夜を日に継ぐ 作:百三十二
入院せずに済みましたが普通に痛いままです。皆さんも親知らず云々に関しては早めに確認しておくことをおすすめします。まだ一本残ってるので終わってないのがしんどいですが……
それはさておき、本編をどうぞ
執拗な打撃判定の攻撃によって行動不能に陥った隠しボスらしき巨大な狛犬を、救援に入った4人による総攻撃で削り切ることに成功したのがつい先刻。部位欠損判定によって動けない女性がポーションを飲むなどして回復するのを待った後、竹林エリアを脱出するという手筈になった一行だった。
「重ね重ねですが、助けていただいてありがとうございました」
「あなた方が来てくださらなかったら、今頃私たちは……」
道中もしきりに謝辞を述べていた男女だったが、安全地帯に辿り着くや否や改まって礼を言い始める。救援が来なかった時の未来を想像したのか、女性の方は思い詰めた表情のままだった。実際、踏ん張っていた男性の方はともかく女性の方は部位欠損からくる失血状態でHPゲージが減少し続けていたのだから、かなり死を身近に感じていたことだろう。
女性が見せるアンニュイな表情にクラインがだらしない態度を見せかけるも、状況が状況だっただけに控えようという意志は見られた。尤も、道中で彼女を支える男性とそれに伴う二人の間に流れた空気を悟った時、野武士面の男は静かにガックリとしていた。そしてそれを日菜に見られ、再び毒を吐かれたばかりである。
「こういう時ですから、助け合いの精神ですよ」
「それでも助けられたことは事実ですので……」
4人を代表して紗夜と、どちらかと言えば落ち着いてる側の男性とがその様な会話をしていると、ふと日菜が何かに気が付く。
「ねえ。二人はあたしたちのこと知ってるの?」
戻ってくるまでは余裕が無いから普通に接しているだけだとも考えられたが、こうして安全地帯にやって来てからも特に違和感なく紗夜と会話している男性に対しての疑問だった。
普通、この4人であれば性別を抜きにして年齢的な意味でヒースクリフかクラインがリーダーだと思うだろう。なのに年下の少女がそれっぽく振舞っていることに違和感を持たず、自然体で会話している。つまり男性は紗夜たちのことを知っているのではないか、というものだ。
この予想は当たっていたのか男性の方が少しだけ驚いた表情をしたが、すぐに苦笑いで答え始める。
「ええ、まあ、はい。あなた方の噂はかねがね、耳に入ってきていましたので。これでも情報に対する嗅覚は自信があるんです。尤も、ある事情から氷川日菜さん、あなたの事は調べさせていただいたこともありましたので」
「あたし?」
「はい」
どうやら男性は姉妹の事は疎か、日菜に関してはSAOより前から知っていたという。調べたという言い方が少しばかり気になって警戒度が上がるが、続けられた男性の言葉によって理解していくことになる。
「失礼、自己紹介がまだでした。僕の名前は《シンカー》、ギルド《MMOトゥデイ》のリーダーをしています。こっちの彼女は《ユリエール》、同じくギルドの副リーダーです」
シンカーと名乗った男性の紹介に沿って軽いお辞儀をするユリエールと呼ばれた女性。それに釣られて紗夜たちが頭を下げ返していた時、気になる単語を耳にしたのかクラインが声をあげる。
「お、おい……《MMOトゥデイ》って、あの《MMOトゥディ》か? MMORPGに関することなら何でもござれの、大型情報サイトの!? オレもよーくお世話になってる奴だぞっ!」
「おっと、そちらの男性はご存じでしたか。いやはや、僕たちも有名人、だったりして」
「何言ってるんですかシンカー。そんなこと言ってられる状況じゃないでしょう?」
「はい……」
自分たちの運営する情報サイトの利用者と出会えたことで鼻高々になるシンカーだったが、そんな彼を見て少しばかり調子が戻ったのかユリエールが嗜める。そんなやり取りを見つつも、この場において話の内容に置いて行かれているのは、双子の姉妹だけだった。
「すみません。その《MMOトゥデイ》とやらは、一体どの様なものなんですか?」
紗夜が訊ね、その横で日菜が首を傾げる。それを見たクラインが、この二人はゲームに興味があった訳じゃ無かったと察し、補足し始める。
