夜を日に継ぐ   作:百三十二

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第一層攻略中は結構だらだらしてるし思考もあやふやだったりする。何なら進行も遅い

日常系のキャラを非日常系にぶち込む都合上、ある程度は悩んでもらわないと困る


デスゲーム開始

 

 

 

 ──11月6日17時25分、トールバーナ西側平原

 

 

「少しはしゃぎ過ぎたわ……」

 

「そう? あたしは楽しかったからもっとやっても良かったんだけどなぁ」

 

「そうは言っても、このまま続けてたら夕飯の時間すら忘れそうで怖いのよ」

 

「あははっ。おねーちゃん、一度ハマると集中力凄いし時間忘れがちだもんねっ」

 

「家の外だとそんなことにはならないのだけど、自室にいると安心してしまうのか気が抜けがちなのよね……」

 

「ギターの練習に夢中になりすぎて、ご飯できたよーって声かけても気がつかないとか結構あるからねー」

 

 

 あれからコボルトを狩り続けた私と日菜は、気が付けばlv2の半分くらいまで経験値を獲得していた。だがふとした拍子に冷静になった途端、今が何時か確認したくなったので一度撤退することに決めた。

 

 狩りをし続けている内に平原のかなり奥の方まで移動していたらしく、今は談笑しながらトールバーナまで歩いて戻る最中である。

 

 

「そういえば、あなたが言っていた《強ザコ》というのは、何かメリットはあったのかしら」

 

「どうなんだろ。その辺のモンスターのプチ強化版だから経験値とコルは少し多めだったけれど、それ以外は特に変わったことも無かったし、もし効率だけ気にするならスルー安定かもねぇ」

 

「体力が多めだったから、一度の連携で倒せなかった時は流石に焦ったわね」

 

「ね〜。あたしも『やばっ!?』て一発貰う覚悟しちゃってたよ」

 

「何とか逸らせて良かったわ」

 

 

 連続でコボルト狩りをしていたところ、個体差が微妙に前後していたこともあってか強ザコと呼ばれる存在が出現する可能性を全く考慮していなかった。その為、強ザコだと気がついたのは私がソードスキルで斧による攻撃を相殺し、日菜が一撃を叩き込んだ後だった。

 

 これまでのコボルトは無防備なところに私か日菜のソードスキルを一発与えることで概ね一撃でテンポよく倒すことができていた。

 ところがその個体は、日菜の一撃を食らっても体力を半分近く残していたのだ。通常よりも体力が多く、その他のステータスも強化されている強ザコの存在を日菜が思い出した瞬間でもあった。

 

 結果的にその場は、先に硬直の解けた私が強ザココボルトの斧を盾で強引に防ぐことが出来たので事なきを得た。もしあれが日菜に直撃していたのならば、深刻なダメージは免れなかっただろう。

 不味いと思った時に何とか身体が反応してくれたから良かったものの、次からは強ザコか否かの見極めをしっかり行うべきだとの教訓を得ることになった。

 

 

「ま、油断さえしなければ強ザコって言ってもやっぱりザコの延長でしか無いんだけどね」

 

「今回はそうだっただけで、その内唐突なボスとか出るのかしら? その場合は明らかに個体が違って分かり易い、と思いたいのだけど……」

 

「あー……意地悪されるとありえそうだね、それ」

 

「おっかない話だわ」

 

「ゲームだから死ねるってのはあるけど、実際に身体動かすってのもあって無駄に死にたくはないんだよねぇ。痛みは感じないはずだけど、痛そうなことはしたくないってのと同じ感じでさ」

 

「デスペナルティがどんなものか知らないけれど、そうならないに越したことはないわね……っと、戻って来れたわ」

 

 

 そうこうしている内にトールバーナまで戻ってきた私たち。ニ時間ほど倒し続けた敵が落としたアイテムを早速と言わんばかりにNPCのお店に売却することで換金し、最序盤にしてはそれなりのコルを得ることになった。

 

 

「このお金で何か買う?」

 

「それよりも休憩するわよ。このままだと四時間半も通しでゲームすることになるわ」

 

「わあ、結構な時間過ぎてたんだねぇ」

 

「フルダイブ型のゲームなんて初体験だから一概にそうとは分からないけれど、喉が渇いたから飲み物が欲しい……みたいな生理現象を感じないのは不味いと思うのよ」

 

「それベータの時に話題になってたよ。一気に遊びすぎて脱水症状起こしちゃって強制ログアウトになった人がいたって。今だと特定の生理現象は何となく分かるようにシステムが教えてくれる手筈になったって聞いたけど」

