悪役生徒になろうとしたけど出るタイミングを見失った   作:ミステイク

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第三話・誹謗中傷ラップバトル

 徹底して善人を演じれば善人。

 魔女教の信徒達、キヴォトスの生徒達がトマレを信じるのは彼女達の理解力や察知能力の問題ではなく、ただトマレが良い人として接したが為だ。

 

 慈善事業やボランティア、時には個人や勢力の問題にも力ある限りの手助けをして好感度を稼いだ。

 

 これに関してトマレは気にしていない。

 これらの行動は仲間を集める為と、いずれトマレが自分の悪性を暴露してその反動から膨れ上がる憎悪の為のもの。

 意図して出来上がった信頼だ。

 

 自分達はこの悪党に騙されていたのだと生徒達は知れば、トマレという悪は更に高い格を得る事が出来る。

 

 無名の司祭と、人体実験の被害者。

 この二つの要素が何処から来たか知らないが、まあそれも嘘だったという事にすればより憎悪の味を調える良いスパイスになってくれるだろうと考えている。

 

(問題はそのタイミングなんだけどね……)

 

 自分は悪い奴である。

 このキヴォトスを滅ぼす邪悪な存在である。

 

 そう暴露して、先生に憎まれてやろうか。

 そんな雑な作戦をトマレは考えたが成功する訳がない。

 

 口先だけの悪事、先生以前に誰も信じはしない。

 なんだか子供が騒いでるくらいにしか思われないだろう。

 

(それにそんな悪役カッコよくないー!!)

 

 頭に着けていた黒いヴェールを投げ捨てて言う。

 

 トマレはロマンを追い求めるバカだった。

 

 能力を100%フルに使って、キヴォトスを攻め落とす事など朝飯前。

 大虐殺の犯人となって、憎悪と恐怖の権化となるのは簡単だ。

 

 しかし生徒は傷つけたくない。

 

 暴れるだけの行為は他の不良生徒が飽きるほどやっている。

 だからこそ、組織を作って悪名を轟かせるなどを目的としていた。キヴォトスの裏で弱者を踏みにじって搾取する。

 自分の利益の為だけに利用する生徒を傷付けない範疇での、吐き気を催す邪悪。 

 

 この時点で邪悪になる気があるのか疑問だ。

 

(暴露するんじゃなく、先生か生徒達の手によって正体を暴かれる悪になりたい!)

 

 そもそもトマレは悪事を成していないので、暴くべき悪性などない。強いてあげるなら他の自治区の生徒を吸収していたり、アリウスなどを匿っているところなどだが。

 

 勝手に作られた魔女教は色彩からキヴォトスを陰から救う正義の秘密組織的なものになり。他の信徒達を含め、命令する権利は魔女様にはないので部下を使っての悪事もしていない。

 命令権関係なくトマレが一声言えば彼女達は従ってくれるだろうに、妙なところで真面目である。

 

(先生に悪い生徒だと思われるには……にはー……)

 

 良い塩梅で悪事を働き、先生や生徒に自分がやったという証拠を残し、そこから自分は途轍もなく悪い事を考えている内容を察せられるように誘導し、先生達がトマレを止めに行こうとするように行動を操作する。

 

 無理だ。

 

 反則(悪役達)の恩恵は彼女の戦闘能力や悪の才能、知識に関してのみ。

 戦術や戦略、本物の悪巧みの才能なら兎も角。

 

 誰も傷付けず巻き込まない、悪巧みのふりをする才能など誰も持ってはいない。

 

(うん! 思いつかない!)

 

 もう一度言おう、トマレはバカだ。

 ただのバカではなく、悪の才能だけがないバカ。

 

 しかしそのバカさのお陰で、こうして世界は未だ平和でいられる。

 

 悪い事しよう、悪い事をしよう。

 そう何度も考えて実行に移し、満足に成功させたことは一度もない。

 力とは使う者によって善にも悪にもなるものだが、これ程まで悪の才能に嫌われている者は珍しいかもしれない。

 

 生徒に対する良心を失くせば、トマレの悪の才能は大歓迎でその行動に応えてくれる。簡単に大悪党になれるのだが、そう簡単に心を捨てられる人間はいない。

 

(いっそ本当に仮面ライダーみたいな存在になろうかな……)

 

 その方が上手く行く。

 少なくとも似非ヒーローのカイテンジャーよりは良く見られる。

 

 彼女の持つ能力の中にはヒロイックな異能もあるので、スーツに着替えれば彼女の知名度と合わさって大人気ヒーローとなれるだろう。

 

(それも直ぐに噂になるのだろうなぁー、ネットの掲示板に書かれたり、はは……いや待てよ? 噂?)

