夜を日に継ぐ 作:百三十二
お待たせしました。今話より第九層及びエルフクエストの決着編になります
今回は導入部分だけになります。話が進んでいくにつれて最終的には中の人ネタも使う予定ですので、予想してみるのも良いかもしれません
上記に伴って独自設定が生えますが、ご愛嬌ということで。では、始まります
※3/5付。今まで気が付いて無かったのでここに追加しておきますが、ヒースクリフ合流前の不在期間を今話の表記に合わせました。これに伴って2話前の閑話前書きに訂正を記載したことをお知らせします
──アインクラッド第九層
事前に教わった情報では《エルフ戦争キャンペーンクエスト》のクライマックスが描かれる舞台であり、同時にβテストにおいて攻略が完遂された最後のフロアでもある。
転移による光が消えていき、足を踏み入れる私たちを待ち受けていたのは──見渡す限り広がっている黄金色に輝く森と、遠目に見ても分かるくらい美しい湖だった。
そして現在位置から見れば湖の奥の方に、厳密には湖の中心なのだろうが、綺麗な景色をより幻想的なものにしている巨大なお城が佇んでいる。話によればアレが森エルフことカレス・オー陣営の居城だという。
かなり離れた距離からでもわかる荘厳さは、彼らが刻んできた歴史を象徴するかの如く圧倒的だ。事前情報も無くいきなり間近で視認しようものなら、思わず跪いてしまう気がするくらいの格式を感じる。現実世界で例えるならばドイツのノイシュバンシュタイン城や、フランスのヴェルサイユ宮殿といった世界的に有名なお城を見た時と同じ様な感動だと言えば良いだろうか。
祖国である日本にも『城』自体は存在しているし、お国柄に合った雅な趣もある。だが今この時に私の心を震わせているのはきっと、海外の派手で煌びやかな類のせいだろう。
海外旅行の経験は無いが、いずれこの目で拝見してみたいと思わせてくれるだけの期待が詰まっていた。まさかこんなところでそんな方向に思いを馳せることになるとは、全くもっておかしな話である。
ここから生きて帰った時の楽しみが一つ、増えた気がした。
「それにしても本当に綺麗ね。空気が澄んでいると思いたくなる程だし、別荘の避暑地にはもってこいだわ」
私と同じく、この光景に感動したのかアスナさんがそんなことを言う。
「別荘に避暑地って……まるでお金持ちみたいなこと言うんだな。アスナってお嬢様だったり?」
「まぁ……似たようなものよ」
その発言を別の意味で捉えたキリトさんが訊ねるも、あまり答えたくないのかアスナさんは返答をはぐらかした。
「こころちゃん家なら幾らでもありそうだよね」
「あまり他所の家のことを言うもんじゃ無いわよ」
「あるかないかで言えば?」
「……ありそうじゃないわね、確実にあると思うわ」
お金持ちから連想したのか、日菜が弦巻さんの家ならどうかと聞いてくる。不躾な話題にはなってしまうが、このご時世に『財閥』を名乗る家が別荘の一つや二つ持っていないとは思えない。そもそも弦巻さんと同じバンドに所属している松原さんから話を断片的に聞くだけでも、どう考えたところで並大抵のスケールではない。
「そっちのお二人さんは、知り合いにいたりする感じ?」
「ええ、まぁ。私からすれば同じ学校の一つ下の後輩で」
「あたしにとってはお友だちだよ。学校は違うけど部活動は同じだから一緒にやったりもしたもんね」
「案外身近にいるもんなんだな……」
この手の話題は気になるものなのか、こちらもキリトさんに訊ねられたので日菜共々素直に答えていく。私たちの回答に対して彼は、思いの外世間とは狭いのかもしれない等としみじみ呟いていた。
「ちょっと……それってもしかして弦巻財閥の所のお嬢様じゃないでしょうね?」
しかしアスナさんにとっては、そんな呑気な話題ではなかったらしい。
