「シャーレ特別介入保安部隊です。遅くなって申し訳ない。多勢に無勢の中、3人でよく耐えてくれました。あとは我々にお任せを」
ヘリから降下してきた大人たち。
その1人の、弾丸が飛び交う戦場にしては気味が悪いほど冷静な態度に、ユウカ、ハスミ、チナツは呆気に取られてしまっていた。
その間も、男たちは3人を中心に円陣を組み、その身と防弾盾で少女たちを守る態勢を作り上げている。
「おや、そちらのお嬢さん、もしかして怪我されてますか?」
「み、右腕が折れています!」
チナツがローター音に負けない声で伝えた。
目の前の若い男は、少女たちに気づかれないように小さく舌打ちをすると、「GA-17、そこのレディーに鎮痛剤を打て!」と叫んだ。
ハスミは近づいてきた存在にぎょっとした。黒いヘルメットの下から覗くのは生気のある目ではなく、二つのカメラだったからだ。
ロボットの手が変形し、注射針が出てくる。
「失敬」
ロボットは断りを入れると、それを素早く注射した。右腕の痛みがみるみるうちに引いてゆく。
「ありがとうございます」
「応急処置の出来が良かったからですよ」
(謙遜するオートマタなんて珍しいわね)
ユウカはふと思った。ミレニアムにいるオートマタは基本無感情なのだ。
若い男は余裕の表情を崩さないまま続けた。
「これより私が立っている地点から半径10メートルを絶対的な聖域とします。皆さんはもう安全です。2分後にヘリを着陸させますので、それに乗って救急病院へ行ってください」
「ちょっ、ちょっと待ちなさいよ!あなた達はどうするの?」
「問題ありません。ヘリの離脱まで不良たちを食い止めたのち、歩いて帰ります」
口を挟んだのは、顔に火傷の跡が目立つ壮年男性。
少女を安心させようと、微笑みを浮かべている。
「歩いて……?」
「皆さんをヘリで安全に離脱させるためには、地上に残って不良たちの火力を吸収する必要があると判断しました」
若い男は煙幕弾のピンを抜き、足元に転がした。周りの男たちも同じ挙動を示す。
瞬く間に、ユウカたちの周りを白煙のヴェールが包み始めた。
「名も知らぬ殿方」
ハスミが若い男に話しかける。鎮痛剤が効いたのか、表情はだいぶ穏やかなものに変わっていた。
「不良たちは、なにか怪しげな武器を使っています。強力です。ご注意を」
「ご忠告ありがとうございます」
若い男は無線でその情報を味方に素早く共有すると、ユウカ、ハスミ、チナツに背を向け、不良たちに向き合った。
小銃を構え直すと、姿勢を引くして駆け出した。周りの男たちも続いた。
そこからは、まるで魔法を見せられているかのようだった。
ユウカたちが散々手こずらされた不良たちを、大人たちは瞬く間に撃破していく。
ユウカたちには知る由もないが、この時、敵中に降下したナイト・ナインと、不良たちの背後に降下したビショップ・ワンが、不良たちを挟撃していた。
彼らは素早く動きながら、不良たちの眉間に正確に1発ずつ撃ち込み、次々と無力化していく。
と同時に、西100メートルの地点にある空き地に展開を済ませていたS.I.S.U.重迫撃砲小隊が、戦車や大型オートマタなどの装甲目標に対し、全力で効力射を開始していたのだ。
指揮官のいない不良集団は、瞬く間に瓦解した。
「すごい……」
ユウカたちは言葉も出ない。
不良たちならともかく、戦車や大型オートマタすらも生身の身体で制圧してしまったのだ。
「ありゃ。こりゃ離脱を急かす必要なかったかな」
若い男は空になった弾倉をライフルから抜きながら言った。まだ、1分も経ってない。
「クリア」
「クリア」
「オールクリア。半径50メートルに敵性オブジェクトなし!」
「よーし、よくやった!」
だが、この時、すでに新たな脅威はすぐ近くにまで迫っていた。
「少尉、重迫撃砲小隊の連中がなんか言っております。狐がこっちに来る、と」
「うん?狐?」
裏壁は無線機のつまみを回し、周波数を重迫小隊が参加しているものへと切り替えた。
聞こえてきたのは……。
『な、なんだあいつは!?』
『撃て!撃ちまくれ!』
『ぐ、ぐあああ。喰らっちまった』
けたたましく響く爆発音と銃声。そして続くのは、男たちの悲鳴だった。
『”ポーン・セブン”より全隊緊急警報!。現在、我々は奇襲を受けている、至急救援を。敵は1名、狐の面をつけている!繰りか……おい、待て。貴様、やめ───』
