夜を日に継ぐ 作:百三十二
ギスドリが長引くことは無いです。ただ出来るのがここだけっぽかったので無理やりですが挿入という形に
事前情報ですが、バンドリ知らない勢は「紗夜は自分の奏でる音楽が教科書通りのつまらない音であることを非常に気にしている」ってのを念頭にお願いします。あと姉妹の仲がよろしくなかった時期の事を《氷河期》と例えることがあります
バンドリ知ってる勢はイベスト『永い夜、永遠を抱いて』を消化していないと思ってください。当然、当イベスト対応楽曲は未誕生という扱いです
「まず感覚と言えば、《触覚》《味覚》《嗅覚》《視覚》《聴覚》からなる五感が最たるものだろう」
「第六感は、これらの延長線上にあるって言うんでしょ?」
「そうだ。しかし感覚を鋭くとは言ったが、それを言語化しようとはしない方が良い」
「あたしの持ち味が死ぬからだよね」
「うむ。感覚を理解するためのプロセスを短縮出来ることが君の強みであり、他者の機先を制することに重きを置くのが肝要だ。故に今までとやることに変わりはないと思ってくれて構わない。ただ自覚するのとしないのとでは、使い勝手が変わってくるという話だからね」
「オンオフを切り替えられるくらいには使いこなしたいよ」
主街区へと向かう道すがら、前を歩く二人を数歩後ろからついていく私の心中は寒風が吹いていた。
日菜は元より、ヒースクリフさんも聞かされた出自から考えれば向こう側の人間なのだろう。月並みな言葉で括れば《天才》と呼ばれる存在たち。私が立てない領域に立つ二人への嫉妬や寂しさが無いと言えば、心が狭いことだが嘘になる。
だが私の胸中を占める感情は、それらを超えて困惑と呼ぶのが相応しかった。あの日菜が何らかの目的のためとはいえ私の傍を離れたがったという事実が、私自身が考えるよりも相当な影を落としていったことに動揺したのだ。
(依存していたのは、私の方だとでも言うの……?)
だとするならば、日菜に対して詰め寄ったのは妹の為じゃなくて私の為だったということになる。私をおねーちゃんと呼んで後を付いてくる可愛らしい妹の姿を求めていたのは、私の心の弱さということなのだろうか。
一人寂しく歩を進めていくと、先程までの激情は何だったのかと言わんばかりに思考が回る。際限なく奥底へと沈んでいき、むしろ頭が冷水に浸かっていく感覚に陥る。
(思えば、パスパレの皆さんと出会ってからの日菜は、私の知らない一面の方が増えたのよね)
この世界に来てから余裕をなくし、日菜を守らなければと躍起になっていたことは自覚している。だけどそのせいで、妹にはこの子なりの道があることから目を逸らしていたのは何故だろう。
(──いや、今更言い訳するのは駄目ね。私は日菜が手の届かない所へ行くのが怖くて、閉じ込めようとしていたのよ)
常に先を歩く妹に追いつくと約束したのに、私が追い縋るよりも先を行かれるのが怖かったのだ。一生追いつけないと認めたくなくて、一度は鳴りを潜めた劣等感が再燃するのを恐れたのだ。その結果、あの氷河期をもう一度だなんて、そんなの絶対にあってはならない。
それは私の罪であり、向き合うべき過去である。なのにそれを乗り越えようとした結果が見て見ぬフリからの、昔へ逆戻りとは何と滑稽なことか。
(今もそう。日菜は自分の才能を伸ばそうと己の足で歩き始めた。ならば私の足は、何処へ向かうべきなのだろうか)
そこまで考えて、ふと私はあることに気が付いた。
(思えば、私がギターを弾き続ける理由って何なのかしら……?)
Roseliaが事務所入りを果たし、これからもバンドのギターとして頂点を目指すことが決まっていた。でも私は、一体いつまでギターを弾くつもりだったのだろうか。
バンドの仲間たちと頂点を目指し、立ち続ける。でもそれはRoseliaとしての共通の目標である。かつて日菜と比べられたくないからと始めたギターを弾く理由は、いつしか日菜に追いついて同じステージで演奏するという約束に変わった。
であれば、それを叶えたら私はギターを止めるの? 続けるにしても私個人の目的はそこで終わりを迎え、それからのことはどうするの?
