夜を日に継ぐ   作:百三十二

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SAOPよりはIFよりの展開ですけど、端折ったりアレンジしたりくらいはしてます。と言っても大体の流れは原作準拠みたいなものですが

あれ原作と違うなって思ってもスルーしていただけると幸いです





キズメルの懸念と《幽霊》の正体

 

 

「ぐっ……!」

 

 

 紗夜が放った矢が、偽物の群れに紛れていた術者本体に直撃して呻き声を上げさせる。

 

 すると集中力が途切れたのか、5人へと襲い掛かっていた複数の偽物の動きが全て止まった。これにより、術者が偽物を遠隔操作していたことが明確になり、絶好の反撃チャンスを生み出す。

 

 

「右太ももに矢が刺さってるのが本体です! 操作の限界数から察するに、こちらから詰め寄ってしまえば仕留めることは十分可能なはずです!」

 

「突撃する! 後詰は任せたぞ!」

 

 

 紗夜の思案にいち早く乗っかったキズメルが先陣を切って偽物の群れの中へと突っ込んでいく。しかし形だけは囲まれた状況になっても、それらが襲い掛かってくる気配はない。紗夜の読み通り、術者本体が直接操作しなければならないという弱点が露呈した瞬間だった。

 

 この機を逃す理由など何処にも無い。キズメルの後に続く形でワンテンポ遅れて日菜が、臨機応変な対応を取れたヒースクリフが突撃していく。遠隔操作以外で偽物が動く可能性も無くは無かったので、結果的に出遅れたクラインが紗夜の護衛に回る形になる。判断が遅れたのもあり、群れの中に消えていく3人の背中へと羨望の眼差しを送っていた。

 

 

「クソガァッ!」

 

 

 不利を悟った本体が盛大に悪態をつきつつも偽物を3、4体ほど操作して、向かってくる3人の中でも先頭のキズメルへと差し向ける。

 

 

「苦し紛れの攻撃など!」

 

 

 だが、その執念が実を結ぶことは無い。よりにもよって5人の中で最もステータスの高いキズメルが相手では、咄嗟の一手など児戯に等しい。足止めにもならず、差し向けた偽物全てが斬り払われていく。

 

 鬼神の如き活躍に、フォールン・エルフの術士は絶望していく。最早打てる手段は無く、どれだけ偽物を送り続けた所で壁としての役目すら果たせない。一か八か透明化で抜け出そうにも、部屋唯一の出入り口には紗夜とクラインが待ち受けている。

 

 万事休す。彼は己の失態を痛感し、死を確信した。

 

 

「ならばァ!」

 

 

 どうせ死ぬのなら、憎き敵共を道連れにしてやる。爆薬なら用意されているのだから、自身の自爆を以てして引火させてやる。自爆そのもので倒せなくとも誘爆させれば生き埋めには出来る。彼は非情の決断を自らに下した。

 

 

「何か不味いよっ!」

 

 

 自爆する為か、彼の持つ余力が一点に集まっていく。その際、フロアを埋め尽くしている偽物が全て消えていく。

 

 まじないを扱う為の力、言うなれば魔力だろうか。それが集まっていく様を感じ取ったのか、ただの野生の勘による危険信号なのか。術者最後の抵抗の兆しを敏感にも察した日菜が声を荒げた。

 

 それに呼応する様にして、キズメルがまじないの正体に気が付いて方針を変えた。単に絶命させるだけならば頭でも心臓でも貫けば良いが、自爆の為の魔力を溜めているとなるとその一点を刺激するのは不味い。この手の場合、爆弾の火薬庫代わりにされるのは心臓だと相場が決まっているものの、絶対は無い。

 

 一度術者の魔力操作を阻害するしかない。止めを刺すのはそれからでも間に合う。

 

 

「フンッ!」

 

 

 そう判断したキズメルは、愛用のサーベルを投擲した。投げられたそれは術者の右手を捉え、背後の壁に縫い付けることに成功する。

 

