呪い廻り、聖杯巡る戦さ争い   作:砂漠谷

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ようやく地獄界曼荼羅終わりました。
今回は道満は出ません。
ですがFGO公式HPにフルボイス道満"BAR"(ネイティブ発音)が投稿されたのでぜひ見てネ。



合従

 夕暮れ時。伴資正が戴呪英霊を招来した翌日のことである。

 

 巷では、神隠しの噂が広まっていた。長屋に住む数十人の民が一夜のうちに掻き消えたという話が何種類も耳に入る。

 八幡太郎源義家は、その噂を戴呪英霊が原因であると推測していた。

 

「無辜の民を攫ったか、喰らったか。どちらにせよ、迷惑千万極まりない所業だな。聖杯戦争の邪魔だ。これ以上被害が出ても困る。消すぞ、伴資、女媧、因幡」

 

「承知しました、八幡太郎様」

「承知した、旦那様」

「……承知」

 

 京は縦横一里と少し(4kmと少し)ほどである。この程度の広さであれば、二人と二体で手分けして呪力感知をすればおそらく見つかるだろうとの推測の元、四つに分かれて各々の方法で呪力感知をしていた。

 

 北東、伴資正の担当である。資正の術式は呪霊操術。しかし天与呪縛によって、蠅頭以外の呪霊は取り込めない。その一方で術式強度、範囲、精度は大きく底上げされており、蠅頭を自らの呪力以上に自在に操ることが出来る。呪力感知の札と同じ術式を蠅頭に刻み、大量に北東部に蠅頭をばら撒くことで呪力を感知していた。

 北西、異畜生の戴呪英霊、因幡の白兎の担当である。彼女の術式は、縮地。空間を圧縮することで高速移動が可能である。それによって高速で道を駆けまわることにより、広範囲を探索し続けている。

 南東、獄卒獣の戴呪英霊、女媧の担当である。彼女の術式は、呪霊が生まれるための環境である『呪力の澱』を人工的に生み出す『生霊ノ源泥』である。呪霊は生まれるだけでコントロールは出来ないが、『殺さないことを条件』に従属させる縛りを結び、女媧はそれらを使役、呪力を感知させている。

 そして南西、八幡太郎源義家。義家の奇岩霊法は、『岩石』に対する降霊術である。岩に瑞獣や精霊などの様々な『概念霊(呪霊のように固有の自我・肉体を持たない普遍的な霊)』を降ろし、それを操る。

 岩石と言っても、拳大の大きさの石であっても中級~低級の霊ならば降ろせるため、それを南西の多くの場所にばら撒き、感知を肩代わりさせている。

 

 これらの手法で、感知し続ける。

 

 そして、しばらく刻が過ぎ、丑三つ時である。

 

「キャッ」

 

 一瞬、爆発的に肥大化した呪力反応と共に、小さな悲鳴が響いた。場所は南西、義家の担当区域である。

 

 呪力で通信用の札を焼き切って他の一人と二体に合図を送り、義家はその場に駆け付ける。

 呪力反応は長屋の内側。しかし異様なことに、人間の気配はすでにない。

「なら長屋ごと叩き潰すが吉だな。都合が良い」

 だが、義家はそれを好都合と捉えた。拳大の石に呪力と、とある概念霊を込め、長屋の上に放って起動させる。

「『壱号・貪鶏(とんけい)』」

 拳大の石は、大質量と大体積を持つ巨岩に変貌し、重力に従って十二分の破壊力で長屋を叩き潰した。

 だが、地面にその巨岩は届かず、砕かれる。

「なんだ、これは。重いし大きいが、それに比べれば脆い」

 その巨岩を嚙(・)み(・)砕(・)い(・)た(・)呪霊が、舞い上がった土煙の影から見える。

 

「ッチィ、『貪鶏』!」

 

 複数の石を投げつけると、それは速度を落とさずに体積と質量を急激に増し、その呪霊、がごぜに叩きつけられる。時速百里(時速400km)で内部に岩が詰まった牛車のような巨岩を複数叩きつけられたがごぜは、指や歯が数本折れるも、呪霊特有の性質によりすぐに再生する。

「咬もうぞ、咬もうぞ」

 

 慣性の法則を無視した巨岩。それは、岩に降ろした概念霊が『質量』を司る『貪鶏』だったからである。物理的質量や体積が増えたわけではなく、増えたのは霊的質量、霊的体積。非術師の眼から見ればただ石を虚空に投げつけただけに見えるだろう。故に、慣性の法則は適用されず、速度はそのままに巨岩が叩きつけられた。