(──ああ……これは確かに、依存していたのは私の方だったのね……)
かつて湊さんは歌が好きだと、好きだから歌い続けるのだと言っていた。
私もギターが好きだから弾き続けると宣言出来るだろうか。何があっても手放さないと断言出来るだろうか。
それは恐らく無理だろうと自嘲する。何故なら私は、自分がギターを弾いて奏でる《音》を好きだと言えないからだ。自分自身の《音》を好きになれない人間が、その道一本で食っていけるとは到底思えない。
(私はギターを弾く理由を日菜に預け、Roseliaに委ねていた。それは自分を持たないのと同義)
そこに氷川紗夜としての個は存在しない。あるのは誰かに依存しきった、怠惰な姉という虚像。
(見つけられるかしら、私が一生ギターを弾く理由を……)
出口の見えないトンネル、その入り口に立ったことを自覚した私は、前を歩く二人に気取られることなく俯き続けた。
☆
──第五層主街区《カルルイン》
青みがかった岩のブロックで造られた建物と、街の中心部には布や革が張り巡らされた天幕が存在している。テーマに沿って仄暗い雰囲気を形成しつつ、何処か猥雑な空気を漂わせていた。
現在時刻は既に夜。コイン目当ての遺跡ハンターたちも大半が帰還を果たし、街のコンセプト通りの賑わいを見せていた。
コインそのものには見向きもせずに街を目指した3人はその喧騒に揉まれることなく今宵の宿を確保しており、プレイヤーの声を環境音にして休憩を取っていた。
今晩は既に行動しないことを伝えるとヒースクリフは去っていき、宿の一室に姉妹が取り残される。二人の間に流れる空気は重くて会話こそ無いものの、険呑というよりは気まずさが目立っていた。同じベッドに腰掛ける二人の距離は、いつもと違って一人分の空きが存在している。
「日菜」
「なに? おねーちゃん」
このまま過ごすのはお互いにとってストレスでしかない。そう判断した紗夜が意を決して妹の名を呼び、話しかける。対する日菜の声音は平常に近いものであり、そこに突き放すような感情は無かった。
「正直、あなたが何を見据えているのかが分からないわ。私としてはゲームクリアまで大人しくして欲しいと思っていた……勿論、それは私自身もそう。でもあなたは先に進むことを決めた」
「うん。このままじゃ駄目かなって思ったから、思い切ってそうしよっかなって」
日菜は紗夜の顔を真っ直ぐ見ている。しかし紗夜は直視することなく、正面の岩の壁を眺めていた。
「短い時間だけれど、あなたの思惑や私のすべきことについて考えてみたわ。でも残念ながら、これといった結論は出せていないの。そもそも私があなたにすべきことなのか、それともあなたが私に求めているのか、それすらも分からないのよ」
「両方だって言ったら、どう?」
「私が不器用なのはあなたも知ってるでしょう? せめて言葉にして欲しいのだけど」
努めて冷静であろうとする紗夜の淡々とした態度は、何処か自分を卑下する物言いだった。そうだろうなと察していた日菜は、そんな姉の膝の上に丁寧に揃えられていた手に自身のそれを添えた。
一瞬、紗夜がピクッと反応したのが分かったが無視して話を続けた。
「あたしもよく分かってないよ。あたし自身、説明出来ない様な焦燥感に踊らされている自覚があるもん」
そういう日菜の表情は苦笑いだった。しかしその中には悔しいという感情がはっきりと見え隠れしていた。
「でもね、このままじゃいけないってことだけは分かるんだ。あたしとおねーちゃん、両方にとって放置しちゃ駄目なんだってことだけは、妙な確信があったんだよ」
「それも勘、なのでしょう?」
「うん。おねーちゃんが信じる、あたしの直感だよ」
そう言われた紗夜は、第一層の時に日菜の勘を当てにしたことを思い出した。あの時は妹の勘を信じたというのに、今度はそれを信じないなどと薄情なことをするつもりだったのかと自問した。
