悪役生徒になろうとしたけど出るタイミングを見失った 作:ミステイク
先程、トマレが生徒達を退ける為に使った能力の名前は、権能・見えざる手。
Re:ゼロから始める異世界生活に登場する悪役。
怠惰の魔女因子を持つ、【本来】の魔女教大罪司教『怠惰』担当、ペテルギウス・ロマネコンティという悪役が持つ権能と呼ばれる異能力。
数十本以上の不可視の腕を伸ばして対象を掴み、人体を容易に引き裂くことが出来る常識外の膂力がある。
生徒相手には殺傷能力は期待できないが、それでも人外の膂力からなる殺傷力は並みの銃撃を遥かに超えている。
生徒を殺さず退けるには丁度良い性能なのでトマレがよく多用する能力の一つ。
トマレは怠惰なる権能、だけでなくペテルギウスの持ち得る能力の全てを持っている。
しかしペテルギウスの権能や魔法、特性などに人を洗脳する能力はない。
条件付きで身体を乗っ取る能力はあるが、この世界に条件に当てはまる者は存在せず、そして乗っ取る以上トマレは自らの肉体を捨てねばならない。
他の悪役達に似たような能力はあるが。
使用した経験はなく、会ったこともない人物を洗脳する能力は持っていない。
「初めまして魔女様! 私はカイザーコーポレーションのプレジデント、前々からお会いしたいと願っておりました。ささ! お茶でもお飲みになりますか?」
(だれ貴方?)
カイザーコーポレーション本社、その客室に案内されたトマレと護衛をしてくれたアツコ達。
ゲームとはかけ離れて威厳なく手揉みし、媚びを売るスーツを着たロボットの大人を前に戸惑うトマレ。
彼女の記憶違いでなければ彼はカイザーコーポレーションの重役、プレジデント。
最終編ではサンクトゥムタワーと、シャーレ部室を占拠し学園都市キヴォトスを企業都市に変えようとした。
悪い大人達のボス、ゲマトリアよりもストレートで露骨な悪役代表。
その大ボスだった筈。
「いやー、本日はよくお越しくださいました。おっと! ご安心ください、貴女様に懸賞金など掛けた不逞の輩は現在調査中です、魔女様の為に直ぐにでも捕えてその生首をお見せしましょう」
(生首にされる!?)
「い、いえそこまでする必要は。懸賞金は取り下げられたようですし、放っておいても構いませんよ?」
「なんとお優しい! 自らを付け狙う不敬な者にまで慈悲をお与えになるとは、畏まりました……命だけは助けましょう」
(命以外が大変なことになる!?)
「そこまでしなくていいんですよ!?」
直ぐに自ら掛けた懸賞金を取り下げたが、カイザーコーポレーションの捜査能力が警察以上のものであれば小細工で隠しても身元を割り出されるかもしれない。
震えるトマレは直ぐにでも止めさせる説得法を考えるが思い浮かぶわけもない。
自分がやりました、などと正直に答えようと恐らく信じられないだろう。
(能力で隠蔽しよ……デメリットが怖いけど、どっちにせよこのままだと怖い目に遭うな……というかなんでコイツ等私にこんなにしてくれるの?)
金の奴隷とも言えるカイザーコーポレーションの新しい作戦か大人の策略かを考えたが、にしては目的が見えない。
トマレ達を誘導して持っている能力の秘密を分析をするのかと思えばそんな気配もない。
プレジデントは嘘を吐いていないと能力を使うまでもなく分かる。そもそも此処までトマレ達を連れて来てくれたジェネラルの言葉にも何一つ嘘偽りがなかった。
故に理解できない。
本編では生徒達や先生の邪魔をするはずの敵キャラがなぜトマレを助けるのか? 確かにトマレは敵キャラ志望だが、敵の敵に慕われる原因が分からない。
「そんな事をしてくれなくても、守ってくれただけでありがたいので、そろそろ私達はお暇……」
「ですが我等は、どうしても貴女様のお力となりたいのです。……確かに、私は金儲けしか能のない下奴ですが、我が社は違います。私、いえ! カイザーコーポレーションの全てが貴女様の手足となりお力添えを!」
「あ、あの……何かの勘違い、人違いをされているのでは? 私はそこまでされるような事はなにも……」
「いえそんな事はございません! 私……我々が今を生きているのは貴女様のお陰!! 貴女様がしてくれたことの恩返しをさせて頂きたい!! 我をお救いになった、救世主様を!!」
(本当に誰の話してんの? 私お前等をブックオブジエンドした事ないよ?)
