呪い廻り、聖杯巡る戦さ争い   作:砂漠谷

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好きなように書き殴ってます
整合性も怪しい


衝突

 ずっと、夢を見ていた気がする。

 

 私がやるべきこと。私がやりたいこと。その二つの優先順位が、ぐちゃぐちゃになっているようでいて、合致した旅。

 たくさんの命を救った。たくさんの命を殺した。たくさんの世界を救った。たくさんの世界を滅ぼした。

 でも、それは夢。遥か彼方の世界の果てで、どこかの誰かが成した偉業の追体験。

 彼女/彼は、私じゃなかった。

 

 ———それでも。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 源義家邸の門を叩く音がする。時は夜中。昨夜の洛外の大規模戦闘で、京の民は怯え、家に籠っている。外から物音がするのは、異常と言っても過言ではない。

「なんだぁ?」

 

 使用人に門を開けさせるのは悪手であると、源義家本人が門を開ける。

 そこには、額に縫い目のある女が立っていた。

 

「アンタは……風の噂には聞いてるよ。確か、羂索と言うんだったか?京に潜む妖怪の一匹だ」

「良く知ってるね。彼の八幡太郎に知ってもらえて何よりだ」

「で、その羂索様が何用だ」

 腰の太刀の柄に手を添え、警戒と共に義家は問う。

「同盟のお誘いだ。蘆屋道満を、倒さないかい?聖杯戦争が成就すると、些か厄介なことになりそうでね」

「俺たちは確かに蘆屋道満と敵対するつもりだが。信用ならん縫い目女を味方に入れるほど阿呆じゃない」

「いやいや、同盟とは言っても、縛りの内容そのものは、相互非加害程度で構わないさ。あの術師は繰り上がりとはいえ、平安京最強、即ち日本最強の術師だ。君よりも強い。お味方も二人ほどいるみたいだが、それじゃ足りないよ。私は割と、お膳立ては得意な方でね。君が最も力を発揮できる環境を用意できる」

「そうか……少し相談させてくれ」

 

 一旦義家は屋敷の中に引っ込み、資正と准胝に相談する。

 そして。

 

 義家は最後の確認をする。

「相談は終わった。確かに未知数の相手にぶつかるのはこちらも避けたい。あの道満の術式を知っているんだな?」

「もちろん」

「相手の使ってくる拡張術式も?」

「ある程度は}

「その他の搦め手は?」

「封じ込められる、かもしれない。というか一度は封じ込められた。相手も対策してくるだろうが、年の功で何とかするさ」

「あの老怪に年の功、ね。一体何者なんだか」

「それでは、承知してくれるということで?」

「ああ。『互いに不可侵の縛りを、俺たち三人とお前で結ぼう』」

 義家は、言葉に呪力を乗せて言霊と成し、口から発した。

「『承知した』。これで、縛りは成立した。では、早速行こうか」

「もう行くのか?こっちも準備したいんだが」

「準備はこっちで済ませてある。奇岩霊法は巨大な岩があればあるほど良いというのは調査済みだ。京の地下にある私の工房で、大量に岩を造っている」

「……?京の地下に石切り場なんかあったか?」

「はっはっは。石切り場ではないよ。見れば分かる」

 

 しばらく歩き、京の端にある襤褸屋の奥。『隠す結界』の向こう側にあったのは、洞窟を木の柱で固定した、巨大な工房だった。球体や立方体に整形された、大量の岩が転がっている。小さなものでも一立方メートルの体積を持ち、最も大きいものでは縦横高さそれぞれ百メートルの立方体すらあった。合計で百数十個ほどだろうか。

 

「羅馬墾繰土(ろぉまんこんくりと)。かつてはオプス・カエメンティキウムと呼ばれた、滅んだ文明の過剰技術さ。灰を、岩に変える錬成術。一切呪術を用いない、科学(スキエンティア)の産物だ」

「呪術を用いず、灰を岩に……?いや、本当だな。この岩からは一切の残穢を感じない」

「これを使って、あの蘆屋道満を一分足止め出来るかい?こちらには獄門疆がある。半径十三尺(約4メートル)の空間に、一分だ」

「最大限消耗させて、『渇命化石』に閉じ込める。お前の話を聞く限り、確率は三分と言ったところか。まあ、良い。俺が死んだら伴資は頼む」

「ああ。必ず道満の企みを阻止して見せるさ」

 

 

 

 一方。京の薨星宮直上。陰陽寮本部、最奥。

 