だがそれとは別に、ここでその勘を信じられるだけの余裕を持ち合わせていなかった。彼女自身は勘に頼ることなど信条的にあり得ることではないが、だからといって勘に賭けるかどうかの空気くらい多少は読める。
今はその空気が一切読めない上に、言い様のない感情が拒絶を繰り返していた。彼女の理性が、あらゆる意味でストップを告げていた。
(私は『姉として』この子を信じれば良いのか、それとも拒否しなければならないのか。……いいえ、そもそも日菜は『姉としての私』に結論を出して欲しくないのか)
答えは出ない。そう簡単に出せるものではないというのは嫌でも理解している。
(でも日菜はハッキリと決別を告げた。縁を切るという意味ではなく、姉妹という関係性に胡坐をかくことを止めたと言った方が正しい。直接そうだと言われた訳ではないけれど、私にだってこの子がしたいことを何となく把握することはある。今まで何も分かろうとしてこなかった癖に、私の勘は実に都合の良すぎる代物らしい)
何処までいっても肯定的な発想にはならない紗夜。しかし自嘲する中に、僅かながら前向きな姿勢が出始める。
極端な話、それは諦観と何ら変わりないものではある。だがそれは紗夜が物事を自分本位で考えていくことを諦めたということであり、どうせ無理ならばいっそのこと託してしまおうという丸投げの精神だった。
そのこと自体驚愕すべき事実である。責任感の強い姉が、その責任を他者に預けるつもりになったのだ。余裕から来るものでは無いが、紗夜が己の理性からくる思考を放棄したも同然だったのだから。
(肩肘張りすぎていた、ということかしら。
今一度自分自身を見つめ直し、振り返る。あのお菓子作り教室で学んだ有り様は、しかと紗夜の胸に刻まれていたはずだと確認する。
「保留……でいいかしら」
結論は出せない。しかし焦る必要も無い。
やっとのことで出した言葉は、先延ばしを願うものだった。紗夜は視線を重ねられた手に向け、それから日菜の顔を遠慮がちに覗いた。
(我ながら、情けないとは思うけど)
でもそれで構わないのかもしれない。
この世界に来て根を詰め過ぎた部分はある。胡散臭いが護衛もいる。
事情が事情故に一か所に留まることも出来ず、図らずもトップレベルの地位を走り続けていた。第一層攻略完了までの一ヶ月という期間が二人を攻略組に押し上げ、それ以来無理なレベリングをせずとも戦い抜けた。
だがそれは慣れであり、現実逃避だった。人の死に触れ、悪意に晒され、焦燥感に追われる。状況に流され、惰性で進み、息苦しさを覚える。
彼女たちは何故戦い、どうしたいのか。これまでは生き残るために頑張り過ぎていた。それだけが唯一絶対の指標であり続けたから、縋ることで考えない様にしていた。
紗夜は諦めた。何も考えずに突き進むことを止めた。自分たちであれば少しくらい何かあっても何とかなるだろうと、妹を信じて自身を信じたくなった。
(今はそれだけ。でもいつか、自分が好きになれる様になりたい)
姉は捨てない。でも姉で居続けることが正しいかも分からない。
無意識の内に握り拳が作られていた右手は、日菜の手が重ねられたまま。
目を向けられた日菜は少しだけ意表を突かれた表情を見せたが、すぐに微笑んだ。この姉の事だから不格好でも急いで結論を出すものだと思っていたが、まさかの保留ときたことに驚いた。
しかし同時に、姉の表情が少しだけ和らいだことに気が付き安堵した。
急激な環境の変化は、突如として姉妹の関係性に楔を打ち込んだ。
紗夜は過去を繰り返し、そうしなければ守れないと思い込んでいた。
日菜は姉と一緒ならばと、この状況に甘え続ける心が生まれていた。
だが今後を思えば、紗夜は妹が自分に守られるだけのか弱い存在ではないことを再認識しなければならなかったし、日菜は姉の進み始めた時計の針に置いて行かれないだけの強みが必要だと思い至った。
姉は一度止まり、妹は動き出す。
二人の間に、憂いは鳴りを潜めていた──
☆
──翌日、12月28日。
