夜を日に継ぐ   作:百三十二

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予定では5,6話くらいになる第九層後半戦スタートです




《雪結晶の森》とお伽噺

 

 

 紗夜たち一行は黒エルフの薬師に解毒薬の調合を依頼するべくカレス・オーの領地を立ち、辺り一面が雪や氷で覆われている《雪結晶の森》へと足を踏み入れた。

 

 幸いにも吹雪いているということはなく、遭難したりという別種の災難を気にする必要は無さそうだった。厳冬を思わせる雰囲気こそ強いものの極端に凍えることもなく、精々が寒そうだなというくらいであった。見た目に反して環境による影響度合いが控えめなことから、姉妹はこのフロアの景観があくまでも演出でしかなく、本命であるクエストの進行を妨げるつもりが無いという製作者の意図を感じ取った。

 

 とはいえ、寒そうというのも事実である。はらはらと雪が降り続けているのもあり、平時に比べれば視界不良は避けられない。あまり外に長居していては奇襲の良い的でしかなく、さっさとリュースラ陣営の城に辿り着きたかった。

 

 

「多分、こっちよ」

 

 

 しかしその点に関しては問題にならなかった。どういう訳か、紗夜の勘が向かうべき方向を指し示していたからだ。感覚に優れている日菜には分からない何かが紗夜を指定し、導こうとしていることは明白だった。

 

 

「恐らくだが、指定された座標が紗夜君の潜在意識に刷り込まれていた様だ。記憶した覚えのない情報が埋め込まれており、それが無意識の内に引き出されているのであろう。そうであれば、外部から新たに干渉する必要は無い」

 

 

 姉妹の疑問に対して、専門家であることを隠そうともしないヒースクリフが見解を述べる。彼曰く、光に包まれて気絶する手前まで陥っていた際に城の位置情報を渡されており、それを紗夜が知らず知らずの内に使っているとのこと。サブリミナル効果に近いものであり、要するに強制的な思い込みをさせられているのだという。

 

 彼の説明に姉妹は納得の姿勢を見せ、現在進行形で干渉を受けている訳では無いのであれば日菜の感覚に引っかからないことにも説得力を感じていた。所詮は今回限りでしかないと思えば、何かしらの問題に発展することもないだろう。この件に関しては事態を重く見ず、流れのままに従うことに決めた3人だった。

 

 

「見えたわ、あそこ」

 

 

 そのまま雪降る高地を迷うことなく進むこと小一時間。マッピングしたことのないエリアを一本道でも歩くかのごとく踏破していき、会話も途切れて久しい頃合い。山々に囲まれた窪地、高台から眼下に広がる谷底を覗いてみれば、雪で反射してぼやける仄暗い明かりが目に入った。

 

 紗夜が指差す先は薄氷で覆われたカルデラ湖と、その中心に座すこれまた厳かな居城。見ればカレス・オーのと違い入り口に向かって石橋がかけられているが、正面を除いて聳え立つ山々に囲まれているおかげで天然の要塞と化していた。

 

 雪山の中に現れたリュースラの最後の砦が、同胞以外を拒絶するかの様に悠然と佇んでいた。

 

 

 

 ☆

 

 

 

「……来たか。待ちわびていたぞ」

 

「「キズメルさん?」」

 

 

 月夜に照らされるリュースラの城を発見し、正面の出入り口を目指して山を下る3人。凍った湖を迂回する様にして歩いていき、先程見下ろした石橋の先端部分に辿り着く。

 

 お世辞にも明るいとは言えない夜道を石橋に建てられた街灯が照らし出す中、その中央を堂々と渡っていき城門へと近寄る。

 

 すると3人を出迎えたのはカレス・オーの時の様に衛兵ではなく、少しばかり肩に雪を積もらせたキズメルだった。

 

 

「本来であれば私が陛下の傍を離れる訳にはいかなかったのだがな。事情が変わったのだ」

 

