夜を日に継ぐ   作:百三十二

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この時期は花粉症が辛くて頭が回らないことも多く、もしかしたら投稿が遅れたりズレたりするかもしれませんが、その時はそういうことだと思ってください


今回登場する《ヴェンデリン》というNPCについてですが、本来は第八層で一度対峙していたりするはずなのに今作では本来のルートから逸れているせいで初登場となります。具体的な情報としては、《森エルフの司令官》になります(第三層が精鋭、第四層が将軍なので別人)


見捨てられない

 

「ぐっ……」

 

「ここまでだな、ヴェンデリン」

 

 

 湖のほとりにて、ヴェンデリンと呼ばれた一人の森エルフが複数のフォールンエルフたちに囲まれていた。その身体のあちこちに傷を負い、深手こそ避けているものの遂に追い詰められてしまう。

 

 最初は何人かいた彼の仲間たちは既に倒されてしまっており、孤立無援の状態。奮闘虚しくも万事休すとなってしまい、フォールンの兵士を率いているカイサラに剣を突きつけられていた。

 

 

「小さい用事だからと少数で行動していたのが仇になったか……まさか貴様が出張って来るとはな、カイサラ……っ!」

 

「計画に対する不穏分子はここで始末しておかなければならないと閣下が判断した。さあ、大人しくあの世へと旅立つがいい!」

 

「ふざけるなぁっ!!」

 

 

 自身を生かすために命を懸けて逝った同胞たちの想いを無駄にしない為にも、何とかして包囲を突破しようと画策するヴェンデリン。口では挑発に乗せられている体を装いつつ、内心では冷静に戦況を分析していた。

 

 対するカイサラたちフォールンエルフらは、その包囲を狭めることなく確実に仕留めようとして自分たちの中で最も強い者とのタイマンを狙っていた。包囲を抜け出そうとしてもフォールンの兵士が邪魔になるし、幾らヴェンデリンが森エルフたちの中で司令官という立場にあるくらい強者であっても消耗が激しければ、同格以上と考えられるカイサラ相手に戦うこと自体が厳しいと言えるだろう。

 

 故にヴェンデリンは戦わずして包囲を抜け出すのが目的であり、フォールンたちはそれを阻止しておけば時間が解決してくれるといった状況だった。じわじわと距離を詰めてくるカイサラを視界に捉えつつ、いよいよもって打つ手が無くなっているヴェンデリンの表情は険しいを通り越して絶望に近かった。

 

 

 一矢報いるために突撃をするべきだろうか。何も出来ないまま終わるよりはマシかもしれないという思考に傾きかけた、その時

 

 

 

「カイサラっ!!」

 

 

 

 明後日の方向から、第三者がカイサラの名前を叫ぶ。僅かだが聞き覚えのある声に釣られて彼女が振り向けば、何処からともなく飛来してくる矢が視界を覆う。

 

 

「この声は……忌々しい奴らがぁっ!!」

 

 

 その矢を剣で弾きながら、彼女は激昂した。

 

 第三層で戦い、自身に深手を負わせた相手のことを彼女は忘れられなかった。

 

 いつか復讐してやるのだと、怪我を癒しながらそう誓っていた。

 

 敬愛する主の為に動けない期間が続き、鬱憤ばかりが溜まっていった日々。遂に動けるようになり、森エルフの重鎮を暗殺する役目を任された矢先の再会。

 

 

 そんなカイサラの表情は一瞬にして般若を連想させる様な、修羅へと成り果てる。

 

 

「増援か!? しかし同胞ではない!」

 

 

 思わぬ展開に驚愕したのはフォールン側だけでなく、ヴェンデリンの方もである。

 

 奇襲、と呼べるか不明な横槍を最初は森エルフによる救援かと考えた彼だったが、その見慣れない姿を視認して即座に否定する。しかしながら目の前の怨敵を見る限り、因縁は向こうにある様だった。

 

 敵の敵は何か。それを見極めるしかないかと彼が逡巡すると

 

 

「うわっ!?」

「がぁっ!?」

 

