カイリューといっしょ! 作:カイリューはいいぞ
「ユウリちゃーん!また来てくれよ~~!」
「お友達たちもな~~!」
「オヤジさん!また来てください!」
「お元気で~~!」
「お世話になりました~~~!」
あの歓迎の飲み会から1日経って、私は今モビー・ディック号というらしい白ひげ海賊団の本船の上に立ち、カイリューと一緒に街の皆に向かって手を振っている。歓迎の飲み会では、私はいつのまにか寝てしまって気づいたら白ひげさんの膝の上で寝こけているという恐れ多いことになっていた。どうしてそうなったかと聞いたら、地面に放置するのはアレだったから白ひげさんが私を持ち上げて膝の上に置いていたのだとか。止めてよカイリュー!え?ご飯が美味しくてそっちに夢中だった?ひどい!
とても失礼なことをしたと真っ青な私に気にすることはねえと言った白ひげさんはどでかい掌で私の頭をぐしゃぐしゃと撫でてくれた。それがまた、父親みたいでなんか安心できたの。髪の毛はぼっさぼさになっちゃったんだけど。取り合えず爆発したような髪型で酒場の別館に帰ってきた私は、荷物を纏めて洗濯物を取り込み、お部屋の大掃除を始めた。
発つポッポ跡を濁さずということわざがあるらしいけど、使ったのなら使う前より綺麗にして返すべし。なのでぴっかぴかにして塵一つないように頑張っていたら、二日酔いが酷いマスターが部屋にやってきて、最後のお給金をくれた。それと、これからもカレーを作るならと街の鍛冶屋さんに発注してくれたらしい立派な包丁もついでに。
店長さんにお礼を言って、別れの挨拶を済ませると、今度は質屋のおばあさんがやってきた。相変わらず背筋が伸びて姿勢が良く、マダムといった感じの雰囲気を醸し出してるおばあさんも、また別れの挨拶に来てくれた。私がこの街で曲がりなりにも働けていたのはおばあさんのおかげなので、思いっきり抱き着いてお礼を言うと彼女は無事を祈ってるわ、と古そうな懐中時計をくれた。中を開くと中身は時計じゃなくて、羅針盤……を物凄く簡易的にしたようなものが3つ埋め込まれているものだった。
他にもいろんな人が私の部屋を訪れて、結局掃除が終わったのは夜中だった。餞別にとくれた沢山のものは、容量がどう考えてもおかしいバッグの中に詰め込んで……大事に使ったり食べたりしたい。
「まあ、乗せてやるってオヤジは言ってたけどよい。一応俺たちにも用事がある、この海で生活できるようになったら船を降りてもらうぜ」
「分かりました。もともと一人で旅をする予定でしたし、情報がもらえるだけで嬉しいです」
「いい心がけだ。取り敢えずお前の部屋はうちのナースたちの共同部屋だ。トモダチは中で出すなよ、甲板だけにしとけ」
「はいっ!」
街が見えなくなって、とりあえずカイリューをボールの中に入れた私に声をかけてきたのはマルコさん。白ひげさんは実は病気だったらしく、今は船長室で点滴やら何やら物々しいほどに無数のチューブを体につけて、呼吸を補助する鼻チューブも付けていた。鬱陶しいと言っていたけど、そこまでしなければならないほど体が悪いならお酒を制限したほうがいいのでは……?え?聞いてくれないの?そうなんだ……
それよりも先にこっちだよい、と言われた私がマルコさんについていこうとすると、マルコさんはいきなり私を抱きあげた。慌てる私に、お前の歩幅じゃ日が暮れるよいと返されて、チビで悪かったですねーーっ!と言いそうになったが事実なのでぐっとこらえ、ぽかっと肩を一叩きするだけで済ませてあげた。マルコさんは苦笑するばかり、何考えてるかまで見抜かれてそう。
「おっ!マルコ隊長何時のまに子供こしらえたんですか!?」
「ちげーよい馬鹿。お前あとで甲板掃除しとけよい」
「理不尽な!?」
「お父さんって呼びましょうか?」
「お前もやめろ」
モビー・ディック号はとても広い船なので、目的地に移動するにも結構な時間がかかる。まるで島みたいな大きさの船だ。抱っこされて移動する私はマルコさんにしがみつきながら、きょろきょろと物珍しい部分に目が行ってしまう。帆船に乗るなんて多分「わたし」も「ユウリ」も経験したことがないはずだ。それもこんな全木製っぽい船だなんて。