弦巻さんの名前を聞いた時、どうにも険しい表情をしていると思ったがそっちの筋で知り合いなのだろうか。どの道アスナさんのご実家が財閥に連なる裕福な家庭だと宣言している者だが、そこは一々せっついても仕方が無いので何も言わない。
「そうですよ。何か弦巻さんとありましたか?」
「ありましたか、じゃないわよ! 二人ともあそこの一人娘さんと交流があるって、それがどういうことか分かってるの!?」
どうやら彼女は弦巻さんのご実家である弦巻財閥の方を指して驚いている様だった。恐らくはその手の階級の方々の集まりで挨拶したことがあるとか、周囲から色々聞かされているとかあるのだろう。アスナさん側の人間からしたら弦巻さんとの繋がりは喉から手が出るほど欲しいとか、そんなところだろうか。
ただしそうは言われても、事実として私たちは弦巻さんと交流を持っている。ましてや財閥のことは関係なく、個人として付き合いがあるという程度だ。こういう話題をするならば弦巻さんに直接振り回されているであろう奥沢さん辺りが適任のはずだ。
尤も彼女或いは彼女たちは、この世界に巻き込まれてなどいないが。
「立場を踏まえればお気持ちは分かりますが、何も私たちがその財閥関係の恩恵を得ているという訳ではありませんよ」
「そういうんじゃ無いわよ!」
「じゃあどういうこと?」
「~~~~~っ」
何故アスナさんが弦巻さんのことを気にしているのか、それを教えて貰わない事には話が伝わってこない。なので日菜が説明を要求したが、何やら頭を抱えて葛藤したりキリトさんの方と視線を右往左往させたりと落ち着かない様子。
(ああ、そういう……)
(これは悪いことしたかもねぇ……)
挙動不審なアスナさんの姿に、思い違いをしていたと気が付いた私たちは途端に申し訳なく感じた。
多分だが、彼女が弦巻さんのご実家を気にしていたのは……そういう世界に住んでいる人間だとキリトさんに知られたくなかったのだろう。
そう深い付き合いでも無いが、これまでのキリトさんを見る限りではアスナさんの出自だなんだで態度を変えるとはとても思えないが、そこは淡い乙女な心というもの。私も日菜もそういう経験は無い側の人間だが、ここまであからさまであれば流石に察せる。
「あの、今ので大体理解しましたので説明は不要ですよ」
「何かごめんねアスナちゃん。キリトくんには内緒にしておくからさ」
「……………………………お願いします」
意中の彼からは見えない位置で顔を真っ赤にするアスナさん。私たちに全て悟られたことが恥ずかしいのか、顔から蒸気を発するレベルで赤面しながら消沈してしまう。
そんな彼女の心中を慮れない人物が、この場に一人。
「えっ、俺だけ除け者なの!?」
「うっさいキリト君!」
「理不尽では……?」
どうやら年下らしきキリトさんにとっては、まだまだ色気よりも食い気なのか、それとも単に鈍感なだけなのか、話の内容を察することが出来なかったみたいだ。そのせいでアスナさんに怒られてしまっている彼の姿は、何処にでも居る様なただの少年に映った。
女三人の会話に置いていかれて嘆く彼と、そんな彼に恋する彼女。この二人が結ばれるのは、果たしていつになるのやら。
(陰ながら応援させていただきます……)
余計なことを想起させてしまった謝罪を込めて、なおもまくし立てているアスナさんに向けて私は心中でそう告げた。
☆
「あ、おじさん来た」
「すまない、待たせてしまった様だね」
「急いでる訳ではありませんから、気にしないでください」
攻略の為に飛び出したくて仕方なさそうだったキリトと、照れ隠ししながらそれを追いかけていったアスナの二人を見送った紗夜と日菜。この層の攻略の際にはヒースクリフが必ず合流すると言っていたので、彼が到着するまでは第九層に入ってすぐの位置で待機していた。
護衛を買ってくれている彼だったが、かといって姉妹が何をするかに対して口出しすることは無い。第六層から第八層までの間に至っては、用事があるからと彼の方から別行動を取っていたくらいだ。
