カイリューといっしょ! 作:カイリューはいいぞ
「なるほどな、見聞色、うまくなってきたよい。それにいい目をしている」
「そうです、かっ!カイリュー!ほのおのパンチ!」
「りゅっ!」
「おっと」
モビー・ディック号の甲板にて、私は今カイリューと一緒になってマルコさん相手に模擬戦を繰り広げている。白ひげさん経由で私が見聞色の覇気に目覚めていると知ったマルコさんは、私たちに稽古をつけてくれるといって相手になってくれるというのだ。この体……「ユウリ」の経験しているバトルの大半はポケモン相手のバトルなので対人戦の経験が積めるのはありがたい話なのです。意外と人型のポケモンの動きを参考にできるんじゃないかって思ってたりするけど、何せポケモンが私の手持ち以外いないので。
マルコさんは白ひげさんの右腕だけあって武装色の覇気も見聞色の覇気も物凄く鍛え上げられている。少なくとも私の先読みからさらに先読みをしてそれでもなお余裕があるくらい。カイリューは馬力なら負けていないので当たればワンチャン……と思いきやマルコさんの悪魔の実の能力は不死鳥らしくて、攻撃が当たっても回復しちゃうの!めっちゃ強いじゃんそれ!ホウオウか何か!?常時じこさいせいはずるいよ!食べ残しぐらいにして!
すでに毎日のルーティーンに組み込まれたそれは、船員の中では暇を慰めるいい出し物になってるらしい。一番息が合うカイリューでこんなコテンパンにされるなら……むむむ、悔しい。いつかちゃんと戦いが成立するレベルまで鍛え上げてマルコさんをあっと驚かせてやろう。うん!むっすー、とした私にマルコさんは苦笑しながらカイリューと一緒に降りてきた。
「りゅ~~」
「そんなぶすっとした顔するなよい。負けたら負けたで白ひげ海賊団1番隊隊長としてやってけなくなっちまう。ま、本気を出させてみるこった」
「分かってるんですけど~!悔しいものは悔しいんです~~!」
まぁまぁ落ち着いて、といわんばかりにカイリューに後ろからハグされながらの私が両手を振り回しながら悔しさを表現する。だってさ、負けた悔しさは震えるほどなんだよ、「ユウリ」だって最初から完璧じゃなくて何回も負けた経験があって、それを糧に強くなったんだ、多分。だから、悔しく思わないと私は前に進めないの!
むっすぅ、とふくれっ面になった私のほっぺをぶにっとやって中の空気を抜いたマルコさんは笑いながら仕事に戻っていった。私はカイリューにオボンの実をあげて体力を回復させてあげる。私のバッグの中、不思議なものでいろんな道具がごちゃ混ぜになってる上にいくつ何があるのか分からないくらいにものが詰まってる。それでいて普段は軽くて持ち運びしやすい……まさか中にパルキアいたりしないよね!?と思って覗いてみたことはあったけど、特に何もなかった。何なんだろこのバッグ、世界地図が入ったポケモン図鑑といい、摩訶不思議だ。
「ん……?あれ?何か……くる?」
バトル直後ともあって精神が高ぶっていた私の感覚器官にキュピーンと何か訴えかけるものがあった。船?しかもモビー・ディック号と同じくらい大きいの……って私が感じ取れるんだからもう既に結構近づいてるんじゃないの!?あせあせと私が焦りだしたのが見えたのか周りにいたベテランの船員の皆さんはようやく気付いたかとカラカラ笑っている。新入りの人たちは首を傾げるばかりだけども。
「おい、ユウリ気付いたってよ」
「まだまだだなー」
「むっ。悪かったですねへたっぴで!ところで皆さん気付いてたのなら慌てなくていいんですか?」
「ああ、大丈夫だ。何せあっちにあるあの船、レッド・フォース号は赤髪の船だからな」
「赤髪っていうと、四皇の!?」
「そう、不相応にもオヤジと話がしたいっていったやつさ」
赤髪……っていうと数日前に教えてもらった白ひげさんを呼びつけたっていう大海賊!?確か四皇の一人で、白ひげさんが小僧呼ばわりしてたってことは多分若いんだよね?私はこの世界、大海賊時代ビギナーだから私は詳しく知らないんだけど……何を話しに来たんだろう?敵同士なんだよ、よくわかんないけど。
「あっちにゃ海軍もいたはずなんだがな……蹴散らして来たのか」
「えっ!?海軍いたんですか!?」
「そら四皇同士の接触だぜ?勢力の均衡が崩れかねんのに世界平和を謳う海軍様が黙ってみてるわけないだろ」
「私たちの方には何で……?」
「オヤジ相手に船で乗り込むなんざ自殺行為だ。赤髪の方がまだ芽があるって判断だろな」
「ただの海軍なら赤髪相手にいくらいても無駄だよい。金ばっかかけてご苦労なこったい。ユウリもらってくよい」
「どうぞー」
「イヤどうぞではないんですが」
もはやお馴染とかした抱っこ空輸の態勢になった私が諦めたようにする抗議を丸無視されて、モビー・ディック号の後部からメインマストの方に持ち運ばれる私。なんか最近自分の足で移動するのとマルコさんやらジョズさんやら白ひげ海賊団の皆さんに荷物がごとく持ち運ばれるのが大体半分くらいになってる気がする。ちゃんと歩けますー!波に攫われたりしませんし目を離したら海に落ちたりもしません―!こらー!ちゃんと話を聞けー!