「《MMOトゥデイ》っつーのはな? MMORPGに関する有名な情報サイトの名前なんだよ。MMORPGのことならここで間違いないってくらいには、ゲーマーたちの心強い味方でよぉ。ゲームの内容やネタもそうだし、開発者インタビューなんかも載せてくれるんで裏話とかも知れるディープな場所、ってところだな」
いちゲーマーを代表してクラインがそう述べると、得心がいったのか日菜が呟く。
「ああ、だからあたしのことも知ってたんだ」
そう言ってシンカーの方へと視線を向ければ、彼は人の良い笑みを浮かべて首肯しつつ答えた。
「はい。あなた方パスパレさんがSAOとタイアップ企画をするという情報を知った以上は、どういった方々なのかを載せる予定がありましたので、それでです」
MMORPGに関して右に出るサイトは無い、となれば世界初のVRMMORPGも例外ではない。むしろβテストの段階からより濃密な情報を収集していたが、その一環で公式の企画に出てくるアイドルを調査することは不思議な事ではない。それが紗夜よりも日菜のことを知っている、ということの正体であった。
「あなた方がどの様な方々なのかは理解しました。ですが、情報サイトを運営していたお二人があの様な場所にいたのは何故です? こう言うのは何ですが、普段は最前線でお見掛けしませんし、背伸びしている様に見えますけど」
それならそれでアルゴの様に情報屋をしているのか思えば、身の丈に合わない隠しボスに挑んで窮地に陥っていたことへの整合性が取れない。誰かに騙されたとかにしても、鼠の様に護衛を雇うなり他人を使うなりすれば良いだけの話であり、レベルの足りない己たちが直接挑む理由が分からない。
そんな考えから繰り出された紗夜の問いかけに対し、シンカーとユリエールの二人は表情を硬くし、言いにくそうにポツリと語り始める。
「その、元々僕たちは下の層で『来るもの拒まず、去るもの追わず』って考えで活動していました。ギルド名がサイト名のままなのは、少しでも知ってる方々に届けば良いなという想いからです」
「私たち自身、戦いが得意では無いですから。はじまりの街を拠点として、炊き出し等の慈善活動を行うことで一人でも多くのプレイヤーたちを助けることが出来ればと、しばらくはそう活動していました」
「ですが、来るもの拒まずですから、当然ながら考えの異なる方もやってきます。中には偽善行為を止めて攻略に精を出すべきだと主張する方もいました」
「しばらくの間は、私たちにその様な意志は無いと断っていました。実際、そうするだけの力は持っていませんでしたので、その方々が諦めて去っていくという形で、今までは上手くいっていました」
先の展開を察した紗夜が、思わず口に出す。
「しかしそうは言ってられなくなった、ということですか」
「その通りです」
そのままシンカーが話を続ける。
「お恥ずかしい話、炊き出し等をするにしても金策は必要です。そこに来て慈善活動をしていることで下層において少しだけ知名度が上がってしまい、《MMOトゥデイ》に加入しようとする方々が増えていきました。その結果、最前線に赴かない僕たちだけで資金繰りをするのに限界が訪れてしまい、何とかしようとして勇み足を踏んでしまったということになります」
慈善活動自体は立派だが、それで自分たちの首を絞めることになってしまうとは、些か不憫に思える話である。死んでしまっては元も子もないのだが、こうせざるを得なかったという事情に4人は少しばかり同情していた。
「ふむ。事情は概ね理解した。だが一つ解せないことがある」
「何でしょう?」
身の上話を聞き終えた後で、静観していたヒースクリフがシンカーに問いかける。
「資金繰りの為に隠しボスを倒してドロップアイテムなり情報なりを売ろうとしたのは理解できる。だが、その為の隠しボスの情報を何処で仕入れたのかね?」
その問いに、紗夜と日菜、それからクラインまでもがハッとする。
言われてみれば、身の丈に合わないボスの情報をアルゴが売るとは考えられない。であれば、シンカーたち《MMOトゥディ》が隠しボスの情報を入手した情報源が何処なのか、気にならない訳がない。
今のところ最前線で表立って活動している情報屋はアルゴだけである。小規模ながら活動している別のプレイヤーは何人か存在するだろうが、最前線の隠しボスの情報を入手するにしては、どうにも伝達速度が早すぎる。