 痛みで表情が歪んだフォールン・エルフに向けて、間髪入れずに日菜が投擲したナイフが反対側の左手に2本突き刺さる。両腕を拡げる形で壁に磔となった術者は、自爆する為に捜査していた魔力の流れが乱れていくのを感じて舌を噛んだ。

 

 痛みを痛みで上書きすることで、再びまじないを構築しようと試みるものの

 

 

「残念だが……これで終わりだ!」

 

 

 その悪あがきが成立するよりも先に、距離を詰め切っていたキズメルが体術スキルを乗せた貫手で胸元を抉り、容赦なく術者の心臓を掴む。

 

 そして魔力が溜まり切るよりも先に握り潰し、まじないを完成させられなかった術者のそれが霧散させられる。

 

 

「ぁ……──」

 

 

 抵抗むなしく、致命の一撃によってポリゴン片となって消滅していくフォールン・エルフの術士。

 

 後に残った静寂が、地下墓地を巡る激戦を乗り越えたことを称えていた。

 

 

「これで状況終了、と思いたいが……」

 

 

 連戦のせいか、流石に疲労の色が隠せないヒースクリフの締めの一言を皮切りに、彼自身を含む各々の肩から力が抜けていった。

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 

「結局、こちらには居ませんでしたね」

 

「ネズちゃんの方で遭遇出来てたら良いんだけどねぇ」

 

 

 地下墓地エリアでの激闘を終え、キズメルさんが招集したらしい黒エルフの斥候たちの尽力によって全ての爆弾は無事撤去されていった。その作業が終わるまでの間、キズメルさんに案内される形で地下を隈なく探索してマッピングを完遂させたが、最後まで《幽霊》と出会うことは叶わなかった。

 

 

「お尋ね者には会えずじまいか」

 

「地下には居ないと分かっただけでも収穫ですよ」

 

 

 成果を上げられなかった事に対して強がって見せたが、それはそれとして気掛かりが晴れなかったことは普通に悔しかった。ちょっとした負けず嫌いな側面が顔を覗かせたが、別に競争してる訳では無いと思い返すことで平静を装った。

 

 隣で妹が「そういう場面じゃないと思うなぁ」とでも言いたげな様子だったが顔を逸らして見ないようにする。少しでもそう思ってしまったのは私の性分なので、如何ともしがたい部分だったりする。

 

 窮地を乗り越えたからか、それともこの世界に来てから知り合った人々との共同戦線だからか、緊張が抜けている様に思える。これでは気が緩んでいるのと相違無いので、戒めの為に頭を左右に振ることで入れ替える。

 

 

「しかし偶然とはいえ、そなたらにはまた助けられる形になってしまったな。返せる借りでは無くなってきた気がするよ」

 

「こちらも助けられていますし、お相子かと」

 

 

 そもそも、これまでもクエストの一環でしか無いと言ってしまえば偶然では無く必然であるし、私たちが来なければフォールンたちの襲撃も発生しない()()なのだから、言わぬが花というものだろう。

 

 思わずそう再確認してしまうくらいには、彼女との会話に不自然さや違和感が一切無い。最早慣れたものではあるのだが、「NPCをプレイヤーと同じ様に扱う」というのと「NPCはあくまでもNPCである」は両立させて考えた方が身のためだと思い込んでいる自分がいる。

 

 

 この世界がゲームであるということを忘れてしまった時。つまりは現実世界と仮想世界の境界が取り払われてしまうことを意味しているが、そうなってはいけないと私の中の常識や倫理観が警告している気がするのだ。

 

 

 ゲームをすることが駄目という、少し前の世代の親が子供に向けてよく叱っていた様な文言の話をしたい訳ではない。人の夢や理想が形作られた世界で溢れてしまった場合、果たして現実世界で生き続けようとする人々はどれ程になるのだろうか。現実を捨て、それぞれの理想郷へと閉じこもってしまう人々の方が多いのではないか。

 

 十分に発達した科学は魔法と遜色無いとは聞いたことがあるが、だからといってファンタジー的な発想をすれば一度の発動で済む魔法と違い、現時点での科学はそれを維持するまた別の科学や人員が必要になる。このSAOを維持する為の電力を生み出すのは人の知恵であるし、システムである以上は付きまとってくるであろうバグの対処に関しては、恐らくだが茅場晶彦が担っていることだろう。