「それっておねーちゃんのこと?」

 

「その件を含めて話がある。さ、ついてきてくれ」

 

 

 挨拶もそこそこに、3人に背を向けるキズメル。

 

 

「ようこそ。我らリュースラが居城、《月煌城》へ」

 

 

 橋を渡り終え、城門を潜るとそう歓待の言葉を受ける。明るくも風情のある秋の雰囲気に合ったカレス・オーの城と違い、重苦しくも悲しいとは別の芯の強さを思わせる構えが3人の前に座していた。

 

 

「見られている様ですが」

 

「気にしないでくれ。それについても後で分かる」

 

 

 キズメルの案内に従って城の内部へと入ると、そこかしこから黒エルフたちの視線が紗夜に集まる。歓迎している者もいれば、怪訝な表情で出方を窺う者、果てには最初から敵意を隠そうとしない者までいる。

 

 だが全ての者に共通しているのは、紗夜に対して羨望が混じっていたことだろう。好奇の視線ではなく、憧憬の念が強く見えた。

 

 

「ここだ。──陛下、キズメルです」

 

「入りなさい」

 

「失礼します」

 

 

 針の筵に近い状況のまま、城内を歩くこと数分。少しばかり複雑な道のりを進んだ後に両開きの扉の前に到着すると、中に誰かいるのかキズメルが伺いを立てる。陛下と呼んだことから、この先で3人を待つ相手がリュースラの王族であることは容易に想像がついた。

 

 しかし王族が何故? そう思わずにはいられない紗夜と日菜だった。

 

 確かに忠臣であろうキズメルと懇意にしてはいるが、だからといって王族にまで話がいくとは考えにくい。それでも尚キズメルとの接点を重視した何らかの思惑があるというのであれば、それは彼女の願いを汲んでの可能性が出てくる。俄かに姉妹の気分が上向いた。

 

 

「ようこそ、人族の戦士たち。あなた方の来訪を心待ちにしておりました」

 

 

 そうして開かれた扉の先には、会議室なのか大きめの円卓が置かれていた。その中で最も上座であろう位置にある少しばかり華やかな椅子に座していた女性が立ち上がり、微笑みを湛えつつ3人を出迎えた。

 

 

「紹介しよう。このお方こそが我らリュースラの王、《イズレンディス》女王陛下だ」

 

「ご丁寧にありがとうございます。私はサヨで、こちらが」

 

「あたしはヒナ」

 

「ヒースクリフと言う」

 

「あなた方のご活躍はかねがね耳にしております。キズメルのこともそうですが、我らリュースラの民の為に働いてくれたと。そして何より……カレス・オーの為にも」

 

 

 自己紹介の傍ら、女王が口にした言葉に対して虚を突かれた様な姉妹。まさかと思いつつも一度顔を見合わせてから互いに頷き、不敬を承知で訊ねてみることにした。

 

 

「失礼ながら、意外だと思いました。リュースラと敵対している勢力に力を貸したことを咎められるのかと危惧していましたが、そのご様子では女王様は争いに積極的では無いということでしょうか?」

 

「サヨ。流石に不躾が過ぎるぞ」

 

「良いのですよキズメル。この方々には、特にサヨさんにはそれを知る権利があります。この程度の問いであれば、そうかしこまることも無いでしょう」

 

 

 直球過ぎる物言いに対してキズメルが苦言を呈すが、イズレンディスがそれを制す。

 

 

「一先ず、立ち話もなんでしょう。お好きなところにおかけになってください」

 

 

 この場における主賓が促し、円卓の座席の好きなところに腰を下ろしていく。上座の位置に女王が座り、その隣にキズメルが立ったまま。円卓を挟んで反対側に紗夜が座り、その両隣を日菜とヒースクリフが固める形で席に着いた。

 

 

「では先程の問いについてですが、私としてはカレス・オーと争いを続けるつもりはありません」

 

「何か理由が?」

 