 それでもがごぜには殆ど通用しない。その肉体強度の正体は、術式効果なのか、素の強度なのか。義家には検討もつかない、ので。

 

「令呪を以って命ず。来い、女媧」

 援軍を呼んだ。

 

 令呪の発動効果は様々だが、その一つが「再招来」、召喚の儀を簡易的に再現し、類感呪術的に戴呪英霊を転移させる秘儀。結界術と式神術を高度に複合させた、特定の生得術式に依存しない儀式だ。

 

 三画ある令呪のうち一画が消費され、女媧が呼び出される。

「旦那様、状況は」

「敵発見、だがクソ硬い。咬もうぞと喚くところからおそらく妖怪『がごぜ』、多分食人をやってる」

「承知した」

 女媧は術式を発動させ、『澱み』を生む。しかしただの澱みではない。

 女媧が引き起こすは、拡張術式『旅鼠講(レミングスーサイド)』。

 その澱みから生み出される呪霊は、指定された方向に向かって突進し、自爆する。

 女媧はその術式の特性上、『澱み』を構成する呪力の性質を、かなりの種類に変質させることが出来る。雷、爆発、粘液、やすり。威力効率は決して高くはないが、有用性は非常に高い。澱みに変質を限定しているため、通常の呪力を変化させることは出来ないが、それでもだ。

 

 鼠、魚、鳥。様々な形をした呪霊ががごぜに突進し、何かに触れた瞬間に爆ぜる。爆発の威力はまちまちだが、高いものだと後世における大玉花火と同程度であったりする。

 

 爆発の轟音が夜の京に響き渡る。

 

「ぐ、ががが、咬もうぞ、咬もうぞ」

 

「多少の火傷は負ってるな。次、雷」

「承知した」

女媧は『旅鼠講』を再度発動する。しかし今度は爆発ではなく強度放電による自死だ。バチィ!バチィ!と放電音と電光が響き光る。

 

「あっが、がああああああああ!」

 

「よし、雷は効くようだ、このまま潰っ……」

 がごぜは、土煙と雷光に隠れていつの間にか姿を消していた。義家たちは呪力を感知してその場所と姿を知覚していたのだが、呪力反応も唐突に途切れる。

 

「消えたな」

「反応、消失したぞ、旦那様」

 

「令呪による再召喚は京の中に限られる。伝令用の呪霊を生んで伴資と因幡に探すように伝えろ」

「承知した。しかし、我と契約した呪霊が京の端から次々に祓われこちらに近づいている。おそらく別口の敵だ。あと一分……、否、30秒で接敵する!」

 

「ッチ、他の参加者に感づかれたか、そりゃあこうまで轟音鳴らしてたらな。事前に防音用の帳を降ろすべきだったか」

 

 手持ちの石に呪力を籠め、壊れた長屋の中を探して手頃な漬物石などいくつかを漁ってそれも持ち出す。そうしていると30秒はすぐに過ぎる。

 3、2、1、接敵。駿馬の襲歩に数倍する速度で、刀を持った三眼の少女が切りかかってきた。

 

「死ねぇえええええ!」

「おっと、いきなり物騒だな。まず名を名乗れよ」

 佩いでいる刀で義家は受けた。

 特級呪具『髭切』。源頼光から所有権を譲られた名刀。その術式効果により、少女の刀は刀身の真中から切り落とされた。

 

「っな!?」

 

「おや、お前さん、この八幡太郎の髭切を知らないとは。モグリかな?」

 特級呪具『髭切』、その術式効果は、触れた物質の硬度だけ、自分の刀の硬度と鋭利さを増加させる。

 すなわち、理論上どんな物質も斬れるのが、この『髭切』である。

 だが。少女の刀も、尋常の刀ではない。

 

「イペタム、問題は?」

「な゛い゛」

 

 少女は刀に語り掛け、刀は鉄をこすり合わせたような声でそれに答える。そして、刀身がずるりと再生した。

 

「その刀、呪霊か?」

「ああ、そうだ。名乗れ、と言ったな。良いだろう。我が名は准胝。両面宿儺の一人娘にして、人ならざる鬼神。准胝である」

 海のように蒼い瞳を憎悪で燃やし、准胝は源義家を睨む。

「両面宿儺の一人娘ねぇ、聞いたことないな。落胤か?」

 正式な娘ではない、と勘繰る義家。准胝はこめかみに青筋を浮かべつつ、語り続ける。

「この度の儀、我が父の骸が冒涜されていると聞いた。我慢ならん。儀式の参加者は加担者である。鏖殺だ」

「おお、宿儺の娘っぽい」

 いちいちガキ臭いとは義家は口に出さなかった。

「舐めているな、私を。恐山の生態系の頂点に立った私を舐めるな」

 

