悪役生徒になろうとしたけど出るタイミングを見失った   作:ミステイク

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第四話・怠惰なる権能

 第一印象は、不気味な幽鬼。

 兎に角、真っ黒な何かが蠢いているとミサキは思った。

 

「こんにちは」

 

 稀に思い起こすかつての主とは正反対の黒いドレス。

 茨が絡み合った様な形状の黒いヘイロー。黒いヴェールで顔を隠した、殆ど肌を露出させない黒ずくめの格好をした少女が音もなく居た。

 

 結婚式のウェディングドレスにも、喪服にも見えるそれを纏った少女。

 どちらにせよ、仮住まいにしようとしていた廃墟には相応しくない様相だ。

 

「ひいい…」

 

「……ミサキ」

 

「二人共構えて」

 

 二人に呼びかけて銃を握るように言う。

 

 明るい町の光が一切差さず、月もない暗闇の中。

 電灯一つ以外は真っ暗闇の中、そこに居たそれから目を離さないようにした。

 

 正確には、目を離せない。

 一瞬でも、瞬きひとつでもすればきっとみんな死ぬからだ。

 

 ベアトリーチェ、聖園ミカ、今まで戦ってきた全ての敵を重ねても足元にも及ばない何かが目の前にいる。

 ミサキの五感はこれまでにないほど研ぎ澄まされ、一挙手一投足、目の前のそれが何をしても即座に動けるように全力の警戒で構えた。

 

 そんな事をしても無駄だと、ミサキの冷め切った理性が頭の隅でため息混じりに呟く。

 

 これらの行為全てが防衛本能による反射的な行動。

 ヒヨリとアツコに喋った言葉も自分の意思ではない。

 

 そうせざるを得ない何かを前にして、全身の筋肉が勝手に動いた。

 

(ここが……最期の場所か……)

 

 危機感で動いた体とは反対に冷静な頭で思う。

 しかし、いつまで経っても黒い何かが敵意を向ける事はなかった。

 

「そう警戒しないでください、戦う気があればこうして座ってはいません。……これ、差し上げましょう。貰い物ですが生憎お腹は空いていなくて処分に困っていたんです」

 

「へぇ、お代は?」

 

「暇でしたので少々お話に付き合ってください」

 

 その内容が嘘か真か関係ない。

 容易く自分達の息の根を止められる化け物に、抵抗しても意味はないと武器を下げる。

 

 それが、トマレとミサキとの出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キヴォトスで銃を持たない生徒は珍しい。

 どんなに温厚な生徒でも銃を持つ、護身用という意味ではなくアクセサリーや装飾品としてだ。

 

 なので、手や腰に銃を持たず歩いている子供を見つけるのはそう難しくない。

 特に黒ずくめの不気味な格好をした生徒は容易く見つけられる、そう最初は考えていた。

 

「探したよ魔女様……何処に行ってたの?」

 

「ミサキさん、皆さんこんなところに来て大丈夫なんですか?」

 

 人通りの少ない裏路地。

 アツコとヒヨリと共に歩いていると、一際目立つ格好をしている今の主を見つけた。

 

 初対面の時は嫌と言うほどあった存在感と派手な黒のドレス姿をしている癖に、いざ探すとなると異常に面倒臭く、霞のように捉え辛い。

 

 こちらの苦労も知らず相も変わらず窮屈そうな格好をして呑気に歩いていた主に溜め息を吐いた。

 飼い主ならちゃんとリードは持っていて欲しいと、嫌味の一つでも言おうと思ったが心配するような言葉をかけられて言う気を失う。

 

「顔くらい隠して来たよ、フードが見えないの?」

 

「逆に目立ちそうですね」

 

「四六時中そんな格好してる人に言われたくない」

 

 魔女教の信徒達はトマレを思わせる漆黒のローブに身を包んでいる事が多いが、ミサキ達はそんな格好をするほど真面目ではない。

 それにトマレの下に付いているのは信仰云々ではなく、行き場がない以上安全に暮らせる勢力下に取り入っただけに過ぎない。

 

 もう誰かの下に入るのは飽きていたので最初は気乗りしなかったのだが、少なくとも休息を邪魔されることはない。

 その点だけはよかった。

 

「あの……早く移動した方が良いと思います……」

 

「分かってる」

 

「? 何の話ですか?」

 

「端的に言うと、魔女様はこれから狙われる」

 

 事情を分かっていないトマレは困惑しているが、詳しく説明をしようとする暇もなく背後からの物音に振り返る。

 

「あ! 居たよあそこに!」

 

「ちッ」

 

 ミサキは現れた生徒達に向かってランチャーを放って牽制した。

 

「うわあああ!?」

 

「あ」

 

「説明してる時間がない、逃げながら!」

 

「ひいい! なんでこうなるんですかー!」

 

 吹き飛んだ生徒達を呆然と見ているトマレを、ミサキは手を引いて連れていく。

 唐突なミサキの行動に困惑しているのか、「え……え?」と声を漏らして落ち着いていない。

 

「落ち着いてトマレ、私達は貴方を守ろうとしてるの」

 

「何がなにやら分からないのですが?」

 

