夜を日に継ぐ   作:百三十二

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この辺から視点が移り変わることもあります。今回で言えば最初が日菜視点、途中から三人称視点のつもりです


双星

 

 

 

 おねーちゃんの初デュエルを終えて、相変わらずな無自覚発言に振り回されつつも一応の軌道に乗ったと言えたのは、デスゲーム開始から五日が経った頃だった。

 

 まずあれからあたしとおねーちゃんは、見物料としてキリトくんから割の良いクエストと注意点を教えてもらったのですかさずクリアしに行った。結果としておねーちゃんの武器が強くなったのと、パンに塗るマーガリンもどきを手に入れた。

 このマーガリンもどきが意外と侮れなくて、原材料は不明なのに硬くて味のしないパンに塗ると確かな味がした。甘いとか辛いとかは判断しにくいけど、そこには確かに味があった。宿屋で出された無味無臭のスープとはおさらばだって、おねーちゃんと二人で喜んだものだ。

 

 それから、余裕がなかったせいで確認してなかった《スキル》について考慮する時間を取った。食を得た心の余裕とは偉大なもので、すっかり忘れていたことを思い出せたのは幸運と言っていいと思う。

 

 二人とフレンド登録を済ませるとネズちゃんは情報屋としての活動を本格的に行う為に情報収集へ、キリトくんは素材集めとレベリングの効率を求めて別の場所へと去っていった。

 一緒に行動することでより安全を確保することも考えなかった訳じゃないけど、攻略的な面で切羽詰まった訳でもなく、昨晩の語らいで各々に活動するだけの前向きな活力が湧いたのもあって行動の自由度を取った。

 

 って言っても、ソロプレイヤー二人と姉妹一組に別れたに過ぎない。あたしがおねーちゃんから離れる選択肢は最初から存在しないし、おねーちゃんもあたしから目を離す気は無いだろうから何の問題もなかったりする。

 

 

 で、二人きりに戻ったあたしたちがデュエルを終えて、教わったクエストもクリアした三日目の夜に何をしたかと言うと、宿屋にもう一泊してスキルの取捨選択だった。

 

 

 まず考えなきゃいけなかったのがレベルアップで手に入るスキルポイントについてだった。レベルに応じた固定値で与えられるポイントなんだけど、使い道が二通りしかないのにこれが中々悩ましい。

 

 このポイントで割り振れるのは《筋力値》と《敏捷値》だ。筋力値はパワー、敏捷値はスピードって認識で大体あってるはず。重い武具を装備したければ筋力値が必要になってくるし、素早く移動したければ敏捷値が重要だってこと。

 

 おねーちゃんの目指す役割は、他のゲームでもやっていた様に壁役と言われるタンクだ。もしもの場合はあたしを守る為に最前衛で立ち回れる様にしたいのだと思う。常に相手の攻撃が身近になるから、それを捌く為に一定の重装備と盾を構える必要があるので、最低限の敏捷値を確保しつつ残りを筋力値に割り振る気だった。敏捷値が十分なら、割合が変わるかもしれないとは言ってた。

 

 対するあたしは、おねーちゃんが壁役を担うのもあって動きやすさを重視した。最低限の筋力値を確保しつつ残りを敏捷値に振ると決め、これによっておねーちゃんと互いにカバーし合える様にした。結構良い感じに補え合えると思うけど、実践でどうなるかはやってみないと分からないところでもある。

 

 具体的な割合で言うと、筋力値と敏捷値の順におねーちゃんが7:3で、あたしが2:8だ。

 

 んでとりあえずは強化方針とでも言うべきか、戦闘スタイルに沿ったスキルの割り振りはこれで決定。そして次に気にするべきだったのが《熟練度》によるスキルポイントだった。

 

 練度って書いてある通り、頑張れば頑張った分だけ蓄積されていく、プレイヤーレベルに必要なのとは別の経験値が存在している。

 例えば、あたしは短剣を使っているから短剣の熟練度が少しずつ増えていく。そうして短剣の熟練度レベルが上がっていけば、役立つスキルを取得出来るようになったり該当カテゴリのソードスキルが解禁されたりする。ちょっとだけ攻撃力が上がったり、使い勝手が向上したりと無視出来ない要素と言える。

