夜を日に継ぐ 作:百三十二
時系列はβテスト終了後~本編開始前の何処かです。毎日投稿を始めてから慌てて追加した短編なのでいつも以上に色々おかしいかも
「紗夜さん! SAOで遊ぶって本当ですか!?」
Roseliaのバンド練習の日、休憩時間になると宇田川さんが目を輝かせて詰め寄ってきた。何故それをと思わないでもなかったが、もしかしたら日菜が言いふらしているのかもしれないと予想する。
ソードアート・オンラインという世界初のVRMMORPGの宣伝大使にパスパレが抜擢され、そのクローズドβテストにてとんでもない好成績を叩き出したという噂が流れたのがつい先日のことだ。どんなゲームなのかは想像がつかないというのと、当たり前だが守秘義務の観点からSAOに関する内部情報を日菜から聞かされることは一切無い。その辺のことは、自由過ぎるあの子とて流石にしっかりしている。
だから宇田川さんにそう訊ねられても答えられることが無いに等しかった私は、言葉を曖昧に濁して答えづらそうに返事をする。
「ええ、まぁ。ですが、私から話せることなど何もありませんよ? 本当に何も知らないんですから」
「それはそうだと思いましたけど。でもでもっ、どんな感じのゲームかぐらいは調べたんですよね?」
「一応、ですけどね。実際に身体を動かして武器を振るう、そんなゲームだとは理解しましたが……いまいち想像がつかないんです」
「大丈夫ですよ! ドーンしてバーンですって! それでずばーっと敵を倒すんです!!」
「何処が大丈夫なのかしら……」
元気な彼女の勢いに押されつつ、実際にどういうものなのかはやってみなければ分からないと結論づける。
「宇田川さんは、白金さんと一緒にSAOをやろうとは思わなかったんですか?」
ふと、私よりもゲームに詳しい二人がどういう反応を示すのか気になり、訊ねてみた。すると宇田川さんはちょっとだけ困ったように苦笑いした。
「興味はあったんですけど、あこもりんりんもNFOだと後衛じゃないですか」
「そういえばそうね」
宇田川さんがネクロマンサーで、白金さんがウィザードだったか。確かにどちらも後方からの攻撃を得意とするジョブだと思案する。
「剣を振って戦うことに興味が無い訳じゃ無いんですけど、何か違うなーって。りんりんは動く自信が無いって言ってました」
「白金さん……」
動くという事に関しては宇田川さんが今井さんと同じダンス部のはずだし、白金さんは運動自体が苦手な傾向にある。よって白金さんが自信が無いというのも分かる話だが、宇田川さんの場合はしっくりこないということだろうか。
「ひなちんもそうだけど、紗夜さんも得意そうですよね! 普段も前衛張ってるじゃないですか」
「そうは言うけれど、NFOはあくまでもキーボード入力のゲームでしょう? 実際に身体を動かすともなれば全く違う感覚になるはずよ」
「でも紗夜さん、りんりんから体育の授業で大活躍だって聞きましたけど?」
「人並ですよ。それに、得物を振る経験なんてありません」
「それならSAOの世界に弓なんてあるんですかね? あったら紗夜さん無双します?」
「有無は分かりませんが、あったとしても扱えるかどうか分かりませんよ。武道と武術が違う様に、弓道と弓術では訳が違います。それに私は人様に矢を向ける為に弓道部に所属している訳ではありませんから」
「いや、紗夜さん。ゲームの話ですってば」
「だとしても、です。それに、剣が取り沙汰されているゲームで弓が拮抗できるような設定になるんでしょうか」
「さあ、どうなんですかね? でも使いこなせたらロマンありますよ!」
「コンセプトが崩壊する様な気分ね……」
そういうやり取りをしていると、飲み物を取りに行った今井さんが戻ってくるのが見えた。休憩時間になってるのだからしっかりと給水くらいは済ませなければならないだろう。どうやら宇田川さんも気が付いたようで、どちらからともなくさっさと水分補給を済ませて一息つく。
そんな私たちの一幕を見ていたのか今井さんが微笑ましいと言わんばかりにニヤニヤしながらこちらに寄ってきては会話に参加しだす。
「なになに~? 二人して何を話してたのかな~?」
「今井さん、何ですかその目は。何かいやらしいです」
「えっ!? いやらしいって酷くない?」
「いいえ、少なくともからかおうとする目でした」
そんなつもり無かったよと憤慨する今井さんを無視し、抱えっぱなしだったギターを降ろしてため息を吐く。
「聞いて聞いてリサ姉! 紗夜さんが最新のゲームで遊ぶことになったんだって!」
「あ、それヒナから聞いたかも。おねーちゃんと遊べるって凄い喜んでたよ~。ね、さーよ?」
「黙秘します」
やっぱりからかい目的じゃないかと諦観する。日菜と同じ高校に通うこの二人にはこちらの事情など筒抜け同然だろうから、抵抗するだけ無駄に傷口を広げるばかりだと早々に降参するに限る。数の上でも1:2では分が悪すぎる。戦略的撤退というやつだ。
