夜を日に継ぐ 作:百三十二
ガルパ公式のイベストで紗夜が目上の人にキレるシーンがあって、過去別のイベストでは日菜も目上の人にキレてて、やっぱり双子なんだなって再認識した今日この頃。
決戦前の説明回その1、みたいな話ですが置かせていただきますね……
「何故あなたがここに……?」
訳あって嘘をついていたアルゴ。その裏でディアベルと繋がっていたとは思ってもみなかった姉妹は面食らい、挨拶も他所に問い質していた。
「その疑問を解消するためにも、一つずつ話させて欲しい」
そう前置きしたディアベルは、紗夜と日菜がそれぞれ頷いたの確認してから語り始める。
「君たちと別れてからになるが、自責の念を負いつつも最前線のことはずっと気にかけていてね。何だかんだで良くしてくれてる部下に手助けして貰いながら、その動向は常に追っていたんだ」
「その部下の方と言うのは?」
「ALSとDKBから一人ずつ。名前は聞いたことあるかい? ALSの《リーテン》とDKBの《シヴァタ》って言うんだけど」
「ああ、リーテンって人は分かるよ。あの全身をガッチガチに固めてる人でしょ」
「シヴァタという人は、DKBにおける副官で、第二層における強化詐欺の被害にあわれた方だったと記憶していますが」
「流石だね。どっちも合ってるよ」
「戦線を共にする方たちですから、名前くらいは嫌でも把握してますので」
「その気が無くても覚えちゃうからねぇ」
「はは、相変わらずの様で何よりだよ」
あけすけな物言いをする姉妹に対し、特に変わりない様で安心したのかディアベルが小さく笑う。
「ちいっと待ってくれよ。オレたちにも紹介してくんない?」
「我々は存じ上げないのでね」
そのやり取りを見ていたクラインが声をかけ、ヒースクリフが同意する。
しまったと思ったのか、ハッとした表情を見せた姉妹が「あ」という間抜けな声を出した。
「ええと、赤いバンダナをしてる方がクラインさんで、騎士の格好をしてる方がヒースクリフさんです。ヒースクリフさんは私たち姉妹の護衛を買ってくれてる方でもあります」
「おう、クラインってんだ。よろしくな、優男のあんちゃん」
「ヒースクリフと言う。彼女たちとは親戚、という体で通させてもらっているよ」
「え、そうなの?」
クラインが横を見て驚いているが、それを無視して紗夜は続ける。
「そしてこちらがディアベルさん。第一層攻略時にリーダーだった方です」
「ディアベルだ。こちらこそよろしく頼むよ」
そう言って二人と握手を交わすディアベル。すると引っかかったのか、クラインが問いかける。
「リーダーだったってのは、どういうことだ?」
その説明をしたのは、情報屋としての信頼が高いアルゴだった。
「お前さんにゃ信じられないかもしれないケド、ALSとDKBは元々一つの団体だったんだヨ。それを取りまとめてたのがこのディアベルだったのサ」
「はぁ!? あの連中が同じ集団にいたってのかよ! 冗談じゃ……無いみてぇだな」
最前線に居なかったクラインが驚きの声を上げるが、紗夜たちが頷いたことで本当の事だと理解した。
信じ難いことではあるが、それはそれで穏やかじゃない事態があったことを彼は悟った。
「あることをオレがやらかしてしまってね。そこの二人にも迷惑をかけてしまった。その責任から逃げる様にして、一度は隠居染みた生活を送ろうとしたんだ」
「それについては、聞いても構わねぇか?」
「勿論さ。伝えなければフェアじゃないからね」
そうしてディアベルは、自身が集団を率いていたことや、その為とは言え強引にラストアタックボーナスを取りに行こうとして死にかけたところを姉妹に助けられたこと、そして助けられたにも拘らず糾弾する事態に陥ってしまったこと全てを話した。
その告解を聞き届けたクラインの表情は能面の様で、感情のままに叫ぶこと無く静かな怒りを湛えてる姿は彼がれっきとした大人であることを窺わせた。ヒースクリフは中立を貫くつもりなのか終始顔色一つ変えずに無言だったが、クラインの方は爆発させなければ気が済まなかったらしい。
