『”クイーン・リーダー”より”クイーン”各機。目標到達10分前。”ビショップ・ワン”、”ナイト・ナイン”は装備最終点検。……諸君、初陣だ。存分にやれ』
ノイズキャンセラー付きのヘッドセッドから隊長の声が届いた。
あたりはUH60-JAのローター音が充満している。ヘッドセッド付きでもうるさいのだから、地上のキヴォトス人は大迷惑だろうな、と思う。
そう考えるのも無理はない。
眼下には、大都会のみが発することを許された光の海が、高速で前から後ろへと流れている。
「ここが異世界とは思えないな。まるで都心だ」
”ナイトナイン”ことS.I.S.U.第9小隊小隊長の裏壁マサルは、20式小銃の安全装置を外しながら独りごちた。目線は、眼下に向いている。
「自分は新宿の生まれなんです。なんだか故郷に帰ってきたみたいですよ。泣きそうです」
裏壁の向かいに座る小隊先任軍曹が肩をすくめながら言った。
軍曹は壮年男性で、頬には過去の戦闘で負った火傷の跡がある。その割に軽口も叩く明るい性格だった。見た目で損しているとはこのことだろう。
「なんだ、山田軍曹。お前新宿生まれだったのか。俺は下北だ。近いな」
一方、裏壁は若い。二十代前半に見える身体を、夜戦用の黒色防具で包んでいる。
「どこかですれ違ってるかもしれませんね。少尉は小学生、私はしがない機動隊員、だったと思いますが」
「盾ぶん投げて人質4名を救った実績を持つ人が、『しがない』ね。お互いに警察官の評価基準には相当の乖離がありそうだ」
山田は苦笑し、肩をすくめた。
「お二方には故郷というものがあって良いですな」
ここで、会話の参加者が新たに1人。……いや、1体。
明らかに人間の肉声ではない、どちらかと言うと男性的な合成音声は続けた。
「自分の生まれは警察庁の怪しげな技術開発本部ですよ」
裏壁は自分の隣に座っている
防弾チョッキの間から見えるのは肌ではなく、配線が張り巡らされた装甲。顔には、生気を感じさせないレンズが二つ、鈍い光を発している。
彼は、俗に言う人型ロボットだった。
どうやら、ミレニアムという学校の技術が使われているらしい。
「それも立派な故郷じゃないか」
山田が笑いながら金属製の友人に言った。
「技術本部に、故郷的な温かみなんてありませんよ。時折、心の拠り所としての地元を持つあなた方が羨ましくなります」
「GA-17、お前。最近ますます人間みたいだぞ。こりゃ、“審判の日”は近いか」
「私をどこかの自惚れAIコンピューターと一緒にしないでいただきたい」
裏壁は2人の会話を一瞥すると、左手首に付けられたG-SHOCKに刻まれた数字に目を落とした。19時20分。
「お喋りはそこまでだ。……状況を整理する。総員傾聴」
UH60-JAの後部キャビンに詰め込まれた、山田、GA-17をはじめとする6名の部下が一斉に裏壁に注目した。
「ヴァルキューレ、という名の組織からの情報だと、女子高生3人がちと困った状況にあるらしい。我々はこれを──」
降下開始まで5分を切っていた。