日菜のやりたい事と私の立ち回りに関しては一旦置いておき、ヒースクリフさんと合流した私たちは少々ぎこちなさを残しつつも悪い空気を残すことなく狩りへと出向いた。
初々しいやり取りをする私たちに対してヒースクリフさんが向ける視線が微笑ましいものだったが、そもそもの原因を作ったのはこの人なのだから内心文句の一つや二つ言いたかった。ただここで無駄に揉めても仕方ないし、そんなことを言っても意地の悪い態度で躱されるのがオチだろうから睨みつける程度で抑えておく。この際、彼の苦笑いは無視だ。
「ふぅ……」
では今日、エルフクエストを進めずに何をするかという話になるが、端的に言えば日菜の特訓だ。
この子や私がどうとかは別として、ヒースクリフさんに言われた直感を鍛えるということに前向きな妹は早速お試ししたくなったらしい。街の外に出て遺跡エリアへと足を運び、ゾンビやゴースト系列のモンスターを相手取る手筈となった。
ゾンビ系の敵の動きは遅く、緩慢な動きに比例して力強いが丁寧に処理すれば何ら問題は無い。こちらは私やヒースクリフさんが率先して梅雨払いすることで、日菜は極力相手にしないという方針にした。
その反対にゴースト系についてだが、動きは早いと感じない程度だが如何せん姿を消してしまうのが厄介だった。ワープしている訳では無く透明化で素通りしているだけらしいが、その透明化の最中にはこちらの攻撃が一切通らないという性質のために面倒な相手だった。
しかし日菜の特訓という観点ではこれ以上の相手はいない。透明化が解除されて実体化する際に集中すればピリッという違和感を覚える様で、感覚を適用する範囲や距離、そして強弱や精度について幅広く鍛えられると意気込んでいた。
「………………そこっ!」
今も遺跡の中の見晴らしの良いちょっとした広場の中央に目を瞑って立っていた日菜が、ゴーストの実体化に反応してナイフを投擲した。距離がある相手にはこの様に投擲で遠距離攻撃を仕掛けてヘイトを稼ぎ、近づいてきた時には
「やぁっ!!」
スパッと、ソードスキルを叩き込んで撃破していく。この間、日菜はずっと目を閉じたままである。
危険では無いか、に関しては私たちの方で適度に間引きしているので問題は無い。敵が近づいてきていると日菜が察している時は片足をトントン踏むという合図を出しているので、敵との距離を外から把握している私たちはその合図を見て手を出すかどうか判断できるという寸法だ。
「せいっ、ふっ!」
ゴースト2体に囲まれても御覧の通り。先に実体化した方を一撃で沈めたかと思えば、やや遅れて実体化した2体目の振り下ろされた腕による単調な攻撃を躱してみせている。そのまま透明化される前に仕留め、手ごたえを感じているのか満足そうな表情を見せた。
「調子、良さそうね」
「うん。意識してみたら、意外とこなせるもんだね。索敵スキルに頼らなくても気配の方は分かるようになった気がするし」
そう言いつつ、日菜は投擲でまた別のゴーストを引っかけていた。私と会話を挟んでも出来るらしく、今更ながらこの子の感覚には怖いものを覚えずにはいられなかった。
しかしそう悪いことでもなく、こうして感覚の練習を傍から見てみたことでメリットも大きいと理解した。とにかく空間が少しでもブレれば察知できるという事で、《隠蔽》関連のスキルを使われても距離次第では索敵できるかもしれないのだ。索敵スキルで検知出来ない相手にも有効となれば、その分だけ日菜は隠蔽スキルに割り振れたりと選択肢が増える。索敵と隠蔽両方を鍛えられると考えれば、他のプレイヤーに比べてかなりのアドバンテージであることに違いないだろう。
何にしても、日菜の強みになることは否定のしようが無さそうだった。
「……誰か来たよ」
「それも感覚?」
「いや、まだスキルの方。でも検知したら直ぐに感覚の方でも
