夜を日に継ぐ   作:百三十二

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駆け足気味にも思いますが、取りあえず。


リアル都合もあって次回投稿は二週間後になります。まだ第五層の前半終了くらいですけど、一区切り擬きということで









一矢

 

 

 

 快諾を得てキズメルが加わり、5人となった一行。戦力の増強を経て、眼前に満ちるモンスターの大群を蹴散らす決意がついた。

 

 この面子の中で中心に立つのは、やはりというべきか紗夜だった。

 

 

「こうも密集してると矢は射にくいので、マッピングは私が担当します。ヒースクリフさんを先頭に、日菜とキズメルさんが両翼で、クラインさんは私と共に後方で残党狩りです。キズメルさん、この地下の最奥が何処か分かりますか?」

 

「ああ。細部はともかく、この地下で最も深い場所なら知っている。こうして敵がひしめき合っているのも、そこに近寄らせたくないからという奴らの思惑を感じるしな」

 

「では進路の誘導はお任せします」

 

「心得た」

 

 

 賛同の意を表すためにキズメルが頷く。それを見た紗夜は、方針は決定したと言いたそうに面々を見渡した。誰一人として反対することは無く、後は決行するのみである。

 

 

「敵の強さはそこまででは無いとのことですが、無駄に突出せず、撃破は必要最低限です。集団を維持し、誰も欠けることなく突破することを最優先事項とします。こちらが疲弊する前に抜けられるかが勝負の分かれ目、気を引き締めてください!」

 

「うん!」「うむ」「ああ」「おうよ!」

 

 

 各自で要項を把握し、気合を入れる。

 

 

「──いざ!」

 

 

 敵の大群を突破し諸悪の根源を絶たんと、各々の心の中で静かに鬨の声が上がる。

 

 

 5人の士気は、抜群に高かった。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 走る。

 

 

「フッ!」

 

 

 先頭を行くヒースクリフが、取るに足らない雑魚敵を剣で一撃で薙ぎ払っていく。余裕の表情で切り開いていく姿は、彼が圧倒的な強者であることを窺わせる。

 

 

「っ!」

 

 

 右翼を務める日菜が短剣や投擲ナイフを駆使し、寄ってくる敵を近い順に効率良く撃退していく。短剣による直接攻撃とは違って投擲で敵を倒しきることは出来ないが、ゾンビ系を筆頭に足の遅いモンスターたちを足止めするには十分であり、減った敵は後詰として紗夜とクラインが取りこぼさずに狩り取っていく。

 

 

「はぁっ!」

 

 

 左翼を任されたキズメルは愛剣を華麗かつ過激に振り、システムに定められた高いステータスに物言わせて一刀のもとに斬り伏せていく。この辺りに湧くモンスターではまるで相手にならず、彼女が戦士として格上であることを見せつけていった。

 

 

「おらぁっ!」

 

 

 後続に配置されたクラインは、この荒々しい突破劇の最中にあって必死に食らいつこうと手足を動かしていた。劣っていることは言い訳にならず、ついていくと公言したからには泣き言をこぼす訳にはいかない。漢としての矜持が彼を奮い立たせ、今の自分では立てない世界をひた走る者たちの背中を追い続けた。

 

 

(数が多いっ。だけど、ペースは良いはず!)

 

 

 それらを最後方から冷静に、それでいて的確な分析を繰り返しながら、時折日菜が倒しきらなかった敵の中でも邪魔になりそうな個体のみを矢で射抜いていく紗夜。無数の敵を薙ぎ倒していくパーティーはかなりの勢いと言う名の熱気に包まれていたが、それに当てられまいと自身に強く言い聞かせつつ、ミニマップに映る5つのアイコンと地形を随時更新していく。

 

 

「2ブロック先は行き止まりです!」

 

「ならそこは左だ! 直ぐ右に曲がり再度直進する!」

 

「今のペースなら約10秒後に左折、そのまま右折するので斜めに突っ切ります! ヒースクリフさん!」

 

「了解した! その様に誘導する!」

 

 

 ノンストップで駆け続ける為、集団の頭脳役を担う紗夜が思考を止めることは許されない。ギリギリ視界に収めた前方が行き止まりであることを察し、地下墓地の構造を把握しているキズメルに訊ねる。

 

