夜を日に継ぐ   作:百三十二

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第五層入った直後にこの話をぶち込むなんて我ながらどうかと思う。でもある物がこんなに都合良かったのが悪い。

今回の話で何言ってるのって思った人に向けて、可能な限り後書きで補足したつもりです……




日菜の才覚

 

 

 

 第四層のフロアボスは、どういう訳かキリトくんとアスナちゃんが連れて来たキズメルさんが無双していったことで戦闘らしい戦闘もなく攻略された。というか二人もあたしたちと同じ黒エルフ陣営を選んでいたことをその時に知った。

 

 後でネズちゃんに聞いてみたけど、クエストの道中はともかくとして結果と報酬が一致しているから他の攻略組の人たちにとって信用に値する情報になってるのだとか。おかげ様で儲かってるって言ってたけど、どういうことかと聞いてみればALSとDKBのフロントランナーたちとは別の、いわゆる二軍や三軍に割り振られている人たちにクエストを攻略させて報酬を改めて分配しているそうで。その為にエルフクエスト関連の情報は価値が高い様で、ネズちゃんもホクホク顔ということらしい。

 

 まぁ、第一層の件があるから好きにはなれないけど、同じ攻略組としては頑張っているし最低限優秀なのも分かるから、揉めない程度に戦力増強が出来ていることを期待しよう。あたしとおねーちゃんを筆頭に少数精鋭で最後まで攻略出来るだなんて甘い考えは、流石に無いからね。

 

 

 閑話休題。

 

 

 第四層の時とは違って最速で転移門のアクティベートを済ませた訳ではないので、第五層に降り立った時点で既にプレイヤーの姿がちらほらと見える。攻略組の人たちの顔は覚えているけど誰にも該当しない人が多数見受けられることから、第四層攻略の報をいち早く聞きつけた人たちが喜び勇んでやってきているんだなと思った。

 

 

「人が多いですね。それに皆さん、何やら下を向いて歩いている様ですし」

 

「ふむ。フロアの雰囲気もそうだが、どうやら探し物が人気のようだな」

 

 

 おねーちゃんがプレイヤーたちの姿勢に気付き、おじさんが第五層そのものに目を向ける。

 

 それもそのはず。βテストの時と同じであれば第五層のテーマは《遺跡》だ。そしてこのフロアにはそんなテーマを象徴する様な楽しみが存在している。それを知っているあたしは得意げに説明し始めた。

 

 

「ふっふっふー。なんていったって、このフロアにはお宝が落ちてるもんねー!」

 

「お宝が落ちてる? ……ああ、それで下を向いているのね」

 

「そ! ちなみに落ちているのは《カルルコイン》っていう昔使われていたって設定の通貨だよ。円玉みたいに種類と価値が分かれていて、このフロア限定で売却すると換金出来るんだ。その辺の安全圏内にも落ちているから、戦えない人たちからしてもちょっとしたお小遣い稼ぎにはもってこいって訳!」

 

「ならばその情報を事前に入手していたプレイヤーたちが、我先にとスタートダッシュを決めた結果がこの光景という訳か」

 

 

 おじさんの言う通り、あたしたちよりも先んじて宝探しにいそしんでいる人たちはそういうことなのだと思う。宝探しと言うにはちょっと絵面が酷い気がしなくもないけど、金策だと考えれば多少の浅ましさは目を瞑る方が良さそうだった。一々品が無いって絡むのも大概だしね。

 

 

「君たちも宝探しに興じるのかね?」

 

「金銭面──これでもコルには十分余裕がありますし、態々皆さんに紛れてまでやる必要はありませんが」

 

 

 そう、あたしたちの懐事情は一切問題が無い。それどころか向こう数フロア分は貯蓄があるレベルだ。おねーちゃんの言う通り無理に金策に走る理由は全くなかったりする。悪目立ちもしたくないしね。

 