しかし、1番隊の隊長、つまり白ひげさんの右腕だというマルコさんに対して、からかいの言葉を言うことができる船員がいるとは、白ひげ海賊団って所謂アットホームな海賊団というやつなのだろうか?私が想像してる海賊団って力絶対主義で部下に舐められた口を利かれれば粛清で見せしめにブッコローーー!!!って感じのを想像してるから、なんだか意外だ。試しに私も冗談を言ってみるけど、注意を受けるだけで本気で怒ったりはしてないっぽい。
「とりあえず今日はここでお勉強だよい」
「ここは?」
「俺の部屋。とりあえず海図、世界のことについて一通り教えてやるよい」
案内されたのは、狭いながらもしっかりと調度品が揃えられた綺麗なお部屋。はぇ?!マルコさんの私室!?マルコさんが使っているらしいベッドの上にぽいーっと放られた私が顔をあげると、マルコさんは3つある本がみっしり詰まった大きな本棚の中からいくつかの本を抜き出して、どさ、どさ、どさと私の前に積み上げる。
「とりあえずこれやるから読んでおくよい。難しかったら後で解説してやる。俺は仕事があるから今日はここにいるといい」
「わ、わかりました」
「その年で旅する気ならこれくらいでへこたれてちゃやってけねーぞ。死ぬ気で理解しとけ。トイレ行きたかったらその扉だよい」
そう言ってマルコさんは部屋から出て行ってしまう。読書かぁ……嫌いじゃないかも。「ユウリ」のバッグの中からはいくつか難しいポケモン関連の論文とか書籍なんかが見つかっているし、きっと読書が苦にならないタイプだったんだろう。とりあえずこの「この海の仕組み」っていう本から読み始めようかな。テーブル借りよう。あと、エネココアがバッグの中にあったはずだ。モーモーミルクで溶かして飲みながら読むことにしよう。
「ユウリ、夜メシだよい……ってお前、読めたのか?それ」
「え、はい。読めるって考えたから貸してくださったんですよね?」
「いや……正直1,2冊目あたりで寝てるもんだと思ってたよい。飽きて甲板出てくるんじゃねえかって見張りに言い含めておいたんだが……ずっと読んでたのか」
「……実は、読んでるうちに興味を惹かれて止まらなくなっちゃって……ってもう夜ですか!?」
「ああ、日は暮れてるよい」
何時間経ったのだろうか。モーモーミルクの瓶が4本を突破したくらいにマルコさんが部屋に入ってきた。正直、本が読めるかどうか分からなかったけど、癖のある英語っぽい感じだったから何とか読むことができた。多分これは「ユウリ」じゃなくて「わたし」が知ってたことなんだろう。どうやら「わたし」は英語を解すことが出来たらしい。ん~~と背を伸ばすとパキパキと音が鳴る。マルコさんの背に合わせて作られた椅子は私の足が届かないので、「偉大なる航路の気候」と銘打たれた本の途中のページ数をメモしてぱたんと閉じ、飛び降りる。
「なにか分からねーことはあったかよい」
「とりあえずこれくらいあります」
「教え甲斐のあるガキだ。見どころあるよい」
マルコさんの元まで行くと質問があるかと聞かれたのでバッグを漁ったら出てきたびっしりと書き込んだメモ用紙30枚を見せると面白そうににやりと笑った。知りたいことが知れるし質問すれば覚えるのも早くなりそう。偉大なる航路の気候や海流、島に至るまで私の興味を引くのには十分すぎるものが多すぎて、聞きたいことがダイマックス盛りなの。常識って言葉を5回くらい確認しなおしたもん、読んでる最中に。
「お前のトモダチの分のメシは甲板に用意しといたよい。先に甲板に出てメシやるといい」
「わかりました。ってまた抱っこですか!?」
「収まりがいいんでな。メシも冷めるし」
マルコさんは当然のように私を抱きあげて、部屋を出た。私の抗議は何のその、普通にお尻を支えられる感じだから遠慮して欲しいものなんだけど……いや、こんなチンチクリンを女としては見ないか。むしろマルコさんならきっと遊び慣れてる分余計に私を女として認識できないだろう、うん。町長さんのお孫さんとは違うんだ。尻をタッチするんじゃない、私だから許したけど他の女の子にやったら滅茶苦茶怒られるやつだぞそれ。
結局私の抗議もむなしく、抱っこのままモビー・ディック号の甲板にでる。星明りが甲板を照らしていて、空を見上げると雲一つない満天の星空だった、思わず目を見開いて、息を吐く。するとその息が白く濁ったことに驚いた。風も物凄く冷えている。出港するまでとても過ごしやすい気候だったのに、急にこんなに変わるものなの!?
