side ユウキ
あれから4日。29層で、メテオラに手伝ってもらいながらレベリングをしている。今のところは28。悪くないペースらしい。
「……いまドロップしたやつは今使ってる細剣よりもいいものが作れる素材の一つだな。揃ったらリズのところに行くとしようか。」
今キラー・ビーと言う名モンスターを倒したときにドロップしたキラー・ビーの硬い顎というこの素材……見た目がスズメバチの顎に似ており、気持ち悪い……
「うっ、ちょっとこれは……」
「流石に見た目がよろしくないな……俺が持っとく。」
アイテムを渡すとメテオラは『ユウキのもの』と分類されたストレージに収納される。こういったアイテムは彼が持ってくれている。
クキュルルル……
自分のお腹から聞こえた……
思わず自分のお腹を抑える。
「あっ……」
彼に聞かれちゃったかな……?
「……誰かの腹の虫が騒がしくなってきたな。そろそろ昼にするか。」
「あぅ……はぃ」
聞こえてるじゃんか……
―――――
さっきまで入っていたダンジョンの入り口付近にある岩に腰掛けて、牛型モンスターからドロップした食料アイテムである、お肉を使った焼肉丼を食べている。
彼は料理スキルが600を超えて、こういった料理をおいしく作ることができるそうだ。
鍛冶スキルはカンストしていてどれに振るか悩んでいるポイントが、別のスキルを0から1000にしても余るくらいあると彼が言っていた。
まぁレベルのおかげなんだろうけどね……
「おいしい……」
甘辛く味付けされた、赤身の牛肉のようなしっかりとした肉質を噛めば噛むほど旨味が溢れ、下にあるお米のような穀物が欲しくなる。
「だろ?見た目もできる限り現実に寄せてみた。」
「この淡黄色のお米みたいなのはどうやって作ったの?」
色はともかく、味や食感は米そのものだよね……?
「植物型を倒したらたまに落ちる植物を交配させたんだ。一層で水張ってる場所みただろ?そこで作ってる。」
「へぇー、あれがそうなんだ……現実で見ることなかったし、ここに来る前はこんな美味しいもの食べれなかったからな……」
ほとんど学校か家、もしくは病院の壁ばっかりだったからな……
「……ユウキもメディキュボイド使ってるのか?」
突然流星が僕が使っている機械を言い当てる。
なんでそれを!?
「……どうしてボクの使ってる機械を知ってるの?」
「いやなに、俺も治療の目的で使ってるから、もしかしたらと思って。」
「そうなんだ……ボクと同じだね。」
「そうか……でもなんでユウキは使ってるんだ……?
いや、言いたくなかったら言わなくていいんだ。これはプライバシーだからな。」
彼が言わなくてもいいと言うけど、彼になら……言っても大丈夫かな?
「僕はHIVを持ってるんだ……生まれるときに輸血をして、感染したんだ。」
「今はありえないはずだが……」
確かに輸血にHIVがないように検査はあるはずだけど、手違いでHIV感染者の献血が検査に引っかからずに混ざってしまったというのが病院からの説明だ。
「その病院から賠償金はもらったんだけど……お母さんはもう戻って来ないし、お父さんも……っ」
脳裏に姉と学校から家に帰ってきた時、薬の瓶を持って倒れているお父さんが映し出される。
「お姉ちゃんもエイズを発症してもって数週間って言われてた。今はもう居ないと思うな……
お姉ちゃんはね、ほんとはボクが今使ってるメディキュボイドでほんとはもっと病気の進行が遅くなるはずだったんだ。
それでも、ボクがいつかこの病気の治療法で治るようにって僕が使うことになったんだ。」
このゲームでは感情もリアルなのか、涙がとめどなく流れ出す。
「……そうか。」
「なんでみんな先に逝っちゃったの……?」
これを話した後から話は止まり、嗚咽が止まらなくなった。
「お母さっ、お姉ちゃっ……」
「……大丈夫だ。」
彼が背中をさすってくれる。
ハラスメントコードの表示が出るが、NOと回答する。
今は誰かにこうしてもらいたい。
―――――
「―――それでALOにログインしたらこっちに飛ばされたっていうわけ。」
泣き止んだ後、事の顛末をすべてメテオラに話しきる。
彼は終始、なにか考える表情をしていた。
「なるほどな……ユウキのやつだけ聞くのは良くないな。俺もなんでこの機械を使ってるか話すとしよう。
実はな、俺は現実で大怪我したんだ。いつ死ぬかわからん。」
「それは……どうして?」
彼の行動には傷を負っているような動作は見受けられなかった。どこを……?
