夜を日に継ぐ   作:百三十二

1 / 52

SAOIFのヒロイン《コハル》とバンドリの《氷川日菜》の中の人が同じというネタ。でも別にSAOIFの展開を使うことはあっても丸々なぞるとかは無い

バンドリ側の時系列はガルパ6周年前の年長組が高3の時

クッソ拙い国語力でも良ければ、どうぞ





第一層──全ての始まり
剣の世界へ──


 

 

 

 

 

 ──11月6日12時55分。私《氷川紗夜》は自室のベッドの上に横になっていた。

 

 ついさっきまで双子の妹の日菜に絡まれていたが、約束の時間が近付いてきたので日菜も自室に戻ってベッドの上で同じように待機しているはずだ。

 

 

(まさか、こんなことになるとは……思ってもみなかったわね)

 

 

 頭につけたヘルメットの様な装置を撫でつつ、少しだけ感慨深くなった。

 

 何を隠そう、後5分もすれば今や話題沸騰中のVRMMO《ソードアート・オンライン》正式サービス開始時刻となる。私と日菜は故あってこの圧倒的な倍率を誇った最新のゲームをプレイする機会に恵まれた。

 

 残り数分で開始時間となる中、こうなった経緯について軽く思い返してみる。

 

 

 事の発端は日菜の所属するアイドルバンド《Pastel*Palettes(パステルパレット)》こと通称パスパレが、ソードアート・オンラインこと《SAO》とタイアップしたことに始まる。

 どういう利権が絡んだかは不明だが、先方がパスパレの、特に日菜のファンだと言うことで打診されたのだとはクラスメイトであり日菜の同僚の白鷺さんに教えてもらった。

 

 成る程こういう形でも案件が貰えるのかと、改めて芸能界やそれを取り巻く環境は月並みだが大変だなと感じた瞬間だった。

 

 

(まあ……それだけでは終わらなかった、と)

 

 

 今回の件がより大きな出来事に発展したのは、SAOのテストプレイ──いわゆる《βテスト》にパスパレが招待されたことに起因する。

 

 この時点では既にSAOの宣伝役としてパスパレが任命されたことが関係者に周知されており、当然ながらSAOに興味を持つゲーマーやβテストに参戦するテスターの間では良くも悪くも話題になっていた。

 

 それなりの知名度を持つようになった(らしい)パスパレといえども、興味の無い人たちからすれば無名と変わらない。いかにもゲームそのものとは無縁そうな、しかもアイドルときた。先入観や偏見は避けられるものではなく、好意的な見方は少なかったように思う。

 

 

 それを一変させてしまったのが、《氷川日菜》という存在だった。

 

 

 一度見聞きしたものは忘れない、テストで満点取るのは当たり前な上に運動神経は抜群と文武両道。パスパレとしては唯一の外部オーディション採用でありビジュアル面も完備と、ただの事実として才色兼備。何をやらせても卒なくこなすどころかプロ顔負けの結果を叩き出し、ついたあだ名は《となりの天才ちゃん》。

 

 身内の贔屓目を除いても、まさしく天才の二文字が当て嵌まる規格外。今となっては折り合いが付いているが、日菜との才覚に差を感じて気まずくなった時期もあった。紛うことなき天賦の才を持つ傑物、それが双子の妹の氷川日菜という存在なのだ。

 

 ここまで言えば想像がつくだろう。結論から言って、日菜は仮想空間においてもそのスペックを遺憾無く発揮し、βテストにて名だたるゲーマーたちの悉くを差し置いてトップランカーの一人に名を連ねてしまったのだ。

 

 日菜はゲーマーであるどころかゲーム自体を深く遊んだという記憶が無いので、そういったゲームに関する知識や経験には乏しいはずだった。その分だけ他のランカーたちとの差があったことは疑いようのない事実のはずだった。だというのに、その不足している知識や経験の差を純粋なリアルスペックに物言わせて縮めてしまったそうだ。

 

 この話を白鷺さんから聞かされた時、同席していた白金さんがボソッと『リアルチート……』などと呟いていたのが記憶に新しい。

 

