夜を日に継ぐ   作:百三十二

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これでも駆け足な方です、すみません

エルフの歴史についても、ある程度アレンジ入ってます


宣戦布告

 

 

 

「《原初のフォールン》……その様な存在がいたと。しかし《天柱の塔》に封印されているというのは?」

 

 

 お伽噺を聞き終えた紗夜だったが、イズレンディスの言い方に引っかかりを覚えていた。

 

 一つは、お伽噺だと言うのだから空想上の物語に過ぎないと思っていたのに、登場人物を裏で操っていた黒幕が実在しているということ。つまりこのお伽噺とやらは実話か、実話をモチーフにして作られた物語かの二択となってくる。

 

 そしてもう一つは、名前からしてフォールンエルフたちとの関連は確実としても、あのノルツァーよりも上位であろう存在をどうやって封印したのかということだった。

 

 

「その話をするためにも、次はノルツァーについて語らなければなりません」

 

 

 そう言ってイズレンディスは目を瞑り、懐かしいものを思い起こす様に愁いを帯びた表情をした。

 

 

「既にお察しかと思いますが、先のお伽噺は概ね現実にあった出来事です。以来、リュースラとカレス・オー両種族には戒めの物語として語り継がれる様になり、それと同時に両方の血を引く者、つまるところ《ハーフエルフ》とは災いの象徴とされてしまいます。これもあって両種族の溝はより深まってしまいました」

 

「それを態々語るという事は」

 

「ええ。ノルツァーはハーフエルフです。それも我が姉である先代リュースラ女王と、現カレス・オー国王との間に生まれた、両王族の血を引く者です」

 

「「「!?」」」

 

 

 あまりの爆弾に、紗夜と日菜のみならずキズメルまでもが驚愕した。

 

 確かに、イズレンディスの話そうとしていることからノルツァーがハーフエルフやその類の者であるという推測はたった。だがそれがよりにもよって王族同士のというのは、とんでもなさすぎる事情と言えるだろう。現にプレイヤーたち以上に関係があるだろうキズメルも開いた口が塞がらないのか、彼女にしては珍しいくらい呆けた表情をしていた。

 

 

「それは本当なのですか陛下!?」

 

「落ち着きなさいキズメル」

 

「ですがっ……それが本当だとしたらノルツァーは王族ということになります。それ程の血筋の方が、何故フォールンエルフに身を堕としてしまっているのですか?」

 

「それこそが、先程まで語ったお伽噺に関連しているのよ」

 

 

 動揺からか、自らが仕える女王に対して訊ねてしまうキズメル。それを諫める様に片手で制しながら、イズレンディスは尚も語り続ける。

 

 

「我が姉が女王ではなく王女、カレス・オーの国王が王太子だった頃の話です。お伽噺でも語られた様に、二つのエルフは争い続けていました。その戦乱の最中にあって、戦いで疲れた心癒さんと立ち寄った僻地にて偶然にも出会ったしまったのです」

 

「当然、リュースラにとってはカレス・オーの王太子が、カレス・オーにとってはリュースラの王女が相容れぬ敵であるということは互いに承知していました。予期せぬ出来事ではありましたが、相手を倒さんと二人は戦いを繰り広げ始めます」

 

「しかし決着はつきませんでした。二人の実力が完全に拮抗していたからです。三日三晩戦い続けたそうですが、それでも両者の間に勝敗がつくことはありませんでした。そうこうしている内に、それぞれの臣下たちがそれぞれの身を案じて駆け付けてしまい、勝負はお預けという形になります」

 

「以来二人はあの日の決着をつけようとして、隙を見ては一対一での戦いをする間柄になりました。何をしても拮抗する実力は、やがて互いの存在を認め合う好敵手へと変化していき、時を重ねるごとにいつしか淡い恋心へと昇華していきます。そして二人が戦うことを止め、それぞれが女王と王として即位した後、二人の間にノルツァーが生まれます」

 