「これ以上争い続けても互いに利は無い、というのもあります。ですが一番の理由は、二つのエルフが争い合うことに意味を見出せなくなったからです。そもそもの話になりますが、あなた方は両エルフが争う様になった経緯をご存じでしょうか?」

 

「いえ、流石に知りません」

 

 

 言われてみれば、何故エルフが争う羽目になったのか聞いたことがないと思い至った紗夜は首を横に振る。《秘鍵》を巡ってとは見て来たことだが、だからといってきっかけについては今の今まで知らなかったのだ。

 

 

「そうでしょう。まずはそこから話す必要があるのですが……キズメル」

 

「はい、陛下」

 

「あなた、リュースラに伝わるお伽噺は知ってるわよね?」

 

 

 イズレンディスに話題を振られたキズメルが一時考え、顎に手を当てる。

 

 

「お伽噺、と言いますと……種族の垣根を超えたエルフたちが恋人になるという、アレですか?」

 

「それよ。簡潔で良いから、話してちょうだい」

 

「承知しました」

 

 

 命令を受けたキズメルはゴホンと咳ばらいを一つ挟み、お伽噺とやらを思い出しながら話し始めた。大事な内容なのだろうか、紗夜たちの表情も真剣味を帯びていく。

 

 

 

「──昔々、あるところに、カレス・オーの少年とリュースラの少女がいました。自分たちこそが《聖大樹》を守るに相応しいと二種族のエルフが争い続ける中、その互いの領地の境界で偶然にも出会ってしまった二人は、運命的なものを感じてかその場で恋に堕ちてしまいます」

 

「二人は隙を見て逢瀬を重ねる様になり、境界線を越えないという制約つきで愛を育んでいきました。何せ敵対し合う種族間の秘密の恋は、他人にバレてしまわないように気を付けなければなりません。このことが露見してしまえば、例え二人の身内であろうと祝福してくれる者はいません。それどころか二人の仲は引き裂かれ、二度とお互いの姿を見る事すら叶わなくなってしまうでしょう」

 

「しかし会えば会うほどに二人の想いは募るばかり。いつしか境界線を越えて接する様になっていき、愛する気持ちはどんどん大きくなっていきます」

 

「そんなある日、遂に二人の逢瀬がバレてしまいます。リュースラの少女は家族に怒られた末に軟禁されてしまい、外に出ることが出来なくなってしまいます。そうとは知らないカレス・オーの少年は毎日のように境界へと赴き、少女を待ち続けました」

 

「そんなことをしていればカレス・オーの少年側も怪しまれてしまいます。何故そんなにも境界に出向くのかと訊ねられた少年はパトロールの為だと言い訳しますが、誰にも信じて貰えません。今後境界へと出向く際には他に一人付けなければならないという制約を課されてしまいます。これでは会えたとしても二人きりにはなれませんし、それこそ実質的な見張りの者に逢瀬がバレてしまいます」

 

「どうしたものかと悩んだ末に、カレス・オーの少年は見張りを受け入れました。リュースラの少女に会ってみないことには事態が改善しないと思ったからです。こうして、二人の逢瀬は果たされないままに何年かの時が過ぎ去ります」

 

「ある日、流れた月日はカレス・オーの少年を青年へと成長させ、それでもなお諦めきれずに見張りを伴いながらも足繫く境界へと出向いた時のことでした。青年は境界の目印にもなっている木の幹に、何か文字が彫られていることに気が付きます」

 

「当然ながら見張りも気が付きますが、この文字が何を意味しているか見当がつきません。それもそのはず、彫られていた文字はカレス・オーとリュースラ両方の文字が乱雑に混じっていて、まるで意味を成さない羅列になっていたからです」

 

「その場では、いずれかの子供の悪戯だろうということで片付け、カレス・オーの青年の手によって文字は消されてしまいます。──これこそが、恋に堕ちた二人がもしもの時の為に考えておいた暗号でした」