 とにかくそんな訳で、ありとあらゆる先入観や偏見をふっ飛ばした日菜のおかげでゲーマーからは好意的に受け止められることが増え、タイアップの話はかなり順調なのだとか。

 

 現に想像以上の働きだったと先方からの評価はかなり高く、SAOをプレイするための一式が一人分追加で支給されることになった。そしてこの追加された一人分というのが、今私がつけているものになる。

 

 先方が言うには、SAOは一つのパーティーで6人まで組めるがパスパレは5人であり、一人だけ追加できる。将来的にゲストやスタッフが参加することもあるだろうが、ある事情から信頼できる人を一人選定しておいて欲しいとのこと。

 

 好評だったことへの報酬と、今後の為。二つの観点から渡された追加分は事務所との相談を重ねた結果、最も貢献した日菜の身内である私へと巡ってきたのである。

 

 

『おねーちゃん! あたしと結婚しよう!!』

 

 

 こんな口説き文句があってたまるか。頭を抱えずにはいられなかった、つい半月ほど前の学校から帰宅した直後のことである。ドタドタと慌ただしい音がしたかと思えば、乱雑に開けられる自室のドアの音に驚く暇もなく日菜にそう告げられた。

 

 

『あ、結婚と言ってもゲームの話だよ? ほら、()()()()()()()()()()()ってゲームでさ、パスパレが遊ぶことになったじゃん? それでその内システム紹介とかやるらしいんだけど、その中に《結婚システム》ってのがあるんだって。出来ればそれの紹介もやって欲しいみたいなんだけど、曲がりなりにもあたしたちアイドルだからさー。その辺どうなのかなってなっちゃったんだけど、「身内です」って予め伝えておけばいけるんじゃないかーって。で、その身内におねーちゃんが選ばれたって訳。どう? 分かった?』

 

『……色々と言いたいことはあるけれど、ノックしなさいといつも言ってるでしょう?』

 

 

 痛くもないのに頭痛がするという無駄に器用な事態に陥った私は、眉間に手をあてて顰めっ面をした。そしてやっとのことで返した言葉は、それだけだった。

 

 興奮冷めやらぬ日菜を何とか宥め、あれやこれやと話を聞くことで事態の理解は出来た。後日学校で同じくパスパレの丸山さんや白鷺さんと話を合わせて納得し、私の方のバンド活動に支障をきたさない、あくまでも日菜の身内というだけで私自身が何かするということは無いという二点を以って承諾することにした。

 

 私の所属するバンド《Roselia(ロゼリア)》はプロにならないかと事務所のスカウトを受けたばかりだった。それもあって、たとえ最新のゲームだとしても手を出すつもりは無かったというのに、世の中どうなるか分からないものである。

 

 結局、学校で日菜が言いふらしたせいか本日のバンド練習は無い。遠慮することはないと軽く抗議はしたものの、湊さんと今井さんには微笑まれた上で湊さんに『いいから日菜と遊んできなさい』と言われ、白金さんと宇田川さんには気を遣われた挙げ句に宇田川から『後で感想聞かせてくださいね紗夜さん!』と言われた。

 そんな訳で学校のない日曜日だと言うのに、バンド練習もなくゲームをするだけの時間が確保されているのである。

 

 

(……12時59分、そろそろね)

 

 

 SAO正式サービス開始時間まで1分を切ったので回想を終わらせ、目を閉じて脱力する。刻一刻と目ざまし時計の秒針が刻んでいく音を耳に、意識が深くなっていくのを実感する。

 高々1分、されど1分。永遠にも似た時間が過ぎ去り、長針が頂点を指した。

 

 

(私自身楽しみにしていたこと、どうやら言い訳出来そうにないわね)

 

 

 待ち焦がれた瞬間がやってきたと理解した途端、心が震えるのが分かった。

 

 それはこのゲームをプレイすることに対して、紛れもなく楽しみにしていたことを意味している。柄にもないと自嘲し、苦笑いが浮かんだ。

 おかげさまで知らず張っていた緊張の糸は、既に途切れていた。

 