「懸賞金が掛けられたんです! 五千万の懸賞金がトマレさんの首に!!」

 

 泣きながら叫ぶヒヨリとアツコは、時折背後を振り返りながら狙撃して追っ手を打ち抜く。

 

(正直、助ける必要はないと思うけど)

 

 トマレの戦闘力は知っている。

 生徒とは違う異質な存在感は触れている間にも感じ、追いかけて来る生徒達を振り切って逃げるなど彼女単独でも造作もないだろう。

 

 しかし万が一の可能性を考えた。

 

(たかが五千万の為に、トマレが投降してしまうかもしれない)

 

 自己犠牲精神の塊、背負い込む思考はミサキ達のリーダーと同等かそれ以上。

 無益な争いを鎮める為だなんだというくだらない理由で捕まる、いやそれよりも怖いのは。

 

 ──── DEAD OR ALIVE(生死を問わず)

 懸賞金の額と共に書いてあった内容、最悪の可能性を考えた。

 

 この魔女のフリをした聖人は、争いの為に自分の命まで捨てかねない。

 

「全く、一体誰が……何か恨まれる事してないよね?」

 

「身に覚えは沢山あります」

 

「あっそう!」

 

 引き金を引き、正面から来ていたドローンへと拡散したミサイルを撃ち込む。

 

「こっち」

 

 この争いの火種を巻いた人物の捜索は魔女様大好きな幹部達に任せるとして、どこかほとぼりが冷めるまでトマレを安全な場所まで隠そう。

 

 ミサキは近くの廃ビルを見つけて入り、追っ手を振り切ろうと考えた。

 

「見つけたぁ!」

 

「ッ!」

 

 その考えが読まれていたのか、敵が待ち構えていた。

 

 撃ち返す余裕はないと、反撃を諦めたミサキはトマレを背後に盾になろうと前に出る。

 

 頑丈な訳ではないが、以前よりはマシになったこの身体であればライフル弾倉一つ分であれば死にはしないはず。

 

「うわぁ!? なになに!?」

 

「う、浮いた!? きゃあー!?」

 

 生徒の身体が浮いた。

 

 いや、何かに摘ままれているように飛んだ。

 

「ぎゃあ!」

 

「痛ッ!」

 

「ごめんね、ちょっと痛いですよ」

 

 そう悲し気な顔をしてトマレが呟くと、生徒達は廃墟の壁に叩きつけられ外へと強引に追い出された。

 

 超常現象。

 アツコとも違う、神秘とは別種の能力。

 

「……大丈夫?」

 

 守る筈だったのに守られた事は、気にしていない。

 

 気になるのは、トマレの表情の方だ。

 

「ごめんなさい……私の所為で」

 

(なんでそう、いつも自分が悪いって顔をするんだろ……)

 

 何に謝っているつもりなのか、トマレはミサキ達に向かって罪悪感に溢れた顔をしている。

 意味がない、必要がない、ミサキ達は命令を全うしているだけだ。

 

 そもそも狙われているのは彼女自身、謝る理由が何処にあると言うのか。

 

「トマレは優しいんだね、でも痛いのも苦しいのも慣れてるから大丈夫だよ」

 

「……それは良かったと、思えはしないんです」

 

 自分達のような者にまで分け隔てなく接するトマレを理解できなかった。

 時に、昔のリーダーや先生を思い起こす。諦めようと思っても、立ち上がらせて来る厄介なまでの優しさ。

 

 その度に思う、なぜ優しい人は一番苦しいはずなのに、他人を気遣う余裕があるんだろうと。

 

 そんなの、損をするだけなのに。

 

(なんで私、この人の盾になろうとしたんだろ……?)

 

 彼女が敵に撃たれようとしていた直前、胸の奥がチクリと痛んだ。

 護衛の命令を受けたから命を懸けて守るような信条があったことはない、むしろそういった真面目さとは反対だったような気がする。

 

 しかし、どうしてか身体が勝手に動いた。

 トマレが撃たれて傷付くと思った途端、何が何でも守らねばと身を挺してしまった。

 

 トマレの白い肌に傷一つ付いてないことに、安堵してしまった。

 

「トマレが無事ならそれで良い、心配する必要はない」

 

「そんなこと、ありませんよ」

 

 守る必要もないくらい強いはずと知っているのに。

 いつから、こんな意味のない事をするようになったのだろう。

 

 ミサキは困惑し続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────(だってこの状況、全部私の所為だもん!!)

 

 悪事に関してのみIQの下がるこのバカは、自分の首に五千万の懸賞金が掛けられた事などとっくに気付いていた。

 なにせ、その懸賞金を掛けたのはこのバカ本人なのだから。

 

(掲示板のクソ共があまりにも私の悪行を否定してくるから、あまりにも腹立って自分に懸賞金掛けちゃった……)

 

 自分が如何に悪かを知らしめるために、トマレは自分で五千万の懸賞金の手配書をネット上にばら撒いた。

 どこの海賊のつもりなのだろうか、しかもご丁寧に DEAD OR ALIVE(生死を問わず)と書いて忠実に原作再現している。

 その才能をもっと別の方向へ生かせないのか。

 

(ごめんねぇえええミサキ! 私のせいで!!)