 

 これまた別の攻撃が飛来し、彼を包囲しているフォールンたちへと突き刺さっていく。

 

 

「斜面の方からか! なんと奇抜なっ」

 

 

 今度はその攻撃が明確にフォールンへ向けられていることに気が付いた彼は、それらが己らの前後からでもなく、ましてや湖上から船に乗ってでも無い事に思わず感嘆した。

 

 崖に近い斜面の、木々に囲まれていて滑り降りるには勇気が要る道と呼べないルート。そこを強行し、襲撃をしかけてきた。面識の無い相手だが、手放しで賞賛してしまいそうになる程度には意識の外からの出来事である。

 

 

「チッ、間の悪い奴らだ……先にトドメを刺しおくべきか──」

 

「うおりゃぁぁああああ!!」

 

「上からだとぉっ!?」

 

 

 一度は声に反応して目的を見失いそうになったカイサラだったが、包囲を解いてまで相手するのは敵の思う壺だと考えてヴェンデリンを仕留めるのを優先しようとする。

 

 しかし一度でも迷ったのが駄目だったのか、何故か頭上の高い位置から降って来た日菜による正真正銘の奇襲を受け止めざるを得なくなってしまう。短剣を両手で握り締めながら振り下ろす形で割り込んできた一撃を剣で弾くも、高い木から飛び降りて来た日菜が華麗に着地を決め、そのままカイサラへと突っかかっていった。

 

 

「あの時よりもレベル上がってるからねっ、一人でも相手に出来るよ!」

 

「思い上がるなよ雑種風情が!!」

 

「そっちこそしばらく見てなかったけど、随分とお休みもらってたんだね!」

 

「クソガキがあぁぁっ!!」

 

 

 挑発に挑発を重ねることでフォールン側の指揮官を機能不全に陥れていく。第三層の時に比べてステータス的にも成長してきた彼女であれば、かつてのボス敵を一人で足止めすることくらい造作も無い事である。

 

 

「そこのカレス・オーの方! こちらへ!」

 

 

 その隙に、後から斜面を降りて来た紗夜がヴェンデリンに向かって声をかける。声に従って彼が背後へと振り向けば、退路を確保する様にフォールンたちを蹴散らしていくヒースクリフと、その奥で弓を構える紗夜の姿が映った。

 

 

「背に腹は代えられん……っ」

 

 

 事ここに至ってヴェンデリンは、この人族たちが自身を助けるために行動していることを悟り、驚愕する。だが千載一遇のチャンスを逃す訳にもいかず、藁にも縋る思いで後退せんと駆け出す。

 

 日菜と相対していたカイサラが気付いて追撃しようとするも、更に奥から飛んでくる矢に機先を制されてしまい、その隙に日菜からの蹴りを貰ってしまう始末である。

 

 

「何者か分からぬが、恩に着る!」

 

「それはここから撤退出来た時にお願いします! 日菜!」

 

 

 包囲網を抜け出し、ヒースクリフの横を通り抜けて最後方の紗夜の隣にまで後退したヴェンデリン。これによって今回の戦闘の目的が果たされたも同然になり、カイサラを含めた敵を全滅させる必要も無いので紗夜が撤退を示唆する。

 

 

「今もど──おねーちゃん足下!!

 

 

 一番深い位置にいる日菜が戻れれば作戦は完遂される。このことを理解している彼女がカイサラを翻弄しつつ、隙を見て一気に下がろうと画策した矢先──彼女の背筋に、これ以上無いほどの悪寒が走る。

 

 

()()はカイサラの足元から移動したかと思えば日菜の真下を通り抜け、ヒースクリフやフォールン兵士らをもスルーしていく。

 

 何か得体のしれないモノが発生し、絶対に良くないという確信をもって日菜は姉に注意を飛ばす。

 

 杞憂でも何でもない。フロアボス戦でも無いと言うのに、正真正銘の危機感が警鐘を鳴らしていた。

 

 

「っ!」

 

 

 最も遠い位置に立っている紗夜だったが、だからといって油断していた訳では無い。

 

