夜を日に継ぐ   作:百三十二

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少々お騒がせしました。体調の方は無事に戻りましたので更新を再開します

決戦前の割に何かダラダラした話になってますが、めちゃくちゃ不安になってることの裏返し程度に思ってください




決断と団結

 

 

 ──12月31日の正午。大晦日を迎え、あと半日もすれば年を越してしまうという時刻。

 

 

 招集がかかるまでの数日間。結局参加することに決めた私たちはその旨をヒースクリフさんに伝えて了承を得た後、出来るだけのことはするべきだという考えで詰めのレベリングを敢行した。

 その甲斐あってか、決戦を控えた私と日菜のレベルは言われている安全マージンを優に超えている。経験値効率が落ちたとしても追い込みをかけ続けた結果、二大ギルドの育成速度次第ではレベル差が10になっているはずだ。

 

 装備も強化し、やれることはやった。後はフロアボスに打ち勝ち、突破することのみ。

 

 

 そんな希望的観測を胸に、待ち合わせの噴水広場に一番乗りで辿り着いた私たちが目にしたのは、やはりというべきか過酷な現実だった。

 

 

 まず最初に来たのがアルゴさん。私たちが先に待っていたことに驚いていたが、すぐに調子を取り戻すと非常に友好的な態度でリラックスを心掛けている様だった。

 

 その次にディアベルさんと、見知らぬ顔が二名。恐らくはリーテンさんとシヴァタさんなのだろうと思い、こうしてちゃんと話すのは初めてなので挨拶を交わそうとする。

 

 

「あのっ、サヨさんとヒナさんですよね!? 同じ女性プレイヤーとして尊敬しています!」

 

 

 交流は恙なく済むかと思えば、メットを外したリーテンさんが興奮した様に詰め寄って来たので思い切り面食らってしまう。どうやら彼女は同性で最前線に立っている私たちに憧れているらしかったが、そうは言っても直接顔を合わせたことが無いだけで、フロアボス戦でご一緒したことはあったはずだ。

 

 そんなに慕われているとは思わなかったが、あの重厚なフルフェイスメットの下はこんな表情だったのだろうか。図らずもそんな邪推がちらついてしまう。

 

 

「そうですが……あの、少し落ち着いて下さい」

 

「そうそう。そんな風に来られちゃったら話も出来ないよ?」

 

「すみません! 面と向かって話せると思ったら居ても立っても居られなくてっ」

 

 

 根が真面目なのだろう。ぺこりと謝罪する所作に、彼女の性格が滲み出ている気がした。

 

 小動物とまではいかないかもしれないが、何処となく羽沢さんを連想させる様な雰囲気を感じる。とはいえリーテンさんはタンクを担うということで、中身はもっと前衛気質なのかもしれないが。

 

 

「しかし尊敬と言われましても、特別何かしたつもりはありませんよ?」

 

「そんなことないです!」

 

 

 思い当たる節も無かったので謙遜してみせたが、再びテンションの上がったリーテンさんは隣のシヴァタさんに宥められながらもその理由を述べていった。

 

 どうしても、女性というだけで舐められがちだということ。更にはタンク役が務まるのかと、デスゲーム開始後に所属していたらしいパーティーで見下されていたこと。それを見返そうとして奮起し、偶然も重なって最前線のギルドから勧誘が来たという事。

 彼女がフルフェイス装備なのは、声がくぐもる事で男女の判別をつきづらくし、いきなり舐めてかかられない様にとのことだった。

 

 

 またそれに伴う話として、第一層からフロアボス戦に参加していた私と日菜、そしてアスナさんの3人は女性プレイヤーたちの中で憧れの存在という扱いになっているとも聞いた。アルゴさんは少し別枠らしい。

 

 言われてみればになるが、二大ギルドや個人勢を振り返ってみると、最前線で皆勤賞な女性プレイヤーは私たち姉妹とアスナさんしか知らなかったし見かけた記憶も無い。リーテンさんが女性だという事も先日教わったばかりだし、その上で彼女を加えたとしても精々4人目だ。レイド人数が最大で48人だというのを踏まえれば、割合としては1割にすら満たないということになる。

 