「大体、遊ぶと言っても正式サービス開始後に時間があればの話ですよ? 事務所入りを果たしたRoseliaが最優先ですし、受験だって控えてるんです。遊んでる暇は無いに等しいんです」
「うっ、受験かぁ……」
「うわっ、リサ姉急に顔色悪くなってる」
「だってぇ~……不安なものは不安なんだってばぁ。紗夜は余裕そうだけど」
「余裕なんてありません。しっかりと授業を受け、予習復習を心掛け、参考書を解いていく。人事を尽くさねば天命も来ませんよ」
「はー、言い返す余地も無い……」
今井さんを口論で沈め、ささやかな勝利の余韻に浸る。いつも言い負かされる側なので、偶には勝ちたいというものだ。
「宇田川さんもですよ」
「うわっ、こっちに飛び火した!」
「二年後にはあなたも受験なのですから、計画的な勉強をですね──」
「あ、あこ飲み物取ってきますね! じゃ!」
「あ、こら……逃げたわね」
ついでだからと宇田川さんにも忠告しておこうかと矛先を向ければ、その話はしたくないのか下手な言い訳をしながら脱兎のごとく個室から出て行った。彼女が持っていた飲み物は……ああ、確かに減ってる。これでは戻ってきた時にチクリと刺すことも出来ないか。
「それで? 実際の所、紗夜はヒナと遊んであげるの?」
「時間があればですね。無いから幾らでも言い訳出来ます」
「そう、なら時間があればいいのね」
今井さんに意地悪く言われれば、毅然とした態度でそう答える。しかしその後に続けられた言葉は彼女のものでは無く、もっと凛とした力強さを感じる声音だった。ハッとして思わず部屋の出入り口へと目を向ければ真顔でこちらを見つめる湊さんの姿があり、どことなく威圧的な雰囲気を感じてしまう。
「湊さん、何を……」
「リサ、日菜が言っていた日付っていつかしら」
「ちょっと待っててねぇ……えーと確か、11月6日だったかな」
「見せなさい……あら、日曜日ね。それにこの日は家族で出かける用事があるのよ。リサは?」
「え? あー、アタシもその日は家族でお出かけにーって、友希那と一緒に家族ぐるみじゃなかった?」
「あら、そういえばそうだったわね。という訳で紗夜、11月6日の練習は休みよ」
いや、その理屈はおかしい。
「ちょっと待ってください! 何ですか今のやり取りは! 明らかに用事なんで無さそうでしたよ!? それにお二人がそうでも他の二人がいますし三人でも練習が出来ます!」
「あの……そのことなんですが……」
「白金さん……?」
湊さんと今井さんの茶番劇を見せられた私は納得がいかずに反論する。湊さんには涼しい顔で受け流されるもここで引く訳にはいかずに言い募っていたが、いつの間に戻って来ていたのか宇田川さんを引き連れた白金さんから控えめな声が上がる。
何と言うか、猛烈に嫌な予感がするのは気のせいだろうか。
「あの、まさかとは思いますが。白金さんもその……何か用事が?」
「はい……あこちゃんと一緒に、NFOのキャンペーン装備を貰いに……お出掛けを」
「NFOの話なら、私もお供しますが?」
「その、今回は後衛向けの装備しか対象ではないので……氷川さんをお誘いするのは……少し、申し訳ないなって」
これは、もしかしなくても。
「何故私はこんなにも気を遣われているのですか!?」
そう叫ばずにはいられない。
しかし、そんな狼狽える私を湊さんは呆れた表情で見下ろしてくる。身長は私の方が高いはずなのに、見下される気分だった。
「紗夜。あれこれ言ってないで大人しく日菜と遊びなさい」
「開き直りじゃないですか!」
「あの子と同じ学校に通う私たちの身を考えなさい、と言ってるのよ。もしあなたと遊べなかったとして、日菜がどんな態度でやって来るか想像つかない訳では無いでしょう?」
「んぐっ」
湊さんの言う通り、もし私が日菜と遊ばなかった時は……相当に面倒くさくなること間違いない。
遊べるということで言い触らすレベルなのだから、その逆は限りなくテンションが沈むことだろう。その結果、同じ学校に通う湊さんたちに変な絡み方をしかねないと想像することは容易い。
だる絡みをするのか、常に不貞腐れた態度を取るのか、八つ当たり気味に手の付けようがない何かをしでかすのか。どれも否定しきれず、そうなった場合の責任は私だと言いたいのだろう。
つまり、日菜が案件で活躍した時点で、私に選択肢は無かったと言うことか。
「……はぁ。分かりました。その日は休養日として、私は自宅待機します。これで文句ありませんね!?」
「よろしい。……さて、休憩時間は終わりよ。そろそろ練習を再開するわ」
私の回答に満足したのか、手を叩いて仕切り直す湊さん。宇田川さんが忙しなく動き回り、今井さんが湊さんの肩を叩いて何やら会話していた。ふと白金さんが立ち止まっていたので、ギターを担ぎがてらに話しかける。
「どうかしましたか?」
