夜を日に継ぐ   作:百三十二

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ごめんなさい予約投稿ミスってました……


今回はノルツァーとの決戦前夜的な回になります





双子の姉

 

 

 

 ──3日。それが私たちに与えられた準備期間だった。

 

 

 ノルツァーとの決戦の時は近い。サシでの勝負になるのか、それとも大軍を率いる戦いになるのかは分からない。尤も、キズメルさんたちが言うには相手が指定してきた『《聖堂》の前』というのはここら一帯の地下に存在する《滝底の洞窟》の最奥に位置しているらしく、とてもではないが大勢で入り込める場所では無いとのこと。

 

 そうなるとノルツァー側としても少数精鋭が前提となるだろう。無論こちらもそうだが、それでも大軍を率いなければならない事態にならなく良かったと思う。軍を率いつつ戦うことなど経験したこともなければ、その軍と共に敵の軍と戦うという経験もない。ぶっつけ本番でその様なことにならなくて安堵する自分がいた。

 

 故に、三日後の決戦に同行するのは私たち3人とキズメルさんの4人ということになった。こちらも少数精鋭であり、会議室の一件でそうだったがどうしてか私を目の敵にしているノルツァーに対して私がメインで立ち回り、他にいるであろうカイサラ等を日菜やヒースクリフさんで対応してもらい、状況に応じてキズメルさんに加勢してもらうという構成である。

 

 最悪ノルツァー相手に私一人なのではという不安もあるが、《聖堂》の前の祭壇付近のエリアは《聖大樹》の力が漏れ出ている為にフォールンたちは本来の力を発揮出来ないという事情と、《霊樹》に認められたことで私に掛けられているバフを考慮するとこれが最適解なのかもしれない。ロールプレイの一環でノルツァー相手に私が決着をつける必要があるという面もそうだが、まだ戦っていないので実感は無いものの《霊樹》延いては《聖大樹》から授かったバフの効果量がかなりのものという点もある。

 

 

 結局のところ、やれるだけのことをやって決戦を迎えるしかない。その為の準備を怠るつもりはないし、心構えもしておくつもりだ。

 

 

 ただ、心残りがあるとすれば──

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 ──ノルツァーの宣戦布告と同日

 

 

 イズレンディス女王らリュースラ側との方針を固めた紗夜たちは、《月煌城》を宿代わりにする許可を得た上で行動を開始した。

 

 まずは主戦場となる《滝底の洞窟》の下見だ。もしもの為の城の脱出口が繋がっているとのことで、キズメルに案内してもらいながら探索をした。カレス・オーとの争いが激化していったせいで人手不足に陥っていたらしく、《滝底の洞窟》にはモンスターがそこそこ蔓延っていた。

 

 これを根こそぎ殲滅して経験値稼ぎをしつつ、《聖大樹》が眠る《聖堂》の入り口でもある祭壇前の空間に到着する。《霊樹》からバフを貰っている紗夜は勿論のこと、日菜とヒースクリフでさえも背筋がピンと張る様な厳格さを感じ取っていた。この扉の向こう側に、神聖な何かが間違いなく存在している証拠だった。

 

 結局この日はモンスターの掃討を行ってリュースラの兵士たちに感謝されつつ、これ以上何かが起きたという事は無かった。

 

 また、この日に《月煌城》を訪れた他のプレイヤーの姿は見えなかった。

 

 

 後日、日菜がアルゴに訊ねてみたところ、彼女たち3人に限ってはNPCらの整合性の為に専用の《インスタンス・マップ》と化していたことが判明する。この数日の前後にキリトらも出入りしていたそうだが、前述した理由から出会うことはなかった。

 

 

 ──決戦の時まで残り二日

 

 

 今日も下準備かと思われた矢先、リュースラの薬師が解毒薬の調合に成功したとの報せが入った。

 

 カレス・オーとの連携は取っておきたいという思惑も渦巻く中、これを手土産として協力を得られないかと打診するべく紗夜たちはキズメルやそのお供たちと一緒に《黄金色の森》へと出向いた。

 

《月煌城》を出立してすぐに、監視していたのか森エルフ密偵のカルが姿を現した。話を聞くに、ヴェンデリンらが隠れていた砦が宰相の手の者たちに襲われてしまい、人質を盾にされているせいで全面降伏の危機に陥っていたらしい。

 