 生産職の方々には女性プレイヤーを見かけるし、戦闘がメインでは無いアルゴさんの様な立ち位置の人もいる。しかしながら、最前線でフロアボス戦に参加するレベルでバリバリに活動しているとなれば、現状では確かに私たちとアスナさんくらいしか居ない。

 

 後はまぁ、最前線にいるだけという訳ではなく、フロントランナーの中のトップランカーに名を連ねているというのもあるらしい。女性と言ってもその枠組みの中での上澄みだけが君臨しているという話だが、そうでしか無かったとしても同じ女性としては思うところがあるらしかった。

 

 他の人の助けになっていたと知って喜ぶべきか、誇るべきか。思わぬ所で自分たちの活動がプラスに働いていたと知り、私は気恥ずかしさから片手で顔を覆いつつ空を見上げ、日菜は胸を張る仕草こそしたものの表情は苦笑いを浮かべていた。

 

 

 悪い気はしないものの、落ち着かない気分になったのはリーテンさんの方では無くて、私たちの方になってしまったらしい。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

「よう。来ると思ってたぜ、お二人さん」

 

「エギルさん。数日振りですね」

 

「おう」

 

 

 勢いが止まりそうになかったリーテンさんへの対応を、アイドルでファンとの交流を積んでいる日菜に丸投げしつつ、次いでやって来たエギルさんと挨拶を交わす。

 

 

「でだ。何だ? アレ」

 

「ああ……まぁ、ファンみたいなものだそうです」

 

「妹さんの表情、ありゃ引き攣ってるな」

 

「そう見えます?」

 

「見えるな」

 

 

 流石に気になったのか、暴走しているリーテンさんへと気が逸れるエギルさん。対処している日菜も無下にする訳にはいけないからこその苦悩が顔に出ていたのか、同情の眼差しを向けられていた。

 

 

「それはそれとして、だ。調子は聞くまでも無さそうだが……やれるのか?」

 

 

 社交辞令もそこそこに、腕を組みながらそう問いかけてくるエギルさん。その表情は険しく、今回の作戦に対する不安が見て取れた。

 

 

「やるしかないでしょう。リスクとリターンを天秤にかけた結果、二大ギルドのどちらか一方が壊滅して均衡が崩れたり、それこそ共倒れでもされようものならば攻略自体がまず間違いなく滞ります。第一層の攻略に1か月ほど要したみたいな状況に逆戻りで済めば良い方ですよ」

 

 

 片手で頭を抱える仕草をしながら私がそう言えば、同意を得られたのか渋面が深くなるエギルさんだった。

 

 

「そうだよなぁ……。誰かがやらなきゃ、そんな状況になっちまった」

 

 

 互いに重苦しい空気を形成するが、そこでふと気になったことが出来たので訊ねてみる。

 

 

「すみません……エギルさん、お一人ですか?」

 

 

 その質問に、彼は尚のこと苦渋の決断だったと示す様に深いため息を吐いた。

 

 

「本当ならウチからも動員させたかったんだけどな。どうにも監視が厳しくなっちまって、他の連中に囮を頼んだ上でオレ一人来るのが精いっぱいだった。今頃オレたちのギルドは第四層の取りこぼしを回収していることになっているはずだぜ」

 

 

 彼がリーダーを務めているギルド《ツーハンデッド・ビルダーズ》は6人という1PTの小規模ギルドながら、全員が恰幅の良いタンク役のナイスミドルたちで構成されており、第一層の時から攻略組の一角を担っているフロントランナーたちだ。

 

 とにかく耐えて、持ち堪える。その硬さがウリで、フロアボス戦においても縁の下の力持ち的な渋い活躍をしてくださっている方々だ。彼らが率先してタンク集団として壁役を受け持ってくれていることで、攻略における安定感は段違いだと言っても過言では無いだろう。

 

 ただしその立場が裏目ったのか、今回の件に際しては二大ギルドからかなり目をつけられてしまったらしい。考えてもみれば、二大ギルド以外でフロアボス戦へ積極的に参加しているギルドはエギルさんたちの所だけだ。ALSとDKB、そしてツーハンデッド・ビルダーズを除けば私たちやキリトさんの様な野良、つまりは無所属にあたる。

 