 そこには、何も設定されていない空性結界の中に三人の人影だけがいる。

 一人の老婆が、蘆屋道満と赤髪の少女の二人と、相対していた。

 

「道満。貴様の性根を信じた訳ではない。だが、この藤丸立香とやらを、私は信じる。戴呪英霊と名を付けようが、その本性は呪霊と変わらん。この女を除いてな。正でも負でも虚でもない、時間の流れに耐えるための重み。神秘、と言ったか。それによって形作られた彼女は……何といったらよいか。超然性と人間性を兼ね備えていると、私は感じた」

「ン。『不死』の術式を渡すという約定については?ますたぁ、立香殿が永劫を生きるために必要なものだ」

「道満。良いよ、不死なんて……確かに、死にたくはないけどさ。誰かを犠牲にしてまで死にたくない訳じゃない」

 赤髪の少女が、蘆屋道満の袖を引くが、道満は首を振る。

「立香殿は、世界を救う御方だ。貴女以上に不死が相応しい存在はいません」

「でもっ……私はっ」

 そこで、天元が詳細について説明する。

「今はまだ受肉していないから、呪物化は不可能だが、その女が受肉したら呪物化させると良い。私の肉体を、『不死』の術式を渡そう。……もう、限界が来ている。狂いそうだ。星漿体を喰らわなければ、自我が保てそうにない。だが、人を喰らって生き長らえるつもりもない。早く、宿儺の頭蓋を満杯にして、その力を使って受肉してくれ。そして、私を救けてくれ。救けると思って、私の自我を人間のまま殺してくれ」

 

 救けると思って。その言葉に、赤髪の少女は言葉を止める。

 

「……確かに。世界を救う所業を、貴女一人に押し付けるべきではない。世界を征服したとしても、滅ぼしたとしても。私は貴女の味方です。しかし、それでも、貴女は不死を手に入れるに相応しい器の――」

「違う、違うの、あっ!?」

 空性結界に激震が走る。呪力の、そして斬撃の奔流によって、結界そのものだけが、切り刻まれているのだ。

「そう、そう。空間そのものを術式対象とするのは君の術式と才能では不可能に近い。それなら視点を変えよう。君が切っているのは、結界という呪力構築物だ。空性結界とは言っても、呪力の産物であることには変わりは無いからね」

 イペタムを腹に突き刺し、反転術式による治癒と並行して血液を呪力に変換し続けている准胝と、彼女の背中に手を当てて呪力操作のレクチャーをしている羂索がそこにはいた。

 『反転術式による血液の補填』『イペタムによる血液の呪力への変換』『連続する『捌』による空性結界の解体』という三つの作業を同時並行で行っている准胝の負担は非常に大きい。脳の負荷も半端ではないが、反転術式で誤魔化している。羂索のサポートは、黒い閃光を発生させたかのような技巧を准胝にもたらしていた。

「私はこのまま准胝のサポートと、魔術基盤・思想盤への接続妨害をする。伴資君は藤丸を。女媧と因幡、君は天元を。天元は呪霊に変貌しかけている段階だから、反転術式のアウトプットは使えない。呪霊の君たちでもなんとかなる筈だ。そして……八幡太郎。君は、蘆屋道満を」

 

「「「了解」」」

 

 幾十万もの蠅頭を身に纏い、赤髪の少女に突撃する伴資正。それを妨害しようと、『黒陽』を練り上げようとする道満だが、道満には直径数十メートルの、呪力の籠った岩石球が時速四百キロメートルで衝突した。

「グッ、舐めるなァ!」

 拳で岩石球を粉砕する道満。しかし、『黒陽』の生成は一瞬遅れ、蠅頭の激流は赤髪の少女を遠くまで吹き飛ばした。空性結界の外側、京の洛外、大江山までその激流は流れつく。

 

「なっ、立香殿!おのれェ!『極の番・表 狂瀾』!」

 

 生成し終えた『黒陽』を式神化して自立稼働させ、更にそれを複数生成する道満。

 8つの眼と口の生えた『黒陽』。それは源義家を包囲し、じりじりと距離を詰めていく。

 

「攻略その一。適応する系は一撃で仕留める。『苦界』『圧壊』『孤独の帝』『羅盤の裡面』」

 呪詞を紡ぎ、数十ほど浮遊させている巨岩のうち中くらいの大きさ、直径十メートル程のそれに呪力を込めていく源義家。それに危機感を覚えた道満は、『狂瀾』をその巨岩に殺到させる。