 ほぼノータイムで返ってくる回答を瞬時に整理し、これまでのフロアの造りから予想通過時間を導き出し、集団を引っ張り続けるヒースクリフへ指示を飛ばす。忙しない中、態々大声で会話することで5人全員に共有されることを意識し、スムーズな進路変更を成していく。

 

 

 疾く走る。

 

 

 軍と呼ぶにはあまりにも少数で、団体と言っても1パーティーの上限にすら満たない個々の集まり。

 

 しかし、この時この瞬間。彼女たちは邪魔者を蹴散らし、足を止めることなく走り続けた。

 

 進軍を遮るがごとく湧き続けるモンスターを意に介さず、全てを貫き通す一本の槍となって進み続けていく。

 

 

「ここです!」

 

「角度を変えるぞ!」

 

 

 指定のブロックに辿り着いたことを紗夜が知らせ、ヒースクリフの号令と共に進行方向が少し傾く。左折する際には右翼の日菜が、右折する際には左翼のキズメルがやや遠回りな動きになるが、そこは紗夜が援護射撃をすることで隊列を乱さずに済んでいる。

 

 

「前方! 《強ザコ》らしきモンスター!」

 

 

 が、順調に思われる強行軍を嘲笑うかのように立ちはだかる存在もいる。

 

 それはプレイヤーの間では《強ザコ》と呼ばれる存在であり、雑魚敵に混じって確率で出現するちょっと強めのモンスターの通称である。基本性能は元の個体と変わらないが、時として倍以上もある体力と無視できない攻撃力が厄介だという共通認識であり、狩りの最中に突然現れると撃破までの攻撃確定数がズレることでリズムが狂ったり、それをきっかけに手痛い反撃を食らってしまったりと意地悪な存在である。

 

 本来、《強ザコ》の出現率はそう高くない。同じところで狩り続ける《マクロ》や《bot》対策の様な立ち位置である為、長時間の戦闘にならない限り遭遇することは珍しい方の類だと言える。

 

 ところが今、この地下墓地はモンスターの巣窟となってしまっている。100体に1体出ると仮定しても、一度に500体も湧けば期待値的には5体ほど湧いてしまう計算になる。つまり、このモンスターの大群を突っ切るにあたって《強ザコ》は避けて通ることの出来ないお邪魔虫なのだ。

 

 無論、ここにいる面子にとって《強ザコ》など後れを取る相手ではない。ただ単に、進行速度の妨げになる壁である。理想的なペースで進行している紗夜たちのリズムを崩すという意味では、これ以上ないくらい最悪な壁ではあるのだが。

 

 

「押し通ります! 眉間に突き刺すので怯んだところをヒースクリフさんが押し込んでください! 日菜とキズメルさんで足を奪い、クラインさんがトドメです!」

 

「オレかよ!?」

 

「硬直はカバーしますから!」

 

「うぉぉぉおおやってやらぁっ!!」

 

 

 それぞれの攻撃能力から、このスピードを維持したまま《強ザコ》を退ける算段をつける紗夜。今回現れたのはゾンビ系の《強ザコ》だった。その為、まずは紗夜が先制攻撃を仕掛けることで気を引きつけ、次にヒースクリフが強制スイッチによって押し込むことで反撃の機会を潰し、両翼の二人が片足ずつ奪うことで決定機を作り、無防備になったところをクラインがソードスキルで撃破する。スイッチの反動でヒースクリフだけ足が一瞬止まるが、全体で見ればカバーの効く範疇だと算段を立てた。

 

 

「行きますッ!」

 

 

 ちょっとした大役を任されたクラインが度胸試しだと己を奮い立たせる傍ら、頭一つ二つ抜けて大きいゾンビ系モンスターへと矢が放たれる。最早走り続けながら正確に狙いを定める姿に疑問を持つ者はおらず、熟練度を表す淡い光を携えた一矢は皆の期待通りに《強ザコ》の眉間へと吸い込まれていった。

 

 

『グォォォォォォォ──』

 

「退きたまえ!」

 

 

 重く低い呻き声が響く中、ヒースクリフが剣を突き出して衝突する。痛覚など存在しない様に見える大型ゾンビがのけ反った隙を見逃さず、その胴体を深々と抉り抜く。ソードスキルを通した彼は、大きく反れた《強ザコ》の胴体を器用にも踏み台にすることで前方へと跳躍し、着地まで見事に決めつつ行軍を再開していく。