 それでも、目に見えない脅威に対して簡単に抵抗出来るかと言われれば、幾ら彼女とて首を縦に振ることは無いだろう。

 

 

「貴様が頭か」

 

 

 日菜の忠告に紗夜が反応したのとほぼ同時に、彼女の足元──影が妖しく揺らめいた。

 

 音も無く黒色が蠢き、何かと識別するよりも先に飛び退こうとした彼女へと襲い掛かる。

 

 

「くっ!」

 

 

 地面から伸び出た影は槍の様に尖っており、回避が間に合わないと判断して咄嗟に両腕を交差させることで防御態勢を取った紗夜の腕に突き刺さる。

 

 

「おねーちゃんっ!!」

 

「致命傷じゃないわ! それよりも早く戻ってきなさい!」

 

 

 間違いなく心臓を狙っていた影による攻撃は、受け手側の機転によって致命傷とまでは至らなかった。

 

 

(防御してなければ危なかった……っ)

 

 

 クエストの一環だと思われていた戦闘で、即死トラップに近い初見殺しをやり過ごすことが出来た紗夜。しかし容赦ない不意打ちで急所を狙われたという事実に冷や汗が止まらず、明確に減少した体力ゲージも相まって動悸が激しくなっていった。

 

 

「無事か!?」

 

「何とか……っ」

 

 

 一連の攻撃を横で見ていることしか出来なかったヴェンデリンが声をかけてくるが、返事をする紗夜に勢いは無い。

 

 

「ほう? 仕留めたと思ったのだがな」

 

 

 そんな影を用いた奇襲を放った誰かが、見下す様に関心しながらカイサラの傍に現れる。

 

 肌の色や装備の雰囲気から、その誰かがフォールンエルフであることは明白だった。

 

 ところが、そのフォールンエルフがカイサラの影から堂々と姿を見せたかと思えば、彼女を含めたフォールン兵士たちが跪き、まるで主君を仰ぐようにして頭を垂れていく。

 

 

 この光景が、あのフォールンエルフがとびきり高い地位にいることを証明していた。

 

 

「貴様はっ、《ノルツァー》!!」

 

「久しいなヴェンデリン。その命、ここで貰ったと思ったのだがな」

 

「よく姿を現せたものだな! その首、ここで落としても構わんのだぞ!」

 

「そう粋がるな。近い内に雌雄を決する時も訪れよう。今はまだ雌伏の時というだけだ」

 

「何をほざくっ!」

 

「こういうことだ」

 

 

 鬼の形相で詰め寄りかけるヴェンデリンをあしらいつつ、パチンと指を鳴らすノルツァー。

 

 するとこの場にいるフォールンエルフたちの足元が、先程紗夜を襲った時と同じ様に妖しく光る。

 

 

「次に会う時、貴様らの所持している秘鍵を全ていただく。それまで精々足掻くことだな」

 

「待てっ!」

 

「ふっ、さらばだ」

 

 

 ヴェンデリンが追いすがるよりも一手早く、ドプンという音を立ててフォールンたちが影の中に沈んで消えていく。

 

 瞬きの内に敵影が全て消失し、手品でも見せられた気分に陥る。後に残った静寂が、未知の術に対する不安を煽っていく。

 

 

「……見逃された、のかしらね」

 

 

 紗夜の言葉が、ただむなしく響くばかりであった……。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 一ノ谷の戦いにおける逆落としの真似事で斜面を下っていき、フォールンたちに囲まれていた《ヴェンデリン》と名乗る森エルフの男性を助けることは出来た。

 

 それと同時に、どう見ても我の強そうなカイサラが頭を下げていた《ノルツァー》というフォールンの男。一気に戦況が動いたのを肌で感じると共に、黒エルフ陣営だったこともあって森エルフについては知らないことも多いと気が付いた。

 

 

「何はともあれ、助けられたのは事実だ。礼を言う、人族の者よ」

 

 

 フォールンたちが何らかの方法で姿を消したのを見届け、少ししてから周囲への警戒を解く。そして各々が武器を納め、一息吐いてからヴェンデリンさんが話しかけてくる。

 