 

 結局、全人類が全てを放棄して仮想世界という名の理想郷に赴くことは非現実的だという事である。それを一部分だけでも実現させてしまった結果が、今私たちが地に足つけているSAOなのだろうけど。それでも、一部分でしかないのも事実なのだ。

 

 ひょっとしたら彼は理想郷を求めて、その足掛かりを作り上げたという気分でいるのかもしれない。ある意味では理想郷への一歩であり、またある意味では破滅への一歩であるこの仮想世界は、これからの人々の生活にどう根ざしてしまうのだろうか。

 

 少なくとも技術と言う側面でみれば、偉業であることには違いないのだから。そうなっても不思議ではないと思わざるを得ない。

 

 

(いずれ私にも、現実と仮想を選ぶ時が来てしまうのだろうか。何らかの理由でこの世界から抜け出せないと決まった時、日菜と心中する覚悟はあるのだろうか)

 

 

 なってみなければ分からない。しかしながらいつかは、そんな瞬間に直面してしまうかもしれない。

 

 

(愚問ではある。でも同時に、覚悟も求められる。全てを捨て、()想を選ぶ覚悟が)

 

 

 

 

「サヨ?」

 

「え? あっ……失礼しました。少々考え事を」

 

 

 

 黙り込んでしまっていたので、心ここにあらずな態度をキズメルさんに悟られてしまう。

 

 

「私が言えることでは無いのだがな。あまり思い詰めるなよ?」

 

「癖みたいなものですから……」

 

「難儀な性格をしているのだな」

 

「こればっかりは、という奴です」

 

「なに。私とて身に覚えがある以上、他人事では無いのでな」

 

 

 フッ、と自分自身に呆れた溜め息を吐く私たち二人。一種のシンパシーを感じつつも一応の休憩が終わりを迎え、時間も惜しいので地上に戻る旨を伝えた。

 

 

「ならば此度はこの場でお別れだな」

 

 

 すると彼女は地下に残って部下たちと共にフォールンの残党がいないか隈なく捜索するつもりだと言う。それから、再び爆破せんと暴挙に出られても困るという事で、この階層に保管されている秘鍵も上層へと護送するという手筈になったとか。

 

 秘鍵が一か所に集められていくことは憂慮すべき事態ではあるが他に出来ることも無いと、物憂げな表情で吐露されたのは記憶に新しい。

 

 

 とはいえ、私たちとしてはこれにて第五層のエルフクエストが完遂されたということになる。そうなると残るはフロアボスに関する情報が手に入るかどうかなのだが。

 

 

「また上層で会おう、と言いたいところだが。その前にそなたらは守護獣を突破せねばならんのだったな」

 

「ええ。何か知ってることがあれば教えていただけませんか?」

 

「借りを返す、という訳では無いが。しかしだな……」

 

 

 第三層および第四層の場合、フロアボスに関する有力な情報というよりかはどういった点が強化されているかという、βテスト時に比べて強力になった部分を教えて貰えた。その際、彼女が言い淀むということは無かった気がする。

 

 両エルフたちの中でも精鋭中の精鋭。そんな彼女が気を揉んだという事実が、私の中でフロアボス攻略に対する不安を蓄積させていく。

 

 

「この階層の守護獣は《生ける石像》と伝えられている。先のフォールンの術士の様に仮初の命を与えて動かすのとは違い、正真正銘その石像は()()()()()と聞く」

 

「私たち同様、石像が生きていると……」

 

 

 石像に生命が宿っているとは中々に興味深い話ではあるが、本題はそこではないので今は置いておく。

 

 

「ゴーレムやゾンビなどの意思なき存在であれば、必要以上に恐れることは無い。だが意思ある存在の()()()()()というのは、真に警戒すべき脅威であると断言出来る。そのことは、そなたらも経験してきたことであろう」

 

 

 言ってしまえば、その辺の雑魚モンスターは単調な攻撃しか出来ないが、キズメルさんの様な重要NPCや、それこそフォールン・エルフたちの様な人型で意思があると定められた存在は、より高度な攻撃手段を取れるということである。

