夜を日に継ぐ   作:百三十二

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すんごい短い話が3つ入ってます。いずれも第二層での出来事

一つ目が前話からの続きみたいなもので、二つ目がその後。三つ目だけ時系列が飛んで第二層フロアボス攻略直後のその場での話になります


閑話 第二層にて

 

 

 

◇二度目のスタートダッシュ

 

 

 

 

「牛ね」

 

「牛さんだね」

 

 

 キリトさんが第二層への転移門をアクティベートしたのを見届け、転移の光に包まれるとそこは荒野が広がっていた。そしてもっと言えば、見渡す限り視界に牛が映り込んでくる。

 

 

「モンスター扱いですよね?」

 

「ああ。プレイヤーを見つけると突進してくるから、横や背中から近寄れば怖くはないよ。突進の勢いは相殺しようと思わない方が安全なのと、一度突進が始まると止まるまで曲がれなくなるから利用するのも手だな」

 

 

 ある意味では壮観なこともあり、日菜の目線があちらこちらへ忙しないのでキリトさんに解説を求める。彼は頼られると口走りやすいのか、この手の解説を任せると途端に饒舌になるきらいがあった。

 私にとっては有益な情報となるのでありがたい話だが、勢い余ってはりきる彼の姿はどことなく可愛らしいものがある。アスナさんも同じ気持ちなのか、最初はキリトさんの解説っぷりに驚いてはいたものの直ぐ様耳を傾け始め、次第に微笑ましいものを見る目になっていった。

 

 恐らくだが、キリトさんは年下だろう。弟がいたらこんな気分なのだろうかと思ったが、すぐ隣に双子だが妹がいるので大して変わらないかと考えを打ち切った。

 

 あとアスナさんがキリトさんを見る目は確かに可愛らしいものを見る目だとは思うが、身内に対してという感じでもない。

 考えてもみれば、攻略会議の時に独りだったアスナさんへ声をかけたのはキリトさんだったか、そのことについて恩義を感じているのかもしれない。またそれが転じて、とも。

 

 人のそれを邪魔するつもりは、ましてやからかうつもりも無いのだから触れずにそっとしておく。

 

 

 兎にも角にも、ここで一旦二人とはお別れだ。次に会う時は第二層フロアボス攻略会議かもしれない。

 

 

「では、私と日菜はこれで失礼します。ほら行くわよ」

 

「わわっ、待ってよおねーちゃん。あ、二人ともまたねー!」

 

 

 キリトさんとアスナさんに別れを告げ、牛の蔓延る荒野を歩き始める。レベル的には問題なく、牛が突っ込んでくるのを半歩避けて横合いからソードスキルで一突きしてやれば一撃での討伐も可能だった。なので慣れてきたら日菜共々、荒野のど真ん中を走って突っ切るという選択肢を取ることにした。

 

 なお、後にこのやり方を別れたばかりの二人に見られていたらしく、軽くドン引きされたのは納得がいかなかった。慣れればお二人だって出来るだろうに、という恨み言である。

 

 

 はてさて第二層へ辿り着いたそんな私たちだったが、実のところ幾つか想定していることがあった。

 

 一つは攻略ペースが飛躍的に上がるだろうということ。

 第一層の攻略には約1ヶ月もの期間を要したが、攻略に成功したという実績を手にしたことと、現時点でレベリングが概ね進んでいるであろうということから、この第二層においてはレベリングよりも階層攻略に手を付ける人が増えるのではないかという読みだ。

 

 実際私たちで例えるならば、レベリングは第一層攻略時点で安全マージンと呼ばれる理想を大幅に超えてしまっている。一つの階層につき敵の強さが10も上がる、などということは無いらしい。よって私と日菜はこの階層にて一切のレベリングを行わなくても余裕であり、限られているだろう時間を有効活用するべくスタートダッシュに踏み切ったのである。

 

 そしてもう一つの想定だが、ディアベルさんの件を皮切りに義憤にかられた人々が暴走に近い形で攻略ペースを強引に押し上げるのではないかという懸念だ。

 ディアベルさんというリーダーを失った攻略組が瓦解することはなく、むしろ代わって立ち上がった人のもとで奮起するということは十分考えられる。キバオウさんの様な人がその最たる例だろう。

 

 日菜と一致した見解だが、キバオウさんはディアベルさんの意志を継いで攻略組をまとめ上げようとするだろう。彼のことを心酔している様にも見えたから、動機としてはリーダーが戻ってこられる様な居場所を作っておくとかだろうか。