 

「すぅ……はぁ……」

 

 

 告げる、始まりを。

 

 深呼吸することで改まり、臨む。

 

 様々な人たちの好意の上で許された時間を、目一杯楽しむために。

 

 

「リンクスタート」

 

 

 いざ、剣の世界へ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

『Welcome to Sword Art Online !!』

 

 

 複数の機械的チェックが済み、頭につけた装置《ナーヴギア》を通してゲームが起動した。機械音声で歓迎され、キャラクターメイクをしながら簡単な説明を受ける。

 

 名前は《Sayo》、性別は女だけど男、外見と声を極力リアルに寄せる。そうしないと万が一パスパレの案件に呼ばれた時に困るだろうから。

 

 視界に映る様々なパネルをタッチしていくことで次へ次へと切り替わっていく。フルダイブ型とはどんなものなのか、その一端が既に感じ取れそうだった。

 

 性別を選ぶ時だけ警告文が出てきたが、今回ばかりは無視を決め込む。私にネット上で性別を偽る趣味も謂れも無いが、誠に不本意ながら必要性に駆られてそうする。本当に、こういうところが今井さんに度々言われる様に妹に対して甘いということなのだろうか。

 

 

(動作は……問題なさそうね)

 

 

 どれだけ時間が経過したか気にしていなかったが、それっぽい外見──アバターが出来上がったので動作確認をしてみる。どういう仕組みかは不明だが、少なからず現実の肉体との差異があるにも関わらず身体を動かすことに違和感をほとんど感じなかった。

 強いて言うなら、少し動きが鈍いか。それも微妙なところだが。

 

 

(待たせてしまったかしら)

 

 

 一度作り始めると凝ってしょうがない。時間を気にしなかったおかげか満足のいくアバター作りが出来たので、いよいよもってSAOの舞台、《浮遊城アインクラッド》へと足をつけることになる。

 

 

(『OK』っと)

 

 

 完了ボタンを押すと空間が真っ白に染まっていき、やがてアバター作成の場から更に深く潜るような錯覚を覚える。

 一瞬だけカラフルな何かとすれ違い、すぐに眩しい光に包まれ目を閉じる。

 

 ものの数秒はしただろうか。気がつけば浮遊感はなくなり、重力を感じた。平衡感覚が機能したのか、地面に足がついているのをハッキリと認識する。

 

 

(大きいわね……)

 

 

 目を開けると、大きな石碑が目に入った。その大きさにつられて目線を上げていくと、どこまでも続く青い空が視界いっぱいに拡がった。

 幾何学的な何かが残る、それでいて確かに青空だった。

 

 ああ、ここは本当にゲームの世界なのだろうか。技術の進化とは、こうも仮想と現実の境目を曖昧に出来るものなのか。

 

 

(これではまるで──)

 

 

 ──異世界ではないか。

 

 しかしそう思ってから言葉を口にすることなく呑み込み、私は首を振った。それは今考えるべきことではないからだ。

 

 

(日菜との待ち合わせは……この巨大な石碑の裏、だったわね)

 

 

 よくよく冷静になればサービス開始から間もなくということもあって、降り立った石碑を中心とした大きな広場は確かな賑わいを見せていた。

 この中から無作為に合流するとなると至難の技だが、日菜がβテスターということもあって待ち合わせ場所の指定には困らなかった。日菜に言われた通り、この巨大な石碑をぐるりと回り込むようにして喧騒の中を歩き、裏側へ赴く。

 

 すると石碑の裏側、日陰になっているところにフードを目深く被ったプレイヤーが石碑に寄り掛かるようにして立っていた。傍から見るに、腕を組んで片足を曲げる様は如何にも不機嫌ですと主張している様だった。

 

 

「……行きつけの喫茶店は?」

 

「羽沢珈琲店」

 

「剣の世界へようこそ、おねーちゃん」

 

 

 念の為に本人確認として合言葉を告げる。サービス開始直後にフードを被っている人物などほとんどいるはずもないのだが、警戒しないよりはマシだ。

 