 そう考えると、二大ギルドがお互いに対する牽制を除くと最注目対象はエギルさんのギルドになってしまうのか。無所属のプレイヤーがギルドフラッグを手にしたところで活用する事は出来ず、攻略のことを第一に考慮するのならば何処かのギルドに売り払って手放すのが吉になるというのも逆風か。

 というのも私や日菜が取ろうが、二大ギルドからすれば圧力をかけて金で解決すれば良いという最終手段が残されている。そうならない可能性を残すエギルさんの所が厳しい目を向けられるのは、当然の帰結だと言える。

 

 

 だがそうなると、ボスの重い攻撃を受け止めるという選択肢はいよいよもって取れそうにない。あの頼れるタンクの方々に耐えて貰って攻撃の隙を作るという手段が失われたということだ。前途多難にも程があるだろう。

 

 

「オレ一人じゃ出来ることは限られてくる。それでも、何もしないよりはマシだろうさ。だからよ、微力ながら参戦出来て良かったと思うぜ」

 

「はい。お互い全力を尽くしましょう」

 

「ああ」

 

 

 それでも、戦わなければならない。厳しい戦いになることは避けられそうにないが、かと言って逃げるという選択肢も無い。

 

 エギルさんから突き出された大きな拳に私の華奢な拳を突き合せることで、お互いの健闘を祈った。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

「よっ」

 

「先日振りですね、クラインさん」

 

 

 リーテンさんに絡まれている日菜が流石に不憫に思えたのか、会話を終えたエギルさんが助け船を出して諭しに行った。自身がヒートアップしていたことにやっと気が付いたリーテンさんのテンションが下がり、大人からの軽い説教が始まったのと入れ替わりに寄ってきた日菜の表情は憎々しげだった。

 

 私ではどうしようもないのだから仕方ないでしょうという目線で返すと、理解はしていたのか精神的に疲労困憊な様子を隠そうともせずに大きく息を吐いていた。純粋な好意故に強い言葉で拒絶する訳にもいかなかったのもあり、今回ばかりは妹のことを労ってあげようと5㎝だけ低い位置にある頭を撫でた。

 

 くすぐったそうに少しだけ身を捩る日菜だったが、振り払う気力も無いのかすぐにされるがままに目を閉じた。

 

 

 そのままの状態で数分経った頃に耳に入って来たのが、クラインさんの声だったという訳だ。

 

 

「お邪魔だったか?」

 

「お気になさらず。大したことではありませんので」

 

「そうかい」

 

 

 間が悪いと感じたのかちょっと気まずそうにしてた彼だったが、私がそう答えると表情を崩して人の好い笑みを浮かべた。

 

 

「ま、オレも参加ってことになったわ」

 

「よろしいのですか?」

 

 

 気を取り直してと、彼が意思表示をしたので私が確認を兼ねた反応を取る。

 

 すると彼はカカッと笑い声をあげながら、ドサッとその場に座り込んで胡坐をかきだした。

 

 

「義を見てせざるは勇無きなりって言うだろ? 知っちまったもんはしゃあねーし、かと言って聞いといて知らんぷりも出来ねぇタチなもんでよぉ。漢を上げると思って、来ちまった。どう考えたって正しいと思った行いたぁ、逃げる訳にゃいかねーってな」

 

「おお、イヴちゃんみたいなこと言ってる」

 

 

 孔子の言葉だったか、確かに若宮さんが言いそうなことに日菜が反応する。

 

 その言葉に込められた想いは十二分に重く、今回の件に対する覚悟が否応なしに伝わってきたが。

 

 

「ダチを巻き込む訳にゃいかん。こないだ嬢ちゃんらに連れられて最前線の戦いを経験したオレでさえ戦力になるか分かんねぇんだ。経験も無いアイツらを連れてくることは、流石に出来なかったよ」

 

「仕方ないと思います。無理強いすることは出来ませんので」

 

「そう言ってもらえっと少しだけ気が楽になるぜ。ありがとな」

 

「事実ですので」

 

 

 攻略という行為への経験が不足している方々を無理やり参戦させて、それこそ無駄死ににでもなろうものなら目も当てられない。彼の仲間を連れてこないという決断を否定など出来ず、その上で自分だけでも足を運んだ彼の意思は賞賛されるべきだろう。