 ただそこで言葉を切ってあたしの方を見てくるおねーちゃんの視線には、あたしがこういうのに興味があるかもしれないという気遣いを含んでいた。そのことは嬉しいけど、生憎と目を血走らせながらゴミ拾いをする趣味なんてあたしにはない。

 

 それに──

 

 

「そんなことしなくても適当に歩いていれば勝手に拾えるよ?」

 

 

 その証拠に、第五層転移門広場から主街区に向けて歩き出してものの数秒で

 

 

「ほら、コイン」

 

 

 お目当てでも無いのに、あっさりと道端に落ちていたコインを拾ってしまう。

 

 βテストの時も、あたしの意思とは関係なしにコインを拾えてしまっていた。パスパレの皆には凄いを通り越して最早呆れられたけど、あたしにその気が無いんだから冤罪だって抗議したのが懐かしい。

 

 

「これどうするの?」

 

「見つけてしまったのなら、一応回収しておくべきね。何かに使えるかもしれないし」

 

「ん、分かった」

 

 

 コルには困らないけど、カルルコイン自体が必要になる可能性はありえなくもない。おねーちゃんの案に沿って共有ストレージにしまっておくことにした。

 

 

「それにしても薄気味悪いわね。遺跡モチーフとは言っても、何か暗すぎる気がするのだけど」

 

「そりゃそうだよ。だってここ、ゾンビやゴーストが出るもん」

 

「ゲームだと分かっていなければ足を踏み入れることは、恐らく無かったわね」

 

 

 実のところあたしもおねーちゃんもホラー系は全然苦手じゃない。あたしなんかは面白がってしまう方だし、おねーちゃんはホラー映画なんか観てても淡々としてて現実感が無かったとか言い出しちゃうくらいだ。

 

 だけどおねーちゃんはリアルに起きるオカルトな要素は大の苦手である。もっと言えば、不確かな存在が嫌いだ。

 具体的に言うと、フィクションだと分かってるホラー系は平気でも、本物の幽霊やお化けは駄目だ。何とかタワーとか人の往来が激しい吊り橋みたいな高い所は普通に問題無いけど、安全面で不安の残る地に足付かないアトラクションとかは乗りたがらない。とにかく、そうだと確定していない事象は避ける傾向にある。

 

 今もそうだけど、ゾンビやゴーストって言ったって所詮はゲームで用意されたモンスターだし、紛い物である。つまり確定してるデータ上の存在なので、おねーちゃんが変に怖がることも警戒することもない。

 

 デジタルかオカルトか、デジタルだとしても安全が確立されてるかどうかが判断基準になってるらしい。これで本物が出たらというのは気になるけど、おねーちゃんがまともに戦えなくなるのは不味いしそうならない方が吉だね。

 

 

「あ、またみっけ」

 

「……本当によく見つける。何かコツでもあるのかね?」

 

 

 そんな思索に耽ってると、また意図せずしてコインを見つけてしまう。辺りをきょろきょろ見渡してるなんてことは無いんだけど、これでもかってくらい視界に映ってくるのだからどうしようもない。

 

 そんなあたしに対して感心した様におじさんが唸っていた。ついでに興味本位でコツを訊かれるけど

 

 

「なんにも。ただ何となくピリッと来た方向に落ちてる事が多いから、勘でしかないと思うよ」

 

「そうとも限らないさ。確かに日菜君は直感に優れているのだろうが、科学的根拠が無い訳でも無い」

 

「どういうこと?」

 

「一度立ち止まって周囲の景色を覚えてくれたまえ」

 

 

 おじさんの提案に従ってあたしたちは歩くのを止めて、主街区までの道の途中に佇んだ。それから指示通りに周囲の景色を頭に入れて、コインが落ちていないことを確認した。

 

 

「どのくらいかかるか不明だが、日菜君。もしまた、君の言うところでピリッとした感覚が来たら教えて欲しい。それまではここで休憩だが……まぁそう時間はかからんだろう」

 

「「?」」

 

 

 何の確信があるのか分からず、あたしとおねーちゃんが揃って首を傾げる。

 

 

(うぇっ!?)

