夜を日に継ぐ   作:百三十二

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この辺からやりたい放題になってきます。極力分かる様には頑張ってみますが、それでもアレでしたらすみません


リトルジェミニ 後編

 

 

「何処へ行った!?」

 

「所詮子供の足、そう遠くには行けまい!」

 

 

 

 

 

「……行った様ね」

 

 

 裏口の扉から城の内部へと侵入を果たした姉妹。扉を開けた先には大量の衣服が積まれており、これから干すのであろう洗濯物がそこかしこにカゴの中に放置されていた。騒ぎになったせいで担当者も駆り出されてしまっているのだろうか。

 

 部屋の中を一瞬で把握した姉妹は扉を一度閉めてから再度二人揃って布を被り、それらの衣服や洗濯物に触れることなく隅っこで縮こまった。一度相手の視界から外れたことで《隠蔽》スキルの効果が復活するというのもあるが、安易に埋もれるという判断を避ける。

 

 その結果、後からやって来た衛兵たちは部屋の中を一通り漁っていくと諦めてしまい、空間の片隅に身を潜めている姿に気が付くことはなく別の場所へと探しに行ってしまう。子供なら何かの中に直接隠れるだろうという心理の裏をかいたことで、二人は無事にやり過ごすことに成功する。

 

 しばらくしてから衛兵たちが自分たちのことを見失ったと確信が持てたので、紗夜は安堵の溜め息と共に言葉を紡いだ。

 

 

「おねーちゃん、しゃべりかた」

 

「緊急事態よ。話しづらいったら無いのよ、これ」

 

「ちぇー。まぁしょうがないか」

 

 

 その際、緊張からか紗夜の口調が成熟したものに戻ったことで日菜が文句を垂れるものの、事態を考えればそんなことを言ってる場合では無いと分かっているので簡単に引き下がる。

 

 

 説得が通じて我儘を言われなかったことで、改めて紗夜は現状を整理していく。

 

 衣服も積まれてはいるが、濡れたままのものが入った洗濯カゴが乱雑に置かれていることから、ランドリースペースではないかと推察する。大量の衣類を取り扱う為かやたら広めの部屋を散策してみれば、時代設定なのか洗濯板と盥を発見したのでその類だと確定させる。

 

 

「城の中に入ってしまったけれど、これからどうしようかしら」

 

「外に出る?」

 

「どうせまた衛兵に囲まれるのがオチよ。勿論、その時に毒瓶も取り上げられるでしょうね」

 

「こうなっちゃうと、子供の姿のままってのが響いちゃうなぁ」

 

 

 ここから中に入り込むか、それとも外に出るかの択である。姉妹の姿は依然として幼く、この状態で出来る抵抗らしい抵抗と言えば日菜がナイフを投擲するくらいだ。紗夜に至っては武器の大きさ的にまともに扱えそうにないことから、普段とのステータスに差異は無いものの真正面からの戦闘は是が非でも避けたいというのが本音だった。

 

 

「仕方ないわね。姿が戻らないというのであれば、それ相応の行動を取るしかないわ」

 

 

 戦えないくらい小さいならば、それはむしろ隠れるにはもってこいのサイズということでもある。布を被りながらのスニーキングを行う際に、衛兵でごった返しているであろう外よりも隠れられそうな物が置かれがちな内部を通った方がマシかもしれない。外が騒がしいのだから内側は手薄になるのではという期待もある。

 

 それに城の内部へと潜入出来たという事は、気になる用事も済ませられる可能性があった。どの道危険なのだから、虎穴に入らずんば虎子を得ずの精神で前進するのも悪くないだろうといった前向きな思考も持ち合わせていた。

 

 

 思いの外ポジティブな紗夜の判断を、日菜は支持した。

 

 

「こういう城の中を探検するってのもワクワクするよね! あたし、結構楽しみかも!」

 

「そうね。否定はしないわ」

 

 

 知らない世界を知る機会というのは、個人差こそあるものの得難い経験だと言える。好奇心が旺盛な日菜はもとより、紗夜もこの状況を楽しんでいる節があった。

 

