夜を日に継ぐ 作:百三十二
感想ありがとうございます。特別返答に困るものでもない限りは返信を心がけるつもりですので、気軽に書いていただければなと。本編で書けてないような裏話をポロっと思い出すかもしれませんし……
戦闘描写も苦手です
プレイヤーネーム《Hina》──氷川日菜という少女について本質を理解した上で詳しい人間など、この世界において片手で数えられる程度しかいない。それは例え彼女の所属しているアイドルバンドグループのメンバーでさえも、訊ねられれば答えに窮してしまう可能性が高いと言わざるを得なかった。
それを端的に表した言葉が、芸能界における日菜の二つ名にもなっている《となりの天才ちゃん》であることに疑いの余地はないだろう。
《となりの》とあることから実に身近な、常人と変わりない遍在性を有していながら、《天才ちゃん》とあることから常人とは一線を画す、規格外な存在であるという矛盾をはらんだ表現である。それでもって、テレビで見かける彼女の風変わりな言動や二つ名に恥じない才能の発揮ぶりから、人々は彼女に対して紛れもなく天才だと手放しの称賛を送る。
実際、双子の姉でさえ彼女が天才であると認識している。紗夜にとって日菜とはこの世で最も近しい存在でありながら、ある意味では最も遠い存在でもあったのだ。
だが世間一般で言うところの少女に対する理想像と、最も近しい存在であるからこその紗夜にとっての現実像とは大きく乖離していると言ってもいい。
天才であることの是非はどうでもよいのだ。双子の両親から見た日菜というのは、他人に比べて言動が不思議なだけで、感情が豊かな甘えん坊で、普段は天真爛漫な癖にいざとなると姉と同じで真剣そのものになる、至って普通の少女なのだ。
そしてそれは紗夜から見た時の日菜にも該当している。日菜の行動全てを予測することなど出来ないが、他人に比べれば理解しているつもりだと自負があった。
だからこそ、デュエル開始と同時に日菜が地面を蹴ったことについて紗夜は、それを見ていた三人の中でただ一人驚くことなく一切の動揺を見せなかった。
(ヒナから動いた……!? しかも迷いなく、開幕と同時に……)
既に日菜と戦ったことのあるキリトは、彼の予想を早速超えてきたことに驚きの表情を隠せなかった。
βテスト時における日菜がデュエルの際に取っていた行動は、初手だけ受け身に回ってからの一転攻勢で押し切るというものだった。開幕直後に様子見に走る日菜の姿は、テレビで見る彼女の姿とは真逆の態度過ぎて面食らった者も少なくなかったが、次の瞬間には苛烈な攻撃をお見舞いし始めるものだからある意味日菜だなとほとんどが納得していた。
しかし気になった人たちも少なくなく、特に日菜に対してデュエルを挑んでは敗北してしまい、その上でリベンジを果たそうとした人たちの間では様々な憶測が飛び交った。
初手で彼女が動かないのは性格を考えればただの気まぐれだ。すぐに勝つのは面白くないから単に先手を譲ってくれているだけだ。短剣というリーチが短い武器の都合上、相手に寄ってきてもらう方がやりやすいからだ。などが主な結論だった。
だがキリトは一度日菜とデュエルをした時に『視られている』感覚に陥った。間違いなく何かを観察されている。対峙する少女の表情は笑っているのに目が笑っていない。余計な行動を取ることはすなわち、自身の敗北に繋がると警鐘が鳴った程だった。
結局、その警戒心を見せたことが日菜の警戒度を跳ね上げさせてしまい、より上の対応を引き出させてしまったことでキリトは敗北してしまった。具体的には、キリトのゲーム経験において考えられない動きを繰り出されてしまい、対応しきれなかったのだ。
それからキリトはβテストの攻略の傍ら、暇な時に公式が宣伝に使った日菜のデュエル時の映像を幾つか見返すことにしていた。そして出した結論が、彼女は相手の行動を予測してから対応を変えている、まさに変幻自在な戦闘スタイルだというものだった。
