D. U.を時計回りに一周する会道16号線は、帰宅ラッシュ時間を過ぎても渋滞が多発する混雑道路として有名だった。
だが、この道を使い慣れたD. U.住民にとってすら、今日の混雑具合は異常だった。この、連邦生徒会交通室が20年前のキヴォトス交通網再整備計画において敷き直した比較的古い会道は、とある1人の存在によって麻痺しかけていた。
「あなた様。ああ、あなた様。……なんなのでしょう。この胸の苦しみは……。名前も知らぬというのに……」
恍惚の表情を浮かべている、とは言えない。その人物は、和風な装飾を施された狐の面をつけていたからだ。
だが、胸を抑え、息はやや荒い。面から漏れた耳は夜でもわかるほど上気している。
少女の頭の中は、昼間に連邦生徒会の施設で会った大人でいっぱいだった。
「おいお前!」
そんな彼女に向けられる怒号。
「そんなところであぐらかいてんじゃねえ!どこだと思ってやがる。会道のど真ん中だぞ!」
「はい?」
怒号を浴びせた大型トラックの運転手は、一瞬で自分の行動の愚かしさを悟った。
立ち上がり、こちらを振り向いた少女。スラリとした高身長と、それを優雅に包む、百鬼夜行連合学園自治区の文化を色濃く反映した着物。そして手には、ボルトアクションライフル。顔は面のせいでわからないが、その人物を知らない人間はD. U.にいない。
「ワ、ワワワワワカモ!?」
直後、大型トラックはワカモが放った弾丸によって串刺しにされた。
ガソリンに引火し、吹き飛ぶ。
「あの方に思いを馳せる時間の邪魔をして、その対価を支払う覚悟はできていらして?」
「ひ、ひぃぃぃぃぃ!!」
逃げ去る運転手。周りの通行人や野次馬も蜘蛛の子を散らすように逃げ始めた。
ワカモは次のターゲットを素早く見定めた。路肩に停車しているタクシーが目に止まる。
そこに愛銃を向け、トリガーを絞ろうとした時、2機のヘリが頭上を高速で通過した。風圧がワカモを少しよろめかせる。
(武装ヘリ……)
一瞬、騒ぎを聞きつけた
機体にペイントされた『シャーレ特別介入保安部隊』の文字を、ワカモは見逃さなかった。
「『シャーレ』。昼間の施設と同じ名前……」
少女の足は、自身の興味と直感にしたがって、ヘリが飛び去った方に向かった。
「なぜか、楽しそうな予感がしますわね」
炎上するトラックに照らされる狐の面は、まさに不敵な表情そのものだった。
ヒナタもウイもまだ引けてません(涙)