 恐山。現代では日本三大霊場の一つとしても知られる大霊地である。

「ふぅん。でも、京の方がやばいぞ。人口も多いから呪霊も多い。遠くからの畏怖で呪力が集まるから、確かに恐山もそれなりに危険な呪霊はうろついているけど」

 さらに言えば、呪詛師の質も量も田舎とは比べ物にならないのが京である。呪術全盛の時代は伊達ではない。

「私を、侮辱してるのか?貴様は?」

「ん?してるけど?乳臭いし獣臭いんだよ、田舎のガキが」

 義家は、殺害宣言をされて苛つかないほど精神的に完成されている訳ではない。挑発を兼ねて罵倒する。

「殺す!」

 准胝は、刀の呪霊イペタムで、自らの腹を貫く。突然の奇行に警戒しつつ、術式の準備をする義家と女媧。

「啜れイペタム」

 

 イペタムの術式は『血啜』文字通り、他者の血を啜って呪力に変換する。その効率は非常に高く、一滴で蠅頭並み、人一人吸いつくすだけで一級呪霊分の呪力が手に入る。

 さらに、得た呪力を持ち主に還元することもできる。

 

 そして、准胝は反転術式が使える。血液も、反転術式の正のエネルギーさえあればいくらでも作れる。

 すなわち。

 

「呪力がどんどん増えていくな」

「旦那様、あの奇行を今すぐに止めさせた方が良いかと。ああして一刻(15分ほど)もすれば、おそらく宿儺をも超える呪力量になるでしょう。肉体がその呪力量に耐えられるのであれば」

 義家は、黙って頷き、髭切を再度抜刀する。さらに衛星のように周囲に漬物石を公転させつつ浮かせ、准胝に向かって駆けていく。

 准胝の呪力は、数十秒で先ほどの三倍。腹に剣を刺しつつ、溜め込んだ呪力を第三の眼から極光の如く放つ。

 呪力は物質ではない。即ち、髭切では切断出来ない。

 

「『貪鶏』」

 義家は漬物石を巨大化させた岩を障害物にして呪力の極光を防ぐ。

 岩には罅が入って砕けそうになるが、岩の後ろから跳躍し、岩を潰すのに夢中になっている准胝に上空から髭切を振り下ろす。

 直前で上空の義家に気付いた准胝は、イペタムの意味が無いことを思い出し、術式を発動する。

「『解』」

 不可視の斬撃は、義家の左肩を切り裂き、顔を歪めさせるが、気にせず髭切を准胝に振り下ろす。

 不可視の斬撃を連発し、髭切を弾く准胝。一発放つ事にかなり消費されるようだが、それについてはイペタムの呪力補充で問題はない。

「おお、かなりやるな。だが」

 不可視と言えども、准胝の呪力の起こりによって、義家は斬撃の方向と威力を予測し、迎撃することができた。そのため、初手の『解』以外はまともに喰らわなかった。回避中に反転術式を回して左肩の傷を治癒する。

 再生しつつ、義家は准胝の延髄に蹴りを放つ。反転術式に呪力を回していたため、込められた呪力はそこまでではないが、しかし素の身体能力が高いため、准胝は蹴り飛ばされる。

 

「女媧、やれ」

「『旅鼠講』」

 雷撃呪霊の群れが准胝に殺到する。准胝は『解』を連発して防ごうとするが、数に押されて呪力消費が間に合わない。諦めて防御に呪力を回すが、数分後には、ぷすぷすと焼けた音を立てて気絶し、倒れた准胝がいた。

 

「女媧、捕縛してくれ」

「ああ、旦那様。しかし、こ奴、生きているが」

「殺意はあっても悪意は感じなかった。術式は宿儺のソレを継いでいるが、精神性は違うのかもしれん、とりあえず拘束だけにしよう」

 

 女媧はその長い蛇の下半身で気絶した准胝をぐるぐる巻きに拘束した。

 

 そして半日後、准胝が目覚めた。治療はしなかったが、自然治癒力は随分と高いらしい。

 

「ん、んん……?」

「よう、起きたか、准胝とやら」

 