「その頃になると両エルフの争いは沈静化の一途を辿っており、各王族が手を回し続けた甲斐があったことでしょう。二人が望むならと、周囲の者たちは賛同する姿勢を見せていきます。ですが、その様な状況にあってもなお二人の仲を認めない者たちがいました」

 

「《神官》たちです。彼らはエルフの中で最も選民思想が強く、自らの種族こそが最も優れているという考えの持ち主たちでもあります。それ故に戒めの物語について酷く怯えており、その立場や思想が覆されるのを恐れていました。彼らにとってハーフエルフとは、これまでの歴史をひっくり返す存在となる可能性が高く、到底認められるものではなかったのです」

 

「手始めに神官たちは民を扇動し、戒めの物語を広めます。ハーフエルフは存在してはいけないという思想を根強いものにしようとしたのです。姉の妊娠が発覚し、ノルツァーの誕生が決定的になった時から行動は起こされていました。その結果、ノルツァーが誕生する頃には民の大半が姉を批判する様になり、とてもではありませんがまともな育児の出来る環境ではなくなってしまいました」

 

「このままでは生まれてくる赤子どころか、その母体である女王ですら民に殺されてしまう。それでも二人は生まれてくるであろうノルツァーを育てようとしましたが、王という立場から事実上民を人質に取られてしまい、神官たちの手によって赤子を取り上げられてしまいます」

 

「自分たちの子供の為に国や民を捨てることは、二人には出来ませんでした。可能であればそうしたかったのでしょうが、ままなりませんでした。この事に関しては妹の私としても忸怩たる思いでしたが、今でさえ後悔ばかりが募ります」

 

「……さて、取り上げられてしまった赤子のノルツァーがどうなったかという話ですが、彼は二つの領地の境界に建てられた砦に幽閉されることとなります。彼の存在もまた、女王と王にとっての楔となるからです」

 

「親の愛を知ることも無く、教育係の者と会話するだけの日々。ハーフエルフの子供は、自分が何者なのかを知らぬまま時を過ごしていきました。そんなある日、監視の目をかいくぐって彼に接触する者が現れます。他でもありません、《原初のフォールン》です」

 

「《原初のフォールン》の目的は《聖大樹》の力を我が物とすることでした。しかしお伽噺で語られている通り、過去に唆した者では失敗してしまい、そのせいで《聖大樹》に近づける者は王族や神官といった限られた者のみと定められていました。《原初のフォールン》自身は既に《聖大樹》の呪いを受けている身であり、近づくことすら出来ない状態です。第三者を誘導する必要がありましたが、その隙を常に窺っていたのでしょう。王族の血を引くノルツァーの幽閉は、まさに渡りに船だったはずです」

 

「そうしてノルツァーは《原初のフォールン》と出会ってしまい、顔を見ることも叶わない肉親の代わりだと刷り込まれていきます。ノルツァーにとって《原初のフォールン》がもたらすものは新鮮で、画期的で、何よりも彼の心の隙間を埋めてくれるものでした。彼が傾倒してしまうのも、仕方なかったのでしょう」

 

「いつしかノルツァーが子供から青年へと成長を遂げた頃、彼は教わったまじないを用いて砦を脱走し、演説を繰り返していきました。リュースラの民の前では黒エルフとして、カレス・オーの民の前では森エルフとして振る舞い、自らの種族こそが《聖大樹》に相応しく、相手の種族はそれを妨害する敵だという言葉の毒を沁みこませていきます」

 

「しかしながら、両種族の敵対を煽る様な真似をしてしまえば、《聖大樹》の怒りを買うのは必然だったと言えるでしょう。彼はその野望を果たすよりも先に罰を受け、フォールンエルフへと身を堕としてしまいます。道半ばで《聖大樹》から拒絶された形ですが、これに彼は納得出来ませんでした」

 

「いつしか彼は、自身が認められなかった事に対する怒りと、フォールンエルフに課された苦しみ、そして生まれたばかりの彼が受けた仕打ちとそれを実行した者たちへの恨みと憎しみを爆発させ、《聖大樹》を含む全てを破壊せんと蜂起します。彼の元には、何らかの理由でフォールンエルフに身を堕とした者たちが集っていき、見境なく破壊行動を取り始めました」