相手が無闇矢鱈に突撃してこようものなら受け流してから隙を狙えばいい。中途半端な攻め方をしてくるのならある程度引き付けてから逆に突撃して意表をつけばいい。待ちに入ったならそれから攻めればいい。
そしてキリトみたいな明らかに
歴戦の猛者と呼ばれる者たちは、それぞれの経験から相手の動きを予測しながら対応することも多い。それを逆手に取り、目に見える行動を予測させながら不意を打ったり、それを警戒させた上で予測された行動を敢えて通したりと、気まぐれで戦っていると言われても否定できないスタイルだったのだ。
これにはキリトも思わず頭を抱えたものだ。分かったところで上をいかれる、まるで後出しジャンケンを強いられている様な気分だった。
だからこそ、一切の様子見をせずに日菜が動き出した時は驚愕を禁じ得なかった。
(だがサヨは動じていない。待ちが彼女のスタイルだったとしても、まるでヒナが最初から突撃してくると分かっていた様だが……)
数秒の内に短剣を構えた日菜が紗夜の間合いに入る。刺突の構えを見せた日菜だが、真正面からの攻撃なので難なく盾で弾かれてしまう。
弾かれることは織り込み済みだったのか、その勢いを利用して左足で蹴り上げる。狙いは紗夜の剣を持つ右手だ。
「──っ!」
思わず漏れた苦悶の声は、日菜のものだった。
蹴り上げた足が当たるよりも先に、紗夜が剣を刺突したのだ。片足で立っていた日菜は攻撃を避けるために上体を強引に仰け反らし、鼻の先を剣閃が掠めていった。
蹴り上げの途中で仰け反った為に体勢が悪く、一旦バク転しながら後退──に見せかけて短剣を紗夜の顔めがけて投擲。
カァン、と木と鉄のぶつかる音が響いた。紗夜が盾で弾いたからだ。
しかし右手は突き出し左手は顔を隠す形になってしまう。一瞬とはいえ視界から日菜が消えてしまい、行動の予測が立てられなくなる。
短剣を拾うのか、それとも素手で突撃してくるのか。
日菜の選択は……落ちている短剣とは紗夜を挟んで反対側に回り込むことだった。
日菜から見て右側、左手の盾で弾いたが故に紗夜から見て左側に落ちている短剣。それに見向きもせず、日菜は紗夜から見て右手側に回り込もうとした。
紗夜の伸び切った右手は既に降ろされており、日菜の動き自体は見えている。一瞬とは言え顔を隠したことにより僅かに遅れるが、フットワークを駆使することで得物を持たない日菜と正対することに成功する。
そして日菜の姿を真正面に捉えた時──その口角がほんの少しだけ上がっているのが見えた。
(不味いっ!)
顔を隠した一瞬の内に何か仕込まれた。そう判断した紗夜は咄嗟に盾を構える。だが次の瞬間
──カーン……
「なっ──!?」
紗夜の真後ろから、何らかの金属が何かとぶつかった音が耳を揺さぶった。
完全に意識の外から、しかも死角、背後からの異音だった。
今、彼女の背後にある金属は何か。それは先程弾いた日菜の短剣である。
(日菜は目の前にいて、短剣に干渉する術も隙も無いはず。立会人の二人が余計な音を出すとは考えにくい。ならば何故……?)
音に気を取られ、思考を割かれ、意識が背後に向きかける。それを逃さない日菜では無かった。
「おりゃぁっ!!」
「ぐっ!」
見事紗夜の隙を生み出すことを達成した日菜は、βテスト時代に手に入れた《体術スキル》を見様見真似で繰り出した。
残念ながらスキル取得前なのでシステム補正等は乗らない上に初撃決着判定にならない一撃だが、彼女の放った拳は腰の入っていない紗夜の盾を押し込むには十分過ぎるものであり、盾越しながら幾らか突き飛ばすことに成功した。
後方へと押し出された挙げ句たたらを踏まされた紗夜に向かって追撃をかけるべく、拳を放って前のめりになった姿勢そのままにもっと前へと力強く踏み込んだ。低い姿勢故に、駆け出しながら落ちている短剣とその上に乗っかっている石ころを一つ回収しつつ紗夜の眼下へと迫る。
(がら空きの胴体、その真下を取る! すぐには崩せなくてもおねーちゃんに休む暇を与えなければ!)
(重心が後ろに傾き過ぎている。あれじゃサヨは剣を振ることも盾を構えることも出来ない。まさかヒナは最初からこれを狙っていたのか……?)