一瞥もせずに他のプレイヤーが来るらしい方向を指さすので、釣られてその先へと視線を向ける。すると数秒の後、こちらへと向かって走ってくるプレイヤーらしき姿が視界に入った。
何やら慌てている様で、私たちに用事と言うよりは逃げているといった表現が似合いそうな走り方だ。
「おおおおおおお助けてくれぇえええ!!!???」
遠目に見える姿と叫ぶ声からして男性、それも成人を迎えてる大人の情けない助けを請う姿は何とも言えなかった。
なお、男性の後方から見え隠れするゴーストの群れが確認できたので、対処しきれずに逃げ回っていると推測。本来であればヘイトを買ったモンスターを引き連れて他人に擦り付ける行為は《トレイン》と呼ばれる迷惑行為の一種であり、悪質である。
だが今回に限っては見るからにそれどころでは無さそうな雰囲気なので、ここは一つ手助けすることに躊躇いは無い。
「男性の後方、ゴースト系……数は5、かしら」
「ちょっとチラチラし過ぎて把握しづらいけど、多分あってる」
私が弓を構えながら目視で、日菜が感覚で敵の数を把握する。数はともかく、男性の走る速度に追いつきかけてる個体がいて猶予は残って無いとみた。
「そこの方、そのまま真っ直ぐ此方へ! 変に動かないでください!」
「お、おう! 分かった!」
走ってくる男性へと声をかけ、返事と同時に矢を放つ。男性の真後ろにいる敵は狙えないが、陰からはみ出ている個体には少しでもダメージを与えておこうと容赦なく攻撃を開始する。
途中、私が矢を放つと思っていなかった男性が驚きの声を上げて怯みかけたが、ゴーストの呻き声が耳に入ったのか意を決して足を止めずに走り続けてくれた。そうこうしてる間に駆け寄っていた日菜とヒースクリフさんが男性とすれ違い、背後に迫っていたゴーストを斬り伏せていく。
「はぁ……はぁ……す、すまねぇ。助かったぜ……」
「いえ、無事で何よりです」
何とか振り切り、私の近くまで走ってきた男性の息も絶え絶えな姿を見るに相当な時間逃げ続けていた様だった。助けられる位置で巡り合えた幸運に感謝すると共に、膝に手をついて呼吸を整えようとする男性に労いの言葉をかける。
「いやぁ、参ったぜ……ってうぉっ!?」
幾ばくかの後、多少は落ち着いたのか男性が顔を上げる。と同時に変な声を上げて硬直してしまう。
走り続けてきて血の巡りが活発だったせいか、その顔はかなり上気していた。しかしながら人の顔を見てその様な態度を取るというのは、流石に失礼では無いか。そう思い、私は棘のある言葉を投げかける。
「何ですかいきなり。些か失礼な態度だと思いますが?」
「い、いやっ! わりぃ! 死ぬほどヤバイ目に合ったと思ったら、突然別嬪さんが映ったもんだから死んで天国に逝っちまったのかと思ったぜ!」
「はぁ?」
こんな時だというのに訳の分からない口説き文句を述べる男性に呆れていると、急に片膝をついてキメ顔で見上げてくる。
「こんな時だけどよ……お嬢さん、お名前を──」
「おねーちゃんの敵ぃぃぃぃぃぃいいいいい!!!!」
「お聞かせぇええええええええええええええええええええ!?!?!?」
が、いつの間にか走って来ていた日菜が助走込みのドロップキック(スキル補正無し)を男性にお見舞いし、背中に甚大な衝撃を受けた彼は台詞の途中で奇声を上げて吹っ飛んでいった。
「ちょっと日菜!? 圏内の外で他のプレイヤーに攻撃したらオレンジ判定になるんじゃ!?」
「大丈夫だよおねーちゃん。システム上、《結婚》してるプレイヤーに手を出そうとする輩に対する制裁はその限りじゃない! はず!」
「はずって、ええ……」
開いた口が塞がらないとはこのことだろう。最早何も言うまいと、現実逃避も兼ねて日菜のプレイヤーアイコンを確認することに。
「あら、本当ね。緑のままだわ」
「それよりおねーちゃん! 大丈夫!? 触られなかった!?!?」
「ちょ、何も無かったわよ! それよりっ!」