月島さんのおかげ、ならぬ。魔女様のおかげ。
微笑ましい顔を向けて来るアツコにトマレはどう反応すれば良いか分からない。
此処まで慕われる謂れなどない。
今まで自ら助けた魔女教の信徒達は兎も角、カイザー、大人を助けたことなど。
(そもそもカイザーと関わった記憶なんて……)
プレジデントはおろか、カイザーコーポレーションと関わった経験はトマレにはない。あるとすれば、アビドスから始まるストーリーに介入しようとしてタイミングを見失うなどしていた時くらいだが、それでも彼等と大胆な接触を試みなことはないと言える。
(あ、待てよ? ……先生が来るほんのちょっと前くらいに会社に行ったような……でもなんで行ったんだっけ?)
トマレの視点からは、地味な過去でしかない。
曰く、先生が来るほんのちょっと前くらいの出来事。
あの日、真っ黒な闇がカイザーコーポレーションを包んだ。
「あ、あ…ア……あアァ!!」
カイザーグループ、幹部が勢揃いしていた会議中。
本社の前に現れたそれに、当時のカイザーPMC理事、ジェネラル、プレジデントを含む全ての幹部と、同時刻その場に居た全ての社員がそれを見た。
────闇を。
「な、なんなのだ……あれは!?」
指摘したジェネラルは、形容し難いそれを見て言う。
生き物のようであるが明らかに通常の生物の常識を超えた何かが彼等の前に居た。
カイザー本社の前に蠢く、無数の何か。
何処か虫にも似たそれがカイザー本社へと進んでいく。
「撃て! 撃てー!? なんとしても撃退しろ!」
「ダメです! 撃っても撃っても効きません!? 全部治って、うわあああ!?」
闇そのものの真っ黒な虫の大群に銃撃を続けるも、銃弾が皮膚を貫き血潮を撒き散らそうとも元に戻り。
虫が兵士達の身体を貪り食うのに時間は掛からなかった。
「な、なんなのだ!? 何が起っているのだ!?」
「落ち着け! 援軍の到着を」
「既に発信している、しかしそれよりも前に奴らは此処まで……う、うわあああ!?」
カイザー本社は文字通り黒一色に染まる。
絵具で塗りつぶしたように、真っ黒な闇に覆われるように全て。
「た、助けて! たァす……」
「嫌だ嫌だいやだいやだイヤダアいやだァアアア!!」
散々、悪い大人として利益を貪ってきた彼等は、子供の様に泣きわめきながら得体の知れない何かに身体を貪られる。
(死ぬのか、こんな……わけも分からず!? なぜ、なぜこんな……誰か! 誰でもいい!)
「助けてくれェエエエエ!?」
そして、光が現れた。
カイザー本社を包んだ闇、+正体不明の化け物の原因を作ったのはこのバカ、ではない。
彼女は色々な悪事をしようとして失敗する超能力を個人で持っているのかと思う程、そういった事柄には才能がないので今回の件には関わっていない。
それに、トマレがカイザーコーポレーションの本社を襲撃する動機も理由もない。
悪事をするという目的も、生徒と先生相手にというのが第一にあるし、なにより彼等に興味がない。
だがしかし、これらの事象や気配の正体には気付いた。
(違うな、私……というか闇の悪魔の力?)