「じゃ何か? あんたら揃いも揃って未成年の嬢ちゃんたちに恥知らずもいい所な姿を見せたってことかよ」
「ああ、そうなるな」
「謝罪は?」
「一応、したさ。皆がどうかは分からないんだけどな」
そのことに関しては、「本当か?」という視線を受けた紗夜が答える。
「はい。それにキバオウさんやリンドさんたちからも、既に謝罪はいただいています。この件に関して許すということは無くとも、私たちの間で決着はついています」
「そうかい」
ディアベルが懺悔した件を姉妹が引きずっている訳では無いと知ったクラインは安堵した。それと同時に、ふつふつと沸いていた怒りを考え無しにぶつけることを踏みとどまった。
「嬢ちゃんたちが良いってんなら、部外者のオレに言えることはねェ。だがよ。そこの鼠が協力してまでやりてぇことがあるってんだろうが、このままじゃお前さんのことを信用することは無理ってもんだ」
「しかし事態は急を要するんだ。どうしたら信用を得られるのかな?」
するとクラインは、真っ直ぐな眼差しをディアベルに向けた。そして有無を言わせない毅然とした態度で、一つの約束を取り付ける。
「二度と嬢ちゃんたちの期待を裏切るんじゃねぇぞ。もしそんなことになってみろ」
「……どうなる?」
「オレの気が済むまで殴らせろ。悪ぃが手加減なんかしねぇからな。オレンジになろうが知ったことじゃねぇ。テメェの落とし前はきっちりツケさせてやるからな! そのつもりでいろよッ!」
混じり気の無い純粋な思いやりの心はあまりにも眩しく、光源も無いのに目を瞑りそうになるディアベルだった。
しかしここで目を逸らしてしまっては意味が無い。クラインの言葉にも、ましてや迷惑をかけた姉妹に対して背くことになってしまう。
「……肝に銘じるよ。そうならない様に、オレは戻ってきたんだから」
故に、再び立ち上がった男は誠意をもって返事をした。嘘偽りのない本音で応え、義を体現する漢を見つめ返す。
「おう、忘れんじゃねーぞ」
「ああ!」
どちらからともなく差し出した手をがっちりと握り合い、誓いが為された。クラインはこれで満足したのか、ここから先のことは任せるぜと言って引き下がった。
彼が見せた漢気に、当事者である姉妹だけでなくアルゴやヒースクリフも感心していた。特にアルゴからすれば、普段はいまいち頼りない奴という認識があっただけに、その評価を『やる時はやる奴』という風に改めることになった。
「話を戻しますが」
閑話休題。紗夜が仕切り直しを告げる。
「その、ディアベルさんに協力者の方がいるという事は理解しました。ですが肝心なのは、今になって戻ってきた理由の方です」
「そうか。君たちはまだ知らないんだな。この第五層において最も大事で、最も危険なアイテムの存在を」
「勿体ぶらずにさっさと教えてよ」
言葉で急かす日菜に、音は出さずとも態度に出てる紗夜。ディアベルの迂遠な言い回しをスッパリ切り捨て、早く本題を教えろと圧力をかける。
それによって、人を煽動する癖がつい出てしまっていたことに気が付いたディアベルは一度深い息を吐き、今はそういう役周りでないことを反芻した。
「βテストの時、このフロアのラストアタックボーナスは《フラッグ・オブ・ヴァラー》という名のロングスピアだった。その効果は──装備者が地面に突き立ててる間は永続で、半径15メートル以内に存在するギルドメンバー全員の攻撃力と防御力、それから耐デバフ値を無条件で上げるというものだ」
「「「!?」」」
意を決して告げられた内容は、βテスト時の情報を知らない三人にとって驚かずにはいられないとびっきりとんでもない代物だった。唯一声を上げなかったヒースクリフも表情に出づらいだけで、少しは顔を引きつらせていた。
「待ってください! その装備の効果自体は強力ですし、攻略の際には多人数に恩恵があると手放しに喜べる代物です! しかし今それは……っ!」
紗夜の悲鳴じみた声に、この場に居る全員が賛同した。