 

 

「「邪魔(だ)ッ!」」

 

 

 その重戦士から放たれた一撃で既に十分では無いかという所を、二つの斬撃が追従していく。駆け抜け際に日菜とキズメルの一閃が両足を斬りつけ、切断による部位欠損判定にまで持って行く。

 

 

「くたばりやがれぇっ!!」

 

 

 そして4人が作り上げた道筋の果てに、侍に憧れる男が致命的な一太刀を浴びせる。クリティカル判定の乗った一撃は《強ザコ》の残存体力を削り切るのに申し分ない威力であり、当初の予定通りに進行速度を大して緩めることなく突破することに成功する。

 

 

「よっしゃ見たかぁ!」

 

「ドヤ顔してないで走りますよ!」

 

「やっべ!? そうだった!」

 

 

 成し遂げたことによる嬉しさからか足が止まりかけたクラインを紗夜が叱咤し、前を行く3人の後ろを置いて行かれまいと追いかける。

 

 

 倒せど倒せど湧いてくるモンスターと、これ見よがしに邪魔してくる《強ザコ》の悉くを退けていく5人。その都度、紗夜から飛んでくる指示とキズメルが示す進路を頼りにひた走り、終わりの見えない強行軍を続けること30分は経った頃。

 

 

「どうやら抜けた様だな。だが……」

 

 

 先頭を守り続けたヒースクリフの告げた一言が、この突破劇がゴールへと辿り着いたことを告げた。

 

 

 しかし5人はろくに休むこともせず、行き止まりになっている大部屋の唯一の出入り口付近から奥の方へと注意を向けた。

 

 

 何故なら、待っていたと言わんばかりの好戦的な笑みを浮かべている堕落したエルフが一人、迎え撃つ気満々で堂々と立っていたのだから──

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

「待っていたぞ、と言うのは少し違うな。ここへ辿り着く前にやられていて欲しかった、ってのが本音だ」

 

 

 跋扈する大量のモンスターを潜り抜け、数十分程の疾走劇の果てにようやく辿り着いた地下墓地エリアの最奥。背後とは、未だ蠢くゾンビ系モンスターの呻き声が聞こえてくる程度の距離でしかない。

 

 それでも目的の部屋に踏み入るのを躊躇ったのは、此方を警戒するフォールン・エルフの男性が隠れもせずに立ったいたからだ。その口ぶりからして、あのモンスターの大群は彼或いは彼らの仕業ということで間違い無さそうだった。

 

 

「堕落した者の手先よ、貴様ここで何を企んでいる?」

 

 

 敵が一人だけ、というのは考えにくい。私たち5人は陣形を崩すことなく警戒を続け、元々フォールンたちを追っていたキズメルさんが問い質す。

 

 

「言わずとも目的は分かってんだろ?」

 

「どんな手段を選んだのか、と聞いている」

 

「だろうな」

 

 

 知っていた、と言わんばかりに両手を上げて呆れた態度を取ってくる。

 

 

「良いぜ、教えてやるよ」

 

 

 だが想像とは裏腹に、相手は気前よく教えてくれるらしい。予想外のセリフに聞き間違いかどうか疑ったが、薄ら笑いを浮かべる彼の言葉は本気だった。

 

 

「この階層に保管されている《黒曜の秘鍵》だが、それはまじないによって厳重に固められていて、そこにいるダークエルフの奴でさえ触れることはおろか目にすることすら叶わない」

 

「そんなに?」

 

 

 日菜がキズメルさんに視線を向ける。

 

 

「ああ、本当だ。担当した者がまじないを解除しない限りは、例え我らリュースラの民であっても秘鍵を目にすることは無い」

 

 

 秘鍵の守りは万全であり、正面から手を出しても秘鍵の姿を黙視することすら不可能であるらしい。普通、そこまで盤石な守りを敷いているのであれば何をやられてもどっしりと構えていれば良いのだろうが、何か抜け穴でもあるのだろうか。そう思えるくらいには、相手の態度に余裕が見られる。

 

 

「ちょっと待てよ? んじゃあ、オメェら分かってて余裕ぶっこいてるってことかよ」

 

 

 同じことを思ったのか、クラインさんが声を上げる。

 

 

「そうさ。我々は秘鍵を奪取する術を思いつき、実行するつもりだ」

 