 ところが事態は急転直下を見せたそうだ。謀反人としてヴェンデリンを捕らえるべく戦力を差し向けた結果、宰相の周囲が手薄になった隙をついた森エルフの精鋭と将軍が内部から反撃し、国王の身の安全を確保した上で逆に宰相を捕縛することに成功したのだという。これによって人質は解放され、強制的に従わされていた兵士たちがヴェンデリンと争う理由は消滅。

 晴れて無事にカレス・オーにおける内乱は鎮圧の一途を辿っているとのことだった。

 

 残る憂いは内部に紛れ込んだフォールンエルフの存在と、国王に解毒薬が渡るかどうかだった。しかし前者は紗夜を見初めた《霊樹》の力によって排斥されており、後者に関しても今しがた届けられる予定だった。つまるところ、カレス・オーがフォールンエルフの影に怯える心配が一切無くなったということである。

 

 

「この恩は必ず返す。ノルツァーとの決戦に力を貸すだけの余裕が無いのが申し訳ないが、その代わり我々カレス・オーはリュースラと共闘し、フォールンエルフ征伐に協力することを約束しよう。国王陛下の言が取れるかは定かでは無いが、このヴェンデリン、誇りに代えても違えぬと誓おう。そなたらに《聖大樹》の加護があらんことを……武運を祈る」

 

 

 リュースラとカレス・オーの領地の境界に座する門の前にて、解毒薬を譲渡されたヴェンデリンは決意に満ちた表情でそう述べた。そこにはエルフも人族も関係ない、恩人に対する純粋な敬意と祈りが存在していた。

 

 カレス・オーの内部事情的に、ノルツァーとの対決前後に直接関与するだけの余裕は無い。しかし味方であるという言質は取った。ならばフォールンと争ってる最中に背後を突かれるという心配もなく、二つのエルフが争いを止めて共に歩む未来を掴もうという気があるのが分かっただけでも収穫だったと言えよう。

 

 

 ヴェンデリンを筆頭としたカレス・オーの民たちから感謝と激励の言葉を受けた紗夜たちは、一糸乱れぬ敬礼の姿勢を見せる彼らにお辞儀を返してから立ち去り、心意気を新たに闘志を漲らせた。

 

 

 その後、この日も《滝底の洞窟》へと赴き、モンスターの掃討を行うことで最後の調整と経験値を稼いだ。翌日は武器や防具の整備や強化に宛がうつもりだったので、紗夜たちは時間の許す限り戦い、《滝底の洞窟》に蔓延っていたモンスターたちの姿はほとんど見なくなる程になった。

 

 

 

 

 

 ──そして決戦前日

 

 

 

 それぞれがそれぞれの準備を行い、後は明日に備えるだけという頃合い。紗夜は一人、《月煌城》の外に出ていた。

 

 

 月がよく見える、晴れた夜の出来事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 

 

(……月が綺麗ね)

 

 

 ノルツァーとの決戦を翌日に控えた私は、一人になりたかったので日菜たちに何も言わず城を抜け出した。

 

 恐怖や緊張といった感情からではなく、ただただ考えごとがしたくて単独行動を取った。とは言っても遠く離れることはせずに、初めてリュースラの城を見下ろしたあの高台に足を運んだ。

 

 

(……やっぱりこっちの方が好みね。あちらの城も素敵だったけれど、私としてはより落ち着いた雰囲気を感じる方が好きだわ)

 

 

 誰と会話するでもなく一人になって、来た時は急いでいたせいでゆっくり観光する時間もなかった城に対して私の中のセンチメンタルが表出する。

 

 私自身、想像よりも落ち着いているらしかった。感傷的な気分に浸ってしまう程度には、不安や焦りが感じられなかった。

 

 

 不思議な感覚である。弓道の部活中に座禅を組み、精神を研ぎ澄ませている時の様な心境だ。闘志は燃えているが、波を立てずに穏やかなまま。

 

 

(──ふぅ……)

 

 

 せっかく思い出したのでその辺の雪をならして固め、その上にシート代わりの布を敷いて床とし、正座をして《瞑想》スキルを発動させる。

 

 

 すると間もなく意識が身体の内側へと入り込み、外気の寒さや雪の冷たさを錯覚しそうになる景色を置き去りにしていった。思考が更にクリアになっていき、何もない暗闇だけが広がっている内心世界の海へと落ちていく。

 

 