レッド・フォース号というらしい船首がドラゴンをかたどった大きな船がモビー・ディック号の前で止まった。凄い操舵技術だ、同じくモビー・ディック号も停止してまるで鯨と竜がにらみ合ってるかのよう。あの髑髏に3本の目傷が入ったのが赤髪海賊団の海賊旗か……個性的だね、とぷらぷらと空輸されながら他人事のように考える。
「オヤジ、ユウリ持ってきたよい」
「何かご用でしょうか」
「お前もう慣れすぎだろうよい」
「だってもう抗議しても無駄じゃないですか」
「ああ、おいユウリ。てめえ赤髪が来るまでここに居ろ。どうせやつのことだ、威嚇しながら現れる。体験しとけ」
「そういうこったい、若ぇのはさっさと船室いっとけ。身が持たねえぞ」
ぷらーん、と猫掴みした私を白ひげさんの前に突き出したマルコさん、もうしょうがないので失礼を承知で白ひげさんに何か私にありますか?と尋ねるとマルコさんの突っ込みが返ってきた。どの口が言ってるんですか!確かに私は皆さんに比べて足のコンパスは小さいですけどきちんと2本足が付いてるんですぅ―!それをこうやって物みたいに運ぶから私は諦めてるんですよ!
体験しとけ、というともしかして覇気だろうか?ってことは赤髪さんも覇王色の覇気を身に着けてるってこと!?ごくり、と私はマルコさんに地面に降ろしてもらって覚悟を決めて息を吞む。だってあれ、結構、だいぶ、かなりきついから。出来れば何度も体感したくないやつ。心臓がキューーっと掴まれたような感じで、一歩間違えたら漏らしちゃいそうになるもの。トイレ休憩はありますか、え?ない?……はい。
頭の中がだいぶ騒がしい私をよそに身が持たないといわれた新入りな方の船員さんたちが次々と気絶していく。ああもう遅かったかい、というマルコさんの何も感じてないかのような声をよそに、私にとってはすさまじいプレッシャーが襲い掛かってきていた。グッと歯をくいしばって耐える。白ひげさんの手加減してくれたそれじゃなくて、本気の威嚇は頭が沸騰しそうなほどきつかった。まるで、怒り狂うゲンシグラードンの目の前に立ってるかのよう。大丈夫だ、耐えられる。
スタ、スタと想像よりも軽い足音がモビー・ディック号に響く。船員のほとんどが気絶してしまったモビー・ディック号のど真ん中を堂々と歩いてくる男が一人……海賊団通りの赤い髪、片目に3本の傷、そして隻腕……腰にはサーベルを差していて、大きな丸い酒瓶を引きずっていた。あれが……赤髪、赤髪のシャンクス。感じている重圧の中でしっかりとその姿を目に焼き付ける。そして唐突にふっと重圧が軽くなった。ぷるぷるとかぶりを振るとぽん、とマルコさんの大きな手が私に被さる。よく耐えたな、と褒めるように頭を撫でられた。
「……失礼、敵船につき少々威嚇させてもらったが……まさか子供が乗ってるとは思わなかった。配慮に欠けた」
「覇気をむき出しにして現れておいてその言い草たぁ……相変わらずで結構なこった。ウチの娘じゃねえが、中々見どころあるだろう」
「ホォ、白ひげ海賊団が外部の人間を乗せて旅をするとはな……まるであの頃のようじゃないか」
「フン、まあいい。どうやら戦闘の意志はないことはよくわかった。おい息子たちよ、引っ込んでろ」
ちらり、と私に目を向けた赤髪のシャンクスと目が合う。さっきまでの恐ろしいほどの覇気を発していたとは思えないほど、陽気で優しい目をしていて、私は思わずぱちくりとしてしまう。私はそのまま、マルコさんにまた猫掴みで空輸されて、モビー・ディック号の後部に気絶してしまった船員たちといくことになったのだった。
「何をしに来たんでしょうね、赤髪さん」
「さァな。何かをオヤジに交渉しに来たんだろうが……それはオヤジ次第だよい。まぁ……」
「交渉は決裂したようだがな」
