悪役生徒になろうとしたけど出るタイミングを見失った   作:ミステイク

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かなり難産で遅れてしまいました。
スランプでした。
あと関係ないですけど生の鶏肉を食べました。
一週間入院です。
退院しました。


第七話・ヒナは毎晩啜り泣く

「うっす! 私たち、これから真っ当に生きます!」

 

「壊した建物も弁償します」

 

「まず持ち主に謝りましょうね」

 

「「「はい!」」」

 

 彼女との出会いは実に奇妙なものだった。

 手に負えないとまで言われた問題児の生徒達が、殊勝な態度で怪しい格好をした生徒に頭を下げている。

 

 トリニティの生徒が問題児を指して言う魔女という言葉に似合う格好をした少女。

 黒いヴェールで顔を隠した黒づくめの少女、トマレとの出会いだった。

 

「ここに問題児が居ると通報があって来たのだけど……」

 

「あ、ゲヘナの風紀委員長さん」

 

「……違うけど」

 

「あれぇ?」

 

 当時はまだ風紀委員の一人でしかなかった私を風紀委員長と呼んで首を傾げていた、その態度を取りたいのは私の方だと言うのに。

 それに問題を起こしていた生徒達も。

 

「それじゃあ私達自首するので」

 

「トマレ様もありがとうございました!」

 

「何なの一体……」

 

 珍しく銃を撃つことなく、大人しく連行されてくれた問題児達に戸惑う。

 原因は間違いなくこの怪しい格好の生徒だと分かった。

 

「貴方……彼女達になにをしたの?」

 

「とくになにも……少しお話しただけです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでは私たちはこれで」

 

「ええ、問題行動を起こさないように」

 

「“じゃあね”」

 

 店を出て行ったハルナ達美食研究会に先生は手を振って別れる。

 それだけならいい、そのまま誰にも見つからず先生が帰るまで待機するはずだった、それなのに。

 

「“相席にしてくれてありがとう”」

 

「いえ……お気になさらず」

(なんで? なんで先生とヒナパイが私の席に?)

 

 先生が登場した瞬間、トマレの脳内に溢れ出す今までの楽しかった日々と、この幸せな日常を作ってくれたみんなへの感謝がかけめぐった。

 

「ばぶー」

 

 どこぞのゴリラ吸血鬼ハンターのように一時的に幼児退行するほどのショック。

 彼女の精神は限界を超え、その間の記憶は消失している。

 

「申し訳ございません、こちら相席でもよろしいでしょうか」

 

「はい~……」

 

「お客様、こちらへどうぞ~」

 

 そんなやり取りがあった事をトマレだけが知らない。

 

(何? 呪われてる? 私呪われてるの?)

 

 超常現象、容易く災禍を齎せられる異能を持っている事はある種呪われているとも言える。

 だがこの事態は能力とは全くの無関係、純粋な彼女の不運によるもの。

 

 相席を許したのは彼女の失態だが。

 

(い、いや、まだあわてるような時間じゃない。とりあえずダンクシュートを決めてから、いやそういう事ではなくて! そもそも私の顔はバレてないわけだし、)

 

「貴方、ゲヘナの生徒じゃないわね?」

 

「あ、はい! ここの軽食が美味しいと聞いてやってきたんです!」

 

「……そう、ハルナ達も大人しく帰ったくらいだし」

(この声……?)

 

「“ヒナもなにか頼む?”」

 

「あ、うん」

 

(兎に角、なにもせず大人しくしているんだ……いやダメだ! こんな時の私は確実にボロを出す!)