 ただ落ちていく。真っ逆さまに、際限なく沈んでいく。呼吸する必要は無く、泡立つこともない無音の空間を下へ下へと。

 

 

(──────────────)

 

 

 時の流れを感じず、須臾か永遠かも分からぬ後。水底に到着にしたのか、ふんわりと着地する。

 

 

 光届かぬ意識の海底に大の字になって寝転がり、ひたすら広がる黒を見上げる。

 

 

 何も無い。何も映らないし、何も感じない。何にも侵されることのない『無』だけが支配する心の世界をこれ程までに実感したのは、誇張でも何でもなく人生で初めての事だ。

 

 

 そもそも精神世界とでもいえるこの空間をはっきりと認識したこと自体が初めてだ。夢の無い話をしてしまえば、SAOを構成するシステムによって作成された《瞑想》スキル専用の空間なのかもしれない。

 

 だとしても、外界から隔絶された場所を体感するとは思わなかった。何と言うか、私自身が辿り着きたかった場所な気もする。

 

 この様な形で経験することになるとは、夢にも思わなかったけれど。

 

 

 

「サヨ? ここに居たのか」

 

 

 

 ふと、誰かに名前を呼ばれて急速に意識が浮上した。

 

 

 目を光に慣らす様にゆっくりと開き、声の主を視認する。

 

 

 

「キズメルさん……?」

 

 

 

 いつの間にか傍に立っていたのは、少しだけ肩に雪を積もらせたキズメルさんだった。

 

 

 

「こんな夜更けに出て行くのが見えてな。つい追ってしまった。見つけるのに少し時間はかかってしまったが」

 

「そんなに経っていたんですか……」

 

 

 彼女の言い草から、そこそこの時間が経過してるのが分かる。どうやら《瞑想》スキルを使用してから、全く気が付かない内にそれなりの時が過ぎていた様だ。

 

 30分くらいだろうか。認識してから重さを感じた雪を頭や肩から払い落し、大体の目安を計る。体感で5分も満たなかったはずだが、思いの外《瞑想》スキルは使う場所を選んだ方が良いのかもしれない。今みたいに一人になりたくて使おうものなら、場合によっては埋もれてしまったり、それこそ誰かに襲われてしまうかもしれない。

 

 ナーバスでは無いつもりだったが、むしろ浮かれていたのかもしれない。少し反省しなければと思い、自戒する。

 

 

「どうだ? 調子は」

 

「悪くありませんよ。むしろ《霊樹》から授かった力のおかげで、充盈し過ぎてるくらいです」

 

「そうか、それは何よりだ。……隣、失礼するぞ」

 

「どうぞ、お構いなく」

 

 

 許可を取って来たキズメルさんは正座を続行する私の隣にやって来て、そのまま立ち続けていた。どうやら座る気はない様だ。

 

 座る私と立つキズメルさん。視線を交わすことは無いが、同じ景色を見ながら無言を貫く。

 

 

 どれくらい経過しただろうか。居心地の悪さを感じない沈黙を先に破ったのは、彼女の方だった。

 

 

「時にサヨ、そなたに一つ聞いて欲しい話がある」

 

「明日の話ですか?」

 

「いいや、実に私的な話さ。サヨには私の様に後悔して欲しくなくてな」

 

「金言を頂けるのでしたら、是非」

 

「そう重く受け取らないで良い。だが胸に留めておいて欲しいとは思う」

 

 

 そう言って彼女は小望月を見上げ、何処か遠くへと思いを馳せている様だった。

 

 隣に立つ麗人の気配が少しだけ揺れた頃、ぽつりと溢し始められた。

 

 

「実はな。かつて私にも双子の妹がいた。名は《ティルネル》と言う。私と違って、実に天真爛漫で優しい子だった」

 

「妹さんがいたのですか」

 

「ああ。だがティルネルはカレス・オーとの抗争の最中、荷車を運搬してる際に襲撃されてしまい、私と違って薬師だったあの子は無力にも……帰らぬ者となってしまった」

 

「……」

 

「もう割り切ったことだ。あまり気にしないで欲しいが……そうさせてくれたのは他でもない、そなたたちなのだ」

 

 

 突然のカミングアウトに二の句が告げないでいると、重ねてそんなことを言われてしまう。

 

 

 どういうことなのか。しかし同時に腑に落ちたこともある。

 