やたらとヒートアップする日菜をあしらいつつ、吹っ飛ばされてしまった男性へと意識を向ける。私たちのやり取りの間に寄って来ていたヒースクリフさんに手を引かれて立ち上がろうとしており、その姿は何処か哀愁漂うものが感じられた。
「すまねぇ旦那、ちぃとばかしぶっ飛んじまった」
「謝罪ならすべき相手がいるのではないかね?」
「そうだった!」
ヒースクリフさんに促され、此方へと向き直る男性。その表情は痛い目に合ったせいか、むしろ気の良い清々しさを覚える。
「オレの名は《クライン》! 危ねぇとこ助けてくれてありがとよォ! それと、さっきはすまなかった!」
「ああいえ、謝罪を受け取ります。その、突き飛ばされて大丈夫ですか?」
「気が動転していたとはいえありゃオレが悪い! むしろきつけの一発になって良かったくらいさ」
クラインと名乗った男性は、赤いバンダナをしたはきはきとした方だった。
彼の名乗りに合わせて私たちも順に自己紹介をしていく。終始日菜が威嚇し続けていたが、クラインさんの自業自得だと思って諦めて貰おう。私としても、こうも敵意を見せるこの子に対して強く出れそうには無かったからだ。
「しっかしよう。まさか噂の双子に出会えるとは思わなかったぜ……」
「噂になってるんですか? 私たち」
「おう! そっちの妹さんはテレビでも見たことある芸能人だからな。それが最前線で活躍してるってなれば話題にならない方がおかしいってもんよ」
「あまり嬉しくない目立ち方ですね……」
クラインさんの言葉に苦々しい表情を浮かべる私と日菜。仕方がないとはいえ、やはり人の少ない方へと走ってきて正解だった様だ。
もし第一層付近で話題になったまま駐留していたら物珍しさの集団に巻き込まれていた可能性は高かったし、事実人の口に戸は立てられない。今でこそその手の人にストーカーされる様なことは起きていないが、そうなる前に離れられて良かったというものだろう。
最前線が立て続けに攻略され始めたことで、はじまりの街に引きこもっていた人々が少しずつ活発になってきたということでもある。人間少しでも余裕が出来ると、野次馬根性が出るというのはどうやら避けられないものであるらしい。
「有名人ってのも大変そうだもんな……助けて貰った恩もあるし、いざとなったらオレや《風林火山》の仲間たちに声をかけてくれよ! 何時でも何処でも駆け付けるつもりだからな!」
先程の応対があんまり過ぎたが、日菜がいつの間にか威嚇を止めているあたり彼の言葉に嘘は無いらしい。武田信玄の旗にも記された孫子の句が聞こえた気がするが、話の流れから言って彼の所属するギルドの名だろう。どうやら彼は一軍の将であるらしい。
滲み出る気前の良さと、真摯な言葉。成程、軟派な側面を除けば彼が頼もしい人間であることに違いは無い様だった。
「その時はよろしくお願いします。なにぶん、どうなるか分からない現状ですので……」
「よろしくね、
「ぶっ!?」
「んなぁっ……!?」
何とか一段落付きそうだったというのに、急に日菜がクラインさんの顔を見てそういうものだから吹き出してしまう。ヒースクリフさんも音を出さなかっただけで手を口に当てて笑いを堪えているのが丸分かりだし、言われた当の本人は何だかガックリきている様に見えた。
どうやら野武士面というワードは彼にとっても自覚があるものの様で、割と気にしていたらしい。
「ところでクラインさん。どうしてゴーストの群れに追われていたんですか?」
「それなんだがなぁ……」
とはいえ、クラインさんがモンスターに襲われていたというのは事実である。もし罠の類が存在してるというのであれば、助けたお礼代わりに貴重な情報収集とさせてもらおう。
そう考えた私が話題を振ると、クラインさんは後頭部に手をやりながら何処か言いにくそうにしていた。そんなにのっぴきならない事態でも起きているのかと身構えかけたが、ことは私の想像の斜め上だったらしい。
「《幽霊》、って知ってるか?」
出来れば冗談であって欲しい、あまり聞きたくなかった事案だった。