闇の悪魔。
チェンソーマンに登場する悪役の一人、ならぬ一体。
自我や意識があるのかは不明で、何らかの知性を持ち合わせている事だけは確かながら、底の知れない異質さを隠し持つ根源的恐怖の名を持つ悪魔。
独自の言語能力を持ち、人間には理解できない言葉を発するその悪魔の能力は名前の通り闇。
闇に関する物が恐怖されるほど力を増幅する事が出来るという悪魔の特性を持ち、能力として持っているそれはトマレにも適用されている。
この世界に住む者達の闇への恐怖。
そして今、虫のような何かが闇の悪魔の力を持って暴れている事で更なる恐怖が蔓延し、力が増幅されている。
とはいえ、トマレはそんな物がなくとも十分な力を持っているので、殆ど何の感覚もない。
(怪我人とかはいるみたいだけど死者は出てないから放っておこうかな? でもこのまま放っておくと生徒にも被害が出そうだし……やっぱり処分しておこうかな)
腕を振るい、闇の悪魔の力を持った虫からその能力を『回収』し、周囲の闇を取り払った。
闇の悪魔の力と言っても大幅に劣化している、それでも群体となってカイザーの兵士達を圧倒しているところを見るに闇の悪魔と同様に暗闇の中では不死身という特性と、更には闇を部分的に発生させる能力を持っている。
耐久性や膂力の面では圧倒的に格下だが、数と不死性によって瞬く間にカイザーを制圧した。
何が原因か分からないが、このまま放っておけばカイザーの社員達は兎も角としてバイトとして雇用されている生徒にも被害が出る可能性があったので当然の処置だ。
トマレは暗闇が消え、外からの光を浴びながら考える。
「おお……おおおお! 光がぁ……! 救いが……!」
(しかし、なんでこんな所に闇の悪魔の力が?)
トマレは聴こえてくる声を無視してその場を去る。
闇の悪魔、というよりチェンソーマンに登場する悪魔にはその身体の一部、肉片を食わせる事で他者に力を与える事の出来る。
だがトマレは他人、それも虫に肉片を食わせた憶えはない。
(……私以外にも居るのかな? それだと面白そうだなぁ)
であるならばトマレ以外の力を持つ存在が居る、その可能性を考えた。
だとすれば親近感と、高揚感を憶える。もしも自分以外にも同等の存在が居るのだとするならば、自分が生徒達に手加減をして負ける必要はないかもしれない。
本気を出せばキヴォトスを滅ぼすなど訳ないが、それを望んではいない。
しかし同格の相手が居るのならそれも悪くない。
(でもカイザー、というか生徒も襲いかねない勢いだったしな……私みたいな人なのかな?)
だとすれば人類の危機である、世界一持ってはいけない爆弾を持つバカが更に二人もいるとすれば地獄でしかない。
しかしそんな事を考えるのは無意味である、なぜならこの透き通る世界に居る至上の愚か者はただ一人だけだ。
この時点のトマレが知る由もないが、魔女教としてそれなりの活動は既にしている。
カイザーグループの耳にも届くくらいの影響力をキヴォトスに与えているのだ。
その能力、異能を分析する為に髪の毛、汗、体液の一部を回収され分析をされるくらいのことはされている。
「全て破棄せよ、魔女様の神秘性を暴くことは許さん」
「し、しかしプレジデント、この研究を進めるのに膨大な資金が」
「指示に従わないのであれば君はクビだ」
「えぇ……」
「それに、虫程度に魔女様のお力を与えた結果あの惨劇が起きた……今度暴走した時には誰が責任を取るのかね?」
プレジデント、及び魔女の腕の一振りで闇が一掃され。
怪物が死滅した現象を目撃した職員達は、瞬く間に魔女教の信徒達と同様の信奉心を持つに至った。
トマレの力を目撃した故なのか、それとも救われたが故なのか。
それとも彼女の中にある悪のカリスマ、それとも能力、それとも生来の人を惹きつける気質。
それとも、その全てなのか。
どちらにせよ、カイザーの殆どの社員達が魔女への信仰心。
神を崇める信徒へと変貌した事に変わりはない。
「そんな事よりも、早くだ……早く捧げねばならない」
「捧げるとは?」
「我等の力を総動員し、あの御方を……魔女様にキヴォトスの全ての権利と権力を!!」
思想が変わっても、内面が変わる訳ではない。
プレジデントは見た、闇を晴らした光の救世主を。
「おお、美しいお姿だった……あの御方に全ての利益を! あらゆる望みを! 世界をお渡しするのだ!!」
(虫が化け物になる身体を持ってる奴が救世主? って言ったらクビになるから止めとこ……)
申し訳ありません、この頃忙しく一話しか投稿できませんでした。
カイザーコーポレーションは魔女を信奉して利益を魔女の為に集めるようになっただけで、金儲けの為ならなんでもする方針はそのまま。
魔女教について関わってもいません。飽くまで魔女を信奉してるだけなので、むしろ魔女教を敵視してるかも?
あと偶々トマレがカイザーの会社の前通ったからみんな無事、カイザー幹部とか社員とかバイト中の生徒とか全員死んで倒産してました。
トマレはバイト中の生徒死んだら曇ってたかも。