 改めて目の前のフード、もとい日菜の顔を覗き見ると日菜だった。何処からどう見ても日菜だった。

 当然だろう。βテストでもそうだったが、日菜は《パスパレの氷川日菜》としてSAOをプレイすることになるのだからリアルと同じでなければならない。

 

 だから案件前に身バレして騒ぎになるのを防ぐために、スタッフの計らいで日菜のアカウントには最初から野暮ったいフードが支給されている。

 

 ただ、そんな日菜の雰囲気はやはり不機嫌そうで。

 

 

「待たせてしまったかしら?」

 

「んーん、そうでもないよ。30分くらいかな!」

 

「……悪かったとは思ってるのよ」

 

 

 どうやらアバター作りに精を出しすぎて思ったよりも待たせてしまったらしい。仕方がない面もあるとはいえ、ここは私が悪いので謝罪をする。

 

 

「ま、おねーちゃんは1からだもんね、それ」

 

 

 そう言って指差すのは私のアバターだ。

 

 

「そこまで凝るの? おねーちゃんらしいけどさ」

 

「あなたが男にしろって言うから、違和感を減らすために苦労したのよっ」

 

「あははっ、それもそうだよね! というわけでおねーちゃん! これっ!」

 

 

 何が面白いのか、急に機嫌が良くなった日菜が徐ろにメニューを開いてパネル操作をし始めた。

 

 かと思えば、すぐに私の方に複数の通知が飛んできた。

 

 一つ目はフレンド登録。オンラインゲーム等ではよくある機能の一つであり、特に断る理由もなく登録する。

 

 二つ目はパーティ申請。これもよくある機能の一つであり、これから日菜と行動を共にするのだから当然受理する。

 

 そして最後の三つ目は──

 

 

『プレイヤー《Hina》から結婚を申し込まれました』

 

『承諾しますか?』

 

『結婚システムについては──』

 

 

「はぁ……これで良いのよね?」

 

「もちろん!」

 

 

『OK』

 

 

 日菜から《結婚システム》を通して申し込まれそれを承諾する。それに伴い、何とも言えない控えめなファンファーレが鳴り響いた。風情の欠片もない結婚成立の瞬間である。

 

 

「やった! おねーちゃんと夫婦! すっごいるるるるんってきた!!」

 

「そんなに喜ぶことかしら……」

 

 

 双子の姉妹で、そんなに嬉しいことなのだろうか。日菜にとって何が琴線に触れるかは、未だに理解しきれていない部分が多くついていけない場面が多々ある。

 

 呆れる私をよそに、周りから変な目で見られる中ひとしきり喜び終わって落ち着いたのか、日菜はマイペースそのままに続けた。

 

 

「あ、そうだ。あたしと結婚したからおねーちゃんとストレージが共有になったでしょ? その中にフードがもう一着入ってるから装備してって、スタッフさんからの差し入れ」

 

「……本当だわ。ありがたく使わせて貰うとしましょう」

 

 

 結婚システムとはつまるところ、互いの所有物の完全共有を意味している。

 よって日菜と結婚した私は、日菜の持っているアイテムやお金を好きに取り出せるということであり、今回はスタッフが恐らく善意で用意してくれた日菜とお揃いの野暮ったいフードを選択して装備することが出来た。

 

 このシステムが他のオンラインゲームに搭載されているかどうかはそれ次第としか言えない。あまり詳しくは無いので定かではないのだが、少なくともSAOにおける結婚システムとはそういうものだった。

 

 

「あ、おねーちゃんの初期装備は片手直剣だったんだね?」

 

「そういうあなたは短剣なのね」

 

「動きやすい方がやりやすくてねー。何ていうか、レベルが低いと思ったよりも動けないし」

 

 

 日菜はβテスターなので、プレイヤーにランダムで一つだけ配られる初期装備に関しては融通が効いているらしかった。

 ちなみに私が片手剣(SAOでの呼称は片手直剣なのだとか)だったのは完全にランダムの結果であり、使おうと思っていた武器種を引き当てたのは幸先の良いスタートだと言えるだろう。