「寒くないんですか、マルコさんは」
「鍛え方がちげーよい。ここら辺はもう冬島の気候だな。偉大なる航路の中じゃ穏やかだ」
「鍛え方でどうこうなるものなんですか……?」
そんなことを言いつつモンスターボールをぽいぽいと6つ全部投げる。いつも通りの6体が登場し、ボールの中で固まってしまっていた体を伸ばした。私がポケモンを出したのを見計らったのか他の船員の人がお皿を6個並べていってその上には山盛りになったいろんな料理が湯気を立てていた。ほんとに出来立てなんだー、美味しそう。
「人間と同じメシでいいのか?」
「はい、雑食なんです。メタグロスに至っては鉄も食べますよ」
「鉄食うのか?」
「鉄、というか金属でできてますからね」
バッグをごそごそ探って……あった。くろいてっきゅう!見た目以上に重いそれを持ち上げて、メタグロスに差し出すとサイコキネシスで持ち上げてメタグロスはボリボリと食べてしまった。マルコさんはほー、と興味深そうに言ってメタグロスを観察しだした。どうやら陸を出てすぐの料理は陸と変わらないものを提供できるようでポケモンたちはかなり美味しそうにご飯を頬張っている。
一応コンディション管理のため、ということでみんなが好きな味のポフィンをケースから出した。あっという間にご飯を食べ終えた6匹はあーんと口を開けてポフィンを待つ体勢に入る。なぜかポフィンだけは直接口の中に入れて欲しいというのが私のポケモンたちの共通ルールなのだ。ちなみに一番驚いたのはミロカロスの口の中ね、意外と普通だったけど口あるんだって感じだった。まあシャンデラはポフィン押し付けると体の中に吸い込まれていくからそっちも驚いたんだけど。
しばし自分のご飯のことを忘れて1日ほったらかしだった皆を構うことにする。ハグが大好きなカイリュー、私を乗せるのが好きなミロカロス、傍にいるだけで幸せらしいメタグロスに、お調子者のデンリュウ、彼がいると明るいシャンデラ、月を見つめるザシアンと6匹別々の個性を持ってて見ていて飽きない。
そんなことを暫くしていると、マルコさんがそろそろ……みたいな感じで頭を掻きだしたので今日はここまでという感じでみんなをボールに戻そうとしたら、うわあああっ!という悲鳴が聞こえてどだだだっ!とモビー・ディック号の見張りをやってたらしい船員さんが3人ほどやってきた。
「マルコ隊長~~~!グレッグのやつが落ちた!」
「何馬鹿やってるんだよい!……ってお前ら全員能力者か!誰か無能力者呼んでくるよい!」
「カイリュー!ミロカロス!」
「りゅっ!」
「ふるぅ!」
全く聞こえなかったけど、どうやら誰かが落ちてしまったらしい、危ない。この船員さんがいなければ気づけなかっただろう。カイリューとミロカロスを呼ぶと彼女らはわかった!と言わんばかりの感じでカイリューは飛び立ち、ミロカロスは海の中に潜っていった。甲板からすぐ見える場所でバシャバシャと誰かがおぼれているのが見える。すぐそれを見つけたミロカロスがそこまでたどり着き、尻尾でグレッグさんというらしいおぼれている人をはね上げた。空中に投げ出されたグレッグさんは空を飛んだカイリューにキャッチされて甲板に戻ってくる……ってこの人マルコさんを子供出来たのかって揶揄ってた人じゃん!
「りゅっ」
「た……たたた助かったぁ……!」
「こんの馬鹿野郎!能力者にとっちゃ海は天敵だっていやってほど知ってるだろうよい!ユウリたちがいて良かったな……それであのでけえ蛇みてえのはどうした」
「ミロカロスです、ミロカロス。もともと水の中に生息している子なので海が楽しいんじゃないですかね?すぐもどって……うわっ!?」
どちゃっ!と音を立てて甲板に何かが降ってくる、それは異様にお鼻が長いマグロのような魚で多分ミロカロスが尻尾でビンタして捕ってきたんだ。それを追うように甲板に海からジャンプしたミロカロスが降ってくる。重たい着地音を立てて着地したミロカロスが身震いすると水の雫が飛び散る。その水の輝きに負けないほどミロカロスは美しくて、私は褒めてと彼女に巻き付かれてぐっしょりと濡れてもそれに気付くのが遅れてしまった。
「こいつぁ……エレファントホンマグロだな。鼻がうまい魚だよい」
「あー嬢ちゃん!今回は助かった!ってそれ寒くないか!?」
「うわっ!?びしょ濡れ!?もー!ミロカロス~~~!よくやったね!カイリューもありがとう!」
「りゅー!」
「ふるるる!」
ポケモンたちがいると旅が楽しそうでいいですよね、あと悪魔の実の能力者にも水ポケモンがいたら何とかなる。おぼれたって大丈夫!
時系列的にはここでちょうどCP9と戦ってるぐらいですかね。ではまた次回に
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