 

「何事も限度は必要ね……それじゃあ一度落ちて、続きは夕飯を済ませるなりしてからにするわよ」

 

「はーい……あれ?」

 

「日菜?」

 

 

 さっさとログアウトしようかと思い、メニューを開く。すると隣に立つ日菜から些か気の抜けた疑問符が飛んできたが、しかしその内容はどうにも笑えるようなものでは無かった。

 

 

「おっかしーなぁ……ログアウトの項目がベータの時と同じ場所に無くて探してるんだけど見当たらないんだ」

 

「そんなはずないでしょう? もっとよく探しなさい」

 

「いや、そうなんだけど……バグかなぁ」

 

 

 日菜が頭をかきながらメニュー操作を行いつつぼやいた。それを聞いた私は半信半疑で同じ様にメニュー操作を行いログアウトを探した。

 

 ベータの時にはメニュー欄の一番下にあったらしいが、どうやら私の方にも一覧に表示されていない様だ。日菜の言う通りバグだとすれば運営は早急に対処して欲しい案件だが、果たしていつになるかは公式アナウンスを待たなければならない。

 

 

「……私も無いわね」

 

「やっぱバグじゃない? でもベータの時にそんなこと無かったはずだし、何か嫌な予感するんだけど……」

 

「ちょっと、縁起でもないこと言わないで。あなたが言うと洒落にならないのよっ」

 

「そんなこと言われたって〜!」

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 微笑ましい姉妹のやり取りの最中、事態は突如として動き出した。

 

 

「えっ、何この光!?」

 

「まるで転移碑を使った時の様な……日菜っ!」

 

「おねーちゃんっ!」

 

 

 見たことのある光に包まれた二人は何が起きたのかを咄嗟に理解し、ほぼ無意識に互いの手を取ろうとした。その手の指先が触れたかどうか、次の瞬間には別の空間に飛ばされてしまう。

 

 

「「……」」

 

 

 光が収まり、さっきまでと同じ様に目の前に双子の片割れが立っているのを確認した二人は思わず顔を顰めた。何の理由もなくこんな目に合うとは思えなかったからだ。

 しかも安全圏だと思っていた街中で起きたのだから、行方不明なログアウト項目の件も相まって二人の警戒心はかなり上昇していた。

 

 

「これは……?」

 

 

 しかし、そんな二人の態度はすぐに困惑へと移り変わった。

 

 思わず、といった風に言葉を漏らした紗夜。それもそのはず、ここは何処かと周囲を見渡したところ視界に入るのはプレイヤーの山であり、その喧騒の真っ只中に放り込まれていたのだから。

 

 

「おねーちゃん、ここはじまりの街じゃない? ほら、あれ」

 

 

 自分たちのみならず、何らかの訳あって集められたプレイヤーの光景に紗夜は思わず面食らった。しかし日菜は目を向けた方角に大きな石碑が見えた為、ここがはじまりの街の広場であると直ぐさま把握した。

 

 

「ここは広場ってことかしら。一先ず外側へ行くわよ、内側にいては潰されかねないわ」

 

 

 日菜に言われたことで現状を把握し、この人混みではいつ揉みくちゃにされてもおかしくないと判断する紗夜。日菜の手を掴んでさっさと広場の外周へと駆け足でいった。

 

 二人組のフード付きは目立つはずだが幸いにも混乱が先んじており、移動する二人を気にかける余裕のあるプレイヤーはおらず見咎められることはなかった。

 

 

「でも……これは……」

 

「流石のあたしでも、これはまともじゃないって思うよ」

 

 

 人の少ない方へと辿り着き、改めて広場全体を見通してみればみるほど異常事態であると実感する二人。

 

 自分たちのように困惑はしつつも比較的冷静なプレイヤーは、外側から見る分にはむしろ目立つくらいな程度にしかいない。他人が興奮しすぎるとかえって冷静になるとはよく言うが、度が過ぎると冷静を通り越して本当に困惑しか残らないものだと紗夜は実感した。

 

 

「あれ? 何か音しない?」

 

「私には聞こえないわよ……いや、聞こえたわ」

 

 

 時間にして僅か数分、感覚的にはそれ以上の時間が経過すると、日菜が細かい場の変化を聞き取った。幾らか遅れて紗夜も聞き取ったが、その頃には明確にノイズが走ったような音が辺り一帯に響き渡った。

 