「そうだ。今は牽制し合う形で均衡を保っているALSとDKBの二大ギルド。その勢力図が、一気に傾く」
ディアベルの言は、事の本質を的確に述べていた。
第一層攻略後──より厳密にいえば、ディアベルが離脱したことによって大きく二分化された攻略組。その二大巨頭である、キバオウ率いるALSとリンド率いるDKB。異なる理念を掲げる二つのギルドは、第二層以降競い合う様にして攻略を続けてきている。
ディアベルが居なくなった不安を払拭せんと気丈に振舞うキバオウやリンドたち。しかしその代価として、攻略組における主導権争いが勃発してしまう。
互いが互いのギルドに負けまいと奮起することは、競争意識という点で考えればプラスに捉えることも出来るので悪い話ではない。
だがもし、その均衡が破れてしまった場合。勝ち残った方は増長し、敗走した方は最前線における立場を追われてしまうだろう。そうなってしまえば両者の間に禍根が残ることは間違いなく、攻略という点においても戦力的に半減──競争意識すら消失することを踏まえればそれ以上の損失に繋がりかねない。
つまるところ、非常に強力な装備を入手するメリットに対して、現状におけるプレイヤーたちの勢力図を根本から変えてしまうデメリットの方が上回ってしまうだろうというのが現状である。
「そして協力者の二人を通して、この通称《ギルドフラッグ》に関する情報がALSとDKBそれぞれに伝わっていることを知った」
「それじゃ競争になっちゃうんじゃん!」
「怪しまれない程度に抑えようとはしてくれているみたいだが、いつまで保つか分からない。それこそ、相手を出し抜こうとして勇み足を踏んだ結果……致命的な壊滅を招く恐れもある」
「おお……そりゃのっぴきならねぇ事態だわ……」
緊急事態であることを正確に理解した日菜が慌て、身に覚えのあるクラインが身震いする。
更に付け加える様にして、アルゴが補足する。
「それにダ。βテストの時に攻略された第九層までのフロアボスの中で最も大変だったのが、この第五層なんだヨ。ターニングポイントにでも指定されてるのか、節目の階層のフロアボスは一際強力になるんじゃないかって予想されてル」
「あたし参加してないから知らないんだけど、前はどうだったの?」
「100人がかりでタコ殴りにして、それでも長時間かけて倒したんだヨ。攻略も何もない、ただの人海戦術サ」
「100人って、レイド人数の上限は50人弱でしたよね?」
紗夜の疑問を、アルゴが肯定する。
「そうサ。でもベータの時には出来た戦法があったんだヨ……死に戻りって戦法がナ」
その答えに、紗夜のみならず全員が硬直する。
死に戻り戦法──死ぬリスクが薄かったβテストの時は採用できた、究極の最終手段である。
だがSAO正式サービス開始後は、デスゲームとなってしまっている為に死ぬことは許されない。βテストの時に取れた最後の作戦を採用することは、絶対に不可能である。
「βテストの時でさえまともに攻略出来なかったボスを相手に、足並みを揃えず抜け駆けしようとなんかすれば……足の引っ張り合いで済めばマシな方だろうさ」
おどけて見せるディアベルに茶々を入れる人間は、一人もいなかった。
「更に悪いことに、二大ギルドを煽動する輩も現れている。恐らくはオレンジプレイヤーの一種なんだろうけど、この機を逃さんと暗躍してる奴もいる」
「「……」」
「二人には心当たりがあるみたいだね」
付け加えられた恐ろしい情報に、姉妹の脳裏には第一層で出会った例の男の姿が呼び起こされる。
攻略組を取っ掛かりとしてSAOを混沌の渦に落とそうとする人物など、彼をおいて他に居てたまるものかといった具合である。この件に最初からアルゴが噛んでいるのは、もしかしたらあの男の関与を疑っているからなのかもしれないと察した二人である。
「現状は把握しました……ですが、かといって何か策でも?」
「無いと言えば無い。だけど、あると言えばある」
「何ですか、それ」