 また、キバオウさんとは別に立ち上がる人が居ても不思議ではない。よって攻略組が二分されることも視野に入れると、単純にお互いが競い合う可能性も出てくる。そうなれば我先にと攻略に精を出すだろうから、人海戦術込みで遅くても1週間以内には第二層の攻略が成されると踏んでいる。

 

 日菜が身バレしたことと、装備品の更新等やるべきことを考慮すると自由に使える時間は3日程というのが私たちの出した結論である。

 

 

 なので混雑する前に、第一層の時から日菜がどうしてもと言っていた《体術》スキルを会得するためにさっさと移動を始めたというのが答えである。

 

 体術スキルを会得するために行われるクエストの発生場所は、この広大な荒野を越えた先の森林地帯を更に越えた先にある山岳地帯の奥地だという。走っても半日かかるのでは無いかと思うくらいには遠い。

 

 まずは第二層の主街区《ウルバス》へと走る。転移碑をアクティベートし、宿屋の確保をしたら日菜の案内のもと体術スキル会得へ猛ダッシュする。余程のことがなければ行って帰ってしてくると夜もいいところのはずなので、今日はそのまま宿屋で寝泊まりする。

 第一層フロアボス攻略が終わったのが大体お昼過ぎくらいなので、慌ただしいにも程があるだろう。ごわごわしてて味のしないパンに味のするマーガリンを塗って片手で食べながら歩くという行儀の悪さを披露しつつも急いだ。

 

 私としたことが、体裁よりも効率を気にし始めてしまい少しだけ憂鬱な気分になった。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

◇体術スキルを会得しよう

 

 

 

 

 

「何よこれ」

 

 

 日菜の案内で辿り着いた山奥の道場。《エクストラスキル》に分類される体術スキルを会得するためのクエストが受注できるのだが、私がつい愚痴をこぼした理由がその内容にあった。

 

 

(大きいなんてモノじゃないわね。これに押し潰されようものなら命の危機を感じるレベルだわ)

 

 

 内容そのものは至ってシンプルである。用意された岩を装備抜きの素手で砕くだけ、という分かりやすいものだ。

 

 問題はその岩のサイズだった。自身の身体より大きいだけならともかく、一回りは愚か三回りは下らない大きさなのだ。この球体型の岩の中に入れと言われても複数人はいけるだろう。体感だが、サイズ比としては小学生の運動会にあった大玉運びや大玉転がしに使われていた大玉と小学生の時の自分くらいはある。

 

 当然、その時よりも身長は伸びているのだから比例して岩のサイズも大きい。これを素手で砕けというのか。岩を殴る、という行為によってフィードバックされる痛みは勿論ある。つまり実質的な自傷行為をしつつ気が遠くなる時間をかけろとのことなのか。

 

 

 これは確かに、日菜が時間かかるかもと言う訳だ。

 

 

「それにしてもこの髭って、アルゴさんのトレードマークのはずじゃ……?」

 

「そーだよー。ネズちゃんのおヒゲは、このクエストをクリアするのを諦めたからペイントされたままだったってのが由来なんだ」

 

 

 そして気が付いたことに、このクエストを受注するとその証として両頬に髭のペイントを施される。クリアすることが出来れば勝手に消えてくれる仕様らしいが、どうにも既視感のあるペイントだった為に記憶を辿る。

 

 そういえばと、前に日菜がアルゴさんとおヒゲがどうとか会話していたことを思い出し、日菜のネタばらしもあってアルゴさんのトレードマークの由来について知ることとなった。

 裏を返せば、彼女はこのクエストを放棄したことになる。知り合いが投げ出すほどともなれば、あまり気乗りはしなくなるものだろう。

 

 とはいえ、既にペイントをされた身であることから投げ出すというのは性に合わない。どれだけ時間がかかっても地道にクリアする他ないだろう。

 

 

 そう思って覚悟を決めて、岩の前に立つ私。

 

 

「んー、ここら辺かなぁ?」

 

 

 そんな私の隣で、別に用意された岩に触れつつそう呟く日菜。

 

 岩肌を撫でて何をするつもりなのかと思えば

 

 

「……………………ここかな? せーのっ!」

 

 

 何かを探り当てたつもりか、岩肌の一点に狙いを定めて思いっ切り殴った。腰の入った、渾身の一撃と言えるだろう。

 