 

 悪巧みを思いついたトマレは、ハッと項垂れていた顔をあげる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トマレは魔女教の魔女、明方トマレとしては有名であるが実は彼女本人の素顔を知っている者は少ない。

 銀髪に紫紺の瞳の美少女、という特徴は伝わっているが、この銃と神秘のファンタジーな世界では髪色や容姿の美醜で判別できる要素にはなりえない。

 そもそもトマレは悪役らしさを出すためにあえて黒いヴェールで顔を隠す格好をしている。

 

 全ての黒幕はある程度姿を隠しておく方がベターだからだ。

 

 演出の裏工作をする上でも容姿隠しは都合が良い。

 それが上手く行った試しは一度としてないが。

 

「いらっしゃいませー」

 

 素顔を晒していけば少なくともカフェの店員に魔女と思われることはない。

 最悪能力を使えば顔や容姿を誤魔化すのはわけない。

 

「本当に悪い事をする必要なんてない、そうやったっていう噂をでっちあげれば良いんだ!」

 

 誰も居ないネットカフェの一室で笑うトマレは、パソコンの前に向かってニヤリと笑う。

 

 このキヴォトスでは前の世界と変わらない情報社会。

 ネットの呟きが瞬く間に世界中に広まり、あらゆる者の目に留まる。

 

 クロノススクールなどの報道によるテレビのニュースとは違い、派手さには欠けるが素人でも情報を拡散できるアイテムはパソコンだ。

 

 ネットニュース、呟き、掲示板。

 幾つもあるそれらを利用して、トマレが如何に悪の権化のような存在かを知らしめる。

 それが彼女の目的だ。

 

(自分のスマホだと履歴から自演ってバレるかも知れないからね……)

「にしてもなんでこんな簡単な事思いつかなかったんだろ、魔女教とか一々作ってる場合じゃなくこっちの方が楽じゃ~ん!」

 

 ネットで悪事の噂を流す事が一体どれほどの効果があるのかは疑問だと、言ってくれる人間は生憎この世界の何処にも居ない。

 そんな場所から悪事を露見する悪役は果たしてカッコいいのか。

 

 まあ、こんな所で遊んでいる時点でカッコいい悪役も何もないだろうが。

 

(早速私がどれだけのワルかって言うのを拡散したいけど……あんまり思いつかないな、突拍子のない物だと流石に信じられないだろうし……)

 

 悪役として事件を起こそうとしては邪魔をされ、タイミングをミスるなどで不可抗力的に介入し。時に善人の振りをしてやっぱり良い事をするなどを繰り返し、トマレと魔女教の存在はキヴォトスでも一二を争う程には有名になっている。

 

 良い人のイメージが浸透し過ぎている事もあり、下手な噂は与太話と一蹴されるだろう。

 

 本編が始まる前から行ってきた行動が積み重なり、表向き危険組織とヴァルキューレなどの他学園の生徒にも目を付けられるようにはなっているが、トマレ本人の人柄と善行を信じられ思っている程の緊張した関係にはなっていない。

 

 その緊張の糸を切り落とすのがトマレの目的。

 

(ネットから警戒を促し、危険な組織と勢力を送られてそれを返り討ちにでもすれば更なる警戒心を煽ることが出来る。そこからなんやかんやで私という悪をアピールするんだ)

 

 なぜお前は悪事をする時だけIQが下がるのだ?

 そう言ってくれる人間はここに居ない。

 

 そのなんやかんやが一番大事なところだというのに、具体的な構想が出来上がっていない。

 だが警戒を促し、周囲から敵対意識を集めるという計画で悪者になる。無知な民衆の憎悪を煽り、悪者に仕立て上げるという手段は彼女にしては良い作戦と言えよう。

 いやこの場合は、外付けの悪の才能達を褒めるべきか。

 

 もっとも、その対象が自分自身というのは変な話に違いないのだが。

 

「えーっとまずは……トマレは非道、リーダーは卑怯、魔女教のヒモ。冷酷非道傍若無人の大魔王でっと…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔女教の本部、教会は連邦生徒会から数十キロは離れた人目の付かない場所にある。