「そうだとして、地下にいては……」

 

 

 敵の思惑が読み取れず、困惑するキズメルさん。かくいう私とクラインさんも怪訝な表情を浮かべるだけで何も思い浮かばない。

 

 誰も触れない、見る事すら叶わないまじないの要塞。それを突破する方法など、ありはしないのではないか。そんな希望的観測を破ったのは、日菜とヒースクリフさんだった。

 

 

「ねぇキズメルさん。秘鍵の保管場所って、この地下から見てどの辺か分かる?」

 

「む……そう言われると、恐らく少しだけ戻った所なるはずだ」

 

「この地下っていうか、保管場所の地面って掘ったり出来ない?」

 

「まさか。遺跡の中でも更に僻地な上に、地上と地下の間には厚い岩盤が覆っている。あまりの頑強さ故に砕くことも不可能だ」

 

 

 あり得ないと語るキズメルさん。しかし日菜は何か確信がある様で問い返す。

 

 

「本当に? 爆弾とか使っても?」

 

「並みの規模では無理だ。それに可能なレベルでやろうものならば、ここら一帯が崩落して全員生き埋めに……正気か!?」

 

 

 冗談ではない。

 

 確かにその方法であれば、まじないが解けずともその守りを崩すことが出来るだろう。少なくとも要塞と化しているまじないの効力は無に帰すに違いない。

 

 だがそれを為すだけの爆発を地下から行うという事は即ち、キズメルさんの言う様に崩落は免れない。その場にいれば生き埋めになることは必至だろう。そもそも、爆発の規模によってはどれだけの範囲が被害にあってしまうのか。

 

 そしてここに居るという事は、目の前のフォールン・エルフも巻き込まれるということになる。だと言うのに堂々としているのは何故か。

 

 

「一応言っておこう。ここに来る途中、用途不明の樽をいくつか見かけた。アレに火薬が詰め込まれているとすれば爆弾になりうるだろう」

 

 

 決定的だった。日菜と同じく見当がついていたのか、ヒースクリフさんは道中で目ざとくも見つけていた物体について告げてくる。今の話を聞かされた後であれば、誰がどう考えても爆薬そのものだと思うだろう。

 

 

「だが無作為に置いてしまっては、あのモンスターの群れのせいで不本意なタイミングで勝手に爆発することもあるだろう。であれば、策を実行するに至る程の数を配置するのはこれからのはずだ。余裕があるとは言わないが、猶予はある。悲観する状況では無いということだ」

 

「では、今から手分けしてでも──」

 

 

 彼の言葉を信じるのであれば、手遅れではない。さっさと爆弾の除去と、配置を行う為にいるであろう他のフォールンたちを撃退すれば間に合う。そう考え、言葉を発しながら踵を返そうとしたが

 

 

「──そうさせない為に、ここで待ち構えてたんだよ!」

 

 

 ──パチンッ

 

 

 部屋の奥から、指を鳴らす音がフロア全域に響き渡る。

 

 

「爆弾の配置を遅らせてまで、何の為に雑魚を集めたと思ってんだよ」

 

 

 それが合図となって、相手を中心として得体の知れない何かが駆け巡っていく。

 

 

「ここでお喋りする為じゃねえ。貴様らを足止めする為でもねぇ」

 

 

 異様な空気を感じ取り、四方八方を見渡せる様に5人で背中合わせの態勢を取る。

 

 

「どうせここにやって来る。それは分かっていた。あのカイサラ様に深手を負わせた連中が簡単にくたばる訳がねぇ」

 

 

 そうして警戒を強めていると、周囲の地面から大量の黒い靄が噴出していく。それらは時間をかけず、ある形を模していく。

 

 

「時間稼ぎ? 無理だな。そんな腹積もりじゃ止めらんねぇ。確実に仕留める気でなきゃ駄目だ」

 

 

 私たちを囲う様にして出現する、饒舌に語るフォールン・エルフと瓜二つの姿たち。目算だが、その数は50を下らないだろう。

 

 

「真っ向から勝負するほど馬鹿じゃない。だが疲弊した状態ならどうだ? これだけの数を相手にするだけの余力が残っているのか?」

 

 

 5人vs測定不能。だが不幸中の幸いか、警戒していたおかげで私たちは部屋の中に入り込んではいない。360°の包囲を、前後にまで減らすことが出来る!