 

 

「それで? これからどうするつもり?」

 

「先におねーちゃんは盾を買った方が良いんじゃない? えぬえふおー、だっけ? おねーちゃん盾使ってたでしょ」

 

「それもそうね。お店の場所は知ってるのでしょう? 案内してちょうだい」

 

「オッケー!」

 

 

 

 

 

 ☆☆

 

 

 

 

 

 大きな石碑が鎮座していた、最初に降り立った街の名前が文字通り《はじまりの街》だと知ったのは、買い物がてら日菜に案内されながらちょっとしたゲーム内知識を教わっていた時のことだった。

 

 はじまりの街は非常に大きく、この街一つ探索するだけで丸一日はかかってしまうのではないかと感じた程だ。中世ヨーロッパでよく見受けられたような石造りの景観はとても新鮮で、日菜と遊ぶという目的がなければ観光気分で歩き回っていたかもしれない。

 

 それと同時に、同じことを考えているのか辺りを見渡しながらすれ違ったプレイヤーも数多く、改めて現状の賑わいっぷりに思わず舌を巻いた。

 加えて最序盤にフードを被ったプレイヤーが二人並んでいるというのは非常に目立つとも実感した。街並みを観察している人たちとは違って、往来を行き来しているプレイヤーたちからはかなりの視線を貰った。

 

 故に、さっさと街を出て戦闘をしにいこうとなったのも必然と言えるだろう。

 

 

「とは言ったものの。いや〜……あっちもこっちも見渡す限り人だらけじゃん。みーんなはじまりの街周辺で戦闘しちゃってるよ」

 

「ある意味当然なのかしら。一部のβテスターを除けばまともに地理なんて把握出来ないでしょうし、取り敢えずの感覚で目の前の敵と戦おうというのは分からないでもないもの」

 

「これじゃあ街の中も外も変わんないねぇ」

 

 

 そう、結局街の外へ出たところで、開けた分だけ街の中より広大に見える草原や小さな丘でさえもプレイヤーで埋め尽くされていたのだった。

 これでは敵の奪い合いになり、プレイヤー間の揉め事に発展しかねない。そうでなかったとしても、そんなリスクは取りたくない。

 

 

「あ、そうだ! あたし、良いこと思いついたよ!」

 

 

 ではどうするべきか、と思考に耽ろうとした矢先。日菜が手をポンっと叩きながらそんなことを口にした。

 

 

「……一応、聞いておこうかしら」

 

 

 日菜の考える良いことなど不安でしか無いが、ここはSAOプレイヤーとしては先輩にあたる妹の意見を聞いてみることにする。

 

 

「次の街まで走る! ってのはどうかな?」

 

「次のって言うと、この景色の更に先ってことよね?」

 

「そうそう! 確か《トールバーナ》だったかな。このアインクラッド第一層だと《はじまりの街》の次に大きい街なんだけどね。《迷宮区》が近いから攻略組がその内出入りするようになるけど、それを抜きにしてもサービス開始直後に長時間移動する人なんて限られてると思わない?」

 

「一理あるわね。人が多いなら少ないところへ、と言う点については問題ないと思うわ。でもね、日菜。私たちまだ初期レベルなのよ? いきなりその、迷宮区とやらに近い街まで行って詰んだりしないかしら」

 

「安心してよおねーちゃん。このゲーム、ある程度大きな街だったり迷宮区の出入り口だったりに《転移碑》ってのが設置されててね。一度触る──アクティベートって言うんだけど、それをすると転移碑の置いてある街同士でワープ出来るようになるんだ。だからトールバーナまで行って転移碑さえ見つければ、はじまりの街まで一気に戻ってこれるから詰みになることはないと思うよ」

 

 

 それに、と日菜はどこか意地悪な笑みを浮かべてこう続けた。

 

 

「第一層の時点だとそんなに強い敵はいないし、迷宮区の方に行かなければ厄介な敵も湧かないよ。だからトールバーナまで行ったとしても初期装備で十分戦えるし、何より少しくらい相手が強くないとつまんないじゃん? それとも、おねーちゃんは戦う自信が無いのかな〜?」