 その不穏な音は何事かと騒ぎ立てていた人々の意識を集めさせるのには十分な大きさであり、先程までの喧騒がまるで嘘のように束の間の静寂が一面に漂った。

 

 そしてノイズの発生源へと全プレイヤーが視線を向けた時、広場の中心、石碑の真上にドロリとした歪な何かが現れた。

 

 赤黒いローブを纏い、合間から見える顔や胴体は黒く塗りつぶされており、下半身は無い。袖から先に見える手は骨で、ゲームで例えるならアンデット系のネクロマンサーのようだと大勢のプレイヤーが思った。

 

 しかしこの場において、そんな呑気のことを考えていたプレイヤーたちはソレが言葉を発するとなると一転、事態が動き出したことを悟り始めた。何故ならそのアバターは、このゲームにおいてはGMのものであることを理解していたからだ。

 

 

『プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ』

 

 

 GMのアバターから響いてきた声は、聞いたことのある人なら紛れもなく《茅場晶彦》のものである分かったことだろう。故に、現状についての説明と対処方法を告知してくれるものだと思い込んでいた。

 

 これから続く茅場の言葉は、そんな彼ら彼女らの思考をすべて置き去りにするとも知らずに。

 

 

『私の名前は茅場晶彦。今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ』

 

 

『プレイヤー諸君は、すでにメインメニューからログアウトボタンが消滅していることに気付いていることだろう。しかしゲームの不具合ではない。繰り返す。これは不具合ではなく、ソードアート・オンライン本来の仕様である』

 

 

『諸君は今後、この城の頂を極めるまで、ゲームから自発的にログアウトすることはできない』

 

 

『また、外部の人間の手による、ナーヴギアの停止あるいは解除もあり得ない。もしそれらが試みられた場合、ナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが諸君の脳を破壊し、生命活動を停止させる』

 

 

『より具体的には、10分間の外部電源切断、2時間のネットワーク回線切断、ナーヴギア本体のロック解除または分解または破壊の試み──以上いずれかの条件によって脳破壊シークエンスが実行される。この条件は、既に外部世界では当局およびマスコミを通して告知されている。なお現時点で、プレイヤーの家族友人等が警告を無視してナーヴギアの強制除装を試みた例が少なからずあり、その結果──残念ながら既に213名のプレイヤーが、アインクラッド及び現実世界からも永久退場している』

 

 

『諸君が、向こう側に置いてきた肉体の心配をする必要はない。現在、あらゆるメディアはこの状況を、多数の死者が出ていることも含め繰り返し報道している。諸君のナーヴギアが強引に除装される危険は既に低くなっていると言える。今後、諸君の現実の体は、ナーヴギアを装着したまま2時間の回線切断猶予時間の内に病院その他の施設へと搬送され、厳重な介護体制のもとに置かれるはずだ。諸君には安心して……ゲーム攻略に励んでほしい』

 

 

『しかし十分に留意してもらいたい。諸君にとって《ソードアート・オンライン》は既にただのゲームではなく、もう一つの現実と言うべき存在だ。今後ゲームにおいて、あらゆる蘇生手段は機能しなくなる。ヒットポイントがゼロになった瞬間、諸君のアバターは永久に消滅し、それと同時に諸君らの脳はナーヴギアによって破壊される』

 

 

『諸君がこのゲームから解放される条件は、たった一つ。アインクラッド最上部、第百層まで辿り着き、そこに待つ最終ボスを倒してゲームをクリアすること。その瞬間、生き残ったプレイヤー全員が安全にログアウトされることを保証しよう』

 

 

『それでは、諸君にとってこの世界が唯一の現実であるという証拠を見せよう。諸君のアイテムストレージに私からのプレゼントが用意してある。確認してくれたまえ──』

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

《茅場晶彦》を名乗った存在からのプレゼントは手鏡であり、ご丁寧なことに私と日菜の分で二つ入っていた。

 

 言われるがままにそれを手にとって覗いてみれば、そこかしこから鏡の割れる音が響いてきた。その例に漏れず、私たちが持った手鏡も音を出してひび割れていった。

 

 それによって何が起きたのかは、限りなくリアルに寄せていた私たちでは判断しかねた。しかし周りの反応を見るに、アバターとして作り上げた肉体が消えて現実のものと同じになったらしい。

 

 そんなプレイヤーたちの反応を見た上で茅場なる人物は滔々と自分語りを始め、少し喋ったかと思えば露と消えていった。

 