 

「しかし解せんな。お前たちはリュースラに与しているものと思っていたが?」

 

「目の前で襲われている人がいたから助けただけです。そこにリュースラもカレス・オーもありませんよ」

 

「ふむ、生粋のお人よしと言う訳か。聞いていた話の通りではあるな」

 

「私たちのことをご存じなのですか?」

 

 

 思わぬ言葉に、寄ってきた日菜共々驚いてしまう。

 

 

「あたしたち、そっちでも有名人なの?」

 

「我々の邪魔をしてきた、という意味であればそれなりにだな」

 

「それはまぁ、成り行きでしたから」

 

「成り行きで済ませるのは業腹だが……」

 

 

 苦虫を嚙み潰したような表情のヴェンデリンさん。だが口振りからして、彼の情報源はそこではないらしい。

 

 

「お前たちも知ってる奴らから聞かされていたのだ。お前たちに分かるような言い方だと……精鋭と将軍か?」

 

「ああ、あの二人!」

 

 

 かつて出会った二人の森エルフの話が持ちだされ、日菜がポンと手を叩いた。

 

 

「王様に会いに行くって言ってたけど、どうなったか知ってたりしない?」

 

「……助けられた礼代わりに教えるのも吝かではない。だがそれを話す前に、我々カレス・オーの現状を知ってもらわなければならん。ノルツァーと敵対する意思を見せた以上、お前たちは知っておくべきだと判断する」

 

 

 途端に重苦しい空気を漂わせるヴェンデリンさん。何やら私たちに伝えたいことがある様で、尊大な態度とは裏腹にこちらを窺うような視線を感じる。

 

 これに対して私たち3人は顔を見合わせて目線で相談し、結論として彼に先を促した。

 

 

「お前たちも知っての通り、我々カレス・オーはフォールンと手を組んでしまっている。先の二人を始めとし、このことに不満を持つ者も多い。だが秘鍵を手に出来ず、後が無いと判断した者らによって推し進められているのが現状だ」

 

「その二人がそちらの王様に謁見すると言っていましたが、どうなったか聞いていたりしませんか?」

 

「あいつらは確かに陛下へと謁見を申し出ていた。しかしそれが果たされるよりも前に、二人は牢に繋がれている」

 

「「えっ!?」」

 

「そもそも謁見なぞ叶うはずが無いとも言える。何せ陛下は病に臥せておられ、特定の者以外はお目通りすら不可能だ」

 

「王様が大変なことになってるのに強引な手段を取ったの?」

 

「陛下の容体が重いのをいいことに、今のカレス・オーにおいて実権を握っているのは宰相の奴だ。古臭い神官共といい、カレス・オーの為にと嘯きつつフォールンと手を組む様に決めたのも忌々しい宰相なのだ」

 

 

 話を聞くに、どうやらカレス・オーの方々も一枚岩では無かったらしい。その上でフォールンと手を組もうとする勢力が実権を握ってしまっているせいで、それを良しと思わない精鋭さんや将軍さんが囚われてしまっているということだった。

 

 

「今のカレス・オーは神官を含む宰相派と、反フォールン派に分かれている。せめて陛下がご健勝であれば話も違うのだが、生憎と抜け目のない宰相めに人質として捕らえられているも同然でな。こちらとしては表立ってどうこうすることなど一切出来ぬ故に、あまりやりたくは無かったがこそこそと動いていた所……敵の罠にかかってしまい、部下も失ってしまったという訳だ」

 

「ヴェンデリンさんは、貴方で言う所の反フォールン派ということでよろしいのですよね?」

 

「でなければ奴らに襲われることもなかろう。私が秘鍵欲しさに道を踏み外すとでも思ってか?」

 

「せめて理由を語っていただけると助かります」

 

「理由、か……」

 

 

 手を顎に当てて何やら思案するヴェンデリンさん。そうして紡がれた言葉は意外というか、予想だにしていなかったことだった。

 

 