 思えば第三層でキズメルさんを助けた時から、こちらがこそばゆくなるくらい好感度が高かったきらいがあった。そういう仕様なのかとも邪推したが、アルゴさんと情報をすり合わせていく度にやはり高すぎるという答えに至った。

 

 とはいえ、成程。キズメルさんも双子の姉妹だったと言うのであれば、妹さんが故人であるというの踏まえて私と日菜に対する接し方が特別なものであったことにも説明がつく。

 

 

「おっしゃりたい事は何となく察しましたが、あなたの事情を知らない私たちが適切な何かをした覚えはありませんよ?」

 

「そういうのは無いさ。ただ、あの子を失って死に場所を求めていた私がそなたたちに姿を重ねてしまい、ある種の羨望を抱き、それでいて再び守りたいと思うものが出来ただけの話なのだから」

 

「守りたいもの、ですか?」

 

 

 彼女が私たちを通して何を見たのか、思わず訊ねてしまう。

 

 それに対して彼女は目を伏せ、憂いと優しさを湛えながら言葉を紡いでいく。

 

 

「こういう未来があったのかもしれない。そなたらを見てそう感じ、同時にティルネルのことを思い出した。戦う力を持っていなかったあの子は常々言っていたよ。例え武器を手に取れなくても、出来ることをやりたいと。身内の贔屓目を差し引いても、誰よりも心優しかったあの子なりの覚悟であり、願いでもあった。今にして思えば、あの子はあの子でエルフの争いに心を痛めていたのかもしれないな」

 

 

 彼女の声には、妹さんの在り方を誇らしく思う気持ちが乗っていた。心を慈しみ、深い愛を携えた声音に、私の方も温かさを覚えた。

 

 

「気付いたんだ。ティルネルの想いを無駄にしないと言うのであれば、今ある景色を守り抜き、未来を掴まなければならないと。今を生きる我々が奮起しなければ、いつか生まれてくるであろう者たちが私とティルネルの様な結末を迎えてしまう恐れがあると。女王陛下も姉君を亡くし、深い悲しみを背負われている。にも拘らず、私たちに未来を託そうとしてくださっているのだ」

 

 

 何の因果か、私の周囲には姉妹が多い。そのせいで共感し過ぎてしまうくらいだ。

 

 私がキズメルさんにシンパシーを感じていたのは、きっとそういう理由なのだと思う。彼女が私に、妹さんを日菜に重ねていたように、無意識の内に私も彼女に重ねていたということだろう。

 

 

 偶然だろうとも、相手がプレイヤーでなくとも、私の心が揺さぶられるには十分過ぎた。

 

 

 今の私に、彼女の表情を見る勇気は無かった。

 

 

「……私は、あなたの様な出来た人間ではありませんよ」

 

 

 何故なら私は、失ってもいない相手に向けて嫉妬してしまう様な醜い人間なのだから。

 

 

「そうか? ヒナには慕われている様だが」

 

「あの子が特殊なだけです。本来であれば私は姉失格……いえ、人として失格であり、あの子に慕われる様な存在ではありません」

 

 

 キズメルさんの吐露に感化されたのか、私の口が止まることは無い。

 

 過去を抱えていくと決めた癖に、その覚悟とは裏腹に弱音が溢れていってしまう。これではいけないと理解しているはずなのに、私の弱さが露呈していく。

 

 

「端的に言って、あらゆる面において私よりも日菜の方が優秀です。それに対して私が嫉妬し、姉でありながら辛く当たってしまった。ただただ醜いだけの、私の弱さがあの子を悲しませた。お耳を汚すだけの話ですよ」

 

「だがそれは過去の出来事なのだろう? 現にヒナの様子を見ていれば、それが改善されているのは明白だ。私から見てもそなたは姉として立派に見えるぞ」

 

「過去が消えることはありません。それは私があの子に残した傷も同様です。罪を犯した者は裁かれ、一生消えない烙印を押されます。一度背負った十字架が降ろされることは無いんですよ」

 

「私も相当だと自覚はあったが、そなたも難儀な性格をしているな」

 

「事実でしょう?」

 

「だが背負い過ぎだ。肩の力を抜くことを知らないのか?」

 

 

 そう指摘され、私は一瞬言葉に詰まる。

 

 脳裏に一人の友人の姿が浮かび上がるが、それでもと思い気付かなかったフリをする。

 

 