自分たちの周囲で何が起こっているのか、それを理解しているからこそ恥を覚悟でこうして表に姿を見せている。そう思った紗夜が問いかけるも、返事はパッとしないものだった。
はぐらかされているという訳では無いのだろう。単に策とも呼べない手段ならある、ということか。八方塞がりとまではいかずとも、悲観的な状況であることには違いない。
「ALSとDKBのどちらか一方にラストアタックボーナスを取らせてはいけないし、抜け駆けという名の強硬策を取らせても駄目だ。しかしオレンジプレイヤーらしき、事態の悪化を煽動する輩も現れた。オレたちに出来ることは、
「「抜け駆けの抜け駆け?」」
あまり聞きなれない言い回しに、姉妹が揃って首を傾げる。
「オレたちがラストアタックボーナスを取って、第五層での争いに終止符を打つ」
決意とも取れるディアベルの宣言に、この場に居る面々の表情が険しくなる。
今し方ALSないしはDKBの抜け駆けが成立しないだろうと、その理由たるフロアボスの強さについて語ったばかりなのだ。それを無視する様な発言に、いまいち納得が行きづらいのである。
「有志を募って少数精鋭で短期決戦に持ち込む。残念ながら、これ以外に方法は無いと思う」
ディアベルの言う通り、現実問題として取れる手段は二大ギルド以上の強硬策しか無い。
内部から煽動している者の存在もあってキバオウやリンドらの説得は叶わず、長引けば長引くほどオレンジプレイヤーたちの脅威も増す上に抜け駆けの準備が整ってしまう。
であるならば、オレンジプレイヤーに構うことなく二大ギルドよりも先にフロアボスを攻略してしまえば良い。実に単純明快な話だが、難易度は高いというレベルでは無い。
「アルゴさんを通じて、ALSとDKBのどちらにも所属していないプレイヤーに声をかけている最中なんだ。予定では、2か3パーティー分の人数が集まるはずさ」
「どんなに見積もっても20人未満ですか……」
情報屋としての人脈を駆使することで融通の利くプレイヤーも居るには居るだろう。しかし紗夜が口にした通り、そうだとしても精々が20人に満たない数である。
βテスト時と比較しても半分以下どころか
少数精鋭と言えば聞こえは良いが、例えトッププレイヤーが束になったところで限界はある。そして限界を迎えるという事は、この世界では死を意味している。
二大ギルドの壊滅か均衡の崩壊、更にはオレンジプレイヤーたちによる秩序の混沌化。それを防ぐためには、争いとは無縁の位置にいる中立派が文字通り命を賭して戦わなければならない。姉妹を筆頭にしてプレイヤーたちの両肩に、彼女ら彼らが置かれた状況の悪さが重くのしかかってくる。
「リーテンとシヴァタの二人が、それぞれキバオウとリンドを抑えきれなくなった時がタイムリミットだ。それまでに可能な限り協力者を集めるつもりさ。もし協力してくれると言うのであれば、アルゴさんを通じて連絡して欲しい。この場で言えることは、これくらいかな」
☆
思いもよらない再会を果たし、自分たちの進退を問われたのがつい先刻のこと。
時間にして夜19時を回り20時を迎えようかという頃。自分一人では決められないと返事を保留したクラインさんと別れ、私たち姉妹の護衛だからと判断を一任していったヒースクリフさんも帰って行った。
ディアベルさんは勿論の事、彼の作戦に乗っかった責任だからとアルゴさんはフロアボス戦に戦力として参加するとのこと。それらを受けて私と日菜がどうするべきか、少し猶予が欲しいと断ってから宿に戻ってきた。
昨日、日菜とちょっとした仲直りをした、あの部屋にだ。
「なーんか、とんでもないことになっちゃってるねぇ」
部屋につくなりベッドへとダイブし、枕にうつ伏せのまま妹が言う。
「ディアベルさんの口振りをそのまま受け取るなら、キリトくんとアスナちゃんは誘うだろうね。それ以外で参加してくれそうなのは、エギルさんくらいじゃない?」
パッと聞いて3人。あの場で話し合った面子を6人を足しても9人にしかならない。
私は部屋の何処に腰掛けることも無く、立ったまま思案していく。