そんな彼が、第九層だけは是が非でも同行すると言い出してきた。姉妹にとっては気になる所ではあるものの、アルゴと交流があるらしいヒースクリフのことだから事前に何か聞かされている可能性は大いにあった。少々解せない部分は残っているが、姉妹だけに任せたら不安な要素が何処かに存在するということか。
何せ今しがた先行していったのも二人組である。優劣を競っている訳では無いが、強さという点に関して問題になるレベルで差があるとは言えないだろう。となればあるのは、βテスト時代の知識の差だろうか。
一つ考慮するべき事態があるとすれば、ここまでの階層におけるフロアボス攻略に間に合わせる速度でエルフクエストを進めているのはさっきのコンビと、他でもない姉妹だけである。本サービスになってからの変更点を含めた情報が出揃うよりも早くクリアしていると言えるのが、たった二組だけしかいないのだ。
極論、クエスト報酬の対価として最も危険な事を突き進んでいるとも言える。そこに来てβテスト時の知識の有無の差というのは無視できない物であり、キリトと違って姉妹では詰むかもしれない。そういう風に捉えられているのだろうかと、姉妹はヒースクリフや時折現れるアルゴに対してそう思っていた。
心配されているにしても過保護すぎやしないだろうか。とはいえ、タイムアタックをしているつもりもなければ、それで拗ねる様な精神的に子供でも無い。そもそも本当に危ない時だけ口出しして、それ以外は静観というスタイルの時点で大分気を遣われていると理解しているのだから、姉妹があれこれ文句を言うことも無いのだが。
「嫌味とかじゃなくてさ。おじさん、今まで何してたの?」
「情報収集と、個人的に整理したいことを片付けていた。しばらくは大丈夫だろう」
「それが何かは聞いちゃ駄目な感じ?」
疑念か、それとも好奇心か。深入りを見せる日菜と、上手い具合にはぐらかそうとするヒースクリフとの視線が交錯する。腹の探り合いを仕掛け、そのことを隠す気のない真正面からの対峙。踏み切った日菜も、それを受け止めるヒースクリフにも、動揺の類は毛ほども見当たらない。
表情は笑っていても、目が笑っていない。目は口程に物を言うとはあるが、それを体現したかの様なやり取りが行われ、出立前だと言うのに空気が重い。
「……ちぇっ、全然分かんないや。おじさん隠すの上手過ぎない?」
「年の功、ということにしてくれたまえ」
「やっぱり無理かぁ」
無言で火花を散らす両名だったが、先に折れたのは日菜の方だった。このまま攻め続けても勝機はなく、時間の無駄だと悟ったのか口を尖らせて文句をこぼしつつも態度を軟化させる。その態度の変わり様があまりにもあっけらんかんとしている為、人によっては落差や緩急で風邪を引いてしまうことだろう。
しかし相手も相手、この程度でボロを出す様な大人ではない。流石に人生経験の差か、如何に天才と呼ばれる者でも、一筋縄とはいかなかった。
「気が済んだなら行くわよ。ヒースクリフさんも構いませんよね?」
一連の流れを傍観していた紗夜が声をかけることでお開きとなり、喧嘩未満の攻防は打ち切られることとなる。
というより、日菜の失礼にもあたる行為を紗夜が止めないという時点で、彼女にしてみてもヒースクリフという存在を疑ってかかっているのは明白である。最早隠そうともしない態度に、疑いをかけられている当の本人は内心でほくそ笑んでいた。
(そうだ、それで良い。私に対して警戒心を解くことはせず、ありとあらゆる可能性を模索するのだ)
簡単に絆され切ってはつまらない。一線を越えることなく、常に一定の距離を保つ。
そしていつかは、ある真実に辿り着くことを期待して彼は待つ。
どちらに転んでも構わず、その上で希望する。
この姉妹であれば、いずれ届くであろうと。
「それで? このフロアのエルフクエストってどうすれば良い訳?」