 

 

 なるほど、安い挑発だ。

 

 しかし日菜が私を乗らせるには、十分すぎる。

 

 

「その挑発、乗ったわ。理由は十分、条件も申し分なし。後は移動だけど、走る……のよね? どれくらいかかるのかしら」

 

「えっとね、変わってなければ8kmくらいはあったと思うよ?」

 

「時速20キロで走ったとしても24分……30分近くはかかるわね。そもそも同じ速度で走れるのかって話になるのだけど」

 

「それは大丈夫だと思うよー? このゲームただ走るだけならスタミナの概念無いからさ、走ることに飽きなければそれこそずっと走っていられるんじゃない?」

 

「便利と言うべきか、何と言うべきか……」

 

 

 妙なところで非現実感を実感しつつ、協議の末に日菜の提案に乗る形にした。

 

 

 ──とはなったものの。

 

 

「思ったよりも暇ね」

 

「そりゃ走ってるだけだもん」

 

 

 疲労を感じないのを良いことに予定時間にして30分ほど走り続けることになった私達だったが、走り始めて15分もすれば暇を感じるというもの。

 

 スタート直後は数多のプレイヤーの邪魔にならないように走ったり、イノシシから始まり蜂や植物などの敵モンスターが次々と現れるものだから退屈しなかった。

 

 ところが、どうにも草原や丘はだだっぴろいだけで景色そのものは代わり映えしないし、やはりはじまりの街周辺にプレイヤーが固まりすぎているのか5分も走れば敵を狩るプレイヤーすらぽつぽつ程度にしか見受けられなかった。

 

 10分も走る頃には見たことのあるモンスターが散見する程度で、プレイヤーに至っては遠目に影すら映らなかった。この頃になるとこの一週間はどうだったかと走りながら近況報告をし合う余裕まであった。

 

 そして15分を過ぎる頃にはご覧の有り様で、先の一言以降は無心で走り続けていた。先導する日菜の背中を視界に捉えながら、忍耐でもするかの様に無心で走った。

 

 

「あ、やっと見えてきたよ」

 

 

 そして体感にして30分を少し過ぎた頃、日菜のその一言によって街の近くにまで来たと悟った。

 

 

「疲れを感じないはずなのに無駄に疲れた気分だわ……」

 

「体力的な疲労は感じなくても、精神的な疲労ばかりはどうしようもないよねー……」

 

 

 結局、トールバーナ出入り口の門に辿り着いた時には、新しい街に対する感動よりもようやく走り終えたことに対する「何やってんだろ」感の方が強かった。これには流石の日菜も何処かげっそりした雰囲気を漂わせていた程だった。

 

 しかし何はともあれ、トールバーナに着いたことは間違いない。かれこれ15時は過ぎているとは思うが、大方の予想通りはじまりの街とは少し違った景観を見せる街に他のプレイヤーの姿は無い。一番乗り、というやつだ。

 

 

「あ、ほらおねーちゃん。あの噴水の向こう側に見えるのが転移碑だよ」

 

 

 街そのものとは別のところで感慨深くなっていると、広場のシンボルになっていそうな噴水の奥に縦長の石碑を日菜が目敏く見つけた。

 

 

「これに触ると……こう!」

 

 

 時間も惜しいのでさっさと転移碑をアクティベートしようと日菜共々遠慮なく触れる。するとただの縦長の石碑でしかなかったものが縦に割れて中から青白い光を放ち回転した。やがて回転が止まったかと思えば、やや宙に浮いたまま石碑は青白い光を漏らし続けるようになった。

 

 

「完了したのが分かりやすくて良いわね、これ」

 

「さってと! いよいよモンスター討伐だねっ!」

 

「本当、やっとね」

 

 

 謎の感動も尻目に、当初の目的を果たすべくさっさと移動を始める。

 

 

「確かこっちに行くとねぇ……あっ、いた!」

 

 