 

「内容は、意味の無い文字の羅列が刻まれた日からぴったり30日後の夜に、ここより北へ進んだ先にある二つのエルフたちとは違う、また別の種族の領地との境界で再会しようというものでした。30日後というのは、その日だけは両エルフが争いを止めて互いの健闘をたたえ合うという祭りの日であり、酒が振舞われることもあって監視の目が緩くなるからです」

 

「今すぐにでも飛び上がって喜びたい気持ちを必死に抑え、それからもカレス・オーの青年は見張りと共に境界へと足を運びました。特に異常は無いと思わせつつ、約束の日時を迎えることに成功します」

 

「祭り当日の夜。酒に酔う者たちの隙を見てカレス・オーの青年は席を立ちました。酔いが回り過ぎたから風に当たると言い訳をして、人目が切れたところで駆け出します。待ちに待った彼女との再会の日、あの頃とは違う自分の姿を見て分かって貰えるのかという幾ばくかの不安を胸に、青年はカレス・オーとリュースラ、そして人族の3種族の境界へと急ぎました」

 

「二人の再会を祝福するかのごとく、雲一つない月明りの下。息を切らした青年が待ち合わせの場所に辿り着くと、そこには一人の美しい娘がいました。間違えるはずはありません。何年も前に逢瀬を重ね、互いに好き合ったあのリュースラの少女が、面影を残したまま成長した姿で佇んでいたのです」

 

「かつては少女だった娘も成長を遂げ、一人の青年と一人の乙女は改めて生涯の愛を誓い、自分たちの道を貫いていったのでした。めでたしめでたし──という物語だな」

 

 

 

 

「まるでロミオとジュリエットね」

 

「薫くんと千聖ちゃんが文化祭で演劇やってたなぁ」

 

 

 リュースラに伝わるというお伽噺を聞き終えた紗夜の感想に、日菜がそう添える。

 

 

「人族にも同じ様な物語が?」

 

「似ているというだけで別物ですよ」

 

 

(間違いなく設定のベースになってるとは思うけれど)

 

(絶対ロミジュリが元ネタでしょ)

 

 

 キズメルの疑問に答えつつ、姉妹揃って内心では確信していた。

 

 

「しかしながら女王様。あなた方の知るこの物語に何の関係が?」

 

 

 そう切り返す紗夜だったが、対するイズレンディスの表情は些か険しかった。まるで言いにくいことでもあるのか、傍に控えるキズメルの顔を窺っている様子であった。

 

 

「キズメル。あなたはこのお伽噺を聞かされた時にどう感じたのかしら」

 

「そうですね……夢のあるお話だと思いました」

 

「そうでしょうね……ごめんなさい。今から語ることは、その夢を壊す様なことになるわ」

 

「陛下……?」

 

 

 そう前置きしたイズレンディスは、このお伽噺の真相について語り始める。

 

 

「我々の間に伝わっているこのお伽噺は、二人が結ばれて駆け落ちしたところで物語としての終わりを迎えています。今となっては争い続ける両種族の間に生まれたラブロマンスは、さぞや美しい夢物語として語り継がれてきたことでしょう。ですが、この物語には続きがあります」

 

「駆け落ちを果たした二人は、どちらのエルフに頼ることも出来ないので人族の領地へと足を踏み入れました。その内、辺境の村の更にはずれに簡素な家を建て、そこで暮らし始めます」

 

「辺境に住む村の人々は二人に対して偏見も薄く、細々とながら確かな交流も得つつ時が過ぎていき、二人の生活は祝福されているかの様でした。そして愛し合う男女の間に、やがて一つの生命を授かることになります」

 

「子供も生まれ、違う種族の者たちとの共存も順調。このまま二人のエルフは新たな家族と共に幸せな家庭を築き上げていくのだと、誰もがそう考えていました」

 