 

 ただぶっちゃけた話、装備に関する熟練度はレベリングのついでに勝手に上がっていくから、適宜確認して欲しいスキルを取っていけば良いだけだったりする。あたしが気にするべきは《投擲》と次の階層で手に入る《体術》で、この二つは戦闘面でも使っていくつもりだったからちゃんと限られた《スキルスロット》に入れてあるのを確認していく必要があるかなってくらい。

 

 そしておねーちゃんの方はと言うと、《片手直剣》と《盾》の熟練度を気にするくらいで追加要素が無かった。のだけど、戦闘面以外の《裁縫》とか《鍛冶》などの一覧を眺めている際に《料理》が目に止まったらしい。

 パンにマーガリンもどきを塗って食べた時に、もしかしたら現実世界の味を再現出来るのではないかと考えてたみたいで、態々料理スキルが存在していることから可能性を模索するらしかった。

 

 もしそれがおねーちゃんの読み通りだったなら、可能な限り毎食おねーちゃんの手作り料理が食べられると思って非常に()()()てきた。企みがバレない程度に料理スキルを取ることを進言してしまったのは、ここだけの秘密。

 

 

 そんな熟練度周りで特に気にかける必要があるとすれば、それは《索敵》と《隠蔽》かな。索敵なら見つける為の、隠蔽なら隠れる為のスキルになる。

 特に拘りがなければ主に死活問題となる視野を拡げるために索敵が重視されると思う。隠蔽も使えないことは無いけど、索敵スキルを上げることで罠を見破る確率が高くなるのが大事だったりするからだ。

 

 結構とんでもない罠とかあったりするかもしれないと考えれば、一度の死も許されない状況下においてその存在は常に警戒して然るべきだろうし。こっちに関してはおねーちゃん共々、索敵スキルを優先的に使っていこうと決めた。初期の数少ないスキルスロットを踏まえると、隠蔽の熟練度を上げていく余裕は無さそうだった。

 

 って言っても、隠蔽だって使えない訳じゃない。きちんと熟練度を上げれば敵の索敵に引っかからなくなったりするので、奇襲を成功させやすくなったりと大きなメリットはある。スロットの枠に余裕があれば、あたしは取得するつもりでいる。

 

 尤も、βテストの時はあまり人気なかったけどね、隠蔽スキル。

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 ちゃんとしたスキルの割り振りを決めたあたしたちは、四日目以降になると少しだけ余裕が表面に出てくるようになった。‘ギュイーン’だとか‘ズガガーン’みたいな、あたしがその時の気分によって発する擬音が少しずつ出てきたとおねーちゃんに指摘されたくらいには余裕が生まれたらしい。

 

 

「……おねーちゃんさ」

 

「何?」

 

「キリトくんに教えてもらったクエストって二つだったよね」

 

「そうね。アルゴさんも保証していたわ」

 

 

 そんな中、宿屋を基点に周辺のモブを狩り尽くしていた六日目の朝のことだった。適度にレベリングをこなしつつ、そろそろ一度はじまりの街にでも戻ってネズちゃんにでも会いに行こうかなって思い始めていた矢先、あたしの視界に映ったクエスト発生のアイコン。

 

 βテスト勢三人の共通認識として、ここで受けられるクエストは二つだったはずで三日目に既にクリアしたはずだった。だから宿屋の女将さんや娘さんから何度でも繰り返しクリア出来るクエスト以外でのお知らせが出てくると思っていなかった。

 だけどマーガリンもどきを貰おうとして周回クエストを受けておこうとした際に、それとは別のクエスト案内が表示されていたものだから思わず自分の目を疑った。

 

 

「おねーちゃんの方は?」

 

「……本当ね。私の方にも表示されているわ」

 

 

 つまりこれはバグではなく、れっきとした正規のクエストの可能性が高い。しかしβテストの時には無かった、一切の情報が無い未知のクエストということになる。あたしとおねーちゃんの間に少しばかりの緊張が過ぎった。