 

 ディアベルさんに食って掛かった時もそうだが、この人の生き方は本当に武士の様だ。堅苦しさを残しつつも情に厚く、不器用ながらも義を通す。ある意味では気持ちの良い生き方だ。

 

 それだけに、こちらも応えなければ人として廃るというものだろう。フロアボス戦に臨むとして、よりいっそう気が引き締まるというものだった。

 

 

「実際のところオレが何すりゃ良いかってのは、あそこでヒースクリフの旦那と喋ってるディアベルの兄ちゃんの指示を聞きゃ良いんだよな?」

 

「そうなると思いますよ。ギルドやチームを組んでる訳では無い面々の集いですから、最も指揮能力の高い方の指示に従う形になるかと」

 

 

 クラインさんの視線が、噴水の前で打ち合わせの会話をしている二人の男性の内のディアベルさんへと向けられる。第一層攻略の時の彼のことを知らないのだから、当然の疑惑ではある。

 

 だとしても、烏合の衆を取りまとめる手腕に関しては彼に一任する他ない。それぞれは好き勝手動いて収集がつかなくなるよりは、形だけでも統率が取れた方が何倍もマシだろうからだ。

 

 それに、今回集まる面々が予想の範疇であるのならば、彼が指揮することに異論を唱える者はいないという確信があった。彼を心酔しているであろうリーテンさんとシヴァタさんはともかく、私と日菜やヒースクリフさんに異論がない事は既に確認しているし、あの場に居合わせたエギルさんやこれから来るキリトさんとアスナさんはディアベルさんの能力を既に把握している。最初から協力を申し出ているアルゴさんも信用しているとなれば、関わりのなかったクラインさん以外の面子で誰にリーダーを任せるかなど自明の理というものだ。

 

 不信感を隠せないクラインさんだったが、そこは出来た大人なのだろう。私の太鼓判に納得したのか、意を決したのか首肯した。

 

 

「そんでも、約束破ったら殴るけどな」

 

「その時は、程々に……?」

 

「嬢ちゃんの頼みでもそれは聞けねぇな。これはけじめだからよぉ、あっちが守れば良い話だろ」

 

「それはそうですが」

 

 

 そんなことにはならないのが一番ではある。譲る気配の無いクラインさんに苦言を呈す訳にもいかず、ディアベルさんが約束を果たしてくれることを祈るばかりだ。

 

 尤も、そうなった時に殴れるものなら、という注釈はつくだろうが。本当に、そうならないのが最良なのだが果たして……。

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

「やっぱり居たか」

 

「こんにちは、サヨさん、ヒナさん」

 

 

 ある意味では本命だったキリトさんとアスナさんの二人が待ち合わせ場所にやって来たのは、集合時間ギリギリのことだった。

 

 一見すると変わりない様だったが、何処となく暗い気がしなくもない。強硬策だからか、向かうところ敵無しみたいな二人でも緊張するということだろうか。

 

 

「こうして顔を合わせて会話するのは、第三層以来になりますね」

 

「やっほー二人とも。元気してた?」

 

 

 第四層の時は慌ただしい攻略だったのもあって、まともに攻略会議すら開かれていなかった。それ故、別行動が基本の二人と時間を取って会話するというのは、期間にして大体二週間近く振りになっていた。

 

 こちらが壮健であると分かったのか、向こうも安堵の表情が見て取れる。お互い、今回の作戦における必要最高戦力と見ているということだろうか。

 

 

「はー……二人が居てくれて良かったよ」

 

「ま、お二人なら参加してくれると思ってたわ」

 

「その言葉、そのまま返してあげますよ」

 

「考えることは皆同じってことだね」

 

 

 自分で言うのは憚られるが、先程のリーテンさんの反応からしても攻略組における最大勢力は二大ギルドなれど、最高戦力となると無所属に位置しているこの4人という事になっている。ヒースクリフさんは表に立つことが無いので数えられていないが、実質的には彼を加えた5人が単騎戦力として突出しているのは事実に思える。

 

 集団としての強さは無いが、個としての強さならば誇れる。それが今、この場で顔を突き合わせている4人の現状だった。

 