 だが。

「『六合見神』」

 モアイ像に変形したのは、先ほど呪力を込めていた岩とは正反対の側にある直径五メートル程のものだった。殺到された岩は『狂瀾』に喰われるが、喰っている途中の『狂瀾』も、『六合見神』の折り畳みによって歪み、捩れ、元に戻って砕ける。

 

 折り畳みに適応出来たのは、僅か二体の『狂瀾』のみ。それ以外の『狂瀾』は全て粉砕された。

「二つ残れば十分ンンン!出でよ『白夜』」

 黒点呪法の拡大順転、『黒陽』は、術式の加速度的分析と分解がその主な術式効果である。そして、その術式反転、『白夜』は、『黒陽』で分析分解した術式を記録し、再現するものである。奇しくも、人伝てで蘆屋道満の記憶にあるム(・)ー(・)ン(・)セ(・)ル(・)・(・)オ(・)ー(・)ト(・)マ(・)ト(・)ン(・)に類似した機能を持ち、月に似た姿をしている『白夜』であった。

 そして、再現には記録の破棄が必要である。『六合見神』は、三体破壊されたことで完全に分析・記録され、さらに三体破壊されたことで、その効果をオリジナルに近づけていた。

「『苦界』ィ『圧壊』ィ!『孤独の帝』ォ!!『羅盤の裡面』ンンンンン!『六合見神』!」

 

 呪詞により、威力を限りなくオリジナルに近づけた『六合見神』。『白夜』から巨大なヒヨコのように這い出たモアイ像は、源義家の肉体を折りたたもうとして……

「『壱号・貪鶏』」

 折りたたまれようとするモノは、黙って折りたたまれるのか?否である。

 『六合見神』の術式対象指定は視界による。よって、対象とモアイ像の間に障害物があれば、効果を発揮しない。それを道満とは違い知っていた義家は、障害物を造った。

 代わりに巨大化した岩を折りたたんで粉砕したモアイ像は、そのまま役割を終え、消失する。

「ふん、この程度で上回ったと思われては困る!『極の番・裏 怒濤』」

 生き残った二つの『狂瀾』が、二つの『怒濤』、すなわち式神化した『白夜』を呑みこむ。

 今まで、『黒陽』が『白夜』に情報を送るためには、道満という術者が媒介になる必要があった。

 だが、式神化によって、『黒陽』側で情報の圧縮・取捨選択が可能になった。さらに『白夜』側も式神化することにより、術者の負担を更に減らす。そしてその究極形。『黒陽』と『白夜』が式神化した上で一体化することにより、媒介する必要がなくなり、呪力消費以外の術者の負担が一切なくなる。逆に副脳として式神を使用することも可能になる。

 その結果どうなるか。蘆屋道満本人のキャパシティが、120%式神の強化調整に費やされ、黒点が質量0体積0の気体粒子となって放出される。当然、式神の『術式を分析・分解』するといった黒点の基本性質は保持したまま、である。

「『光の刻、是迄』『太陰は砕け』『太陽は生まれ変わる』『極の番・真正 狂瀾怒濤・悪霊左府』」

 術式効果だけではなく、術者の体内に刻まれた術式回路すら分解する奇妙な吐息が、二体の『狂瀾怒濤・悪霊左府』の口から吐き出された。

 その吐息は呪力防御を分解しながら貫通し、呪力の無い物質はすり抜け、対象にじわじわと迫りその術式を粉砕する、筈だった。

 

(ヤバそうな吐息。熱(弐号)や支配水(肆号)は効果無さそうだな)

「『壱号・貪鶏』」

 『貪鶏』によって、呪力の籠った巨岩を吐息にぶつけ、相殺する。無論吐息は無尽蔵に吐き出されるため、時間稼ぎにしかならない。

 

(それで充分!式神の操作に脳の容量が割かれてる内に斬り殺す!)

 

 義家の脚力によって地面が爆ぜ、同時に抜刀。道満の頸目掛けて、『髭切』の刃が振るわれる。

 しかし、自立型式神の操作に、そこまで脳の容量を裂く必要はない。

「『黒陽十二単』。ンンン!残ッ念!ここで八幡太郎はお仕舞!」

 『髭切』はその相対優位切断の術式効果を、『黒陽十二単』……全身を覆う布として形成された『黒陽』によって完全に粉砕された。更に、只の名刀と化した『髭切』を、道満は右手で摘まみ、三本の指の握力のみで砕いた。

 それと同時に、左手で道満は八幡太郎の喉を掴み、その身体に黒点を流し込む。

 