 本命は別の出入り口からこっそりと脱出することではあるが、興味を優先して寄り道したい気分でもあった。この階層に降り立ってカレス・オーの城を目にした時の感動を思い出し、その中に入り込んだという事実が彼女たちの感性を強烈に刺激していた。

 

 

「それに……あの二人が無事かどうかも気になる、というのもあるのよね」

 

「精鋭さんと将軍さん、捕まったって聞いたけど、牢屋に入れられてるんだっけ?」

 

「ヴェンデリンさんはそう言ってたわ」

 

「牢屋っていうと、やっぱり地下だったり?」

 

「それは分からないけれど、どうせ上の階に行く意味は無いのだし、探すなら下りる方の階段ね」

 

「それじゃあ、しゅっぱ~つ!」

 

 

 脱出を念頭に置きつつ、洗濯物に囲まれた部屋から出ようとする。廊下に出る前に紗夜の《索敵》スキルと日菜の感覚で森エルフたちと鉢合わせしないように警戒し、布を被りながら目立たない様に移動していく。

 

 幻想的な外見とは異なり、質素な造りと言える内部。適度な装飾こそあれど、華美過ぎる物体は見当たらない。森エルフという呼称もあってか、所々に自然を感じる配置が為されていた。

 

 豪華絢爛というよりは、質実剛健な城だと姉妹は思った。最低限の威厳は保ちつつ、過剰な贅沢はしない。誇り高い民を自称していた彼らの言葉に、一切の偽りは無かったのだと分かる内装だった。

 

 

「絨毯が敷かれてるけど、これに沿って歩けば謁見の間とかに辿り着くんだろうね」

 

「外交的には相手をもてなすという体裁があるもの。その辺りは流石に力が入っているんだわ」

 

「気が弱い人だと、これだけで圧倒されそうじゃん?」

 

「少なくとも委縮はするわね」

 

 

 廊下を進み、衛兵たちの声が聞こえたら立ち止まって身を隠す。それを繰り返していき、一先ず辿り着いたのは絨毯が敷かれている別の通路だった。来賓の客人が通る前提の廊下だと一発で分かるそれは、いずれかの方角へ進んでいけば出入り口か、応接室や謁見の間といった客人対応の為の要所へと辿り着きそうだと想像できる。

 

 

「方角は覚えてる?」

 

「入って来た城門側が南で、扉があったのが城の西側。あの部屋を出て右に曲がったから南下してるはず。大体のお約束として城の真ん中は吹き抜けになってるくらい開けてるだろうから、まだ城の西側だと思う。左に行けば正面玄関に近づくんじゃない?」

 

「ならここを右に進んだ先には控室や、展示室とかでもあるのかしら」

 

「もしかしたら途中で絨毯切れてるかも?」

 

「無くは無いわね……確認しておくべきか……」

 

「ゲーム的にはどうなんだろうね」

 

「隅々まで探索すると隠し要素があったりするとは聞いたことがあるけど、ここでも適用されてるかどうかは微妙なところね」

 

「じゃあ違う発想をしよっか」

 

「違う発想?」

 

 

 何処か得意げな様子の日菜が提案し、紗夜が問い返す。

 

 

「牢屋に入れられる人たちを絨毯の上に乗せると思う?」

 

「相手に依るんじゃないかしら」

 

「あたしもそう思う。お偉いさんの捕虜とかなら王様が顔を見てからとかありそうだし、そういうのって一番広い空間でやりそうだよね。でもそうじゃない、それこそ罪人とかをそういう場所に通すってのも考えにくいし。じゃあ何処からって話になるけど、正面じゃないなら横とか裏っぽくない?」

 

「裏……さっき私たちが入ってきた様な、裏口ってことね」

 

 

 得心がいった紗夜が答えを出すと、我が意を得たりと日菜は微笑んだ。

 

 

「そういうこと! そしてあたしたちの足元も絨毯が敷かれてないってことは、ここがその通路の一つの可能性もあると思わない?」

 

「でも入ってきたのは洗濯物が積まれていた部屋よ? 生活感を考えれば、そこを通すとは思いにくいわ」

 