「知ってます、というより教わりました。ですが、それとこれとは別と考えます」

 

「……何をそんなに意固地になっている? 自罰的になったところで、誰かが裁いてくれる訳でも無いと言うのに」

 

 

 流石の彼女といえども、私の頑固さには呆れが出るらしい。見なくても分かるくらい深いため息が吐き出され、少しばかり非難の感情が差し向けられる。

 

 

「サヨ。お前の言を是とした場合、ヒナのことはどうする」

 

「どうする、とは?」

 

「己の事を許せないという気持ちは痛いほど分かる。だがそれでヒナの気持ちは間違いだとでも言うつもりか?」

 

「そんなつもりは……」

 

 

 そんなこと、言われるまでもない。

 

 

 あの子は私を慕って、許してくれている。どうしてここまでしてくれるのか分からない程に、妹は私を好きでいてくれる。

 

 その私が私を否定するということは、あの子が見ている『氷川紗夜』を拒絶しているのと同等だ。

 

 

 日菜にとって私が有益だから、なんてことでは無いとも流石に分かっている。

 

 それでも……そうであって欲しいという期待は、私には荷が重すぎる。

 

 あの子の姉としての自分であろうと、『おねーちゃん』に相応しくあろうと、幼いながらに決意したはずだったのに。

 

 

 第五層で少しばかりの言い争いになった時、日菜は妹としての自分ではなく、一人のパートナーとして見て欲しいと訴えてきた。それくらいは私でも察せた。

 

 同時にそれは、私に姉としての振る舞いから脱却しろと言われている様な気分だった。あの子にそんなつもりは無いだろうが、どう取りまとめても最終的には『おねーちゃん』と『紗夜』を使い分けてくれと懇願されたに近しいものだった。

 

 多分あれは身内としての話とは別の、Roseliaを始めとした、花咲川の学友たちや個人的な付き合いを持つ方々との時間、つまるところ『日菜の知らない紗夜』を自分にも見せて欲しいということなのだろう。

 

 或いは、それを見てささやかながら嫉妬していたのかもしれない。アレであの子は気に入ったモノへの執着は強い方だから、傍目に見ても私へのそれが尋常では無いことくらい、分からないはずもない。それ故の可能性も否定は出来ない。

 

 

 ──だとしたら、だ。

 

 

 私は『日菜』に、何をしてあげれば良いのだろうか。

 

 

 それが分からないから、今を優先して考えない様にしてきたのだけど。

 

 

 

 

 

「なあ、サヨ」

 

「はい」

 

 

 ふと、キズメルさんに話しかけられる。

 

 

 まるで愛おしくて仕方がないと言わんばかりに、優しい声音だった。

 

 

 

「我々エルフと比べて人族の寿命は短い。持ちうる時間は限られていることだろう」

 

 

「だがな。それでも時間はあるのだろう? 結局はそれをどう使うか、それは自分たち次第でもあろう?」

 

 

「よく考え、よく悩み、よく迷い、最後には答えを出す。サヨ……そなたの最後とは、明日にでも迎えるものか? 違うだろう?」

 

 

「焦る必要は無い。そなたはまだ何も失ってはいないのだからな。失ってから気が付いた私と違い、そなたは失う前から答えを見つけようと努力している」

 

 

「なればこそ、そなたが私と同じ道を歩むことはない。少なくともそなた自身が諦めない限りは、大切な者を失うという結末に至ることは無い」

 

 

「もう一度言おう。焦るな。しかし足掻き続けろ。まだその機会が残されているのだから、決して手放してはならない」

 

 

 

「親愛なる我が友にして奇縁で結ばれし同胞よ。そなたの未来に幸多からんことを祈っている」

 

 

 

 最後だけは私の目を見て言い、満足したのかこの場から去っていった。

 

 

 遠ざかる足音が新雪の中に沈んでいくのを耳にしながら、私は──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ? おねーちゃん外行ってたの?」

 

「ちょっと頭を冷やしに行ってたわ」

 

 

 キズメルさんの姿が見えなくなってから、どれだけの時間が経ったのかは分からない。

 

 ただいつの間にか正座を止めてあの場に立ち尽くしており、雪を払うこともなく無意識の内に城へと帰って来ていた。

 

 城に戻ると廊下で日菜と遭遇し、私に雪がかかったままだったので外に出ていたことを悟られる。

 

 

「……?」

 

 

 たった5㎝の差で、こちらを見上げてくる日菜の姿。無言で見つめ続ける私の態度に首を傾げていたり、くすぐったそうに身を捩らせたりと少し忙しない様子が見られる。

 

 

「寒く無いの?」

 

「ええ」

 

 

 私を気遣ういじらしい姿も相まって、むしろ私は

 

 

「あったかい……」

 

「え゛っ」

 

 

 ……日菜?