キリトの思考は、今まさに仕留めにかかろうとする日菜の思惑を読み取っていた。
(様子見せずに突撃。その意図は恐らくサヨに考える暇を与えない為。極めつけはいつの間にか持っていた石ころを放り投げ、サヨの意識を一瞬だけ逸らしたこと。末恐ろしいにも程があるな……)
二人の攻防を外側から見ていたキリトには、紗夜が聞き取った異音の正体がしっかりと見えていた。
紗夜が日菜の短剣投擲を防いだ代わりに彼女の姿が見えなくなった時、日菜は紗夜の右手側に駆け出しながらいつの間にか取り出していた石ころを空に向かって放り投げていた。
その狙った場所は、紗夜が弾いて地面に落ちるであろう短剣の真上だった。
実際のところ、日菜からすれば投げた石ころが短剣に当たるかどうかはどちらでも良かったのだ。石ころが落ちれば最低限地面と接触した音はするし、短剣が落ちている方角から何らかの音が聞こえようものならば、集中して過敏になっているはずの双子の姉は間違いなく注意を割くと踏んでいたからだ。
結果は最上のものであり、日菜の想定よりも紗夜の体勢を崩すことに成功したのみならず、紗夜の後退した距離が長引いた為に落ちていた短剣とついでに石ころの回収まで出来てしまった。
(……ン?)
だからだろうか。日菜は千載一遇のチャンスを逃すまいと前掛かりに、キリトは日菜の行動の考察に耽ってしまう。よってそれに気が付いたのは、自分には手に負えない戦闘だと何処か達観していたアルゴだけだった。
(サヨのやつ何してるんダ? あんなんじゃ倒れちまうゾ)
突き飛ばされたせいで明らかに重心が後ろに寄ってしまっている紗夜だったが、最低限たたらを踏むことは出来ていた。剣を地面に刺すなり腰に力を入れて踏ん張るなりしてさっさと体勢を整えて迎撃するべきだとアルゴは考えていた。
だが彼女の見立てでは、紗夜は地面に剣を突き刺すことは疎か左手に持った盾を構えることすら出来そうになかった。それくらい、背中から地面に倒れ込みそうな重心に見えていた。
真正面にいて背中が見えないかつ低姿勢が故に紗夜の顔を見上げる形になっている日菜からすれば、そんな見えない位置の重心など判断しかねるものだろう。
それこそが、紗夜にとって起死回生の一手となり得る。
(体勢を整えたところで、勢いに乗った日菜の追撃を捌ききることは不可能……。ならばいっそのこと、一度倒れてしまえばいい)
それはヤケクソか、逆転の発想か。押し込まれた勢いそのままに紗夜は背中から地面に倒れ込もうとした。少しの間だけ倒れ込むのを我慢したことで、日菜の追撃を誘発させることも忘れない徹底ぶりだ。
(っ! だけどこれで──!)
結果、紗夜は背中を強打しうめき声をあげかけた。それでも歯を食いしばることで我慢し、何とか日菜から視線を逸らすことなく倒れ込むことに成功する。こんな悪手を選ぶとは思っていなかっただろう妹の驚きに満ちた表情がよく見えた。
が、状況が良くなるどころか体勢が更に悪くなったことも事実。下から見上げていたのが逆に見下ろす形になった日菜は、間断なく石ころを紗夜の顔に向けて投擲しつつ短剣を一際強く握った。
(これで決める!)
ほんの少しだけ飛び上がる様にして、地面で跳ねてやや上体の上がりかけている紗夜の胸元目掛けて突き通す。体勢を整える時間は無く、逃げ場もない。日菜はここが決め所だとソードスキルを発動させる。
──短剣系単発ソードスキル《アーマーピアス》
日菜の持つ短剣がシステムの補助を受けて輝きを放ち、止めを刺さんと弾丸の如く突進してくる。
万事休すか、しかし紗夜はまだ諦めてはいない。
(集中しなさい私)
自身に言い聞かせる様に、全神経を研ぎ澄ませるべく意気込む。
正射必中の心得──「正しく射られた矢は必ず的に中る」を体現するべく、矢を番え弓を引いた時に発揮してきた集中力を高めていく。
(──!?)