そんな彼の内心を知ってか知らずか、日菜が話題を振る。
内容は、第九層にて決着するはずの《エルフ戦争キャンペーンクエスト》についてだ。
「あそこに森エルフの城は見えるけど……行かなきゃ始まらないとかじゃ無いわよね?」
「それなら湖を渡らないとじゃん。でもいきなりそうなる?」
「なら、先にキズメルさんに会いに行くとか……かしら。当然ながら、黒エルフの居城もあるはずでしょう?」
「入って見えるエリアが森エルフ側なんだから、流石に何か起きるんじゃない?」
「第三層の時の様に、少し進むことで自動的に始まるパターンの事ね」
「それを確かめる為にも、まずは歩を進めてみたらどうかね」
「それもそうですね……」
第九層に至るまでの約三か月程度。ゲームとしての事情やお約束に疎かった姉妹でも、多少なりとも慣れてきたことでそれなりに察する能力は培われてきている。今回で言えば、態々先に出現したということに意味があるのでは無いかという発想に至っていた。
少なくとも今までのSAOにおいて、これみよがしに起きている事象について意味が無かったことは無い。創造主の茅場晶彦はSAOがゲームであるということに拘りを持っていそうなのは、経験してきた事実が証明している。
意地悪はあるが、最初から詰みもない。そしてゲームとしての法則を進んで破る事もしない。それを元に考察すると、このエリアを散策してみることから手を付けるのが無難に思われた。
「あの城に向かって歩いてみようかしら。湖畔につけば、少しは地形の把握も出来るでしょうし」
「そうしよっか」
「うむ、従おう」
「ではその様に」
ヒースクリフに促され、納得する紗夜。手あたり次第練り歩くよりも、とりあえずは目印に向かうことで指針とする。
そうして3人は、見るからに目立っている城が建っている方へと、白樺に囲まれた黄金色の森を進み始めた。
「森ってよりは、何だか自然公園の中を探索してる気分だね。雨でも降ってたら滑って転んじゃいそうじゃない?」
目的地を定め、下層からの転移門の近くを離れてすぐに日菜がそういう感想を述べる。
街に向かって歩いてる気配は無いが、かといって山間部の獣道という荒れ具合でも無い。舗装された道では無いが彼女たちの気分的には、地面が落ち葉で覆われがちなイチョウ並木通りを連想させる光景だった。
「道と呼べる程では無いにしても、そうであると認識できる様な感じね。キリトさんたちも先に進んだのでしょうし、進行方向としては間違いでも無いと思いたいわ」
少なくとも迷子になってる訳では無さそうだと、紗夜は胸をなでおろした。
「それにしても白樺の木が生育しているということは、この辺りは雪でも降るのかしら」
「寒冷地に生える落葉樹なんだっけ? じゃあ今は季節的には秋ってことになるのかな」
「現実世界の暦の上では既に冬を通り越して春を迎える頃合いのはずよ。そう考えると、この時期に秋を感じるというのも奇妙な気分だわ」
そう感慨に耽る紗夜の言葉に殊更反応を見せたのは、後方から周囲を眺めていたヒースクリフだった。
「そう言われると、私としても些か不思議な気分を覚えるというものだな。あまり気にしていなかったが、体内時計とでも言うべきか、現実では冬から春へと移行しているはずだというのに、直接体感している季節は秋という齟齬に対して違和感があると述べるべきだったか」
「そこまで深刻でありませんが……」
自身の感想から、どうにも話が飛躍していると思った紗夜が引き気味に返事をする。当のヒースクリフは一人で勝手に納得し、勝手に話を完結させていた。
「……水の流れる音がしない?」
この人も大概あちら側の人間だなと紗夜が実感していると、湖に辿り着く前に耳聡く日菜が一つの環境音を聞き取った。
それっぽい道を少しだけ逸れて音源を目指してみること数分。黄金色の森に降り注ぐ光が反射してか、眩いばかりの透き通り具合を見せる川を発見する。