 

「これだけであれば、二種族のエルフでの内乱でしかありません。しかしこの事態を予測していた《原初のフォールン》は大陸中のありとあらゆる国家に不和の種を蒔いておき、同じタイミングで芽吹くように誘導した結果……大陸全土を巻き込んだ大規模な戦争へと発展してしまいます」

 

「最早事態はエルフのみならず、全ての種族が絶滅に危機に瀕していました。一刻の猶予も残されてない、その状況にあってノルツァーの両親は王としての決断を下します」

 

「現カレス・オー国王でもあるノルツァーの父は、ノルツァー率いるフォールンエルフの軍団をあらゆる草木が育たない寒冷の地へと追いやることで事実上の隔離を決行しました。そして我が姉にしてリュースラの女王でもあったノルツァーの母は、その命を賭して《原初のフォールン》を封印することに成功します」

 

「エルフとしての内乱はここで終結しますが、大陸全土の争いを止めることは叶いません。あらゆる生命の滅亡を阻止すべく、《聖大樹》とその巫女は《大地切断》を実行し、《天柱の塔》を形成しました。その際に《原初のフォールン》が封印されていた牢獄が《天柱の塔》に吸収された様です」

 

「これがノルツァーの過去と、二つのエルフの歴史と、倒さなければならない者の正体です」

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 一度に大量の話を聞かされた私たちは、その情報を精査するのに一苦労だった。

 

 イズレンディス女王が語ったことが真実だとして、これから先ノルツァーと敵対した時にどうしろというのだろうか。可哀想な過去を持つから同情しろなのか、それでも犯した罪が消える訳ではないから倒さなければならないのか、全ての元凶が悪いと決めつけるのか。

 

 しかし彼女が態々これを聞かせたということは、《聖大樹》が眠る《聖堂》の開放を目論むノルツァーは止めなければならないという私たちの考えが変わることは無い、という確信があるのだろう。過去がどうであれ、今を生きる者のためには阻止しなければならないし、であればノルツァーも討伐する必要がある。

 

 きっとこれは、私たちに対する誠意であると同時に、イズレンディス女王から見た今を生きる者であるキズメルさんに向けたメッセージなのだろう。自分たちは過去にこれだけのことをしてきたが、彼女の様な未来を担う若者たちはこれを反面教師として同じ轍を踏んで欲しくないという願いでもある。

 

 キズメルさんが二つのエルフには争い以外の道があるのではないかと模索し始めたことを、恐らくこの女王陛下は把握しているに違いない。だからこそ、自分たちでは成しえなかった夢物語を託そうとしているのだろう。

 

 その為の協力者として私たちがいる。ハーフエルフという存在では出来なかった両種族の懸け橋として見立てられた私たちと、かつての願いを実現しようと立ち上がったキズメルさん。この二つが揃ったからこそ、女王陛下は自分たちの過ちを懺悔し、判断を委ねて来たのだ。

 

 

 であれば、私たちが取るべき選択は決まっている。

 

 

 この負の連鎖を食い止め、キズメルさんたちのこれからを守る。

 

 

「キズメルさん」

 

「サヨ……」

 

 

 自身が生まれるよりも前の歴史を知り、二種族の融和が悪用されてきた事実を前にキズメルさんは迷っている様だった。本当に和平は実現出来るのか、それともまた何者かに邪魔されて最悪の末路へと進んでしまうのではないか。一個人が手を拡げるには、あまりにも大きな障害だろう。

 

 だが彼女は一人ではない。過去には居なかった第三勢力の協力者である私たちがいる。

 

 

「進みましょう。ノルツァーを倒し、《原初のフォールン》を滅する。そして今度こそリュースラとカレス・オーが手を取りあえる未来を掴むんです」

 

「自信はあるのか?」

 

「違います。やるんです。出来るかどうかじゃありません、やらなきゃ駄目なんです。あなた方エルフたちが争い続ける限り、《原初のフォールン》が諦めることは無いのでしょう。今はまだ封印されていますから、直接的な干渉はしてきていません。しかし生きている限りは、間違いなく第二第三のノルツァーを生み出すと考えられます」

