『“ナイトナイン”へ。こちら”クイーン2”。ターゲット・デルタは184号線を東へ移動中。貴隊との距離、約50メートル。まもなくそちらの視界に入るはずだ』
「“ナイトナイン”了解。航空攻撃の効果は?」
『
「”クイーン2“、大丈夫だ。……対戦車ヘリを持ってくるべきだったな」
『バカ言え。あれは今頃
「キヴォトスには無いか、だろうな。……
『……幸運を、“ナイトナイン”。戦闘後は死んでも回収してやる。回収地点は“サターン5”』
「“サターン5”了解。よろしく頼む、“クイーン2”。俺に女子高生に殺される趣味はないからな。オーバー」
『交信終了。グットラック』
◆
「あらあら?」
ワカモは首を捻った。
そこにいたのはヴァルキューレの警官隊などではなく、完全武装の特殊部隊だったのである。しかも、大人。彼らは路上にバリケードを築き、完全な迎撃態勢だった。この事実は、ワカモにさらなる興味を抱かせた。
「あの、名も知らぬ素敵な殿方はいらっしゃるのかしら」
バリケードで自分の接近に備える大人たちをざっと見る。
昼間に会った大人は……。
「あら、残念ですわね。いらっしゃいませんの。なら」
ライフルのボルトを操作し、弾丸を薬室に送り込むか
「破壊あるのみ、ですわね」
ワカモは愛銃を軽々と扱い、銃口をバリケードの中央に向けた。
バリケードの大人たちが射撃を開始したのはその時だった。発射炎がきらめき、無数の弾丸がワカモの身体に殺到した。
「甘い狙いですわね」
だが、ワカモはそれを軽々と回避した。跳ね上がり、空中で身体を一回転させたのだ。特殊部隊の放った弾丸は、何もない空間を貫いた。
ワカモは羽根のように柔らかく着地する。照準をバリケードに合わせ、すかさず引き金を絞った。放たれた弾丸によってバリケードの一部が吹っ飛んだ。大人たちの悲鳴が耳に届く。
その刹那、ビルの中層階から凄まじい勢いで突進してくる物体が目に入った。
ワカモは反射的に愛銃をそちらに向け、発砲。弾丸に撃ち抜かれた物体は空中で爆発した。破片と火焔がワカモの周りに降り注ぐ。
「対戦車ミサイル?物騒なものをお持ちで。……ッ!」
ワカモはそこで自身のミスを悟った。撃墜したミサイルの影から、新たなミサイルが向かってきていたのだ。
これは流石のワカモもかわせなかった。自身の脇腹に命中し、爆発した。
「くっ……!」
凄まじい鈍痛に、一瞬息が詰まる。
「……1発目が撃ち落とされる前提で、その影に2発目を忍ばせておくなんて。なかなかのやり手ですわね」
ビルからの攻撃はそれだけではなかった。機関銃が銃弾を浴びせてきたことに加え、重い一撃が、ミサイル直撃の痛みから立ち直っていないワカモを襲った。
「がはっ!」
肩に走る鋭い痛み。ワカモには知る由もないが、ハスミのインペイルメントから放たれたものだった。
ワカモはビルに向かって発砲した。ビルの窓ガラスが割れ、砕かれたコンクリートが四散した。ダメージを与えることができたのか、射撃が停止する。
ここで、ワカモは自身の周囲に白煙が充満し始めていることに気づく。
「発煙筒……!」
煙幕によって、視界がかなり悪い。
ここではっとなる。
ワカモは愛銃を構え直すと、バリケードの方向に弾丸を撃ち込んだ。煙幕が充満しているため、概算方向だ。発砲の影響で煙幕が少し晴れる。
「!」
ぬっと、煙の中から手が現れた。その手は、ワカモの愛銃を手にかける。
「小癪ですわよ!無名の特殊部隊員!」
ワカモは掴みかかってきた手を振り解くと、大人の顎に膝蹴りを喰らわせた。喰らった隊員は堪らず背中から地面に倒れる。
「怯むな!」
「体格じゃこっちが上なんだ。抑え込め!」
煙の中から響く大人たちの声。
ワカモは敵の作戦を悟った。
ビルからの攻撃に意識を向けさせている隙に、煙幕に紛れて距離を詰めてきたのだ。
大人たちは、銃ではワカモを倒せないと悟り、数と体格で締めにかかってきた。
「なんて無粋な!」
「それが大人だよ。狐のお嬢さん」
背後から聞こえる若い男の声。
咄嗟に愛銃で防御の姿勢を作ると、案の定銃床が振り下ろされてきた。
自身のライフルが敵の小銃を受け止める。二つの銃が十字に交差し、火花が散った。
若い男はニヤリと笑うと、グレネードのピンを抜き、足元に落とした。その側面には『閃光』の二文字。
凄まじい爆音と閃光が発生し、視覚と聴覚が数秒間遮断される。
刹那、それを見計らったかのように大人たちが飛びかかってきた。
「掴んだぞ!」
背中から肩に腕を回され、自由がきかなくなる。
顔に火傷痕のある男が叫んだ。
「今だ、GA-17!」
「了解。打ち込む!」
もう1人の男の左手が変形し、注射針の形になる。そこに充填されている薬品が、生物を鎮静化させる類のものであることをワカモは一瞬で悟った。
「させません!」
愛銃を振り上げ、若い男を小銃ごと突き飛ばすと、注射針を今にも刺さんばかりの男の左腕に、渾身の手刀を繰り出した。
機械の腕が切断され、破片が宙を舞う。
ワカモは、返す刀で愛銃を火傷痕のある男にぶん投げた。
銃床が男の顔面に直撃し、防弾ガラス製のバイザーを砕いた。男は短い悲鳴とともに倒れた。
「ふぅ」
ワカモは大きく息を吐いた。
自分に挑んでくる大人はもういない。距離を詰めてきた大人たちは、全員倒したようだ。
煙幕が風で散り始める。
あたりは、横たわる大人たちのうめき声が充満していた。
「なんて無茶苦茶な人たち。でも……」
ワカモは妖艶な表情を浮かべた。
「こんな熱く、
身体の火照りはまだまだ抜けなさそうだった。
「動かないで!狐坂ワカモ!」
背後から届く鋭い声。
聞き覚えがある。確か……。
「早瀬ユウカ」
ワカモはぼそりと名をつぶやいた。
振り返ると、青髪ツインテールの少女が立っている。足は震えているが、その眼差しは真っ直ぐワカモの目を見ていた。
二丁のサブマシンガンをこちらに向けている。
「チナツさん、今のうちに早く皆さんを……!」
メガネをかけた少女が、倒れた大人たちを私から少しでも離そうと引きずってゆく。
さっきミサイルを撃ち込んできたビル中層階からは、正義実現委員会の羽川ハスミが地上に降り立ち、こちらに向かってきていた。
それを見てワカモは口角を上げた。
「今夜は、まだまだ楽しめそうね」
「そこまでだよ。ワカモ」
その時、落ち着いた男性の声が響いた。
その言葉を聞いて、ワカモの心臓は跳ね上がった。
昼間、シャーレの地下にいた男性の声だったからだ。
咄嗟に振り向くと、『S.I.S.U.』とペイントされたセダンの脇に、身に覚えのある男性が立っている。
「先生!」
ユウカが喜びに満ちた声を上げた。