「おねーちゃんおねーちゃん。それはつまり、こっちじゃないんだよ」

 

「反対側……東側の可能性が高い、と」

 

「まっ、後でこっち側でしたってなると最悪だから、確認しておくのが吉だと思うけどね」

 

「……それもそうね。考えた意味はあまり無くなってしまうけれど、その方が堅実だわ」

 

 

 相談を終え、しらみつぶしとまではいかないものの追える範囲での探索をすると決意した二人。外れも込みで調べていき、西側で絨毯が切れる位置付近には何もないことを確認してから踵を返していく。そうして今度は城の中央へと向かって徐々に歩いていき、巡回らしき森エルフをやり過ごしながら着実に前進する。

 

 慎重を心掛けながら絨毯に沿って進んでいくと、やがて廊下の終わりが見えてくる。城の中心部分であろう空間に広がっていたのは、二人の予想通り上階から下を覗くことが出来る吹き抜けになっており、奥側には上るための階段が待ち構えていた。

 

 当然、その階段にも絨毯が敷かれており、これを上った先に謁見の間の様な厳かな部屋があることは想像に難くない。煌びやかなシャンデリアが周囲を照らしている中、目的の違う二人は階段を無視して反対側の通路を目指す。

 

 正面玄関から真っ直ぐ進むと辿り着く場所というだけあって、森エルフたちの往来は非常に多い。ただ横断するだけでは、シャンデリアの眩しさもあって布だけでは《隠蔽》スキルが機能するかどうかも判断がつかない。

 

 

(行くよ?)

 

(いつでも良いわ)

 

(……今!)

 

 

 そこで二人は、この場に居る森エルフたちの視線を誘導してから突っ切るという選択を取った。石ころをシャンデリアに向けて放り投げ、甲高い音を響かせながら揺らしてみせる。突然ガシャガシャと装飾を鳴らして揺れ動くシャンデリアに、何事かと森エルフたちの視線が上を向いて集まっていく。

 

 二人はその隙を狙って、低い姿勢を維持しながら空間を横断した。かなりのスピードを出して疾駆した際に布が捲れそうになるが、そこは双子の連携で上手いことカバーする。両手を上に掲げて布を掲げながら、前後に分かれて動きをシンクロさせる。歩幅を完璧に揃えるという徹底ぶりまで披露し、抜群のコンビネーションで反対側まで到達して見せた。

 

 

「上手くいったね、おねーちゃん。ハイターッチ!」

 

「は、ハイターッチ……って何やらせるのよっ」

 

 

 城の東側に辿り着くと、これまた絨毯が敷かれている通路を探して探索していく。左右で対称的な造りにしているのか、通って来た西側のそれを反転させた様な見栄えに既視感を覚える二人。

 

 

「──ビンゴみたいだね」

 

 

 そのまま奥まで進み、絨毯の敷かれていない端の方まで歩いていく。そうして目についた壁際、下へと降りていく階段を発見し、確信を持った日菜が呟く。

 

 下へと続く階段は小規模な螺旋状になっており、明かりらしいものは蝋燭の火のみ。迷宮区の薄暗さを思わせる様な雰囲気に、僅かながら身体を強張らせる姉妹。

 

 それでもここに来た目的を果たすべく、意を決して踏み出していく。地上と地下の寒暖差のせいか、急激に冷やされた空気が水滴となって所々で水たまりを作っており、ピチャリと跳ねる音が虚しく響き渡る。

 

 足を滑らせない様に注意しつつ、階段を下りていくこと数分。想像よりも大分深いところに存在していた地下牢の内部へと到達する。

 

 そこには蝋燭すら存在せず、ただただ暗闇があるのみ。しかし目が慣れていく内に、いくつもの鉄格子が存在していると分かる。

 

 二人としては、投獄されてしまったという二名の森エルフの状況確認と、事実の擦り合わせを行うことを画策していた。なので囚人もいるであろう地下牢に長居はせず、さっさと探し出して話をつけたかった。

 

 

 だが事態は、二人の想定を大きく上回っていた。

 

 