 

 

 

「部屋と部屋の繋ぎ目に陣取ります! ヒースクリフさんはクラインさん側へお願いします!」

 

 

 咄嗟の判断で、部屋の出入り口に陣取る様に叫ぶ。あの語り続けるフォールンがいる方向を正面として前を日菜とキズメルさんが、後ろをヒースクリフさんとクラインさんで対処してもらう形を取る。ちょうど部屋と部屋の境目になっているスペースを守る様に陣取り、その中心からは私が弓で適宜援護していくという案だ。

 

 果てなく増殖した相手が襲ってくるよりも前に陣形を整えることに成功し、最悪は脱した。しかし悪過ぎる事には変わりなく、全方向よりマシなだけで、挟撃という形で閉じ込められたも同然ではある。

 

 

「さあ、簡単には終わってくれるなよ? フフハハハハハハッ!!」

 

 

 挑発する様な高笑いをきっかけに、絶対的不利な状況での戦いの火蓋が切って落とされる。

 

 そして同時に、無限にも思える数の大群が私たちを押し潰さんと迫り始めた。

 

 

「ここが正念場です! 勝機が見えるまで耐えてください!」

 

 

 何とか絞り出した叫び声は、少し震えていた気がした。

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 蝋燭の火が照らす明るさに心もとなさを覚える地下世界。振るわれる刃物に光が反射し、また別の個体を映し出していく。大小様々だったモンスターの群れと違い、全てが一致する同一個体による大軍。

 

 前後を大勢のフォールン・エルフに囲まれた5人だったが、意外にも見た目のインパクトの割には切羽詰まった状況では無かった。

 

 

「全然強くないけど、鬱陶しいかな!」

 

 

 ソードスキルを使わずに仕留めていく日菜の愚痴は、残りの4人全員が肯定するところであった。

 

 と言うのも、黒い靄から生まれたフォールン・エルフたちは誇張なしに弱かった。動きは遅く、数の割には統率された連携も無く、挙句に果てには一度適当に斬られただけで消滅してしまう体力。どれをとっても先程まで相手取っていたモンスターより劣っていると言わざるを得なかった。

 

 5人の中では最もステータスの低いクラインでさえ難なく倒せる、文字通りの雑魚敵。

 

 しかしながら日菜の言う通り、とにかく鬱陶しい。全くもって苦にならない相手を、作業みたいにひたすら倒していくだけの時間。幾ら倒しても経験値は入らず、奥の方で再増殖しているのか通路を挟む二つの部屋を埋め尽くす姿が消える様子は一向にない。

 

 苦戦はしないが、無駄に長引く。相手が5人の集中力が途切れるのを待って焦らす戦法を取っているのは明白だった。

 

 だが打つ手も無い。厳密にいえば、この現象を生み出した術者を倒せば全て消えるのがお約束だろうから狙えばいい。

 

 問題はその術者の位置を特定出来ないことにある。術者と全く同じ存在が際限なく出現しているせいか日菜の直感に頼ることも厳しく、向こうもそれを分かっているからか高笑いの後は一言も発することなく潜伏に徹していた。

 

 

(でも閉じ込められたのは向こうも同じ。私たちが部屋の出入り口を塞いだことで、図らずも相手の逃げ道を奪った)

 

 

 前後から複数の剣戟の音が耳を震わし、自身を害する攻撃がすぐ傍で振るわれているという状況にあって紗夜は思考の海へと潜っていく。ここで彼女が無防備を晒そうとも、それを守る様にして陣取る4人が負けるという事は無いと信じ切っていたからである。

 

 敵の目的は長期戦による5人の集中力の枯渇。仮に集中力が保たれたとしても、体力を回復する等のリソースは有限だ。それが明確であるからこそ、紗夜の導き出さなければならない答えは短期決着しかあり得なかった。

 

 

(やることは至ってシンプル。本体を見つけ出して叩く、それしかないわ)

 

 

 術者の逃げ道を塞いだということは、向かって正面の部屋の何処かに居るということになる。紗夜の視線は日菜とキズメル越しに睨む様にして移っていく。

 

 

(これだけの数を用意しておきながら、押し潰す様な一斉突撃を行ってこない。幾らでも替えが利くというのであれば、長期戦を想定していたとしてもそうしない理由は無い……)

 