 SAO正式サービス開始以来、初の完全初見クエスト。未だ状況にすっかり馴染めたとは言い難い、不安の残る場面。

 

 

「アルゴさんに相談した方が良いかしら。フレンド機能か何かでメール送れたりしないの?」

 

「出来るよ。あたしが送ろうか?」

 

「任せるわ」

 

「ん、りょーかい」

 

 

 固まっていてもしょうがないので、おねーちゃんの提案に乗ってネズちゃんに相談のメールを飛ばす。情報屋としての活動をしつつ、何やら初心者向けのガイドブックを制作するとかではじまりの街で活動してるはず。戦闘に出ているとかじゃないと思うので、メールに気が付かないなんてことは無いだろう。

 

 

『ネズちゃんへ。ベータに無かったクエスト発見したよ、相談求む』

 

 

 おねーちゃんは腕を組んで悩ましそうに、あたしはナイフ片手にお手玉しながら返信を待つこと数分くらい。

 

 

『詳しく』

 

 

 とだけ返ってきた。短く早く返事を送ることで、メールから目を離す前に会話が成立したことを意思表示する、実に気の利いた判断だと思う。

 

 

『村の宿屋、三つ目のクエスト発生』

 

『少し待ってろヨ!!』

 

 

 ネズちゃんの判断は、少し時間が欲しいとのことだった。

 

 

「ちょっと待っててだってさ」

 

 

 それをおねーちゃんに伝えると、目を伏せることで返事してきた。

 

 それから更に5分経ったくらいで、ネズちゃんから追加の返事が届いた。内容は……へぇ?

 

 

「おねーちゃん」

 

「アルゴさんは何と?」

 

「今から知らない人が二人来るって」

 

「………………………は?」

 

 

 おねーちゃんはたーっぷりと溜めてから、何を言ってるのかと言わんばかりに眉間にシワを寄せながら少しだけドスの効いた声を出した。

 

 

「安心しておねーちゃん。あたしもよく分かってない」

 

「それのどこに安心しろって言うのよ……!」

 

「ネズちゃんのことだから何か考えがあるんだろうけど、なんだろね」

 

 

 はてさてどういうことかな。ネズちゃんからの指示は二つで、助っ人を用意するからそれまで待って欲しいってのと、助っ人と合わせて四人でクエストに挑み情報を持ってきて欲しいってこと。

 

 未知のクエストってことで二人だけでは危険かもしれないというネズちゃんなりのリスク管理だろう。追加で寄越されたメールには、あたしたちのことは一切詮索するなと言い渡してあるらしいし、純粋に心配されてると思えばそう悪い気はしない。

 

 多分だけど、現時点でネズちゃんと懇意にしてるってことは良い人なんだろうなって。ネズちゃんの人を見る目は信用出来るし、そのお眼鏡に適ったとなれば信用こそせずとも敵対する必要はないはず。

 

 現状における不確定要素と、信頼できる人から送られてくる赤の他人。天秤は、後者に傾いた。

 

 

「お、もしかして君たちが情報屋の言ってた二人組かい? ああ、フードは取らなくていい。情報屋から詮索するなと聞いているから安心して欲しい」

 

「……」

 

 

 ネズちゃんを信じて待つこと半刻ほど。宿屋を訪れてきたのはあたしたちよりも年上そうな気さくな男の人と、何となくムスッとした感じの同い年くらいの男の子だった。年上の男の人はあたしたちを見つけるなり、話はネズちゃんから聞いて理解していると意思表示をしてくれたので、この人たちがそうだとすぐに理解できた。

 

 

「はい。アルゴさん……情報屋にお伝えした通り、身の安全を保証できないクエストに遭遇したものですから……。もし危険なら、注意喚起をする必要が出てくるかもしれませんので」

 

 

 おねーちゃんが確認も兼ねて説明をする。ネズちゃんの意図としては、恐らく初心者には荷が重いクエストなら先んじて警告しておきたいのだろう。昨晩の会話の中でガイドブックを作って配るとか言ってたから、その一環なのだと思う。

 これで有益な情報が手に入れば文句無し、だけどリスクもあるから人を遣わせた。そんなところかな。

 

 

「そいつは確かに穏やかじゃないな。よし、俺たちも手伝うよ。それで構わないよな?」

 

「……おう」

 

 

 年上そうな男の人はおねーちゃんの説明を受けて数回頷き、納得した様子を見せた。それから隣の連れの男の子に対して確認の意を込めて話しかけていたけど、返事はあまり芳しくなかった。

 

 

(ん〜?)