 

 そりゃ本気でミサキ達に謝る。

 彼女達が戦闘に巻き込まれたのは間違いなくトマレの所為だ。

 

 ミサキ達はトマレを殴る権利がある。

 

「結構離れたね、とりあえずトマレが安全なところを探そう」

 

「あ、安全なところですかー? 一体どこに……ひぃ! 銃声です! この辺りももう囲まれちゃってる……私達はもう終わりなんですね……」

 

「いや、懸賞金目当ての人達同士で争ってる……独り占めしたいんだろうね」

 

「……あの」

 

「いいからもう謝らないで」

 

「いや、そうじゃなくて……」

 

「大丈夫、トマレは悪くないよ」

 

(いや全部私の所為です)

 

 素直に自分の所為だと詫びようとしていたが、アツコ達はもう分かっているからという態度で接され言うタイミングを見失う。

 このバカはタイミングを見失う才能もあるのだろうか。

 

「きっと、大丈夫だから。ね?」

 

(ぐおおおおおお!? 可愛い! 辛い!)

 

 安心させようとしたのかとびっきりのお姫様スマイルを向けられ、魔女の精神がダメージを受けた。

 

 現実では見る事のなかった絶世の美少女の生の笑みを見れたのと、不必要に生徒を危険な目に遭わせてしまった罪悪感が心に来る。

 

 これは仮定の話だが、トマレが正直に理由を話しても彼女の信用が邪魔をして信じてくれなかっただろう。

 信用されているが故に信じられないのは実に皮肉である。

 

(にしても……懸賞金を掛けてから一時間もしていないのによく此処まで集まったもんだね、素直に感心するよ)

 

 思っていた以上に速い生徒達の動きに久しぶりに感心しつつ、携帯を取り出して懸賞金の取り消しを行う。

 懸賞金の話が無くなれば襲われることはないだろう。

 

 トマレの為にミサキ達が此処まで守ってくれるとは考えてもみなかったのもある。

 信徒達の感情の重さはそれなりに理解していたつもりだったが、トマレはミサキ達にまでこうして思われていたとは気付かなかった。

 

「あの、隠れるなら最適な能力があるんですが……使いますか?」

 

「いい、それは最後の切り札にしよう。かならず私達が守り通すから」

 

「え、でもその方が楽に……」

 

「身体に負担かけて寿命を削っちゃうような真似する必要はない、良いから大人しくしてて」

 

(え? なにその設定? どれだけ私の知らない私の設定が浸透してるわけ?)

 

 一体彼女達の脳内に居る架空のトマレはどれだけ苦しめられているのだろうか。

 能力を使う度に寿命が縮むなど言った憶えがない。

 

 身体に負荷がかかる能力がない訳ではないが、そんな重たい制約課せられているものばかりではない。

 

「! 黙って、誰か来た」

 

「あのマーク……」

 

 隠れていた建物の傍で車が止まり、そこから複数名の武装したロボット兵士達が降りる。

 車両の側面に描かれているマークにトマレは見え憶えがあった。

 

「カイザー……? ど、どうしてここに?」

 

 呟いたヒヨリの言う通り、武装している者達はカイザーグループ。

 恐らくカイザーPMC辺りの武装集団だろうと、ロゴマークから察せられた。

 

「かなりの守銭奴だって聞いたことあります……!」

 

「目的はトマレの懸賞金だろうね、勘づかれる前に逃げよう」

 

 そうして逃げようとするが、トマレは誤って枝を踏んでしまう。

 

(あ、やべ)

 

「誰だ!」

 

「くッ!」

 

 物音に気付いたカイザーPMCが銃を向けるが、その前に飛び出したミサキも同時にロケットランチャーを構える。

 

 一触即発。

 直後に戦闘が始まるかと思われたが、突如としてカイザーPMCの集団は銃を降ろした。

 

「?」

 

「発見しました」

 

 ミサキ達は彼等の言動に困惑している。

 また大人の策略か、謀略か。

 

 しかしそれにしてはあまりにも無警戒過ぎる。

 

 そして一番怪しいのは、カイザーPMCが銃を降ろしたのはトマレの姿を確認してから。

 

「お待たせしましたトマレ様、我々はプレジデントより護衛の任務を承りました。カイザーPMCの司令官ジェネラル、お会いできて光栄と言いたいところですが今は余裕もないご様子。社まで護衛致しましょう」

 

 PMC達の背後から現れたのは軍服を着たロボット、ジェネラルの姿。

 流石に司令官が直々に前に現れたことで、ミサキ達は恐る恐るとだが武器を収めた。

 

「……あの大企業まで抱き込んでたって言うの?」

 

「す、凄い……流石……」

 

「もっと早く教えて欲しかった」

 

 キヴォトスのグループ企業、カイザーコーポレーションとまで繋がりがあったとは予想していなかったようで、三人が目を見開いた驚き顔でトマレを見る。

 

(なにそれ知らない……)

 

 トマレも同じ気持ちだった。




特定のことに関してだけバカになる人って稀にいるよね。
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