「お城の方へと流れていますね」
「どうやら迷子の心配は、これで完全に消えた様だな」
清流と呼ぶのが相応しい綺麗さを誇る川だが、川底は浅く姉妹のくるぶし位までしか無く、幅も5m程度というこじんまりとしたものだった。しかし水が流れているということは、流れ着く先があるということ。別の川に合流するか、それともこのまま湖まで一直線か。どちらだったとしても、道標としての役割は果たしてくれそうだった。
そうして、3人が落ち葉を踏むことで鳴る音と、静かな川の音を背景音として歩くことしばらく。
「ほんっとうに大きいねぇ」
ちょっとした山の麓に近づいたのか、川の流れる向きが湖に対して直角だったのが平行に沿う様になった頃合い。緩やかな崖を降りれば目の前に湖が広がるという所までやってくると、改まって日菜がそう溢す。
山の奥の少し標高の高い位置にあった第九層のスタート地点から見ても大きいと感じた湖の全貌が眼下に見え、その雄大さをありありと誇示していた。思わず感嘆の声が出るのも無理は無く、ここまでの大きさと綺麗さを兼ね備えた湖が現実世界にどれだけあるというのだろうか。
「ん、アレ何かな?」
ある意味では非現実的な光景に見惚れていると、何かを見つけたのか日菜が声をあげる。
「何か見つけたの?」
「ほら、ちょっと遠いけどあっちの方。何か湖の上に浮いてない?」
「……船じゃないかしら。人を運ぶというよりは、お城へ物資を運ぶ商船とかに思えるけど」
「あの城に、人の往来があるってこと?」
「ヒースクリフさんはどう思います?」
「これまでのエルフたちを見るに、我々人族と積極的な交流を持つとは思えんな。だが見えるのはどのエルフ族でもなく、人族なのだろう? ならば余程のことが起きていると見るべきだろう」
「森エルフの陣営に、何か異変が起きているということでしょうか」
あれだけ誇り高きカレス・オーの民がと宣っていた者たちが、本陣でもある最後の砦の中へと敬遠していた人族を招き入れるだろうか。ヒースクリフの言を是として、姉妹も否定的な意見である。
だがその、一見するとあり得なさそうな事態が起きてしまっている。往来の激しい小舟の列を何度遠目で確認しても、エルフ族の姿は一切映らない。
人族が森エルフたちの城に出入りしているという事実が、3人の間で共有されていく。
「やはりフォールンたちの影響なのかしら」
「キズメルさんたち黒エルフ側に対抗しようとして手を組んじゃったみたいだし、誇りも何もかなぐり捨ててる感はあるよね」
「だからこそ、その誇りを大事にしているあの二人は行動しているのでしょうね」
姉妹が思い起こすのは、第六層で森エルフとフォールンが共謀して黒エルフ陣営を襲撃した際、そのやり方に納得が行ってなかった森エルフの精鋭と将軍の二名が独断で行動していたことだった。
彼らはフォールンと手を組むことを否定し、自分たちにとって何が大切なのかを見つめ直す良い機会だからとカレス・オーの王様に謁見を求めに帰ったはずである。しかし彼らの行為は実らなかったのか、映し出される光景から導き出される結論は真逆の予想にしかならない。
(あの二人がどうしているのか、フォールンたちの関わり具合はどれ程なのか。それらを知るためにも、あのお城には向かう必要がありそうね)
クエストの流れだからと言って、ここまで関わっておいて見て見ぬふりは出来ない。選んだ陣営は黒エルフ側だが、第七層においてキズメルが模索しようとしていた一つの可能性を信じたい紗夜としては、このまま森エルフ陣営がフォールンに侵食されていくのを見過ごすことはしたくなかった。
「──金属がぶつかる音! 誰かが戦ってるのかも!」
その思いを汲み取ったのか、第九層に降り立ってから初めての金属音を日菜が察知する。鋭敏な感覚によるシステムに囚われない索敵は、《エルフ戦争キャンペーンクエスト》の終着へと向かうきっかけを予感させた。
