悪役生徒になろうとしたけど出るタイミングを見失った   作:ミステイク

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第六話・見失い続ける愚者

 自分達のリーダー、魔女が懸賞金を掛けられた事件から一週間後。

 カフェで一人コーヒーを楽しむ、いや対面に座るゲヘナの風紀委員長に鋭い目を向けられているので楽しむも何もない。

 

「俺達のリーダーはあれ以来姿を消しちまった……テメェの所に何か入ってねぇかヒナ?」

 

「あったとして、停学中の脱走生に教える義理はないわ。それも、元議長には特にね。魔束ルフ……」

 

 鋭い目付きのゲヘナ風紀委員の委員長、空崎ヒナ。

 元から目付きは鋭い方だったが、今のそれは警戒心と殺気、敵意もプラスして三倍増していた。

 

『停学中の貴女がなぜここに居るのです! まさかまたトリニティと戦争を起こそうと考えて!?』

 

「アコ、声量下げろよ。相変わらずテメェの声はキンキン耳に響いて仕方ねぇ。通信機越しだっていうのに超音波でも発してんのか? それに理由はさっき言っただろうが」

 

 カイザーコーポレーションがトマレを保護してから、トマレが魔女教の本部にまで戻り少ししてから姿を消した。

 

『しばらく消えます、探さないでください』

 

 などという書置きをご丁寧に残して。

 懸賞金は取り下げられたとはいえ未だトマレに莫大な金額を設定した犯人は見つかっていない、見つけ次第血祭りに挙げるつもり。

 だが相手もそれを想定していたのか、まるで最初から存在していないかったように影も形もない。

 

 そんな相手がいる中で単独で行動するのは危険だというのが魔女教の大半の意見。

 

 もっとも、トマレの実力を知っていればそんな可能性はありえないと気付けるものだが。

 

「で? テメェは何の用事だよ。俺を捕まえに来たか?」

 

「トマレの言葉が無ければ今すぐにでもそうしたわ。現状の魔女教と敵対するリスクの方も大きい、それだけよ」

 

「は! なんだよテメェもアイツの信者だったのか」

 

「ただの友達よ」

 

「アイツの交友関係どうなってんだか」

 

 一体いつヒナと友人なんてなったのか、自分を拾った時からそうだが相変わらず謎の多い女である。

 

「……ずっと聞きたかった、どうしてルフ。どうして貴女は魔女教に入ったの? 貴女みたいな性格の人は、誰かの下に就けるタイプじゃない」

 

「そりゃお前、上に立つ奴によるだろ。それに命令なんてされたこともねぇし、煩わしいと思う事もねぇ……ま、一番の理由は強いからだが」

 

「……相変わらずは貴女もね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからアコと言い争い(ほぼ一方的にアコが切れていただけ)、表向き脱走生扱いなのでルフは逃げるように消えた。

 

『全く、相変わらずですね元議長は。同じ留年した彼女とは真逆ですよ!』

 

「いいえ、変わったわ……。前のルフなら、私を見た瞬間にはナイフで襲ってきた」

 

 どこぞの便利屋の社員のことを例えて言うアコだが、ヒナは間違いなくルフの姿を見て否定する。

 

 魔束ルフ、ゲヘナ学園、万魔殿の生徒会長だったヒナより一つ上の生徒だった少女。

 暴走するゲヘナ学園の治安維持に恐怖政治を敷き、少しでもルールを違反した生徒達に過激な懲罰を与えていた。

 

 ヒナ以上の戦闘力と暴力性を持ち、刀剣で戦うトマレと揃ってキヴォトスでは珍しい武器を持つが。高い身体能力がその無茶を実現させている。

 弾丸を剣で弾くという、フィクションのような動きをする様をヒナは今でも思い出せた。

 

 恐怖と暴力によって学園を支配していたルフはトリニティと【戦争】を行っていたが。

 ヒナとマコトの反乱と、配下の生徒会メンバーの奇襲に遭い、トリニティ側の戦力も合わさって撤退。

 正義実現委員会の委員長と、元ではあるがティーパーティーの一人を同時に相手していた事もあり、最終的にヒナと戦った彼女は敗北した。

 

 しかし今現在においても、ルフに恐怖心を抱いている生徒は少なくない。かつて仕掛けた戦争の影響もあって、トリニティ側にもゲヘナを嫌悪する生徒も増えてしまった。

 

 だが今の彼女は少し。

 

「大人しいですわよね」

 

「ハルナ?」

 

『美食研究会がどうしてここに……』

 

「ちょっとハルナ! なんで話しかけたの!?」

 

「別に構わないでしょう、悪い事なんてしていませんもの。それにこの店のオムライスは気に入りましたわ」

 

 友人と同じ銀髪の生徒、美食研究会という部活のテロリスト集団のリーダーと、その一味。

 それが隣の席に居たのはヒナと、恐らくルフも気付いていたが会話に入らずずっと食事を楽しんでいた。

 

 空気を読んでなのか、それとも美食を探究していたのか。彼女の性格的には後者だろう。

 

「そういえば、貴女も魔女教の大罪司教だったわね」

 