 

 

 だけどおじさんの言う通り、たった数分立ち止まっていると例の感覚が発生したので思わず肩が跳ねた。それを見ていたおねーちゃんはまさかといった表情で、おじさんは仮説が立証されたせいか少し嬉しそうだった。

 

 そんなんでピリッとした方向へと目を向ければ、無かったはずのコインが出現していた。

 

 

「おじさん! これどういうこと!?」

 

「私からも説明を要求します」

 

 

 姉妹揃っておじさんに詰め寄る。するとおじさんは落ち着きたまえと前置きをしてから語り始めた。

 

 

「まずは簡単な推理からだ。このフロアに辿り着いて以来、様々なプレイヤーたちがコインを求めて散策しているのを目撃した訳だが。あれだけの人数が隅々まで目を凝らしているとなると、やがて落ちているコインは枯渇してしまうだろう。そうとなれば、圏内で活動するプレイヤーにとっては死活問題のはずだ。だが改めて思えば、それもおかしな話なのだよ」

 

「と言いますと?」

 

「転移門前の圏内の範囲はそう広くはない。だが彼らはその狭い範囲内をウロウロしてるだけだった。まるでコインが再出現すると分かっているみたいにね」

 

「成る程。βテスト出身者からその情報を得ていれば、安全圏内に籠もり続けたとしてもコインを回収することが出来ると分かっていた訳ですね。──日菜は知ってたの?」

 

 

 おねーちゃんに話を振られたので、頷いて肯定する。確かカルルコインは幾らでも再出現するからってことで、βテスト時代に一生籠もると宣言した人が現れたってネズちゃんが笑っていたのを覚えてる。

 

 

「つまりコインはランダムに出現する、というのを分かってくれればいい。本題はここからなのだが、私が自己紹介の際に出身大学と学科を述べただろう?」

 

「《東都工業大学》の《電気電子工学科》だっけ?」

 

「そうだ。そこで私や同僚たちは様々なことを研究し学んだが、その中の一つに電気信号に関するものがあった。機械が何らかのプロセスを実行する際に微弱ながら電気パルスを発したり、僅かながら空間に干渉する為に歪みが起きる等といった話だ。そして本来であればこの手の事象は人間の感覚で感じ取ることが出来ず、また別の観測機器を用いてデータを採取するのが一般的となっている。しかし極稀に、これらの電気信号やそれに付随する些細な変化を感じ取れてしまう人がいると聞く」

 

 

 

「日菜君。もしかしたら君は、その手のきっかけ(通信ラグ)を受け取れてしまう側の人間の可能性がある」

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 おじさんの考察を聞いたあたしたちは、その言葉の意味を飲み込むのにかなりの時間を要した。

 

 腑に落ちた、という訳がない。むしろ何を言ってるのかと問い詰めたいくらいだった。

 

 だってそうでしょ? 言い換えれば「君は第六感を持っている」ってことだ。そんなフィクションの中じゃ無ければ存在そのものが怪しまれるエスパーみたいだって突きつけられて、ハイそうですかとはならないよ。

 

 

「卓越した感覚だけが読み取れる()()()が存在すると仮定する。そこで表情の変化や感情が動作に表出する《敵意》や《殺意》に呼応して指先が動き、僅かながらに空間への干渉が発生したとしよう。すると脳が言葉に変換するのに必要な容量を満たさない程の小さな情報でしかなくとも『確実に()()()があった』ことを感知する。私たち人間の意識という部分においては理解出来ておらずも、脳という部分は理解している。これを敢えて言えば《直感》という言葉が相応しいだろう」

 

 

 あたしたちの困惑を無視して、おじさんは告げる。

 

 