「彼の協力者だというリーテンさんとシヴァタさんが加わったとしても11人ね。エギルさんのギルドメンバーが出来る限り協力してくれたとしても精々16人よ」
「クラインさんが仲間を引き連れてきてくれたりは?」
日菜の希望的観測に、首を横に振って否定する。
「元々クラインさんだけが背伸びしてきたという話だったのよ? 今回は流れで付き合って貰ったけど、彼の仲間を巻き込むともなれば話が変わって来るわ。クラインさんは第五層に踏み込んでくるくらいには精力的だったけど、他の方が同じとは考えにくいのもあるし」
やる気やレベル的にも彼と同じだというのであれば、一緒に乗り込んでくるか、彼が引き連れてくるかしていただろう。そうで無いという事は、遠慮しない言い方をするならば戦力として数えられない、数合わせにもならない程度なのだろう。
そんな仲間を、あの義理堅いクラインさんが死地に送り込む様な真似をするとは思えない。例え参加したとしても、彼一人だけだろう。
その点、エギルさんのギルドは6人全員が第一層の時からフロントランナーである。戦力的にも、気概的にも申し分無い。
人を戦力と言う名の数で捉えるのはいただけないが、皮算用くらいしなければ判断も出来ないというのが辛い所だ。心の中で彼らに対する謝罪を添えておくことで、せめてもの誠意とする。
「どうせ参加するつもりなんだよね? 何であの場で参加するって言わなかったの?」
枕に顔を埋めたまま寝返りを打ち、仰向けの姿勢になった日菜が見上げてくる。
「あの場で即答なんかしてみなさい。ヒースクリフさんはともかく、クラインさんに同調圧力を強いる様なものよ」
「おじさんに至っては判断丸投げしてきたもんね。主体性に欠けるって訳じゃ無くて、心底どっちでも良いって感じだったし。ちょっと怖いくらいだよ」
「大人の余裕なのかしら。それとも他に理由があったり……」
考えが逸れていくのを自覚したので一息つこうと思い、ベッドの反対側に備え付けられている岩石で作られた簡易デスクの椅子に座る。はぁ、と溜め息を吐いて肩の力を抜き、改めて算段をつけていく。
「まぁ、クラインさんのことをってのは言い訳ね。単純に私が踏ん切り付かなかっただけよ」
「キズメルさんの話を聞いて怖くなっちゃった感じ?」
「それもあるけれど……」
本当に怖くなったのは、もっと別の部分。
「ギルドフラッグの存在にしても、オレンジプレイヤーの暗躍にしても、今回の件には誰かの悪意に踊らされている気がするのよ。例え窮地を切り抜けたとしても、それで解決するとは思えなくて……」
タイミング的にも、実にいやらしい。まるでそろそろこうなるだろうと予想して配置したのではないかと疑ってしまうくらい、本当に最悪の頃合いと嚙み合わせだ。
「だからってALSとDKBを見捨てることも出来ないよ? この先の第百層まで攻略しようって言っても、20人足らずで走り続けるってのは流石に非現実的過ぎるし」
「それくらい分かってるわよ。一番理想的なのは少数精鋭による強硬策が実って、ギルドフラッグを手土産としてディアベルさんの下にALSとDKBが一つになることだけれど」
「第一層攻略後にどちらかのギルドへ加入した人たちはディアベルさんの存在を知らないだろうし、相手ギルドへの対抗意識バリバリだから素直に頷いてくれるか分かんないじゃん。よしんば表面上は納得してくれたとしても、内部的に火種を抱える状態とかになりかねないよ?」
この子の言う通り、考慮しなければならない人間関係を無視することができない。かなり強い言い方になるが、炙り出して排除する必要のある存在も潜んでいる。
それらを乗り越え、最善の未来を掴むためにはどうすれば良いのか。神でも無い私たちでは精々サイコロを振ってなるようになるしかないのだろうか。
(いえ、そんなはずはない。迷いながらもいつだって答えを出してきたのだから、諦めるのは早計というもの)