日菜の強化案その1《感覚強化》、ゆくゆくは《超感覚》扱いへ。その為のやり取りと修行開始です。以下、いつもの
〇紗夜の悩み
前書きでも提示したのにプラスして「ギターを弾き続ける理由」について考えたことが無かったことに気が付いた。バンドリ知らない勢の為におさらいすると「紗夜と日菜はお互いが理由でギターを始めた」「同じ場所に立つまでギターを止めないという約束をした」の二点があります
なのですが、約束を達成した場合に自分はギターを止めてしまうのか、或いはその先も弾き続けるだけの理由はあるのか、ということに悩み始めます。これに関する答えは、その内ガルパでやるんでしょうってことで原作でも未解決です。故に保留
ここでは当作品なりの答えに分岐しちゃったくらいのイメージでお願いします
〇姉が止まって妹が進む
気を張りすぎて無意識の内に姉としての側面が過剰に表出していた、というのを日菜が察してこれじゃ不味いと奮起したという形。紗夜が姉過ぎることに疑問を持ち始めた双子だが、果たしてその思考が合っているかは……
姉であることを止めて欲しいという話ではなく、姉だから妹を守らなければならないという強迫観念が危険域に達したので一旦落ち着こうという話です。このまま突き進んでいた場合、何らかの事態の際に日菜を庇って紗夜が命を落とすルートもありましたという解釈
別に喧嘩した訳では無いので仲違いとかには発展しません。ガルパ内ストーリーで成長してきた分だけ、流石に氷河期へ逆戻りするほど子供じゃないということで
〇日菜の特訓
ゴースト系列のモンスターは実体化と透明化を繰り返しており、透明化の際には物理攻撃が無効になる仕様。そしてSAOにおいてプレイヤーは魔法攻撃を使えない。つまり、そういうことです
透明状態から実体化する時に出現するための電気信号が発せられるという体。日菜はこれを感じ取り、的確に対処していくことで感覚の鋭敏化を図っている。なお、制御不可にならない様にヒースクリフがしっかり監修しているオマケつき。強い
〇野武士面の人ことクライン
SAOIFだと第五層でクラインと出会うが、今回はそれを採用した形。キリトとの件もあって彼自身はめっちゃ気の良い兄ちゃんである。ただし美人に目が無く、NPC相手だろうが軟派な行動を取ってしまいがちで女性陣から白い目で見られることも。この頃は武器カテゴリー《カタナ》が発見されておらず、似た様な曲刀を装備している
彼がリーダーを務めるギルド《風林火山》はSAO開始前から付き合いのある面子で構成されており、結束力が高いと評判。事実、いずれかのタイミングで攻略組に名を連ねたというのに、ゲームクリアまで一人も欠けずに生存したことから最終的な実力は押して測るべし。明記されていないが、似たような境遇としてエギルのギルドもメンバーが生存しきった気がする。ただしこちらは(恐らく)SAOが始まってからの仲だと思われる
なお、紗夜とクラインは本物という意味でのお化けが苦手という共通点がある。それにまつわる話は次話で触れます
☆余談
氷川姉妹は超絶美少女です。紗夜がクールな美人型、日菜が(表面上は)キュートな可愛らしい型っぽいです。ただし日菜もキリッとしたら美人型疑惑アリ
どれくらい美少女かって言うと、紗夜はアニメ版スタッフが彼女の初登場時ともうワンシーンに『美少女PAN』とかいうSEが付け足された程(なんと公式回答)です。これが使われたのは作中で紗夜だけであり、基本美少女しか存在しない中の更に特別扱いとくれば相当なものだと思われる
で、日菜はそんな姉と双子だというのと、パスパレというアイドルグループ唯一の外部オーディション勢が故のビジュアル面完備という隙の無さである。ビジュアル強いのよこの二人
体型で言うなら紗夜がスレンダー美人で、日菜がトランジスタグラマーっぽい。というのも、身長は紗夜の方が高いが、胸は日菜の方が明らかに大きいからだったりする