「ひゃっ!こ、ここは……?」

「京にある俺の屋敷だ」

 

 正確にはその庭先である。大量の石や岩が積まれており、中央には一際大きな巨岩が鎮座している、わびさびもクソもない空間だが。

 

「岩ばっかだな……」

「お褒め頂き光栄の至り。んで、相談なんだが。お前、俺の仲間にならないか?」

 

「は……?」

 

 かくかくしかじか。儀式について大した説明は為されていなかったようだ。額に縫い目のある女に何か変なことを吹き込まれたようで、それで儀式の参加者を鏖殺しにすると息巻いていたらしい。

 

「なるほど、日本中の呪いを集めてそれを一気に祓う儀式、と……」

 

「ああ、それにお前の親父さんの頭蓋が使われている訳、だが。儀式を早々に終わらせて、空になった頭蓋を蘆屋の爺から奪還して砕く。これなら出来ると思わないか?」

 

「しかし、お前に何か利益はあるのか?」

 

「胡散臭いんだよ。この60年、強力な呪霊も、強力な術師も大して生まれてこない。上澄みですら、かつての宿儺の四分の一程度の強さだ。術師に関しては数も減ってる。多分俺ですら術師の五指に入る、程度には術師の質も呪霊の質も低下している。その分呪霊に襲われる民は減ったがな」

「それは、良いことではないのか?」

「確かに、良いことかもしれない。だが、俺たち術師は商売上がったりだ。俺は領地持ちの武士でもあるからそっちで食っていけるがな。術師の勢力を削って、使い勝手が良い非術師の武士の勢力を増やそうとしている藤原北家の企みもあるんだろう。宿儺の恐怖が未だに忘れられないらしい。あいつらは呪霊よりも術師を警戒してやがる。散々こき使った末にこの仕打ちだ。それはまだいい。問題は蘆屋の爺だ。術師は皆、精強さと呪術の技巧を競うものだ。だから、呪霊の弱体化と同時に術師全体が弱体化するようなことを蘆屋の爺が率先してする筈がない。だが、蘆屋の爺はそれをした。随分恨みを買ってるよ、奴は。この60年で多くの呪術師の家系が断絶した。何が目的だ?奴は。信用ならないんだよ」

「そうか。この儀式で呪霊と術師を弱めている、のか。それがお前は気に喰わない、と」

「ああ、そもそも呪霊なんて大抵、墓場や廃屋くらいにしか出ないんだ。人の活気があふれている場所には出ないし、呪霊は生まれた場所から殆ど動かない。多少運悪く迷い込んだ馬鹿が喰われようが誤差だね。そこらへん日ノ本の民は弁えてる。呪霊を弱めることが出来たとしても、術師を弱めるべきじゃない。非術師の賊共や凶悪な獣の群れを一人で殺せる術師は量産されるべきだ」

 

 藤原家への溜まっていた鬱憤と不信感を吐きだすように、源義家は熱弁する。そうして数十分語り尽くして、准胝は深く頷いた。

 

「正直、今の話の半分は理解していない。だが、お前がそこまで語れるだけの熱を持っているということは分かった。名前を、聞いていなかったな。何というんだ?」

 

「下野守、八幡太郎源義家。八幡太郎と呼んでくれ」

 

「分かった。ハチマン。ありがとう。ここに縛りとして誓おう。八幡太郎が私を傷つけない限り、私は八幡太郎を傷つけない。八幡太郎が私に不利益をもたらさない限り、私は八幡太郎に不利益をもたらさない」

「ああ、俺も同じく、縛りとして誓う」

 

「(ッチ、雌餓鬼が。我の旦那様に色目使ってんじゃねぇよ)」

 

「何か言ったか、女媧」

「いえ、何も」

 

 ともあれ、こうして准胝と源義家は共に合流することとなる。

 源義家、伴資正、そして准胝。7人の聖杯戦争参加者のうち、三名が所属する大同盟が、聖杯戦争開催後二日で完成した。

 




奇岩呪法は貪瞋痴慢疑見で基本は6種の霊を降ろせます。が貪鶏の使い勝手が良いので格下相手には義家はそれしか使いません。

遺伝的には准胝は宿儺の娘ですが、双方とも顔を知りません。准胝は宿儺が抱き殺した一般被害者の術師女性の死骸の胎から這い出た半人間半呪骸のような存在なので、ぶっちゃけ宿儺からしてみれば「娘を名乗る不審者」でしかないですね。
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