 残されたプレイヤーたちは阿鼻叫喚の地獄絵図状態。GMが姿を現した時から怒鳴り続ける者、家族に会えなくなったことを嘆く者、非現実が現実となって死が隣り合わせになったことが受け入れられず絶望する者など様々だ。

 

 かくいう私は、現状を理解することを拒んでいた。

 

 実際、手鏡が破損した辺りからは茅場晶彦の話を一切聞いていなかった。聞いてる余裕がなかった。

 

 帰れない、体力が無くなれば死ぬ、どうしろと言うのか。

 

 Roseliaはメジャー入りしてこれからという時に、私はゲームに閉じ込められてしまい何と申し開けば良いのか。両親に心配ばかりかけて何をどう謝ればいいのか。他に巻き込まれた友人知人がいたりしないのか、挙げ句告げられた213人の中に──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おねー、ちゃん……?」

 

「っ!」

 

 

 止まらない負の思考から私を引きずり上げたのは、隣にいる日菜が私を呼ぶ声だった。

 

 その声は小さく、いつもの日菜からは考えられないような心細いものだった。

 

 しかし私をハッとさせるには、それで十分だった。

 

 

(しっかりしなさい氷川紗夜っ! 今この状況に置いていかれたのは私だけじゃないでしょう!?)

 

 

 たった5cmの身長差。私より低い日菜が窺うようにして見上げてくる。私の隣に、私以外に双子の妹が立っている。

 

 

「おっ、おねーちゃん!?」

 

 

 バチンッ!と、自身の両頬を思いっ切り叩いてきつけする。私の突然の奇行に日菜が驚きの声を上げるがそれどころではない。

 

 

(やるしかないわ……。何としてでも日菜を守る。方々に謝罪するのは、帰ってから考える)

 

 

 姉としての矜持が、私を奮い立たせる。

 

 少なくとも今この場で蹲り、泣き喚いて助けを求めることに意味はないのだ。事態が好転することを願うのならば、可能な限り行動を起こさなければ行き詰まるのは目に見えている。

 

 そしてこの状況下で行き詰まるというのは即ち──死を意味する。

 

 

「日菜、今は黙って聞いて。トールバーナに行くわよ。ここは人が多すぎて静かに話もできない。転移碑で移動して、これからのことを考えるの」

 

「う、うん……」

 

 

 元気のない日菜の手を多少強引にでも取って歩き出す。

 

 人混みをかき分け、震える手足を抑え込み、やっとの想いで触れた転移碑は無情にも冷たかった。

 

 不安しかない非日常にして現実の始まり。転移の光に包まれながら、私は耳に残った言葉を反芻していた。

 

 それは茅場晶彦が消える前に最後に残した言葉だった。途中から話を聞いていなかったというのに、その言葉だけはどうしてか覚えていたのだ。

 

 まるで高いところから私たちを見下ろすように、神にでもなったつもりなのかその一言は私の心に深く突き刺さっていた。

 

 

 

『これはゲームであっても、遊びではない』

 

 

 

(絶対に、負けない)

 

 

 ──後に世紀の大事件として語り継がれることになる《SAO事件》の開幕が、一方的に宣言された場面であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 転移碑を使ってトールバーナに舞い戻った私たちを出迎えたのは、あれ程の喧騒とは打って変わった無人の静寂だった。耳をすませば噴水の水が跳ねる音が聞こえるかといったくらいであり、この場に他のプレイヤーが一人も見当たらないことを意味していた。

 

 繋いだ手を放すか迷ったが、私自身の心の安定のためにも放さず立ったまま話を始める。やはり私も気遣いができるほどの余裕を持ち合わせてはいなかった。

 

 

「今日、パスパレの皆さんは仕事?」

 

「え? えっと……彩ちゃんとイヴちゃんがロケで泊りがけ、千聖ちゃんがドラマの撮影で終日、麻弥ちゃんはスタジオミュージシャンのお手伝いで打ち上げがあるとか言ってたかな。だからあたしみたいに、スポンサーから配られたSAOを遊ぶ余裕は無い、と思う。そっちは?」

 

「元々Roseliaは事務所に所属する云々で忙しくなるから、こういったことには手を出さないように心掛けていたの。湊さんは興味が無いでしょうし、今井さんも誘われればといった程度で湊さんに近い。白金さんと宇田川さんは興味はあってもNFOがあるのと、何よりRoseliaを優先したいとのことで応募すらしてないはずよ」

 

 

 まずはお互い持っている情報から、友人知人たちがこの世界に来ているかどうかを精査していく。日菜もこれだけは確認する必要があったと理解していたのか、変に動揺することなく事実確認は淡々と行われていった。