 

 

 この場には少なからず既に納得して赴いてきてるはず。なのにやる気が無いというか、元気が無いというか。ややそっぽ向いた印象を受けずにはいられなかった。

 

 

(渋々というよりはズーン……気が重い? 未知のクエストに付き合わされて不安……にしてはメールでのやり取りからここに来るまでの時間的に付き合わされること自体は否定的でも無さそう)

 

 

 何と言えばいいだろうか。あたしは目の前の男の人に付き添ってる男の子のことが引っかかった。目線が合わない程度に観察してみるけど、別に敵対心がある様には見えない。

 

 何となく。本当に何となくだけど、あたしはこの様子、或いは雰囲気の正体を知っている気がした。

 

 

「ではパーティーは組まず、クエストの詳細を逐一報告するということで」

 

「名前も知られたくないんだろうから、そうするのが良いな。早速だけど受けてみてくれ」

 

「そうしてみます」

 

 

 おねーちゃんと男の人がさっさと話を進めていく、その傍らであたしは目の前でそっぽ向いている人の感情の正体に当たりを付けていた。

 

 何で知っている気がしたのか、それはあたし自身その感情を現在進行系で持っているからに他ならない。何故気がつけたか、それは勘でもなんでもなく、男の子が男の人に向けている姿が、あたしがおねーちゃんに向けている姿と重なったから。

 

 分かったところで詮索はしない。向こうがこっちに干渉しないと宣言してくれたのだから、こっちから向こうに不躾な解答をぶつけるのはいただけない。

 それに、今はその感情に任せて沈んでいる余裕はない。より優先すべきことがあるのはお互い様であって、解消するために時間を費やすくらいならその分だけ尽くした方が良い。

 

 あたしは割り切ったつもりでいる。でもあっちは無理なのかな。

 

 

(それは……()()()、だよね)

 

 

 二人の間に何があったかは知りようがないけど、何かがあったことだけは確実だった。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 紗夜と日菜の二人には知る由もないが、この二人の男の名前は年上で成人男性の方が《カストール》、日菜曰く罪悪感を漂わせている年下の方が《ポルクス》である。ギリシャ神話に登場し、後に星座にもなっている《カストル》及び《ポルックス》の双子の兄弟が由来だ。

 

 生粋のお人好しであるカストールはアルゴからの依頼と勧告を忠実に守り、姉妹の詮索は疎か互いの名前すらも交換しないという徹底ぶりを見せた。その気遣いは姉妹側にとって非常にありがたく、ポルクスにとっては些か不満が残るものだった。

 

 また、日菜がポルクスに感じた罪悪感の正体についてだが、概ね日菜が察していたもので合っていた。

 

 

 カストールとポルクスは血の繋がった本当の兄弟ではなく、母親同士の仲が良い、近所の面倒見の良い兄ちゃんとそれを慕う三つ離れた年下の幼馴染という間柄だ。共にゲームが好きで、実の兄弟同然だと思っているくらいには付き合いが長く深かった。

 

 話が変わったのはカストールが大学生となり、就職活動が本格的になってからのことだ。

 社交性の高いカストールと違って、やや内向的な性格からか高校生活に馴染めなかったポルクスは学校を休みがちだった。そこに来てカストール側の就職活動が重なり、ゲームを通して交流が途切れることはなかったものの確実に時間は減っていった。

 

 このままではカストールとの関係も自然消滅してしまうのではないかと焦ったポルクスは、SAOの発売をきっかけにカストールを誘った。多忙で渋る彼を説得し、ゲームも無事当選したことで繋がりを維持することに成功したかに思われた矢先……SAOがデスゲームへと変貌を遂げてしまい、図らずもポルクスの行動がカストールの邪魔をしてしまうことになった。