 

「集まったとは、とてもじゃないが言えなさそうだな」

 

 

 この場に集まった面々を見渡したキリトさんが、そう呟く。彼の隣に立つアスナさんも同意見なのか、その表情はあまり芳しくない。

 

 

「仕方ありませんよ。何処にも属さない人員は、そう多くありませんし」

 

「そうそう。むしろ10人くらい集まっただけマシに思った方が良いよ」

 

「そうは言ってもなぁ……」

 

 

 どうにも煮え切らない様子のキリトさん。もしかしたら彼は、βテストの時に例の死に戻り戦法を目の当たりにしていた当事者なのだろうか。

 

 そうならば、この程度の戦力でしかないという見方にもなるだろう。彼の懸念が的外れであるなどと、言えるはずもなかった。

 

 

「最悪の場合は撤退すれば良いんですよ。βテストの時も出来たのでしょう?」

 

 

 仮にギルドフラッグを獲得出来なくなったとしても、死人を出すよりはマシだろう。撤退出来るのであればそれに越したことは無く、その旨を日菜に視線を向けることで確認する。

 

 

「あたしが参加した他のフロアボス戦の時は出来たけど、ここってどうだったの?」

 

「出来たよ。だけど、今回も出来るとは限らない」

 

 

 意図を汲んだ日菜が繋ぐが、それでもキリトさんの気は晴れない様子。

 

 どうやら彼は、このフロアボス戦にはこれ以上の悪意が満ちていて、そう簡単に見逃してくれるとは思っていない様だ。

 

 疑心暗鬼。しかしその考えをどうして否定出来ようか。

 

 警戒することは、何も間違いでは無いのだから。

 

 

「何て言うか、肝が据わり過ぎていやしないか?」

 

 

 ただしそれは内心の話であり、この期に及んで口にするのは流石に態度に出過ぎというものだろう。

 

 必要以上に後ろ向きな姿勢を見せて、周囲に伝搬させてしまうというのは避けなければならない。

 

 

「自分たちなりに人事は尽くしたのでしょう? 後は冷静さを失わないことですよ」

 

「あたしたち皆で頑張って駄面なら諦めもつくでしょ。やってみなきゃ分かんない所まで来たんだし、取りあえず当たらなきゃ何も始まらないんだし、此処に来るまでで散々悩んだし、後はもうなるようになるしかないって」

 

「ちょっと楽観的過ぎない?」

 

 

 場に適さない台詞を選んでいる自覚はある。ただ思考がマイナスに引きずられて雁字搦めになってしまい、本来の力量を発揮出来なくなるのが一番困る。そうならない為に事前の用意を済ませておくものであるし、過信にならない程度の自信に結び付けるのが大事だ。

 

 出来るだけのことを為してきたという自負があるのならば、自ずと不安よりも決意へと導かれるはずだ。

 

 

 よって私たちの思考は、アスナさんが言う所の楽観視ではない。言うなれば、これは()()()()()()()()()だ。

 

 

 別に退路を断った訳では無い。しかしこれ以上出来ることは無い。その上でやらなければならない。

 

 

 必要なのは、前に進むことを決心する勇気だと私たちは思う。

 

 

「って言っても、危険な事には変わりないんだけどねぇ」

 

「日菜? それを言ってしまったら全部台無しじゃないの」

 

「でも事実だよね?」

 

「危機感を煽り過ぎない様にって話をした傍から言うことじゃないでしょう?」

 

「えー? あたし別に緊張とかしてないし良くない?」

 

「………………………はぁ」

 

「あ、待っておねーちゃんお説教は勘弁して欲しィィィィイイイイ!?」

 

 

 気を遣わせない様にとはいえ、もう少しやり方を考えてくれないかしらと呆れて盛大な溜息を一つ。

 

 その上で不穏な気配を察した日菜が弁解してくるが、容赦なく頭部へアイアンクローを決めて物理的制裁を加えていく。

 

 

「痛い痛い痛い痛いっ!? ダメージ入ってこないし痛覚制限されてるはずなのに凄い痛いっ! 何でっ!?」

 

「人様に対して、少しは考える様になったと思ったのだけれど……私の思い違いだったみたいね」

 