マルコさんの言葉をジョズさんが引き継ぐ、するとドォン!と大砲のような音がして曇天の曇り空だった雲が、白ひげさんと赤髪さんがいるところを境目として真っ二つに割れたのだ。こんなの、伝説のポケモンがやることじゃないか!?ほどなくして目を覚ましていた船員さんたちが色めきだつのをマルコさんが止める。その一撃だけですべてが決したのか、そのあとは何も聞こえず、静かなままだった。
「な、なんだったんでしょう……!?」
「覇王色の覇気がぶつかり合うと、ああなる。あーあー、折角目が覚めたのによい」
「あれ?!また気絶してる!?」
私は空に気を取られて集中がおろそかになっていたからか、覇王色の余波を気にする余裕はなかったのだけど、逆に一回気絶して目覚めたばっかりで敏感になってた他の船員さんはさっきの覇王色のぶつかり合いの余波でも気絶するには十分だったらしい。でももう一回間近であの覇王色を耐えろって言われたら難しいんだけど……多分次は気絶するかちびる。この年になって漏らすのはイヤ、もう来ませんように。
「おう!悪いなマルコ騒がせて!ところでお前ウチに入らないか?」
「バカ言ってんじゃねえよい!ウチに何の用だい」
「ああ……まぁ、今に分かる。それよりもお前!なんで白ひげの船に乗ってるんだ?戦闘員の女は乗せねえってのがポリシーだったはずなんだがな」
「えっと……あの……少々事情があって、乗せてもらってます。多分近いうちに降りるので……」
び、びびびびっくりした~~~!見慣れない赤い髪の気さくそうなおじさんみたいなノリで当然のように私たちの輪の中に入ってきた赤髪さんは、とりあえずマルコさんに引き抜きの誘いをかけるけど当然のように断られる。そりゃそうだ、白ひげ海賊団で過ごして分かったことなんだけどこの船の人たち、末端から全員白ひげさんのこと大好きなんだもん。来いって言ってくるわけないじゃない。
「しかしまあ、大の大人が情けなく気絶してるってのに威嚇とはいえ俺の覇気を耐えきるとは大したもんだ!鍛え方が足りねーんじゃねーの白ひげ海賊団」
「私を引き合いに出して挑発しないでください……」
「うるせえよい!そいつに粉かけんなよ……ガキの手が必要な海賊団じゃあるめえ」
「はっはっは!悪かった。まあ事情があるんだろ、お前にも……よっし!お前にこれをやろう!困ったらそれを辿って俺たちを頼れ!それじゃな!」
なに?四皇ってもしかしてこんなに気安いの?バンバンと私の背を叩いて褒めてくれる赤髪さんだけど、当たり前のように白ひげ海賊団の船員に対しての挑発が含まれてるせいで私の周りの空気がとても重くなってしまった。周りの船員さんたち、とくに気絶した人を運んでいたメンツの人たちの腕や額に血管が浮かび始めて私はまるでアーボックに睨まれたポッポのよう……。
そんな重い空気を吹き飛ばすように笑った赤髪さんは懐から紙を取り出すと一片びりっと破いて私に押し付けて、鼻歌を歌いながら去っていった。私はいきなり紙切れを押し付けられたもんだからよくわかってないけど、マルコさんを始めとした船員の皆さんは意味が分かったらしくて一斉にため息をついて頭を掻いていた。
「なんですか?この紙?」
「そいつはビブルカード、命の紙とも言われる紙切れだ。破れた紙片同士が引きあう性質がある。ようは……困ったことがあったらそれを使って俺を探して頼れって赤髪の馬鹿は言ってるんだよい」
「それこんな子供に押し付けていいものなんですか?」
「良いわけあると思うか?」
「思いませんけども」
思わぬプレゼントに、私は戦々恐々としながら、とりあえず大事なものポケットにその紙切れをそっとしまうのだった。
シャンクスのビブルカード(クソ重要アイテム)を入手。多分シャンクスなら面白そうと判断したらサラッと渡しそう。四皇故の余裕ですね。ではまた次回に
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