 

 日菜がポルクスに感じた罪悪感の正体とはこのことであり、同時に日菜が紗夜に対して覚えていたソレと同じものである。故に日菜はポルクスの感情を見抜くことが出来たが、日菜自身も紗夜への負い目を再認識させられることとなった。

 

 

 そんな妹弟の心境をよそに、共に妹弟からお人好しの烙印を押されがちな紗夜とカストールの姉兄たちは、当初の目論見通りに未知のクエストを進めようとしていた。

 本来であればマーガリンもどきを繰り返し入手できるクエストが受注可能なNPCから、別の依頼が舞い込んだ。宿屋のお手伝いではない、偵察を頼まれるものだった。

 

 内容としては、近頃になって《西の森》からコボルトたちが流れてくることが増えたので、その原因を探ってきて欲しいというものである。西の森とはホルンカの森よりも文字通り更に西へ向かったところの森林地帯のことを指す。

 クエスト達成条件は『西の森にて???の調査』となっており、どうやら行ってみなければ分かりようがなさそうだった。

 

 

「一先ず西の森へと向かわなければならない様です。達成条件は明示されておらず、何かを調査しろとのことです」

 

「なら早速だけど行くしかないな。そっちの準備は?」

 

「問題ありません。では行きましょう」

 

「おう」

 

 

 紗夜がカストールに伝え、一分一秒が惜しいと言わんばかりに即断即決で行動開始となった。

 日菜は紗夜の決定には従う上に声バレを避けるために無言を通し、ポルクスもカストールのお人好しには慣れたものであるから口を挟んで空気を悪くすることもなかった。

 

 トントン拍子で西の森へと向かうことになった四人。道すがら、基本的に言葉数は少ないものの紗夜とカストールの間で何度か社交辞令が交わされ、その中には戦闘になった場合の相談も含まれていた。

 

 

「私とこの子は両前衛みたいなものです。厳密には私がタンクで、この子がアタッカーですね」

 

「こっちは俺が前衛で連れが索敵だな。まだ慣れない面もあって無理させるのはちょっとな……かくいう俺もそんな大したことは出来ないし、そっち二人が揃って戦えると聞いて正直ありがたいよ」

 

「いえ、単に慣れるのが早かっただけです。先は長そうですし、焦らずやるのが一番かと」

 

「はは、そう言って貰えると助かるな。少しは気が楽になるってものさ」

 

 

 紗夜とカストールが前を歩き、それぞれの真後ろを日菜とポルクスが付いていく。お互いに目線を合わせることはしないが、姉妹がフードを被っていることもあって不躾な視線を感じることも無かった。

 

 

(──!)

 

 

 そんな矢先、会話を姉に任せて索敵に集中していた日菜の脳裏にノイズが走った気がした。それを気の所為だと切り捨てずに、違和感を覚えた方角──四人が向かっている西の森の方へと意識を傾ける。

 もう少しで西の森そのものの入り口かという場所で、現状では低レベルなれど取得済みの索敵スキルの検知範囲に引っかかるよりも先に、前方からプレイヤーとは思えない影を何体か目視で確認した。

 

 

「ん」

 

「どうやら敵のようです。数は三体、恐らくコボルト系かと。どうしますか?」

 

 

 日菜は喋ることなく、前を歩く姉のフードを少しだけ引っ張ることで意思表示をした。その仕草に反応した紗夜は、日菜の言いたいことを目配せで察して同じく目視で索敵することで状況を把握し、同行するカストールへと指示を仰いだ。

 この際、紗夜がカストールへと指示を仰いだのには二つ理由があった。一つは単に同行者への配慮であるが、もう一つは意見が欲しかったからだ。

 

 

 というのも、そもそもゲームに対して日菜は興味を持ってこなかったら論外としても、紗夜とてゲームらしいゲームはNFO程度しかやったことがないのだ。同じRoseliaの燐子やあこみたいに生粋のゲーマーという訳では無いため、ゲームにおける必勝法やお約束の類には疎い方だと言わざるを得なかった。

