤髪海賊団の既知の船員、というか幹部格の息子が目の前にいることに驚きを隠せないらしい。エースさんはどうやらアラバスタで知っていたのか何なのか分からないけど驚いてはいない。ドタバタとこちらにやってくるウソップさんは私の目の前で足を縺れさせてこけた。あー、これ劇薬だったかなあ?私は顔を持ち上げたウソップさんの耳にひそひそと伝言を伝える。
「早くこっちに来て俺を殴りに来い、だそうですよ?」
「っ!……あの親父……!ああ、よくわかった!2年待ってやがれ、ぶん殴りに行ってやるよ!」
俺を殴りに来い、という海賊流の発破はどうやらウソップさんには効果は抜群だったらしく、こんなことしてる場合じゃねえ!痩せねえと!と私に鬼だのなんだの言っていたウソップさんとは思えないほどの気力で立ち上がり促していないにもかかわらずすさまじい勢いで走りに行ってしまった。効き過ぎちゃったかな?
慌ててバサギリがウソップさんを追いかけていく。バサギリは武人肌な割に面倒見がいいので危なっかしいウソップさんは琴線に触れまくりなんだろう。追いかけっこ!と反応したイーブイも走りに行くのを見守り、私はまた外していた目隠しを付け直して見聞色を広げる。
案の定ウソップさんは森の外周を目指しているみたいで道を塞ぐ獣たちを火薬星でなぎ倒しながら走っているようだ。そこに追いついたバサギリが前衛に入り、遊撃のイーブイも援護に入る。この調子なら問題なくウソップさんを守りつつ彼の気がすむまで戦ってダイエットに励むことができるだろう。
轟音を立てて木をなぎ倒して3つ巴の模擬戦を繰り広げるカイリューとマルコさんエースさんを見ながら、私は自分の修行に努めるのだった。
「カイオーガ~~!こっち~~!」
「船がひとりでに来たな……」
「海流を操ってるのか、器用なこったよい」
「なー、ユウリお前行っちまうのか?」
沖で盛大なしおふきが見えたと思ったら水のバリアに包まれた私たちの船がすべるようにひとりでに動き出して私たちがいるストマックバロンの端までやってくる。お察しの通りカイオーガが海流を操って船を移動させてくれてるのだろう。ストマックバロンにとどまること1週間、そろそろ保存食なども作り終えて補給も終わり出発すべきだという感じだからね。
「ついてきてもいいんですよ?ウソップさんもヘラクレスンさんも」
「いや!ポップグリーンはこの島にしかねえんだ!あれは俺の新しい力になるはず!ルフィについていける海の戦士になるためにも俺はここに残る!」
「はい、バサギリのことよろしくお願いしますね」
「いいのかん?久しぶりに会ったって聞いただん」
「いいんですよ。このまま連れてったらバサギリ、ウソップさんのことが心配で胃に穴が開いちゃうので」
見送りに来てくれたウソップさんの腰のバッグの中にはバサギリのモンスターボールが入っている。ウソップさんはヘラクレスンさんという師匠がいて、自分の次の力になるというポップグリーンという植物はこの島にしかない。スリラーバークから見てきた感じいつもは臆病風に吹かれるウソップさんもやるときはやる人だ。それならバサギリを預けていても安心できるし、バサギリの胃も守られるだろう。心配性なんだからね。
カイリューやエースさん、マルコさんたちと一緒に船の半分を占める食糧庫に山ほど食料を詰め込んで、私はバサギリと別れを告げる。折角会えたのはそうなんだけど、バサギリは心底二人が気に入ってしまったらしいのだ。まあ、こんな極限サバイバル環境に身を置いて協力し合っていたらそりゃ仲良くなるわけで。
「あ、カイオーガ」
「クァァ」
「どわああああ写真のおおおおっ!?」
「気絶しちまったよい。まあ気持ちは察することができるが」
カイオーガが海面から顔を出したせいでそれを直視してしまったちょっと細くなったウソップさんは気絶してしまう。カイオーガにお礼とポフィンをあげると用は済んだとばかりにさっさと帰っていく。気が利くのになんで長くいないのかな。目覚ましビンタで目を覚ましたウソップさんに改めて別れを告げて、エースさんが機関に火を入れて船を出す。ボーイン列島が見えなくなるまで手を振って、私は懐中時計型の記録指針を取り出してカバーを外す。あれ?
「なんか記録指針おかしいんですけど?真上を指してます」
「あ?マジだよい。ってことはあれか……」
「ああ、あれだな。良かったなユウリ」
「はい?」
さっきまでバサギリと別れてセンチメンタルだった私は首を傾げる。良かったな?いや今最愛の手持ちを仲間に預けたばっかりなんですけども。出来れば連れて行きたかったんだよ?むー、と首を傾げる私にマルコさんは咳払いをしてネタ晴らしをする。
「それ、空島に記録を奪われたんだよい。っつーことで、お待ちかねの空島に行くぞ」