 

 それこそ、此方の行動一つで対応を変化させてくる、なんてこともあり得る話だ。

 

 そのことを理解している私たちは、特に疑問を持つことも無く神妙に頷くことで肯定した。

 

 

「そして言い伝えの中での《生ける石像》だが、その一撃は山を削り、海を割り、空にも届き得るそうだ。まず我々が受け止めて良いものでは無いということであろう」

 

「そんなに、ですか」

 

 

 誇張抜きだという表現に、思わず眉根が寄って険しい表情になる。

 

 

「だが、真に怖いのはそこでは無いと思うぞ」

 

 

 そう彼女が付け加えると

 

 

「待ちたまえ。まだあると言うのかね?」

 

 

 たまらずヒースクリフさんが待ったをかける。思いがけない静止の言葉に、ここまでの付き合いからは想像出来なかった私と日菜の間に衝撃が走った。

 

 

「あると言うよりは、個人的な予想に過ぎないがな」

 

「少々気前が良すぎるのではないかと驚いてしまってね。話の腰を折って申し訳無い」

 

 

 そう言ってヒースクリフさんは引き下がり、口を閉ざした。

 

 

「では続けるが……思うに、《生ける石像》には明確な意思が存在しているのでは無いだろうか」

 

 

 キズメルさんの言い分の違いが、直ぐには理解できなかった。

 

 しかし日菜は、それだけで十分だったらしい。

 

 

「それって、石像にもあたしたちみたいな思考回路が存在してるってこと?」

 

「予想だがな。この『()()()』の部分が伝承に残る凄まじさを表現するだけとは、どうにも思えん」

 

 

 それを真とした場合、恐ろしいでは済まない話だ。

 

 キズメルさんの予想であり、日菜が言語化した内容と言うのはだ。それだけの力を有した存在が、私たちと同じく『考えて』行動してくる可能性があるということだ。極論、学習すると言い換えても良い。

 

 これまでのフロアボスたちも学習してそうな側面は存在していたので、そこが特別という訳では無い。問題があるとすれば、これまでのボスは盾役の人たちがガードを固めるなりして()()を作ることが出来ていたという点である。

 

 最初の言い方からすれば、この階層のボス《生ける石像》の一撃を受け止めてはいけない。つまりはガードして前述した猶予を作ることが叶わないということになる。そうなると避けなければならないが、それを失敗した時点で……考えたくはない事態に陥ってしまうだろう。

 

 よって、これまでのフロアボス戦で採用されてきた「盾役の前衛が身体を張って隙を作り、そこを他の攻撃役が適宜ダメージを取っていく」という比較的安全な戦法が取れないことを意味している。

 

 更に言えば、もし《生ける石像》が持つ思考回路──搭載されているAIが、キズメルさん並みに高度なものであった場合は……何をしてくるのか想像もつかない。

 

 

「越えなければならない壁なのだろうが、そなたらと再会できることを願っている」

 

 

 私たちを心配している彼女の表情が、脳裏に酷く焼き付いた。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

「お、来たナ」

 

 

 キズメルと別れて地下墓地から帰還した紗夜たち4人は、連絡を取り合って忙しなくもアルゴとの合流を優先した。

 

 道中、何かを訝しむ日菜と考え事をしている様子のヒースクリフの二人が無言だったせいか、紗夜とクラインは居心地の悪さを感じていた。キズメルから言われたことをかみ砕いて説明されたことで理解したクラインも事態の重さを実感させられていたので、重苦しい空気を和らげようとする余裕は無かった。

 

 都合、30分程度だろうか。アルゴとの待ち合わせ場所に辿り着くまでの間は最低限の会話しか無かった一行だったが、此方の接触に気が付いた彼女の一言によって二名ほど安堵の深い息を吐いた。

 

 旧市街地だろうか。遺跡といっても人の往来があったことを窺わせる跡地であり、待ち人は過去の産物になってもなお水を流し続ける噴水の前に立っていた。

 

 

「どうだった、とは聞くまでも無さそうだナ」

 