偶然だったならば、その情報屋に注意を促す必要がある。情報を売って稼ぐことに注力し過ぎて、その情報によってプレイヤーが死ぬ様なことがあれば、それはPKと何ら変わりがない。常々そう語るアルゴの姿勢を見てきたからこそ、確認しておかなければならい。
そして最悪なパターンとして、これが何者かの悪意によって仕組まれていたのだとしたら……各方面に注意喚起をする必要が出てくる。今回は死者が出ることは避けられたが、同様の事が再三行われた場合に防げる訳がない。毎回その場に救援が駆け付けられるという都合の良い事態にはなりえないからだ。
後者だった場合、かなり悪質である。勇み足を踏まなければならないと焦ってるタイミングを見計らって、その背中を押した悪意ある者がいる。例の男かどうかもそうだが、第五層の件があったというのに暗躍を繰り返している者がいるのであれば、その者は間違いなく悪意に満ち溢れている。
「いえ、ギルド内で聞いた話ですから。情報屋を通してという訳では無いです」
「そんな怪しい話に乗ってしまうくらい追い詰められていたのですか……」
「そういうことに、なります……」
あまりにも世知辛い内情だが、まだ確認しなければならないことがあるとヒースクリフが続ける。
「ならば、その情報を持って来た者の名は?」
「……言われてみれば、出入りが激しいこともあって覚えていないですね。名前さえ見れば思い出せるはずですが」
「ではギルドメンバーから確認してみると良い。尤も、私の予想では既に在籍してはいないと思うがな」
そう促され、ギルドの名簿に目を通していくシンカーとユリエール。しかし何度一覧をスクロールしても、ピンと来る名前を見つけることは叶わなかった。
それの意味するところは、ヒースクリフの予想した通り、その者は既にギルドを脱退しているということである。
つまるところ、隠しボスの情報を二人にもたらした者は悪意を持った確信犯だった可能性が高い、ということでもあった。《MMOトゥデイ》の二人はサッと表情を青褪めさせ、事態は勇み足などでは済まない領域なのだと理解した様だった。
「理念自体は尊敬に値するが、少しばかり組織の運営に手を施すべきだろう」
「おっしゃる通りです……」
ヒースクリフがそう諭し、シンカーが頭を下げる。
そんなやり取りを眺めつつ、他の者たちは問題の根本的な解決策を論じていた。
「ギルドへの加入は制限せざるを得ないとしても、資金面をどうにか出来れなければ意味がないわね」
「慈善活動を止めちゃうってのも手だけど、それはしたくないんだろうし」
「何か売れるもんでも見つけるしかねぇんじゃねーの? 一攫千金を狙ったって長続きしねぇだろうし」
それぞれが意見を出すも、これといってしっくりくる案が出てこない。何かの一員であることはあっても、何かを経営や運営するという立場になったことがない姉妹は勿論の事、基本的に脳筋のクラインもその方面に明るい訳ではない。
「何処か資金を融通して貰えるギルドを探せば良いだろう。そして《MMOトゥデイ》側からは、何か対価になるものを差し出せばいい。どの様な形であれギブアンドテイクが成立さえすれば、元々の知名度からして手を貸してくれる所を見つけるのは容易だと思うが?」
そこに投じられるヒースクリフの案は、そういった立場の経験が無い面々にとっては目から鱗だった。《MMOトゥデイ》を身売りするのかとシンカーとユリエールが否定的になりかけたが、何も《MMOトゥデイ》を解散、或いは譲渡するという話では無いと理解するや詳細を求め始めた。
「対価を差し出す代わりに融資を得る。銀行と同じ手法だが《MMOトゥデイ》の名声を考えれば、有事に慈善活動をするありがたい組織を支援しているということで一定の支持を得られる、というのが考えられる。評判面は十分だろうが、それ以上にあなた方には武器があるはずだが?」
「武器……ですか……」
この話を受ける相手にとって悪い話ではない、というのはゲーマーであるクラインにはピンと来るものがあった。いまいちしっくりこない姉妹に対してクラインが先輩風を吹かせつつ説明する傍らで、《MMOトゥデイ》の二人はヒースクリフの言葉に耳を傾けていた。
そうして彼らの武器を利用すれば良いという話になった段階で、その武器が何でどう活用するのか悩み始めた時、情報を精査し終えた紗夜が答えを明示する。