 魔束ルフと同じ、魔女教大罪司教『暴食』担当。

 それがハルナのもう一つの身分、であるとヒナは情報部から知っている。

 

 事実として、ルフの事を恐怖せず親し気に名前を呼んでいるところも見た。

 

「今は美食研究会のハルナですよ。ヒナさんも偶には肩の力を抜いて、普通の生徒として食事を楽しまれては?」

 

「……」

 

 普通の生徒として生活できないのはお前達の所為だと声を大きくして言いたかったが、それを言っても無駄だし面倒臭いので止めた。

 

「貴女はトマレを探さないの?」

 

「彼女だって一人になりたい時くらいあるでしょう、それに書置きには帰らないとは書いていませんでしたし。彼女の能力があれば、探さずとも一人でなんとかなるでしょう」

 

「……あの子の能力は代償があると聞いたわ、貴女達も彼女を思うなら使わせない方が良いんじゃないの?」

 

 とある地区に出現した黒い虫群の映像をヒナは見たことがある。

 銃撃や爆撃の全てを無効化し、無数の異形が一面を黒に変えていく光景は生理的嫌悪感を抱かせるには十分だった。

 

 だがその虫の大群は全てバラバラに"切り裂かれ"、その後発生した"炎で焼かれた"。

 

 実行したのは明方トマレ。

 

 特定の異能、神秘の反動で大きな悪影響を受ける生徒が居るというのを聞いたことがある。トマレはその最たる例、能力を使う度にその代償を払っている。

 

 その代償は苦痛、寿命、記憶。それ以外の何か。

 

()()、忘れられても困るわ」

 

「そうですわね、折角の美食が台無しになってしまいます……ならば、良い案があります」

 

「良い案?」

 

「先生をお頼りになればいいでしょう、あの方ならば生徒の為に一肌脱いでくれるのでは?」

 

「あまり先生に面倒を掛けたくないのだけど……考えておくわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(考えないで? 止めて? そんな風に先生と出会いたくない)

 

 タイミングを見失う天才であるトマレは、潜伏していたゲヘナのカフェから出る機会を見失っていた。

 彼女は今日、このカフェを起点にゲヘナ自治区でひと暴れしてやろうと思っていた。

 

 勿論、本来のトマレが目指す役は権謀術数に長けた知能犯的悪役なのだが、カイザーコーポレーションにまで護衛された彼女は追い詰められていた。

 

『このままじゃ本当にただの良い人になってしまう! 絶対に悪い人になるんだあひゃははは!』

 

 哀れ。

 とてつもなく追い詰められている。

 

 もはや生徒に対する被害以外を無視してなんにでもするまで追い込まれていたトマレは、その前に一杯コーヒーでも飲もうとカフェに来ていたらあら不思議。

 なぜか突如入店してきた自分の部下(表向き)と、裏切ってヒナヒナ、シナシナになるのを見たいと友達になった空崎ヒナのお陰で動けなかった。

 

(今はまだバレてない! 能力使えば逃げられるけどそれだと食い逃げ犯になっちゃう!)

 

 お前は何を言っているんだ?

 

 悪人になるなら別に気にしなくてもいいだろ。

 これから食い逃げより酷い悪事を働こうとしていた癖に何を言っているのか。

 

 全力で存在感を消し、店の奥で隠れていたお陰で今はまだバレていないが、このままでは見つかってしまう。

 

(いやそんな事どうでもいい! 先生に頼るって言ったヒナちゃん!? それにまたってなに!?)

 

「しかし、また……ですか。貴女は彼女に何か忘れられたのですか?」

 

「……別に、ただ一緒に遊ぶ約束をずっと忘れられてるだけよ」

 

(それ普通に忘れてるだけです!? すいません!!!)

 

 可哀想なヒナは、トマレといつかの約束をしてすっぽかされたのにも関わらず、むしろトマレの心配をしていた。

 勘違いもあるが、彼女の方がよっぽど聖人である。

 

「……トマレ、無事かしら」

 

(なんか……暴れる気なくなってきたな)

 

 超人的聴覚をもって聴こえたヒナの小さな呟きにトマレは机の上に突っ伏した。

 

 流石はゲヘナの風紀委員、言葉だけでバカを鎮めた。

 この化け物の力を全開にしてゲヘナが原型を保つかどうか。

 

 事情を知る者が此処に居れば、手を叩いて彼女を褒め称えていただろう。

 

(帰ろ……あとヒナに後でお詫びに行こう)

 

 とりあえずハルナとヒナ、兎に角知り合いが帰るまで店の奥に引っ込んでいようとトマレはメニューを読むふりをして身を隠す。

 

「いらっしゃいませー、あらシャーレの先生じゃないですか」

 

「え?」

 

「あら?」

 

(は?)

 

「”みんな奇遇だね”」

 

 そう言って、柔らかな笑みを浮かべたのはトマレの宿敵、と設定した大人。

 シャーレの先生。

 

(私、運悪いのかな……)

 

 今更気付いたのか。




ヒナとの過去編はまた今度します。
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