今後の事を見据えるのであれば、ALSとDKBの均衡が崩れた時のリスクが青天井みたいなものであると仮定しなければならない。今回に限らず、どちらかに何かが起きて意図せず崩壊してしまうこともありえる。その時が今なのか未来なのかの違いではあるが、少なくとも取って代われるだけの第三勢力がいなければ立て直しも出来ないだろう。
その役割をエギルさんやクラインさんの今後に丸投げしてしまうというのも無くは無いが、良心の呵責というのもある。彼らにばかり負担をかけさせてしまうというのも、人として褒められる行動では無い。
(どの道、都合よく第三勢力が現れるまでは悪い意味で均衡を崩させてはいけない。それを阻止するためには時を待つか、いっそのことディアベルさんに統合してもらった方が確実ね)
その為には彼の生存と、彼を知らない人々を納得させるだけの利益が必要だ。
結局は旗印を失わずに強硬策を成功させ、手土産を渡させる。それが最も効率的で、将来性があって、丸く収まる。
あるのはただ一点。それを成すべく、フロアボスという強敵に挑まなければならないという自分たちにのしかかるハイリスクだ。
(犠牲者を出さずにフロアボスを攻略し、二大ギルドを一つに戻す。やるしかないのね……)
そんなことは最初から分かっていたことである。妹に言われるまでも無かった。
ただ時間が、考えて物事を整理するだけの猶予が欲しかった。
私は直感で生きていくなんてことは出来ない。論理的に筋の通った、頭の固い生き方をしてきた。楽観視という言葉が私の辞書に載っているかどうか怪しいくらいだ。
戦闘の際は無我夢中で、考える暇すら無いから即断即決が求められてしまうのでそうせざるを得ないだけ。こうして時間を与えられると、むしろ整理したつもりにでもならないと気が済まない。
(いっそのこと、身体を動かしていた方が何も考えなくて助かるのかしら。この世界に来てから、そういう機会が増えた様にも思う)
それはきっと、ギターを弾いていないから。仲間と音楽を奏でていないから、落ち着かない。
その埋め合わせをしているのが、プレイヤーとして活動することなのだろう。
余計なことは考えたくない。そういう気分に、なったと思う。
「……やれるだけのことはやる。それで良いかしら」
返事を期待して呟いた訳では無い。自分の行いが正しいのかどうか確かめる術が無いし、もしかしたら無意識の内に懺悔していたのかもしれない。
だけど耳聡い私の半身は、そんな小さな呟きすら逃してはくれなかった。そして自由奔放や天真爛漫という言葉が似合う彼女の姿からはかけ離れた、慈愛に満ちた表情でただ一言だけ
「良いと思うよ」
そう、宣った。
思わぬ返事に、いつの間にか俯いていた私の視線が妹のそれと重なる。
何となく負けた気分になって、でも添える表情は苦笑いで憎まれ口を叩いてみる。
「いつからシスターになったのかしら、私の妹は」
そんな情けない私の降参宣言に対して、日菜は
「おねーちゃんが生まれた5分後から、かな!」
ニカッと、今度こそ屈託のない笑顔でそう答えた。
参加の意思をアルゴさんに伝えてから数日後の12月30日の夜。彼女から作戦決行の日時が送られてきた。
『決戦は12月31日の正午、大晦日の昼12時。集合場所は、例の噴水広場ダ』
賞賛に値する勇敢か、それとも無謀と詰られる蛮勇か。
──未来を分ける一戦が、目前にまで迫ってきた。
〇再登場したディアベル
第一層で離脱した後、一度は自分についてきてくれた仲間たちの事を捨てきれずに陰ながら動向を追っていた。レベリングを欠かすことなく、装備も最前線仕様になっている。離脱直後からはシヴァタが、少ししてからリーテンがそれぞれのギルドの情報を持ってきてくれていたので、実は内部事情に関してはアルゴよりも情報通だった
姉妹と顔を合わせづらかったのもあってアルゴに頼んで正体晒すのを先延ばしにしていたが、第五層解禁たった一日でオレンジプレイヤーの暗躍が始まってしまい覚悟を決めた
なお、話がトントン進んでしまったために描写出来ていないが、《幽霊》ということにしたのは彼では無くて、彼と相談しているところを見られてしまったシヴァタが機転を利かせたからというもの。ある意味こそこそ出来て助かったらしい