「ねえ」

 

 

 うんうんと頷くアルゴ。しかし彼女の態度を咎めるように日菜から鋭い口調が飛んでいく。

 

 先程までの怪訝な様子に対する答え合わせか、何処か置いて行かれ気味な姉と野武士の肩が驚愕で跳ねた。

 

 

「何ダ?」

 

 

 だが当の本人は予想できていたのか、あっさりと受け入れていた。

 

 

「ネズちゃん、嘘ついてたでしょ」

 

「……ハァ~。やっぱりお前さんのことは騙せなかったカ」

 

 

 盛大な溜息と共に、日菜の言及を肯定するアルゴ。何のことか理解が追い付かない二人はいたずらに事態を引っ掻き回さない様にと静観を決め込み、ヒースクリフに至っては得心が行ったのか成程と言う表情を見せていた。

 

 

「《幽霊》の正体について話してた時、ネズちゃんが嘘をついていたことには気が付いていたんだ」

 

「何でその時に指摘してこなかったのサ」

 

「悪意や敵意は感じられ無かったからね。必要なことなのかなって思って黙ってた」

 

「優しさが身に染みるヨ……」

 

 

 要らぬ保険だったかと、アルゴは自身の気遣いが徒労に終わっていたことを察してしみじみとそう呟いた。

 

 

「これでも悟られない自信はあったんだけどナ。それで? お前さんが嘘だと思ったのはどの辺ダ?」

 

()()

 

 

 即答だった。

 

 驚きを通り越して真顔、無表情になっているアルゴを尻目に日菜は続ける。

 

 

「《幽霊》も、目撃証言の内容も、その人がβテスターだったとして何らかのクエストの報酬で透明化出来るとかも、全部嘘でしょ」

 

「参考までに、そう思い至った理由を聞いても良いカ?」

 

「さっきも言ったけど、ネズちゃんが嘘をついたって気が付いたのが最初。悪気は感じられなかったから、あたしたちにとって不利になる様な部分での嘘じゃない。じゃあ何でってなった時、考えられるのは『ネズちゃんが嘘をつく必要があった』ということだけど」

 

 

 日菜は鋭い視線をアルゴの後方、つまりは噴水の裏側へと向ける。

 

 

「そこで腑に落ちなかったのは、《幽霊》に関する噂が出回るのが早すぎだってこと。第五層が解放されてから一日足らずで遺跡エリアの中での出来事が広がるってのは、流石に誰かが喧伝しないと考えにくかったし。《幽霊》本人にとって不都合なことがあって、それを誤魔化すための噂話を情報屋であるネズちゃんに拡散してもらったんでしょ」

 

 

 そこで解せぬと、ようやく紗夜が口を挿む。

 

 

「でも日菜。あなたなら嘘をつかれたと分かってしまうのだから、仮にアルゴさんにとってそうする必要があったとしても、つかれた嘘に関しては早々に指摘出来たんじゃないの?」

 

 

 しかし日菜は首を横に振り、あることを告げる。

 

 

「んーん。あたし、βテストの時に第五層の攻略には関わるなって事務所から言われてたんだ。そのせいでこの階層に何があるかって、全く知らないんだよ。だから人が出たり消えたりするって話の時、おじさんの言う様に透明化する手段とか見当もつかないから、ネズちゃんが嘘をついていたとしても真偽の確かめようが無かったんだ」

 

「そう言われると……」

 

 

 妹の証言を受けて、姉が回想に耽る。

 

 そうして思い起こすのは、クラインを救出した後にアルゴから《幽霊》について聞かされた時の事だ。

 

 

「……確かに、アルゴさんは『アイテムがある』とは言ってたけど、それが具体的に何かとまでは言ってないわね」

 

「そーゆーこと。そりゃ存在しないんだから、言える訳無いんだけどね。咄嗟の言い訳だったんじゃない? おじさんに訊ねられて言い繕ったってことだと思うよ」

 

「あー! もう降参ダ降参!!」

 

 

 日菜の推理に耐えられなかったのか、アルゴが音を上げて叫ぶ。尋問される囚人の気分を味わった彼女は、激しい運動をした訳でも無いのに大量の冷や汗をかきながら両手を上げて投了の意思を見せた。