「なにこれ……本当に囚人?」

 

「子供までいるわ。それにどうしてか、母親らしき人も一緒ね……」

 

 

 罪を犯した者が投獄されているという認識からは考えられない、どう見ても一般的な家庭の母子たちが大勢いた。耳を澄ませばすすり泣く様な音が聞こえることから、捕まえられている森エルフたちにとって不本意な形なのではないかと邪推していく。

 

 一体何がどうなっているのか。それを知るためにも、二人は投獄されている森エルフたちの中から目当ての人物を探していく。地下牢を奥へと進むごとに、尋常ではない数の森エルフたちが投獄されていることが分かり、戦慄すら覚えた。

 

 薄ら寒いものを感じ始める二人。無意識の内に、握り合う手に力が入る。

 

 

「あ、いたわ!」

 

 

 どれくらい経っただろうか。見た目よりも遥かに広く感じる地下牢を練り歩き、明かりが無いので目を凝らしながら捜索していき、遂に紗夜が見知った顔を発見する。

 

 奥の方に隔離されていたのか、ここまで見てきた他の森エルフたちの姿は無い。精鋭にしても将軍にしても、隣り合わせとはいえスペースのある別々の牢屋に一人ずつ投獄されていた。

 

 

「ご無事ですか?」

 

「……子供か? しかし何処か見覚えのある……」

 

 

 布を取り払って《隠蔽》を解除して紗夜が鉄格子越しに語り掛けると、意識があったのか森エルフの精鋭の方が反応を示す。尋問でもされていたのか、将軍の方は気絶しているらしく応答はない。

 

 暗いままでは認識しづらいので、道中でくすねていた蝋燭に火を灯して明かりをつける。

 

 

「姿は幼いですが、私はサヨです。ヴェンデリンさんからお話をいただいたので、ちょっとした任務の途中です」

 

「お前たちは……そうか、ヴェンデリン様が……」

 

 

 紗夜の話に、精鋭は全てを悟った様に呟いた。

 

 

「一先ずご無事だと分かって安心しましたけれど、この地下牢に閉じ込められている方々は一体……?」

 

 

 そう問いかけると、彼は恨めしそうに口を開く。

 

 

「……人質だ。卑怯にも宰相は、自分に従わない者を強制的に従属させるために、彼らの家族を人質として閉じ込めたのだ。従わなければ家族を殺すと、脅迫してな……」

 

「「っ!」」

 

 

 驚愕の事実に、姉妹は揃って息を呑んだ。考え得る限り最悪の状況だからだ。

 

 

「ヴェンデリンさんの配下の方もですか!?」

 

「ああ……私自身が交流したことのある者の妻子の顔を見た。閣下の動向は、宰相に筒抜けだろう……」

 

「そんな……っ」

 

 

 これではヴェンデリンの身辺から密告者が現れて、彼が捕縛されてしまうのも時間の問題だろう。このことは早く密偵のカルに伝えなければならない。

 

 いや、或いは知ってはいても、どうしようもないのだろうか。やるせない感情が二人を苛む。

 

 

「それでも……国王の病を治せさえすれば、状況を覆せないんですか?」

 

「その病の正体を突き止められなければ、話にならないぞ」

 

「それはほら、見えにくいかもしれないけど、回収済みだよ。後はこれを解析して貰えば解毒薬が作れるはずだって」

 

「っ! そうかっ……それならまだ希望はある……っ」

 

 

 証拠として日菜が毒瓶を提示して見せれば、森エルフの精鋭は暗い表情が一転して喜色に染まっていく。二人の言っていることが本当であれば、この状況から逆転するだけの材料は揃い始めてると言っても過言では無いからだ。

 

 

「ならば済まないが、この錠を外せたりはしないだろうか? ここから出ることは叶わずとも、来る時の為に準備しておきたいが」

 

「鍵の類は所持していませんが……」

 

「ピッキングすれば良いんじゃない?」

 

「そんな簡単に出来たら苦労はしないわよ」

 

「やるだけやってみようよ。精鋭さんちょっとこっちに寄れたりしない?」

 

「少し待ってくれ」

 