 

 籠城戦擬きが始まって5分足らず。撃退を任せっきりにしていることへの申し訳無さを覚えつつも、思考と観察を続けていた紗夜は一つの結論に達していた。

 

 

(しないのでは無く、出来ないのかもしれない。後方は見れていないけれど、日菜とキズメルさんの戦いぶりからして一度に襲い掛かってくる敵は3体が限界のはず。二人の内どちらかに対して二体がかりの時は、もう一方に対して必ず1体しか仕掛けてこない……)

 

 

 つまるところ、術者が一度に操れる個体の数には限度があるのではないか。どんなに多くても前後合わせて最大で5,6体程度だと見積もる。こうであるならば、一斉突撃をしてこないことにも説明がつく。

 

 そう考えた紗夜は、更に沈んでいく。

 

 

(50体や100体用意したところで、実際に動かせるのは精々10体未満。その上、同時に動かすのは苦手なのか単体辺りの動作は非常に緩慢。この群れにして相手にとっての実質的な壁は、表情などから直接それを悟らせない為の囮……)

 

 

 片膝をつき、弓を握る手に力がこもっていく。しかし強過ぎず、それでいて柔軟性を保った自然体ではあった。

 

 

(身を隠すなら人の中……この群れの何処かに必ず本体が紛れている。それを見つけ出し、動揺を誘った隙に突撃してもらうことで決めきる)

 

 

 ──凪いでいた水面に一滴の雫が音を立てて落ち、波紋を作る。

 

 

(私が見つける。僅かな情報から本体をあぶり出して、状況を打破してみせる)

 

 

 紗夜は目を閉じ、ふぅと息を吐いてから深呼吸をした。

 

 

 

(おねーちゃん……?)

 

 

 

 冷静であり続け、集中力を高め、覚悟を決める。再び目を開けていく彼女の雰囲気が変化したのを、実の妹が察していく。

 

 

 

(──────ッ)

 

 

 

 目が光を取り込み、世界に色がつく。地下墓地が漂わせるどんよりとした空気を寄せ付けない、確固たる意志が敵を捉える。

 

 

 目を見開いた紗夜は無言のまま、正面の部屋を埋め尽くす標的の姿を順に補足していった。

 

 1秒にも満たない刹那で結論を出していき、それを繰り返していくことで偽物と断定していく。

 

 本物であれば、複数の個体を操作する為に集中せざるを得ないので基本的に動けないはずである。同様に、それなりに動かす為にはある程度視認する必要もあるだろう。

 

 

 

(──みつけた)

 

 

 

 その条件を満たし、なおかつ動作していない偽物に紛れる「動き」のある個体。

 

 紗夜は、僅か数分で特定してしまう。

 

 

 ──それからの動作は一切の無駄を取り払っていた。

 

 

 どれを狙うべきか理解した彼女はごく自然な動作で立ち上がり、右手を矢筒へと伸ばしていき、取った矢を左手の弓に添える。

 

 

 足踏(あしぶ)み──足を開き、正しい姿勢を作る

 

 胴造(どうづく)り──弓は左膝に置き、右手は右の腰にとる

 

 弓構(ゆがま)え──右手を弓の弦にかけ、矢を掴む左手を整えつつ正面を向く

 

 打起(うちおこ)し──弓構えの位置から、静かに両拳を同じ高さに持ち上げる

 

 引分(ひきわ)け──打起こした弓を、左右均等に引分ける

 

 (かい)──引分けが完成し、心身が一つになり、発射の機会が熟すのを待つ

 

 (はな)れ──胸郭を広く開いて、矢を放つ

 

 残心(ざんしん)──射の総決算。矢が離れた時の姿勢をしばらく保つ

 

 

 道中で披露して見せた走りながら射るという曲芸染みた行いとは違い、彼女の体に染みついている射法八節に則った手順の内、矢を放つ前の六節をなぞった。

 

 洋弓で和弓の手順を行うという、普段の彼女からしてみれば暴挙だと言える一連の流れだったが、極限の集中状態にあって無意識の内に取った動作でもあった。

 

 高校三年間で弓道部に所属し、愚直にも繰り返してきた彼女にとってのルーティンワーク。何故そうしたのか、どうしてそうするべきだと思ったのかは分からないだろう。

 