「……ふぅ。これで生得術式は使えまい。後は煮るなり焼くなり拙僧の勝手……ん?」

 右脳の前頭前野を中心に、全身に広がる生得術式の回路。それを黒点で汚染し、分解した。

 だが、それでも。『完全に』ではない。

 

「『五劫』……ガっは!」

 

 呪詞の詠唱を再度行い始める義家、それを警戒し、道満は彼を蹴り飛ばす。

 地面に倒れる義家は、起き上がらず、詠唱を続ける。

「『根ノ國』『千力岩戸』」

 

 汚染され、ところどころ破綻して、回路の体を成していない生得術式。その破綻した部分を、ほつれを治すかのように、義家は、体内に結界術を構築して応急処置をしていった。

 それは即ち、脳内に極小の、複数の結界を掛けているのに等しい。

 

「ん何ィ!?脳内に結界だとォ!そこまでの神域技巧、貴様如きが使える筈が……」

 

「ああ、それは私が手を貸しているからね」

 

 羂索は、他の三人に輸血をしていた(羂索の肉体はO型である)。現在は赤血操術の使い手である羂索は、これにより三人と血の繋がりを一時的に得て、テレパシー、遠隔念話を使えるようになっていた。准胝による空性結界の完全解体が終了したところでフリーになった羂索は、テレパシーを用いた遠隔操作で、義家の結界術の手助けをしていた。

 羂索は義家の前に立ち、守るように道満と相対する。

 

「脳を決して動かさず、口と呪力だけを動かすことだ。脳を少しでも動かしたら、脳溢血で死ぬよ」

「わかっ・・・・・・てる。『参号・癡豚』」

 岩が、ゆっくりと豚の形を取る。『参号・癡豚』の術式効果は、反転術式の拡大解釈。その豚に流し込まれた正のエネルギーは、植物や無機物・術式すら、遠隔で治す形で変質・出力される。

 白痴故に、動物と植物と無機物の区別を、接触と未接触の区別を付けられないだけの豚。だが、正のエネルギーのアウトプットだけは出来る。

 それによって、対象・距離無制限の再生を行い――『髭切』と源義家の肉体は、完全な再生を果たした。

「癡豚、俺と髭切に常に反転術式を掛け続けろ。正の力は羂索、頼む」

「ああ、大量の正の力を供給してあげよう」

 

 完全な精神は完全な肉体に宿る。肉体が治癒した義家は、呪力が漲っていた。

 

「御堂流・居合――『望月』」

 

 結界術で軌道を固定した果ての神速抜刀。その性質上、太刀筋は読みやすい。

 ただ、避けられればの話である。その速度は、剣の先端が音速を優に超える。

 結果。道満の『黒陽十二単』は半分ほど剥がされていた。

「フン、この程度で、この蘆屋道満が破れると思うたか!」

 道満は、それを『半分は残った』と見た。『黒陽十二単』を再生させつつ、背後の二体の『狂瀾怒濤・悪霊左府』に指示を出し、一体は源義家に、一体は羂索に襲わせる。

 羂索は『穿血』で。源義家は『貪鶏』の投擲で悪霊左府に抵抗するが、悪霊左府は物ともせずそれを呑み込み、解析再現して撃ち返す。更に。

「っ、ようやく!『思想鍵紋励起』」

 羂索の妨害が一瞬鈍り、思想盤への接続が可能になる。

 擬製思想盤、『羅刹与骸』。その本質は、成長する多重複合超特級呪物。術師の死体を呪物化・吸収し、その術式を保存。思想鍵紋の持ち主に、死後の遺体の所有権と引き換えに、術式の使用権を配布する代物である。

 その規模の大きさ故、平安京の地下、薨星宮の周囲にドーナッツ状の形で存在する。

 蘆屋道満が数十年前に完成させ、現在17の術師が呪物と化して思想盤に統合されている。

 その中から蘆屋道満が選択したのは――

 

「『指定:構築術式』」

 万ではないどこかの誰か。思想鍵紋に頼らなければ生きていけなかった、弱き術師の構築術式。

 それを借り受け、蘆屋道満は呪具を造った。

「『一級呪具・斧爆』、岩を砕くには、大きく振りかぶるべし!」

 呪力を大量に消費し、生成したのは巨斧。地面にそれを叩きつけると、大きな爆発が起こった。

 

 土煙の中、呪力感知に頼りながら二人は『狂瀾怒濤』の二体と格闘する。触れたり、吐息を吸ったりすればお仕舞の『狂瀾怒濤』。遠距離で、一撃で仕留めるしかない。

 

「『五劫』『崑崙』『恒河沙が一』『壱号・貪鶏』」

 