「こっちのアバターには反映されてない……
彼が内容はかなりグロデスクというが……
一呼吸入れて気を引き締める。
「……聞かせて。ボクは聞き入れるよ。」
「後悔するなよ?
おれはほぼ全身が火傷して、肩が無くなって左の肺も上半分潰れてた。心臓にも穴開いてるって言ってたな……頭がやられてなかったのが奇跡だ。」
全身怪我をしていない場所はないという。どこでそんな怪我をしたかも疑問だけど、大前提で……
「……なんで死んでないの?」
「昔からそういった悪運は強いんだよ。火傷の方は治せるが、左上半身は絶対跡が残るらしい。」
「そうなんだ……」
「ある日、突然消えるかもしれない。その時は、俺が死ぬ瞬間だな。ま、来ないと思いたいがな。」
そう言って彼は笑い飛ばす。
……メテオラはすごいなぁ。そんな悲惨な状況でも強く生きれるから。
その後、いろいろな話をした。逃げやすいけど経験値を大量に貰えるモンスターを倒して、目標のレベルに達した時、またHIVの話に戻った。
そこで、何度か見たことのある、とある希望を話す。
「ある病院のテレビのCMを見たんだ。」
「ほう……どんなだ?」
「それはね……HIVの特効薬の被験者を募集してますって。」
きっととんでもない倍率だろうし、僕なんかがそんなのに選ばれる訳……
「……相談相手がドンピシャでよかったな。」
「……え?どういうこと?」
「この際言っちまうか……あまり拡めないでくれよ?
俺は、メテオラは、ツィマッド社社長尾白流星。」
「……うええぇぇっ!?となるとあのテレビのニュースとかでたまに映るあの……?」
眼の前にいる彼がまるで違う次元の者に見える。でもなんでカミングアウトしたの……?オンラインゲームではご法度なのに……
「その認識で間違いない。馬が良すぎてびっくりかもしれんが、その募集してるのもうちだ。」
「でもHIVの特効薬の被験者にそんなので選ばれるわけ……」
そんな都合のいい話なんか……
「いや、みんな信じないから、かれこれ2年位募集してるが応募者ゼロだぞ?」
あるの!?
メテオラが頭をポリポリ掻きながらなんでだろうな……と喋る。
「えっと……つまり……」
「ユウキが第一号被験者だな。ちなみに効果の方は期待してもらっていいぞ?猿とかでやったら10匹中全部完治した。」
「僕は、現実世界で生きることができる、の?」
「そういうことだな。このゲームが終わったらすぐに手続きを始めるか?」
彼が確認を取る。僕のこの病は
「お願いしますっ!」
治せるっ!!
「ただし、約束が一つある。」
彼が人差し指を立てる。なにか条件とか……
「……え?」
「いいか?絶対に死ぬな。治せるものも治せなくなるからな。」
そんなことなら……
「わかった!絶対死なない!」
お姉ちゃん、メディキュボイドをボクに譲ってくれて、ありがとう。お姉ちゃんの願い、叶ったよ。
―――――
回想を終え、意識は現在、さっきの話の3日後である夜の宿に戻る。
「……で、明日からはカンザ達と行動するんだな?もしあれならこっちについてくることもできるが……」
手帳を閉じた彼が明日からの行動を再確認する。ボクの決定に変更はない。
「ううん、カンザと行動する。そして、ボクがもっと強くなってキミを驚かせてみせるよ!」
「そうか……期待しとこう。今日はもう寝よう……ユウキも早く寝な。こっちで疲れたら現実の方に悪影響があるかもしれん。おやすみユウキ……」
そう言って彼が毛布を被り横になり、すぐさま寝息が聞こえ始める。彼が今までレベリングしてきて、疲れているのかな……キリトもかれは今まで寝る間も惜しんでずっと行動してたって言ってたし……
「おやすみ、メテオラ……無茶しないでね。」
彼の布団に潜り込んで睡魔によって意識を落とす。
彼の体温はまるで昔お姉ちゃんと一緒に寝た時のように暖かった。
次の日の朝、彼と一緒に起きると、
「まさか……!?こんな屑の俺を殺せ……」
「なんにも間違いは起きてないよ!?ボクが勝手に入っただけだから!」
彼が不埒な行為をしてしまったと勘違いし、自分の首を切ってくれと言ってきた。
全力で間違いは起きてないことを説明してなんとか収まった。
ユウキ死亡フラグ……それはこの世の歪み……生存こそ至高……!
というわけでユウキ生存ルートに入りました。
次回はトラップルームのところですね。お楽しみに。
最近、小説の頭に乗せている誰かの1幕は……
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ナシ