「──新聞、というのはどうですか?」
それは《MMOトゥデイ》が情報発信サイトであったことから、入手した情報を披露する場を用意してはどうだろうかという案だった。
「単純な攻略情報、というのではアルゴさんの様な情報屋の方々と被ってしまいますし、何より無料や安価で公開して良いものでは無い場合が大半です。しかしどの様な出来事があったかという日常的な話に絞ればプライスレス……言ってしまえば、必要のない情報です」
ですが、と紗夜は続ける。
「私たち最前線の活躍が下層の方々の希望になっている、というのは感じたことがあります。ですから誰がどれだけ頑張っているかを伝えることが出来れば、より希望がビジョンとなって受け取りやすくなるかと」
それは以前、リーテンから女性プレイヤーにとっての憧れになっていると言われた時に紗夜がふと感じたことがもとになっていた。自分たちの活躍を聞いて希望を持っている人たちがいる、というのは紛れもない事実なのだと聞かされたことがあったからだ。
「そして私たち最前線からしても、下層の方々が立ち上がり、いつしか共に肩を並べることを期待しています。悪い事態にならないのが一番ですが、少しでも戦える方が増えていけば取れる作戦も、余裕も生まれます」
そう言いながら、紗夜はチラリとクラインを見やる。彼も彼とて、最前線に合流することを決意して努力している者の一人である。
死んだら終わりの世界ではあるが、同時に立ち上がるだけの勇気が求められてもいる。最前線から下層へ、下層から最前線へ、互いが互いに良い意味で影響し合える環境を作りたい。その為の懸け橋になれるのではないかと、紗夜は考えていた。
顔を知らない誰かの頑張りなどただただ遠いだけだが、新聞を通してなり多少でも知ることが出来れば、遠慮という名の隔たりが減るかもしれない。
ましてや、それを行っているのがゲーマー界隈では超有名な《MMOトゥデイ》と来た。初期段階における信憑性としては、これ以上無いくらい高いと言っても過言では無い。
「確かに、そういうのであれば僕たち《MMOトゥデイ》の専売特許と言えるでしょう。しかし、それを支えていただけるだけの伝手や人員を投入出来る規模のギルドで、尚且つ協力していただけるとなると……」
紗夜の説得にシンカーが頷くが、やはり懸念事項と言えば誰が協力してくれるのかという話に帰結してしまう。
「大丈夫ですよ」
だがそんな心配は杞憂だと言わんばかりに、紗夜が自信に満ちた表情で告げる。
「最前線において最もお人好しな方を、知っていますので」
彼、或いは彼らならば必ず引き受けてくれるだろうという確信を持って、そう断言した。
それを見守りながらも満足した様に微笑むヒースクリフの姿は、誰にも気づかれなかった。
☆
「話は概ね理解したよ」
私が話を持ち掛けたのは言わずもがな、最前線において最も大きな勢力を持っているギルドのリーダー、ディアベルさんにだった。
彼は私の話を聞いた後、少しばかりキバオウさんやリンドさんたちと相談し始めた。それからあまり時間をかけずにシンカーさんの方へと向き直り
「この話、オレたち《アインクラッド義勇軍》が引き受けます」
そう、返事をした。
「本当ですか!? いやぁ、ありがとうございます!」
「オレたちの方こそ。よろしくお願いします、シンカーさん。ただ戦うだけじゃなく、最前線に関われないプレイヤーたちにとって何か益になることを模索していた所でして。正しく渡りに船だったんです。それがまさか、あの《MMOトゥデイ》さんだとは思いませんでしたが」
どうやらクラインさんが言っていた通り、元々ゲーマーだった人たちからすれば《MMOトゥデイ》の名前は抜群に効いている様だった。お礼を言って握手を求めるシンカーさんに応じる様に、ディアベルさんが驚きながらも喜色を浮かべていた。
よくよく見ればキバオウさんやリンドさんも似たような様子なので、こちらも知っていた可能性が高い。もしかしたらSAOを入手するにあたって利用したサイトが《MMOトゥデイ》だったのかもしれない。何にしても今回の提案は非情に好意的な受け入れられ方をしたらしく、どうにかなったと見て良いだろう。
「この件、サヨはんの提案なんか?」