 

 冷静に自分を分析した結果、いや焦りに焦り倒しているのでその分析が的確かは分からないが、ボロを出しそうなほど冷や汗を流しているのは事実。

 

「“だ、大丈夫? 凄い汗だけど”」

 

「い、いや~。暑さにやられちゃったかもしれませんね~」

 

「……クーラー効いてると思うけど」

 

 過去一番かもしれない危機的状況。

 

 目と鼻の先に居る最大の宿敵と、先程まで無意味に傷つけてしまっていた友達。

 最終的に裏切るつもりで仲良くなったヒナに情が湧いて傷つけた事にショックを受けていたこの馬鹿にとって嫌がらせの様な組み合わせ。

 

 誰かコイツに悪役の才能ないよと早く言ってやれないだろうか。

 

(待てよ! これは前向きに考えれば好都合じゃない!? 今此処から暴れようと思っていた私にとって目の前に主人公が現れてくれたようなもの! ある意味幸運! 私の運は最高! 私ったら天才ね!)

 

 バカである。

 だが前向きなのは良い事だ、やろうとしていることは兎も角。

 

 今この状況と揃っている戦力はトマレにとって好都合というのは否定できない。

 ゲヘナ自治区のとある一角での魔女の暴走より、風紀委員長とシャーレの先生の前で現れた魔女の方がカッコいいと判断した。

 

 それにヒナであれば万が一にもトマレの攻撃で死なない確信がある。もちろん大幅な加減をした前提の話だが、誤って調整を失敗してもヒナであれば死ぬことはまず無い。

 大抵の攻撃では倒れない頑丈さと戦闘力を持つヒナ、ゲヘナの見回りをしているらしい彼女の傍には部下の風紀委員が数名は付いているだろう。

 店内にはいないが、外には最低でも四、五名はいる。

 

(ちょっと少ないけど、ヒナ一人でお釣りが来るな)

 

 更にその戦闘力を最大限まで引き上げ、統率の取れた最強の軍隊へと変貌させる指揮能力を持つグレートティーチャー。

 シャーレの先生が指揮すれば、烏合の衆もSRTの特殊部隊相当へと進化する。

 

 そもそもの話として、大人のカードという文字通りの切り札を持つ、トマレ以外の特異能力を持つ唯一の存在。

 

 あらゆる過去の経歴、計画、信頼を全てぶん投げるつもりのトマレにとって最も派手な散り際を迎えられる唯一の状況。

 

(でもなぁ……ヒナに攻撃するのはなぁ……)

 

 しかし、このタイミングを見失う天才は我々の期待を裏切らない。

 

 裏切り者の汚名を恐れてはいない、嘘吐きの蔑称など当に覚悟している、ありとあらゆる罵詈雑言を喜んで受け入れよう。

 というかして欲しい、そう考えている彼女最大の愚かさ。

 

 裏切る対象と本当に仲良くなってしまった。

 

「ところで、先生はどうしてここに?」

 

「“うん、生徒が失踪したって言うから私も何か出来ないかなって”」

 

「……トマレのこと?」

 

(はあああああ!!!)

 

「私も、心配には思ってる。友達だから……」

 

(ぐあああああ!)

 

 先生とヒナの本気で心配する言葉を受けて、コーヒーカップを持つ腕をガタガタと震わせて動揺するバカ。

 

 先生がやって来たのはトマレが失踪したから。

 運が良い悪い関係なく先生が来るのは必然だったのだ。生徒の為なら身を差し出して働くのが先生。

 ブルーアーカイブの主人公である先生は生徒を助ける、トマレが生徒である限り先生がそれを止める事は決してない。

 

 追加攻撃のように、悪魔らしからぬ光属性を放つヒナによってトマレは本物の悪魔のように心の闇を燃やし尽くされる。

 世界を滅ぼせる化け物が真摯な愛によって討たれる王道的事態が図らずも展開されていた。

 

 やっている両者は何一つ理解していない。

 

(やめろ! これ以上私の覚悟を鈍らせるなー!)