 高空に浮かしていた、最大の立方体。縦横高さそれぞれ100mほどある巨大な岩が、更に巨大化する。

 一立方キロメートル。京の都の半分をすり潰せるほどの巨大な隕石。

 結界から漏れ出た騒音に気付き、夜に起きた京の民は、それを呆けながら見つめていた。

 

「ンなァ!京の都を滅ぼす気か!」

「そんなことは無い。『拡張術式・凝』」

 

 巨大化した岩が、浮遊したまま縮小される。否、圧縮される。

 質量は一立方キロメートル分のまま、体積は縦横高さそれぞれ10メートルほどに変化していく。密度は尋常の法則を既に超越し、物理学的手法による密度測定は現代のそれであっても機能しないだろう。

 羂索と源義家は脚を呪力(と『赤鱗躍動』)で強化し、全力で退避する。

 そんな、圧倒的密度の大質量が落下し、二体の『狂瀾怒濤』を押しつぶす。分析も、分解も、圧倒的な質量密度の衝突には間に合わず、二体の式神は押しつぶされた。『狂瀾怒濤』はそこまで高速で移動できる代物ではなく、回避が間に合わなかった。

 

 再度、土煙が舞う。『黒陽十二単』で術式効果の衣を纏っている道満は、呪力感知が鈍っていた。

「『領域展開 渇命化石』」

 背後から、岩の中に閉じ込める領域が展開され、道満は一人、そこに閉じ込められた。

 同時に。

「『獄門疆 開門』」

 

 獄門疆。60年ほど前に、源信が生きたまま呪物になることで造られた、生きた結界。

 繰り上がりの蘆屋道満にはやや過ぎた代物だ、と思いつつ。一分が過ぎるのを待つ。

 

「構築術式に二体の極の番。領域こそ使ってはいないものの、相当呪力を消費しただろう。『渇命化石』を脱することは君には出来……何?」

 

 ピシリ。『渇命化石』の外殻を構築している結界に、罅が入る。

 黒い粒子の波が溢れ出す。義家と羂索はそれに触れるのを避け、距離を取る。必然、維持するものがいなくなった結界と領域は崩壊した。

 

「星晶石。立香殿、ますたぁが拙僧に持たせてくれた、絆の証。これを砕かせるとは、貴様ら、生きて帰れると思うなよ!『領域展開 地獄界曼荼羅』ァ!」

 

 獄門疆の封印条件は満たされなかった。

 半秒の領域展開。それで、全ては終わった。二人の肉体に刻まれた術式はぐずぐずに溶け、肌は獣のように毛皮や鱗、もしくはケロイドになっている。

 

(脳は展延で咄嗟に守ったけど。これは必中効果というより環境効果だ。『彌虚葛籠』は意味が無かったね。この身体はもう捨てるしかないか)

「相互不可侵の縛りを解く。代わりに、八幡太郎、君を生き長らえさせることが出来る。どうする?」

 共闘した誼に、義家に呪物化を提案する。

「嗚呼……伴資も、頼む」

「まず君が優先だ」

「分かった。頼む」

 

 源義家の肉体を折りたたむように呪物化する羂索。それを見て、道満は首をかしげる。

「はて。仲間割れでもしたか?」

「人聞きの悪いことを言うね。これは延命措置さ。さて。逃げるとしようか」

「二度も言わせるつもりか!生きて帰れ――――」

「あのさぁ。君の大切な大切な藤丸君とやら。ウチの伴資君と戦闘中なんだけど、助けに行かなくても良いの?」

「っ……貴様を瞬殺して、ますたぁの元に参上する!」

 

 斧の呪具を投擲し、着弾時、即爆発させる。斧の呪具の術式効果を利用した、『壊れた幻想(ブロークンファンタズム)』の疑似再現。

 羂索は現在、術式回路が崩壊したため、赤血操術を使えない。領域展延によって防御するが、完全に防ぐことは出来ず右腕が吹き飛んだ。

 追撃しようと、呪力で肉体を更に励起させる道満。

 だが、そこで割り込みが入った。

 

「流石に呆れたよ。瀕死の女なぞ放っておいて、好きな女の元へ一目散。それが男のあるべき姿だろう?」

 

 天元である。空性結界を再度構築し、羂索を除外。天元と道満の二人きりの空間を造った。

 

「アンタの性根を叩き直す余裕は今の私にはない。だから、少し話をしようか」

「話――?一体何を。天元、貴様に邪魔をする利益はない筈だ」

「話、というのはな。彼女、藤丸立香の正体についてだ」

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