 

 

「ったく、本っっっ当にヒナには敵わないヨ。何だってそんなに頭がキレるんダ……」

 

「いやまぁ、あたしじゃなきゃ分からなかったと思うよ。βテストの時との差異なんて、元テスターじゃないと気づきようが無いし」

 

 

 アルゴの愚痴を、日菜がフォローする。

 

 

「えっと、アルゴさん? どういう訳なのか、教えていただけるんですよね?」

 

 

 一先ずは尋問紛いのやり取りが終わったと見たのか、紗夜が遠慮がちに答え合わせを求めた。

 

 

「どの道、全部言うつもりだったサ。その前に詰め寄られて生きた心地がしなかったけどナ」

 

「嘘つくネズちゃんが悪いんだよ?」

 

「はいはい悪ぅございましタ!」

 

 

 少しだけ拗ねた態度を取る日菜と、最早ヤケクソ気味に開き直るしかないアルゴ。

 

 そんな姿を見ていたクラインは、後方にてヒースクリフの補足のおかげで多少遅れながらに事態を把握していった。そして同時に、信じられないものでも目にしたのか思わずといった感じで呟く。

 

 

「は~……あの《鼠のアルゴ》が、嬢ちゃんの前じゃ形無しでやんの……」

 

「どうやら彼女にとって日菜君は天敵、という奴だそうだ」

 

「……後で嬢ちゃんに頼むのもアリか?」

 

「聞こえてるんだヨ野武士面ッ!! お前さんだけ常に割り増しにしても良いんだゾ!?

 

「うげぇっ!? そりゃ流石に勘弁してくれぇっ!!」

 

「──ゴホンッ!」

 

 

 俄かに騒がしくなった所を、紗夜がわざとらしい咳ばらいをすることで仕切りなおす。

 

 

「結論になりますが、《幽霊》さんは理由があって正体を露見させる訳にはいかず、その為のカモフラージュをアルゴさんにお願いしたということで合ってますか?」

 

「おう、その通りだヨ」

 

「ではその《幽霊》さんについても、紹介してくれるということですよね?」

 

「勿論サ。むしろ協力してくれないと困る事態でもあるんだけどナ。ヒナに噓だとバレるリスクを背負っててでも秘密裏にやるしかなかったことも、説明するヨ」

 

「そうなんですか? それ程までに重大な事が──」

 

 

 

 

 

 

 

 

「──そこから先は、オレが説明するよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

「わぁ……この人だったんだ……」

 

 

 紗夜が取りまとめ、今回の事態をアルゴが解説してくれる。そう彼女たちが考えた矢先、噴水の裏から第三者の声が上がった。

 

 姉は思わぬ人物の登場に開いた口が塞がらず、誰かがいるとは察していた妹でさえもそう来たかと言った具合に呆気に取られた。

 

 ヒースクリフとクラインの二人はその人物と面識が無く、これといったリアクションを取ることは無かった。しかしながら、双子の態度からしてそれ相応の存在であると察していった。

 

 

「すまない。最初から《幽霊》騒ぎになんてするつもりは無かったんだ。結果的には、そうせざるを得なくなったんだけどね」

 

 

 その人物は、絵に描いたような優男といった様相だった。青く染めたらしい髪とそれに見合ったカラーリングで装備を整えており、姿勢の良さも相まって気品を漂わせている。

 

 

 

 紗夜と日菜は、パーソナルカラーを青色にしているその人物を知っていた。

 

 

 

 訳あって自主的に戦線を離れ、隠居しているものだと思われていた人の姿を覚えていた。

 

 

 

 皆の為にと率先して立ち上がった勇敢な戦士の名前を忘れることなど、天地がひっくり返ってもありえない。

 

 

 

 

「「ディアベルさん!?」」

 

 

 

 

 息の合った双子の驚愕が、噴水を中心とした周辺に響き渡る。

 

 

 それを聞き届けた始まりのリーダーは、申し訳なさそうな表情で苦笑いした。

 

 