 トールバーナに入ってきたのとは別の門から出てすぐに日菜がモンスターを見つけた。あれは道中にはいなかったゴブリン系やコボルト系のモンスターだろうか。

 

 両手斧を持っているから、他のゲーム風に言うならソルジャーというやつだろう。

 

 

「おねーちゃんにイイとこ見せるぞ〜!」

 

 

 そんな私をよそに日菜はモンスターに向かって駆け出していった。

 

 

「よっ、と!」

 

 

 第一層のモンスターということもあってかモンスターの動きは非常に緩慢だ。走り寄る誰かを認識し、その手に持った錆びついていそうな斧を振り上げた時には既に遅く、日菜は短剣で掻っ切る様にしてすれ違いざまに一閃をお見舞いしていた。

 

 

「あははっ! 遅い遅い!」

 

 

 後ろに回られたことを認識したモンスターが振り返ろうとすると、それを見逃さない日菜はさっきと反対側を斬り抜けていった。

 

 

(あら……?)

 

 

 すると面白いことに、また同じ様に振り返ろうとするかと思っていたモンスターの動きが更に緩慢になった。もっと言うなら、短時間とはいえ硬直したように見えた。

 

 

「トドメっ! 《ソードスキル》!!」

 

 

 そこを待っていたとばかりに、日菜がこのSAOというゲームの花形《ソードスキル》を発動させる。顔の前に構えた短剣が光を放ち、次の瞬間にはモンスターを斜めに斬りつけていた。

 

 

 特に抵抗することもなく日菜の一撃をもろに食らってしまったモンスターは倒れ込み……の前に無数のポリゴンとなって砕け散った。それと同時に、日菜とパーティーを組んでいる私にも経験値が入ってきた。ストレージを確認すれば微量だがお金──《コル》も増えていた。

 

 

「おねーちゃんどうだった?」

 

「あなたが二度斬り抜けた時、相手の動きが露骨におかしかった様に見えたのだけど。あれは狙ったの?」

 

「お、気がついた? やるねおねーちゃん!」

 

「お世辞はいいわ。で?」

 

「何かねー? モンスターって結局のところプログラミングされた行動しか出来ないらしいんだけど、実際にモンスターを動かしているシステムに想定外の負荷がかかると変に硬直するんだってさ。あたしもよくは知らないけど、ベータの時にそんなこと教えてくれた人がいたんだー」

 

「つまりさっきの相手は、後ろを振り向こうとしたらまた反対側に振り向かざるを得なくなったから、どっちを向けば良いのか悩んだってことかしら」

 

「何だか人間みたいな話だよねぇ」

 

「そうね……」

 

「ちなみにだけど、今のは動きが鈍い相手だからあんなこと出来たけど、普通は硬直を狙おうとする時は複数人で連携するらしいよ? 教えてもらった単語だと《スイッチ》だったかな」

 

「それはこの後試すとして……次は私の番ね」

 

 

 そう言って私は、新しく湧いてきたモンスターに向かって歩いていく。

 

 文字通り身体を動かして敵と戦う、そんな経験をしたことが無い私は日菜みたいに走りながら斬るなどという芸当は出来ない。それこそ右手に装備した剣を振り回して何かを斬ろうとしたことすらない。

 

 そんな私がやれることと言えば、無難に正面から斬りつけるくらいだろう。奇をてらう必要はなく、愚直で構わない。

 

 

「ふぅ……」

 

 

 ゆっくりと、しかし確実にモンスターに向かって歩いていく。少しだけ緊張しているのか剣を握る手に力が入り、盾を持つ手に震えが走る。

 

 

「っ!」

 

 

 そして私とモンスターの距離が縮まり、相手が斧を振り上げるモーションに入った。

 接敵状態になったからか、敵の体力ゲージと名前が表示された。ちらりと見えた名前は、恐らくコボルトだった。

 

 

(さっきの日菜との戦闘を見る限り、このコボルトに定められた動きは二つ。一つは敵を認識したら寄っていき、追うこと。そしてもう一つは追えたならその斧を振り下ろすこと。だから試したいのは……)

 

 

 高く掲げられた斧が、私目掛けて振り下ろされる。早いとは思わないし、避けられない攻撃ではない。

 

 しかし私はその攻撃を避けようとはせず、左手で持った木製の小さな丸い盾を構えた。

 

 

(……ここっ!)