紗夜の並々ならぬ気迫を感じたのは、他ならぬ日菜であった。
体勢は悪く、防御もままならない。だと言うのに、目の前の姉から言い様の無い凄味を感じる。
しかしソードスキルを発動している都合上、止まることが出来ない。ありとあらゆる彼女の勘が全力で警鐘を鳴らしているというのに、打てる手が無い。
圧倒的有利な状況のはずなのに、それを覆すだけの何かが起きるという謎の確信が日菜にはあった。それは最愛の姉に対するこれまでの信頼と、仮想空間という未知なる世界における不確定要素、そして日菜が密かに考え続けていた仮説が偶然にも合致した可能性があったからだ。
(……)
そんな日菜の内心など露知らず、紗夜は狙いを定めていた。
既に倒れ込み、例え防御しても押し込まれてマウントを取られてしまう現状。そんな彼女の狙いは、日菜の手首と腕だった。
倒れながら剣と盾を放棄し素手になる。額めがけて飛んでくる石ころを無視し、光を放つ短剣から一切目を逸らさず、胸元に突き刺さる直前──紗夜の両手が日菜の右手首と腕を掴んだ。
「んなっ!?」
「はぁっ!!」
あまりの離れ業に、嘘だろうと思わず声が出た日菜。対する紗夜は燃え滾る激情のまま掴んだ手に力を入れる。更には倒れた反動で浮き上がっていた両足を日菜の下腹部に当て、持ち上げる要領で蹴り上げる。
「おおっ!?」
「マジかヨ!?」
傍から見ていた二人がとんでもないものを見たと言わんばかりに声を上げる中、紗夜はシステムの補助を受けて加速していた日菜の勢いを利用して、流れそのままに後方へとぶん投げた。
「──ッ!」
声にならない悲鳴を上げる日菜。普段の姉からは想像つかない、あまりにも大胆かつ無茶苦茶な行動に絶句する他なかった。
(あっ……)
そして投げ飛ばされ、地面に頭から激突する瞬間。日菜の視界に映ったのは、投げ飛ばした勢いで一気に起き上がった紗夜の後ろ姿だった──
☆
「あー負けたぁ! おねーちゃんの膝枕がーーー!!!」
先程までの剣呑とした空気は何処へやら、よく晴れた青空の下に日菜の嘆きが響き渡った。
決着は、私の勝ちだった。
咄嗟の思いつきで日菜を投げ飛ばした後、放り投げた勢いを利用して立ち上がり、手放していた装備のうち剣だけを握って振り向きながら日菜に迫った。
この子のことだから、てっきり空中で体勢を立て直して華麗に着地でもするものだと思っていたが、嬉しい誤算というやつだろうか。日菜にしては珍しく、無様な形で地面に激突していたのであっさりとマウントを取ることが出来、反撃の余地無しと判断した日菜の降参をもってして今回のデュエルはお開きとなった。
そして決着のシステムアナウンスが鳴ると共に、観戦していた二人が寄ってくるのもお構いなしに日菜が叫んだのが今し方のことだ。
「ちょっと、変なこと叫ばないでちょうだい」
「変なことじゃないよ! おねーちゃんの膝枕だよ!? それはもう国宝並みのるんっなんだよ!?」
「馬鹿言ってないで早く立ちなさい」
「ん!!」
そんなことを叫ばれても私が気恥ずかしいだけなので苦言を呈すが全く意に返さない双子の妹。それどころか熱弁してくるものだから思わず素っ気ない態度で反応してしまう。
その上、引っ張って起こせと両手を差し出してくる始末である。アルゴさんとキリトさんに見られている状況でこれ以上恥ずかしいやり取りをしたくなかった私は、駄々をこねる日菜の要望をさっさとこなして引き上げてあげた。
そして起き上がった勢いで私に抱きついてきた日菜を仕方なく受け止めつつ、胸元にぐりぐりと頭をこすりつけてくるその耳元にこう言ってやる。
「賭けは私の勝ちよ。あなたは今晩、私の抱き枕ね」
などと少しからかってやればこすりつける動きが止まり、みるみる内に顔や耳が上気していくのが分かった。
(膝枕は要求するくせに、抱き枕になるのは嫌なのかしら)
駄々のこね具合から見ても、そんなに拒絶したくなるようなものなのだろうか。こうも反応されると些か寂しさを感じるが、あまり無理強いするのも気が引けるというものだ。