「私の目から見ても、日菜君は直感に優れていると言える。しかしそれはオカルト的な話ではなく、君が得た情報から正解を割り当てているだけに過ぎず、他者に比べて圧倒的に少ない情報と短いプロセスを経てるだけではないのかな? 君の意識していない部分で得た情報から答えを導き出しており、決してゼロからイチへと辿りついてる訳では無いと思った次第だが」

 

「それで? おじさんはあたしに何を伝えたい訳?」

 

 

 ようやく絞り出した言葉は、反論の体を成していなかった。君はそうだと一方的に告げられて、これを否定できないというのがこれほど息苦しいことだとは思ってもみなかった。

 

 あたし自身さえも認識していなかったアイデンティティーに触れられた気がして、いっそのこと気持ち悪いを通り越して恐怖すら感じていた。

 

 多分、おじさんへの返しは詰問したみたいに怒りを含んでいて、それでいて震えていたと思う。

 

 

「君のその直感は偶然などではなく、君自身が有する才能だということを自覚して欲しいのだよ。世の中において直感に優れている人というのは五万といるだろうが、君レベルで優れた感覚の持ち主はそうお目にかかれるものでは無い。その才能を腐らせてしまうのは非常に勿体ないと思ったいち研究者からの、ただのお節介だと思ってくれたまえ」

 

 

 ついさっきまでいた壮年のおじさんは消え、研究者としての本性を現したマッドサイエンティストがあたしを見下ろす。その瞳映るあたしの姿は、この人にとってはモルモットに見えているのかもしれない。

 

 

(怖い……っ)

 

 

 あたしは恐怖した。その目に宿す狂気を覗き見たせいなのか、得体の知れない怖さを感じずにはいられなかった。

 

 齢17の小娘でしかなくてまだ成人も迎えていない人生だったとしても、筆舌にし難いと断言できる狂気だった。

 

 あの男の人の狂気は悪意に満ちていた。でもこの人のは悪意でも無ければ、それこそ善意でも無い。それこそ他人を他人と思っていない様な、研究者と被検体の関係性を表すかの様な淡々としたものだ。

 

 

「あなたが私たちの護衛を買って出た目的は、日菜を実験動物にするためだったのですかっ!」

 

 

 眼前の狂気を跳ね返さんとおねーちゃんが叫ぶ。いつの間に構えていたのか、既に矢を番えて威嚇していた。

 

 

「君たちの護衛を引き受けると言ったことは嘘では無い。ただ、私が日菜君に興味があったことも事実というだけだ」

 

 

 だけど相手も一切の余裕を崩すことなく、それこそ武器を構えることも無く棒立ちしていた。おねーちゃんの態度すら意に介さず、井戸端会議でもしている感覚のままに会話を進めている。

 

 

「あなたの興味を満たすための道具でしか無いと、そう言うのであれば護衛の件はここで終わりです」

 

「だが良いのかね? よからぬ者に目を付けられ、クエストも3人がかりでやっとの場面すらあった。私を突き放したところで、君たちが生き残れると思っているのかな?」

 

「よからぬ者なのはあなたもでしょう! クエストは厳しいと思ったならば撤退すれば良いだけですから、御心配には及びませんっ」

 

「それは無理だと思うが?」

 

「どうして断言出来るんですか!」

 

「紗夜君。君はあのキズメルという者を見捨てることが出来ない。NPCだと分かっていても、情に絆されている君が最後まで付き合ってしまうことは明白だと思った次第だが」

 

「っ!」

 

 

 おねーちゃんは無意識の内に湧き上がっていた感情を言い当てられて言葉に窮してしまった。薄々感じていたことだけど、おねーちゃんはキズメルさんに対して何処かシンパシーを感じているみたいだった。故にその言葉は、鋭い刃物となって突き刺さったことだろう。

 

 そう、思っていたのに──

 

 

 

 

 

「──だとしても、私にとって優先するべきはこの子です」

 

 

 

 

 

(おねー、ちゃん……?)