「ところが、誰も予想だにしなかった方向へと事態は急転します。彼らの暮らす村が、同じ人族でも違う国の者たちによって襲撃されてしまい、壊滅してしまったのです」

 

「エルフの家族こそ無事でしたが、被害の大きさから村の再起は不可能。移住を余儀なくされてしまうのですが、元より彼らを迎え入れてくれたこの村の方が珍しかったのも事実でした。現実は彼らに厳しく、他の人族の村では受け入れて貰うことが叶いません」

 

「このままでは定住することは疎か、まともに生計を立てていくことも出来ない。生まれてきた子供のためにも、二人はある決断を下します。──二人の故郷、カレス・オーとリュースラの地へ」

 

 

「それこそが、本当の意味での破滅への一歩とも知らずに」

 

 

「人族の領地で知り合った友人夫婦に一旦子供を預け、二人はそれぞれの領地へと帰還します。どうやら単に行方不明だと思われていた様で、無事だったことを喜ばれました。ですが二人の目的は子供のための定住、熱い歓迎を他所に探りを入れていきます」

 

「二つのエルフの争いは止むことなく、相も変わらず駆け落ち前と変わらない様子でした。であれば価値観も同様で、二人の仲が祝福されることはありません。そこで二人は、二つのエルフの戦争を止めようと決意しました」

 

「争うから認められないのであれば、その元凶を止めてしまえば良い。それからの二人は子供の為だと尽力し、努力を重ね、それぞれの王に認められる程の地位を得ました。そしてそれとなく進言していき、入念な根回しを経て停戦交渉へと漕ぎ着けたのです」

 

「これでまた三人で暮らすことが出来る。万感の想いを胸に子供を預けた知人の元へとやって来た二人を待っていたのは、誰もいないボロボロの家屋でした」

 

「二人は子供の為に奔走するあまり、自分たちと人族とでは寿命が圧倒的に違うことを忘れていたのです。停戦を決意してから現実にするまでの間、エルフたちにとってはそうでもない時間も、人族の者にとっては生を終えるに十分すぎたのです」

 

「ただし二人の子供はエルフに相違ありません。寿命が尽きる訳も無く、餓死していなければ何処かで生きているはずでした。二人はそれぞれの王様に全てを話し、捜索願いを出すに至ります」

 

「停戦の立役者の間に子供がいたことはエルフたちを震撼させましたが、半ば英雄的な存在にもなっていました。誰一人として二人の行いを咎めることなく、子供の捜索は精力的に行われていきます」

 

 

「そんなある日のことです。一人のエルフが《聖大樹》に触れようとし、呪いをかけられたというのは」

 

 

「我々もそうですが、エルフたちにとって《聖大樹》とは絶対的な象徴です。全てのエルフたちの魔力の源ともされている《聖大樹》は途方もない力を内包しており、《大地切断》前はエルフに限らず生きとし生ける全ての種族を支えてきたとされています」

 

「当然、《聖大樹》には力があります。定められた巫女以外が《聖大樹》に触れるという事は、その力を得ようとすることに他なりません。故にエルフたちの間では、《聖大樹》の怒りを買う最大の禁忌とされていました」

 

「誰でも分かるその様な愚行を犯した者は誰か。両種族の代表の前に連れてこられた者は、神罰でも下ったのか見るに堪えない姿へと変貌させられていました。肌は黒緑色に変色し、日光が駄目なのか所々皮膚が焼け爛れているという醜い姿にです」

 

「それぞれのエルフたちはこの者を侮蔑しました。禁忌に触れ、《聖大樹》の怒りを買った愚か者以外の何物でもありません。しかし、例の二人だけは違いました」

 

 

「何故ならその大罪人は、二人の子供だったからです」

 

 

「成長したことで容姿こそ変わっていましたが、二人には自分たちの子供だとすぐに分かりました。思えば、子供が生まれた頃には既に二人は人族の領地で暮らしていましたから、エルフの慣習について教える機会が無かったのでしょう。それ故にこの子供は《聖大樹》に触れることがどういうことかを理解しておらず、一線を越えてしまったのだと推測されました」