 思うに、このサイズの岩を力強く殴打したところで費用対効果は薄いだろう。よって適度にコツコツ殴っていくのかと思っていた矢先、一度はクリアしたことのある経験者が突然の右ストレートを放つものだから目が点にならざるを得なかった。

 

 

「……は?」

 

 

 ところがどうだろうか。私の予想とは裏腹に、日菜の拳が命中した位置からピシッと何かが割れる音が聞こえた。その音は岩肌を沿うように拡がっていき、表面を目に見えるレベルで罅が入っていくではないか。

 

 そして数秒待った後、全面に行き渡った罅が各所で合流し終えると、耳を塞ぎたくなる程の破砕音と共にアレだけ大きかった岩が見る影もなく砕け散っていった。

 

 

「やった。どうかなって思ったけど、当たり引けて良かったよ〜」

 

「説明してくれるかしら?」

 

 

 流石に意味がわからないので、無惨な姿になった岩の欠片を指さしつつ日菜に問う。

 

 

「こんなでっかい岩、丁寧に砕いてったら時間ばっか掛かっちゃうじゃん? パスパレの皆と遊ぶにしてもそんなに時間は無かったからさ、何か攻略法とか無いのかなって探したんだよね」

 

「それで?」

 

「この岩、ランダムで内側に一箇所だけ脆くて罅の入る起点があるってことに気が付いたんだ。って言っても、パスパレの皆も含めて他にクリアした人たちの経過時間がブレてたから気になってただけなんだけどさ。それが偶々当たりだったみたいで、無闇に削るよりも起点を探して一撃入れた方が圧倒的に早いよねって」

 

「……理屈は分かったわ。その上で聞きたいことがあるのだけど」

 

「なーにー?」

 

 

 これはきっと、彼女の名誉のために聞いておくべきなのだろう。

 

 

「その攻略法、アルゴさんに教えていないわね?」

 

「正解!」

 

「何となく分かるけれど、理由は?」

 

「ネズちゃんのおヒゲが消えちゃうからね。今は自分で付けてるからアレだけど、あの時はこっちの方が面白かったから!」

 

「はぁ……」

 

 

 今度アルゴさんに会ったら謝罪しよう。そう思った私である。

 

 

 ちなみに私も日菜のやり方を真似してクリアすることは出来た。体術スキルを会得こそしたが、日菜と違ってこれを主体に戦うわけではないので熟練度上げは後回しにするつもりである。

 

 尤も、非戦闘用スキルと逐一入れ替えれば熟練度上げ自体は問題ないので、後回しといっても誤差だとは思うが。

 

 

(その内、お菓子が作れたら差し入れを持っていかなければ……)

 

 

 お詫びの品を作る予定を立てつつ、私は何処か遠い目をした。

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

◇諸事情と遠距離攻撃

 

 

 

 

 

 

 私たちが巻き込まれたという事は無かったけれど、第二層において装備の強化詐欺という事件が起きた。この事自体はキリトさんがシステムの穴に気が付いたことで解決し、それぞれの装備はきちんと返却されていった。

 

 しかし弊害も残っており、よくて1週間だと思っていた攻略ペースが遅れてしまい10日もかかったのだ。第二層のフロアボスについては明確な弱点があったことで危なげなく攻略されたが、あくまでも突破口を見つけたからでしかない。

 

 

 話は二つ。まずあれから攻略組がどうなったのかをエギルさんから聞いた所、ディアベルさんはリーダーの座を辞退してそのまま何処かへ行ってしまったらしい。失意のままにまとめ役は出来ないと考えたのか、そういう点は潔いなと思った。

 

 ではまとめ役が不在になった攻略組はというと、彼のことを特に慕っていたキバオウさんと、もう一人はリンドという方を筆頭に二分されたとか。

 何故態々分離したのかと思わないでもないが、キバオウさんとリンドさんでは方針が違うらしい。キバオウさん率いる《ALS》の方は獲得したアイテムを共同管理することで集団の連帯性を重んじ、SAO全てのプレイヤーに対して平等に情報と利益を分配するという理想を掲げたのだとか。対するリンドさん率いる《DKB》の方は実力派の指揮系統を順守することに重きを置くことで少数精鋭的な考え方に近く、トッププレイヤーが後に続く者たちの希望の象徴になるべきだとの理念を掲げているのだそうで。

 

 どちらも一理あると思うが、こうまで真逆の考えに至るメンバーが第一層フロアボス攻略中だけでもまとまっていたのかと思うと、なおのことディアベルさんのリーダーシップが高かったのだと分かる。それだけに彼の離脱は痛いが、かといってあのままお咎め無しでは示しがつかない。