「お前たちのいない戦場で、リュースラのキズメルという者に出会った。その時に『貴様らに誇りは無いのか』と叩きつけられてな。そこで私とて思ったさ、これまでの積み重ねを捨ててまで秘鍵を求める必要があるのかとな」

 

「キズメルさんが、そんなことを……」

 

「これはあくまでもカレス・オーとリュースラの問題であり、フォールンの介する余地など無い。そう結論を出すまでに時間は要らなかった。後は己の信念と、カレス・オーの民としての誇りを取り戻すまで。その為には宰相の思惑を阻止し、フォールン共を排除する必要があるという訳だ」

 

「その宰相さんってのを直接どうにかしちゃ駄目なの?」

 

「奴は用心深い。常に護衛を侍らせているし、敵対しそうな者は遠ざけている。現に私の部下や同志たちは城内に入ることを許されていない。手を出そうにも出せない、そんなところだ」

 

「立場的に偉そうだから邪険に出来ないってことで狙われちゃった感じ?」

 

「司令官という地位に就いている私を城内に入れないというのは、流石に体裁が悪いからな。宰相からすれば、私のことは是が非でも消したかったことだろう」

 

「その脅威から逃げ延びた今、貴方はどうするおつもりで?」

 

「城内に入れない代わりに、部下や同志たちが集結している隠し砦がある。そこへ赴き、機を見計らうつもりだ」

 

「しかし貴方まで城を離れてしまっては、その宰相とやらが猶更行動しやすくなってしまいますが」

 

「問題無いとまでは言わんが、部下の中には優秀な密偵たちがいる。彼ら彼女らがいれば、宰相の動向を追うことくらいは可能だろう。それ以上に気掛かりなのは……」

 

「王様の安否、だよね」

 

「そうだ」

 

 

 日菜の発言に、ヴェンデリンさんが神妙に頷いて同意する。

 

 

「陛下さえご壮健であれば、宰相の暴走を止めることも出来よう。その為には陛下の身を蝕むものの正体を突き止める必要がある。それ自体は密偵たちに探らせているものの、確たる証拠が無いというのが現状だ」

 

「でもそんなの、あたしたちだってどうにか出来るとは思えないよ?」

 

「その様な高望みなどしておらん。私はどの道警戒されるが故に、城の周辺に近づくことすら出来ん。そのせいで密偵たちとの連絡もままならなくなるだろう。お前たちに頼むのは賭けが過ぎると我ながら分かってはいるのだが、お前たちに頼むしか術がないというのも事実だ。だから──」

 

 

 森エルフの司令官であり、カレス・オーの民として為すべきと思ったことをやろうと決意をしているヴェンデリンさん。彼には地位や名誉も、それに伴うプライドもあるだろう。

 

 

「──頼む。可能な限りで構わない。私の部下の、大事な仲間たちの力になってはくれないだろうか」

 

 

 そこを曲げて、彼は私たちに向けて頭を下げた。

 

 人柄について聞かされているのも、今し方助けられた恩義というのもあるだろう。それでも、ここまで敵対行為を見せていた相手に助力を請う姿は、同じ種族に生きる者たちの未来を本気で憂いているからこそ色褪せることなく輝いて見えた。

 

 この姿勢を見せつけられて、拒否する気が起きるだろうか。

 

 

「勿論です。断られても力を貸すつもりでしたし」

 

 

 だから私は片手を胸に当ててにべも無く同意するし

 

 

「そーそー。クーリングオフは受け付けないからねっ」

 

 

 日菜は両手を頭の後ろで組んで、気安そうに答えた。

 

 

「ヒースクリフさんもよろしいですよね?」

「おじさんも問題ないよね?」

 

 

 そして最後に、今まで黙秘を貫いていたヒースクリフさんへと問いかければ

 

 

「私に異論などあるはずもない。君たちの好きな様にしたまえ。尤も──」

 

 

 いつもの様に判断を委ねる旨の返事をしたかと思えば

 

 

「──助力を請われて見て見ぬフリをする程、薄情なつもりも無いがね」

 

 