 

 

 

 あたしは自分の耳を疑った。

 

 あたしとキズメルさんたち、どっちを選ぶかと聞かれておねーちゃんはあたしだと宣言した。そう言ってくれたこと自体は一時期を考えれば掛け値なしに喜ばしかった。

 

 でも信じられなかった。あの誰よりも優しいおねーちゃんが、親しくなった人を切り捨てると言ったことが納得できなかった。

 

 おねーちゃんの根っこの部分は、全てを抱えて生きていく不器用でも優しい人のはずだった。なのに、それを寸分の迷いもなく断ち切って見せた。

 

 

 

 ──そんなおねーちゃんの行為がどうしようもなく嬉しくて、同じくらい自分の情けなさを実感させた。

 

 

 

 あたしはおねーちゃんの背中に守られる存在でいたいんじゃない。家族として、あわよくば生涯の伴侶としてと願ったことはある。あたしにその席が用意されていなかったことも、既に理解している。

 

 だからおねーちゃんに寄り添う左腕になるのは諦めた。あたしにその権利は無いと把握した。

 

 

(それでもっ!)

 

 

 あたしがなりたかったのは、そんなか弱い存在じゃない! おねーちゃんの隣に立って、競い合って、笑い合って、背中を預け合う……対等な関係になりたかったんだ!

 

 左腕が空いてないのなら、あたしが目指すべきはおねーちゃんの右腕だ。これだけはつぐちゃんにも譲れない、あたしだけの特等席!

 

 

(あたしが憧れた背中は、あたしが守る……っ!)

 

 

 その為に、あたしが今出来ることは──

 

 

「毒を食らわば皿まで、だよ。おねーちゃん」

 

「日菜……?」

 

 

 あたしは怪訝な表情を浮かべるおねーちゃんの右肩をポンと叩きながら前に出た。そしておねーちゃんよりも前に出ておじさんの前に立ってみせる。

 

 

「ちょっとあなた、何やって……っ!」

 

「分かって貰えた、と解釈しても良いのかな? 日菜君」

 

 

 そう、あたしがやるべきことは決まっていた。言い方は酷かったし、突き放すような物言いには心底呆れた。

 

 でもこのおじさんは、それが必要だからと教えてくれていただけなんだ。とんでもない遠回しだけど、あたしが気付くことに期待して敢えてそうしたんだ。

 

 

「教えてよ、おじさん。この感覚の使い方と、伸ばし方を」

 

 

 これが悪魔との契約だったとしても、あたしは喜んでサインを書く。

 

 こうでもしなきゃ、おねーちゃんの背中を見るだけの足手まといになる気がした。だから賭けて、乗った。

 

 

「日菜! あなた正気なの!?」

 

 

 武器をかなぐり捨ててあたしの両肩を掴んで詰め寄るおねーちゃん。その表情は心配一色で、あたしのことを本心から愛してくれているのが嫌でもわかる。

 

 でもごめんなさい。守るにしても、生き残るにしても、右腕になるにしても、そしてあたしの全てを捧げるためだとしても、その為に必要だと本能が告げるんだ。

 

 

「お願い、おねーちゃん」

 

 

 だからあたしは、肩に置かれた手に自分の手を重ねて、どかした。

 

 

「あたしは強くなりたい。おねーちゃんと背中を預け合えるだけの力が欲しいんだ」

 

「あなたの方が出来るでしょう!?」

 

 

 違う、違うんだよおねーちゃん。

 

 おねーちゃんは気が付いてないと思うけど、おねーちゃんは必ずあたしの援護が出来る位置に立っているんだ。剣と盾を装備している時は盾て割り込める様にあたしの半歩前を、弓を装備している時はあたしを通して敵への射線が通る様な立ち回りをしているんだよ。

 

