悪役生徒になろうとしたけど出るタイミングを見失った   作:ミステイク

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第一話・間抜けな悪役

 少女の夢は、悪役になることだった。

 

 理由などは特にない。少女は物語の理不尽に暴力の限りを尽くす悪役達を憎み、しかし魅力的に映る悪役達のように、醜く無残に散る姿に憧れた。

 

 少女の名前は、明方トマレ。

 この世界風に自分で考えたもので、特に名前の由来があるわけではない。

 

 本来の名前は、忘れた。

 冗談でも何でもない、彼女は自分に関する記憶が殆どない。名前も両親のことも、過去に何があったのか一つも憶えてはいない。

 

 それは彼女がこの世界の存在ではなく転生者と呼ばれる存在故なのか、それは分からない。

 しかし随分と幸せな暮らしだった事だけは憶えている、トマレの頭の中は自分の事などない代わりに、フィクションでいっぱいだからだ。

 

 彼女という存在を一言で表すなら、得体の知れない異能を授かった魔女。容易く厄災を齎せる権能を持って生まれてしまった。

 

 この世界の異物。

 

 さて、話を戻そう。

 トマレは悪事を働いた経験も記憶もないし、何なら困っている子供を率先して助けるくらいには善良だった。

 そんな()()な彼女が、どうして悪役になどなろうとするのか。

 

 それは彼女の中に秘められた、才能と異能。

 そして生前からの夢。

 

 この世界にはない異世界の悪の力、あるいは才。少女はそれらを持ってこの世界の大地を踏んだ。

 この世界とは共通点も殆どないが、この能力と才能を持っていた悪役達は、トマレから見れば皆魅力的な一面を持っていた。

 

 トマレはそんな悪役達の力を持ってこの世界に来てしまった。

 

(これは私に悪役になって先生の敵として戦えって言う、神様からの贈り物だ!)

 

 トマレの言う悪役とは、冷酷非道な理不尽と災害の様な者達のことを差している。

 

 青春の物語、ブルーアーカイブ。

 様々な逆境を前に、先生と共に生徒達が苦境を乗り越えていく様は感動と感嘆があった。

 トマレはそんな彼女達の逆境を乗り越える姿を間近で見たい。

 

 想像を絶するほどの巨悪を前に、どうやって立ち向かうのかが見たい。

 

 そしてその最期に、無様に死にたいと思っている。

 

(先生と本格的に敵対する生徒、ミカやリオの比じゃない掲示板で連日アンチに批判されるくらいの悪役になれと神様は言っているんだ)

 

 少女の憧れた悪役達の多くは、先生だろうと手に余るロクデナシの中のロクデナシ。

 極悪人選手権を開催すれば上位を総なめして殿堂入り間違いなし、しかし悪役として見るならばとても魅力的な者達。

 

 トマレも、キャー、愛してるー! さっさと死んでー! とプレイヤーから言われるような存在になりたいと思っている。

 

「神様ありがとう私に能力をくれて、絶対立派なロクデナシになってみせるよ……!」

 

 居るかも分からない神様に感謝して、ふとどうするか考える。

 

(流石に生徒を殺すような事はしたくない。確かに私は悪役達のファンだけど、同じくらいブルーアーカイブの世界が好きだし……)

 

 トマレは巨悪にこそ成りたいが、本当に彼女達の青春を粉々にするような事を望んでいない。

 彼等のような言動をすれば悪役にはなれるだろうが、その場合はトマレを倒すことは出来ないだろう。

 反則を持った魔女を倒せるとすれば先生くらいだ。

 

「悪役にはなりたいけど、生徒達を殺したくはないしなぁ……」

 

 自分という悪を倒すために立ち向かってくるという状況なら大歓迎。

 その末に倒され、ヒーローに殺されるなら本望。

 

 しかし元プレイヤー、先生として生徒達のことは大好きなので無意味に彼女達を傷付けるような真似はあまりしたくないという気持ちもある。

 

 先生の迷惑は無視かと、言ってくれる人間は生憎居ない。

 

(生徒は絶対殺さない、その範疇で悪役になる方法を選ぼう)

 

 最低条件は守りながら、しかし先生に悪者として見られるレベルの悪役としてキヴォトスで恐れられるにはどうすれば良いか。

 

「モブの子だって一応生徒だし生きてるし、傷つけるのは無し! 戦うにしても強い子だけで軽傷か行動不能に留める! ……かなり難しい?」

 

 キヴォトスで銃撃戦を経験すれば、怪我はある程度するだろう。

 だが此処ではそんな者はただの問題児くらいにしか扱われない。

 

「やっぱりやるからにはアルちゃんみたいに組織を作った方がらしいかな? 悪の組織……私が名乗るからには、魔女教が良いか!」

 

 それはトマレが好きな作品の一つ、思い起こす悪の組織の中でも最上級に統率性もなく、不健康な集団。

 トマレの持つ力にも関係している。

 

 最悪な組織を透き通る世界に造ろうとする自分は間違いなく最低な悪だろうとトマレはほくそ笑んだ。

 

(最高に外道な悪役の最期は先生と生徒達の目の前で惨めに死ぬ。最高の散り様を演出してやる!)

 

 最低の夢を追い求める少女の瞳はとても輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(その筈だったのに……なんでこうなったんだろう……)

 

 ここで先に説明しておこう、既に分かっている者も居るかもしれないがトマレはなろうとする必要もなく既にロクデナシである。

 行おうとしている事は迷惑行為そのもので、悪になろうと悪事する。その点は陸八魔アルと似ているが、彼女と違うのは洒落にならない異能を持っている事。

 

 生徒に対する慈悲の心がなければ、文字通り災厄を振り撒く極悪人となっていた事だろう。

 

「怠惰 頼まれていた仕事完了したぜ。お、魔女様も来てたのか!」

 

 トマレは好きな悪役達の能力と才能を合計で十人分、持ち得ている。

 彼等の格闘技や戦闘技術、彼等の培ってきた人生経験以外を持ち、その記憶や精神に振り回されることはない。

 

 まさに反則(チート)

 力を使いこなし、フルパワーを発揮すればキヴォトスを滅ぼすなど訳ないだろう。

 邪悪な者が振るえば手の付けられない怪物になる。

 

 その恐怖と名前をトマレは望んでいるのだが。

 

「入信希望者がまた集まってやがるぜ、どうする?」

 

「彼女達は私が対処します。それと【憤怒】。魔女様には敬語を使いなさいとあれほど……」

 

「ああ? 別にいいだろ。なあ魔女様?」

 

「か、構いませんよー……」

 

「ほれ! こう言ってるぜ?」

 

「全く……魔女様はお優しすぎます」

 

 力を持つ者の下に人は集まった、訳ではない。

 

 純粋な人徳? お悩み相談? ボランティア? その全てである。

 彼女は悪の組織を作るなら宗教ではなく、それこそアル社長のような便利屋でも営めばよかったのだ。

 

 そうすれば、仕事上ではあるが悪を執行する機会に幾度でも巡り会えた。

 

 だがトマレは悪の組織を作るのに失敗した。

 

 魔女教はキヴォトスを恐怖に陥れる悪の組織ではなく。

 キヴォトスを救う組織として存在している。




持っている悪役の能力は一作品に一人です。
あとこの主人公は生徒にだけ優しいクズです。
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