 元々は廃墟だったものを怠惰の大罪司教、クダレが買い取り改築工事をして教会となった。もっとも外観も内装も教会というより、小さなオフィスビルそのものだが。

 

「魔女様は?」

 

「またお一人で出て行かれました行先も仰られず。護衛に行くように何名か向かわせましたが振り切られるかもしれません……いつ頃お帰りになるのかも」

 

「そもそも魔女様、教会を拠点にすること殆どねぇだろ。アイツどこかの廃墟や廃ビルで寝泊まりしてるのとか普通にやるしな」

 

「アイツ呼びは不敬ですよ憤怒!」

 

「別にいいだろ、ここには事情知ってる幹部しかいねぇんだから」

 

 八人分の椅子が並べられ、内四つが空席の会議室。

 

 色彩と無名の司祭対策組織。は表向きで、実際は魔女様のファンクラブ、魔女様守り隊とでも言えるような組織。

 実態を良く知る幹部の一人、憤怒の大罪司教である自分は溜息を吐いて行儀悪く会議室の机に足を乗せた。

 

「ルフ、行儀が悪いですよ」

 

「今更だろ」

 

 緑髪の少女、怠惰が自分の足癖に苦言を呈するが、同僚の視線が自分に集まらないのも見て分かるように何時もの事だ。

 

「はぁ、月一でやる幹部会議に他の奴らや魔女様がいねぇ……のは珍しくねぇが、傲慢まで姿が見えねぇぞ? 会議始めてもいいのか?」

 

「彼女はミレニアムで軟禁中です」

 

「なんで?」

 

「ミレニアムの資金を横領したとか、盗んだとかでC&Cのエージェントに捕えられてから連絡がありません。無事なのは確認されています」

 

「あのバカなにやってんだ……?」

 

 傲慢の大罪司教、黒崎コユキの姿が見えないと思ったらそんな事になっていたのかと此処に居ない同僚の行動に呆れる。

 

 仕方なく幹部とボスが居ないまま、会議は始まる。

 議題はもちろん魔女様のこと、ではなく魔女様を苦しめる怨敵色彩と無名の司祭達についてだ。

 

 魔女教が初めて対面した、本物の敵対勢力。

 キヴォトスの空が紅色に染まり、先生と生徒達の活躍によって解決したが、それでも魔女教が出来た事は殆どなかった。

 

「塔の一角、虚妄のサンクトゥムでしたか……あれの一つを相手にしましたが、やはり我々だけでは手も足も出なかったでしょう。魔女様と違って」

 

「戦力を投入し過ぎた所為で、他の自治区にも俺らの規模や戦力も割れちまったのも痛手だ。前より更に動き辛くなるぞ、一応俺達非公認の組織だし、身内の殆どの脛が傷だらけだからな」

 

 謎の機械軍、色彩化したデカグラマトンなる兵器、その他様々な未知の技術を使われた何かと戦い魔女教は大きな負傷者こそ出さなかったがそれでも戦力差は圧倒的だった。

 その為に投入した戦力も、あまり行儀の良い者達ではない。魔女様によって改心こそしたが、それでも身分的には犯罪者側の生徒達も少なくない。

 

「色彩のこと、本人に直接聞けねぇのか? 色々知ってるんだろ?」

 

「今でも……お答えになってくれません」

 

 魔女教は魔女、トマレが創ったものではない。

 あのお優しい魔女様が周囲を巻き込んで、こんな禍々しい幹部の二つ名を付けはしないだろう。魔女教は昔から無名の司祭と一人で戦い、ボロボロの姿となっているトマレを心配に思い、周囲に居た者達が勝手に設立した教会。

 

 トマレを根負けさせ、強引に付いていってるだけである。それ故にトマレは魔女教を良く思っておらず、隙があれば解散するように誘導したり、悪ぶって出て行かせるようにしたりと色々している。組織名を魔女教、幹部を大罪司教なんて名前にしたりと地味な嫌がらせをしているが、全て上手く行っていない。

 

 そういった事情もあり、トマレとの情報共有自体が出来ていない。

 むしろ邪魔さえされている関係かもしれない。それでも信徒達が離れないのは、お優しい魔女様が愛されている所以だろう。

 

「無理矢理聞き出せればいいんだが」

 