 無意識で、最早クセなレベルだと思う。でもそれはおねーちゃんの可能性を狭めているだけだし、おねーちゃんにとってあたしは守るべき対象だという明確な証拠でもある。

 

 おねーちゃんが視野を狭めているのは、あたしが弱いからだ。

 

 おねーちゃんの可能性を閉ざしているのは、あたしの存在が邪魔になっているからなんだ。

 

 

 

「自覚が無いだけだよ、うん」

 

 

 

 さよなら、弱いあたし。そしてこんにちは、未来の自分。

 

 

 

 ──あたしはもう、憧れるのをやめる。ただ、それだけのことだった。

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 

 

(ふっ……一先ずはと言ったところ、か)

 

 

 妹に詰め寄る姉の姿を視界に捉えつつ、ヒースクリフは表情に出さず内心で安堵していた。

 

 彼には彼の目的があるというのも事実だが、それはそれとして短期間ながら彼は姉妹に対して思うところがあったのだ。

 

 

(この双子の姉妹は、美しくも歪な関係性だ)

 

 

 この世界に来る前から、訳あって彼は姉妹について調査していた。その結果彼が出した結論は

 

 

『姉は理性が強過ぎて、妹は直感が暴れている』

 

 

 というものだった。

 

 氷川紗夜という姉はその強靭過ぎる理性が彼女の良さであると同時に、彼女自身がいまいち殻を破れない原因そのものになっている。

 

 氷川日菜という妹はその優れ過ぎている直感が彼女の魅力を引き立てていると同時に、自覚が無いせいでその強みを無駄に消耗してしまっている。

 

 

 ヒースクリフは研究者であると同時に、人間の可能性に興味を強く持つ男だった。

 

 そんな彼からすれば、宝の持ち腐れをしている姉妹に対して勿体ないと思わざるを得なかったことだろう。

 

 だから接触した、そして干渉した。

 

 本命は別だったが、物のついでだと興味の幅を拡げた。

 

 

 その結果、かなり早い段階で妹の方を自覚させるに至った。

 

 どの道、妹の方は彼と出会うよりも前に危機感を覚えていた様だったから遅かれ早かれ誘導することは出来ただろう。

 

 

(だが紗夜君の方はどうかな? 私の見立てが間違っていなければの話ではあるのだが)

 

 

 そんな彼にとって目下最大の懸念事項は、姉の方をどう誘導するかの目途が全く立たないことにあった。

 

 

(そも、彼女は自身を低く見積もるきらいが強すぎる。これは理性とは別の側面だが、日菜君よりも無自覚な面があるというのは……いやはや、そういったところは流石双子、と言うべきか)

 

 

 呆れ半分、同情半分。ヒースクリフは氷川紗夜という人間に対してこう評する。

 

 

『彼女は《姉》だ。何がそうさせるのかは不明だが、彼女は《姉》であることに拘り過ぎている』

 

 

 恐らくそれは、妹の方が関与しているのだろうと当たりはついている。ならばまずはその妹の方をどうにかするべきだろうと彼は思い至った。

 

 

(さて、どうしたものかな?)

 

 

 言い争う姉妹に見られていない彼の表情は、小さくだが確かに笑っていた。

 

 それは姉が言った様な、そして妹が思った様なモルモットに向けるものではない。

 

 その目に乗せられた感情は期待であり、孤独だった。

 

 

(上がってきたまえ。君たちにはその資格がある)

 

 

 人の可能性を追い求める男は、同じ高みに並び立つ者に飢えていた。

 

 故に観察し、育てることにした。

 

 

 そこには親心にも似た感情が芽生えていたことに、彼はまだ気が付いていない──






ざっくり言うと、天才が天才に目をつけてたって話。《才能と覚悟》を略すと《才覚》になるってのも面白い気がする

以下いつもの



〇カルルコイン

第五層の至る所に落ちている古代の遺失物。集めて換金可能。その辺に落ちているのをプレイヤーが拾いまくってるのに取り切れないってことはリポップするんじゃないのかってことできっかけに採用した