「冗談だよ冗談! ジョーク! というかおねーちゃんもそのつもりだったんでしょ!?」

 

「それでも使う言葉は選ぶわよっ」

 

「何か理不尽!」

 

「何とでも言いなさい!」

 

「あああああああああッ!!」

 

 

 噴水広場に、アイドルがしてはいけない断末魔の悲鳴が響き渡った。

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

「お恥ずかしい所をお見せしました」

 

 

 余計なことを口走った妹を撃沈させ、突如として起こった漫才染みた姉妹のやり取りに呆気に取られていたキリトとアスナへの謝罪を述べる紗夜。その際に添えられたお辞儀は、実に綺麗なものだったという。

 

 姉妹の言い合いが自分たちの緊張を解そうとした結果だったことには気が付いていたキリトとアスナだったが、流石に年上のじゃれ合いに口を挿むことも出来ずにお互いの顔を見合わせるしかなかった。

 

 それから憤怒の表情を隠そうともしない姉と、撃沈されてその場で頭を抱えてうずくまる妹の姿があまりにも場違い過ぎて、一周回って馬鹿馬鹿しくなっていった。次第に耐え切れなくなったのか、どちらからともなく吹き出すとキリトはお腹を抱えて豪快に、アスナは片手を口に添えて上品に笑い始めた。

 

 年下二人の雰囲気を和らげるという姉妹の思惑は達成されたものの、ここまでする必要があったのかと恨めしそうに姉を見上げる日菜と、それを真っ向から見返す紗夜の方が険悪なムードになってしまった。と思いきや、こんなものかと二人して表情を崩し、苦笑いを浮かべる。

 

 

「そうだよな。分水嶺は目前まで迫ったんだ。どうなるかなんてのは、やってみてからで良いよな」

 

「そうよね。悲観的過ぎるのも良くないって、一度は考えたんだもの。くよくよしてる時間なんて無いわよね」

 

 

 二人が殊更悲観的だったのは、何もフロアボス戦への不安だけが理由ではない。こちらは姉妹とは違って、オレンジプレイヤーの襲撃を受けていたという事情があった。姉妹が第一層で経験した、悪意の塊との遭遇もあった。

 

 それらが重なって、心から余裕が失われていたのだ。それを払拭とまではいかずとも、目の前の戦いを優先するという考えにもって行くことは出来た。

 

 日菜が頭部を圧迫されただけの甲斐は、あったと言えよう。

 

 

「さ、時間だ。そろそろ良いかな」

 

 

 そうこうしている内に集合時間になったのか、それとも空気を読んだのか、ディアベルから声がかかる。4人は互いに視線を交わしたかと思えば、戯れの時間は終わったと他の面々の傍へ近寄っていく。

 

 

「よし、揃ったな」

 

 

 噴水の前に立って集まった有志一同を見やるディアベル。

 

 

「その様だな。機は熟した、と言うことだろう」

 

 

 彼と談話していた、毅然とした佇まいのヒースクリフ。

 

 

「一か八かの大勝負、ってやつだナ」

 

 

 前向きな笑みを絶やさないアルゴ。

 

 

「私たちで出来ることをやるしかないんです!」

 

「とにかく頑張るしか無い、ってことだよな」

 

 

 二大ギルドの垣根を越えて集った、リーテンとシヴァタ。

 

 

「オレたちがやらなきゃならねぇ。それだけは確かだ」

 

「エギルの旦那の言う通りだぜ。オレたちがやらなきゃ誰がやるんだってな」

 

 

 それぞれ小規模ながらにギルドを率いる一軍の将である、エギルとクライン。

 

 

「今は目の前の戦いに集中、だな」

 

「ええ。鬱憤晴らしも兼ねてやってやるわ!」

 

 

 今となってはツーカー扱いだが、個人としてもトップレベルの強さを誇るキリトと成長著しいアスナ。

 

 

「勝負、ですね」

 

「やけっぱちになるつもりは無いよ」

 

 

 そして、双子の姉妹。

 

 

 集まったのは、僅かに11人。パーティーを二つ埋めきれない程度の人数だ。

 