 だが氷川紗夜という人間が培ってきた経験が、ここぞの局面で活きてくる。人事を尽くしてきた彼女のもとに、天命と言う名の結果がついてくる。

 

 努力が報われると信じ、妹に負け続けても結果に繋がっていることを実感してきた彼女だからこその一手だった。

 

 実るとは限らないが、決して無駄にもならない。その信条が巡り巡って、彼女の背中を後押しする自信へと繋がっていく。

 

 

 

 

(──ふっ)

 

 

 

 

 ()を見定め、矢が右手を離れていく。

 

 

 日菜とキズメルの間を抜け、敵の群れの合間を縫う様にして通り過ぎていく。

 

 

 必ず中る。そう信じた一矢が、敵の目線をなぞるようにして飛んでいく。

 

 

 

 

 

「すっご……」

 

 

 結果は見ずとも、双子の妹の呟きから察せられるだろう。

 

 

「人は追い詰められた時、身に沁みついた挙動を取ってしまうとは聞くけど……身を以て体感するとは思ってもみなかったわね」

 

 

 威風堂々。結果を齎した当の本人は、しみじみとそう言った。

 

 

 







祝、地下墓地エリア踏破!



〇指揮を執る紗夜

この5人の中でなら適任。その内、指揮能力の高いTOPなんたらみたいな感じでぷち比較出すと思います



〇モンスターハウスを突破せよ

雑魚なんだけどとにかく数が多い。常に囲まれているのでジリ貧にしかならず、勝手に消滅することも無いので突破力に物言わせるしかなかった。道中援護射撃と言う形で紗夜が走りながら弓を射ってますが、本人に自覚は無いです。そんなこと気にしてる余裕が無かったとも言いますが

ステータスを考慮すると4人はともかくクラインは頑張ったと思う。言うて5分の3が女性だったので、彼としては情けない姿を見せたくないという意地もあっただろうが、悪態の一つくらいしょうがないと思う

某サッカーを題材にした作品で「無敵の槍」って戦法があって、それをイメージしながら書いていた所あります。尤も、それと違って二人ほど内側にいましたが



〇邪魔な《強ザコ》

本当に邪魔なだけ。でも数を優先してるせいで単体辺りの強さは余裕の一言。でかい図体で道を塞ぐだけの面倒なやつ



〇部屋と部屋の間

砂時計の中心のくびれた部分みたいな感じ。砂が一度に落ち切らず、時間をかけて落ちていく原因の場所。勇み足を踏むまいと部屋の中に大して踏み込まなかったので、結果的に敵の動きを制限させられる場所に陣取れたという体

実際には敵が一度に操れる偽物の数が少なく、この戦法を取るメリットは紗夜が狙いを定める時間を確実に確保出来るとかそのくらい



〇フォールン・エルフの偽物の群れ

常に出現している数だけなら100どころか200超えてる仕様。でもそんな動かせる訳が無いので視覚的なプレッシャーとフェイクを兼ねているだけ。理屈としては、減った分だけ埋め合わせる様にオートで組んで置き、術者が目視している個体程精密に動かせるというもの。なので紗夜の予想通り、群れの合間を縫って目視出来るラインが存在しており、それこそが術者にとっての生命線かつ弱点でもあった

なお、正攻法は囲まれる前に一度撤退して体勢を立て直してからキズメルの部下にして黒エルフの斥候の案内の元、奇襲するというもの。ただし上記の仕様から紗夜でなくとも目視のラインを割り出すことさえ出来れば、6人以上の総突撃などで追い詰めるという強硬策もある

尤も、ハードモードじゃ無ければここまで囲まれることも無いとは思うが……



〇射法八節

全日本弓道連盟様の公式HPをガン見した。高校三年間で紗夜は弓道部に所属していたので、クソがつくほど真面目な彼女であれば出来ない訳がない。ただしSAO上の弓は基本的に洋弓なので、和弓の射法をなぞるというのはちぐはぐだという自覚はある



〇命中する矢

旧pso2の弓技にラストネメシスってのがありまして、それを参考にした所があります。真っ直ぐにめっちゃ早い単発攻撃が飛んでいくだけですが、地味に射法八節っぽいことしてるんですよね、この技

結果は言うまでも無く、ほっそい道筋を通して命中してます。それでどうなったかは次回ということで




次は二週間後に、この話の続きです。《幽霊》騒動も決着します。では


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