「場所は!?」
「この下!」
今すぐにでも向かおうとした紗夜が訊ねると、金属音が響いてくるのはこの崖下だという。
崖と言っても坂に近い感じの緩やかなものであり、落ち葉が溜まって斜面は黄金色に染まっている。いっそのことソリでも作って滑って行った方が良さそうまである傾斜なのだが、無論この傾斜にも白樺の木が生えているので、先を覗こうとしても視界には映らない。
「迷ってる暇は無さそうね……!」
逡巡、現実であれば滑って転がり落ちる危険を感じる斜面に対して紗夜は怪我の心配を覚えるが、この世界では詮無きことだったと即座に切り替える。
「行きますっ!」
第三層から始まった、数えて7層に渡る長編クエストのラストを迎えるために、彼女は弓を取って勢いよく斜面を下り始める。
──願わくば、あのリュースラの彼女と笑ってお別れ出来る様に。
恒例のやります
〇アスナの恋心
まだそこまで発展しておらず、精々気になる男の子程度。とはいえ気にするものは気にしてしまうお年頃でもある
打てば響くとまでは言わないが、結構大きめの反応に姉妹もびっくり。この反応を見ていて察する気配のないキリトを見てある意味びっくり。これがハーレム系(言うて原作じゃ最初からちゃんとアスナ一筋だけど)主人公か……
まだ色気より食い気ならぬゲーム気
〇アスナお嬢様疑惑
アスナの父親は《総合電子機器メーカー『レクト』》のCEOで、どこぞの名家の三男。レクトはたくさんの子会社や部門を持っている巨大な会社であり、その内の一つが後にALOを発売している。疑惑も何も、アスナは完全なお嬢様といえる
ちなみに、どこぞの名家の『どこぞ』が銀行関係らしいので、結城財閥みたいな言い方を聞いたことがある。バンドリ世界で財閥と言えば勿論《弦巻財閥》なのだが、この辺の詳細はまた後日ということで
この段階では『色んな意味でぶっ飛んでいる弦巻財閥と関わりを持ちたい世界の人間』を社交界等で見てきたアスナが、そこの一人娘と関わりがあるとあっさりしている二人に対して「うわぁ……」ってなってる感じです
実際、バンドリ世界において弦巻財閥ってバグみたいな存在だと思うんですよねぇ……
〇森エルフの城
でっかい湖の中心にポツンと建っていて、船で往来しないと辿り着けない。めちゃデカい西洋風の城だと思われるが、SAOPの第九層編がまだなので憶測でしかない
〇《黄金色の森》
恐らくだが季節モチーフは秋で、IFでは白樺の木が生えている設定になっている。仮に白樺の木をイメージ出来なかったとしても、紅葉が降っているみたいなものだと思っていただければ支障は無いかと
自分の想定では第九層スタート地点がちょっとした山の上の方で、湖に向かって流れている小さくて綺麗な川がそれなりの数見受けられ、そのどれもが最もデカい川へと合流しているという風に
よって森エルフ側のエリアをざっくり言うと、白樺の木が生えまくっている山が外側で、その山に囲まれている内側に巨大な湖と城があり、外側から内側に向かって流れているデカい川とその支流が存在しているという感じ。本流の川は商船の出入りもある
IFのマップ上ではスタート地点から見て北東方面やや東寄りに、お隣の黒エルフ側との境目と門があるらしい
〇別れの予感
第九層攻略時の正確な時期は不明ですが、第五層攻略が年末だったので、ギルド再編に1週間とフロア攻略に『第二十五層を突破するまでは1フロアにつき5日くらいのペースだったらしい』ことを踏まえて第九層突入時で大体二月の上旬くらいのつもりです
第三層から数えて二ヶ月近い付き合いということになりますし、紗夜からしてみればキズメルには何らかのシンパシーを感じているのもあって寂寥感を覚えています。しかしプレイヤーたちは先に進まなければならないので、この階層でお別れになるのは必至。故に最後は笑って終わりたいという心持ちです
次回、さっそく戦闘です