 そう言って、彼なりのやる気を見せていた。何か思う所でもあるのか、思っていたよりも好意的な反応だ。

 

 

「……恩に着る。では改めて名乗らせて貰おう。私の名は《ヴェンデリン》。誇り高きカレス・オーの民にして、司令官の地位を預かる者だ」

 

「私はサヨです。双子の姉になります」

 

「あたしはヒナだよ! おねーちゃんの妹!」

 

「ヒースクリフという。訳あって二人の護衛を買って出ている身だ」

 

 

 向かう方向が同じになり、一時的なものかもしれないが友誼を結ぶことになった。認め合うことで互いに名乗り、これを以てして森エルフならぬカレス・オー陣営に介入することとなる。

 

 確かに自分たちはキズメルさんらリュースラ陣営に手を貸していたが、かといってカレス・オー側を忌み嫌っているということでもない。苦しんでいる姿を見て、厳しい事情を知れば、悪者でもない限りは義理くらい果たしたいというものだろう。

 

 相手がNPCだろうと関係ない。彼ら彼女らはこのSAOという電子世界の中で間違いなく生きている。

 

 私はデスゲームだからといって人であることを捨て去るつもりなどない。その決意は数か月経過した今も変わることなく、心の内に深く根付いている。

 

 なればこそ、キズメルさんの願いを叶える為にも、私たちが為すべきことはただ一つ。

 

 

「よろしく頼む。そなたらに、聖大樹のご加護があらんことを……」

 

 

 二つのエルフが滅びを迎えず、いつか手を取り合えることを夢見て懸け橋になる。

 

 

 敵は選ばなかった陣営、という訳ではないのだから。

 

 

 







〇ヴェンデリン救出劇

紗夜が声をかけたのはカイサラの注意をヴェンデリンから逸らすのに加えて、日菜が木に飛び上がっている時の音を誤魔化すためです。最重要命題が救出なので、死なばもろともの勢いでヴェンデリンを殺害されると困るために態々声をあげてます


〇第三層以来の登場、カイサラ

IFだと第五層とかでも姿を現すが、今作では第三層での戦いで深手を負ったので療養しており、ここまで出てこれなかった

煮え湯を飲まされた相手に対して並々ならぬ復讐心を抱いており、特に決め手となった日菜のことは挑発されると簡単にぶち切れる程


〇影からの攻撃とノルツァーの登場

日菜が察知して紗夜に伝えていなければ、実は防御すら出来ずに即死案件の完全初見殺しでした。当然、普通はそんなに殺意高くないのですが綱渡り状態ということで。紗夜としては盾で受け止めて削られたダメージを除けば、初めて明確な直撃ダメージを貰ったことになります

そしてノルツァーについてですが、フォールンエルフの首魁で謎のまじないを使ってきます。影から攻撃を飛ばしたり、影に沈んで潜伏や転移したりと厄介過ぎる相手。エルフ戦争キャンペーンクエストにおける大ボスであり、第九層で対峙する強敵

彼の設定という名の過去に関しては後で明かされますし、今回あっさりと手を引いたのは仕込みが出来たから無理をする必要がないという事情です



〇フォールンと手を組んだカレス・オー

閑話で触れた通り、カットした第六層で秘鍵を巡る争いの際に手を組んでいる。尤も、カレス・オーとしての総意でもなければ国王の指示でもなく、宰相の独断

ただし国王に関しても何らかの思惑があるらしく……病で臥せってるのは本当


〇ヒースクリフのやる気

もしかしたら良いもの見られるかもしれないと、ちょっとうきうき


〇キズメルの願いと敵はカレス・オーではない

この地点でキズメルは二つのエルフ族には争い以外の道があるのではないかと模索中。また紗夜たちはカレス・オーのNPCを一人も殺害していないので、ヴェンデリンらからの好感度は敵対していた割にはそこまで悪くない

ヴェンデリンらの胸の内も聞かされた事で、倒すべき敵はフォールンエルフにほぼ一本化。その為にもまずはカレス・オー側のいざこざの解消を手伝うことに

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