地下に向かうエレベーターのなかで、彼女【博衣こより】といろんな話をした
ここの研究所は、ヘレシー・アナーキーという博士を筆頭に成り立っているそうだ。前日に見かけたあのボサボサ頭のことみたい
彼は過去に科学系の優秀な人間として名が上がっていたそうだが、次第にそれより優秀な人が突出した結果、名が消えていった人なんだとか
「こよは彼が唯一出した論文に惹かれ、彼とコンタクトを取ってこの研究所に加わったというのに実態は…」
ウイルスで成果を上げる人であった…と
理想が砕かれるその感覚は計り知れないものだろう。でもこよりはそれに打ち砕かれることなく、歯向かっていった。それは称賛に値するものだろう
―ピンっとエレベーターが地下へ到着する音が鳴り響き。二人は見えないように壁に張り付く
エレベーターの扉が開き、私は壁からバッとでて安全を確認する。地下は真っ暗く誰もいない…武器を構えながらライトを起動させると、そこには驚きの光景が広がっていた
「うっ―――!?」
壁にかかる赤い鮮血。無造作に伏す人の姿…これは―――なにがあったのだろうか
私は近くによってその遺体を確認する
腹部が大きく裂かれている。並大抵の刃物で切られたものではなさそうだ。そしてこの大きさから推定すると…40CMほどの刃物になるだろうか
隣には原型がわからなくなるほど潰れた頭部。ひしゃげて曲がった腕や足……一体なにがこんな事をしたのだろうか
「酷い…」
「…もう息はしてない。先へ進もう」
「…はい」
二人は遺体を通り過ぎて血だらけの道を先に行く
その時、大きな振動が二人を襲った。地震とは違う一瞬の揺れ。そしてなにかケモノのような唸り声も聞こえてきて強さが倍増する
私も怖いのは得意ではないし、こよりもどうやら苦手みたいだ
「ここ…入りましょう。おそらく地図データがここにあるはずです」
「よし…」
目の前の部屋に入るといきなり照明が起動し、驚いたこよりは私に抱きついてくる
よしよしとなだめていると、我に返ったように、ばっと離れてごめんなさいと一言。私も怖いからもっとくっついてくれてもいいのだが…
―この部屋を探索していると、地図のデータとハンドガン(弾も数十発)を発見した
「あ、これは…」
「これがどうかしたの?」
こよりは私の手の中にある紙を凝視して呟く
この紙に書かれているのは、【研究レポート:1】どうやらこの研究所のレポートのようだ
中身をよく見てみると、なにやら実験を行ったあとのレポートのようだ
『実験1レポート――被検体に対し、1−1ウイルス(試薬)を投与。
投与5時間は変化は見られなかったが、5時間を経過した後、体の細胞が変化を確認。身体能力の向上を確認。その後2時間後被検体の死亡を確認。
実験2レポート――被検体に対し、改良した2−1ウイルスを投与。
実験1と同様に細胞の変化を確認。その後死亡することは無かったが、意識の混濁を確認。経過観察を続ける
実験3レポート――被検体に改良化3−1ウイルスを投与。
投与直後、被検体の死亡を確認。しかし細胞は作り続けられている模様。切創に対しても従来とは比べ物にならない程回復速度が早いことから、ウイルスが回復効果をもたらしていると考えられる
実験4レポート――被検体に改良化4−4ウイルスを投与。
結果として実験2の症状が発症し、被検体が意識混濁状態に陥ったが、こちら側の命令を遂行し始めた様子から、使役性が生まれたことを確認した
博士はこれまでのウイルスを混ぜ、細胞の変化、意識の混濁、傀儡化を目指せとの命令を下した
全ては
「ものすごい実験をしてたみたい…」
「これ…こよがここに入る前の実験――何が目的なのか分からなくて、こよはここを抜け出しました…」
「そう…」
悲しそうな顔をしたこより。その感情に同情する
この部屋をよく観察すると、ここは休憩室みたいだ。防衛用の武器や包帯などのものが揃っている。何だか不穏な感じもするが…とにかくラプラスにデータを送信しよう
データを転送している間、こよりは壁に向かってなにかを行っていた―
『―よし、データ貰ったよ。これからはサポートできると思う』
「ありがとう。こより最下層への行き方はわかる?」
「ここから少し行くと中央ロビーがあります。そこのB区間を通ってエレベーターで最下層まで行けます」
「OK…行こうか!」
こよりがなにか壁から取った気がするが…まぁいいだろう
私達は休憩室を出て先に進む。するとこよりが言った通り、広いロビーのような場所にでた
しかしそこも荒れ果てていて、綺麗さのかけらなんて無い。T字の通路で、正面に受付があって左右に道が別れている。どうやら左側がB区間だそうで、こよりが先に扉を開けようと先に行くと――
「うわっ!!!!!」
また地面が揺れる。すると真上の天井からパラパラと石が落ちてくるから、私はマズイと思ってこよりをB区画の方へと突き飛ばして、自分自身はバックステップで避けた
その直後…ガラガラと天井が崩れ、B区画の入口が塞がれてしまった
離れ離れになってしまった2人。どうにかして合流しなくては
「B区画には遠回りにはなりますが、A区画から繋がるC区画からも行けます!こよは自力でなんとかするんで、後で合流しましょ!」
「あ !ちょ…」
虚しく私の声は霧散する
とにかくここからは私ひとりである程度進まなければならない…この怖い空間を1人で…
「いや、一人になると怖いな…」
『吾輩が喋ってやるよ。頑張って』
励ましの声をくれたラプラスに感謝して先へと進む。こよりに言われた通り、B区画には行けなくなったから、反対側のA区画を突き進む。A区画は本当の研究室になっているみたいで、人の身体の一部が異形な形となってが培養液に浸かっているのが見える…悪趣味だ
その研究室ですら真っ暗なのが更に私の不安を煽る。電力なしでこの実験体はどうやって生きるのだろうか――もし割って出てきたら…
「…そんな予想はよそう…」
お得意のダジャレも今この段階では笑うことができない。ラプラスは励まして笑ってくれたが
すると奥の方からコツ…コツ…という足音が突如聞こえ始めた。私は息を飲んでライトを構える――何者か。警備員か。それとも被検体か――正体は何なのか…それはルイのライトに照らされて判明した
千鳥足でうめき声を上げながら近づいてくる研究員姿の人形のモノ―私はそれに銃を向けた
「う…あぁ…ぁぁぁ」
「人…?止まりなさい!!止まらなければ撃つ!」
人は止まらない。まるでバイオのゾンビのようだ
徐々に近づいてくるものに困った私は、楽に逝かせてやるために頭に一発打ち込む
―パンッ。銃声が響き渡り、銃弾は頭へクリーンヒットした
人は大脳を失ったためか、その場に倒れ込む。私は用心しつつその人に近づいて様子を見る
焦点を失った白い目…肌の色は首元から黒く変色しており、血管が木の根みたいに浮かび上がっている――人とは呼べないなこれ
『幹部、状況を』
「A区画にて戦闘。銃を発砲して始末した。多分人じゃない…」
『画像飛ばせる?』
「…かなりグロいけど、大丈夫?」
ラプラスが大丈夫!と言うので、私は写真を取ってラプラスに転送すると、「うわッ!ゾンビやん!」と一言
「―この研究所…何があった…?」