 そんな時に、受けたクエストの調査範囲から調査対象がこれみよがしにやってきたともなれば関連性を疑いたくもなると言うものだろう。それを察する事自体は紗夜は勿論のこと、日菜ですら余裕である。

 

 問題は、こんな場面になった際のプレイヤー側の行動についての経験が足りていないと言うことだった。今回で言えば、コボルトを倒してしまえば良いのか、それとも隠れてやり過ごし様子見をするのか、その後を追うのかの選択を迫られているが、どれがより正解に近いのか判断しかねたのである。

 

 そして自分らよりも年上そうなプレイヤーが、こんな状況にも関わらず慣れたように率先して手伝いに駆けつけてくれたことから、紗夜はカストールを自分たちよりもゲームに詳しい人物だと当たりを付けていた。実際に当たっているかは別として、独断で決めるよりは何倍もマシだろうからそうであれば嬉しい程度のものではあったが。

 

 結果としてその予想は当たっており、カストールは迷うことなく指示を出した。

 

 

「まずは観察しよう。この一本道はちょうど向かって左手側の平野と右手側の森の境目だから、右手側から平野を一望できてまず見失うことは無い。また森の茂みに隠れることで見つかりにくくもなるし、見つかりさえしなければ後で追いかけることになったとしても十分追いつける速度で移動してくれそうだ」

 

「分かりました」

 

 

 実に理に適った指示だと姉妹は思った。この指示自体は二人にも考えつくレベルのものだが、如何せん的確な指示を即座に出せるのは経験が物を言う。アルゴが助っ人を寄越したことは正解だったと痛感する二人だった。

 

 さて、カストールの指示通りに森の茂みへと身を隠した四人。そびえ立つ木々の裏から覗き込むように見るのは紗夜とカストールで、しゃがみ込んで茂みの下から見上げるようにしているのは日菜とポルクスというように別れた。

 

 

(初めて見るタイプだわ。持っているのが斧ではなく、先の曲がった細身の剣……曲刀、というやつかしら)

 

(あんなコボルト、ベータの時に見たことないや。多分イベント限定の存在……倒しちゃ駄目って感じだね)

 

 

 幾ばくか待機した後、ゆっくりと通っていこうとする三体のコボルトを観察し、紗夜と日菜はそれぞれの感想を持った。

 

 息を殺す様な緊張感の中、コボルトたちは四人の隠れる場所を少しだけ通り過ぎると森の中へと入っていった。コボルトたちが十分に去っていっただろう後に、四人はコボルトたちが森へと入っていった場所を確認した。

 

 

「これは……けもの道か?」

 

 

 思わず漏らしたカストールの言葉に、その場にいた全員が同じことを考えたであろう。コボルトたちが森の茂みを掻き分けて侵入していったと思われた場所は、よくよく見ればほんの少しだけ動物に踏まれたであろう形跡が残っていたのだ。

 

 

「あのコボルトたちを先に行かせてなければ、出現することは無かったのかもしれないな。その場合、この先にある何かを見つけるためには、広大な森林地帯をノーヒントで探し回る羽目になっていた訳か……」

 

「お手柄ですね」

 

「ははは、まぐれさ」

 

 

 カストールの判断に従って良かったと紗夜が賛辞を述べれば、少し気恥ずかしそうに後頭部に手をやった。それを見るポルクスの表情も何処か誇らしげだったと、日菜には思えた。

 

 

「これを辿れば目的地だと良いんだが」

 

 

 気を取り直したカストールがそうぼやくのを他所に、日菜は紗夜へとメッセージを送った。その内容を読んだ紗夜はやや訝しんだものの、日菜の直感を信じることにした。

 

 

「行きましょう」

 

「それしかないよな」

 

 

 紗夜とカストールのやり取りを機に、四人はけもの道を辿り始めた。








まさかSAO側にふたご座由来の名前のキャラがいるとは思わなかったです。びっくり

今回のクエスト自体は半オリジナルです。色々調べても内容分からなかったんでそれっぽく用意しただけ。ぶっちゃけクエストの内容よりもこの二人と出会ったことの方が大事
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