 

 

 そしてタイミングを見計らって、コボルトの斧と私の盾が接触する瞬間に思いっ切り押し込んだ。他のゲームならジャストガードだとか、シールドバッシュと呼ばれるやつだ。

 

 お互い弾かれ、私自身も確かな硬直を感じた。更にはガードしたつもりだが、視界の端に映る自分自身の体力ゲージがほんの僅かに減ったのが見えた。対するコボルトの体力ゲージに変動はなく、しかし押し返された斧が再び振り下ろされるまでには猶予がある様に見えた。

 

 

(《ソードスキル》は……こう!)

 

 

 先に硬直から解放されて体勢を整えたのは私の方だった。故に好機と見てソードスキルを発動させる。

 

 右手に持った剣を真横に振り抜こうと構える。すると剣が光を放ち、身体がシステムに突き動かされる感覚を覚えた。一度発動すると終わるまで止まらない、強制的な動作だった。

 

 発動させたのは《スラント》といい、相手を横に斬りつける技だ。シンプルな技だがソードスキルの威力は絶大ということか、無防備に斬りつけられたコボルトは体力ゲージをみるみる減らしていき、その身体はあっさりと無数のポリゴンとなって砕け散っていった。

 

 

(スキルの後は、無視出来ない硬直が課されるみたいね)

 

「おねーちゃん!」

 

 

 これは要注意だなと考えていると、後ろで見ていた日菜が駆け寄ってきた。その顔はにんまりとしており、口ほどに物を言う状態だった。

 

 日菜の言いたいことは想像に難くない。が、初めての戦闘で思ったよりも気分が高揚していた私は敢えてそれを聞き出そうとする。

 

 

「どうだった?」

 

「ばっちり!」

 

「それは良かったわ」

 

「じゃあ次はあれやろうよ、スイッチ!」

 

 

 それからのことは我ながらやり過ぎだと思っている。

 

 まず日菜に言われるがまま、スイッチという技術を何度も試した。

 さっきと同じように私が盾で押し込んだところに日菜がソードスキルを差し込んだり、日菜が斬り抜けてコボルトが振り向こうとした瞬間に私がソードスキルを叩き込んだり、挙句の果てには相手の攻撃にソードスキルをぶつけて相殺しもう一人が叩き込むなど。

 

 とにかく相手の攻撃を何らかの形で相殺し、作った硬直にソードスキルを捩じ込む。そうすることでこちらに発生した硬直をやり過ごすことが出来る、画期的な技術だと痛感した。

 

 やれば分かる話だが、この技術は二人以上で初めて成立する。一人でやろうにも、自らの硬直が無視できない以上は厳しいと言わざるを得ない。

 

 だが幸か不幸か、私たちは二人で行動している。つまり複数の敵を同時に相手しない限りはスイッチし放題なのだ。

 

 それからというもの、テンションの上がった私たちは他にプレイヤーがいないのを良いことに視界に映る敵を片っ端から倒していった。一度のスイッチとソードスキルで倒れてくれるのが思いの外楽しくて、それこそ二時間は一度も休むことなく敵を狩り続けた。

 

 それでもなお止まる気配が微塵もなかった辺り、この時既にかなりハマってしまっていたのだと後から気がついて少し恥ずかしくなったのは、また別の話。

 

 

 

 

 

 







取りあえず第一層攻略までは毎日更新します。そこから先は……モチベ次第。誤字脱字報告は大歓迎


需要無さそうだったらまたその時考えます。何で誰も書いてくれなかったのかなって思ってたけど需要無いならそりゃそうだよねって話

ざっくり言いますけどSAO編がさよひな、ALO編がさよつぐ。
最終的には ひな⇔さよ⇔つぐ になるはず。何話先ですかね
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。