 

 呆れる姉を他所に、鍵無しでの会場を試みようとする妹。牢に繋がれてるとは言っても壁に磔にされている訳では無く、背中側で手錠をされているという形らしい。

 

 どうやらこの手錠にまじない封じの効果が備わっているようで、これを外さない限りは森エルフたちの力は削がれてしまうとのことだった。

 

 極力を音を立てない様にして鉄格子側に忍び寄ってくる森エルフの精鋭。明かりへ近づくごとに傷ましい姿があらわになっていき、事態の凄惨さを物語っていた。

 

 

「《裁縫》スキルでよく使う針金を通してチャチャっと」

 

「……何処で手に入れたのよ、その針金」

 

「ネズちゃんに貰ったんだ~。宝箱でも開ける時に使うかもしれないって、冗談交じりにだけどね」

 

「ああ……」

 

 

 何となくありそうな話だと、アルゴに対する認識から納得してしまう紗夜。その傍ら、取り出した針金を鍵穴に差し込んではあれよこれよと動かしてみる日菜。

 

 裁縫するための針にしてはおかしい太さだが、大して気にした風も無く試行錯誤していく。カチャカチャという音だけが地下牢に響いていき、見回りの者が来たりはしないかというハラハラ感に襲われる姉だった。対する妹は解錠に集中しており、何もかもを手探りで試していった。

 

 

 ──カチッ

 

 

「あっ。開いた」

 

「嘘でしょ……?」

 

 

 すると数分と経たずに錠前が解かれる音がした。ラッキーとはしゃぐ日菜と、どうにも腑に落ちない紗夜の姿は実に対照的である。

 

 

「本当に開くとは……」

 

「私としても信じがたいですけど……ともかく、これからどうするおつもりですか?」

 

 

 ピッキングの仕様が存在していることを後でアルゴに伝えようとウキウキしてる日菜を横目に、紗夜が問いかける。

 

 

「錠を解いてもらっておいてなんだが、私はここに留まる他ない。脱走したことがバレれば、他の者が見せしめになってしまうだろうからな。だが準備はさせてもらおう」

 

「準備ですか?」

 

「そうだ。閣下やお前たちが動いてると分かれば、いずれ逆襲の機会も訪れるだろう。その時にこの場を人質にされない様に、我々が蜂起する。すまないが、簡単なものでいいから武器の類を貰えないだろうか?」

 

「予備ですが、剣なら」

 

「十分すぎる」

 

 

 紗夜はインベントリから予備の片手直剣を取り出し、森エルフの精鋭に鉄格子の隙間から渡す。

 

 

「将軍さんの方はどうしますか?」

 

「起き次第、私から話すさ。協力していただければ、従属させられている同志たちの家族を守ることも出来よう」

 

「だったらこれも必要じゃない?」

 

 

 そう言って、今度は日菜がインベントリから予備の短剣とナイフを取り出して渡していく。

 

 

「恩に着る」

 

「見回りの方に見つかったりしませんか?」

 

「まじない封じの錠が解かれた今、偽装することくらい造作もない。これでも私は、それなりに腕が立つのでな」

 

「存じていますよ」

 

「重ね重ね礼を言う。さて、そろそろ立ち去った方がいいぞ。見回りの者がやってくる時間まで、もう少しだからな」

 

「流石に把握しているんですね」

 

「そうでなければ呑気に会話したりなどせん。……人族のお前たちに言うのもおかしな話だが、閣下や仲間たちのことを……頼む」

 

 

 頭を下げる彼に対し、姉妹が応じる。

 

 

「はい、任されました」

 

「大船に乗ったつもりでいて良いからねっ」

 

 

 後顧の憂いを絶ち、また一つ想いを託された姉妹は地下牢を去っていく。

 

 見送る森エルフの精鋭からは、子供にしか見えない二つの背中がいつぞや戦った時の様な成熟した姿に見えたという。

 

 

「──そなたらに、聖大樹のご加護があらんことを」

 

 

 それはカレス・オーの未来が、完全に託された瞬間でもあった。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

(……?)