「さ、さよはん? ど、どうでしょうか。初期案はヒースクリフさんですし、私はそれを詰めただけになるかと」
両ギルドのリーダーが会話するのを眺めていると、横からキバオウさんに話しかけられる。思わぬ呼び方に困惑したが、気を取り直して返事をした。
すると彼は腕を組みながら何秒か考える素振りを見せると、隣にいたリンドさんに何か相談し始めた。幾ばくか待たされた後、大体想定していた通りの提案をしてきた。
「あんさんら、ギルドには入らへんか?」
それに対して私は日菜の方を見ることも無く、分かり切っていた答えを返す。
「入りませんよ。と言うより、既に入るギルドは決めてあるんです」
「なんやて? そりゃほんまなんか?」
「嘘は言いませんよ。尤も、まだ存在していませんけど」
私の言い回しで察したのか、キバオウさんは勿論の事リンドさんも納得の表情を見せていた。
「ジブンらで作るんちゅうことか。それが無難なんはそうやな」
何だかんだ言って、私たち姉妹の立ち位置はかなり難しい。かといって《MMOトゥデイ》が新聞を配り始めて私たちのことも拡散される様になった時、何処にも属さない一匹狼気取りだと思われてしまう可能性も無くは無い。その前に何処かのギルドに所属してしまうのが丸いのだが、それで色々と面倒なことになる危険性も大いにある。
それらを踏まえた上での私の発言は、目の前の彼からしてみれば理解の及ぶ話だったことだろう。もっと言えば、現状から誰とギルドを組むつもりなのかも当たりをつけているはずだ。
「まぁ、そんな所です」
私が微妙に言葉を濁せば、彼らはそれ以上追及するつもりは無いのか別の話題を提示してきた。
「ディアベルはんに代わって伝えとくんやが、フロアボス攻略は大体五日後の予定や」
「おや? もう目処が?」
「せや」
どうやら彼ら《アインクラッド義勇軍》は、既に第十層の迷宮区へと足を踏み入れていたらしい。ボスに関する情報等は……キリトさんとアスナさんからアルゴさんを通じて、と言ったところだろうか。その代わりに人海戦術が使える義勇軍の彼らは迷宮区攻略を進めていた、と。
その上でボスのギミックや攻略法が入手出来れば、ボス戦に挑めるだけの準備があらかた終わっているということか。中々に急ぎすぎな気がしないでもないが、足並みを揃えるだけの理性がある辺りは問題無さそうで安心を覚える。
「節目の階層で、βテストの情報も無い。ただ入手した情報だと、今のところボスに関して特別なギミックがある様な感じじゃないみたいなんだ」
リンドさんが補足してくれるので、私は成程と納得する。
一緒に話を聞いていた日菜が
「ってことはフィジカル勝負?」
と聞けば、現状ではそうだろうという首肯が返ってくる。
であれば、何をどうするよりもレベルを上げて装備を整える他やるべきことが無いと言える。それは私たちにも適用される話であり、シンカーさんたちの件も済んだことで本腰を入れることになるだろう。
☆
「ってなるとオレはここで離脱した方が良さそうか?」
諸々の話を理解し終えた頃に、クラインさんがそう言った。
後の事はシンカーさんとユリエールさん、それからディアベルさんたちに任せて城下町まで戻った私たちは、どういう話に着地したかをクラインさんに説明した。すると彼は納得した様子でそういう結論に至ったらしい。
「まだ日にちはありますし、そう慌てる様なものでも無いと思いますが」
「勘弁してくれ、って言いてぇところだが……嬢ちゃんたちの場合、普通に余裕そうでなぁ」
彼の言う通り、レベルや装備といった準備面は既に余裕がある。今までの貯金分とでも言うべきか、この階層は慌てずに行こうと決めた当初の予定を崩すつもりは無かった。
後はメインクエストらしきものを攻略しているであろうキリトさんとアスナさん辺りから新情報がもたらされるとかでも無ければ、これといって特別な事をする必要が無い。そもそも何かあった場合はディアベルさんたちも強要されるとこになるので攻略の予定日が遅れること必至だ。
「ですから、あまり気にされる事は無いですよ」
「そうかぁ? それならまぁ、良いんだけどよぉ……」
そう言って彼は右手で後頭部をかきながら、何処か罰が悪そうな態度を取った。私たちの足を引っ張ることは本意ではないという、彼なりの気遣いが見えるものだった。