雑音と共に通信が切れた。
裏壁は無線機のつまみを戻した。
「狐坂ワカモだ。奴め、まだこのあたりにいたか」
事前情報にあった『七囚人』の1人だ。
昼間に目撃情報があったため、近郊に潜伏しているであろうことは裏壁もS.I.S.U.本部も予想していた。だが、ここまで積極的に戦闘に加入してくるとは思ってもみなかった。
「やっこさん、破壊が趣味でしたっけ?だとすると、かなり鼻が効くようですな」
山田軍曹が周りを見渡しながら言った。周辺は、たった今裏壁たちが破壊した戦車やオートマタの残骸が大量に転がっている。
「軍曹。尾刃とかいうヴァルキューレ連絡官によると、奴はかなりの要注意人物だ。これからキツくなるぞ」
「幸か不幸か、苦労には慣れています。少尉」
山田は自身の頬にある火傷の跡を示した。
「総員集合!」
裏壁は手を上に向け、張りのある声で味方に集合を促した。
山田、GA-17をはじめとする6名のナイトナイン小隊員に続き、ビショップワンの7名も駆け寄った。
ビショップワンは、SAT出身者が主なナイトナインと異なり、特殊作戦群出身者で構成されている。指揮官は角ばった顔を持つゴツい男だった。名は、宮崎。
「宮崎さん。無線は聞きましたね?」
「無論だ。重迫小隊は壊滅したと理解している」
宮崎は低い声で答えた。
階級は裏壁と同じ少尉だが、今回はSAT出身者が得意とする市街地戦のため、裏壁に先任指揮権が与えられていた。年は、宮崎の方が10歳以上上だった。
「これより狐坂ワカモを迎撃、無力化します。軽機関銃と対戦車ミサイルをビルの中層階に配置してください。残りの人員は地上で我々と共にワカモの相手をお願いします」
「心得た」
宮崎は部下たちに自衛隊式の荒々しくも正確な指示を飛ばじめた。
「軍曹、残骸を利用してバリケード構築。ワカモは西からくる可能性が高い。そっち方向を重点的に守れるよう頼む」
「了解です」
「ワカモは今にも来るぞ。急げよ」
「ちょっと!」
殺伐とした空間に似つかわしくない可愛らしい声が裏壁の耳に届いた。
振り向くと、部下2名にきっちりと守られた3人の生徒たち。中央の青髪の少女が口を開いた。
「私たちも戦います」
「お気持ちは嬉しいのですが、駄目です」
裏壁は言下に否定した。
「私たちの任務はあなた方を救出し、安全を確保することです。その対象を戦闘に参加させるわけにはいきません」
「どうしても駄目ですか」
「我々の存在意義に関わります」
「ふーん。そうなんですね」
青髪の少女はそれを聞くと、片手に握ったサブマシンガンを自分の太ももに押し当てた。
躊躇なく引き金を引く。
「何をなさるっ」
銃声が響き、少女は小さく「く〜〜」と悲鳴を上げた。
「いっっった〜。み、見てください。なんともありません」
「………」
「ご覧の通り、私たちは怪我をすることがあっても、ヘイローが無事な限り死ぬことはありません。ひどい後遺症が残ることも稀です」
口を開いたのは眼鏡をかけた少女。フレームの先にある眼差しは真剣そのものだ。
「チナツの言う通りです。心配は無用。一緒に戦わせてください。皆さんが苦労されているのに見ているだけなのは、正義実現委員会の沽券に関わります」
長身長髪の少女が続けた。
裏壁は夜空を見上げ、息を吐いた。少し思案。そしてぼそりと一言。
「……この世界のJKは敵も味方もぶっ飛んでやがるな」
「「「はい?」」」
「いや失礼。そこまでの心意気、感服しました。では、頼みます。しかし!」
裏壁は、これだけは絶対譲れない、という言葉を言外に込めて言った。
「あなたたちを守れ、という先生からの命令はまだ有効です。もしも貴女がたに危険が迫れば、私の部下たちはその身を持って皆さんを守ります。ですから、決して前には出ないでください」
3人は渋々といった風ではあったが、頷いた。
奇しくも、S.I.S.U.とキヴォトス生徒の初の共同戦線が完成した瞬間であった。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
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書き溜めた話がなくなったので、次回の更新は少し間が開くかもしれないです。