 

 その内に立ち直り、自力で戻ってくるのを待つしかないのだ。

 

 尤も、キバオウさんとリンドさんはお互いに対抗意識を燃やしているのか、第二層においても競い合うようにして攻略を推し進めていた。強化詐欺という事件さえ無ければ攻略に1週間もかからなかったであろう予想は概ね外れという訳でもなく、何らかの問題さえ起きなければ暫くは攻略ペースが早くなることに違いない。少しでも早く帰還したい身なのだから、可能な限りペースが上がるのは歓迎すべきことである。

 

 

 そしてこちらが本題。剣の世界と呼ばれるSAOだが、第一層フロアボス戦にて日菜が短剣を投擲スキルで投げたり、あるプレイヤーが第二層フロアボス戦にて頭部の王冠を狙うのにブーメランを使用したことから、私自身も何らかの遠距離攻撃の手段を用意した方が良いのではないかと思い至った。

 

 第二層フロアボスが討伐されて歓喜に沸く攻略組の面々を遠目に捉えつつ、そのことを日菜に相談してみると

 

 

「おねーちゃん弓道部だったんだし、弓とか合うんじゃない?」

 

 

 と、あっさり言われてしまう。

 

 

「あのねぇ……私が所属していたのはあくまでも弓道部であって、実戦形式の訓練をしていた訳じゃないのよ? それに、一口に弓と言っても和弓と洋弓で全然違ったりもするの。だから簡単に合うかどうかなんて分からないわ」

 

「でも他に遠距離攻撃出来そうな武器ってなくない? 一々投げるためのナイフとか用意するよりも、矢の方がコスパとか良いと思うんだけどなぁ」

 

「……本音は?」

 

「おねーちゃんが弓を引く姿って実はこの目で見たことないから、見られたら絶対にるんって来るよね!」

 

 

 言われてみれば、私が弓道部として活動する姿を他校の生徒である日菜が目にしたことは無かったかもしれない。そう言われてしまうと、私としてはかなり弱い。

 

 

「……考えておくわ」

 

 

 そう返すのが精一杯だった。

 

 

 結局、階層攻略の傍らに弓を売ってくれるNPCに出会い、そのままサブウェポンとして持っておくことになった。弓という武器種はあってもソードスキルの類は用意されておらず、ダメージソースとしての役割は期待薄なので何らかの搦め手として用いるつもりだ。

 

 後はこっそり、武器の持ち替えをスムーズに出来る訓練をする時間が生まれた。






SAOIFから二つ、話しておかなければならないことがあります

一つは弓についてですが、IFを含む媒体ではソードスキルという名の弓スキルが存在します。原作には存在せず、IFでも途中追加扱いでした。後述する要素も踏まえて紗夜の遠距離攻撃手段としての弓を採用することになりましたが、今作における弓の設定は以下です

1.ソードスキルは存在しない
2.ヘッドショット(急所判定)は一応ある
3.弓を引くと、引いた時の長さによって放たれる矢の威力と飛距離が変動する。乱雑で良ければ連射出来なくもない仕様
4.弓の熟練度は存在する
5.IF含めてSAOにシノンが存在する場合に取得されるユニークスキル《射撃》そのものは存在しない。が、4の熟練度が上がる度に弓が射撃に近い性能へと強化されていく

よって本作においては「弓の熟練度が上がる程に矢の威力と弾道、貫通性が強化される」という風にします。高熟練度から矢が放たれると青白い光を纏って見た目だけなら弾丸みたいだと思って貰って構いません。貫通性って言いましたけど本当に人を貫通する訳ではなく、どのくらい深く突き刺さるか、或いは突き刺さりやすいかに関する補正だと思ってください

なお、狙いをつけたり精度に関してはシステムの補正が一切乗らず、リアルスペックが要求される形をとります。よって本作においても一般論として弓はネタ武器扱いとなります


二つ目ですが、IF主人公には《クイックチェンジ》と呼ばれる装備セットの早着替えが存在します。セットAとセットBを即座に切り替えることが出来る仕様でしたが、これの名残として紗夜のメインが《剣と盾》でサブウェポンが《弓》という様にしました。クイックチェンジ自体は存在しませんが、装備の早着替え自体は紗夜の技量だと思ってください。でもこの設定使うかって言われると、その回数は少ないと思われます
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