〇日菜の直感

バンドリという作品において日菜は勘に優れている描写が幾つもある。ただよくよく考えてみると相手の事を知っていたり、事前に何らかの情報を得てから最短で導き出している要素が強い。彼女はテストで満点しか取らない、つまり国語の現代文が解けるという事であり、長々とした文章から望む情報を知らず抜き出していると解釈。『0→1』ではなく、『0.1→1』や『0.01→1』だと思ってもらえれば

このクロスオーバーで明記したかったことの一つだったりする。バンドリだと天才談義みたいなことはしないから、じゃあ何故その子が天才なのかについての掘り下げが為されない傾向にある。日菜が天才だってのは周知の事実だとしても、何について天才かと聞かれると答えられなくなるファンは多いと思う。事実、彼女が天才と呼ばれる所以は「圧倒的習熟スピード」と「ジャンルを問わない」ことにあって、茅場晶彦の様な「何かに特化した才能」を持っているかと言われれば不明と言わざるを得ないのが現状

さて日菜の直感についてだが、ヒースクリフが語ったことが全てではある。何と更に面白いことにSAO側には《超感覚》というちゃんとした単語が存在してる。これを使わない手はない。なお《超感覚》はアインクラッドで戦うプレイヤーたちが生み出した《システム外スキル》の一つだそうです、公式設定バンザイ

なのでネタバレみたいなものですが、ヒースクリフが見出して日菜が伸ばそうとしているものは《超感覚》の前身、或いは特化verという認識でオーケーです。要は日菜の直感に理由付けしたかっただけですので



○姉の無自覚

こっちは過去のガルパ内のストーリーで「私、なにかしちゃいました?」に近い描写がされて物議を醸したことがある。ただ冷静に考えてみれば彼女も大概な存在であるのと、無自覚であることへの説明が(不運なことに)ついてしまうのである意味洒落にならなかったりする

バンドリを知らない人に向けて雑に言うと、彼女のやることなすこと『全て』において『後から始めた』妹に『短期間』で追い抜かれて敗北し続けた時期が推定3〜5年は存在している。自己肯定感の低い劣等感の塊が誕生したのは、無理からぬことだろう

多くを語ると致命的なネタバレになるので避けるが、バンドリでは《秀才》と呼ばれる彼女が時折見せる一般人目線の《天才》は何かの片鱗だったりするのか、それとも単に日菜が高みにいることを強調したかっただけなのか、公式様の回答を待ち続けていたりします



○日菜の覚悟

紗夜が姉過ぎて、日菜の不満がぷち爆発。過保護すぎて逆効果だったパターン。日菜目線だとあまりにも過保護なので信じてくれていないと誤認するレベル。もちろん日菜はぜーんぶ察しているが、じゃあそれを姉に自覚させるためにはってことでちょっとだけ姉の妹離れを決意した。家族としての関係性も大事だけど、一人の人間としても見て欲しいという細やかな我儘

実際、この作品のSAO編において序盤から中盤にかけての比重が
『紗夜<日菜』なのは狙ってやっている。紗夜のコンプレックスを刺激する形になってしまっているが、今後のために必要だと思ってやっている



○ヒースクリフの思惑

本命じゃなかったけど思わぬ発掘をした、という認識。彼が姉妹に何を見たかったのかは追々……




という訳で最初だけちょっとギスります。姉妹の関係性もそんな順風満帆ばかりでは無いという事で一つ。ギスドリはバンドリの嗜み……つってもギスドリ自体は次話で一旦終わるし喧嘩別れとかにはならないと先に断っておきます。例え喧嘩しててもこの姉妹が離れて行動することは無いと思ってくれて構わないです

それからこの辺の話について認識しておくと理解しやすい情報として、第五層は原作同様12/27~31日のたった5日での攻略になります。凄いはやい
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