 

「……そうか、そういう考えもあるのか」

 

「結局、何が正しいかなんてのは分かるものではありません。後から後悔することもあるでしょう。ですが過ちをそうだと分かっていて見過ごすことは、絶対に許される行いでは無いです。そこから学んで進んできたからこそ歴史が記されているのですから、私たちもその例に倣って行動すべきです」

 

 

 人は間違いを犯す。私もそうだった。妹の才能に嫉妬して八つ当たりしていた過去がある。

 

 でもそこで終わらず、色々な方の出会いを経て過ちを認め、前に進むことが出来ている。

 

 

「やりましょう、キズメルさん。あなた方の未来を作るのは、あなた方自身です。私たちには、その手伝いをさせ欲しい」

 

 

 だから私は彼女に手を差し伸べる。席を立ち、彼女の隣に並ぶ。

 

 私と似ている彼女には、これが必要だと思ったから。

 

 

「……ああ、そうしよう。私には、こんなにも頼れる友がいるのだ。俯くのは後からでも出来る。今は出来ることすべきとは……私もそう思う」

 

 

 遂に意を決したのか、彼女の表情から迷いが消えていく。心配そうに見つめていた女王陛下も、望ましい展開になったことを察してか少しばかり破顔していた。

 

 

「では」

 

「恩に着る。我々リュースラの……いや、二つのエルフの未来の為に、共に戦おう!」

 

「はい!」

 

 

 キズメルさんが決意を新たにしたことによって、リュースラとしては敵をフォールンエルフに絞り、カレス・オーとは和平の道を目指すこととなった。

 

 ノルツァーや《原初のフォールン》の討伐は分かりやすい話だが、カレス・オーとの交渉はどうするべきか。目標が決まった後の話し合いは、そこが重点的に行われていった。

 

 その足掛かりとして、私たちがカルさんから解毒薬の調合を託されたことを伝えた。カレス・オーとフォールンが手を組んでいる内情を把握してもらい、国王が快復することで宰相の暴挙を止めることが出来れば、カレス・オーとの争いを止めるきっかけになるかもしれない。これに関しては女王陛下の同意を得られ、リュースラの薬師に手配するとのことだった。

 

 

 そもそも、リュースラが《聖堂》の開放を望まないのに対してカレス・オー側が逆なのは、《聖堂》に秘められし力を狙っている者がかけた保険だという。恐らくは両種族の神官たちの中にいる《原初のフォールン》の息が掛かった者が仕組んだ計画の内であり、二つのエルフを争わせることで隙を作るつもりだったとのこと。

 

 それ自体は女王陛下も察していたことだそうだが、如何せん両種族における神官たちの地位は女王に次いで高い。その上、生きている年齢だけで言えば神官たちの方が長生きしているのだから、王よりも立場が上だと思いあがっている節すらあるそうだ。

 

 現に神官たちは、人族である私たちを正面から受け入れるつもりはなかったらしい。ある事情からこの件については黙らせることが出来たらしいが、その鍵が私にあるという。

 

 

「よく聞いてください、サヨ。あなたは《聖大樹》から根別れした、カレス・オーの《霊樹》の加護を受けています。《霊樹》が認めたという事は即ち、《聖大樹》の決定に他なりません。つまり今のあなたは神官たちでさえも口出し出来ない立場にいます」

 

 

 女王陛下が言うには、私は《聖大樹》に選ばれたそうだ。前にカレス・オーの城へ潜入した帰りに見た謎の光は、この世に二つあるという《霊樹》の片割れのものだという。確かに導かれる様な感覚があったことを伝えると、間違いなく《聖大樹》の思し召しだと断言された。

 

 いまいち実感が湧いてこないが、どうやら私はエルフたちにとって特別な立場になってしまった様だ。

 

 

「《聖大樹》の巫女が眠りにつく前に、ある言い伝えを残していきました。『《聖大樹》を巡る争いを終わらせようする意志が生まれた時、他種族から《救世主》が降臨するだろう』と。恐らくですがサヨ、あなたはその救世主です」