 

 裏切るなら今だぞ、大親友のヒナと大人として心配してくれている先生を攻撃するのなら絶好のチャンスだ。

 彼女の中に居る能力の持ち主たちが見ればそう言うのかもしれない、言わないかもしれない。

 

 どちらにしても、もはや彼女に暴れるような事はない。

 鈍る以前に自暴自棄から現れた考えに覚悟などない。

 

「ああ……あああ……」

 

「大丈夫、貴方? さっきから凄くやつれた顔してるけど……」

 

「お気になさらず……」

 

 トマレは沈黙した。

 

「“えーっと、あそうだ! ヒナはトマレって子の事どこまで知ってる?”」

 

「あんまり個人的なことは……でも大方の生徒が知ってることだけなら話せる。ハルナを筆頭にキヴォトス中で警戒されている七囚人相当の凶悪犯一歩手前の生徒、その殆どを更生させた少女よ」

 

「“凄い子なんだね”」

 

(誰だそいつ)

 

 身に覚えのない功績を耳にして復活したトマレ。

 七囚人相当の生徒と出会った事なんて憶えていない、そもそもキヴォトス人そのものが凶悪犯レベルに倫理観のない者達ばかり。

 アプリの顔をしているシロコでさえ気軽に銀行強盗を提案する。

 

 そんなキヴォトス人の中で凶悪犯か一般生徒かなど見分ける方法などない。

 

(だいたい更生なんてさせた憶えとかないんだけど)

 

「魔女教の殆どはその生徒達でまとめられているわ」

 

(そんな危ないのまで居たの? 私リーダーなのに何も知らない。お飾りだけど……)

 

 馴染めない不良生徒を吸収して勢力を拡大していたのは知っていたがそこまで凶悪な生徒まで居たのは知らなかった。

 七囚人にも知り合いは居るが、それと同じくらいの者達が何人も。

 

(……まあワカモとかくらいなら可愛いもんかな、考えてみるとそんな危なくないな)

「みんな可愛い子達ですね」

 

「どこが?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先生はヒナからトマレ、というより殆ど魔女教についての話だが。

 それが終わるまで帰る事はなく、コーヒーを飲み終えたトマレは何もせず普通に店を出た。

 

 結局、一暴れもする事はなく何一つ上手く行かなかったトマレは自宅の廃墟に着く。

 

(私、なんのために生きてるんだろ。夢を叶えるために悪者になったのに……はぁ、偉大なるベアトリーチェ先輩。私はどうしたら貴方のような舞台装置になれるのですか?)

 

 恐らく生徒どころかプレイヤーの中でも少数な、本気で尊敬している頭の中のベアトリーチェに問いかける。

 

『……先生を殺せばいいのでは?』

 

(いやベアトリーチェ先輩みたいに生徒虐める気はないからいいか)

「はぁ、もういいか。とりあえず続きは明日考えることにしよ」

 

「“あ、もう寝ちゃうの? だったら明日また来た方が良い?”」

 

「……」

 

「“あそうだ、もっと温かい格好して寝た方が良いよ。毛布いる?”」

 

「────」

 

 足首の力だけで音速まで加速したトマレは廃墟の壁を破壊。

 

 75000メートル以上まで飛び上がった身体にマイナス60度を優に超える低温と風圧が襲い掛かるが、トマレにとっては春のそよ風に等しい。

 

「うわあーん! 怖かったよー!?」

 

 そんなことよりも、突如先生が現れたことに恐怖したトマレはキヴォトスの空を光の速度で横切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「“……逃げちゃった、ごめんねヒマリ。せっかく見つけてくれたのに”」

 

『こちらとしては彼女の能力の一端、その一部の映像は撮れましたので気にしていません。本物の特異現象そのもの……彼女の逃亡から考えて、接触を図るならば次は慎重さが重要になりそうですね。そうとなれば、エイミ! お仕事の時間で……なぜ脱いでいるのですか? ちょっ服を! せめて下着は着けなさい!』




トマレのヤバいところベスト3

3番目にヤバい事、超能力持ち。
2番目にヤバ、誰とでも仲良くなって味方にしちゃう。
1番ヤバ、悪人を善人にしちゃえること。そしてこれは超能力とか神秘とか全く無関係なところ。
ベアトリーチェ先輩にも効果適用します。アイツ死にましたけど。
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