 しかし個々として、或いはコンビとしては申し分のない戦力である。この場に集まった誰一人として、他者の強さに疑問を持つことはしない。

 

 それを分かっているからこそ、この面子を率いるリーダーとしての役目を自然に任されていたディアベルは満足げに頷いた。

 

 

 余計な言葉はいらない。集まったことへの感謝も事を為し得なければ無意味と化す。

 

 

 ならば、皆を導く人間が言うべき言葉は一つしかないだろう。

 

 

 

「みんな……勝とうぜ!」

 

 

 

 その言葉を胸に、11人の気持ちが一つになった。

 

 

 

 

 ──第五層フロアボス攻略が、始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






改めて決戦参加メンバーと武器種一覧+想定ステータス振りのイメージですが

サヨ:弓(本来は片手直剣+盾。筋力値重視)
ヒナ:短剣(投擲スキル多用。敏捷値重視)
キリト:片手直剣(筋力値寄り)
アスナ:片手細剣(敏捷値寄り)
ヒースクリフ:片手直剣+盾(重戦士ビルド。サヨ以上に筋力値重視)
エギル:両手斧(重戦士ビルド。サヨ以上に筋力値重視)
クライン:片手曲刀+盾(盾は装備出来るから着けてるだけ。ビルドはサヨに近い筋力値重視)
アルゴ:クロー(両手につけるかぎ爪みたいなもので、恐らく体術強化用。敏捷重視)
ディアベル:片手直剣+盾(サヨとほぼ同等の筋力値重視)
リーテン:片手棍+盾(エギル並みの重戦士ビルド。フルフェイス+フルアーマー)
シヴァタ:片手直剣+盾(ディアベルとほぼ同じ。一般的な戦士ビルド)

以上、11名による攻略となります。以下はいつもの


〇リーテンの反応

原作でもアスナが攻略組における紅一点でアイドル的存在だったので、最序盤において最前線のフロントランナーかつ、その中にあって実力的な評判の高いトップランナーに女性が3人もいれば目立ちもする。その上で割合的には1割に満たない数なので、一般プレイヤー枠からすると雲の上のような存在に昇格している

SAOの色々な媒体を見ていると、多くのヒロインが枠を占めることが多いので攻略組における女性比率は下手すると2~3割に至ることもあるので実感が湧かないかもしれない。でも大分昔に原作一巻を読んだ時、アスナという存在がかなり特別であると察せられたので、じゃあ一般人から見たら同性でも羨望の対象だよねって

ちなみにSAOIFだけでもリーファ、ユウキ、リズベット、シリカ、シノンといったお馴染みのヒロインたちに加えてコハルやサーニャがいますし、媒体によっては更に増えるので余裕で10人超えるんですよね。レイド制限48人に対して10人以上ですから、逆に珍しくなくなってる感あります


〇年下に見栄を張る双子

実際は思ってるよりも余裕が無くて空元気に近い。それでもしょぼくれた姿を見せるよりはマシだと道化を演じる形に

中身はともかくとして、自分たちを除いた時の最高戦力候補に元気出してもらわなければ逆に困るという側面はある。なお、紗夜が日菜にアイアンクローをかますかと言われれば、よくある二次創作なら見かけるかもしれないが程度の認識。ここでは照れ隠しがてら思わず手が出た形になってますが、このゲームってこの程度の痛覚あったかな……?


〇勝とうぜ!

本当なら集まってくれてありがとう云々の演説をするべきなのだろうが、面子が面子だけにそういう有象無象に向けた激励の言葉などかえって滑稽なだけである。やることが決まっていて、やるしかないと決められているのだから言うべきことは短く簡潔に、それでいて意気込みが伝わるコレだけで済む

なお、第一層フロアボス戦に同行していないアルゴとクライン、ヒースクリフにリーテンの4人には意味が伝わらない模様。その場のノリは察せるのでまぁ、という具合だったりする。結局ノリが全てを解決するみたいな部分はあるので、如何にしてノるかの見極めが出来るかどうかという処世術に近い能力が求められていたりもする

何にしても、ディアベルのカリスマを考慮するとこの一言だけで全部伝わる疑惑はある




次回、第五層フロアボス戦。道中の迷宮区はカットされ、いきなりボス戦から始まります
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