 

 

 精鋭さんたちの無事を確認し宰相の愚行に対する策も取れた私たちは、手に入れた毒瓶を持ち帰るべく城からの撤退を始めた。

 

 やることはこれまでと変わらずに、見回りや衛兵の目をかいくぐりながら城門を出た辺りで待機しているであろうヒースクリフさんと合流するだけ。ここまで順調なこともあり、大した問題も無く完遂出来るだろうと思っていた私の脳裏を、得体の知れない感覚が過ぎっていった。

 

 

「どうかしたの、おねーちゃん……?」

 

 

 急に立ち止まった私を不審に思った日菜が訊ねてくるも、私の意識は全く別の方を向いていた。

 

 

「今何か……呼ばれた気がしたわ」

 

「あたしの方は何も聞こえなかったけど」

 

「そうね……こっちかしら」

 

「うぇっ!? おねーちゃん!? 戻るんじゃないの!?」

 

 

 敵のまじないという可能性は、不思議と捨て去っていた。それよりもこの呼びかけに応えなければならないという強迫観念に駆られ、狼狽える妹を半ば無視して城内を突き進もうとした。

 

 普段とは違う気配を漂わせる私の身を案じてか、引き留めようと腕を掴む日菜の手は力強い。

 

 それでもこの時の私は足を止めることなく、導かれる様にして城内を迷いなく進んでいく。

 

 

「もう! どうなっても知らないからね!」

 

 

 珍しく我を通そうとする私を見て駄目だと思ったのか、先に日菜の方が折れる。絶対に離すまいとがっちり腕を絡めてきたので少々歩きづらいが、今はそれどことではない。

 

 

 その後、あれだけ声をあげて会話したり、隠れることなく堂々と城内を歩いているというのに、森エルフたちは一人として現れない。それどころか、まるで最初から誰も居ないかのごとく不自然な静寂が保たれていた。

 

 

 明らかな異常事態だと言うのに、不思議と恐怖は無い。むしろ分かっていたかの様に、一切を気にせずに闊歩していく。

 

 

「なに、この扉……」

 

 

 そうして辿り着いたのは城の最奥に座す、歴史を感じる厳格な佇まいを見せる観音開きの大きな扉だった。

 

 

 異様な空気が漏れ出ているせいか、隙間からは微かに風を感じる。だが冷たい訳では無く、温かさを感じる程だった。

 

 

「これ、開かないよ?」

 

 

 鍵が掛かっている様には見えないが、日菜が取っ手を掴んで押し引きしてみたもののびくともしない。重量の問題や何かがつっかえてるを通り越して、そもそも動かないのでないか。そう思わされるくらい、軋む音すら立たなかった。

 

 

 だというのに、私は取っ手に手をかける。この扉が開くという謎の確信をもって、両手を使って扉を押し込んでいく。

 

 

「えっ、なんで……」

 

 

 すると先程まで全く動く気配を見せなかった扉が、ギギギと音を立てながらも確実に開いていく。筋力値の問題では無かったはずだと日菜が啞然としているのを尻目に、私は扉の先の景色を目にしようと前を向いた。

 

 

「っ!」

「きゃっ!」

 

 

 ──その瞬間、膨大な光が私たちを包み込んだ。

 

 

 ──圧倒的な力に飲み込まれ、世界が白に染まっていく。

 

 

 ──音が消え、色を失い、光が支配する光景。

 

 

 ──身体から力が抜け、あらゆる感覚が無になった私は

 

 

 

 

『全ての《条件》をクリアしました。これより特殊ルートへ突入します』

 

 

 

 

 ──無機質なシステムアナウンスを、耳にした気がした。

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

「む、戻ったか」

 

 

 商人を偽装し、嘘の取引を済ませたヒースクリフは城門の外側で待機していた。

 

 そして背後に気配を感じたので振り向くと、そこには見慣れた姿の二人の姿があった。

 

 

「あ、れ……? おじさん……?」

 

「変身の効果も切れている。何かあったのかね?」

 

「えっと……扉があって……おねーちゃんが開けて……真っ白に……おねーちゃんっ!」

 

 