 

「《聖大樹》にまつわる禁忌を犯すことはすなわち、極刑を意味しています。それを知る二人は、この大罪人が自分たちの子供であると宣言し、助命嘆願をしました。自分たちは英雄として名が通っているという驕りもあったのでしょう、これまでと違って実に軽率な判断を下してしまいます」

 

「もう一度言いますが、エルフたちにとって《聖大樹》とは絶対の存在です。いわば神そのものと言って差し支えありません。当然、英雄よりも遥か上に当たります。ですから、二人の願いが聞き届けられることは疎か、大罪人を生んだ元凶として二人とも捕らえられてしまいます」

 

「最後は、この様な愚行を犯す者が二度と現れない様に三人を処刑し、その生涯を両種族の汚点として語り継がせ、戒めの物語としました。これこそが、あのお伽噺の本当の結末なのです」

 

 

 イズレンディスが語り終えると、この場に居る者たちの間に何とも言えない空気が漂った。

 

 幸福の物語が一転し、後味の悪い結末へと至る。子供に夢を見せる物語が、本当は現実を見せる為のものだとは思いもよらないことだろう。

 

 自分たちのことでは無いとは言え、どうにも拭えない胸糞悪さを覚える紗夜だったが、彼女の中で一つだけ納得のいかない部分が存在していた。思いの外消沈し過ぎてしまった空気を変える意味も兼ねて、この場で唯一真実を知っているであろう人物に対して質問を投げかける。

 

 

「一つだけ解せません。二人の子供は、どうして《聖大樹》に触れようと思ったのでしょうか。何も知らされていないのであれば《聖大樹》についても知らないでしょうし、敢えて向かおうともしないはずです。それどころか事情すら判明しないエルフの領地へ赴くなど自殺行為にも等しいと言うのに、そこまで頭が回らないなんてことがあるのでしょうか」

 

 

 そんな尤もな言い分に、イズレンディスが頷いて見せる。

 

 

「その通りです、サヨ。表向き、二人の子供が《聖大樹》を目指す理由は何処にもありません」

 

 

 ですが、と前置きした女王は、一際険しい表情でこう告げた。

 

 

「この一連の物語には、裏で暗躍する第三者が存在しています。二人の子供を唆し、《聖大樹》の力を我が物にしようと目論んでいた、本当の意味での大罪人がいたのです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その者は《原初のフォールン》と呼ばれており、この世で初めて禁忌を犯した真の大罪人。そしてこのフロアの《天柱の塔》に繋がれている、今もなお生きている現実の存在です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







次回もエルフ関連のエピソードになるので、いわゆる説明回が続きます


〇《雪結晶の森》

カレス・オーが秋なら、リュースラは冬である。第九層に入ってすぐに白樺の木があるから寒冷地だろうという予想は的確だったという話

こっちはもろに雪が降って居たりして葉っぱの類は全部枯れている。山に囲まれた谷だったり凍った湖や川が見られる。ちなみに《月煌城》がカルデラ湖にあるかどうか分からないけどイメージ優先でそうした


〇イズレンディス女王

リュースラの王様。実は姉がいたので彼女は妹にあたるのだが、SAOは要所の登場人物に姉妹が多い気がしてきた


〇エルフのお伽噺

こっちでもアレンジこそしてあるが、元ネタはどう聞いてもロミジュリである。一般的に伝わっている範疇ではハッピーエンドだが、知る人ぞ知る本当の結末ではバッドエンドである


〇《原初のフォールン》

全ての始まりにして、全ての元凶。そして第九層のフロアボスでもある

コイツが悪さしようとした過去があり、それを食い止めて《天柱の塔》に封印したのが《聖大樹》の巫女である。そんな巫女は今現在休眠中であり、SAO中に目覚めることは無い設定上の存在となっている




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