「あ、いえ……ちょっとだけSAOに関して、気になったことがあって……」
「気になる?」
「開発者の茅場晶彦さんですが……私には、何を目的にここまで創り上げられたのか……その、想像がつかないんです」
「それは、同じクリエイターとしての視点ですか?」
「……はい。何かを創造するというのは、その人にとって特別な目的が無ければ続けられません……。楽しいとか……誰かに喜んでもらいたいとか……そういうので構わないんです。でもこの人は……色んな記事とかを読んでも、これといった熱意を感じなくて……」
「あ、それはあこも感じました」
「宇田川さんも?」
いつの間に用意を終えたのか、白金さんと入れ違いで宇田川さんが話を引き継ぐ。
「紗夜さんはギター好きですよね」
「ええ、勿論」
「でもこの茅場晶彦って人はゲームが好きそうにも、それこそゲームを作ることに興味がある様にも見えないんですよね」
「それはまた、何故?」
「考えてもみてくださいよ。ゲームを作った人がそのゲームをやるとは限らないじゃないですか。お金の為とか、誰かに遊んでもらいたいとか動機はそれぞれですし、そういうのは何だかんだで分かっちゃうものなんです」
私には分からないのだけど、感覚派の宇田川さんがそういうならば説得力はそれなりにある。ましてや、白金さんがこの話を肯定しているも同然だった。Roseliaの衣装を製作している彼女のクリエイターとしての直感が、何かを感じ取っているということなのだろう。
馬鹿なことを、とは切り捨てられそうになかった。
「つまり宇田川さんとしては、この茅場晶彦という人物が何を考えてSAOを作ったのかが分からないと」
「大雑把に言えばそうですね。あ、でも作ったからには当人も遊ぶんじゃないですか? 折角最新鋭のゲームを作ったのに遊ばないなんて勿体ないと思うんですよねぇ」
「勿体ない、ですか」
「ゲームに興味があるとかないとか、それは関係なくて。何か理由があって作った作品に一切触れないなんて、流石に無いと思いません?」
「何の為に……」
目的は不明。同じ創作する側の人間としての直感と、天才肌の人間の感覚。その二つが、茅場晶彦という人物に対して奇妙なものを覚えたのだと言う。
それを知ったところで何かが変わるとは思えない。しかし何と言えば良いのか、喉に小骨が刺さった様な煮え切らないものを感じてしまう。この事は覚えておかなければならないと、変な予感があった。
「あーでも、GMなら神視点映像とか出来るのかな」
「もしかしたら……眺めるのが好きな人なのかも……?」
「何ですか、その神視点とやらは」
「神視点ってのはですね──」
「三人とも、喋ってないで練習始めるわよ」
「す、すみません!」
結局、二人から聞かされた茅場晶彦という人物について分かったことは無かった。この話をした後、何となく気になって彼のプロフィールを調べたりはしたものの、これといって確信のある結論は出せなかった。
家の自室で、練習からの帰り際に寄っていった本屋でみかけて購入した雑誌を広げる。普段は読まない様な種類の雑誌だったが、SAOに関する特集が組まれており、その中に茅場晶彦へのインタビュー記事が掲載されていたので手に取ってみた次第だ。
当たり障りのない、私としては面白みに欠ける内容だった。二人から先に聞いていた先入観のせいか、この記事に書かれているものが彼の本心だとは到底思えなかったのだ。
上辺だけの、薄っぺらい本当が重ねられている。嘘ではないが本心ではない。この人の心が何処にあるのか、少しだけ知りたくなった。
(ま、私には縁のない話ね)
雑誌を閉じ、机の上に放置する。知りたくはなったが、知らなくても別に何の問題も無いのだから。
私は別に創作畑の人間では無いから、感覚的なものやその方面の思考的なものに対して共感することは生憎と不可能に近い。故に茅場晶彦が何を考えているのか、その考えに近づくだけの思考パターンを有していない私では考えるだけ無駄というやつだ。
どうせその内に本音で語る機会もあるだろうから、それまで大人しく待機して答え合わせと洒落込めば良い。現時点ではお手上げという形に落ち着く。
後にして思えば、何かとこの日の会話は耳に残っている。
単に日菜とのことで気を遣われたのが気恥ずかしくて印象強かった可能性はある。でも恐らくは、別のこと。
勘の類は持ち合わせていない私が、この日からずっと頭の片隅に追いやっては忘れることがなかった縁のない話。
その縁のない話が、後に重要だったなんて……本当に、人生とは不透明でままならないものだと実感した。
──きっと私は、この日の会話を忘れることは無い。
という訳で次回から第二章になりますが、完成までに1~2か月はかかる見込みです。後オマケかつ本人が登場する訳では無いんですが、進行の都合上とはいえ一人だけ半オリキャラが出てきます、存在だけです
あらすじは……思い付いたら試しに変えてみようかなとは考えてます