「その、そんなに嫌な──」
「う、ううん! 嫌じゃないよ! むしろお願いしますだよっ!!」
「そ、そう……?」
なので取り消すかと提案しかけるも、それを遮る勢いで捲し立てられる。あまりの勢いに後ろに下がりかけるも、がっちりと抱きつかれた状態なので身動き一つ出来なかった。最後なんて敬語で言うものだから尚のこと何を考えているのか分からなくて困惑するばかりである。
「二人ともお疲れさん、実に良いデュエルを見させてもらったよ」
「ヒナは知ってたけど、サヨも強かったんだナ」
「こんな形ですみませんが、ありがとうございます」
そうこうしている内に、寄ってきた二人から称賛の言葉を貰ったので感謝を述べる。
「ところで質問なんだが、サヨはβテスターじゃないんだよな? 何か他にゲームとかやってたのか?」
「はい……SAOに関しては正式サービス解禁後からのプレイになります。他と言われればNFOをやっていたくらいですが」
「それなのにあれだけ動けるのは流石としか言えないんだが、一番聞きたいことは……ヒナ」
「………………なに?」
キリトさんにこれまでの経験の有無を聞かれて正直に答えると、とてもそうとは信じてもらえてない様に見えた。とはいえ、彼にとっての質問の本命は私ではなく、この質問を踏まえた上での日菜に対しての物らしかった。
急に振られた日菜はたっぷりと時間をかけてから、やや不機嫌そうに返事をした。それを了承と捉えたキリトさんは感じていた疑問をぶつけることにした様だ。
「今回のデュエルを見ていて思ったが、ヒナは速攻を決めるつもりだったんだろ? ベータの時は一度も先手必勝なんてしていなかったから、思わず驚いたよ。で、一応の結論としては初めからヒナがサヨの戦い方を知っていたとしか考えられなかった」
「ああ、だから私のゲーム歴を」
「そういうこと。で、答えてくれると俺としてはありがたいんだが」
先程の彼からの質問の意図を理解する。そして答え合わせだと日菜を見やれば、少しばかり面倒くさそうにしてから私から離れていった。どうやら答える気はあるらしい。
「速攻したかったってのは当たってる。でもおねーちゃんの戦い方は知らない。あたしとおねーちゃん、こうやってゲームで一緒になるのなんて初めてだしね」
「キー坊の言い草を借りるなら、知らないのに突撃したってことかヨ」
「知らないし知りようも無かったけど、おねーちゃんの性格から想像はついてたよ。対人戦の経験が無いおねーちゃんなら様子見から入るだろうなって」
「そうね。実際、何をどうすれば良いか分からない内は守りに徹するつもりだったわ」
「じゃあ速攻しかけたかったてのは、サヨが慣れるまでに決着をつけたかったからってことか?」
「んー、ニュアンスは合ってるんだけど……」
キリトさんの言葉を、日菜は曖昧に濁した。
「あたしの武器が短剣で、おねーちゃんが盾持ってるじゃん? 正直言ってソードスキル以外じゃ正面から崩すのは無理だけど、そのソードスキルは硬直が気になっちゃってトドメ以外には使いづらくてねぇ」
「連撃でもないソードスキルに硬直を感じるのはヒナくらいだろ……」
「多分だけど、おねーちゃんも感じてると思うよ?」
「そうなのカ?」
「ええ、まぁ……ごく僅かですけど」
「凄いな……余程リアルでも動けるってことか」
「人並みだと思いますが」
「いまいちサヨの言うことも信憑性に欠けてきたナ」
「心外です」
「話戻すけど、時間かければかけるだけおねーちゃん有利なんだよね。経験の有無があたしにとって有利だったから、おねーちゃんが経験を積む前にって決めてたんだ」
「サヨは学習能力が高いのか?」
「それもあるけど……おねーちゃん、絶対持久戦するつもりだったでしょ」
日菜がジト目で見てくるので睨み返しておく。
「そうね。時間の許す限り経験と情報を集めるつもりだったわ。目論見は外されてしまったけれど」
「条件が同じになっちゃったら、