 

 

「どう見ても寒そうなのにあったかい? まさかおねーちゃん風邪ひいちゃった!? でもSAOってゲームだし病気とかなるの……? それとも現実の方の身体の話……!?」

 

 

 ふふっ

 

 

「笑ってる場合じゃないよね!? は、早く誰かに診て貰わないと──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私、頑張るから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──え? あ、うん。頑張ってね……?」

 

 

 

 

 そうだ、私が何を考え、何をしようと出来ることなんて限られている。まして自称するくらいには不器用な生き方しか出来ないと散々自嘲していたじゃないか。

 

『姉』だろうが、『氷川紗夜』だろうが、共通していることがある。共通している生き方がある。

 

 

 

(人事を尽くし、ただ愚直に進むだけ。似合わないことをして迷走するのは、もう終わり)

 

 

 

「ん~~~~?」

 

「ほら、通路の真ん中に立ってたら邪魔になるわよ」

 

「ま、待ってよおねーちゃんっ」

 

「ふふふ」

 

 

 

 誰が何を言おうと関係ない。私は姉だ、それが私だ。

 

 

 

 

 

(ありがとうございます、キズメルさん。おかげで色々と吹っ切れました)

 

 

 

 

 心の中で、私を慮ってくれた彼女へのお礼を言う。

 

 妹が妹である通り、姉は姉である。姉という生き物は、妹の為に行動してしまうものだ。

 

 キズメルさんの場合はティルネルさんの想いを実現するため、私は日菜を守るために動いてしまう。

 

 でもそれで良いじゃないか。極端に変化しようと考える必要など無いのだから。私はキズメルさんの気遣いから、そう感じ取った。

 

 

 

 

 

 ──ワタシヨ ツキススメ……!

 

 

 

 

 

 湊さんの歌声が、聞こえた気がした。

 

 

 






正真正銘の決意回です。これ以降、今作において紗夜が迷うことは生死がかかった時のみになります。うじうじするのは終わり、ってことです



〇決戦を控えて

猶予は三日でしたが、レベリングにいそしんだり、カレス・オー側の問題が解決していたりしてました。これで残すはノルツァーらフォールンエルフとの対決のみです


〇《滝底の洞窟》

第九層のダンジョン枠。本当ならここを通って裏口入城するのだが、《霊樹》というか《聖大樹》に選ばれている者を無下に扱う事は神官たちにも出来ないので正面から堂々と入った。余計な手間がかからなくて女王陛下も気楽だったとか

実は《聖大樹》からあふれ出る力のせいでモンスターの湧きが少ないという設定。それをリュースラの誰かが掃除感覚で整えていたらしいが、戦争が激化していくにつれて手が回らなくなってしまい、プレイヤーたちが立ち寄ると適度な稼ぎが出来るくらいにはポップしている。掃除を手伝うとリュースラ陣営からの好感度も上がるオマケつき


〇キズメルとの会話

はい、という訳でキズメルは双子の姉で紗夜と同じでした。これを知った時はエルフクエストを絶対にやらねばと思い至り、30話近くも使うことに。なお、彼女の妹は既に故人であり、それが理由で初期のキズメルは自暴自棄でした

結局のところ、姉であることを止めることは出来ないのだから開き直れと暗に言われています。もっと言えば、自分を慕ってくれている者の気持ちを無かったことにするなとも諫められています

第五層の件が少しずつ尾を引いていましたが、それを払拭するには同じ立場の対等な相手からの助言と叱責ということでした。これにて紗夜の精神面は大分盤石になります


〇日菜を見て固まる、紗夜の決意

何度目かになる、やるしかないのだからやるだけだ論。でも今回は最終決定版、守りたいものがあるから彼女たちは頑張るのだから

最後のはRoseliaの楽曲で、紗夜にまつわる歌詞の一部です



という訳で次回、ノルツァーとの決戦です。長くなるのが確定しているので、少し遅れるかもしれません……遅くても二週間以内には投稿します。それでは
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