 頭が回っていないのかいまいち要領得ない日菜だったが、記憶を辿るごとに徐々に思い出していき、最後には姉の身を案じて隣へと声をかける。

 

 

「…………」

 

 

 当の紗夜といえば、心ここにあらずといった感じで呆然としており、日菜の呼びかけにも応じる気配を見せない。

 

 

「一先ずはここを離れるべきであろう。余計な注目も浴びてしまっているのでね」

 

 

 明らかに何かがあったと分かる事態であり、二人の変身が解けていることも相まって早急にこの場を立ち去る提案をするヒースクリフ。彼は紗夜を背負うと、あたふたする日菜の腕を掴んで走り出した。

 

 

(弾き出された、という表現が正しいか)

 

 

 先刻並んでいた行商の列の横を駆け抜けていく中、ヒースクリフの思考は不自然な出来事についてだった。

 

 

 というのも、彼は姉妹が戻ってくる場面を視認してなどいない。城門から出てくるものだと思い込んでいたのだが、気が付けば自身の背後を取られる形で二人は突然現れた。

 

 

 姿を見せた時、被っていたはずの布は何処にも見えなかった。幼児化のまじないが解けており、《隠蔽》スキルも機能している気配はない。

 

 

(システム的な瞬間移動、しかあるまい)

 

 

 だとすれば、考えられるのはテレポートの類しかない。

 

 

 しかし姉妹が《結晶》を使った様子もない。どう見ても意図的に行われた転移でもない。

 

 

 そこまで考えた時、彼は一つの結論に辿り着く。苦笑いを湛え、何とも言えない気分になっていた。

 

 

(──も味な真似をする)

 

 

 どうやら彼の知る相手も、姉妹の行く末には興味津々であるらしい。

 

 

 カレス・オーの城を後にする彼の心境は、複雑極まりないものだった。

 







〇城内へ潜入

ボヤ騒ぎも相まって中より外の方が騒がしい為、身を隠すなら人の中もどき戦法で城の中へ。ヴェンデリンから精鋭さんと将軍さんが捕まっているという話を聞かされていたので、事実の裏付けを兼ねて牢屋の捜索を行っていた

《隠蔽》スキル大活躍ではあるが、当然ながらサイズ補正もかかっているので常にこれだけ出来るという訳では無い

そもそも城の内部に関しては完全に独自設定なので、それぞれがイメージする城の中をほっつき歩いているくらいの認識でオーケーです


〇洗濯物や絨毯の位置に囚人を通さない

普通に考えれると囚人次第では血に染まっていたり、それこそ流していたりするのに、敵の血で洗濯物や絨毯を穢すのかと言われればどうなんだろうという考察。衛生面を踏まえれば無いはず

結局はゲームを作った人の拘り次第なのだが、茅場晶彦なら実際やってそうではある


〇鍵開け

ヒースクリフが宝箱から《回廊結晶》を入手したという発言から、日菜とアルゴがこっそり考えていたピッキング。正規の鍵でなければトラップが発生するというのも考えられるが、そうでない場合もあるかもしれない。《裁縫》スキルと針金を組み合わせると悪さ出来そうなのはアルゴの入れ知恵。RPGの勇者よろしく、適当な家具を鍵開けしてヘソクリを見つけ出そうと思っていたり

内部的には器用さにも補正がかかってるとか、普通にありそう


〇特殊ルート突入

雑に言えば、原作よりも少しだけハッピーなエンドになるルートへ分岐。ただし達成できるかどうかはまだ不明

分岐条件は両陣営のキーキャラクターから信頼を得た上で想いを託されることと、選んだ陣営側のキーキャラクター(本作の場合はキズメル)からの好感度が一定値(通常不可能)にまで到達していること。その上でどちらかの陣営の《???》に近づくことです

この辺がSAOIFとも異なるオリジナルシナリオになります


〇システム的な転移、テレポート

やったのは誰かという話。ヒースクリフは見当がついている様だが、それにしてもこの姉妹、色々と目をつけられすぎだな……



次回投稿で前半戦が終了。更に次の投稿は例によって二週間いただきます
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