「不可能だと思いますわ」

 

「私がそんな事はさせませんよ! 貴方は何か分からないのですか? 元々はゲヘナの生徒会長だったのでしょう?」

 

「俺はその辺興味なかったから知らん」

 

「……」

 

 何か呆れたような視線を向けられるが、そんな目をされても自分は何も答えられない。

 

「近々直に色彩の関係者と対峙した先生との情報共有を考えています、他の学園との情報共有もしたいですが、戦力を隠していた事がバレた所為で睨まれている以上はしばらく接触は控えるべきでしょう」

 

「無名の司祭達の技術、機械軍団を解析して何か分からなかったのか強欲……強欲?」

 

 先程からノートパソコンを睨みながらキーを叩いている青髪の少女と首から下げた大きなゴーグルが特徴的な少女。

 強欲担当の同僚、エレナへと話しかけるが反応を返さない。

 

「くそっくそ! なんなのですコイツ! バカ! アホ!」

 

「おいクソ、お前さっきから何してんだ」

 

 憤慨した表情でパソコンを罵るエレナ。

 会議中に別のことに意識を向けて不真面目だと注意するような事を言う気はないが、無視をされて喜ぶ性癖はない。

 

「こ、ここここ! この魔女様アンチ! さっきから魔女様の事とんでもなく悪い風に書きやがってます! あ、あああああ! あい! IPと現在地調べてヘイロー破壊弾喰らわせても、い、いいですかあああ!?」

 

 いや注意するべきだなこれは。

 

「さっきから何触ってるかと思ったらなにお前? 会議中に掲示板でレスバしてたの? 色彩の機械の分析はどうしたんだよ」

 

「そんなもん魔女様を悪く言うここ! このクソバカを無視する事に比べたら些細な問題、で、です!」

 

「んなわけねぇだろ」

 

 エレナはどうやら先程から顔も知らない誰かと掲示板の中でレスバトルを繰り広げていたようである。

 黙っている暴食が真面目に自分達の話を聞いていたのに、この小娘なにやってんだ。

 

「と、ととトマレ様が非道で卑怯で魔女教のヒモって! 冷酷非道傍若無人の大魔王って! 前に空が赤くなったのも、アビドスが砂漠化したのも、エデン条約が失敗したのも全部魔女ってやつのせいとかい、言いやがってます!」

 

「殺しましょう」

 

「おい」

 

 進行役のクダレまで憤慨した様子でエレナの傍による。

 ブレーキ役はクダレであり、憤怒担当は自分なんだが。

 

「おい暴食、テメェからもなんとか……いねぇ」

 

 先程から沈黙を続けていた暴食に二人を止めるように言おうとしたが、黙っているのではなく既にいなかった。

 

「あのアマどこ行きやがった?」

 

「ぼ、暴食さん、ならこの手紙残して帰っちゃいましたよ」

 

【美食を探究する時間ですので、お先に失礼いたしますわ】

 

「……あのテロリスト」

 

 強欲から渡された達筆な書置きに苛立つ。

 とはいえ、これ以上話し合っても、またいつも通りの進展なしが分かるだけなので構わないだろう。

 

「面倒臭いね、魔女様も」

 

 一人で戦うあの化け物のような力を持つトマレ。

 

 自己犠牲精神の強すぎる聖人の悪癖、全て自分で背負い込もうとするあの精神性は評価も出来るが、極まれば厄介この上ない。

 こちらの事を思っての姿勢なのだろうが、それにしたってトマレのそれはもはや病的なものだ。

 

 ただでさえ信徒達以外からも神格化されかけていっているというのに。

 

「シャーレの先生になら、どうにか出来るか……?」

 

 キヴォトスに最近現れ、トマレの様に問題を解決しているという噂の人物。

 彼女と違い、公的な権限を持ち生徒の味方を名乗る先生であればトマレと対等に話せるかもしれない。

 

「な、ななな! なんですかこれ!!」

 

「……」

 

 考え事をしていたのに騒ぎ立てるエレナ。

 いい加減に黙らせようかと思っていたが、傍にクダレも何やら目を剥いた様子で居る。

 

「今度はなんだ? 世界を滅ぼす化け物を生み出した元凶とでも書かれたか?」

 

「そうではありません、これを見てください」

 

「魔女教のリーダー、明方トマレ……懸賞金……五千万だとぉ?」

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