〇リーテンとシヴァタ
リーテンは頭まですっぽり全身フルプレートメイル装備の女性プレイヤーでALSに、シヴァタはオーソドックスな片手直剣と盾持ちの男性プレイヤーでDKBに所属している。シヴァタの方は第一層のフロアボス戦にいたとかいないとかという程度には古参だが、リーテンの方は紆余曲折あって第三層くらいからの加入という事になっているらしい
SAOPやIFで追加されて早い段階から登場する二人だが、実はこの時点でデキているとか。シヴァタの方はともかくとしてリーテンが頭を隠すレベルでガチガチに固めている理由については、女性プレイヤーのタンクではと舐められた事があったり、意図せずバグを発見して希少鉱石の大量入手を成しえたりと色々あったという設定(多分公式)
今後特に触れるつもりはあまり無いので言えることも無いのだが、SAOPと言う名の公式において生死が確定してないちょっと怖いポジションの二人である。後述するが、正史においてALSの方は第二十五層で壊滅するとのことなので、その際リーテンがどういう扱いになるか不明。これに伴ってDKBが聖竜連合になるのもあって、リンドの暴走をシヴァタが見過ごしているのではということでつまり……何て言われてたりもする。公式待ち
〇ギルドフラッグこと《フラッグ・オブ・ヴァラー》
第五層における爆弾にして諸悪の根源。意地が悪いとかそういう次元じゃない報酬と言う名の悪質トラップ
性能自体はディアベルが言った通り、破格の性能という言葉で足りるか不明なレベルでぶっ壊れ。これを突き刺してるだけでほぼ永続的に効果を無制限に得られるというのだからイカれっぷりが半端ない。が、それが仇となって二大ギルドの対立煽りを加速させてしまうという見事なまでの地雷である
こいつを有効活用出来るというのであれば、今後の攻略における安全マージンがグッと楽になるのだが……なお、原作では登場していた気配が無いので後付けにしても封印されてたと思われる
〇フロアボス100人タコ殴り
死に戻りが出来たからこその脳筋戦法。デスゲームでやれる訳が無い
〇オレンジプレイヤーの暗躍
第一層で出会った例の男が仲間を集めて遂に姿を見せた。実はこの会話の裏でキリトとアスナが黒ポンチョの男たち数名に襲われている。多分、原作で黒ポンチョの男がキリトに目を付けていた理由のきっかけとかなんだろうと思う
今作においてはアルゴが最大限に警戒しているので、事情を察した上で最初からディアベルに協力していることに。姉妹が目をつけられていて監視されている可能性も考慮したので、ちょっと遠回しな形になったという体
〇紗夜の考える均衡の崩壊と第三勢力の登場
長々ぐだぐだやりましたが、これを原作に例えるならば第二十五層にてALSが壊滅し、それをきっかけに誰かさんが人員を集めて《血盟騎士団》を結成したという話のことである。ギルド結成とアスナが勧誘を受けたのは第二十五層攻略後とのことだが、IFだと第十一層の段階で血盟騎士団らしきパーティーが結成されているので、第二十五層での事件より前と後のどっちで正式に発足されたのかが微妙なところ
ただ『最大』を自称するALSやその後の《軍》が最前線から退いたのに対して『最強』を冠する血盟騎士団が台頭したというのは、攻略組からしたらどれだけありがたい話だったのだろうか。DKB及び聖竜連合が幅を利かせることを防げたという意味でも、とんでもない価値があったに違いないのだが。それを実行したのが誰かってのを考えると、実は虎視眈々と狙っていたのか、それとも本当に救済を兼ねていたのか悩ましい所
〇さよひなの生誕時間差
5分差(公式)です。なおシスター違い
ただこの時、紗夜は日菜の大人な瞬間を垣間見たことで妹の成長を実感していたりしてます
もう一話使ってレイドメンバーの顔合わせを行い、その次話がボス戦になると思います。後始末も込みで、第五層における残り話数は3話の予定となります