 

 

 などと大層な肩書を得てしまった訳だが、だとしてもやることは変わらない。気分が高揚している様な、調子が良い様な気がするその原因が判明しただけだ。

 

 

「救世主だってさ、おねーちゃん。何かかっこいいね? るんって来た?」

 

「そこはどうでもいいでしょう? あくまでも大事なのは肩書だけなのだから」

 

「ふむ、つまりは《聖大樹》の遣わした救世主としてサヨを喧伝すれば、神官たちを抑えることが出来る訳だな」

 

「そうなると、残るはノルツァーに関してですが。策はあります」

 

「陛下、それはどの様な?」

 

「《秘鍵》を破壊し、《聖堂》を永遠に封鎖します」

 

 

 イズレンディス女王が、とんでもない決断を下す。

 

 

「元々《聖大樹》は我々を見守ってくれているのです。《聖堂》が封鎖され、《聖大樹》の姿を拝むことが果たせなくなったところで、それは変わりません。中途半端に《聖大樹》に触れる機会が残っているのがいただけないのです。なので私は、《秘鍵》の破壊を提案します」

 

「神官たちが認めるでしょうか?」

 

「認めないでしょうね。ですからこの様に──」

 

 

 そう言って彼女は手元に6つの色とりどりの鍵を取り出して見せる。

 

 

「神官たちの目を盗み、既に手配済みです。これがあるから争いがやまないというのあれば、私は──」

 

 

 

 

 

 

 

 

「それは困るな。だからこれは貰っていくぞ」

 

 

 

 

 

 

 

「っ!? そこっ!」

 

 

 何処からともなく第三者の声が響き渡り、何かを察知した日菜が私の足元に向かってナイフを投擲する。

 

 いきなりのフレンドリーファイア疑惑だが、私に動揺は無い。日菜の狙いが私ではなく私の真下、より厳密にいえば私の影に向いていたのが分かっていたからだ。

 

 日菜が投擲したナイフは私の影を縫い留める様にして床に突き刺さった。その後、黒い影が不気味に揺れたかと思えば、私の影から何かがぬるりと出て行き、形作っていく。

 

 

「ちっ、勘のいい奴め。絶好の機会を逃してしまったではないか」

 

「貴様っ、ノルツァー!」

 

 

 中から現れたのは、なんと先程まで話題に上がっていたノルツァーその人だった。

 

 

(いつの間にそんな……もしかして!)

 

 

 状況を見るに、どうやら彼は私の影を通してテレポートしてきたらしい。いつの間にそんな仕込みがとも思ったが、ヴェンデリンさんを救出しようとして彼と遭遇した時に影から攻撃が飛んできたことを思い出す。あれが攻撃であると同時に仕込みであったとすれば、あの時からノルツァーはこうなる可能性を読んでいたことになる。

 

 確かに、二つの王家の血を引く者らしく知恵が回るということか。

 

 

「そこの女が《霊樹》に近づいたせいで、まじないのマーキングが薄れていた。それ故に奇襲の際に起こりが発生し、それを勘の良い奴に気取られてしまった、か」

 

「一人でノコノコと現れたかと思えば、貴様は今囲まれているのだぞ!」

 

 

 何かをぶつぶつと呟くノルツァーに対し、女王陛下を守る様にして立ちはだかるキズメルさんが声を荒げる。

 

 己の目的が達成されなかったことへの怒りでもあるのかと思いきや、孤立しているにも関わらずノルツァーは冷静に分析をしている様だった。かといって影を駆使する彼と室内で戦えというのも厳しい話だろう。こちらから手を出すことは出来ず、相手の出方を窺う他なかった。

 

 

「そうか……貴様がそうなのか」

 

 

 不意に彼の視線が私へと注がれる。暗い闇を湛えた瞳に射抜かれた私は、その中に確かな嫉妬を見た。

 

 

「何故だ……《聖大樹》はこの私ではなく、貴様の様な小娘を選んだのだっ!」

 