最後はオーバーな手振りを見せた日菜。言い終えた後、これで納得してくれたかとキリトさんに問い掛ければ、彼は得心したようで何度か頷いた後に参考になったとお礼を告げてきた。
そんな折、ふと何か考えが至ったのかこんなことを言ってきた。
「となると、俺がサヨと戦っても厳しいか?」
恐らくそれは、日菜と戦ったことがあるからこその発言なのだろう。しかしそれを遮ったのは他でもない、日菜だった。
「あー、いや。多分だけど、おねーちゃんとキリトくんが戦ったらキリトくんが勝つと思うよ?」
「ほー? 是非ともその心を聞こうじゃないカ」
思わぬ発言に不思議がるキリトさんと、その発言から何となく日菜の言いたいことが予想出来た私は口を閉ざした。代わりに興味を持ったアルゴさんが日菜を煽る。
対する日菜は特に気分を害した様子もなく、これまで感じていたことを告げた。
「さっきまでの説明で分かると思うけど、おねーちゃんって堅実な戦い方をするでしょ? 戦いの中で得た情報や相手の性格からある程度予測をつけて対処していくんだけど、キリトくんって咄嗟の反応が鋭いからおねーちゃんの対処の寸前で行動を変えられちゃうんじゃないかな」
「予測してるのはヒナも同じダロ? それにキー坊の咄嗟の反応がってなら、サヨから見たヒナも変わらないんじゃないカ?」
「あたしは予測って言っても感覚的なモノだから、正直に言って何かに基づいた理論的な予測っていうよりかは実質的な勘に近いんだよね。でもおねーちゃんは根拠に基づいた理屈で予測を立てるから、キリトくんみたいに予測の終点で梯子外される可能性があると予測を立てても結論が出せない、なんてことになると思うよ」
「あんまり実感は湧かないが……ヒナの言う通りなら俺はサヨに有利が取れるスタイル、ということか」
「そそ。んでおねーちゃんから見たあたしについては……」
「私がこの子の双子の姉、だからでしょうね」
つまるところ、つい昨日会ったばかりの他人と、年齢と同じだけの月日を共にしてきた片割れとでは理解度が違い過ぎるということだろう。実質的にこれまでの人生分だけ相手に対する情報を持っているのだから、事実上の奇襲は成立しない。勝敗を決するものがあるとすれば、性格から来る戦闘スタイルと武器の相性によるものが大きいはずだ。
少なくとも、ステータス差が無い現状において、日菜のスタイルにあった戦い方では私の防御を崩すのは困難だということか。まだ私自身のスタイルが確立されてないからこそ、先のデュエルではそこを突こうとしたのだろう。
最終的に日菜の言ってることは
私→日菜(日菜が私の予測を超えられない)
日菜→キリトさん(日菜に対してキリトさんの経験が生きない)
キリトさん→私(キリトさんのことをよく知らない)
ということだろうか。敢えて言うなら、三つ巴の相性になるらしい。
私自身、キリトさんと同じことを言う様だが実感がない。かといって、日菜の感覚が間違ってるとも思えない。実際に私とキリトさんでデュエルしてみれば分かるのだろうが、日菜とのデュエルで疲れたので申し込まれても断らせてもらうつもりだった。
キリトさんの方は、日菜の感覚を何処まで信じていいものか悩ましげな様子だ。そういうものなのかと納得してしまっているアルゴさんはともかく、何らかの覚えがあるのかキリトさんは脳内で整理しているのかもしれない。
いずれにしても、一度デュエルしただけで各々の特徴を捉えきってしまう辺りは相変わらずだなと、諦観混じりのため息が出そうになった。
今この場で尚も楽しそうなのは、一周回って開き直っているアルゴさんではないか。他人事のように思った、そんなデスゲーム開始3日目の昼前の出来事だった。
バンドリ界屈指のチートキャラである氷川姉妹ですが、その最終的な強さはキリトを含む三竦みという形にします。お互い全力を出して3:7くらいを想定
リアルスペックは姉妹に分があるものの、ゲーム知識や経験値はキリトが有利。その内姉妹が知識と経験を、キリトが反応速度の覚醒を経て高いレベルでの釣り合いを取るようになるかと