 

「合わせる顔があるとは思ってなかったけど……また会ったね、お二人さん」

 

 

 

 一度は戦線を離れた一人の勇者が、再びその姿を晒した。

 

 

 

 

 

 ──時は12月28日、既に午後18時を回った頃の出来事である。

 

 

 







〇第五層エルフクエスト完遂

SAOIFでの話の流れになりますが

地下に行く

本作には登場しない人物と遭遇し、キーアイテムを拾う

カイサラ及びフォールンの姉弟のやり取りを目撃する

キズメルが殿を務めてくれるので一度脱出する

地上に戻ってから別のクエストを進行する

その過程で再度突入した際にフォールン姉弟の姉を撃破。密書を入手

地上に戻ってキズメルと合流。密書を元に敵の作戦を看破

三度地下へと赴き、フォールン姉弟の弟を撃破。阻止することに成功

大雑把にはこんな流れですので、そっくりそのままやろうとするとかなり長くなるんですよね。よって大幅に圧縮し、一度の突入で済ませられるという展開にしました。フォールン姉弟も弟だけの登場になりますし、そもそもカイサラが第三層で深手を負ったので出てこれないという裏設定もあります。道中の雑魚無限湧きは、勿論ハードモード仕様という扱いです


〇仮想が現実に

大幅に増えたVRMMOもので、現実を捨てて仮想世界に入り浸るなんてことが描写される機会を見かけるようになりました。ですが実際にそんなことが常識的かつ倫理的に許される可能性があるとすれば、某作品みたいに現実世界がポストアポカリプス状態だとか、それこそSAOで言うならばユウキみたいに病気でとかくらいでしょうか

結局、仮想世界を維持するために現実世界に残らされる第三者が必要な訳ですから、全ての人間にとっての理想郷を作るというのは非現実的なんですよね。AIに管理させるとしても、そのAIが自我を持って反逆しないなんて誰が決めつけられるのかということでもあります。原作における茅場晶彦もそれを理解していたのか、万人にとっての理想郷を求めることは無く、『ザ・シード』を使ってその人それぞれに合った複数の理想郷へと発展させる方を選ばざるを得なかったと自分は解釈しました

最終目標が万人にとっての理想郷だったとしても、それを実現させることは出来ない。茅場晶彦にとってSAOとは最初の夢であり、未来に向けたテストを成立させるための箱庭だった。原作における彼はそこでキリトに人間の可能性を見出し、ザ・シードを託したという感じなんじゃないでしょうか

尤も、茅場晶彦にとって大事なのはSAOの方であって、ザ・シードの方が副産物という認識なのかもしれませんけど


〇第五層フロアボスに関する情報

実のところ「攻撃を一人で受け止めようとするな」くらいの情報しか得られないはずでした。しかし今回はキズメルの私的な予想が付け加えられた形になります。これにはヒースクリフもびっくり、思わず聞き返してしまってます


〇アルゴの嘘と《幽霊》

原作既読勢ならお分かりでしょうが、第五層にはアレがあります。その為、万が一を防ぐために(主に日菜のせい)パスパレの5人はβテスト時に攻略への参加が認められず、日菜はこの階層に関する情報を入り口部分しか持ち合わせていません。なのでアルゴに嘘をつかれたとしても真偽を確かめる術がなく、記憶力云々も頼りになりませんでした

ただ逆に言うと「日菜は知り様がない」という前提が発生するので、アルゴが嘘をついても何とかなるだろうと踏み切った理由に辿り着くことも出来ました。勿論、嘘をつかれたこととその前提の両方に関与している日菜にしか分からない話です

次話で触れますが、アルゴが嘘をついた理由は紗夜たちから情報が漏れることを防ぐためです。信用が無いという話では無く、《幽霊》の正体であるディアベルが姉妹と顔を合わせづらかったことへの配慮を兼ねています。事情を知らないはずのヒースクリフとクラインが居合わせなければ、最初から教えてたかもしれませんが



と、言う訳で第一層で戦線離脱したディアベルが合流します。彼の合流はSAOIFでのシナリオに含まれていますが、その結末については後々……

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