「っ!?」

 

 

 憤怒の炎を爆発させたノルツァーが、何処からともなく取り出した剣を手に私へ向かって突っ込んできた。

 

 何となく来るとは思っていた。彼は私を目の敵にするという確信があった。

 

 だから私は冷静にバックステップをして下がり、横からの介入を待った。

 

 

「させんよ」

 

「邪魔をするな!」

 

「ならば私を突破してみせるが良い!」

 

 

 その期待にヒースクリフさんが応じてくれた。ノルツァーの突撃を盾で防ぎ、堅牢な立ち回りをもって硬直状態にする。

 

 苛烈なノルツァーの勢いに負けることなく捌ききる姿は流石の一言であり、騒ぎを聞きつけた者たちが駆け付けるには十分な時間を稼ぐことに成功する。

 

 ヒースクリフさんを突き崩せないノルツァーだったが、次第に頭が冷えていったのか攻めるのを止め、会議室の中央に陣取った。

 

 

「……そこの女、カイサラから聞いた名ではサヨとか言ったな」

 

「それが何か?」

 

 

 様々な負の感情がない交ぜになった視線が向けられ、背中に伸ばした手で矢を掴もうとしたのを止める。

 

 

「3日後、《聖堂》の前にて待つ。その際、そこにある6本の《秘鍵》を持ってこい。いずれかの約束が果たされなければ、我々フォールンエルフは《原初のフォールン》を解放し、世界を混沌へと陥れると宣言しておく」

 

「あ、おい! 待っ──消えた……」

 

 

 言いたい事を言い切ったノルツァーは、駆け付けた衛兵の言葉を無視してそのまま自身の影を通って去ってしまう。

 

 後に残された私たちは、突然の奇襲に驚きこそしたものの何とか無事にやり過ごすことが出来て安堵した。

 

 

 だが同時に、ノルツァーから事実上の宣戦布告をされたという現実が重くのしかかる。

 

 これではノルツァーと対峙するまで《秘鍵》の破壊は出来ず、また彼を無視することも出来ない。仮に約束が嘘だったとしても、こちらから確かめる術はない。

 

 

「やられた、と言うべきかしら」

 

「《秘鍵》が無事なだけ、最悪は回避したと言えましょう。陛下こそ、傷はありませんか?」

 

「ヒナが機先を制してくれましたから。助かりましたよ、ヒナ」

 

「嫌な感じがしたからね。何にもならなくて良かったよ」

 

 

 女王陛下とキズメルさんに日菜のやり取りを横目で見つつ、私は考えた。

 

 

 果たしてノルツァーは、私と対峙してどうすると言うのだろうか。気にならないと言えば嘘ではあるが、大事なのはそこではないのだろう。

 

 

 どの道やらなければならないことだ、その時期が確定しただけに過ぎない。

 

 

(ノルツァーは、私が止めてみせる)

 

 

 私の覚悟は、既に決まっているのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







〇ノルツァーはハーフエルフ

実は可哀想な奴パターン。それでもフォールンエルフとしてしでかした罪の方があまりにも大きいが


〇諸悪の根源

《原初のフォールン》もそうだが、それぞれの神官たちも大概過ぎる。雑に言ってしまえば老害というやつ


〇《聖大樹》に選ばれた救世主

オリジナル設定。何故紗夜が救世主扱いなのかの本筋はこの後で


〇ノルツァー乱入

第九層最初の頃に紗夜の影に仕込んでありましたが、《霊樹》の力のせいでラグが発生し、日菜に感づかれた

IFではここでイズレンディス女王が刺されて《秘鍵》が盗まれてしまい、追う展開になる。こちらでは日菜のおかげで違う展開へ


〇三日後、決戦

三分間ならぬ三日間待ってやる、です。何で三日なのかと言われれば、メタ的なことを言ってしまえば決戦前に猶予が設けられているだけです

一応それらしい言い訳をするのであれば、ノルツァー側も仕込みに三日かかるくらいでしょうか。《原初のフォールン》を解放するための手段を用意するのが、大体それくらいなのかもしれません

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