 

 結果、私たち以外はゲームをプレイしておらず、一先ずは既に誰かを失ったのかを考えずに済むと安堵した。そしてこの会話が図らずも、私たち二人の精神をある程度和らげることになっていた。

 

 その為、比較的冷静になりつつあった私は意を決して本題に入ることにした。

 

 

「……なってしまったものはどうしようもないわ。さっきも言ったけど、これからのことを考えるのよ」

 

「おねーちゃんは、その……どうするつもりなの?」

 

 

 握りしめた手を放さず、それでいて向かい合って話す。ほんの僅かな差だが見下ろす私と見上げる日菜の姿は、他人が見ていたら何て思うだろうか。

 睦まじい姉妹に見えるのか、その逆か。いずれにせよ、その僅かな差以上に目の前の妹が小さく見えた。

 

 

「やることはシンプルよ。レベル制のゲームなのだからレベルを上げる、当面はそれしかないわ」

 

「攻略には参加しないの?」

 

「余裕があれば、参加しない手は無い。最新の情報は大事だし何より……自分たちを守れる手段と信頼できる誰かが欲しい」

 

 

 私たちは互いに一人ぼっちではない。それはこの見知らぬ人たちがまとめて放り込まれた世界において、無条件で信頼できる存在を確保していることに他ならず、大きなアドバンテージであることは明白である。

 

 しかし、それでも都合一万人の中の二人でしかなく、これから先どれくらいの時間を必要とし、どれだけの他人と関わりを持つことになるのかに比べれば心許無く感じるのも確かだ。

 出来ることなら情でもビジネスでも構わないから、とにかく一定以上頼れる人たちが欲しい。こんな情勢なのだから、助け合いの精神は大事というのもある。

 

 そしてそれは、人であることを失わないためにも重要だと考えている。

 

 

「人脈は大事よ。でもそれを分かりやすく得るには私たちに価値があると証明しなければならない。その為には強くなる必要があり、今の私たちに出来ることといえばレベルを上げるくらいしか無いわ」

 

「有益な情報……って言っても信じてもらえるかどうかは博打だもんね。間違った情報を教えて恨まれたりするのも怖いし」

 

「リスクはある。強くなるということは、それだけ敵を倒さなければならない。もし攻略に参加するともなれば、それだけ危険に晒される回数が増える。でも誰かの助けが確約されない状況下において受け身で居続けることは、出口の見えないトンネルの中で立ち竦んだまま諦めるのと同じだと思う」

 

 

 私は一旦言葉を切って、日菜の目を正面から見据える。日菜も相応に覚悟したのか、ごくりと唾を飲み込む仕草が見えた。

 

 

「いきなり戦えと言われて無理と諦めることを、私は否定しない。例え死んでいるのと同じだと言われても、仕方のないことだと強要はできない。しかし私自身としては、生きていたい。座して死を待つのは性に合わないの。私は生きるために戦う。そして現実世界に帰って皆に謝るのよ、迷惑かけてごめんなさいってね」

 

「ははっ……それだとまるで怒られる為に頑張ろうってなってるよ?」

 

「ええ、そうよ。怒られる為に頑張るの。それくらいがちょうどいいわ」

 

「そうだね……怒られる為に、か……。うん、ちょっとだけるんって来たよ。どれくらい怒られるかな」

 

「死んだ方がマシだ、ってくらいかしら」

 

「おお……ちょっと帰りたくないかも」

 

「その方が生きてるありがたみを実感できるわよ?」

 

「それは中々経験できないね。なるほど、言われてみれば確かにそうかも」

 

「決まりね」

 

 

 方針は決定された。目標も定まった。最後に必要なのは、気合という名の勇気だけ。

 

 大分ブラックなジョークにはなったが、それでも冗談を言える程度には落ち着いたと言えるだろう。私はずっと繋いでいた日菜の手を放して、その代わりに握り拳を作って前に突き出した。

 

 柄じゃないとは思う。でもこれで良いとも思う。

 

 奮起する為の一歩目は、こんなものだろうかって。

 

 

「やるわよ。そして、必ず帰る」

 

「オッケー!」

 

 

 互いに突き出した拳がこつんと合わさる。

 

 私から見た日菜の姿は、いつも通りを取り戻していた。

 

 

 

 

 

 

 







言うの忘れてたんですけど、アインクラッド第一層って直径10kmの円形らしいですよ。本当かどうか分からないんですけど採用してます
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