ディアベルさんの事をお人好しと言ったが、この人も十分そうだろう。素直にそう思えるくらいには、彼のひととなりを理解出来た気がする。
とはいえ、それだけの話ではない。私たちにとっては何よりも
「──その方が、都合が良いのだから」
「ん? 嬢ちゃん何か言ったか?」
「いえ、何も」
「そうかぁ?」
空耳だったかとぼやく彼を尻目に、私は小さく微笑んだ。
○《MMOトゥデイ》
SAOにおいては、はじまりの街などで炊き出し等の慈善活動に勤しんでいたギルド。リーダーはシンカーで、副リーダーがユリエール。来るもの拒まず去るもの追わずの精神でやっていたら資金繰りが大変になってしまって、何者かに誘われる形で最前線へ
そもそもギルド名にもなっている《MMOトゥデイ》とは、日本最大のネットゲーム情報サイトのことであり、経営者がシンカーである。要するにネットゲーム版のWikiみたいなもので、その知名度はゲーマーからしてみれば常識レベルまである。利用するかはさておきGWとかG8とかのもっと凄い奴という認識で大丈夫かと
原作では資金繰りに困り続けていたらしい結果、ALSが第二十五層で壊滅した後にキバオウが作った《軍》に吸収される形で合併、なし崩し的にリーダーをシンカーが務めていた。どうなっていたかは、キリトとアスナがユイに出会った時のエピソードで
ここではディアベル生存に伴って原作における《軍》が誕生しない為、《MMOトゥデイ》が同じ道を辿ることはない。その代わり、悪意ある者の手によって危険な目に遭ったところを運命力によって救出されることに。SAOIFでも似たような感じになってるが、それが悪意ある者のせいだったかは不明。ここではそうという話
なお、原作ではSAO事件解決後にアルゴは《MMOトゥデイ》でライターをやっていたらしい。それから表記上はギルド《MTD》だそうだが、要するに《MMOトゥデイ》の略称なのでここでは使わないことにした
○義勇軍と提携
ざっくり言うなら、金渡すから宣伝してくれってこと。最前線の攻略で忙しい面々からしてみれば、新聞を通して下層の人たちに対する擬似的なメッセージとして使えたりする。また下層の人たちからすれば、最前線で何が起きているかをイメージしやすくなって希望を持ちやすくなるとwin-winに
新聞自体は一部につき10コルとかそんなもん。各階層の主街区につき一人ずつ《MMOトゥデイ》のプレイヤーが新聞を売り、それに対して一人ずつ《アインクラッド義勇軍》のプレイヤーが護衛としてお供するという形式。義勇軍の面々からすれば息抜きになるのと、下層のプレイヤーたちに顔を覚えてもらえる機会になっていったらしい、という設定
ちなみに、この設定で将来的に最も有名になったのはディアベルのつもり。キバオウやリンドもそうだが、ギルドのトップの面々が驕らずに姿勢を示したことで不満も出ず、むしろウケが良かったことからゲームクリアまでちゃんと続くことに
何かと放置しがちな上と下とのコミュニケーションの道具として活躍する。原作でも《軍》がはじまりの街で何をしていたのか、実際に足を運ぶまではキリトたちも知らなかったという事態があったが、それを未然に防ぐ役割を担う予定
上昇志向が強く後発組として《MMOトゥデイ》に入ったは良いが、その方針から燻っていたプレイヤーたちはちゃんと義勇軍が引き取ってくれたので、《MMOトゥデイ》には当初の理念に惹かれた者たちしか残っていないという裏話。何もかもが都合の良い形に……
〇「サヨはん」呼び
なおSAOIFでもキリトが「キリトはん」呼ばわりされていて驚愕していた。どうやらキバオウの中で信頼に値する相手だと認定された時に「はん」呼びされるのは公式らしい
〇ギルド結成?
姉妹もこのまま無所属でいるつもりは無い。その為に誰かを巻き込んでという形になるが、キバオウやリンドが想像している様な面子(キリトやアスナ、何ならアルゴ)を巻き込むつもりはあんまり無い。ソロやデュオで自由に動ける方が気楽そうな面々を無理に勧誘する気が無いという程度の意味だが。とはいえ隠しているつもりも無いので、大体読者の想像通りだとは思われる
〇ボス戦
何だかんだで手短だがやることにした。ここでは適当な仕様に捏造くらいはするが、大した影響は無いという前提なので深く考え無くで大丈夫です